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7/1

  その日は早起きして登校するやつが結構多かった。俺もそのクチなんだけど。

  7月に入って気温の上昇と入道雲の成長がうなぎ登りの中、我らが高校の一大伝統イベントのひとつに交換留学がある。海と陸の住人を2ヶ月ほどトレードして文化交流をはかるものだ。

  (郊外にある普通の高校だから一大と言うほど目立つもんじゃないけど。)

  現在地球上には「海洋都市」と「陸上都市」の2つがある。

  海洋都市と陸上都市はそれなりに離れているのと、水性の人々とは生活様式がやはり違うので、

  (陸上は陸地だけど海洋都市は海上と“海中”もある。)

  簡単に行けて違う環境で暮らせるかといったらそういうもんでもないから互いの生活様式に沿って別れて暮らしているのだ。

  その中で、ある程度水陸どちらにも対応できる住人が来て数日過ごすというわけ。

  毎年やってるとはいえ、どんな奴がくるか気にはなるから全員が早めに登校して留学生が拝めないかと意味もなく職員室の近くとか駐車場をうろうろしたりする。

  

  ____

  「えー、ね。つまり2000年もの間海洋都市と陸上都市における我々の貿易は変わらず行われ、陸上に住む我々が主に求めるものも魚介類等のタンパク質摂取を目的とした食料から現在は住居の壁などに使われるような貝の殻やメタンハイドレート、レアメタルなどに変遷を___」

  主に世界史担当でもあり、その長寿をもって歴史をその目で見てきた獣社会の生き字引であるリクガメのセンセイはロマンでも感じちゃってるのか、いかに我々の道程が素晴らしいものであるかを熱っぽくまくし立てる。

  うちのクラスはこれがあるからHRを終えるのが1番遅い。

  クラスメイトは全員、そんな物に興味は無いから可愛い子かかっこいいやつかどっちかはっきりしろと言わんばかりに尻尾がパタついたり耳がピクついている。

  「えー、ね。海洋都市と陸上都市の変わらない関係を学ぶ一環としてね、我が校にも毎年のように交換留学の生徒が数名、来てくれていますね。去年はフンボルトペンギンの子が来てくれましたが、今年はラッコの男子生徒が来てくれました。」

  「オスかよォ~」「まぢ!ラッコ?♡」「メスイルカちゃん来いよォ~」「ラッコ男子は神すぎん!?」 「シャチオスじゃないとか、はー。」

  

  ラッコと聞いた瞬間の教室内の男女の反応は歓喜と落胆二分といった感じだった。

  別に差別とかそういうつもりじゃなくて、滅多に見れるもんではないとはいえもう海洋と陸上の交換留学はここ数百年単位でやっているんだからお互いに慣れているだけだ。

  今どきはSNSや動画配信サービスで普通に交流もしているんだし。

  今頃おなじく海洋都市に行ったうちのクラスメイトことワニのエルメスも、

  『また泳げるヤツかよォ~』『ありきたりぃ~』『ネコの黄金比率フェイスが見たい~』

  なんて言われてるだろうし。茶化しながらもお互いに2ヶ月ほど学校や寮で仲良くやるだけの極めてゆるいイベントなんだよね。

  

  「…はぁぁ、じゃあ、はるばる来てくれた彼に自己紹介してもらおうかな、頼むよ。」

  歴史と容姿、何を重んじるかに対して年寄りと若者が持つジェネレーションギャップへの嘆きか、リクガメのセンセイが嘆息気味に留学生を呼ぶ。

  「はぁい~」と返事が聞こえてバカでかい金ダライをゆっくり転がしながらラッコが入ってきた。

  身長はシベリアンハスキーの俺と比べると肩よりまぁ小さいくらいだ。

  「海洋都市から来ましたラッコのエリモです~。3ヶ月間よろしく。好物はミル貝でぇす。」

  どこか間延びした口調で話すエリモのクリクリした目と毛量が多いながらも寝かせた毛並みで独特の丸みを帯びたビジュアルは男から見てもキュートだ。

  女子は黄色い声を上げて、男もなんだかんだ「うぇ~い」という歓迎ムードでむかえる。

  ぶっちゃけ3日もすれば男の方がつるんでるしね。

  「エリモ君彼女いますかぁ!?」「ジャンボタニシ食べる!?」 「Fine交換して!」「かわいい♡」

  「えー、質問は後でするように。エリモ君は真ん中列後ろを使いなさい。隣に座るシベリアンハスキーのルークに色々教えてもらうように。ルークは後で学校案内してやりなさい。」

  質問攻めを流しつつ先生が俺を指さす。まぁ、隣だからそうなるよな。

  俺は他の犬種と比べてあんまり賢くないけど犬って面倒見がいいからこういうことを頼まれやすいんだよなぁ。

  「よろしくねぇ。」

  ゆっくり、慎重にガラガラとタライを転がしてきたエリモが目を細めてふにゃっと笑う。

  結構可愛いやつじゃん。

  「おん。仲良くやろうぜ」

  

  「じゃあ、通常通り授業始めるぞぉ。エリモ君は教科書をルークに見せてもらうように。」

  ____

  「えー、ね。1800年初頭、第一身分聖職者の獣は土地を治め、税を管理する役目が。第二身分の貴族の獣には広い土地で馬を駆り、庶民から税を徴収する役目が。当時95%を閉めていた第三身分の獣は狩りや農耕で得たものを全て国に収めるという重い税と役割を課されていたのでありこれに異を唱えた1匹の猫が長靴を象徴として掲げ___」

  茹だるような暑さの教室で歴史教師の熱のこもった授業なんか受けていると頭が沸騰して蒸気でも沸きそうな気がする。

  コリーやらレトリバーと違って勉強苦手なんだよ、ハスキー。

  授業は海洋都市の生徒向けに陸上都市の歴史をおさらいするものとなっている。

  つまり、俺らが1度学んだところなのでいかんせんつまらない。(覚えてないけど)

  低気圧と猛暑と抑揚のないリクガメのセンセイの声で重くむんむんとした教室の空気とは反対にすぐ隣から涼し気な水音がする。

  ちゃぷちゃぷ、ちゃぷん。

  金ダライに水を張り、エリモはそこに足を突っ込んでゆらゆらと揺らして俺の教科書を眺めていた。

  海洋の住人は陸地でうまく温度調節できないのと、水を感じていない時間が長くストレスになるため、タライに水という処置が施されているらしい。

  しかし羨ましい。俺は毛皮が厚いし、そもそも寒冷地の生まれなんだから暑さに死ぬほど弱いんだ。

  

  「えー、ね。猫というのは陸上都市全域に適応した品種が存在する人種で、当時バステト貿易によってもたらされたマタタビによって巡る争いが後を絶たずこれによって英世に禁マタタビ法が適用されたものの庶民による密造栽培が___」

  ちゃぷちゃぷちゃぷん。

  毛量の多いラッコと密着しながら水音を聞かされるなんてまるで1人だけお預けの生殺しだ。結構嫌な役目なんじゃねえか、コレ。

  俺のこんな気持ちを知りもしないであろうエリモは、長靴を掲げる二足歩行猫の油絵にふんふんと見とれていた。

  _____

  

  地獄の様な暑さの一限目を終えたと思いきや、すぐに机の周りには生徒が群がりまたもや周りの温度が上昇する。

  女子男子問わずの質問責めの続きがまさに今始まった。

  

  エリモの柔和な笑顔が近寄りやすい雰囲気を醸し出しているから、みんな話しかけやすいんだろう。

  

  エリモも嫌がることなくキンシコウの男にふかふかした頭の毛を弄り回されながら

  「お米育てるところに貝がいるのぉ?」

  

  「お土産はねぇ~バスケのユニフォームを頼まれてるんだぁ。泳いでも水に邪魔されにくいから人気なんだよぉ。」

  「サメの映画なんてあるんだねぇ。」

  

  と、快く答えている。

  エリモの回答に俺も興味はあるけど正直とんでもなく暑いから学校案内に図書室でも洒落こみたいけど…1週間は多分どこ行ったって声かけられるだろうから同じなんだろうなぁ。

  なんて考えていると恋愛系の質問に移ったのか

  「彼女は?」「この中でタイプの子は?」

  「姉ちゃんか妹いたら紹介しろよ!」

  という質問もちらほら出ていた。

  

  距離感なんてあったもんじゃない。

  「彼女いないよぉ~タイプは石が好きな子~」

  

  

  「家族はねぇ~みんなどっか行っちゃって今施設の子たちとみんなと暮らしてるんだぁ~」

  

  拍手しながら起きていた「きゃー♡」という声が、空気が一瞬停止する。

  俺もぎょっとして隣の顔を覗くけどエリモはふにゃりとした笑顔を崩さない。

  丁度のタイミングで予鈴がなると、オスもメスも寄せてきた波が引いていくようにそそくさと机に戻っていく。

  「あぁ…ありがとね。」

  「次はルークと学校回ってきたらいーよ。」

  なんて歯切れ悪く言い残して。

  無理もない、交換留学初日の1限目休み時間に全員がやぶ蛇ならぬウミヘビをつついたことを後悔してるんだ。

  「そうだなぁ~食堂見てみたいなぁ~ルークくんは今日何食べるのぉ~?」

  …なんて言えばいいんだろう、感情が読めねぇ。

  …なんか喜ばせようか?

  「…アサリの和風パスタかなぁ~?」

  「なにそれ美味しそ~!後で一緒に食べようよぉ」

  喜んだ声。無言で教師を待つクラスメイトたちにも聞こえたはず、だが。

  おそらくクラスメイトは今日ついて来ることはもうないだろう。

  実は無理して笑ってるのか、ほんとに気にしてないサイコ野郎なのか、どっちにしろ何やら壮絶な過去がありそうにも関わらず柔らかい笑顔のエリモをちゃんと知るまでは俺1人でやるしかなさそうだ。

  「…クラムチャウダーも美味しいんだぜぇ?」

  くしゃっとした微妙な作り笑顔で了承した。

  「なにそれぇ~!」

  母よ、すまん。本来の弁当である梅しそささみサンドは帰ったらちゃんと食うから。

  あとランチ代合計820円もよろしく。

  ____

  

  それからは2限目、3限目の授業を終えても依然としてクラスメイトが近づくことはなく、事情が出回ったのか隣のクラスの奴らもエリモを覗いて手を振るくらいはするけど、教室の中に入ってくることはなかった。

  エリモは特に気にすることも無く、ぬるくなったタライの水を入れ替えながら

  「地上って牡蠣の小屋があるってほんとう?」

  

  なんて聞いてくる。

  

  昔のことすぎて気にしてないとかなんかな?なんて考えながらタライを運ぶエリモを見ていると多めに水を入れていたのかよろよろと前のめり気味に歩きはじめる。

  「おい、危ねぇよ!」

  咄嗟にタライを持つのを代わってやろうとすると、

  「わ、わ」

  なんて言いながら身体に触れていないのにエリモがつんのめって、そのまま転倒してしまった。タライが投げ出され、たっぷりの水が廊下にこぼれたと同時にエリモの身体に足を取られ俺も転倒する。

  「ぶえぇっ、ぺっ。」

  口に入り込んできた水を吐き出した瞬間、エリモの顔に思い切り金ダライが落ちてきて、ガツンと音を立ててぶつかった。

  

  やっちまった。どうしよう、どうしよう?

  廊下がざわついて窓の外にいるセミの鳴き声と重なり始めるけど、俺だけは何も耳に入らずエリモに覆いかぶさる状態が続く。

  永遠に思えた数秒後にエリモが初めて笑顔以外の歪んだ表情を見せて、

  「う」

  「いたい」

  鼻血を垂らしながらそう呟いた瞬間に俺は濡れたエリモの身体を持ち上げて、何も言わず誰も振り返らず保健室に運んだのだった。

  ____

  クーラーのない教室とは違って冷房の効いた保健室のベッドで頭を打ったエリモは大事をとって寝かされている。

  服の濡れた俺も体操服に着替えてエリモを見ていた。

  「ラッコはねぇ、生まれた時から陸上生物の私たちと違って腕や足が歩くために発達してないから1歩1歩確かめるように歩くの。タライを転がして移動するのは身体を支えるためだし、水をたっぷり入れるのはより重心を下に置いてリズムを取りやすくするためね。」

  クマの養護教諭の解説を聞いてると、どうやら自分は余計なお節介を焼いてしまったみたいだ。

  「まぁ、ラッコはカワウソの親戚でもあるからその辺の認識がまだ薄いのも無理ないわ。重く考えなくていいから戻っていいのよ。」

  エリモはもう朝の時のような穏やかな顔に戻っている。

  「いや、もう少し待っときます。…昼飯一緒に食べる約束したんで。」

  

  「…そう。ま、4限目が終わるまでには起きてもらうからそうするといいわ。先生には適当に誤魔化しとくからね」

  そう言ってクマ先生は保健室から出ていった。

  ベッドの縁に座ってすぅすぅ寝息を立てているエリモを見ると涼しい環境がいいのか、脳震盪を起こした割に気持ちよさそうに寝ている。

  なんとなく手触りを確かめて見たくて、エリモの頬に手を伸ばすと1平方で10万本あると言われる密度の毛がふわふわと絡みついてきたかと思いきや滑らかに横に滑った。

  「ふふふん。」

  声につられて顔をのぞき込むと、エリモはまた笑っていた。頬の毛を手でなぞり

  「エリモ…」

  なんて呼んでみる。

  でもこれ、傍から見ればキスしようとしていると思われても仕方ないよな?と我に返って顔を離そうとした瞬間、エリモの目が開いて思いっきり目と目が合ってしまった。

  「んぅ~?どこぉ?」

  エリモの手が宙を探ったかと思うと俺の腕を掴む。そのまま下に手を滑らせて俺の手へ到達する。

  きゅう。

  肉球のぷにゅりとした感触が走ったと思うと、エリモと手が繋がって俺の肉球ともくっついていた。

  「んへ、あったかいねぇ。」

  そう言って繋いだ掌に頬を乗せて枕にしながらまた寝息を立て始めた。

  手を繋がれたこと、暖かいと言われたこととくっつかれていること。

  起きたらなんて謝ろうか、という考えはふっとんで肉球の弾力とエリモの頬の毛の温かさにどきどきしながら浸っていた。

  ____

  どれくらい繋いでいたんだろう。

  眠りこけるエリモの顔を見ていたらいつの間にか4限目終わりのチャイムが鳴っていて、同時にエリモのお腹あたりから「くぅぅ…」という音が鳴る。

  瞬間、ぱちりと目を覚まして体を起こしたエリモが手を繋いでいることは意にも介さず

  「おはよぉ、ルークくん。お腹へっちゃった。」

  朝と同じ顔でふにゃ、と笑うエリモ。

  「あの…エリモ、タライのこと、ごめんな。その、必要だって知らなくて…まだ痛いとこないか?」

  「んーん、手伝ってくれようとしたのに怒ったりしないよぉ~。運んでくれたの?ありがとねぇ。」

  エリモは鮮明には覚えていないようだけど気が動転してたとはいえ、お姫様抱っこをしていたことを思い出す。

  見てたヤツらに変な噂されてたりしないだろうか?

  「それより、食堂、いってみたいなぁ。地上のご飯楽しみにしてたんだよねぇ。」

  「じゃあ、混まないうちにさっさと行こうか。悪いことしちゃったし、今日俺が奢るよ。」

  「いいのぉ?でもボク、いっぱい食べるから悪いよぉ。」

  「好きなだけ頼んでくれていいって。ケガさせちゃったお詫びだと思ってさ。」

  このちっちゃい体なら量も大したこともないだろ。

  「じゃあ、今日は甘えちゃおうかなぁ。ありがとうね。行こ行こぉ。」

  ランチの話で完全に目が覚めたのか、おもむろにベッドから立ち上がって上履きを履き終えると、扉に向かおうとする。

  「保健の先生にお礼しなきゃねぇ。どこいるのかなぁ」

  なんて話しながら。

  「あのさ、エリモ。」

  「手、まだ繋ぐの?」

  「ん~、ん?」

  エリモは寝ぼけていたからか初めて気づいた、という顔をする。

  「う~ん、もうちょっと繋いでてもい~い?」

  「まぁ…いいけど。」

  海洋と陸上の文化の違いってやつなのかな。

  男同士でこんなことしてるの見られたらどんなからかわれ方するか分からないけど、どうせ話しかけるやつも今日はいないだろうから些細なことだ。

  …手汗をかいてないかだけ、ちょっと心配だけど。

  _____

  ___

  券売機という初めてのシステムにエリモは興奮を隠せていないみたいで、ズラリと並ぶ品名をキラキラとした目で見つめている。

  さっきから手はずっと繋いだままで、後ろの女子からの視線を感じる。エリモは興奮のあまり手に熱がこもり汗が止まっていなかった。

  手汗のことは杞憂だったみたいだ。

  「クラムチャウダー(¥150)とぉ~、したらばサラダ(¥180)とぉ~」

  「おうおう」

  弁当派と購買派と学食派の存在する我が校だけど飯にこだわりがあるやつとか食べられる物がよほど特殊な奴でもなければ大体のやつは学食に来る。

  「ミックスイカエビフライ定食(¥800)とぉ~、さば味噌(¥200)とぉ~」

  「うん、うん」

  俺も普段は弁当を持たされてるけど、17歳の食べ盛りで物足りない時もあるし、あったかい飯はやはりありがたい。

  「アサリと刻み海苔の和風パスタ(¥500)とぉ~、鮭のはいったこの石狩鍋風?味噌汁(¥350)とぉ~、あ。カニクリームコロッケ(¥250)も食べてみたいなぁ」

  「……おう」

  何よりチンパンジーのおばちゃんが多数勤めるここの学食は近隣学校の中でもバラエティ性と企画力がずば抜けており今日みたいに海洋交流があったりするとそれに伴った様々な料理を色々と出してくれるのだ。“日替わり”で。

  「アンチョビトースト(¥350)とぉ、イカ墨パスタ(¥450)とぉ、シーフードドリア(¥450)、海ぶどう入り海藻サラダ(¥280)、イカじゃがバター(¥300).エビかき揚げそばかまぼこ入り(¥550)、牡蠣ちゃんぽん(¥700)、アジの一夜干し南蛮漬け風丼(¥600)、豆腐と貝柱入りのエビ油チャーハン(¥650)、子持ちししゃものフライ(¥280)___」

  

  「エリモ、コレ、ゼンブタベキレル?」

  ちなみに俺のお小遣いは毎月1万円(月末支給)。

  ちょっと陸の飯が珍しくて舞い上がっちゃっただけだよな?エリモ。

  震える指先で注文一覧(と、指してるかさしてないか微妙な位置で合計金額)を示してやると、さすがにハッとして申し訳ない表情に変わる。

  まぁ、でも今回だけならこれくらいでも___

  「[[rb:海燕 > シェイエン]]の真珠粉まぶしジェラートパフェ(¥3000)って、どんな味なんだろ?」

  「スゴクオイシンジャナイ?」

  イッパイタベルンダナァ、ラッコ。

  乾いた笑いとともに俺も食券を買う。

  わかめ味噌汁(¥40)。

  バイバイ小遣い。

  こんにちはエリモの笑顔。

  カワイイネ。

  張り付いた笑顔を浮かべて震える手で万札を券売機に飲ませようとすると、後ろからポン、と肩を叩かれる。

  エリモから遠ざかっていたクラスの男たちがそこにいて、申し訳なさとやや同情の瞳を浮かべていた。

  「俺らも払うからさ、その、エリモと一緒に食ってもいいかな?」

  

  俺にエリモのことを押し付ける形になったことをここでチャラにしようって気持ちもまぁあるんだろうけど、そんなこと言ってる場合じゃない。

  一人一人の財布を持つ手が今は俺を救わんとして差し伸べられた菩薩のものに見える。

  乗らない手はなかった。

  「なぁ、エリモ。今日は歓迎会ってことでさ、俺らが持つから好きなだけ食えよ。みんなで食おうぜ。」

  「えぇ~みんなもいぃのぉ?それじゃあ…もう少しだけ、ご馳走になってもいい?」

  「ドンと来いよ!」

  「20キロ太って海に帰れ!」

  「沈めてやんよ!」

  「えぇっとねぇ____」

  

  クラスの中で少しだけ張り詰めていた緊張の糸が、ほぐれていく。

  「____と、____、___」

  

  エリモの両親のことに触れづらいものはあった。

  

  それでも、海上都市と俺たちとじゃ違うものがあるんだろう。

  「___とね、____。___」

  今日出会ったばかりの俺ら。

  焦る必要はないんだから、今から始めていけばいいんだ。

  勝手に抱いた気持ちで遠ざかって、こんなことで近づこうとするのはズルいかもしれないけど所詮ガキの俺たちには少しずつがお似合いなんだ。

  「あと、____と、____、______」

  ………。

  財布を開き始める男衆。

  残額を気にし始める男衆。

  食いしん坊な友人と始める夏は、全員金欠で始まりそうだった。

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

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