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人のち猫、愛の傘に守られて

  僕の名前は[[rb:猫田 聖成 > ねこた せいな]]女性と間違われる事が多いけど、これでも大学3年の成人済み男性。

  突然だが【幸せ】というのは人それぞれだと思う、しかし僕は胸を張って言いたい。

  自分が世界一の幸せ者だと。

  小さい頃は名前と男っぽくない容姿が理由で、良くイジめられていて自分の事が嫌いだった、けど中学に上がった時に母から清らかで汚れなく、事を成し遂げるという意味の名だと教えられて以来自分の名前を誇らしいとすら思える様になった。

  あまりに容姿に悩んでいた時に父が、急に全く似合っていないどころか普通に通報案件な女装をして僕を連れて外出、当然警官に職質され無駄な時間を過ごしたと思った帰り道、「俺はおかしいから警察に捕まりかけたがお前は捕まって無いだろ?大丈夫だお前はおかしくなんか無い、自信を持て」と言われてからは容姿で悩んだりした事は1度も無い。

  更に僕の恋人【[[rb:御守 愛結 > みもり あゆ]]、大学で知り合った彼女は実はかなり有名な企業のお嬢様らしく、そんな事も知らずに今から約2年前大学内を迷っていた彼女を案内してあげると、初めて色眼鏡を掛けられず普通に接してきた僕に感激したらしく、2ヶ月以上猛アプローチされた僕が根負けし以降順風満帆なお付き合いをしている。

  もう一度言う、僕は世界一の幸せ者だと思う。

  そして今僕と彼女は今日の講義を終え、手を繋ぎながら良く2人で行くのカフェに向かっている。

  「今日の講義の途中、あれ半分寝てましたよね?聖成君、睡眠時間を削るのはあまり良くありませんよ?」

  頭1つ分小さい彼女が、頬を膨らませて視界の端でピョコピョコ跳ねて僕を注意する、僕からすればただひたすらに微笑ましい状況だ。

  「いやぁ…耳が痛いなぁ、まぁでも明日は待ちに待ったデートだからね!流石に今日は早く寝るよ」

  その返答を聞いて、徐ろに嬉しそうな表情になった愛結が一歩僕に近付く。

  付き合ってみて分かったが、彼女は非常に表情豊かで可愛らしい子だと思う、あとちょびっと天然。

  いつもの様に頭を撫でると少し恥ずかしそうに俯く。

  「いつも言ってますけど、恥ずかしいので人目のある所でそれは…」

  「とは言いつつ自分で離れようとはしないよね」

  「あんまり意地悪ばっかり言ってると帰っちゃいますよ?」

  「ごめんなさい、ふざけすぎました…」

  [newpage]

  そんなこんなで目的のカフェで会話を挟みながら軽食を食べ終え何時も通り店の前で別れる。

  「それじゃまた明日」

  「はい、とても楽しみにしていますからくれぐれも寝過ごさないように」

  [newpage]

  翌朝、特に遅刻もなく合流した僕達は新幹線とバスを乗り継ぎとある県の山奥にある少し変わった神社に到着する。

  「ここがネットで猫神社って言われている所?名所にしては思ってたより人が少ないね」

  「猫関連のお願い事が叶う神社とされていますから、名前が有名でも猫を飼ってでも居なければ来る事は無いのでしょうね」

  「それにしてもなんでこんな所に?珍しく愛結ちゃんの方から遠出しようなんて言うから来てみたけど、猫飼ってたの?」

  「えぇまあ、ずっと計画していて今日の帰り道にお迎えする予定なのでその子が健康に過ごせる様にと思いまして」

  「やっぱり愛結は優しいね、その猫ちゃんが羨ましいよ」

  「飼い始めて人に慣れたら是非来て下さいな、歓迎しますよ!」

  「ありがとう!今から楽しみになって来たよ」

  そしてお参りを終えた僕等は下山し、麓にあった料理屋で昼食を取り軽く観光した後、元来た旅路を戻り集合場所まで帰ってきた。

  移動時間の方が長くはあったけど個人的には非常に楽しめた、恐らく彼女も同じだろう。

  「いやぁ、どんなものか分からなかったけど行ってみたらすごく楽しかったよ!これから猫ちゃん引き取りに行くんでしょ?暗くなるから気を付けてね、なんなら僕も付いて行こうか?」

  「大して時間は掛かりませんから大丈夫ですよ、だってもう私の目の前まで来てくれているんですから」

  「え?どこに?」

  僕が足元を見た瞬間。

  「失礼します」

  突然口元をハンカチで覆われ、反射的に焦って呼吸してしまう。

  恐らく何かしらの薬のせいだろう、最初は暴れようとしたが、僅か数秒で身体が鉛のように重くなり意識が朦朧としてくる。

  「SP、彼を車に乗せなさい、運ぶ時は丁重に、弱った子猫を病院へ連れて行く時の様に優しくね?」

  気を失う最後に見た彼女の顔は今まで見た事が無い妖しい笑みを浮かべていた。

  [newpage]

  次に目が覚めると頭上から覗き込む形で愛結が僕を見ていた。

  先程の事もあったのですぐに飛び起きて距離を取る。

  「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ…まぁ初日だから仕方無いですよねぇ…」

  「愛結!これは…え?は?え?」

  どういうつもりだと続けて聞こうとした声は声変わり前の少年、もしくは少女のように高い物になっており、驚きのあまり言葉を詰まらせてしまった。

  「どうしたんです?御主人様の名前を呼び捨てなんかにして」

  「御主人様?何を言ってるのか分からないが、取り敢えずどういう事かしっかり説明してくれ!」

  「えぇ勿論、1から10までしっかり話しますよ、ですがその前に首輪を付けさせて下さい、丁度起きてしまったので付けそびれてしまって」

  「なんで首輪なんて…これじゃまるで…」

  「ペットですよ、だって当たり前でしょう?聖成君はこれから私のペットのセナちゃんです」

  彼女が何を言ってるのか全く理解が追いつかないが、これ以上ここに居ては拙いと思い座っている彼女の横を抜け全速力で扉の方へ走る。

  「その体で逃げるつもりですか?」

  愛結のその言葉と共に大きな姿見に写った人影を見て絶句する。

  そこに写っていたのは必死の形相で逃げようとしている僕…ではなく長髪で小柄な女の子だった、更に奇怪な事に頭頂部から耳が、尾てい骨の辺りから尻尾が生えている、よく見ると瞳孔も縦に割れている様だ。

  「ふぇ?」

  確かに身体が変だとは思っていた、声も高いし服もブカブカだったりとおかしな所を挙げればキリが無い程に、てっきり某漫画でお馴染み子供に戻る薬でも飲まされた物だと認識していた為、面影はあるもののあまりの変わりように混乱した僕はつい足を止めてしまう。

  「はい!捕まえた♪」

  愛結に後ろから抱きしめられ頬擦りをされた事で我に返り抜け出そうと必死に暴れる、しかし全く振り解けそうに無く、観念して地面にへたり込む。

  「やっと大人しくなってくれましたね」

  「そりゃあこれだけの力の差を味合わされたらね」

  「それ以前に逃げ出した所でハロウィンやコスプレ会場でも無いのにネコ耳と尻尾を付けてブカブカの際どい服装をした痴女が居るって騒ぎになると思いませんでした?詳しく調べられたら最悪人体実験なんかにも及んだかも知れませんよ?」

  「まぁそれよりも大人しく私に抱っこされているセナちゃんにはご褒美になんでこんな身体になったのか教えて上げましょう」

  「覚えていると思いますが、昨日神社に2人で行きましたよね?」

  「確かに行ったけど猫に関する願い事を叶えてくれる神社が今何の関係が?」

  「勘が悪いですね…簡単な話ですよ、私が聖成君をペットの猫として飼いたいとお願いしたからです、私の可愛いペットである猫のセナちゃんに関するお願い事なのだから叶って当然でしょう?」

  「確かにそういう解釈ならこの頭のおかしい願いが叶うのも納得かも知れない」

  「頭のおかしいねぇ…確かに私はそうなりかけていたかも知れません」

  「付き合い立ての頃はとても楽しかったんですよ、このまま聖成君と幸せになりたい、ずっとそう考えていました」

  「でも、少しして大学内の嫉妬した男子生徒の間でありもしない聖成君の悪評を流し出す輩が出たり、街を歩いていても、ケツの青い小娘から行き遅れのババアまで皆貴方の事を狙っている様な目付きで見て来たりと、とにかく気持ちが悪かったんです」

  「私の物なのに…私だけの大切な宝物なのに…どうして他の薄汚い雨水に汚されなければならないのか」

  「そこで気付いたんです、大切な物は手元において管理すれば良いって」

  「始めは普通に監禁しようと計画していました、けど貴方はきっと私の元から離れて自分から外の雨水を浴びに行ってしまう」

  「だから自分からここに居たくなるように、私の愛の傘に全身を守られて心身の奥底まで私の事だけを染み込ませられる様に策を練りました」

  「そして、結果的にあの神社に行き着きました、最後の最後で上手く行くかは賭けでしたが」

  「でももうこれで誰からも汚される事はない、男共の嫉妬も女共の狙う目もメス猫となった貴方には関係無いですから」

  「まずはその身体の汚れを綺麗に洗い流す所からです、水は嫌かもしれませんが我慢して下さいね♡」

  [newpage]

  結局半ば諦め状態な僕は首輪を付けられ、今後の生活のいろはを教えられている、その様はまるで躾だ。

  「良いですか?これからは私がセナちゃんの飼い主です、言う通りにしていれば無償の愛と何の不安もない生活を与えます、でももし逆らう、あろうことか逃げ出そうと言うのならそれ相応のお仕置きを覚悟しておいて下さい」

  「セナちゃんの今後の生活ですが、この広い部屋でずっと過ごしてもらいます、寝ていても良いですしじゃらしで遊んだりタワーに登っていても構いません、好きにダラダラ過ごして下さい、時折私が撫でたり遊び相手になってあげますから退屈はしないでしょう」

  「ご飯は決まった時間に使用人が持って来るのでそれを食べて下さい、カリカリや猫缶がメインですが良い子にしていればチュールや特別なおやつもあげますからね♪」

  「いくらなんでもそれは健康的に…拙いんじゃ…」

  「心配はいりません、寝ている間に調べましたがセナちゃんの身体は外見以上に猫の物です、視覚は意外にはっきりしているようですが、他の五感や消化器官等は猫と同等だと言っていいでしょう、なのでチョコなんかは食べれませんし、下手をすれば四足歩行の方が動きやすいのでは?」

  その話を聞いてゾッとした、もしかしたらこのまま完全に猫になってしまうのではと。

  「怯えてますね、申し訳無いですが願いの効果がどんな物なのかは私にも完璧には分かりません、まぁ仮に完璧に猫になってしまっても私が最期まで飼ってあげるので」

  「それと最後に用を足す時は部屋の奥の方に設置してある猫砂トイレにして下さい、分かってると思いますが粗相をして床を汚したらちゃんと怒りますよ?」

  「それじゃあちゃんとお話が聞けたセナちゃんはご褒美にいっぱいもふもふしてあげましょう♪」

  「それただ自分がモフりたいだけじゃ…」

  「あらら〜?御主人様にそんな事言っちゃっても良いんでしたっけ?」

  「え!?いや…そんな理不尽な…」

  「はぁ〜いそこ!口答えしない!」

  「いや〜こんなに早くお仕置きする事になるとは思わなかったな〜(棒)」

  「まさか…はじめからそれが狙いで…」

  「バレちゃいました?まぁでもどうせ御主人様には敵わないんだから観念しなさいな」

  どんな仕打ちが来るのかとビクつきながら身構えていると、尻尾を付け根をとんとんと叩かれ、脳に直接電撃が疾走ったような刺激とむず痒さと気持ち良さが混ざったような良く分からないけどけして嫌では無い感覚に襲われる。

  「んにゃッ!」

  「あらまぁ♪随分と可愛い声が漏れちゃいましたね♡まるで猫ちゃん…っていうか実際猫ちゃんでしたね♡」

  「それではもう1度失礼しますよ〜♪」

  「んあ…やめ…」

  「と〜ん♪とん♪」

  「ん゙!…」

  「お!頑張って声我慢してますねぇ♪中々良い反応をしてくれるじゃ無いですか♪そんなに頑張るなら御主人様がチャンスをあげましょう」

  「ほらこっちに付いておいで」

  彼女の後を追って部屋に置かれていたクローゼットの前まで到着する。

  その中から1着の服を差し出される。

  「これは?」

  「それは今からセナちゃんが着る服です、絶対に似合うと思って急いで用意した物なので是非着て欲しいんです」

  「でもこれ…」

  「そう女物の服ですよ、それもフリルとリボンをあしらったとびきり可愛い服、でも良いですよね?セナちゃんはもう女の子、それに家庭によっては猫に服を着せる所だってあるんですよ」

  「着替え方が分からないでしょう?手伝ってあげますから私の言った通りに動いて下さい恥ずかしいなんて意見は聞きませんよ?」

  目をつぶって言う通りにしていると数分程で着替えが終わる。

  「終わりましたよ、そこの姿見で一緒に見ましょうか」

  そこにはロリータ服を着せられた先程同様相変わらず可愛らしいネコ耳と尻尾を生やした少女がいた

  「とっても似合ってますね♪ずっと抱きしめて撫でていたくなるくらい可愛いです♡」

  「さてさて着替え終わった事ですしお仕置きを止めて貰えるかもしれないチャンスをあげましょう」

  「良いですか?セナちゃん今から私が言う事を一言一句違えずに感情を込めて復唱して下さい」

  「生意気な口聞いてごめんにゃさい!可愛さしか取り柄の無いよわよわ猫ちゃんのセナを許して下さい!、これ自分で言ってても恥ずかしいですね」

  「それでは…3・2・1どうぞ!」

  「なっ…生意気な口聞いてごめん…にゃさい…可愛さしか取り柄の無いよわよわ猫ちゃん…のセナを許して下さい…」

  言い切った途端顔が熱くなって行くのが自分でも分かる、頭はもうパニック状態だ。

  そんな僕を見て彼女は悶絶している様だった。

  「照れてる感じが凄く…イイ!!あ゙ぁ゙〜⤴️ぎゃわい゙ぃ゙〜!」

  「おっと失礼、うっかり素が出てしまいました、良いでしょうそのとても可愛い謝罪しっかりと聞き届けました」

  「それではこれから御主人様は大学の講義を受けに行くので後はご自由に過ごして下さい、先程言ったようにご飯は決まった時間に出されるので心配は入りませんからね」

  「それとその服、今日一日はそれを着て過ごしなさい、脱ぐことは許しませんよ」

  「ではいたずらしないで良い子で御主人様の帰りを待っている様に」

  部屋の外へ出ていく彼女の更に奥にはペット脱走防止用の柵が張られていた。

  1人になった広い部屋でまだ恥ずかしさから冷めやらぬ頭で色々と考えを巡らす。

  ──彼女に害意が無いのは十分分かった、生活面も問題は無いただ手放しで喜べる状態ではないのは確かかな

  「とは言え身体もこの有り様だしここから出たら奇異の目で見られるのは必然、何より戸籍が機能する筈がないか」

  「自分から居たくなるか…確かにここに居るしか無いもんな…やられたよこれは…」

  ほぼ諦めムードの中ふと周りを見渡すと少し大きめの段ボールが目に入る。

  「…」

  不思議なことにその段ボールから目が離せなくなり自然と足がそちらへ向かう。

  気付いた頃には身体が段ボールの中にすっぽりと入っていた。

  本来であれば狭っ苦しい空間の筈なのに今ではどうも落ち着く、先程から気になってしょうがなかった乱れた髪の毛を20分程掛けて念入りに整えるとなんだか眠くなってきて結局そのまま段ボールの中で熟睡してしまった。

  あれからどれ程の時間が経っただろうか扉が開く音が聞こえて段ボールの中から顔を出して確認する。

  「そちらにいらっしゃいましたか、昼食のお時間となりましたのでお食事を用意しました」

  メイドだろうか?こっちに近付いてくる。

  ──あれ?なんか変だ…

  愛結の話でも目の前の女性の話でも聞いた通り食事を私に来た人、危険な存在では無いと理屈では分かっている、でも何故か怖さを感じる。

  慌てて段ボールから飛び出て近くにあったキャットタワーの頂上までよじ登り距離を取る。

  怯えた目で様子を窺う僕を見て何かを察したのかそのメイドさんはペットフードの入った皿を置いて一礼してから部屋を出ていった。

  少ししてタワーから降りた僕は地面に置かれた皿の中のペットフードを見詰める。

  昨日の夜から何も食べていないので正直お腹は空いている、しかし食べるのはどうしても躊躇う、なにせ昨日まで純人間だったのだから、まぁ今なら食べても問題無いだろうけれども。

  試しに鼻を近づけて匂いを嗅いだ次の瞬間。

  僕は手も使わずに皿の中のペットフードにがっついていた。

  食べれば食べる程口の中に″おいしい″が広がっていく様な感覚だ。

  やっと我に返った頃には皿を空にして口元に付いた食べカスすらも平らげていた。

  ──おいしい…もっと…じゃなくて!何だ今の…これじゃあほんとに猫だ、いや猫の方がまだ幾分か行儀が良いくらいかも…

  「さっきから定期的に理性が飛ぶような気持ち悪い感覚が何度もある、何とかしないと…」

  しかしそんな抵抗も虚しくまた段ボールの中で寝たり気が向けばそこら辺に散らばっていたおもちゃに飛びかかって遊んでいた。

  1番の問題はトイレだったと思う、大きいが猫用トイレ自体勝手が分からなかったのもあるし、身体も今は男では無い、分から無いなりに頑張って用を足したのでどこも汚しては居ない!…筈だ。

  ちなみに、猫が良くやるうんちを砂に隠す行為だが、流石にあれは汚れるかも知れないという理性が勝ち自分の手を汚すまさしくクソ展開になる事は免れた、冷静に考えると普通の猫はあれをどうやってるのだろうか?飼育経験も無いので見当が付かない。

  そんなこんなで結局無収穫のまま時刻は夕方頃になりタワーに付属されているハンモックで寝ていると扉が開く音が聞こえた。

  [newpage]

  「セナちゃん?良い子にしてましたか?御主人様が帰ってきましたよ〜!」

  「んぅ…?」

  「あら、寝てましたか、これは失礼しました、てっきり逃げ出そうとしているのかと思っていまして」

  「まぁ、お昼ご飯のあの食付きを見ればそんな気が無い事は分かりきっていましたが」

  「え!?なんでそれを知って…」

  「ペットカメラですよ、家の中に使用人が居るとは言えやはり心配ですからね幾つか設置しておきました、ほらあそことか」

  指を指した先には確かにそれっぽい形の物があった。

  「とは言えあまり長時間は見ていられませんので気休め程度ですがね」

  「話は変わりますが、どうですか?猫としての1日を過ごしてみて」

  「別にどうも何も大して起伏のないゆったりとした時間だったよ、というか大半寝てたからあんまり覚えてない」

  「その割には随分おもちゃを気に入っていたようですが?」

  「それはその…偶に理性が吹っ飛ぶ事があって…」

  「まぁそんな所だろうとは思ってましたよ」

  「他に何かありました?」

  「特に何も…」

  流石にトイレの話は出来る訳が無い。

  「まぁ良いでしょう、では良い子に過ごせたご褒美にこれをあげましょう」

  袋からチュールを取り出すや否や手元に飛び掛かりそうになる。

  「あらら…かなり飲まれ掛かっている様ですね、ちょっと待って下さいね、今開けますから」

  「はいどうぞ」

  差し出されたとほぼ同時、夢中になってチュールを舐め取り、僅か数十秒で食べ終える。

  「凄い食い付きですね、時折思いますが一体これには何が入ってるんでしょうか?」

  「では荷物を片付けて来るので一旦失礼して…」

  立ち上がった彼女のスカートの裾を引っ張る。

  「ん?どうしました?そんな物欲しそうな目でこちらを見詰めて」

  「もう1本…食べたいにゃん…」

  「どこでそんなおねだり覚えたんですか?」

  「こういう事言ったら喜ぶかなって思って…」

  赤面した顔を必死に隠すも手をどかされ抗議の声を上げる事も出来ずにチュールを口に突っ込まれる。

  「その可愛さは反則ですよ!全く…あまり食べ過ぎてはいけませんからね?本当に今日だけの特別ですよ?」

  嬉しそうに食べる僕を見てやれやれと言った顔で愛結が眺めていた。

  「それじゃあ今度こそ荷物を置いていきますので」

  僕は半分聞き流しながら黙々とチュールを食べ続けていた。

  [newpage]

  数分もしない内に帰って来るや否や、猫になった今恐らく最悪であろう通告を受ける。

  「私も外で汚れてしまったので一緒にお風呂に入りましょうか」

  その言葉を聞いた瞬間、一瞬でタワーの上に逃げる。

  「あ!コラ!降りなさい!一緒にお風呂に行ってさっぱりしましょう?ね?」

  「やだ!この身体で水なんて絶対拙いってやって見る前に分かってるから!」

  「いやそういう問題ではなくてですね…」

  「良いですか?確かに今朝セナちゃんの身体は猫と似たような物だとは言いました、しかしその身体にモフモフの毛は生えていないでしょう?普通の猫ちゃんはブラッシングや毛繕いで身体を綺麗にしてるんですよ、体毛が無いセナちゃんは普通にお風呂に入って綺麗になるしか無いんです!」

  「ほ〜ら!降りて来て下さい、汚いまま過ごすのは嫌でしょう?」

  「じゃあ分かりました、今日の所は蒸しタオルで勘弁してあげましょう、ちゃんと我慢できたら夕食のカリカリをちょっと増やし…」

  「早くやろう」

  「全く貴方って人は…」

  「だってこの体になってからご飯が信じられないくらい美味しく感じるんだよ?そりゃあ食い付きますとも」

  「はぁ…まぁこれくらいで乗るなら良いですけどね?では私はお風呂に行ってくるので体はメイドに拭いてもらって下さい、何やらお昼は人見知りをしていたようですが、良い機会ですので慣れて下さいね」

  「え゙ッ!?」

  「流石にもうワガママは聞きませんからね?初日だからと言って甘やかされるのはここまでです、ペットである以上ある程度は躾けられてしっかりとした子になって貰わないといけないので」

  「では、また後で」

  [newpage]

  愛結が部屋を出て行ってから数分が経ち部屋の扉が空くと、昼間食事を置いていってくれた人とはまた別のメイドが来た。

  「うわ…可愛い…凄くモフモフしてそう…」

  発言がもう既に凄く怖い、昼間は猫としての恐怖心だったけどこのメイドは人としての感性で見ても怖い。

  「あ、申し遅れました私メイドの田島です、軽くこの人だな〜くらいで覚えて貰えると嬉しいです」

  「お嬢様に言われて蒸しタオルでセナちゃんの体を拭いて差し上げてとの事なので、大人しくしてて下さいね?」

  「あの…」

  「どうされました?」

  「優しくお願いします…」

  「大丈夫ですよ、この世の何よりも丁寧に拭けと言われていますので」

  「それではお洋服捲らせて頂いてと、失礼しますよ〜」

  タオルが肌に触れた最初こそ不快感はあったものの、その後はポカポカしていてただただ気持ち良い時間だった。

  「ゴロゴロゴロゴロ…」

  自分の喉から出た奇怪な音に困惑する。

  「凄く喉ゴロゴロ鳴らしてますね、そんなに気持ち良いんですか?」

  恥ずかしくなってしまったので押し黙ってやり過ごす。

  「終わりました、お嬢様にはとても大人しくしていたと伝えておきますね、では失礼致します」

  [newpage]

  そこから少しして愛結が帰って来た。

  「あら、なんだかご機嫌そうですね、メイドと何かありました?」

  「蒸しタオルが気持ち良かっただけだよ」

  「それは良かったです、大人しくしていたそうですし約束通りご飯は増やしておきました」

  「落ち着いてゆっくり食べて下さいね」

  本能が飛び掛かりたいと叫んでいたががっついて取り上げられても困るのでなんとか抑え込んでゆっくり食べ進める。

  無事食べ終えた後は愛結にひたすら撫でられたり、ちょっとおもちゃで遊んでもらったりしてあっという間に時間が過ぎていった。

  そろそろ寝る時間になったという事で個人的にはなんだか頭も冴えてきて動き回りたくてたまらない気分であったけれど、ぎゅっと抱きしめられたまま部屋にあるベッドに入れられてしまえばそうも行かない。

  ──そう言えば猫って夜行性なんだっけか、生活バランスも猫になってるのかな?

  「聖成君、まだ起きていますか?」

  「!…まだ起きてるよ」

  突然元の名前を呼ばれて驚いてしまったがすぐに返事を返す。

  「貴方まだ悩んでいませんか?」

  「…」

  「図星ですね、まぁいきなり体も立場も全部変えられて生活しなさいなんて言われてすぐに順応出来る方がおかしいですから」

  「でも1つだけ変わらない事があります」

  「それは私が貴方を愛しているという事です」

  「再三言いますが貴方が完全に猫になってもこのままでも、この家の中に居てくれれば責任を持ってずっと貴方を愛して大事にお世話しますから」

  彼女の話を聞いている内にどこからか薔薇のような良い匂いがしている事に気付き、頭がフワフワとした感覚になり思考が纏らなくなってくる。

  「貴方はもう人間の猫田 聖成から猫ちゃんのセナちゃんに変わったんです」

  そう言い抱きしめて来た彼女の服からは先程の良い匂いがより一層濃く感じられ更に判断力が鈍っていく。

  「もう小難しい事は考えずに素直になって良いんです、何の心配もせずにのんびり過ごす御主人様の可愛い猫ちゃんになりなさい」

  ──良い匂い…頭フワフワする…あれ?今何の話してたんだっけ?あぁそうだ!ご主人の言う通りにしてれば良いんだっけ?確か

  「なるぅ…なります…ご主人の猫ちゃんになりますぅ…」

  人として超えては行けない最後の一線を超えると共にとても良い香りに誘われて意識が闇へと堕ちていった。

  私は横で気持ち良さそうに眠り始めた愛しい人を撫でる。

  「使ってみるものですね♪マタタビ香水」

  「騙してしまった様で少々心苦しいですが、これから一生を掛けて貴方の事を幸せにして行くので楽しみにしていて下さいね?」

  [newpage]

  〜数年後のある日

  いつもどおりお気に入りのハンモックで寝ていると、ドアが開く音が聞こえたので私はすぐに起きてご主人の方へと走り出す。

  「ご主人!おかえり!」

  「ただいま、セナちゃんは相変わらず元気ですねぇ♪」

  「ねぇねぇ!頭もっと撫でて!」

  「その前に少し見て欲しい物があるんです」

  「なになに〜?」

  ご主人が取り出したのは変な形をした丸い物だった

  ──セナがご飯を食べてるお皿みたいな平べったいやつの中にカチャカチャ動いてる棒が2本ある!ヒョロヒョロした線で絵みたいなのが周りにいっぱい描かれてるし新しいおもちゃかな?

  「これ何?新しいおもちゃ?」

  「ごめんなさい…これは時計と言っておもちゃでは無いんです、まぁ分からなくてもセナちゃんが気にする事ではないので大丈夫ですよ」

  「知能低下が著しいとは思っていましたがまさかここまでとは…」

  ──ちのーてーか?なんの話をしてるんだろう?

  「あぁ!ごめんなさい💦難しい話でしたね、それじゃあ良い子にお話を聞けた子にはご褒美として撫で撫でとチュールをあげましょう!さぁ御主人様のお膝の上においで?」

  「ホント!?やったぁ!」

  お膝の上は暖かくてしかも撫で撫でと美味しいおやつもある、なんだかこのまま寝ちゃいそうだなぁ。

  「セナちゃんもしかしてちょっと太りました?」

  「そっ…そう?そんな事無いと思うけどな〜…」

  「まさか、メイド達におねだりしてご飯を増やして貰ってるんじゃ…」

  「え!?なんで分かったの!?あ…」

  「何か言う事は?」

  「ごめんなさい…」

  「明日からはダイエットしないとですね、それと暫くはご褒美のおやつは抜きです」

  「えぇ…そんなぁ…」

  「流石に嘘ですよ、セナちゃんが食べるのが大好きなのは知ってますからそんな意地悪はしません、でも寝てばっかりじゃなく運動はちゃんとしますからね」

  「はぁい…」

  おやつを食べ終わった後はもみくちゃになるくらい全身を撫でられたりくすぐられたりしてすっごく楽しかったんだけど、ちょっとしてからご主人が聞いてきた。

  「ねぇセナちゃん」

  「ん〜?なぁに?」

  「今どれくらい幸せですか?」

  色んな人がいるからきじゅん?は分かんないけど…

  「世界でいちばん!かな?」

  〜HAPPY END〜

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