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任務終了後、シリウス一同が訓練室でトレーニングをしているとバルジが尋ねてきた。
「お!やっているな」
「「「バルジ隊長」」」
バルジが入室すると、一同が挨拶をした。
「隊長が訓練室に顔を出すの珍しいですね」
「隊長、どうされたのですか?」
「もしかして、学の成長でも観にきたんですか?」
ルイ・有紀・デイビットが話しかけてくると、少し笑みを溢して告げた。
「驚かせてすまなかったな。有紀の成長も正直気になるところだが、今回はこれを渡しに来た」
そう告げると、手に持っていた箱を有紀に差し出した。
「なんですか?これ??」
「団子だ」
「「「団子???」」」
「あぁ。絹子おばさんからの差し入れでな。沢山貰ったから分けにきただけだ」
「はぁ…ありがとうございます」
「でも、なんで団子なんて貰ったんっすか?」
「なんだ?お前達知らないのか?」
「なにがです?」
「今日は中秋の名月だ。月見団子を知らないか?」
「「「中秋の名月???」」」
「あぁ。今日は満月でな。古くから欠けては満つる姿から、農作物の収穫やものごとの結実を感謝する日とされている。毎年買っていたのが、今年はお前らにも分けてやれと言われてな」
「そうなんですか」
「まさかバルジ隊長が毎年団子を買っていたなんて意外です」
「道理で……最近腰回りが太くなったような…」
「デイビット、なにか言ったか?」
「いいえ!!なにも!!」
デイビットからの言葉に睨みをきかすと、少しため息をついた。
「はぁ…まぁいい。結構あるから上手く分けて食べろよ」
「「「ありがとうございます」」」
「それでは失礼する」
バルジが諫早に立ち去ろうとすると、有紀が呼び止めた。
「あの…バルジ隊長」
「どうした?」
「もし良かったらご一緒に食べませんか?」
有紀からの言葉に少し悩んでいたが、すぐに答えた。
「せっかくだが、遠慮しておこう」
「え?!どうしてですか?」
「先客がいる。これで失礼するぞ」
素っ気なく返答したバルジは早々に部屋を後にした。
残された3人は呆気ない退散に疑問が過ぎった。
「先客って誰なんだろう…」
「そんなのローレンス隊長に決まっているじゃない」
「どうだろうな~なら賭けるか?隊長が誰と団子食べているかで!ちなみに被りはなしな」
「じゃあ!ローレンス隊長に500エイブル!」
「あ!ルイずるいぞ!」
「こういうのは早い者勝ちよ。有紀くんはどうするの?」
「じゃあ…暁さんとで200エイブル!」
「お!面白いところに行くな~じゃあ俺は藤堂指令とで1000エイブル」
「それは…どうだろう」
「分かんねぇぞ。なんせ毎年って言っていたから」
「「確かに…」」
有紀とルイが思わず関心をしてしまった。
ともあれ、団子をいただいた一同はどう食べるか検討し始めた。
ルイ「でも、これどこで食べようかしら…」
有紀「そうだよな…隊長は月見団子って言っていたけど」
デイビット「てことは、月を観ながら食えって事じゃねぇか?」
ルイ「月ね……それだと、コミュニティルームとか?」
デイビット「あんまり雰囲気でねぇな」
ルイ「そうね…じゃあ外の公園のベンチとか?」
有紀「隊服で行くのもな…」
デイビット「だな」
ルイ「もう!文句ばかり言っていないで、何か案を出してよ!」
有紀「わ、分かったよ…」
ルイの怒りに真剣に考えるが、一向に思いつかない。
「駄目だ…全然思いつかない」
「つうかよ。この団子結構あるぞ。俺たちだけで食べきれるか?」
「「確かに…」」
箱いっぱいに入った団子に悩んでいると、ルイが提案した。
「ねぇ。この際スピカやケフェウスの皆で食べない?」
「あ!それいいかも」
「たまにはいいか。ついでに酒も持っていこうぜ」
「「賛成!!」」
話がまとまると、それぞれが連絡をして共同ミーティングルームに集まることになった。
団子を持って共同ミーティングルームで待機していると、スピカ小隊のマギー、シェリー、愛が先に入室してきた。
「お待たせ。ご招待ありがとうね」
「お団子なんて、任務後に嬉しいわ」
「でも、食べすぎないようにしないと」
3娘がはしゃいでいる最中、最後に入室してきたジュリアに有紀が声を掛けた。
「ジュリア隊長、わざわざありがとうございます」
「こちらこそお招きありがとうね。それでアレが話していた彼からの団子?」
「はい。絹子おばさんからの差し入れと言っていました。何故か今年は大量に貰ったからだとか…」
有紀が指を差しながら説明をすると、3娘も団子に注目して驚きの表情を見せた。
「うわっ!凄い量の団子ね。これを一人で食べるのは絶対無理よ」
「そうね……間違えなくメタボになるわ」
「解析するまでもないわね」
マギー、シェリー、愛が驚愕している中、ジュリアは疑問の声を漏らした。
「本当に凄い量の団子ね。でもなんで絹子おばさんはこんなに団子をくれたのかしら?」
「それは俺たちもよく分からなくて…」
「もしかして…バルジ隊長が年々食べる量が増えていったから…とか」
「いやいや…バルジ隊長がそんな大食いなんて聞いたことがないわよ」
「そうよ。仮にそうならわざわざ分けにくるわけないでしょ」
有紀とスピカ一同が考え込んでいると、再び扉が開き、ケフェウス小隊のローレンス・ピエール・キム・コーリーが順番に入室してきた。
「待たせたな。御招待感謝する」
「お招きありがとうな」
「うわ。すげぇ団子だな」
「美味しそう!」
ケフェウス一同と入室してきたローレンスをみて、有紀が思わず声を漏らした。
「……あれ?ろ、ローレンス隊長?!」
「ん?なんだその反応は。俺が来たのは不満か?」
有紀の驚いた表情にみてローレンスは眉にしわ寄せて不満そうにしている。
誤解を招いている事を察すると、有紀は咄嗟に弁解した。
「ち、違います!!てっきりバルジ隊長と月見をしているのだと思ったのでどうしたのかな~と思っただけです!」
「バルジと?それはどういうことだ?」
ローレンスの質問にデイビットが答えた。
「俺たちもはじめ誘ったんですが、先客がいるって断られたんですよ。てっきりローレンス隊長と飲んでいると思ったんですが」
「なるほど…そういうことか。だがあいつからそんなお誘いは一言もなかったぞ」
「そうなんですか……んじゃ、ルイの敗北は確定だな」
「も~~~一番可能性が高かったのに~」
「………なんの話だ?」
「まぁ、こっちの話なので気にしないでください。でもそうなると隊長は誰と月見をしてるんだろう…」
デイビットが腕を組んで考えている、有紀も参入した。
「他に久しい人って言ったら…やっぱり暁さんかな」
「暁さんの線はないと思うぞ」
「え?!ローレンス隊長なんでですか?」
「昨日バルジから聞いた。今日の晩から里帰りをするらしいぞ」
「さ、里帰りですか?!ガックシ…」
ローレンスの言葉にズドンと肩を落とす有紀を横に再びデイビットがニヤリと声を漏らした。
「んじゃ、俺の予想の藤堂指令って事だな」
「それもないな」
「え?な、なんですか?!」
「今日は管理局内で深夜点検があるからな。その監督者で夜勤だと思うぞ」
「あ“~~そういえばそんな通達きてたぜぇ」
デイビットが頭を抱えている中、有紀が尋ねた。
「あの……ちなみにお聞きしますけど、ローレンス隊長は誰と月見をしていると思いますか?」
「あいつが他に酒を飲み合う相手か………うーん。そうだな……」
質問に対して腕を組んでしばらく思考を巡らすローレンス。
その場の一同が注目する中、たっぷり時間をかけてぼそっと答えた。
「…………………いないな」
ズコン!!!
予想外の回答に思わずその場にいた一同が一斉にずっこけた。
ジュリア「あなたね……散々時間掛けてそれ?!」
マギー「ローレンス隊長でも分からない事ってあるんですね」
シェリー「いてて…変な転け方しちゃった」
愛「もぅ~勘弁してください!」
キム「ローレンス隊長にしては…珍しいな」
ピエール「だな…バルジ隊長の事なら絶対に分かると思ったのに」
コーリー「長い付き合いでも分からない事ってあるのね」
有紀「いてて…もの凄く溜めておいて回答なしって…」
デイビット「期待して損したぜ…」
ルイ「でも、そうなると本当に誰と飲んでいるのかしら…」
一同が不満の声と共に疑問に感じていると、愛が思いがけない言葉を放つ。
「もしかして…………女性とかかしら」
「「「「「えっ……じょ、女性?!」」」」」
予想外の声に一同から驚きの声が漏れる中、デイビットと有紀が反論した。
「ば、馬鹿かてめぇ!バルジ隊長がそんなことするわけねぇだろ!」
「そ、そうだよ!隊長がそんな女性を誘うなんてあり得ないよ!」
「分からないわよ。だってバルジ隊長って意外と経験豊富でしょ」
「た、確かに影じゃ魔法使いって言われてるがよ。あえて月見で…するか?」
「それにローレンス隊長と恋仲なのにそんな浮気じみたことするわけが…」
「有紀!堂々と口に出すな!!」
「はっ!す、すみませんローレンス隊長」
あらぬ疑いを掛けられてしまったバルジ。
状況が徐々に悪化していく中、ルイがあることを思い出した。
「女性ねぇ……そういえば……ユキは?」
「「「あ……」」」
突如漏れた言葉にローレンスとジュリアが一定の理解を示した。
「なるほどな。それはあり得るかもしれん」
「確かにね。ユキなら入隊した頃からずっとシリウスで一緒だものね」
二人が納得をしていると、他の一同が協議を始めた。
有紀「ユキか……でも毎年二人で月見をするかな?」
ルイ「もしかしたら、月見ついでにメンタルケアとかして貰っているとか」
デイビット「あぁ~確かに悩みや愚痴とか聞いて貰っているかもな」
ピエール「でも、セクサロイド相手に酒を飲んで楽しいのか?」
キム「ユキさん綺麗だから俺はありだな」
コーリー「キム、その下心丸出しの発言やめて」
マギー「こうなると、なんか気になるわね」
シェリー「確かに…この際、調べるって言うのはどう?」
愛「あ!それいいかも」
一同が雑談をしている最中、話を聞いていたローレンスは一人頭の中で考え込んでいた。
(あいつがユキと月見で晩酌……それも毎年だと。いくら長い間シリウスにいるからといっても少々無理があるような気がするが…)
一同が出した仮説に疑問視していると突然ドアが開いた。
ドアが開くとそこには注目の的のユキが立っていた。
「皆さん、遅くなり申し訳ありません」
「「「「「ユキ?!」」」」」
一同が一斉に声を上げると、有紀があることを思い出した。
「あっ!そういえば…ユキにも連絡していたこと忘れてた」
「そういうことは先に言ってよ。有紀くん!」
「たくよ……でもこれでユキっていう線もなくなっちまったな…」
シリウス3人が残念そうにしているのをみて、ユキが頭を傾げていた。
「皆さん…どうかされたのですか?」
「いや、バルジ隊長が誰かと月見をしているっていう話でさ。てっきりユキとしているかと思ったんだよ」
「ユキは何か知ってる?」
「そうですね…隊長が月見をしているというのは、以前、絹子さんからお聞きしたことがあります。でも、誰かとまでは…」
「そうか…本当に誰なんだろ?」
「やっぱり他の女性とかかしら…」
「あ~~~駄目だ。めっちゃ気になってきた!」
悩み倒しているシリウス一同を見て、ローレンスも同感だった。
「確かに気になるな……やはり少し捜索をするか」
思いがけない一言にデイビットが驚いた表情で確認した。
「え?!まさか…浮気相手を探すんですか?」
「そういうわけではない。が…」
「が?」
「あいつが不可解な行動を取るときは碌なことではないからな。念のためだ」
当たり外れのない発言をするが、一同はそうは思わなかった。
(((絶対浮気を疑っている…)))
一同が一斉に疑う中、ローレンス主体で真剣に話し合いを始めた。
ローレンス「で、問題はどう探すかだ。どこで月見をするかは聞いていないのか?」
有紀「はい…隊長からはなにも聞いていません」
ローレンス「となると、まずは場所探しからだな」
ジュリア「そうね…月見というくらいだから、やっぱり管理局の外かしら」
ローレンス「それはない」
ジュリア「どうして?」
ローレンス「あの仕事馬鹿はスクランブルを気にして管理局外には殆ど出ない」
ジュリア「確かにそうね…じゃあラウンジとか?」
有紀「バーっていうのもありますよ」
キム「食堂とか」
ルイ「待機室は?」
ピエール「ミーティングルーム」
デイビッド「でもよ…正直、どれもあんまり雰囲気でねぇよな」
愛「いっそのことビッグワンの客車とか」
マギ「それ雰囲気だけで全然月見えないじゃん!」
一同から意見が出るが、どれも確信には至らない。
場所の特定を模索しながら、ローレンスはあることを考えていた。
(それにしても…何故月見なのだ?それも毎年。なにか理由があるのか?)
疑問が過ぎったローレンスは有紀に尋ねた。
「有紀。お前達は月見を知らなかったのだな?」
「え、はい」
「なら、その説明をしたのはバルジだな。あいつはお前らになんと説明した?」
「え?あ……確か…今日が中秋の名月で農作物の収穫やものごとの結実を感謝する日だとかなんとか」
「なんだ…その内容は。わざわざ毎年やるまでもない感じだな」
「言われてみればそうですね。俺たち別に農業とかしていませんし…」
変に納得している有紀を横に、話を整理したローレンスはある仮説を立てた。
「もしかすると……その説明はお前達に団子渡す為のミスリードかもしれんぞ」
「ミスリードって……どういう意味ですか?」
「本質は違うということだ」
ローレンスは説明をしながら、コミュニティルームに備え付けのパソコンを開いた。
「ローレンス隊長、何を調べているのですか?」
「月見についてだ。恐らく絹子おばさんから大量の団子を渡されたのはバルジにとってのイレギュラーだ。団子の処理の為にあいつは咄嗟にお前らに月見を持ちかけたのだろ」
「なるほど……でもだったら一緒に月見をしたらいいじゃないですか?」
「それができない理由があるということだ。恐らく違う目的の可能性がある…」
そして徐に月見について検索を掛けた。
真剣な眼差しでパソコンをみるローレンスに一同が注目した。
そして、検索内容を確認したローレンスが少し表情を曇らせた。
「なるほどな………はぁ…全くあの馬鹿が」
「あの…どうかしたのですか?」
心配そうにしている有紀をみて、ローレンスはため息をついて立ち上がった。
「すまんが、急用ができた。俺は失礼するぞ」
「え?!ローレンス隊長?!待ってください!」
有紀の制止も聞かずに、ローレンスはグラスを一つ袋に入れ、部屋を後にした。
「どうしたんだろ…」
「多分隊長のところに行ったんじゃない?」
「まさか、浮気現場に殴り込みか?」
不安そうにしているシリウス一同に対して、ジュリアが答えた。
「あの顔はそんな感じではないわよ」
「ジュリア隊長…ならローレンス隊長は何をしに行ったのですか?」
「さあね。でもどうやら月見の背景に何かあるようね」
意味深な言葉を漏らしながら今度はジュリアがパソコンの席に座った。
そしてパソコンの検索履歴を調べると、同じように内容を確認した。
「これね」
「ジュリア隊長、なんて書いてあるんですか?」
有紀の言葉にジュリアは答えた。
「なら、読むわよ。『お月見をするようになった背景には、月の満ち欠けが暮らしや農作業に深くかかわっていたことがあげられます。欠けては満つる姿から、農作物の収穫やものごとの結実を感謝する日となり、生命の満ち欠けの連想から、生命を繋いでくださった祖霊を偲ぶ日にもなった。収穫したものに対しては「おかげさまで今年も無事に収穫ができました」、これから収穫するものに対しては「どうぞ豊作でありますように」、そして「私たちの命が今あるのは、ご先祖様のおかげです」と月を拝んで私たちを陰で支えてくださるものに感謝し、祈りを捧げるようになった』ですって」
話を聞いて、シリウス一同が何処か悲しい表情になった。
「生命を繋いでくださった祖霊を偲ぶ日…」
「おいおい…それって」
「もしかしたら…」
その頃、ローレンスは自身の仮説を信じてバルジを探していた。
(俺の仮説が正しかったとして、一体どこにいる…管理局内で…人目が気にならず…月が見える場所…)
脳裏に様々な場所を思い浮かべるが中々答えがでない。
「はぁ…仕方がない。苦手だが、絹子おばさんにでも聞いてみるか…」
そう決断すると、ローレンスは駅前の売店へ向かった。
売店では閉店の作業をしている絹子がいた。
「こんばんは、絹子おばさん」
「あら、ローちゃんじゃないの?こんな時間にどうしたんだい?」
気軽に話しかけてくるのに対して、ローレンスは眉に皺を寄せていた。
「その呼び方はやめてくださいとあれ程言ったはずですが?」
「いいじゃないの。あたしにとっちゃあんたは息子みたいなものだからね~」
「息子って…」
(やはり俺はこの人が苦手だ…)
「それで、どうしたんだい?もうお店は閉めちゃったよ?」
「いや、買い物ではなくちょっとバルジの事をお聞きしたくて」
「バルちゃんかい?あ~夕方に月見団子を買いに来たね」
「その事なのですが、どこで月見をするか聞いていませんか?」
「おや?かなり団子を渡したのにお誘いはなかったんかい?」
「はい、部下に配ってから先客がいると言って何処かに行ってしまいまして」
「そうかい…」
絹子おばさんは何処か悲しそうな目をしていた。
「どうか…しましたか?」
「いいや、毎年団子を買いに来るけど、毎回元気がなくてのぅ。心配をしていたのよ」
「そうですか…ちなみにいつから団子を買いに来るようになりましたか?」
「確か…9年前くらいだったかのぅ」
「9年前……やはりな」
予想していた事が一致してより険しい顔でいると、絹子が月を見上げながら尋ねた。
「ねぇローちゃん。あんたは月見の意味を知っているかい?」
「えぇ。先程調べました」
「そうかい。色んな諸説があるけど、どうもバルちゃんは勘違いをしているみたいでのぅ」
「そのようですね。だから大量の団子を渡したのですか?」
「そうじゃ、あたしにはそれくらいしかできんからのぅ…」
少し俯いている姿にローレンスは何処か申し訳なさを感じていた。
(全く。絹子おばさんにも気を遣わせるとは…とんだバカモノだな。さて…その馬鹿は一体何処へ行ったやら…)
再び月を眺めて考えていると、絹子がボソッと呟いた。
「バルちゃんが月見をするとしたら、きっと…月に一番近いところを選ぶだろうね」
「月に一番近いところ…」
月を見上げてながら漏れた絹子の言葉である場所が思いついた。
「……はっ…あそこか!」
「おや、分かったのかい?」
「えぇ。月がよく見えるとっておきの場所を思い出しました」
「そうかい。なら早く行っておあげ。多分、先客の方も困り果てているだろうからね」
「そうですね。では失礼します」
絹子と別れて、諫早にある場所へ向かった。
ローレンスが到着したのは、管理局の屋上。
扉を開くと、月明かりが照らされた広々としたところに一人の男が座っていた。
それは栗色髪で黒の隊服を着たバルジだった。
「バルジ!」
思わず叫ぶと、酒の入ったグラスを持ちながらこちらに振り向いた。
「ローレンス?こんなところになんの用だ?」
「お前こそ、こんなところで何をしている?」
「何って……月見だが」
気が抜けたように答えるとローレンスは呆れ顔で尋ねた。
「月見……か。見たところお一人のようだが」
「別に一人で月見をしてもいいだろ」
「ほぅ……それはおかしいな」
「………なにがだ?」
「シリウスの連中から聞いたが、先客がいたのではなかったのか?」
(アイツら…よりにもよって面倒な奴に教えよって…)
内心でぼやきながらしばらく沈黙をすると、静かに答えた。
「………なに、もう帰ってしまったから、余った団子で一人晩酌をしていただけだ」
「……それは嘘だな」
「はは、即答だな。何故ウソだと思う?」
バルジの問いかけにローレンスは真顔で指さした。
「その床に置かれたグラスが証拠だ。注がれているのに飲まれた形跡が全くない」
グラスが2つ用意されていた。1つはバルジ手に持っている。そしてもう1つは満タンに注がれているにもかかわらず、口にした形跡がないグラスが床に置いてあった。
「相変わらず鋭いな。……ならばお前が飲むか?」
「要らん」
「これまた即答だな……で、その理由は?」
呆れながら尋ねると、ローレンスは無言のままバルジの横に座り、自身が持ってきたグラスを差し出した。
「ん?……なんだ?」
「注げ」
「やっぱり酒が飲みたいのではないか?それなら…」
「そこの供え酒を飲めるわけがないだろ。そんな事をしたら有紀隊長達が化けて出てきそうだ」
「……ローレンス?」
唐突の発言に衝撃を受けたが、ローレンスはそのまま話を続けた。
「先程、絹子おばさんにいつからお前が月見用の団子を買うようになったかと聞いた」
「ほぅ………それで、絹子おばさんはいつからと答えた?」
「9年前……つまり有紀隊長が殉職した翌年かららしいな」
「絹子おばさん…相変わらずのおしゃべりだな。で、それが月見と何の関係がある?」
「白々しいことだ。月見の由来には、生命を繋いでくださった祖霊を偲ぶ風趣があるらしいな」
「……お前、わざわざ調べたのか?」
「お前がシリウスの連中をミスリードするような事をしたからだ」
「ふっ…それもバレていたのか。相変わらず…お前が恐ろしいよ」
「ふん。それはそうと、いい加減、酒を注いでくれんのか?」
「はぁ……全く。分かったよ」
複雑な思いのまま、バルジは酒瓶を持ってグラスに酒を注ぐと軽く乾杯して、二人は酒を飲み始めた。
「(ゴクン)ふぅ……ところで有紀から聞いたと言うことは、お前も月見に誘われたのではないか?」
「(ゴクン)……ん?そうだが?」
「ならば…なぜわざわざここに来た?」
投げかけられた質問にローレンスは月を見上げながらボソッと答えた。
「……理由は二つだな」
「二つ?」
「あぁ、一つはお前がこんな眺めのよいところで月見をしていることが気に入らん」
「ははは、それはとんだ逆恨みだな。で、もう一つはなんだ?」
酒を飲みながら笑うバルジにローレンスは真顔で次の理由を述べた。
「お前が……一人でいるのが見過ごせなかった」
「ほぅ……それまたとんだお人好しだな」
「何とでも言え」
お互いに皮肉を漏らしながら二人は静かに酒を飲み交わした。
静かな月明かりと少し冷える風に身を預けていると、ローレンスが呟いた。
「なぁ、何故…毎年一人で月見をしていた?」
「なんだ?こんな辛気くさい月見に誘って欲しかったのか?」
「違う。会話の弾まない相手と月見をして何がいいのだ?」
ローレンスの質問にしばらく考えると、月を見ながら静かに告げた。
「お前には……分からんだろうな」
「……なに?」
意外な言葉に鋭い睨みをきかせたが、その表情にお構いなしにバルジは話を続けた。
「銀河鉄道は…多くの仲間に守られてきた。有紀隊長をはじめ、ヨハンソン隊長…村瀬…シルバー…シュナイダー…ホセ…ブルース…そして多くのSDF隊員によってな」
「それは俺も理解をしている。だが、それが何故月見に繋がる?」
「死者の国では、生者の国の誰からも思い出して貰えなくなると、死者たちには死者の国からも自らの存在が永遠に消えてしまう”二度目の死”が訪れるという。だから彼らの死を……俺は忘れる事はできん」
「それで……忘れないために毎年月見をしていたと言うわけ…か」
「あぁ」
説明を一通り聞いて、ローレンスは呆れ顔で酒を飲みながら答えた。
「……ふん。本当にお前は馬鹿だな」
「……なに?馬鹿とはどういう意味だ?」
いきなり馬鹿と言われた事にムッとしていると、突然後方の扉から声が聞こえる。
「ローレンス隊長の言う通りですよ。バルジ隊長!」
振り向くと、そこには有紀をはじめシリウス一同が立っていた。
「有紀?!それにお前ら…こんなところにどうした?」
突然の登場で驚いていると、少し怒った表情で有紀が話を続けた。
「流石に自分一人が思い出せばいいって言うのは、思い上がりも甚だしいと思いますよ、バルジ隊長」
「なんだと?」
「だって、誰からも思い出して貰えなくなると、死者たちに”二度目の死”が訪れるって言いましたよね?なら、隊長が死んだら誰が思い出すのですか?」
「それは…」
「隊長だって人間です。誰だって必ず死んでしまう。だから残された人々が思いだすことが大切だと思います」
「それは理解している。だから俺は…」
「でも、それは一人でやることではありません。皆で紡いでいくことだと俺は思います」
一通り話をすると、後方のシリウス一同が話を続ける。
「有紀くんの言う通りですよ。私たちも忘れるなんてできません」
「水くさいですよ。そんな事まで一人で抱えないくださいよ」
「隊長、もう一人ではありません。あまり思い詰めないでください」
ルイ・デイビット・ユキが微笑んで告げると、ローレンスが思わず笑った。
「ふん。有紀にしては100点満点な回答だ。これではどちらが隊長か分からんな」
「お前な…」
そうこうしていると、シリウス一同の後ろからケフェウス・スピカの一同も乱入してきた。
ジュリア「そうよ。貴方一人ではないでしょ」
マギ「そうですよ!バルジ隊長」
シェリー「そんなしんみりしていたら、あの村瀬隊長にどやされますよ」
愛「それに、こんなところを独り占めなんてずるいですよ」
ピエール「バルジ隊長、いくらなんでも格好つけすぎです」
キム「だな。たまには少しくらい分けてほしいものだな」
コーリー「私たちをもっと信用してください」
あまりの台詞にバルジは呆気にとられていた。
「お前ら…とんだお人好し共だな」
頭を項垂れていると、ローレンスが大きくため息をついた。
「はぁ……全く。やはりこれが一番手っ取り早いか」
そう呟きながら立ち上がると、ローレンスは自身のスカーフとベルトを外して、隊服のコートを脱いだ。
「ローレンス…お前…一体なにをしている??」
「バルジ、今すぐコートを脱げ」
「は?!いきなり何を言っている?」
隊服を綺麗に畳んで、バルジの横に再度座ると酒を飲みながら告げた。
「これで肩書きはなしだ。ここにいるのはただのローレンスと思ってもらって構わん。死者の前では俺たちは平等だ」
ローレンスの言葉を理解したジュリアは少し笑みを溢した。
「なるほどね。貴方らしいわ」
そう言って、ジュリアも同じように隊服のコートを脱いでバルジの横に腰掛けた。
「これで私もただのジュリアね」
「ジュリア……お前まで」
それを観ていた一同も顔を合わせると、お互いに頷いて各々が隊服のコートを脱いだ。
そして円で囲うように皆で座った。
「バルジ隊長、これで俺もSDF隊員ではなくただの有紀学です」
「私もただのルイ・フォート・ドレイクです」
「俺もただのデイビッド・ヤングだぜ」
「隊長、今日は私もただのユキと思ってください」
にこやかに微笑んでいるシリウス一同。それに釣られるようにスピカ、ケフェウスを同じように隊服のコートを脱いで円に加わった。
一同が何処か嬉しそうな表情みて、バルジも笑みを溢した。
「やれやれ……とんでもない作戦だな」
「そうか?かなり有効的だと思ったがな」
「全く……やはりお前は恐ろしいよ」
「ふん。なんとでも言え。さて、せっかくの月見だ。楽しく飲もうではないか?」
「お!いいですねぇ。ローレンスさん」
「デイビット、流石にローレンスさんっていうのは…」
「何言ってるんですかバルジ隊長。だって肩書きなしでしょ?なら隊長っていうのはルール違反です。ですよね、ローレンスさん?」
「ふん、そうだな。設定へのこだわりは、流石バルジの子供たちだな」
「それは……嫌みか?」
「さて、どうだろうな」
酒を飲みながら不適な笑みを溢しているローレンスを見て、思わず力が抜けた。
「やれやれ……仕方がないな」
少し呆れ顔のまま、バルジも自身の黒の隊服に手を掛けて脱いだ。
「これで俺もただのバルジってか」
「ふん。それでいい。月が輝いている今は…な」
二人で笑みを溢していると、デイビットが音頭を取った。
「んじゃ!とりあえず乾杯でもしましょうや。はいはい皆さんグラスを持って!」
デイビットの言葉で皆が笑みを溢しながらグラスを持つ。
「それでは!銀河鉄道の安全を守ってくれた全ての人への感謝の気持ちを込めて乾杯!!」
「「「「「乾杯!!!!」」」」」
掲げたグラスに映る月を見て、何処か救われたように微笑むとゆっくり飲みながら共にいる幸せに浸る不滅のシリウスだった。
【次回予告】VOICE ルイ
もうじきハロウィーンだわ
カボチャの置物でも飾ってみましょ
え?!バルジ隊長?!
なんでそんな不満げな顔をしているのですか?
次回 『ハロウィーン失踪事件 仮装編』
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