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Bitter Valentine's Day

  とある日のケフェウス待機所にて

  「ローレンス隊長、宜しければこちらをどうぞ」

  「………ん?」

  書類確認をしていたローレンスに声を掛けたのは戦闘パートのコーリー。

  手には手作りのクッキーが入った袋があった。

  「……コーリー、これは何だ?」

  「昨日私が作ったクッキーです。今日はバレンタインデーなのでいつもお世話になっているお礼です」

  「……そうか。ならば頂こう」

  「はい!」

  特に断る理由もなかった為、素直に受け取ると後方から不満の声が届く。

  「いいな~隊長だけ貰えて」

  「俺たちへの感謝の気持ちはねぇのか?」

  愚痴を漏らしたのはピエールとキム。

  不満げな顔を見て、コーリーはそっと微笑んで告げた。

  「安心して。ちゃんと用意してあるから」

  「え?!ほ、本当か!」

  「マジかよ!」

  「はい、これよ」

  コーリーが手渡したのは少しいびつなクッキーが入った袋。

  「……なんか、隊長に渡したやつよりいびつじゃねぇか」

  「…あぁ。なぁ…これってもしかして」

  「お察しの通り、失敗作よ。でも味はいいから安心して」

  「ちぇ!要するに残飯処理かよ」

  「お前…まさかローレンス隊長の事、好いているんじゃねぇだろうな」

  「ご生憎様。お相手がいる人にアタックするほど私は馬鹿じゃないわよ」

  「じゃあ……本当に日頃の感謝で作ったって言うのかよ」

  「意外とマメな性格だな」

  「放っておいてちょうだい。そう言う貴方たちも少しは感謝の気持ちを示したらどうなの?」

  「おいおい…流石に男がチョコを送るって言うのは変だろ」

  「そうだぜ。それこそいい笑い者になるだろうが」

  「そうかしら。今のご時世、何でもありだと思うわよ。実際、本命チョコよりも同性同士で贈り合う友チョコの方が需要も大きいってニュースになっているわよ」

  「と、友チョコ…」

  「ま、マジかよ…」

  チョコ話に盛り上がっている3人に、クッキーを受け取ったローレンスは1つ疑問を投げかけた。

  「……コーリー。これはクッキーだよな。これもバレンタインデーの贈り物としては適切なのか?」

  「え?は、はい。最近はチョコが混ざっていれば何でもいいみたいですよ」

  「ほぅ……ちなみに俺に送ったこれは何チョコになるのだ?」

  「え?そ、そうですね……確か…社交チョコとか…それか……世話チョコ?」

  「「「世話チョコ……」」」

  未だによく分からないまま贈り物をしたコーリーに少し呆れたものの、偽りのない気持ちに素直に喜ぶことにした。

  「やれやれ……まぁいい。どんな形であれ、これはお前からの感謝の贈り物として有り難く頂くぞ」

  「ご理解ありがとうございます。せっかくなので珈琲入れますね」

  「……頼む」

  返答を聞いてコーリーが珈琲を入れに行く中、ローレンスは書類確認を再開させた。

  (バレンタインデーか。コーリーもあぁ見えてやはり女性だな。そういう気遣いには頭が上がらん。……ん?バレンタインデーと言えば、あの時のあいつは…)

  書類を見ながら考え事をしていると、ふと脳裏で昔の出来事を思い出していた。

  それはまだバルジとローレンスが新人で間もない頃のこと。

  シリウス待機所のデスクには頭を抱えて落ち込んでいる新人バルジがいた。

  「はぁぁぁぁぁ………」

  待機所に響き渡るため息を聞いて、作業を中断したローレンスは呆れながら尋ねた。

  「おい……お前、それで何度目のため息だ?」

  「………放っておいてくれ」

  「あのな。真横でずっと聞く身にもなったらどうだ」

  「……だったら、どっか行ったらいいだろ」

  「いい加減にしろ!俺だって報告書の作成がある。お前も作成を再開したらどうだ!」

  「作成……ねぇ」

  新人バルジが頭を抱えていた理由は始末書の作成。

  数時間前の任務にて盛大にミスをしたことにより渉からお叱りを受け、始末書を提出しなければならなかった。

  「……はぁ。全く、よくも嫌なことを思い出させてくれたな」

  「自業自得だろ。大体、お前が馬鹿みたいに先行したのが原因だろうが」

  「……それについては嫌と言うほど猛省したさ」

  「ふん。そうは見えんがな。で、有紀隊長はお前に何の処罰を言い渡したのだ?」

  「処罰……」

  処罰の言葉を聞いた瞬間、凹んでいたバルジの顔色がずっしり悪くなった。

  「お……おい、だ、大丈夫か?」

  「………あ?あぁ……大丈夫だ。ただ…正直、今は言いたくない」

  「そ……そんなに、ヤバい処罰なのか?」

  「………あぁ。ハッキリ言って、自分の行動を死ぬほど後悔しているほどだ」

  「っ?!そ、そうか…」

  (い、一体どんな処罰だ。確かに今回のミスは一歩誤れば命に関わったことだが、こいつがここまで凹む程の処罰になるだろうか。それにあの有紀隊長がそんな罰を下すとも思えんが…)

  隣で話を聞いたローレンスは自身の手が止まるほどにその処罰が気になっていた。

  二人に何とも言えない空気が流れる中、待機所の扉が開き席を外していた渉が戻ってきた。

  「ただいま。お前ら、報告書の作成は進んでいるか?」

  「あ…有紀隊長。お疲れ様です。あと半分くらいです」

  「そうか。まぁ、急げとは言わんが、記載漏れがないようにな」

  「は、はい」

  ローレンスとの対話を終えると、未だにパソコンの画面に視線を向けているバルジの元へ向かった。

  「………バルジ。それでお前の方はどうだ?」

  「(ビクっ!)へ?あ……ボチボチです」

  「ほぅ……見たところあんまり進んでいないように思えるが」

  「そ……それは文章に悩んでいるだけです」

  「ふ~~~ん。そうか。まぁ作成はお前のペースで構わんが、分かっているよな」

  「へ?な……何がでしょうか???」

  「お前の処罰についてだ。勤務終了後に実施するから、それまでに始末書の作成は済ませておけ、いいな」

  「あ……了解しました」

  「……宜しい。では頼むぞ」

  相互確認を済ませて立ち去ろうとした際、バルジは意を決して懇願をすることにした。

  「あ……あの!有紀隊長!」

  「……何だ?」

  「そ、その……先程に下された自分への処罰の件ですが、別の処罰に変更して頂けませんでしょうか!」

  何処か必死の顔で告げた事に対して、渉は冷ややかな瞳で返答した。

  「…………悪いが、それは却下だ」

  「え?!」

  「お前の処罰を変更するつもりはない。処罰の決行も本日と決定事項だ」

  「なっ……で、でも…」

  「悪いがこの話はこれで終いだ。いくら進言しても変更はない。いい加減覚悟を決めておけ。いいな」

  「は………はい」

  「宜しい。では始末書の作成に戻れ」

  「了解……」

  渉に一喝され、再び凹んだバルジが腰掛けると、聞き慣れた息が聞こえる。

  「はぁぁぁぁぁ……」

  一部始終を傍観していたローレンスは徐々に姿の見えない恐怖を感じていた。

  (な、なんなんだ?!一体、どんな処罰を有紀隊長は用意したのだ?まさか…パワハラに近いようなことではないだろうな。流石にそれはコンプライアンス的にまずいぞ…)

  隣で変な危機感を感じていたローレンスだったが、結局何も考えは纏まらずにあっという間に勤務時間外を迎えた。

  「それではこれで本日の勤務は終了だ。各自解散」

  「「「了解」」」「了解…」

  解散宣言後、明らかにトーンが下がっているバルジに対して、ローレンスとユキが声を掛けた。

  「おい……お前本当に大丈夫か?」

  「バルジさん。顔色が悪いようですが、体調でも悪いのですか?」

  「……は?い、いや……その……」

  いっその事、仮病を使おうか悩んでいると、それを察知した渉は間髪入れずに返した。

  「バルジ。悪いが、例え体調不良でも処罰は受けてもらうぞ」

  「(ギクっ!)」

  あまりの容赦無い発言に戦々恐々になっている姿を見て、遂に黙っていたローレンスが反論した。

  「あの有紀隊長。なにもそこまでしなくてもいいではありませんか!」

  「ローレンス…」

  「ローレンス、お前は私の判断に文句でもあるのか」

  「えぇ。確かにこいつがやらかしたミスは看過できませんが、なにもここまで脅す必要はないはずです」

  「ではお前はこのままコイツが反省せずに過ごせばいいというのか」

  「見て分かりませんか。今までにないほど猛省をしているではありませんか」

  「一度あることは二度あると言うだろ。これもバルジの事を思えばだ。お前は口出しをするな」

  「この……頑固者!」

  「よ、よせ…ローレンス!」

  説得しても応じてくれない姿勢に激怒したローレンスを近くにいたバルジが制止させた。

  「何故止める!」

  「いいんだ、ローレンス。これも全て俺がやったことが原因だ」

  「だがな。お前も充分反省しただろ!それでも追い打ちを掛けるとはいくら何でもあんまりだろ!」

  「お前の気持ちは分かる。だが、もういいんだ。それだけ…有紀隊長を怒らせてしまったのだからな」

  「バルジ……」

  既に諦めているような笑みを見て、激怒していたローレンスから力が抜けた。

  話が終わったことを確認した渉は再びバルジに声を掛けた。

  「……話は済んだな。では…行くぞ」

  「………はい」

  二人は何とも言えない雰囲気のまま待機所を出ようとすると、ローレンスはそっとバルジの肩を叩いた。

  「………ん?なんだ」

  「……その…気安めかもしれんが……頑張れよ」

  「………激励感謝する。では…行ってくる」

  「………あぁ」

  変わらず元気がない様子のまま二人は待機所を後にした。

  その後ろ姿を確認したローレンスはやはり納得がいかなかった。

  (一体、有紀隊長はバルジに何をさせるつもりだ?……内容によっては内部告発も必要かもしれん。……仕方がない。あまりらしくないが、後をつけてみるか)

  ローレンスは尾行することを決心して二人の後を追尾した。

  何も告げないまま二人が淡々と管理局の廊下を歩いていた。

  (……どうやら訓練室ではないようだな。では隊長の自室にでも連れ込むつもりか?ま、まさか…新人相手にいかがわしい事をするのではないだろうな?!)

  依然として疑いの目を向けながら尾行を続けたが、隊員寮もスルーしてしまった。

  (な、なんだ…寮でもないのか。では……一体何処に…)

  ますます理解できない行動に考えていると、二人は管理局エントランスまで来ていた。

  (エントランス……外に出るのか。おいおい……まさか町のホテルでやらかすつもりではないだろうな?!)

  徐々に最悪のケースが過り嫌な汗が流れる中、二人はそのまま管理局外に出てしまった。

  不安を胸に尾行を続けていると、意外なところで二人は足を止めた。

  「ここだ。では…入るぞ」

  「………はい」

  (あれは……いつも利用している駅前の喫茶店ではないか。でも…一体何故)

  二人が入店してから、ローレンスも入店し、少し離れた席から二人を見守った。

  対面で腰掛けた二人だが、未だに注文をする気配がない。

  (なんだ……注文をしないのか?喫茶店に来たら普通は注文するものだが…)

  物陰から監視していると気が付けば若く可愛らしい店員が声を掛けてきた。

  「あの……ご注文はいかがされますか?」

  「………え?あぁ…じゃあ……ブラックのHotで」

  「畏まりました」

  満面の笑みで注文を受注すると、若い女性店員はニコニコしながら立ち去った。

  (あんなコギャルみたいな店員はいたか?い、いかん!二人の様子は…)

  再び壁から覗き込むと、先程の状況から変化はなかった。

  長い沈黙が続く中、何度か例の店員が声を掛けるが、その都度バルジが何かを言って追い返していた。

  追い返すたびに渉は徐々に怒りの瞳をバルジに向けていた。

  (何をあんなに怒っているのだ……何か頼みたいのなら自分で注文すればいいだろうに…)

  不思議そうに見つめていると、先程の店員が珈琲を持って戻ってきた。

  「お待たせ致しました。ホットコーヒーです」

  「……あ?あぁ…どうも。あの……ちょっとお聞きしてもいいですか?」

  「なんでしょうか?」

  「あそこに座っているのは私の知り合いなのですが、一体何をしているのですか?」

  「さぁ~。先程から何度かご注文をお伺いしているのですが、未だにご注文をいただけなくて」

  「そ、そうですか…相当何かに悩んでいるのですかね?」

  「でも、なんだか注文は決まっているように見えましたけどね」

  「……は?何故そう思うのですか?」

  「だって、あの帽子を被っている人がボソボソと『早く注文しろ』って催促していたんですもん」

  「……なんですと」

  意外な返答に益々状況が読み込めないローレンスは最後の手段に出た。

  (ダメだ……全く分からん。仕方がない。本当はこんな事はしたくはないが…)

  ローレンスが取り出したのは、盗聴用のイヤホン。

  片耳に装着してスイッチを押下した。

  (念の為、バルジの隊服に盗聴器を忍ばせて正解だったな。さて……一体何を話しているのやら)

  珈琲を啜りながらイヤホンに意識を集中させると、徐々に二人の会話が聞こえる。

  『………おい。一体いつまで待たせるつもりだ?』

  『………で、ですから…食べたいのならご自身で注文すればいいではありませんか!』

  『馬鹿言え。それではお前への処罰にならんではないか。いい加減腹を括ってやれ』

  『うっ……(この人でなし)』

  『……なんか言ったか?』

  『い、いいえ……何も』

  二人が何とも醜い言い争いをしていると、先程の店員が再び声を掛けた。

  『あの……そろそろ、ご注文を頂いても宜しいでしょうか?』

  『あ、待たせてすみません。ほら、バルジ』

  『……へ?』

  『へ、じゃないだろ。早く言え』

  『あ……あの……』

  イヤホンで聞きながら席を見ると、耳まで真っ赤にして躊躇しているバルジがいた。

  (あ、あいつ…なんて顔をしているのだ。たかが注文で一体何をそんなに渋っているのだ?!)

  唖然としながら傍観していると、遂に覚悟を決めたバルジが固く閉ざされた口を開き、顔を真っ赤にして注文を始めた。

  『あ………あの……き、期間限定の……ギャラクシー…バレンタイン…ラブリー…ドリームチョコパフェを…お願いします』

  (…………は?)

  予想外の注文にローレンスは思わず珈琲を飲むことを忘れ絶句した。

  (な、な、なんだ?!その女子が頼みそうな物は?!まさか…これが有紀隊長からの処罰なのか???)

  注文を受けた女性店員は満面の笑みで注文を復唱した。

  『はい、ギャラクシー・バレンタイン・ラブリー・ドリームチョコパフェをおひとつですね。畏まりました!』

  未だに恥ずかしそうにしているバルジに少しクスリ笑いをすると渉は女性店員に声を掛けた。

  『あ~それとトマトジュースをひとつ頼むよ』

  『追加でトマトジュースですね。畏まりました!』

  再び困惑の瞳で監視していると、店員が立ち去った後、二人はようやく会話を再開させた。

  『はぁぁぁぁぁ……疲れた』

  『あはは、中々しっかりと注文できたではないか』

  『人を馬鹿にして楽しいですか』

  『まさか。だが、これに懲りて今回のような無謀は控えるようにな』

  『……はい。ところで、どうしてこの処罰にされたのですか?』

  『なに、単純に俺が食べたいと思っていただけだ』

  『………それだけですか』

  『あぁ。流石にこの年でアレを一人で注文するのは恥ずかしいからな』

  『だったら……指を差して頼めばいいではありませんか』

  『あのな。一人でパフェを食べていたらそれこそ恥ずかしいだろ』

  『……そうですかね』

  依然としてぶっきらぼうに返すバルジに対して、渉は不敵な笑みを溢した。

  『まぁ…それはそうとだ。お前…まだ気づいておらんのか?』

  『………ん?何の事でしょうか?』

  バルジが不思議そうに尋ねると、渉は机の下からそっとバルジの隊服に手を伸ばした。

  『っ?!ちょ、ちょっと…有紀隊長?!』

  『おい…あまり騒ぐな。何もしないから大人しくしていろ』

  『へ?!』

  依然として困惑しているバルジを放置して、渉は隊服の裾部分からある物を取った。

  手のひらの上に乗った小さなボタンを見て、バルジは首を傾げた。

  『……それはなんですか?』

  『くくく、これは盗聴器だ』

  『なっ?!と、盗聴器???』

  『あぁ。どうやら我々はある人物に尾行されていたようだ』

  『そ、そんな…一体誰が』

  『そうだな……まぁすぐに分かると思うぞ』

  話を一部始終聞いていたローレンスは一気に全身で嫌な汗をかいた。

  (ば、バレていたのか?!これはまずい。正体がバレる前にここから立ち去らないといかん!)

  危機感を持ったローレンスは諫早にその場から立ち去ろうとすると、突然耳のイヤホンから大声が聞こえる。

  『おい!隠れておらんでいい加減で出てこい!!!』

  「がぁっ?!」

  予想以上の音量に耐えられなくなったローレンスはその場に立ち上がり悲痛な声を上げた。

  立ち上がったことで、周囲を見渡していた渉とバルジに目が合った。

  「ろ、ローレンス?!何故お前がここにいる???」

  「ふっ。やはり盗聴していたのはお前だったか。随分と陰湿な事をしたな」

  「あ………これはその…」

  監視をしていたことが見破られたことに動揺している姿を見て、渉は少し意地の悪い顔で問い質した。

  「やれやれ……大方、バルジの処罰が心配になって我々の後をつけたのだろ?」

  「そうなのか……ローレンス」

  「なっ?!ま…まぁ…一応…同期ですし…アレだけ気落ちしてくる姿を見たら、いてもたってもいられなくなりまして…」

  「ローレンス……」

  目を逸らしながら少し照れくさそうにしていると、真意を知ったバルジはそっと微笑んだ。

  「そうか。心配掛けてすまなかったな。ありがとう」

  「べ、別に礼を言われることでもない!」

  「あはは、相変わらず素直じゃないな」

  「喧しい!大きなお世話だ」

  二人が盛り上がっている中、ニコニコしながら眺めていた渉が声を掛けた。

  「まぁまぁ。そのくらいにしておけ。そうだ!せっかくならお前も同席しないか?」

  「え?わ、私もですか?」

  「あぁ。たまには共にティータイムを過ごすもの悪くないだろ」

  「いや……それは……」

  要らぬ巻き添えを受けそうになり、若干身を引くとバルジが制止させた。

  「そうだな。盗聴までしていたのだ。ここまで来たらとことん付き合え」

  「お、お前!俺まで巻き添えにするつもりか!」

  「巻き添えとは人聞きの悪い。これも上官と部下の親睦を深める一環だろ?」

  「お前……良いように解釈しすぎだ!」

  盛大に言い争っていると、先程のコギャル店員がニコニコして戻ってきた。

  「お待たせ致しました!ギャラクシー・バレンタイン・ラブリー・ドリームチョコパフェでございます!」

  「なっ?!」「はっ?!」

  若手二人は声を聞いて振り返ると思わず絶句した。

  店員が持ってきたのはとても巨大なチョコパフェ。

  よく一人で運べたなと思う程の大きなパフェを机のど真ん中に置いた。

  「え~と、スプーンはお二つで宜しかったでしょうか?」

  「あぁ。それでいい」

  ニコニコしながら告げた渉の一言にバルジは咄嗟に声を上げた。

  「は?!ま、まさか…自分も食べるのでありますか???」

  「お前…この大きさを見てわからんか。これを私一人で食べられるわけがないだろ。お前も食え」

  「なっ…ご、ご冗談ですよね」

  「悪いがそんなつまらん冗談は言わん。まぁ、頑張ったご褒美だ。遠慮なく食べろ」

  「え………」

  未だに絶句しているバルジにローレンスは少し同情していた。

  (これは…また、恐ろしいな。これはこれで問題があるように思えるが……まぁ…あまり触れないようにしよう)

  ローレンスが関わりをしないように心に決めていると、それを察知したバルジは思わず声を掛けた。

  「そ、そうだ!ローレンス。お前も甘いものが好きだっただろ。一緒に食わんか?」

  「………悪いが…遠慮しておく」

  「なっ!?何故だ!」

  「俺はビター派だ。別のものを注文する」

  「この……裏切り者!」

  「なっ?!誰が裏切り者だ!」

  「あはは、酷い言われようだな」

  結局、3人でそのまま異様なティータイムを過ごすことになった。

  クッキーを摘まみながら昔の思い出にふけていると、コーリーが珈琲を持ってきていた。

  「ローレンス隊長、お待たせ致しました」

  「……ん?あぁ…ありがとう」

  珈琲をそっと受け取ると、手渡したコーリーは何処か不思議そうな顔をしていた。

  「あの……ローレンス隊長。何か良いことでもありましたか?」

  「……ん?何故そう思う?」

  「いえ、なんだか少し微笑んでいるように感じましたので」

  「……ふっ。相変わらず良い洞察力をしているな」

  「では、何か良いことあったんですか?」

  「……なに、少し昔の事を思い出していただけだ」

  「ローレンス隊長が思い出にふけるなんて珍しいですね」

  「そうだな。恐らくお前がくれたこのクッキーのおかげだろうな」

  「それは嬉しいかぎりです」

  「ふっ…そうか」

  二人の間にほっこりした空気が流れると、あっという間に勤務終了時間を迎えた。

  仕事を終えたローレンスは、自然とある場所に向かっていた。

  ゆっくり歩んだ先にあったのは、昔出向いた駅前の喫茶店。

  「……ダメ元で来たが、まさかまだ残っていたとはな。さて…せっかくだから飯でも食っていくか」

  少しほっとしたローレンスはそのまま喫茶店へ入店した。

  店内に入ると、まるで時が止まったかのようにかつての内装が殆ど維持されていた。

  そして当時尾行して眺めていた席には見慣れた人物が既に腰掛けていた。

  「……ん?あれは……バルジ?」

  ローレンスが見たのは、席に腰掛けてメニューを眺めているバルジの姿だった。

  予想外のことに思わず席まで向かい声を掛けた。

  「バルジ。お前…こんなところにどうした?」

  「……ん?ローレンスか。どうって、夕食を食べに来ただけだ」

  「ほぅ……毎日食堂生活をしている奴にしては珍しいな」

  「なんだか唐突に思い出してな。何となくで来ただけだ」

  「ふっ……まさか思い出したのがあのパフェ処罰事件ではないだろうな?」

  意地の悪い顔で追及すると、肘をついていたバルジがそっと微笑んだ。

  「ふっ…やはりバレたか」

  「ここでの思い出といったらそれくらいだからな」

  「確かにな。どうだ、思い出ついでに共に飯を食うか?」

  未だにメニューを眺めているバルジからの提案にローレンスはふと微笑んだ。

  「ふん……いいだろ。但し、別勘定だぞ」

  「あはは、別に奢ってもらおうなど思ってはおらん。早く座れ」

  「あぁ」

  ローレンスは向かい側のソファーに腰掛けると、それぞれが食事を注文した。

  食事を済ませると、満腹になったバルジが唐突に話を始めた。

  「……なぁローレンス」

  「なんだ?」

  「あの時……有紀隊長は何故あんな処罰にしたと思う?」

  「さぁ…あのお方の考える事は俺には理解できん。お前はどう思う?」

  「そうだな……恐らくだが、隊長としての愛情だろうな」

  「愛情?」

  「あぁ。当時の俺は自分のことしか考えていなかった。目の前の命を救うことに必死で周囲が見えなくなってしまっていた」

  「だが、それは新人ではよくあることではないか?」

  「確かにな。だが…隊長になって学を見ていると、その危うさが身に染みて分かるよ。行き過ぎる行動は何も救えない。最悪の場合、自身や仲間の命を落とすこともな」

  「……そうかもしれんな」

  「あぁ。だから目を覚まさせるために、あんな奇策な処罰にしたのだろうな」

  「ふっ…確かにインパクトは絶大だったな」

  「あぁ。おかげで自身を見直す良い機会になったのも事実だ。ある意味では感謝せねばならんな」

  「そうだな。だが…まさかよりによってバレンタインデーを利用するとはな」

  「ほろ苦いくらいが丁度良かったと言うことだろ」

  「全く……とんだバレンタインデーだな」

  「全くだ。そうだ!バレンタインデーで思い出したが、あの時にお前が食後のデザートで頼んでいたものを注文してくれんか?」

  唐突に放たれた要求に思わず首を傾げた。

  「俺が…注文していたもの?」

  「ほら、有紀隊長のパフェをキッパリ断った代わりに注文したやつだ」

  「……ん?あ~~~あれか。なんだ、気になっていたのか?」

  「ま、まぁな。あの時は処罰の一環だったからな。その…頼むに頼めなかった」

  「やれやれ……仕方がないな」

  若干呆れながらも、少し頬を赤くして告げている姿をみてローレンスは要望通り追加注文をした。

  しばらくすると、少し老けた女性店員が追加注文をしたものを運んできた。

  「お待たせ致しました。フォンダンショコラおふたつです」

  出されたフォンダンショコラを受け取ると、物珍しそうに眺めていた。

  「そうそうこれだ。あの時は有紀隊長の前だったから聞けなかったが、中々面白いケーキだよな」

  「フォンダンショコラだ。フランスケーキの1種類で、フォンダンとはフランス語でとろけるようなという意味があるそうだぞ」

  「ほぅ……そうか」

  未だに物珍しそうに眺めている姿を見て、少し意地の悪い顔で尋ねた。

  「お前……まさか当時もこっちに興味を引いていたのか?」

  「え?そ、それはそうだろ。こんな中からチョコが流れ出るケーキなど見たことがなかったからな」

  「おい……お前は女子か」

  「なっ!?何もそこまで言わんでもいいだろうが!」

  少し顔を赤くして反論してくる姿に、ローレンスは思わず笑みが溢れた。

  (くくく、この慌てよう…とてもあのシリウス小隊長とは思えんな。まぁ…こういうのもたまには悪くないか)

  「やれやれ……ならば、これは俺からの奢りにしてやろう」

  「は?!ついさっき別勘定を宣言したくせに、どういう風の吹き回しだ?」

  「なに、今日はバレンタインデーだからな。俺からの贈り物だ」

  「バレンタインデー……もしかして世話チョコか?」

  「さぁ……何チョコになるだろうな」

  (やれやれ…相変わらず鈍い奴だ。恐らく本命とは絶対に気付かんだろうな。まぁ…どうであれ、こうして甘く苦いものを送るのも悪くはないな…)

  バレンタイン……それは青の地球の3世紀頃のローマに実在したキリスト教の聖職者。当時のローマ皇帝クラウディウス2世は、「兵士たちに家族ができると士気が下がる」と考え結婚を禁止にした。悲しむ兵士たちを憐れんだバレンタインはこれに反発し、密かに結婚式を決行した。それを知った皇帝はバレンタインを投獄し、2月14に処刑したと言われる。

  その後バレンタインは「恋人達の愛の守護神」として崇められ、2月14日は愛の記念日「聖バレンタインの日」となった。そして恋人たちが愛を確かめ合う日として世界に広がったのが由来だ。

  愛する人と旨いものを食べながら過ごすのも……人ならではの愛情表現なのだろうな。

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