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狸神ヒーロー・シガラキング 第二話

  [chapter:一夜明けて]

  俺の名前は里崎信太郎。

  俺はごく普通の社会人だった。夢を見る事を諦めた、抜け殻のような人生を送る広い世界の中のいち登場人物……

  そう思っていた。

  『おはようさん、信太郎』

  俺の人生は、このスマホから聞こえる信楽焼風の狸の神サマによって、一変させられた。

  『儂はヒーロー、シガラキング! 日の本から悪鬼を退散せすべく、此の地へ新たに参上せし!』

  『愛すべき人間達よ、この儂が来たからにはもう安心だぞ! ぐわっはっはっは!』

  

  ある日、俺は世界を守る神に選ばれたらしく、その神サマと融合してシガラキングという名の狸親父になってしまったのだ。いや、ヒーロー……だったか。

  まさか俺がこの歳でヒーローなんて空想じみた存在になるなんて思いもしなかった。いや、神サマ自体が空想の塊みたいなモノなのだが。

  『早くも儂らの話題で持ちきりになっとるぞ。儂ら、すっかり有名人じゃな!』

  神サマ……枝我楽器のやつはすっかり気を良くして笑っている。そもそも、お前の手助けをしてるのは俺だって事を忘れるなよ。

  『充分感謝しておるよ。儂をこのような快適な場所に住まわせてくれた事もな』

  「お前が勝手に入ったんだろ……」

  まあ、今のところ賑やかなおしゃべりアプリ程度の影響しかないので、“快く”住まわせてやってはいるが。こいつがいないと、悪鬼が出現した時に対応できないからな。

  この神サマは昔は守り神として活躍していたそうだが、科学技術が発達し信仰心が薄れた今はその力を残りカス程度にしか使えないそうだ。

  今使える『神力』は、誰かの夢の中に入る、邪気を感知する、短い範囲内での瞬間移動、そして同一の魂を持つらしい俺との融合……そのくらいらしい。

  昨日も寝ている時に俺の夢枕にまで来て暇潰しに来やがった。お陰で寝たはずなのに全然寝れていない気分だ。

  『む、着信が来とるぞ信太郎』

  スマホの中の神サマはスマホらしく着信を知らせてくれる。もうすっかりデバイス気分である。俺は着信の相手が同僚の橘なのを確認し電話に出る。

  「橘か、何だ?」

  『里崎、なんか俺のPC資料データが欠落しててさー。お前のPCにデータ入ってたりとかしない?』

  「あー、わかった。会社に行った時ちょっくら調べてみるわ」

  『おうありがとな! じゃ、また会社で!』

  こいつは俺の会社の同僚で[[rb:橘 > たちばな]][[rb:雅 > まさ]][[rb:根 > ね]]といった。常に楽しそうに笑顔を振り撒く明るい野郎だ。なんか入社当時から俺によく突っかかってくる。しかも『お前は寂しそうな目をしてるな』とか俺の心を勝手に代弁してくるお節介なやつなのだ。

  俺はあいつのバカさに呆れながらも付き合ってる。こんな俺を気にかけてくれるんだから、悪いやつじゃあないんだろうけどな。それに、あいつと一緒にいるの、悪くはないし。

  『なんじゃ、貴様にもいるのではないか。そうやって笑い合える友が』

  「いや、笑い合ってもないし友でもないけど」

  そういや、こいつには人の心を読む力もあったんだっけ。本当に厄介な狸様だことだ。

  『今日は休みじゃったよな。これから何をするこだ?』

  「別に……いつものように家でダラダラするか、外をブラブラするか、だな」

  『なんじゃまだ若いのにだらしのない。シガラキングとなった以上、戦いのための修行でもせぬか!』

  いや、どうしてそんな少年漫画みたいな事しなくちゃなんないんだ。ここは現実だ、漫画の世界じゃない。それに、“あの”戦い方をどうやって鍛えさせればいいんだよ。

  刀の腕なら剣道でも習えばいいかもしれんが、『言霊』とかそういう特殊な能力みたいなのはどうやって鍛えるんだ。書道教室にでも通えばいいのか? それに……

  セックスの修行って、どうやればいいんだよ?

  この歳になって未だ童貞の……俺に。

  『いや、貴様は既に童貞を捨てておるではないか』

  「あれはノーカウントだろ! そもそもあいつは俺であって俺じゃねえし!」

  記憶にはないが、いかがわしい動画などを違法にアップしているサイトにその行為の様子が投稿されていた。恐る恐る見てみれば……そこには変身した俺が天狗の男を犯している様子がばっちりと撮影されていた。

  あんなんいつ撮ったんだよ……犯人見つけたら訴えてやろうかな。

  「にしてもありゃなんだ? ヒーローってのは清く正しくなきゃダメなんだぞ。それがどうしてあんな倫理観もクソもない行為をしてるんだ。その時点でヒーローなんて名乗れないだろ」

  悪鬼のやった所業はとんでもなかったが、あれでは質の悪い性犯罪者にしか見えない。実際、あの行為に対してかなりの批判意見(だいぶオブラートに包んだ表現)が出ているらしいし。

  『だがあれは悪鬼を浄化するために必要な過程なのじゃ。貴様も早く慣れなければならんぞ』

  「慣れてたまるか!」

  ……やれやれ、どこまでもお気楽な神サマだ。

  [newpage]

  [chapter:少年の願い]

  「ごめんね、ごめんね、ミルク」

  街の電柱の隅で、一人の少年がひたすらに謝っている。ミルクという名を呼びながらとめどなく涙を流すその少年の名は[[rb:加 > か]][[rb:茂 > も]][[rb:円 > えん]][[rb:太 > た]]。絹田市の学校に通う動物好きの小学生である。

  「僕が目を離してなければ、ミルクは死なずに済んだかもしれないのに」

  円太はあの時からずっと後悔を続けていた。ミルクとは、三年前に円太が捨てられていたのを拾った子猫の名前だった。真っ白なふわふわの毛並みをしていたため円太はその猫をミルクと名付けた。

  その三年間は、ミルクとの楽しい時間が続いていた。しかし、とある出来事によって円太とミルクは今生の別れを迎える事となる。

  『待って! ダメ!』

  道路へ走っていったミルクは、走っていた車に……円太はミルクを助けるために必死な頑張ったが、その願いは届かなかった。

  それから円太は毎日のように事故現場であるここでミルクに謝罪の言葉を投げかけているのだった。

  (神様……いるのなら、僕の代わりにミルクを生き返らせてください……)

  彼の後悔、弱った心、そして人間に殺されたミルクの未練――ここにはそういったものが渦巻いていた。そしてそれらが、悪鬼を引き寄せてしまったのだろう。

  『その願い、叶えてやらんでもない』

  「えっ?」

  円太は、自分の頭の中に誰かが語りかけてくるのに気がついた。その声はやけに優しげで、まるで神様の声にも思えた。しかしそれは、円太の純粋な心につけ込む悪鬼の甘いささやきだった。

  『俺がミルクを生き返らせてやる。それにミルクもまだ自分が生きたいと思っているようだからな』

  「ほんとなの!? ミルクが生き返るの!?」

  『ああ、ただし条件がある』

  「条件?」

  『俺にお前の体を寄越すことだ!』

  その瞬間、円太は蹲り苦しみだす。円太の体からは、ふわふわの白い毛が生えてきていた……

  [newpage]

  [chapter:次なる事件]

  『信太郎へ。この間絹田市で事故があったと知って連絡しました。できれば早めに連絡ください。なるべく怪我なく健やかに過ごしてくださいね』

  『大丈夫だよ、いつもありがとう』

  久方ぶりに母さんからアプリ越しにメッセージが来た。大きくなるまで俺を育ててくれて、今でも俺を気にかけてくれている、俺にとっての一番大切な人だ。少し過保護ぎみなのが玉に瑕だけど。まあ、それも仕方ない話か……

  「にしても、こんなのまでくれて、ほんとに心配性だよな」

  昨日、俺宛に小包が届いた。物々しい布の中に入っていたのは一つのお守りだった。金色の糸で『安全祈願』の四文字が書かれた典型的なお守りだ。里崎真名……母さんの名前が届け主として書かれていたため、これは間違いなく母さんが送ったものだとわかった。

  『良き母ではないか。その母に毎日感謝の気持ちを忘れるでないぞ』

  「大きなお世話だ」

  わかってる。俺をずっと気にかけてくれるのはあの人だけだ。少なくとも、小さい俺を捨てて勝手に出てったろくでなしよりかは。

  物心つかない頃にはもういなかったあの人の気持ちなんて知らないし知りたくもないが、少なくともあれを許す気など一生ないだろう。

  『信太郎よ、そろそろ時間なのではないか?』

  「んなこた分かってるよ」

  俺は準備を整え部屋を片付けると、出社のために家を出た。今度は悪鬼絡みのトラブルに巻き込まれませんようにと祈りながら駅へと向かうのだった。

  ――――……

  「ありがとな里崎、お陰で助かったよ」

  「無駄話する暇があるなら手を動かせ。俺まで残業はごめんだ」

  「わかってるって! このお礼はまた今度するから!」

  橘はこっちの気も知らないで俺に話しかけてくる。仕事はあまり早くないのでよく残業をしているが、あいつは文句も言わずに黙々とこなしている。根性があるのか単なるバカなのかよくわからないが、悪意がないのがあいつの数少ないいいところだ。

  少なくとも、何の目標もなく淡々と命令を聞くだけの俺よりかはずっと芯がある。俺もあいつみたいに真っ直ぐ生きれたらな、なんて思う事もあるが、俺は俺であいつはあいつ……どう頑張ったって他人にはなれないのだから、俺は俺なりにやっていくしかないのだ。

  『信太郎』

  「うるさいな、仕事中は話しかけない約束だろ」

  当然、神サマの事は誰にも話していない。というか、たとえ言っても俺がおかしいヤツに思われるだけだ。だから会社では黙ってもらっている。あいつとボソボソ話してたら本当にやばいヤツだと思われかねないからな。

  神サマはそんな俺の気も知らずに話しかけてきたが……社会のルールに疎いとはいえ、俺に恥をかけさせるなら本気で怒るぞ?

  なんて思っていたら、神サマはとんでもない事を口走った。

  『悪鬼の気配がした。この近くで暴れておる!』

  その爆弾発言に、俺はぶっ倒れそうになってしまった。それを見た雅根が「どうした里崎!? 眠いのか!?」なんて的外れな野次を飛ばしてくる始末だ。

  おいおい! 今仕事中なのに行けるわけないだろ! 使命と仕事どっちが大事だと思ってる!?

  『使命に決まっておろう! 最悪、人々の命にも関わりかねん! そうなってしまえば神としての面目も丸潰れになってしまうのじゃぞ!』

  神以前に俺の面目が潰れるわ! 最悪クビだぞ!

  クビになったら給料がなくなる、そうしたら俺もお前も路頭に迷うぞ、それでもいいのか!

  『はぁ、仕方あるまい。今は緊急事態じゃ』

  何が仕方ないんだ!

  神以前に人間社会のルールをだな……!

  『信太郎。スマホを皆に向けてかざしてみろ』

  「は? どうしてそんなこと……」

  『いいから!』

  俺はシガラキに言われるがままスマホを会社の同僚達に向かってかざした。するとシガラキは大声で叫び出す。

  『おい! 貴様ら!』

  その声につられて雅根を含めた皆が俺に視線を向ける。一体何をやってんだあいつは! これじゃあ俺が突然大声で叫んだ変な奴に……

  『貴様らは今日一日、“里崎信太郎は真面目に仕事をしていた”と思いながら過ごすのだ。何も疑問は持たず、勤勉に業務に勤めよ。これは神の命令だ、よいな!』

  「はい……」

  シガラキがそう宣言した瞬間、皆は抑揚のない声でそう呟き、何もなかったかのように仕事に戻った。おいおい、何だよこれ、まるで洗脳じゃねえか。こんな力あるんなら早く……

  『これは仕方なくじゃ! 人の心を操るような力は神道に外れる故普段なら使わないようにしとるが、今回はそうした方が良いみたいだからのう』

  なるほどな。これは外法なわけか。だからあの時例に挙げなかったんだな……まあ、これじゃ神サマというよりラスボスみたいだし、俺もあまりこういうやり方は好きじゃないしな。

  『では、行くぞ!』

  「おい、まだ心の準備が」

  俺の言葉を遮るようにシガラキはワープ機能を使ってしまった。俺は会社から消えるようにいなくなってしまったのだが、シガラキの力で皆は何も気にしていないはずだ。というか、そうであってくれと願う外なかった。

  [newpage]

  [chapter:新たな悪鬼]

  「ここで間違いないのか?」

  『ああ。悪鬼の匂いがプンプンしておる』

  俺が飛ばされたのは都内からやや外れた市街地だった。それでも人や車は目まぐるしく通っている。今は13時……まだまだ人の活気が絶えない時間だ。

  こんな所で前みたいに悪鬼に暴れられたら、前より厄介な事になるんじゃないか? 俺のそんな不安をよそに神サマは悪鬼を探し始める。

  『まだ霊体のまま燻っておるのか人間に取り憑いて悪さをしているのかは知らんが、かなり大きめの邪気が辺りを満たしておるようじゃ。信太郎も戦闘の準備をしておれよ』

  あまり気は進まないが、こんな時間にパニックを起こされるのも困る。俺も感覚を研ぎ澄まして悪鬼の気配を探ろうとしたが……やはりただの人間である俺にはそんな芸当はできなかった。

  餅は餅屋。その仕事は神サマにやってもらうとして……俺は人間らしくその足や目や耳で悪鬼を探すしかないだろう。霊体の悪鬼が目に見えたり聞こえたりするのかはほどほど疑問だが。

  ……と、そんなふうに考えていた俺の前に、異変は突然訪れた。

  「うわああああ!!」

  突然、向こうから叫び声が聞こえてきた。そこで普通思うのは何らかのトラブルか、事件が起きたか……でも多分違う。

  『悪鬼の仕業じゃ!』

  俺は声がした方へ急いで向かった。そこには服の袖をズタズタに切り裂かれそこから血を滴らせている人間と、金色の着物に身を包んだ異形の者がいた。

  「にゃははは! 吾輩を猫扱いするお前が悪い! 吾輩は偉大なる猫又[[rb:白 > はく]][[rb:尾 > び]]様であるぞ!」

  「あああ……俺の腕があ……!」

  真っ白な毛が特徴的な猫人間……二又の尻尾を揺らめかせ、鮮血の付着した長い爪を見せびらかしながら笑う姿は、まさしく悪鬼といって相応しい振る舞いだろう。

  まったく、天狗の次は猫又か? これじゃ悪鬼っていうか、妖怪じゃないか。

  「吾輩は人間を赦さぬ。たかが畜生とみくびり見下し、命を軽々しく奪う人間を!

  そんな愚か者は、この偉大なる吾輩が切り刻み、噛みちぎり、呪い殺してやるのだぁ!」

  猫又は突然、黄金色の目玉をぎょろりとぎらつかせながら怒り出した。そこから奴の周りには、おどろおどろしい雰囲気が漂い始めているような気がした……何も変わらないように見えるのに、そんな気がしたんだ。

  『加虐的、攻撃的な邪気の匂いが強い……此奴は怨嗟や怨念によって生まれた悪鬼のようじゃ。

  先日の天狗よりも殺傷力や破壊力に長けているタイプと言える。気をつけるのだ、信太郎』

  最悪死ぬ可能性もあるヤバいヤツって事か? 二度目にしていきなりそんなヤツと対峙するとか、とことんツイてないな、俺と神サマは。

  「やめて……殺さないで!」

  「にゃはは。早とちりはよくないな。吾輩が真に殺したい相手は別にいる……お前は別に殺しはしないぞ」

  「え、えっ……? じゃあ……」

  傷つけられた男が安堵している。俺はとりあえず様子を見て、何かあればすぐさま助けるつもりでいた。しかし、それは心の中では悪鬼を舐めていたという事で、とった選択としては誤りであった事を、俺はすぐに思い知らされることとなった。

  「お前らには、吾輩の復讐の手伝いをしてもらう!」

  「えっ……?」

  その瞬間、俺はとんでもない光景を目の当たりにした。

  男の腕から白い毛が生え始め、全身に一気に生えていったのだ。

  それだけではない、男の体は……人間でなくなっていく。指先が丸くなり、鼻先が伸び、体が縮んでいく……

  「うわあああ! 俺の手が!」

  「にゃはははっ! 吾輩の邪気を浴びた者は、皆吾輩の眷属……猫又擬きとなり吾輩の言う事を聞くだけの人形となるのだぁ!」

  人間だった男はみるみるうちに猫又によく似た猫へと変わっていっている。ヤツに同じ白い毛、猫混じりの顔、そんな異形へと変わっているのだ。こういう人間を悪鬼に変えるタイプもいるのかよ!?

  「……にゃあ」

  俺が驚いている間に、男は二足歩行の猫人間になってしまった。猫又よりも一回り小さく、子供のようなあどけない瞳をしている。まるで、自分が人間であったなど微塵も思っていないような様子だった。

  そして、猫になったのはその男だけではない。

  「えっ、俺も!?」

  「待ってくれ!」

  「嫌だ、猫になりたくない!」

  そこからは阿鼻叫喚の様相だった。邪気に当てられた人間から、先程の男のように次々と猫に変わっていくのだ。そして連鎖するように聞こえてくる人間達の悲鳴。老若男女問わず、俺以外の皆が例外なく猫に変えられていく光景は、とんでもなく異様なものだった。

  「いやにゃ、あ、にゃああ!」

  「たすにゃ、けにゃ、ふにゃああ!」

  「おい、このままじゃ俺も……!」

  『その心配はない。貴様は儂の加護がある。この程度の邪気なら防げるはずじゃ』

  確かに、皆は変わっていってるのに俺は何ともない。俺まで猫になってしまったらどうしようもなかったから、ありがたく思うとしよう。

  「さあて……皆残らず猫になったにゃ? では、この猫又白尾がお前達に命ずる。

  この男を探し出し、吾輩に差し出せ!!」

  猫又は着物から一人の男の顔写真を取り出すと、眷属の猫達に見せつけた。彼らの部下となった人間達は皆まじまじと男の顔を目に焼き付けている。

  これがあいつが殺したい男ってことか? 悪鬼に恨まれるって、一体そいつは何をしたんだ?

  「さあ、者どもよ散れ! すぐさまこの男を……」

  『待て!』

  あっ、お前また……!

  いや、どのみちこいつとは戦わなくちゃダメなんだから、早いに越したことはないのかも知れない。

  「あぁん? お前、どうして眷属になってないにゃ? 人間は全員吾輩の邪気で眷属になるはずなのに……」

  「世の中には、そうでない人間もいるって事だ」

  何言ってんだ俺。

  まあいい、とにかく変身しよう!

  「シガラキ変身!」

  『シガラキラクーンパワー・チャージ!』

  俺は数日ぶりに変身空間へ来た。相変わらずこのふわふわする感覚は慣れない。

  俺の服が消滅すると、そのまま変化が始まった。

  全身に茶色の毛が生えそろうと、内側から筋肉と脂肪が詰め込まれていき俺の体を大きくする。

  耳が上に移動し、目には隈のような黒い毛が生え、鼻と口がタヌキの長いマズルに変わった。

  ぶっとくなった俺の手を眺めていると、シガラキが俺の心の中に入ってきた。ああ、また混ざるのか……

  んんっ、この感覚は、どうにもおかしな気分に、なる。魂同士が繋がる時、俺の魂は性的な快感を味わった時のような感覚を味わうのだ。儂は嫌いじゃないぞ、信太郎と繋がるのは。気持ち悪い言い回しをするな、でももう貴様は儂じゃぞ、信太郎。

  姿はもうすっかりあのシガラキングとやらになったが、魂はまだ完全には混ざり切ってはいなかった。でっぷりと豊満になった俺のキンタマを包むように、特注サイズの褌が締められていく。真っ赤な足袋や、浅葱色の草履、俺の肩にかかる編笠と、シガラキングとしての装備が整えられていく様子は、前の俺は見てなかったから少し新鮮だ。

  うっ、そろそろシガラキの意識が色濃くなってきた。俺はもう意識の境界の区別がつかなくなり始めている。奇妙だが、これはこれで悪くないと思っておる。

  正義の心が満ち、厳格なる矜持が儂の中で色濃くなる程、儂に課せられた使命を自覚する。

  悪鬼を祓え、陰りの見えたこの地を明るく照らせと!

  「ヒーローシガラキング、ここに見参!」

  儂は再び日の本の地に顕現した。此の小さき体に渦巻く苛烈なる怨念の心、この儂が祓ってみせよう!

  [newpage]

  [chapter:シガラキングVS猫又白尾]

  「シガラキングぅ? にゃははは! なんてだらしない格好だ!」

  「外見だけで判断しないほうがよいぞ、青二才の猫小僧よ」

  「何ぃ? 吾輩を愚弄する気かぁ?」

  上機嫌だった猫又に再び怒気が漂ってくる。殺意に満ち溢れた邪気は儂の体を逐一刺してくるが、その程度、儂の神力の前では蚊に刺された程度じゃ。

  「何を企んでおるのかは知らんが、お主の思い通りにはさせんぞ。誰一人として人間は殺させん!」

  「……偽善者が」

  偽善か。確かに奴からすればそやつは許せぬ存在なのかもしれん。しかし、人の命を奪う行為を咎める事を偽善とは言わせぬぞ。

  「何とでも言え。儂はヒーローとして、お主を浄化する!」

  「させるかよ!」

  猫又が手をかざしたその瞬間、眷属の猫達が一斉に儂の前に立ち塞がった。奴の目論見は大抵察するが……

  「おいお前ら、こいつを足止めしておけ! 吾輩は残りの眷属とあいつを探す! 頼んだぞ!」

  そう言うと奴は少しの眷属と共に疾風のように逃げ去ってしまった。逃げ足の速い奴め。

  手間取るわけにはいかんが、しかしこの眷属達は元は人間。下手に佗怒斬を振るえばこやつらを傷つけてしまうかも知れぬ。

  「うにゃああああー!」

  そう考えている間にも、猫達は儂めがけて飛びかかってくる。歯を立て、爪を立て、儂を傷つけるために走ってくる。

  「くっ……」

  猫は儂に掴み掛かると、その小さな爪で容赦なく引っ掻く。この程度の邪気ならば神力で纏った薄衣で傷ひとつ付かぬが、こう大勢で集られては厄介にも程がある。

  被害者を出さんためにも、まごまごしてもいられぬ。この猫達を全て無力化し、且つ一切傷付けずに倒す方法……それはひとつだけ思いついた。が、それが悪鬼にも通用するかはほとほと分からん。しかし試してみるほかあるまい。

  「言霊・『具現』!」

  儂は通い帳の一枚に“[[rb:木天蓼 > マタタビ]]”の文字を書くとそれを千切り空高く放った。するとそこから猫を酩酊させる効果のある木天蓼の香りが辺りに広がってゆく。これは賭けじゃった。肉体が猫ならば、木天蓼が効くのではないかと。

  「ふにゃっ!?」

  「にゃああ……」

  「ごろにゃあご……」

  結果は成功、効果は覿面じゃった。猫は酔っ払ったようにとろりと顔を緩ませ、次々と眠りこけていく。一匹残らず力を失った眷属達に、儂を襲う事はできないじゃろう。

  「しばしそこで眠っておれ。すぐに元に戻してやるからの」

  儂は猫又の邪気を辿りながら、奴の向かった方へ走って行った。

  [newpage]

  [chapter:復讐]

  「な、なんだよぉテメェ……」

  「お前だな? 忘れぬぞ、その顔……忘れるわけなどない」

  「なんだよ! 俺、お前みたいなバケモン知らねえぞ!」

  「知るわけなどないわなぁ……うっかり轢き殺した猫畜生の事などなぁ!!」

  (そうだ……吾輩は生まれた瞬間から母親と引き離された挙句、ゴミのように捨てられた……)

  (吾輩を拾ってくれた人間はいたし、そやつは吾輩を子供のように愛してくれた。しかしそれもこいつのせいで全て台無しになってしまった)

  (痛かった、苦しかった、悔しかった。あの人間の泣き顔を見るたびに吾輩の心は、魂は引き裂かれて痛かった)

  (今、吾輩は悪鬼の力を借り人間と体を共にする事で、復讐の機会を得た。これで、吾輩と人間の復讐は達成される……この男の命をもってなぁ!!)

  「殺した? どういう事だ?」

  「もうそんなものはどうでもよいわ! 吾輩の痛み、円太の悲しみ、その全てをその身をもって味わうがいい!!」

  ……。

  間一髪、といったところじゃろう。

  今あやつは突き立てた爪を今まさに男へ振りかざす直前だった。あと一分でも遅ければ、手遅れになっていたやも知れぬ。

  儂はすぐさま男の前に立ちはだかり、言霊の防壁で猫又の爪を弾き返した。

  「あぁ!? 誰だお前!」

  「儂の事などどうでもよい! 死にたくなければ逃げろ!」

  「くっ……!」

  儂は力なくへたっている男を逃がす。すると猫又の顔はみるみるうちに険しくなっていった。当然じゃろう。儂が復讐の機会を奪ってしまったのだからな。

  「どこまでも……! どこまでも吾輩の邪魔をする気かァ! フシャアアア!!」

  「言ったじゃろう。何人たりとて殺させぬと」

  「絶対許さねえ! お前は塵も残さず切り刻んでやる!」

  怒り狂った猫又が儂目掛けて走ってくる。激しい形相を浮かべ爪を鋭く立てて殺意という邪気を儂に遠慮なく飛ばすその姿はただならぬものを感じた。

  「死ねェ!」

  今日使える『言霊』は残り一回……ここで使うわけにはいかぬ。とすれば、これだ。

  儂は編笠を盾代わりに奴の爪の攻撃を防いだ。円刃としても使われる儂の編笠は神力を込めれば己を守る盾にもなる。

  「くっ……」

  猫又は一度後退りするも、すぐさま踵で地を蹴り返して二度儂に向かってきた。儂は腰の佗怒斬を抜き光の斬撃を放つ。刀身状の光が前方へ向かっていくもそこに猫又の姿はなかった。

  「甘いわ、吾輩の身のこなしを見くびるなよ!」

  なんと、あやつは佗怒斬の刀身の真上に座っていた。刀の振りに合わせて飛び乗ったようだが、確かに素晴らしい動きだと敵ながら感心する。しかし儂の佗怒斬の力は、ただ斬撃を放つだけではない。

  「フギャッ!?」

  叫び声と共に猫又は地に落ち転げ回った。奴は佗怒斬の放った神力の光によってその目を眩ませたのだろう。光源の至近距離に立っていれば、その瞳にも光をもろに喰らっているはずだ。奴もただでは済むまい。

  「くそぅ……目がぁ……! 何も見えぬ……!」

  これではしばらくは動けぬだろう。汰貫斬を使うまでもない。このまま浄化といくか。

  儂は悶え転けている猫又に向かうと、奴の体に触れた……その時、儂は奴の中に三つの魂を感じた。

  (何だ此奴は……? 魂が三つも混在している……奇妙な悪鬼だな……)

  怪訝に思った儂は神眼越しに悪鬼の魂を覗く。そこには、悪鬼と、依代となった人間の魂――そして、猫の魂が蠢いていた。人の魂はほぼ奥底に追いやられていたが、悪鬼と猫の魂は密接に絡み合って複雑な状態となっていた。

  「なるほど、悪鬼にしてはやけに感情的に動くと思ったわ」

  普通の悪鬼ならば、ただ玩具で遊ぶかのように人を傷つけ物を破壊するはずだが、此奴は個人一人への復讐に躍起になっていたからな。恐らくは、この猫の無念を負の方面に増幅させ操っていたのだろう。

  しからば、儂の仕事はただひとつ。

  「なっ、何をする……」

  儂は此奴を猫を抱くかのように優しく抱きしめた。悪辣なる悪鬼に歪められた心は、儂が正してやらねばなるまい。そうでなければ、この猫は罪を被り煉獄へと堕ちてしまいかねん。

  儂が裁くのは、悪鬼ただ一人だけなのだからな。

  「安心しろ。儂はもうお主を傷付けはせん。儂に全てを委ね、お主の全てを打ち明けてみよ」

  「テメー、何言って……」

  「儂はお主の味方だ。悪鬼などに心を奪われてはならん」

  「っ……!?」

  儂から逃れようと暴れるこの猫を儂はそれでも抱きしめ続ける。いくら爪で引っかかれようと、牙で噛みつかれようと、儂はその腕を離さなかった。そうでなければ、此奴は救われぬと思ったからだ。

  頑なな猫の心を覗く。そこに奴の怒りの根源が、未練の全てがあるはずだから。

  [newpage]

  [chapter:円太とミルク]

  (だから去勢しろって言ったのに)

  (家ではもう飼えないの。捨ててきなさい)

  (ごめんね、元気でね)

  どうやらこの猫は生まれてすぐに捨てられたらしかった。親の愛も知らずに箱の中でしばらく過ごしていたのか。普通ならば死んでしまうはずだが、何故この猫は生きられたのだろうか? その答えはすぐにわかった。

  (まだ小さい……)

  (僕が助けてあげる!)

  (ねえお願い! ちゃんとお世話するから!)

  (ミルク、君は今日からミルクだ!)

  (こっちだよ、ミルク!)

  この、加茂円太という少年が彼を救ったのだ。そしてこの猫の本当の名はミルク。この悪鬼の依代は、一人の人間だけではなかったのだ。

  (どうして……僕が目を離したから!)

  (円太のせいじゃない……悪いのは、ミルクを轢いたあの車だ)

  (でも……!)

  そして、数年後にミルクは交通事故で命を落とした。事故で死んだ事もそうだが、この少年を悲しませる事になったのも此奴を亡霊にさせた原因じゃったのだろう。

  「……実に悲しき話だ。しかしそれは、無闇に報復をしてよいという理由にはならん。

  奴にも家族はいるし、お主が眷属にした人間は何の罪もない者達であるはずだ。彼らを巻き込む事を、お主は果たしてしたかったのか?」

  「うるさい! 吾輩はそのために円太の体を貰い受け、復讐のための力を賜ったのだ! 今更後戻りなどできるか!」

  「それは、お主の本心ではない。ただ悪鬼に利用されているだけだ!」

  「悪鬼……? 吾輩は、そんなものには……」

  どうやら、悪鬼に利用されている自覚がないまま、一体化してしまっているらしい。何より許せぬのは、罪なき者たちの感情を利用して悪事を働く卑劣な悪鬼だ。

  彼らを悪鬼から救う方法、それは一つある。多少手荒にはなってしまうが、この悲しき魂を悪鬼から解放するには、これしかあるまい。

  「おい、何を……」

  「力を抜け、暴れては余計痛いぞ」

  猫又の着物を優しく脱がす。そこには奴の小さな珍宝と穴があった。儂も褌を外し珍宝を晒す。そして神力で即座に勃起させた。

  「まさか……やっ、やめろ!」

  「言霊・『強化』」

  「うぬっ!?」

  儂は今日最後の言霊の力を使って、猫又の苦しみを最低限和らげてやる事にした。今此奴の尻穴は『緩慢』の言霊により儂の珍宝を受け入れられる状態にあるはずだ。これならば大した痛みもなく浄化ができるだろう。

  「では、挿れるぞ。力を抜けよ……」

  「いっ、いやだ……ふにゃあああ!」

  言霊により儂の大きな珍宝は難なく[[rb:挿入 > はい]]った。奴の狭くも温かい腸内にイッてしまいそうになるが、その時ではないと堪えた。

  「浄化の精を流し込み、お主の体に居座る悪鬼を追い出す。多少嫌かも知れぬが、我慢しろよ」

  「ちくしょう……この変態野郎……殺してやる……」

  涙目になりながら恨み節を吐くも、もう奴に抵抗の意思は残っていないようだった。儂はゆっくりと動き、奴への快感を促していく。

  「んあっ、にゃっ、ふにゃあああ」

  「ふっ、ふっ、ん、おおっ」

  儂は猫又の手を握りながら腰を振る。怒りも悲しみも、儂の珍宝と交尾の技でそんな気にさせなくさせてやる。今はただ気持ち良いという事だけを考えておればよい。恐らく、性の快感すらも知らずに亡くなった此奴を、せめて苦しまずに浄化させてやりたいのだ。あやつにとっては余計な世話かも知れぬがな……

  「にゃああ、きもちいいよぉ……こんなの、はじめて……」

  「そうだろう、儂の珍宝は気持ち良いだろう? お主の珍宝も今気持ち良くさせてやるからのう」

  やわく勃ち始めた猫又の珍宝を儂の手で包むと、優しく擦る。儂の珍宝だけが気持ち良くては不公平じゃからな。すると猫又は甘い声で鳴き始めた。余程気持ち良いのか、儂に善がらされる事が屈辱なのかは知らぬが、それはとにかく何かを言いたげな声だった。

  「うにゃあ……んんぅ……うぅ……」

  涙を流し力なく横たわるだけとなった猫又。少し可哀想に思ったが、これも此奴らのためなのだ。悪く思わんでくれ。

  そろそろ儂の快感の波が最高潮に差し掛かる頃、儂の珍宝はより一層膨らみ金玉の聖液が大量に作られていく。そろそろ浄化の時じゃ。

  「うぬっ! そろそろ出すぞ! 悪鬼よ、此奴の体が出ていくがよいっ! イクゥゥゥ!!」

  儂は猫又の中に溜まっていた聖液を流し込む。快感から猫又は白い顔を桃色に染めて体を小刻みに痙攣させた。中では悪鬼が聖液の神力により苦しんでいるはずだ。今、此奴らは自分の中で戦っている。己らを利用している悪鬼と。

  「ああっ、くっ、くそっ、もう限界だっ、ふにゃあああああぁぁ!!」

  叫び声と共に猫又の珍宝から黒い霧のようなものが飛び出してきた。これが奴の中に蔓延っていた悪鬼だろう。まるで溜め込んでいた精を吐き出すかのように、体に入り込んでいた悪鬼を追い出していた。

  「はぁ……はぁ……」

  体から悪鬼の抜けた猫又の肉体が、元の人間である加茂円太少年のものに戻っていく。ミルクは既に肉体を失っているからかそこには猫の姿はなかった。しかし儂にはわかる。少年の隣には、ミルクの霊がしっかりと存在している事を。

  つまりは、成功という事だ。猫又と悪鬼が分離した以上は、もう容赦はしなくてもよいのだ。

  「くそう、よくも邪魔をしてくれたな!」

  悪鬼は、あやつの毛を反転させたかのような漆黒の毛をした猫又としてそこに立っていた。濁った紫色の目をぎらつかせて儂に呪詛を吐いている。

  「これで、もう手加減の必要はないのう」

  きっと、今の儂の顔は鬼よりも険しい形相になっているだろう。それだけ命と心を弄んだ怒りは大きいという事だ。此奴のような、自らの手も汚さず、人の心につけ込む輩は、特に許せぬ!

  「なっ……なんだよ、悪いのはあいつらだ! あいつらが望んだ事だ、俺はその手助けをしてやっただけだ! それの何が悪い!」

  「言いたい事はそれだけか?」

  儂は佗怒斬を抜き、その切っ尖を悪鬼に向ける。悪鬼に情けなど無意味な事は、よく知っている。無垢なる少年や動物の心を弄んだ罪、その身をして償うがよい!

  「汰貫斬!」

  「ぎゃあああああ」

  ふう。

  これで猫にされた人間達も元に戻るだろう。これで一件落着、というわけだ。

  しかし、まだ儂には仕事がある。

  まあ、ちょっとしたお節介というやつじゃよ。

  [newpage]

  [chapter:終わりと、その後]

  「はぁ……はぁ……何だったんだ……」

  「お主、怪我はないか?」

  「ああ……助けてくれてあんがとよ」

  此奴は、知らずにいたとはいえ、罪なき動物の命を奪い、絆を絶った張本人。奴を裁く権利は儂にはないが、神としてこれだけは言っておきたいと思った。

  「お主、猫を轢き殺したようじゃな」

  「そう、みたいだな……でもあれは事故だったんだ! わざとじゃない!

  それに、たかが猫だぜ!? 人間じゃない! 昔じゃねえんだから、過失で動物を殺したって犯罪には問われないはずだろ!?」

  「確かにそうじゃな。しかし、お主が命を奪ったという事実はこれからお主の中で一生残り続けるじゃろう」

  「っ……!」

  どうやら奴は分かっていないようだから言っておこう。今まで行った事のひとつひとつは全て己の因果となる。という事をな。

  「世の中には因果応報という言葉もある。お主のやった事はいつか自分に返ってくるやも知れぬ。せいぜい気をつけて生きるんじゃな。

  儂は神じゃ。神の忠告は、しっかりと聞いとくもんじゃぞ。ではな」

  奴がこれから儂の忠告を聞き入れ心を入れ替えて生きていれば、きっと報いはやってこんだろう。これは神である儂なりの最後の慈悲じゃ。この男がこれからどうなるかは、自分次第、という事じゃな……

  ◆

  「円太、今日もミルクのお墓に行ってきたの?」

  「うん」

  「きっとミルクも、天国で円太を見守っているわよ」

  「うん……分かってる。だって……」

  (ごめんね、円太。でもありがとう。吾輩を……僕を思ってくれて。

  じゃあね、僕は生まれ変わってきっと君にまた会いに来るから!)

  「……ミルクが、言ってたもん。また会いに来るって」

  「……円太」

  「加茂さん?」

  「はい、何でしょう?」

  「実はうちの猫が子供を産んじゃって。加茂さんの家で一匹もらってくれない?」

  [newpage]

  [chapter:メッセージ]

  「今回は見られてないようだな」

  『悪鬼のしでかした事は皆の記憶から消えたようだしの。儂らは覚えとるが』

  「ああ……」

  最初に変身した時はシガラキングの時の記憶は一切覚えてはいなかったが、今回は全部自分の事のように覚えていた。

  といっても、画面越しに撮影された場面を鑑賞しているような感覚だけど。

  にしても、動物を殺したクズを助けた挙句また悪鬼とヤってやがった。あそこだけは本当に正視に堪えなかったぞ。人気のない路地裏でマジで助かったけど。

  『何はともあれ、今回もうまくいってよかったわい。む、メッセージが来とるぞ』

  ……あいつもすっかりスマホアプリ気取りだな。どれどれ……母さんからか。

  「『うん、俺は大丈夫。しっかりやってる』……と」

  やれやれ。ここに越してきてから母さんの連絡が多いったらありゃしない。でも、それだけ俺を大切にしてくれてるって事だから、感謝しなくちゃな。

  『またメッセージが来たぞ』

  なになに……あいつかよ。

  『やっほー。明後日の夜、会社の飲み会やるって。里崎も行く?』

  ……断りの返事をして俺は寝た。

  あわよくば、今度は悪鬼絡みのトラブルがない事を信じて。

  しかし、そんな俺の望みは後日あっさりと打ち砕かれる事となるのであった。

  っていうか、これから絹田市にとんでもない危機が待ち受けている事なんて、この頃の俺は露にも思っていなかったんだ……。

  つづく

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