悪の組織の適性検査

  「はい、ですので御社の…」

  5月、大学4年生なんかは就職活動真っ最中である。

  夏前に内定を取り、残りの数か月は卒業論文と遊ぶことに集中がしたいのだろう。

  だがしかし、内定はなかなか取れないし、取れたとしても内々定とかいう、わけのわからないものである。

  ただそれでも、誰もが就職活動を頑張っていた。

  会社を調べ、志望動機をひねり出し、強みやら何やらを絞り出して、そして面接へとのぞむ。

  そうして、なんとか1次面接を突破できたとき、誰もがとりあえずほっとしていた。

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  「なにこれ? 2次試験は適性検査?」

  安藤 良子は、お知らせに目を通してぎょっとする。

  不合格だと思っていた1次面接に、なぜだか合格をしたのだ。

  正直、中小企業だったのでたいした期待もしていない、滑り止め程度にしか考えていなかったものの、合格とあれば嬉しい限りである。

  だがしかし、2次試験として適性検査を行う、とのことなので、これには困りものであった。

  おそらくは、なんか計算式だとか難読漢字の読み書きだとか、いろいろあるのだろう。

  だが彼女は、そんなことになるなんて、準備をしていなかったのである。

  だが、やるからにはやらねばならない、そう思えば謎の自信が湧き上がってくるのだ。

  そうして、安藤 良子は試験会場へと向かっていく。

  スーツを着て、作り笑顔をし、嘘でまみれながら。

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  試験会場は狭い部屋で、適性検査はパソコンにて行う、というものであった。

  椅子へと腰掛け、隣の人と会釈をし、安藤 良子はいざ試験へと臨む。

  いざとなったら、隣の人の回答でも見てやろうと意気込んでいたが、適性検査の内容は、予想とは異なるものであった。

  まず、画面がチカッと光ったかと思うと、一瞬だけだが目のようなものが表示されたのが分かった。

  そしてその瞬間、安藤 良子の意識は混濁し、朦朧としてしまうのであった。

  そんな状態で、適性検査は始まった。

  「(今までに嘘をついたことがある…?)」

  設問は、はいといいえで応える2択であり、また内容も試験というよりは、本当に検査だったのである。

  「(利益のためなら他人を傷つけてもいい…、はい…)」

  そうした設問を、何問も何問もやっていく、誰もがうつろな目で。

  「(正義の味方に対して不満はない…、いいえ…、悪こそが正義である…、はい…)」

  そうやって設問を進めていき、やがて最後の問題を終えると、一人、また一人と席を立ち、部屋から出ていくのであった。

  安藤 良子もまた、最後になってしまったが問題を終えて、にんまりする試験監督におじぎをして、部屋から出ていった。

  部屋から出て、ようやく終わったということに気が付き、ほっとするやら不思議な感覚やらで、落ち着かずに、帰路へとつくのであった。

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  今日もくたくたな安藤 良子。

  朝は卒論に追われ、昼からはまた面接であったのだ。

  明日の予定をスマホで確かめていたところ、ちょうど17時を回ったところで、メールが一つ届く。

  それは、先に受けた中小企業からであった。

  早速メールを開いて目を通し、最初の一文に思わず笑顔がこぼれてしまう。

  それは合格通知のメールであったのだ。

  思わず大喜びしてしまう、いくら中小企業とはいえ、初めての内定だから。

  メールを斜め読みしながらも、最後の最後にリンクが貼られているのを見つけ、よくよくメールをまた読み直す。

  「当社開発のアプリをお試しいただいてから、入社式にご参加ください…?」

  どうやら、アプリとやらを試してみろ、とのことであった。

  だが、入社式というのが納得できないでいる。

  まだ大企業の面接がいくつも控えているのに、もう入社式を行う、というのが。

  ここで内定を蹴って、次の企業に期待する、というのもまた、選択肢ではある。

  それくらいに、中小企業に対して偏見を抱いていたのだ。

  ただ、それでもまあ、ということで、アプリをダウンロードしてみる。

  アプリは真っ黒で、白文字でWと書かれたものであった。

  いろいろ思うところがあるものの、早速アプリをタップして始めてみることに。

  どうせ大したものじゃなくて、入社式で感想とか問題点とかを発表させられるのだろう、くらいにしか考えていなかった。

  なので、途端にスマホ自体が発光したことに、驚きを禁じ得なかった。

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  「え、なに!?」

  スマホが光り、宙へと浮かぶ。

  そして、画面のほうが安藤 良子へと迫ってきて、画面をはっきり見せられる。

  画面には、一文字ずつメッセージが表示され始め、驚きながらもそれを安藤 良子は読んでいった。

  「おめでとう、安藤 良子 君は怪人適正があることが判明した 早速怪人になりたまえ」

  そこまででメッセージは終わりだが、安藤 良子は目をうつろにしてしまっており、なぜだかにこやかに笑っている。

  そして、スマホをベルトのバックルのように腰へと近づけると、スマホ画面はチカチカ光りだしたのだった。

  そして、スマホから流れ込んでくる膨大な情報量が、安藤 良子を支配する。

  それに合わせて、わずかに持ち合わせていた悪の心が増幅され、さらにそれに合わせて体そのものも変わっていく。

  スマホを取り付けた腰を中心に、その体はめりめり音を立てながら骨格が変わりだし、変形した肉体はもっさりと毛に覆われていく。

  腰から始まった変化は足に、手に伝搬し、その体つきをケモノのようなものへと変えていく。

  そして、顔つきもわずかにマズルができて、そこから唐突に変化が始まっていく。

  耳が天頂部に移動し、お尻には尻尾が生え、手先には鋭い爪が。

  そうして、毛むくじゃらの獣のような姿になった安藤 良子の体に、するすると真っ黒なものが巻き付き、衣装を形成していく。

  そうして変わり果てた姿となった安藤 良子は、姿見に映る自身の姿に、にやりと暗い笑顔を向けるのであった。

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  中小企業W&W(悪いアンド悪い)は、ダークバッドカンパニーの子会社の一つである。

  そこの入社式に参加する、スーツ姿の男女たち。

  みな不安げな顔を一切見せず、自信に満ちた顔をしているのであった。

  そこには安藤 良子の姿もあり、にこやかなスーツ姿はまさしく新社会人そのものであった。

  そして、こじんまりした部屋にて、入社式が粛々と行われる。

  そこでは社長からのあいさつがあり、それを終えると誰もがスマホを手にし、腰へと装着するのであった。

  すると、その姿は多種多様に変わっていく。

  人間の体をそのままに、真っ黒な衣装で覆いつくされていき、戦闘員へと変わり果てるもの。

  身なりの怪しさが語るとおりに、その身体能力は強化され、一般人には手に負えないくらいになるのだ。

  そして、3人だけが違う変化を行っていく。

  その体つきは人間ベースながら、ケモノのような意匠を持ち合わせた、怪人のものになっていった。

  そう、獣人の体に悪の心が備わり、衣装も変われば、それは立派な怪人である。

  安藤 良子も悪の心が増幅され、その姿は怪人のものに変化していく。

  しなやかでほっそりしながらも、力強いフォルムなのが、まさしく怪人だろう。

  それでいて女体美を秘めており、美しさも際立っていた。

  「にゃ~はっは! 安藤 良子改め、キャット・ワルイネェ! これからは組織に忠誠を誓いますにゃ~!!」

  その名はキャット・ワルイネェ、悪のネコ型怪人である。

  「わ~んわん! 桜田 暁美改め、ドッグ・ワルイネェ! これからは組織に忠誠を誓いますわん!」

  「ぴょ~んぴょっぴょ! 佐藤 幸改め、バニー・ワルイネェ! これからは組織に忠誠を誓いますぴょん!」

  3人が怪人となり、12人が戦闘員となる、人数はなかなかに多い。

  「今年はまあまあね、いきなり怪人になるのが3人なんて」

  先輩社員たちはくすくす笑いながらも、その雄姿を賛美する、怪人の姿になって。

  安藤 良子改めキャット・ワルイネェを中心とした、新体制は、正義の味方との戦いも含めて、なかなかに続いたという。

  そして戦闘員も出世して怪人となり、キャット・ワルイネェもまた出世して、別の怪人へと変わり、後輩の育成に専念したそうな。

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  どうでもいい設定

  ・株式会社W&W(悪いアンド悪い)

  怪人を輩出する悪の組織、ダークバッドカンパニーの子会社。

  開発したアプリを使い、インストールしたスマホを改造し、使用した人間を怪人に変身させる。

  悪の組織らしく正義の味方と戦ったりなどするが、表向きは普通の中小企業なため、安藤 良子も内勤やら外回りなどを普段は行い、作戦の際には怪人に変身する。

  ・ワルイネェ

  W&Wが排出する怪人たち。

  獣人化した肉体に増幅された悪の心を持ち、その衣装は煽情的にアピールが激しい。

  ネコや犬などといったものから、ゾウや馬などの大型の動物の怪人も確認されている。

  別に女性だけが怪人になるわけではないが、社長の夜のお世話をするのに女性のが適任なため、女性の怪人のほうが多い。

  なお、先天的に怪人となるパターンのほかに、戦闘員から実績を積んで、怪人へと出世改造するパターンも多い。