【触手注意】 ツルバニ 【後編】

  「はぁ、ようやく大人しくなりましたか」

  

  全くもって理解出来ない。

  何故こんなにも必死で抵抗するのだろうか。

  

  シーツの上でぐったりと身体を横たえるのは、非常に困難な品質改良を重ねて造られた僕に、しつこいぐらいの注意事項をうっかり破り、体液を与えてしまった注意力散慢なおじさん………僕が模した人物は最近では虎徹さんと呼んでいるらしいが…。

  まあ、僕は敢えてこの人をおじさんと呼ぶのだが、今、僕はこの抜けたおじさんが好意を寄せている人物と全く同じ姿形をしており、話し方や佇まい細かい仕草などを見ても、なんの不自然なところもない。

  もちろん、元は植物なので、からだのいたるところから蔦が伸び小さな葉が茂ってはいる。

  だが、それ以外は体液から読み取った情報通り完璧だ。

  なにせ、種子を残す為の性交に関係しているのだから完璧でなければならない。

  どこから見ても、僕の姿はバーナビー・ブルックスJrそのものだった。

  しかしこのおじさんは、この僕の姿では絶対に嫌だという。

  百歩譲ってどうしても性交をしなければならないのなら、お願いだから別の姿になってくれ、とまで言われた。

  

  

  再び、思う。

  

  全くもって理解出来ない。

  

  

  「偽者とはいえ、何故、好意を寄せている人物との性交をそんなに嫌がるんですか?どこか似ていないところでもありますか?」

  「……ン…ぁ………はぁっ………に、てっから……や、なんだっ………あっ!」

  

  釦の飛んだ乱れた服装の下では僕のからだの一部である蔓が全身を隈無く這いおじさんの自由を奪っている。

  ただし、ただ身体の自由を奪っているのではなく、巻き付いた蔓から滲み出ているドロドロした特殊な分泌液のせいで、

  少々、感覚がおかしくはなってはいるけれど。

  

  「申し訳ないですけど、一度しか変化出来ないようです。僕もこんなイレギュラー経験したことなかったので」

  「…うっ…あ、あぁ………た、のむ…から……や、めっ…!」

  「ですからそれも無理だと何度も言ったじゃないですか。僕が次のステップの種子に進むには性交しかないと……それに、こんな身体のままでは辛いでしょう?」

  「あぁっっ?!!」

  

  蔓で少し強めに巻きつけばおじさんの身体は大きく跳ね上がり掠れた声を上げる。

  褐色の肌に擦り付けられた分泌液が良く効いているのだ。

  まだ肌の表面にしか与えていないが、これが体内へ吸収されれば更に良く効いてくれるだろう。

  人間の快感を刺激する成分がこれには大量に含まれているのだ。

  少しでも円滑にことが進めばと思ってこの姿をとったのだが、快楽に飲み込んでしまえば、どうでも良かったのかもしれない。

  

  「ね?おじさん気持ちイイでしょう?僕の蔓から出るこの液体、体内に入れるともっと気持ち良くなるんですよ」

  「やっ…やだっ!」

  「どうしてもですか?けど僕と性交してしまえばどうしたって体の中に入ってしまいますけど?」

  「うぅっ」

  

  熱っぽく身体を火照らせているのに、顔を青褪めさせ涙目で首をイヤイヤと振る仕草が僕の中にない何かをざわつかせた。

  自然と口端が上がっているのは、模した人間の癖なのか、それとも僕の―――。

  

  「おじさん、気持ち良くして差し上げますよ。なんにも分からなくなるくらいに……」

  「な、に……ンンンッッ?!!」

  

  蔓をおじさんの口の中に強引に侵入させ、舌に巻き付き引き出す。

  ゲホゲホと苦しそうに嘔吐くが、それもほんの僅かな間なので我慢してもらう。

  細い蔓を何本か開いたままのおじさんの口に誘導させドロドロした分泌液を舌の上へ垂らし無理矢理喉へと流し込ませた。

  琥珀色の眼を大きく開き、ボロボロと涙を零す様子にからだが高揚していくのを感じる。

  植物である自分がこんな風に感じることが出来るとは思いもしなかった。

  

  「…うぅっ……うっ…ふ、ぐぅッ…!…っ!」

  「そんなに嫌がらなくても体に害があるものではないので安心して下さい」

  「うぅ、んんっ!うっ!」

  「大丈夫です……怖いことなんて何にもないですから、ね?」

  

  おじさんの髪を撫でながら、身体に纏わりついていた余計な衣服をゆっくりと剥ぎ取ってゆく。

  無防備に肌が露になってゆくというのに、おじさんは先程の抵抗が嘘のように大人しく僕のされるがままになっていた。

  褐色の肌は所々傷だらけで、大小様々な痕を残していた。

  左胸から大きく下腹部へにかけ肌の質が全く違う。デコボコした歪な傷跡も幾つもあり怪我の大きさを物語っていた。

  だが、どれもこれも、不思議と醜くは見えない。

  僕のように品質改良を重ねた植物は見かけの美しさも重要だ。

  もし、おじさんのようにこんな傷だらけの身体だったとしたら決して誰にも見向きもされないだろう。

  けれど、僕はおじさんのからだを美しいと思ってしまった。

  傷のひとつ、ひとつがとても輝いて綺麗なものに見えたのだ。

  何故そう思ってしまうのだろうか。

  

  瞳をぼうっと鈍らせているおじさんにそっと微笑みながら口から蔓を引き抜く。

  飲み込みきれなかった液体が口端から滴り溢れていた。

  

  「駄目じゃないですか。こんなに零して……ね、勿体ないでしょ?」

  「ぅ、あ……あっ、あちぃ……ば、にぃっ………バニーっ熱ぃよっ」

  「僕はバニーじゃないです……ツルバニです。おじさんが名前をつけてくれたんじゃないですか」

  

  滴り溢れた分泌液を指に絡め、おじさんの口元へと運ぶ。

  そして、熱に侵された眼差しで僕の名前……いや、僕が模したバーナビーの名を呼ぶおじさんの口の中へ押し込んだ。

  おじさんがバーナビーの名を呼ぶ声を聞きたくなかった。

  

  「んく……んっふぁ…ンんっ」

  

  丁寧に僕の指を舐めるおじさんの頬を撫でてあげると目尻が下がり嬉しそうに微笑んでくれた。

  

  

  ―――――おじさんが僕に笑った。

  

  

  ドクンドクンっ…………。

  

  仮初のからだの心拍数が急激に上がってゆく。

  頬に熱がどんどんと集まった。

  温かなものがからだに広がり、とても満ち溢れた気分だ。

  けれど、それもほんの僅かな間だけだった。

  

  「……ぷはぁっ、はぁ……ば、にぃ…ちゃんっ………す、きだ」

  

  ざぁっ…。まるでからだ中の血液が全て引き抜かれたような感覚だ。

  いや、もとは植物なのだから血液を持つ状態というのも理解は出来ないのだが、

  それでも、今の状況は血の気が失せた。まさにその言葉通りだった。

  

  そんな僕とは正反対におじさんはとても幸せそうな笑みを僕へと向ける。

  僕がバーナビー本人に見えるのだろう。全部僕の与えた分泌液のせいだ。

  おじさんを気持ち良くさせる為に与えた、それだけのために与えたものが、僕をバーナビーだと思い込ませるように働いたのだ。

  嬉しそうに笑うおじさんに掛ける言葉は決まっていた。

  

  

  「ぼ、くは……バニーじゃない………バーナビーですっ」

  「あっ!あっ!んぁあ!バニーちゃ、ん……バニーちゃんっ!!」

  

  蔓を引き寄せ、おじさんごと身体を抱きしめる。

  おじさんの身体からはすっかり衣類がなくなり、何も身に纏っていない状態だ。

  その素肌に僕の蔓や葉が直接擦れ、可愛らしい声が零れるが、呼ぶ名が違う。

  僕の名前はツルバニだ。バニーではない。バーナビーではないんですよ。おじさん。

  けれど、おじさんはぼんやりとした眼で僕をバニーと呼び続ける。

  その表情はとても幸せそうで、僕の分泌液が上手く溶け込んでいることを表していた。

  おじさんが気持ちよくなる為には、やはり、バーナビーの力が必要だったのだ。

  

  「いいんです。僕はそのためにこの姿になったんですから……ね、おじさん」

  「バニーっ……バニー…す、き………好きなんだっ」

  「僕も……僕も、貴方が好きです。虎徹さん」

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  「あ、ああ!んっふ!……ば、にぃっ」

  「虎徹さん……気持ちイイですか?」

  「い、イイっ、す、ごっ……きもちぃ……アアっ!」

  

  おじさんの全身を這う蔓が丁寧に全身を愛撫するようにゆっくりと動き回る。

  指先から足のつま先まで蔓に巻き付かれ、サワサワと揺れる葉と蔓先によって刺激が送られている。

  尖った乳首には細い蔓が巻き付き、きゅきゅっと継続的に強弱に締めあげているし、しっかり反応を返してくれていたペニスには根元と先端に軽く縛るようにして蔓を巻きつけ、簡単には達することが出来ないようにしている。

  少しでも長くおじさんと繋がっていたいからだ。

  ただ一度だけの行為。

  これが終われば僕は種子となって再び何の感情もないただの植物として育ってゆくのだろう。

  今だけはおじさんと……虎徹さんと長く過ごしたい。

  

  「んああっ!ば、ばにぃっ!そ…こ、はな、してくれっ」

  「駄目ですよ、虎徹さん…大人しくして下さい」

  

  おじさんの手がペニスに巻きついていた蔓を外そうと藻掻くが、素早く別の蔓を伸ばしそれを止める。

  どうせなら僕と一緒に気持ちよくなって欲しい。

  それに多分、僕から吐き出されるモノとおじさんの精子が交ざることによって、この現象は終わる。

  そんな気がするんだ。

  

  ペニスの先端の穴から滴りそうになる精液を細い蔓を侵入させ塞ぐ。

  ビクビクと身体が奮えているが、痛みは感じていないだろう。あるのは強すぎる快感だけだ。

  巻き付かれた乳首にそっと触れると、過剰なまでに反応を返すおじさんが可愛くて仕方ない。

  濡れる口唇からバニーと呼ぶ残酷な声も、触れると悦びを表す身体も、虚ろな琥珀色の瞳も全て可愛くて堪らなかった。

  

  「ば、バニーっ!も、うっ……たの、むからっ……触っ、て…くれ、よぉ」

  「虎徹さんが触れて欲しいのはココですか?」

  「んあっ!あっ!そ、そこぉっ!!バニィ!」

  「……僕も…本当なら虎徹さんのナカに入りたいです」

  

  ゆっくりとおじさんの小ぶりな尻を這いアナル周辺まで伸びていた蔓は、それでもそこだけには触れずにいた。

  ヒクヒク収縮を繰り返す小さなアナルはまるで僕の蔓を誘い込むかのような動きをし、膝を着いて高く腰を上げていたおじさんもまたソコが良く見えるように脚を大きく開いていた。

  何本もの蔓がアナルに触れそうになる度に別の蔓が押し止める。

  僕が必死で止めているのだ。

  だって、おじさんは僕ではなく、バーナビーに好意を寄せている。

  僕がおじさんと繋がるのは………駄目だ。

  

  「大丈夫。バーナビーとそっくりな僕が、たった少し貴方と過ごしただけでこんなにも貴方を欲しているんです。バーナビーが貴方を何とも思ってないわけないですよ」

  「な、んて?……ば、にぃちゃ、なに、言って……あ、ああっ!!」

  

  再び、おじさんの身体を蔓で覆い刺激を与え始める。

  内腿から伸びた蔓でペニスをゆっくり扱き、蓋をした先端から溢れそうになる精液を新たな蔓を忍び込ませた。

  

  「虎徹さん、ここ、借ります」

  

  両足を蔓できつく閉じさせ背後からアナルではなく股間に僕の生殖器を押し込む。

  前後へと腰を揺らすと虎徹さんの陰嚢に僕の生殖器が擦れ刺激が交じり合った。

  

  「あ、ああっ、な、んで、やぁ……ば、にぃちゃ…ほ、しぃっ!うぅあっ、あっ!」

  「虎徹さん……本物のバーナビーなら………もうすぐ………………」

  「ひぃ、あっ?!あ、ぁ、………あああぁッッ!ば、にぃっ!」

  「こ、てつ、さ……んっ」

  「ひぃ…やあぁっ、あああぁぁああ!!」

  

  何度も何度も激しく打ち付けて、最後に激しく陰嚢を突くと、快楽に耐えられなくなったおじさんのペニスは先端の穴を塞いでいた蔓を押し上げ、そして大量の精液を吹き出した。

  僕もそれと同時に生殖器から精を吐き出しおじさんの身体や僕の蔓へと注いだ。

  ドクドクと溢れるおじさんの精液はとても濃く、僕の放ったものとよく混ざり合った。

  それが蔓から僕のからだへと徐々に吸収され、変化の兆しをみせはじめていた。

  バーナビーの姿を作り始めた時と同じように、からだが震え始める。

  

  こんなに呆気なく終わってしまうのかと思う反面、これで良かったのだと感じる自分もいた。

  おじさんは偽者ではなく、本物のバーナビーと幸せになるのだ。

  

  そうなるように、ちゃんと準備もした。

  

  「ば、にぃ……ちゃ、ん?」

  「おやすみなさい。虎徹さん……次に目が覚める頃には…………………」

  「な、に……?」

  「良い夢を」

  

  ゆっくりと瞼を閉じるおじさんに、最後にもう一度だけ触れようと手を伸ばしたが、『僕』が触れることはなかった。

  

  

  

  その直後、自分そっくりな人物と蔓に身体の自由を奪われた卑猥な姿の虎徹を、画像付きで携帯メールに送られたバーナビーが、能力を発動したまま虎徹の部屋のドアを蹴破るのだが、それを予想していたツルバニは小さなピンク色の実となっており、虎徹の掌の中で静かに眠っていた。

  

  虎徹とバーナビーがその後どうなったのか、それは小さな実だけが知ることとなる。