アブダクション☆ 獣人型宇宙人に誘拐されちゃった!? 

  「シオンさん。大変申し上げにくいのですが……。」

  病院の診察室。健康診断の結果を直接話したい、と医師にそう連絡されてのこと。

  沈痛な面持ちの医者。診察室の蛍光灯の青白い光も相まって、どこか薄ら寒い。

  次にくる言葉が何なのか。悪い想像しかできずに胃がキリキリと痛む。

  度重なる過剰労働。不安定かつバランスの悪い食生活。休日に運動なぞする余裕もなく……。

  いくらでも結果が悪い理由は思い浮かぶ。

  「少し……数値が悪いです。精密な検査が必要だと思われますので、大きい病院への紹介状を出します。」

  ”少し”と言い淀む医師。きっと言葉通りの少しなどではないのだろう。これからどんな暗い運命が待ち受けているのか、想像もしたくない。

  そのあともいろいろと医師から言われていたような気がしたが、今の僕には何も入ってこない。ただただ耳を通り過ぎていくばかり。

  空虚な時間が終わり、受付から渡された紹介状の入った封筒を手に、僕は病院を後にした。

  世間は春。門出の季節を終えて少し暑くなってくるころ。スーツも冬物から春物へと変わり新しい年が始まったことを感じることのできる季節。

  外はもう暗く、街灯がまばらに光るばかり。閑静な住宅街への帰り道、重たい足を何とか動かしながら出るのは深いため息。

  「人生って、うまくいかないことばかりだなぁ……。」

  小学校、中学校、まだ無知だったころの僕は、創作の世界、人外の生物を愛しているということを知人に告げたことがきっかけに、いじめが始まった。

  両親に相談したり、学校側に対処を要請してもらったりしたけれど、それらはすべて無駄に終わり、学校側からは僕ら家族の方がモンスターペアレンツ扱い。引っ越そうにもお金がなくて、ただただ我慢するしかできなかった。

  その環境から脱するために、高校こそはと勉学に励むものの、そのような歪な環境では結果は振るわず、受かったのは滑り止めの大学だけ。

  奨学金をもらいつつ、なんとか卒業し就職するも、待ち受けていたのは法の際をせめる過剰労働。

  悪辣な上司のせいでやめることも許されずに、ただ流されるまま働き続けた生活の末路が、”これ”である。

  壊れかけた身体。擦り切れていく心。涙が出そうなほど悲しいのに、最後に泣いたのはいつだったか。

  家族以外の誰からも愛されず、もう死んでしまったほうが楽になれるのだろうかと考えてしまう日々。

  ただ、両親の顔を思い浮かべてしまうとそれすら許されない、自分の思考にロックがかかる。生きなければいけないと、死ぬわけにはいかないと。

  「どうすればいいのかな……。どうすればよかったのかな……。」

  誰にともなく口に出る独り言。当然、答えは返ってこない。

  わかっている。わかっているのだ。どうすればいいのかなんて、自分で考えるしかないということは。

  しかし、それができれば誰も苦労なんてしないのだ。解決法がわからないのならなおさら。

  歩みを進めるごとに、街灯の数が少しずつ減っていく。明かりのほとんどない住宅街の外れ。そこに自分の住んでいる安アパートが建っている。その玄関まであと少し。

  うっすらと門扉を照らす街灯が見えて、ようやく家に帰り着いたと息をつく。

  「……?」

  ふと、アパート前の街灯が妙に明るい。いつも切れかけの電灯が点滅するほどのオンボロだというのに。

  光に誘われるかのように視線が上に。こんな風に上を向いたのも何時ぶりだろう、そんな風にのんきに考えていた気がする。

  眼前に広がる漆黒の空。その中空に浮かぶ楕円系の輝く円盤。いわゆる未確認飛行物体、UFOと世間的に言われているもの。

  その底部から僕を照らす帯状の光。SF作品ではトラクタービームとか言う名前だったっけか。その光に当てられて身体が宙に浮かんでいく。

  しかしそんな非日常を目の当たりにしても、僕の心は動かない。

  ああ、明日の仕事、いけなくなったらどう連絡しよう。いやだな、また怒られちゃう。そんな思考を最後に、僕の意識は遠のいていった。

  [newpage]

  暖かい。温かい。あたたかい。全身に触れる液体の感覚。

  べとつくような、汚れを洗い流すような、体の中にしみこむような、奇妙な感覚。だけど、不思議と嫌ではなかった。

  瞼は重くて開かない。連勤明けの休日の朝のような気怠さと、布団の中にいるかのような安心感。

  「どんなかんじ~? 捕まえてきた子の様子は~?」

  「ん……特に問題はなさそうだ。適正があったのはこいつだけだったんだから、お前らやらかすなよ?」

  「へいへい、信用ねぇなぁ……。だから、こうやって調整してるんだろ?」

  コンコンと外から何かをたたく音。 そして、ぼんやりと声が聞こえる。 誰かの声が。 聞き覚えのない複数の男性の声。

  「まぁ、仕方がありませんね。本来、このような手段をとるのは違法ですが、いまの我々にとっては緊急事態ですから。」

  「早く目を覚まさないかなぁ。オイラ、別の星に住んでるヒトって初めて見たよ!」

  また別の声。まどろむ僕の近くに、知らない声が響いているというのに、警戒心を持てないことに驚く。

  だって、疲れていたのだ、僕は。ただ眠気に身を任せていたかった。眠たい、眠りたい。休ませてほしい。

  「おや、彼の意識レベルが少し回復したようですね。そろそろ、起きてもらいましょうか。」

  突如耳に響く液体が流れていく音。夢から覚めてしまった後みたいに、意識が少しずつ覚醒し、瞼がゆっくりと開いていく。

  目の前には湾曲した透明なガラスの壁。そしてガラス越しに見えたのは……。

  いろんな種類の動物の頭を持つ亜人達がずらりと並ぶ。その様子はまるで動物園の見物客のよう。

  10人弱の作業着姿。自分が今いる場所がUFOの中、宇宙船の中だというのなら、船内作業着という奴になるのだろうか。そんな感じの服装に身を包む人外の存在達。狼や虎などの哺乳類から果てには蛸のような頭足類まで。

  まだ現実感のない僕は、その様子をただぼーっとみてるだけ。まるで3Dの映画を見ているかのような気分。ただ、彼らのことをかわいいなって、思ったりして。

  ぺたりと床に足が付く。どうやら眠っていた間、どういう原理かわからないけれど、このガラス製の円柱の装置の中、僕は液体に浮かんでいたようで、その事実に気が付くと急にこの体に重力が戻ってきたかのように、ずしりと全身に重みを感じた。

  そして徐々に戻ってきた現実感。そこでようやく思い出されたかのように戻ってきた感情は……怖いということ。

  未知の生物に囲まれ、じろりじろりと見られている。そんな普通ならありえない状況。恐怖のあまり、今の今まで自分が裸であったことに気が付けなかったほど。

  スッとガラスの壁が一瞬で消えて、彼らの手が僕の方に伸びる。引き攣った喉からは悲鳴すら出てこない。

  彼らの中の一人、腕を捲った作業着姿の筋骨隆々な狼頭の生物が、僕の手を取って思いっきり引っ張ると、力強く僕を抱きとめた。素肌に触れる毛皮が少しくすぐったい。

  「こいつも素っ裸のままってのも落ち着かねぇだろうし、まずは服でも着せて話でもしようや。」

  太い腕に抱きかかえられたまま、どこへとも知らず連れ去られていく。目の前の非現実な状況に、僕はただ、身を任せることしかできないのであった。

  [newpage]

  「はいっ! オイラ、いろいろ持ってきたから、好きな服があったら言ってね!」

  「ちいさくてかわいいねぇ……ふふ。怖がらなくていいよ、悪くはしないつもりだから、うふふ。」

  狸頭と狐頭の獣人が僕の頭上、左右から口々に言う。その手には様々な柄の衣服、アパレルショップの店員がそうするように鏡の中の僕にかぶせるようにこちらに見せてくる。

  近未来SFのような形をしたロッカーが並ぶ部屋。あの後すぐにこの部屋に連れられた後、下着だけを渡された僕はそそくさとそれを身に着けたのちに、部屋の隅に置かれていた姿見の前に立たされた。そして、

  「俺たち全員が居てもそいつを威圧するだけだろうから、お前たちチビ組に任せた。リィ、レン、抜け駆けはするなよ?」

  そんな風に虎頭の獣人が声をかけたのが、この二人である。

  狸のリィと狐のレン。彼らは改めてそれぞれがそう名乗った。

  チビ組とそう言われてはいたし、たしかに彼らの中では身長が低い方ではあったが、自分より頭一つ上くらいの背丈。

  だけど、そんな彼らから敵意が感じられなかったからか、引き攣った喉も幾分動くようになり、僕はかろうじて自らの名前を告げることができた。

  すると、彼らは地球上の動物のような顔なのに、まるで人間のように表情筋を動かして笑顔を作ると、新しいおもちゃでも見つけたといわんばかりに僕の身体にしきりに触れてくる。

  でも……温かかった。先ほどから繰り返される久しぶりの、血の通った生き物に触れる、触れられる感覚。

  いつからだろう。誰とも触れ合うことのない生活になってしまったのは。最後に誰かと触れ合ったのはいつだったっけ。

  両親とはもう長い間会えていない。近しい友人も恋人もいない。職場は地獄。血の通った人間なんていないと感じられるほど。

  久しぶりの生命の熱。何か熱いものが頬を流れた。

  「わわ! シオン君、泣いちゃった! どどど、どうしよう!? レン!?」

  「どうしようかぁ。怖いのかいシオン君? 大丈夫だよぉ、怖い人はここにはいないからねぇ。」

  前からは小さい子供をあやすような優しい声。後ろからは温かい大きな手が背中をさする。

  僕はただ泣いた。小さな子供のように泣きわめくなんてしなかったけれど。狐男の胸を借りて、ただ涙が止まらなくなるまで、ずっとそうしていた。

  少しして涙が止まり。まだ会ったばかりの、未知の生物の胸の中で泣いたことに対して恥ずかしいやら、気まずいやら。ただ、この状況にも幾分か慣れた気もする。

  「……ずいぶん、つらい目にあってきたのかなぁ、シオン君は。」

  「もう大丈夫? 辛かったらいつでも言ってね! オイラだっていつでも胸くらい貸すからね!」

  後ろから聞こえた、狸がポンとおなかをたたく音。狸男の少し大きなおなかから響いたであろうかわいらしい音。

  「ふふっ……。」

  思わず自分の口から漏れる声。自然な笑み。泣いたのも久しぶりだったけれど、笑ったのもいつぶりだっただろうか。

  どうしてこんなところに連れてこられたか、理由はまだ分からなかったけれど、彼らを信じてもいいのかもしれないと、思い始めていた。

  感情の振れ幅がすっかり落ち着き、そそくさと服を着る。いつもの癖か、選んだ服はオフィスカジュアル。カジュアルシャツにジャケット、普通のスラックス。どれも地味な寒色系の色。

  こんな異常な状況だというのに、つい、仕事のことを考えて選んでしまっていたことに、軽く自嘲する。

  「さぁ、一名様ごあんなぁい。」「こっちこっち!こっちだよ!」

  そっと優しくエスコートされるかのように二人に手を取られ、無機質な金属色の廊下の先、通されたのは談話室といった感じの部屋。

  座り心地のよさそうなソファーにテーブル、人数分より少し多く置かれている椅子とカウンター。カウンターの奥には冷蔵庫のようなものも見える。

  「遅かったな。……まぁ、こっち来て座れや。」

  そう言って、奥のテーブルから手招きしているのは屈強な肉体の虎男。着ている作業服は彼ら二人と同じものに見えるのに筋肉でパンパンに膨らんだその姿は、今にもはちきれんばかり。

  有無を言わさぬような彼の鋭い眼光に僕は固まってしまい、僕を連れてきた二人に押されるような形で、テーブルの上座へと案内されて席へと着いた。

  ジワリと湿る手のひらの汗。口の中が緊張でカラカラに乾きだす。これから何が起こるのか想像がつかない。少しくらい落ち着くためにも、扱われ方の丁寧さからひどいことはされないはず、と自分に言い聞かせて。

  「……ひとまず、名乗りましょうか。我々は彼のデータは知っていますが、初対面ですし。」

  沈黙を破ったのは丁寧な口調の青い蛸頭の亜人。色はともかく手足の形こそ人間のように見えたが、どこから生えているのか数本の触手が服の隙間からうねっていた。

  「私、オクタと申します。この船で船医をしております。シオンさんは我々の言葉を問題なく理解できているようですね。あなたの脳に適応させた自動翻訳機能はきちんと機能しているようで、なによりです。」

  脳に、適応? どこか不穏な言葉にさらなる冷や汗が出る。そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、蛸男はこちらを見て嬉しそうに目を細めている。

  「……ヴァン、だ。」

  言葉少なに自分の名前を告げただけなのは、壁にもたれかかるように立っていた蝙蝠男。目を閉じこれ以上話すことはないという態度。だけどこちらのことが気になるのか、彼の頭部の二つの大きな耳は両方こちらに向いていた。

  「も~、ヴァン君ったら素直じゃないんだから~。あ、ボクはゲー。君の住んでた星の生物で例えていうなら蛇男ってとこかな~? よろしくね~。」

  シュー、シューと独特な音をたてながら鋭い牙の見える笑顔を作る蛇男。細長い虹彩がこちらをじっと見つめている。目を合わせると、そのまま食べられてしまいそうで、僕は思わず目を逸らしてしまった。

  「あ~らら、怖がらせちゃった。ごめんね~。」

  手をひらひらと振りながらもこちらから離れていくけれど、僕を見ている彼の視線をまだ感じる。さしずめ僕はヘビに睨まれたカエル、まさしくそんな感じ。

  「だからビビらせるんじゃねぇっつってんだろが!このバカ!……っと俺はロウ、んでこっちのムッツリ虎野郎がフウ。まぁよろしく頼むぜ、かわいこちゃん!」

  「誰がムッツリだ!」

  銀色の毛並みの狼男。最初に僕の手をつかんだ大きな手が肩に触れる。そしてその反対側には三色の、黄色、白、黒の毛皮の虎男の手。二人の大きくて力強い腕に挟まれるとそのまま押しつぶされてしまいそう。

  「……オレ、ジー。」

  最後に部屋の隅から声が上がる。巨体のトカゲ男。今までの彼らもだいたい大きかったけれど、彼の身体はそれらを軽くしのぐほど。前傾姿勢だというのに身長2mを超えているように見える。

  「ヨロシク。シオン。」

  どこかたどたどしく聞こえる片言の言葉。小さく手を振るその姿は大きな子供のようにも見えた。

  「そしてオイラたち!リィと!」

  「レンだよぉ。これでこの船の乗員は全員だねぇ。」

  全員の言葉が頭の中で反芻されていく。しかし、肝心なことは何もわからない。敵意や悪意は感じない彼ら、獣頭の生物たちが何のために、僕を連れてきたのか。彼らの目的は何なのか。

  いつまでも、このままでいるわけにもいかない。だから、僕はなけなしの勇気を出して口を開いた。……カミカミだったけど。

  「……ぼ、僕はどうして……連れてこられた……んですか……?」

  「あ~……。その……。なんだ……。」

  ポリポリとバツが悪そうに頬を掻く虎。ただこちらをじっと見つめて、そっと僕の手を彼の大きな両手が包んだ。思っていたより柔らかい肉球が、手の甲と手のひらに触れる。

  「……俺たちと交尾してくんねぇか?」

  「……ハイ?」

  僕が疑問の声を出すのと同時に、空気を裂くような音とともに狼男が虎男をひっぱたく。交尾って……あの……アレ?

  「いきなりすぎるんだよ!お前は!」

  「う~む、どこから説明しましょうか……。」

  蛸男が顎の部分に手と触手の内の一本を当て考え込むようなしぐさをするとぽつりぽつりと話し始めた。

  話を総合すると、今現在、彼らの住む星系では少子化の真っただ中らしい。というのも彼ら、動物の頭をした種族は雌がなかなか生まれない、ゆえに他種族との間に子供をもうけるらしいのだが、その相手であった種族、地球人によく似た姿の種族は様々な事象が重なり、ほぼ絶滅してしまったのだという。

  「っつ~わけで、代わりになってくれそうな奴を八方手を尽くして探しまわった結果……適正がありそうだったのがお前さんだったってわけだ。」

  「でも、僕……。男なんですけど……。」

  そう、いくら貧弱な体形とはいえ、僕は男である。しかし、否定する僕の言葉を遮るかのように蛸男は言った。

  「ええ、わかっています。ですので、貴方の体のほうを少しだけ弄くらせていただきました。今の貴方でしたら我々の誰の子でも十分妊娠できますよ。」

  「……えぇ?」

  そんな無茶な、と思ったけれど、ふと彼らが僕を見る目つきが変わっていることに気が付いた。

  表情こそは変わらない。ただ、その瞳の奥から滲む獣欲。早く僕を食べてしまいたいという欲求に。

  だから、彼らの言っていることはきっと真実なのだろう。そして、その欲に反応してこの体は奥底からうずいてしまう。ぞくり、ぞくりと。

  蛸男が言っていた。僕の体を弄くらせてもらったと。この疼きはそのせいなのかもしれない。

  だけど、僕は今のこの状況に、こうも思った。思ってしまった。

  彼らなら、”僕”を愛してくれるのかもしれない、と。だから、僕は、彼らのことを、受け入れることに……決めた。

  [newpage]

  押収されたファイル。

  映像ログ 1 虎人 フウ [jump:5]

  映像ログ 2 狐人 レン と 狸人 リィ [jump:6]

  映像ログ 3 蜥蜴人 ジー [jump:7]

  映像ログ 4 蝙蝠人 ヴァン [jump:8]

  映像ログ 5 狼人 ロウ [jump:9]

  映像ログ 6 蛇人 ゲー [jump:10]

  映像ログ 7 蛸人 オクタ [jump:11]

  なお、各映像ログの時系列については不明である。

  [newpage]

  「……なんだか、すまねぇな。」

  シンプルな造りの部屋。ベッドとテーブルと椅子だけ。クローゼットや観葉植物すらない、ただ寝るだけの部屋といった感じの部屋に、僕は彼、虎男のフウに抱きかかえられて連れられてきた。

  「俺たちの勝手な理屈にお前さんを巻き込んだのは、本当に悪かったと思ってる。」

  優しく僕をベッドにおろした後、彼は自身の作業着に手をかけた。落ち着かないのか、どこかぎこちなくゆっくりと服が解け、少しずつ露わになっていく彼の肉体。黄色と黒のコントラストに包まれた盛り上がった背中。その引き締まったお尻から伸びた尻尾は、警戒中のように左右に揺れる。

  「ただ……、何万時間と、ずっと探し求めてきた相手が、ようやく見つかったんだ……。俺を、俺たちを……受けいれてはくれねぇか……? シオン……。」

  ベッドの上の自分に覆いかぶさるようにして、こちらの顔を覗き込む虎の顔。不安そうなまなざし。小さいころに飼っていた猫が叱られたときに、こちらの様子をうかがっていた時のような、潤んだ瞳。

  僕の覚悟は決まっている。じっと肉食獣の瞳に見つめられると怖くて目をそらしたくなるけれど、こくりと僕は頷いた。

  目の前の虎の顔が、花がほころぶように笑みを作る。鋭い牙が見えたかとおもうと、ざらざらの舌が僕の頬を削いだ。くすぐったい。

  彼はそっと僕のジャケットを脱がし、シャツのボタンへと手を伸ばした。プチリ、プチリとボタンが外れていき、露わになる僕の胸。彼のたくましい胸筋と比べるとあまりにも貧相な体つき。

  カチャカチャとベルトのバックルを外され、下着もゆっくりと脱がされていく。

  そしてベッドに残されたのは虎男と、その哀れな獲物だけ。

  優しく肉球のついた手のひらがそっと脇腹を撫でた。こそばゆくて少し体をよじるけれど、彼はその反応を楽しむように優しく触れていく。

  太もも、お尻、肩、背中。じらすように、ゆっくりと。しかし、彼が意図的に触っていない箇所がある。もどかしくて、切ない感覚が胸を中心に広がっていく。

  「どうした……? シオン。そんなに震えて……苦しいのか?」

  にぃっと牙をむいて笑う虎の顔。彼の太い指が、胸の、乳首の周りを軽く滑らせていく。

  きもちいい。もどかしい。くすぐったい。もっと……もっと触れてほしい。

  「ぅぅ……♡ フウ……、も、もっと……♡」

  「へへ……、かわいいな。シオン……。それじゃあ、いくぜ……♡」

  熱が脳を溶かしていく。息がどんどん荒くなる。その様子を見て彼の顔が胸に近づいてきて……。

  ザリッ……

  「っ……ぁっ……♡」

  胸の先端を弾くように彼の舌がうねる。紙やすりのようにざらついた舌が右胸を走る。突然の刺激に僕はもう体を悶えさせることしかできない。

  その間も彼は胸を舐め続ける。先端を、その周りを。舐めていない方の片方は、その大きな指が摘まみ、捻じり、撫でまわす。

  「ぅー♡ うぅ♡ っあ……♡」

  気持ちいい。きもちいい。キモチイイ。胸ってこんなに気持ちがよかったんだ。あまりの気持ちよさに、だらだらと目から涙を垂れ流す。

  かわるがわる左に右に、ざらついた舌の感触、やわらかい肉球の感触。

  魂がどこかへ行ってしまうのではないかと思えるほどの快楽。連動するかのように自分の下半身もうっすらと涙をこぼした。

  「へへ……。そろそろ、こっちもいいか……? なぁ、シオン……♡」

  ずいと、彼の股座が僕の身体に押し付けられる。ネコ科生物特有のトゲトゲのペニス。ピクピクと脈動し、今にも破裂しそうなほどに怒張していた。

  その感触に、下半身の、後ろの疼きも増していく。ひくり、ひくりと自然に引き攣る下の穴。

  おぼろげな意識の中、僕は了承の意を込めて、小さく首を縦にふった。

  「……ありがとな、シオン。」

  彼の左右の手が、僕の脚を掴み、持ち上げて、ベッドに押し付けるように曲げていく。きっと彼の眼には、物欲しそうにひくついている僕の下の穴が映ったことだろう。

  そして、熱いモノが僕の体に触れた。

  ゆっくりと、じんわりと、体の中に入ってくる。下半身に感じる異物感。普通ならありえないのに、下の穴がまるで潤滑液で濡れているかのようにあっさりと、彼の肉を受け入れていく。彼我の距離が少しずつ縮まっていく。

  「……入ったぜ。すげぇ締め付けだなぁ……、あっさりと出しちまいそうだ……♡ それじゃあ、動くぜ……?」

  ずんずんと繰り返される前後運動。トゲ付きのペニスが中をこする感覚は、痛そうなはずなのに、感じるのは只々快感だけ。

  突かれる、抜かれる、押し付けられる。気持ちのいいところを何度も、何度も突かれて、もう目の前は白、白、真っ白、ただ一色。

  心臓が爆発しそうなほど激しく鼓動し、それに合わせるかのように僕の中からあふれ出るかのように垂れていく先走り。彼の動きも激しさを増していく。

  「ぐるるっ……♡ ぐるるっ……♡」「はぁっ……♡ っ……♡ はぅっ……♡ ぁっ……♡」

  嬉しそうに喉を鳴らしては、体を激しく押し付けてくる虎男。それに合わせて快感の吐息が漏れる。僕の中でさらに膨らむ彼のモノ。そして。

  「ぐるるルぁあああっッッ♡」 「あぁああぁっ♡」

  激しい咆哮。ひと際強く奥を突かれ、内壁に押し付けられるペニス。中に吐き出される白い濁流。あふれ出る快感、絶頂感、そして……幸福感。体も心も満たされる。満たされていく。

  名残を惜しむかのように、ゆっくりと彼が抜け出ていく。ごぽりと彼から放たれた生命力が、僕の体内からこぼれた。

  こちらをじっと見つめる瞳。そっと虎の顔が近づいてきて口同士が触れた。甘い、触れるだけの口づけ。

  彼の手が僕の背中に回り、強く、強く抱きしめられる。

  それが温かくて、温かくて。

  ずっと、ずっとこうしていたいと思っているうちに僕の意識は暗く、深いまどろみの中に溶けていった……。

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  [newpage]

  「こっち、こっちだよぉ。」「えへへ、やっとオイラたちの番だもんね~!」

  足取り軽く、嬉々とした声色と表情で僕を先導するのは二人、狐と狸。 レンとリィ。

  宇宙船の中の無機質な廊下の奥。両開きの自動扉が開くとそこは。

  「ぇ……?」

  一面に広がる木々。今までの無機質な廊下とは打って変わってそこはまさに森。先ほど入ってきた扉が空間に浮かぶのを目にして、思わず目を剥いた。

  「驚いたぁ? 最新鋭の空間再現技術だよぉ。見て見て、本物みたいでしょ?」 「ほとんど本物だよっ! 化学的に合成されたものだけど、組成は一緒!」

  揺れ動く木々からの木漏れ日。風が吹き、木の葉同士が触れ合ってさざめく音。木の匂い、草の香り。靴越しには冷たい金属ではなく土の、地面の感触。造られたと言われても信じられないほど精巧な、上空から降り注ぐ光も含めて、まるで本物の森がそこにあった。

  「えへへ……、いい場所でしょ~!」

  いつの間にか密接するほどに近づいてきた狸が、そう言いながら、そっと僕をやわらかい草の上に優しく押し倒す。

  「えっ……。」

  ぽすん。シャツ越しに感じる背中の草の感触。朝露に濡れていたのだろうかシャツが湿っていく。がっしりと、両腕を掴まれて地面に押し付けられ、そして、眼前に広がる狸の顔。

  「あのさ……シオン。オイラ……我慢できないや。 ねぇ……ここでシてもいいかな?」

  可愛げに首を傾けて笑みを作る目の前のケダモノ。彼の大きなお腹が体を圧迫する。許可を取るかのように聞いてきてはいるが、その実、有無を言わさないと言わんばかりのこの体勢。きっと断ったところで無駄なんだろうなと思いつつ。

  「……いや、さすがに屋外は……ちょっと。」

  「大丈夫だよぉ、ここは宇宙船の中。ちゃんと屋内さぁ♡」

  僕と狸とのやり取りの間に服を脱いだのだろう、逞しくも整った肉体の狐男が、股座からその立派なモノをぶら下げて、僕の顔を見下ろしていた。二匹の尻尾がくゆりと揺れる。人間を惑わすように、化かすように。

  「いや、そんな問題じゃなくて……。」

  そっと狸が僕の手から手を離すのと同時に、狐の顔も近づいてきて、僕の手が彼の指にゆっくりと押さえつけられる。逃がさないという強い意志。そして僕の上に跨りながら狸も手早く服を脱いだ。

  森に迷い込んだ人間に、深く深くいざなう二匹の獣。言葉だけならまるでおとぎ話のよう。

  皺になったシャツのボタンに二匹の手が勢いよく伸び、ボタンがはじけ飛ぶ。露わになった平たい胸に、彼らはずいと、顔を近づけた。

  「かわいいねぇ、かわいいねぇ♡ その少しおびえた表情、とってもボク好みだよぉ。」

  「怖がらなくてもいいよ! だってこれからいっぱい気持ちよくしてあげるからね♡……!」

  上目遣いに淫靡な笑みを浮かべる二匹のケダモノ。大きく口を開けたかとおもうと、その口がゆっくりと閉じられていく。

  パクッ

  両方の胸に衝撃が走る。ピリピリと電撃の走るような刺激。甘い、甘美な刺激。彼らの歯が、胸の先端に食い込みコリコリと音を立てた。

  「ひぁっ……♡」

  もごもごと二人が口を動かすのが見える。舐め、舐り、飴玉のように転がされる乳首。甘くて、でも苦しくて。何かがこみ上げてきそうな感覚。息ができない。

  「きもひひーひ?♡」

  「もう、リィったら、しゃべるんならちゃんと口を離しなよぉ……♡ でも、おいしぃねぇシオンくんのお・っ・ぱ・い♡」

  執拗な攻めは続く。甘噛み、舌で転がすだけに飽き足らず、焦らすように周囲を舌でなぞったり、そして、思いっきり吸い上げられる。

  「………!?!?♡♡♡」

  魂が抜けていく感覚というのはこういう感覚だろうか。目の前が明滅し、今自分がどこにいるのかわからなくなる。そして何かが胸からあふれ出る。じわり、じわりと濡れていく感覚に、合わせるように彼らの喉が上下して。

  「あぁ、おいしぃねぇ……♡ これだけおいしいのが出るなら、ちゃぁんと子供も作れちゃいそうだねぇ、シオンくん♡」

  「……んっ♡……んっ♡」

  胸からあふれ出る液体に、夢中になって吸い付く狸。濡れた口元をぬぐうとさらなる快楽を望む眼差しをこちらに向ける狐。僕は息も絶え絶えにその様子を見つめていた。

  「それじゃあ、ボクらの子種も仕込んじゃおうかぁ♡」

  パチンとバックルが外され下着ごとスラックスがおろされる。与えられた快楽に、もうずっと疼きっぱなしの下の穴。

  「ほら、リィ。シオン君の脚を持って。こっちは背中から支えるからさぁ♡」

  「はーい!♡」

  立ち上がった狸に、抱えられるように持ち上げられる。背中のシャツ越しからは狐の胸板の感触。下半身に感じるのは二人分の熱。でも、そんなに大きいものが二つとも入るわけ……。

  「ちょ……ちょっと、まっ……。」

  「だぁめ、待たないよぉ……♡」

  「もう、オイラ我慢できないや……♡ それじゃあ、挿れるね♡」

  衝撃が走る。内臓が押し上げられ、圧迫される体内に、肺の中すべて吐き出してしまいそう。無秩序に二人に動かれて、体の奥底、快感を発する部分が悲鳴を上げる。

  キモチイイ。

  思考がただそれ一色に染まっていく。弄ばれるように動かされ、それに合わせて息が漏れる。二人の本能に合わせた動きが徐々に早くなり、少しずつ終わりが近づいていくのを感じた。

  「ちゃぁんと、孕んでねぇ♡ シオンくん♡」

  「もう出ちゃう、出しちゃう……シオンのなかキモチイイよ~……♡」

  「……!?!?♡♡♡」

  ゴポゴポと大きな音を立て、同時に達したのは三匹のケダモノ。中から漏れ出る液体が乱れた衣服を汚していく……。

  二人に挟まれたまま、どのくらいこうしていただろうか。息が落ち着かないうちに彼らが抜け出て、目のまえの狸がにこりとはにかんだ。

  「えへへ~、すっごく気持ちよかった~! もう一回したい! ね~だめかな~?」

  笑顔の狸にこつんと軽いげんこつが落ちる。苦笑いした狐の顔。どこか名残惜しそうにこちらを見つめて。

  「だめだよぉ、リィ。まだシオン君のこと、待ってる子がいるんだから……ねぇ……。」

  二人の声が遠くなる。何かしゃべっているのは聞こえているのに、僕の身体は限界を迎えたようで、瞼が落ちていく。そして、僕の意識は暗闇の中へ。二人から与えられた幸福感と共に……。

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  [newpage]

  僕は、全ての服を脱ぎ、生まれたままの姿でいた。

  この宇宙船の奥底、普段はだれも来ないと言われている最奥の部屋。軟禁用の檻がおかれているという部屋の扉の前に、僕は立っていた。

  ここが、あのオオトカゲ、ジーに割り当てられた部屋である。

  この宇宙船の船員の獣頭の彼らは全員そもそも種族が違う。それゆえに彼らが抱える事情も異なる。

  彼、ジーの場合は彼らの中でも一際事情が異なるようで、彼の番、彼の部屋に来る前に虎男フウによって警告されたのが以下である。

  「服は脱いどけ、絶対ダメにされるからな。あと、大丈夫だとは思うが、お前の身に命の危険が迫るほどのダメージを受けたら警報が鳴るようになってるから……その時は……スマン。あいつにも事情があるんだが……、まぁ、何時かあいつの口から直接聞いてくれ、な?」

  そんな風に言われると、臆病な僕の足を止めるには十分だった。

  とはいえ、彼らのことを受け入れてみようと思ったのも事実。そっと彼の部屋の扉の脇、生体認証装置に手をかざすと何重もロックされた扉が一枚一枚開いていく。

  巨大な金属製の檻。その中央にガリガリと地面をひっかく巨体の蜥蜴男。目は血走り、よだれを垂れ流し。鋭い爪が金属製のはずの床を抉っている。初対面の時とは全然違う、異質な状態。そんな彼が、こちらを振り向いた。

  怖くないなんて、口が裂けても言えないような状況。ただそれでも。一歩、また一歩と彼の方に歩いていく。自分で決めたことだ。後悔なんてしない。

  「グルゥ……ゥゥ……グゥ……。」

  地の底から響くような唸り声。血走った眼はまだ意思の光をたたえていたが、理性と本能の間に揺れているように見えた。

  近づく。近づく。辿り着く、彼の顔に手が届く距離。

  彼の瞳がこちらの存在を認識すると、ペロリと何かを確かめるかのように大きな口から舌が出し入れされ、おもむろに蜥蜴の巨体が立ち上がった。

  その股座に存在したのは、その体躯にふさわしい大きさの、まるで巨木。脚の間の割れ目からそそり立ち、零れ落ちた先走りが金属の床に水たまりを作っていく。

  こちらに顔を近づけ、獲物を追い込むかのようにぐるぐると周りを四つん這いで歩き出す蜥蜴。ぐるり。ぐるり。これから何をされるのか、期待と恐怖が入り交じり、心臓が爆発しそう。

  不意に背中に走る衝撃。何が起こったのか理解することができずに地面に倒れ伏した。思いっきり彼の体重を背中から全身に受けるのを感じて、そこでようやく床に押さえつけられていることに気が付く。

  ヒンヤリとした床に相反するような熱を持つ彼の身体。背中越しに触れるすべすべな腹部に、下半身に感じる熱いもの。思いっきり体重をかけられて押し付けられると、もう逃げられない。

  「ぐるぅ……♡ ぐるぅ……♡」

  先ほどに比べると優しく唸り声をあげながら、自分の物だと主張するように何度も体をこすりつけてくる。鋭いうろこが自分の皮膚を切りさくかと思えたけれど、ただただこすれる感触だけ。素肌への甘い刺激だけ。

  そして、彼が力強く腰を引く。僕は察して、次に来る衝撃に備えた。

  「グルァッ!♡」

  激しい突き上げ。体が壊れてしまいそうなほどの衝撃と痛み。そして……快感。抉られる体内。激しく動く蜥蜴の動きに呼吸することすらままならず。

  「っ……♡ んっ……♡ やっ……♡ まっ……♡ って……♡」

  かろうじて捻りだす声、だけど当然、聞き入れられることはなく。

  「くるる……♡ くるる……♡」

  唸り声は、甘えた声にかわり、でも動きは激しさを増して。最奥を越えて、最後の一撃がくらわされた。

  激しい水音。何度も何度も僕の中に吐き出された白濁が、何度も何度も中を刺激して、体内の快感を発する器官が限界だった。刺激に連動するように、僕の下半身の小さな蛇口は壊れたように薄い液体を垂れ流す。

  垂れ流した液体が、すでにできあがっていた水たまりに混ざり、わずかばかりにその体積を増した。

  「フーッ♡ フーッ♡」 「ぅ……♡ ぁ……♡」

  荒く息を吐くケダモノ。呼吸を整える間もなく再び蜥蜴が動き出す。

  「も……♡ むりぃ……♡」

  「くるるる……♡ シオン……♡ すき……♡」

  体力の限界。意識を手放す寸前、喉を鳴らす音に混じって、確かにそう、聞こえた気がした。

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  [newpage]

  「どんなおめでたい頭してたら、ホイホイとあんな誘いについてきやがるんだ?」

  どこか怪しむような眼差しでこちらを見つめてくる蝙蝠男。ヴァンと名乗った彼は、廊下を歩きながらも続ける。

  「こっちはお前みたいな異星人を捕まえてきて、手籠めにしてやるって言ってんだぞ? わかってんのか?」

  信じられないと言わんばかりな表情をしているが、彼の筋張った手は僕の手を離さない。

  「えっと……。」

  口が詰まる。口に出そうとしたのは、僕がいじめられるきっかけを作ったこと。僕は、本当は、彼らのような人外の存在が好きだということ。

  過去が僕を苛み、無意識のうちに口を閉ざした。

  「何考えてるんだか、変な奴……。 まぁいいさ、どうせお前も……。 こうなったからには、これからお前で遊んでやるよ。」

  握られた手が急に引っ張られて、部屋の中へと力任せに引きずりこまれる。暗い、ほとんど何も見えないほど暗い部屋。

  室内に薄暗く灯った明かりはまるで蠟燭のようで、本物の火かどうかわからないけれど、ぼんやりとした明かりが揺れ動く。

  暗くてほとんど何も見えない部屋。かろうじて中央に置かれている豪勢なベッドだけ確認できる。

  誰が触れずとも後ろの扉が閉まり、暗い部屋の中。光る彼の赤い双眸。暗闇に光る赤い瞳が、揺れる、炎と一緒に揺れている。

  しんと静まり返った部屋。耳鳴りが聞こえてきそうなほど静かで、何も音が聞こえない。赤い瞳が揺れる、揺れている。目が離せない。

  「さぁ、こっちにこい。」

  彼の声が耳に響く。頭の中に彼の声が響く。それだけのはずなのに、だんだん頭がぼーっとしてきた。ふらふらとおぼつかない足取りで、彼の元へと足が勝手に動く。

  「……?」

  いつの間に脱いだのか、寝台に座っていたのは整った筋肉質の裸体を晒す蝙蝠男の姿。股座からはそりたつ男根。視線がそちらに向いたことに気が付いたのだろうか。ニヤリと牙を剥いて笑う蝙蝠がそこにいた。

  「跪け。」

  無音の空間に彼の声だけが響く。体が、勝手に動く、どうしてと疑問を挟むこともなく。寝台の上の彼の前に膝をついて、自然に彼の顔を見あげた。

  目が赤い、光る赤い目が、揺れる、揺れている。思考も一緒に揺れて、揺れていき、何も考えられなくなる。

  頭上には彼の赤い瞳、眼前には彼のそそり立つ雄の象徴。

  「いい感じに思考が溶けてきただろう? もう、お前は俺の言いなり。 いや……俺の意志のままに動く人形だ。クククッ……。」

  笑う、哂う、嗤う。蝙蝠が笑う。そして、体が動かない。頭の中も、動かない。

  「さぁ、お前に命令しよう、俺のココを綺麗に掃除するんだ、できるな?」

  彼が自らの股座を指さす。僕の身体は首をこくりと勝手に動かすと、そっと彼のペニスにそっと指を添えた。

  ぺろり。

  舌が出る。舌を這わせる。彼の香り、彼の匂いが鼻腔と口内に広がる。雄の香り。精の香り。

  ペロリ。

  きれいにしなければ、という義務感が頭の中にいっぱいになり、必死に彼のモノを舐めていく、しまいには口に含んで、口の中で舐めあげるように。そうしているうちに、彼が、徐々に膨らんでいくのを感じ、そして、ふと強く頭を掴まれた。

  「よくやった。 これは褒美だ、受け取れ……♡」

  口内を思いっきり突かれ、喉元まで入ってくる。息ができないけれど、脳内に占めていくのは幸福感。命令通りにできて、褒められて、これがご褒美だと教え込まれるように、何度も何度も出し入れされる。

  そして、あふれ出る白濁。口の中を大量の液体が満たし、ごくり、ごくりと嚥下する。おいしい。そう脳内が思うように命令されている。その後、彼がゆっくりと自分の中から抜け出るのを名残惜しそうにみつめて。

  「さぁ、次はお前を俺のものにしてやるからな……。」

  ベッドの上に押し倒される。シャツのボタンを外され、眼前には大きく口を開けた蝙蝠の顔。それが、僕の首元に近づいたかと思うと、軽い痛みが首筋に走った。

  噛まれたのだと気づくのも束の間、じゅるじゅると唾液の音とともに、彼の喉が上下する。

  血を吸われているのだと、理解するのに時間はかからなかった。

  出血するほど強く噛まれているはずなのに、感じているのはただただ甘い感覚。全身が幸福感に包まれ、快感にしびれていく。着ていた薄青色のシャツがこぼれた血で赤く染まっていく。

  気持ちがよくて、ただ血を吸われるだけでイってしまいそうなほど。目の前が白んでいく。声のない喘ぎをただただ上げることしかできず。

  「……っはぁ、久しぶりなもんで、つい吸いすぎちまったか。ククッ、だがいい感じに力が抜けてきただろう? もういいよな……?♡」

  ズボンをずらされ、露わにされる僕の下半身。全身に力が入らず、ヒクヒクと痙攣するのを感じられるのみ。そこに押し当てられるのは先ほどまでくわえていた巨大な雄の象徴。

  無遠慮に思いっきり突き立てられるも、脱力したこの体はあっさりとそれを受け入れ、そして快感を発する。

  口内を犯していた時と同じように何度も何度も出し入れされ、口寂しいのか血が出ない程度の甘噛みを繰り返される。

  きもちいい。突かれる。噛まれる。出される。舐められる。繰り返される彼の愛のカタチ。

  でもどんなものにも終わりは訪れる。体内で膨らんだ彼が欲望を僕の中に放ち、抜け落ちた。

  「……。」「……。」

  沈黙。

  快感で動けない僕をどこか悲し気な瞳で見つめる吸血鬼。

  「悪いな。突然見ず知らずの奴に犯されるなんざ……嫌だっただろ?」

  最初のつんけんした態度はどこへやら。様々な感情の入り交じった眼差しでこちらを問う蝙蝠に、僕は。

  「ん……。嫌じゃ、ないよ。」

  そう絞り出すように言った。

  でも、その答えはきっと彼の想定していたものではなかったのだろう、信じられないという疑惑の目を僕に向ける。

  「嘘をつくなよ……! 本当のことを言え……!」

  彼の眼が再び赤く光る。そうすると、頭がぼーっとしてきて何も考えられなくなる。僕はただ本能のままに、口を動かした。命令されたように、本当のことを。

  「僕は、僕と同じ人間よりも、君達みたいな生き物の方が好き……。」

  赤い目をまん丸に見開き、驚いたように口を開いたままの吸血鬼に、僕はただただ、思っていたことを続けた。

  「力強くて、野性的で、僕にはない美しさがあって……。想像上でしかなかったけど、好きだったんだ……ずっと。」

  言えなかった本音。あの時からずっと言えなかった本音。彼の瞳からそっと赤い色が消え、僕の頭に思考が戻ってくる。

  「……。嫌じゃ……なかったよ? むしろ……よかったかも……。」

  赤面。恥ずかしい。血にまみれてはだけたシャツ。よれよれのシミだらけのズボン。そんなこと気にならないほど恥ずかしい。

  ただ気持ちよかったのも事実。半ば無理やりだったけれど、強引なのもまた良かったりして……。でも気恥ずかしくて目をそらす。

  「やっぱり、変な奴だ……。お前は……。」

  そう言って笑う蝙蝠男の笑顔は、いままで見てきた中でで一番の自然な笑顔だと、僕は思った。

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  [newpage]

  「やぁっと俺の番だな!」

  そう言って満面の笑みを浮かべるのは狼男のロウ。彼の部屋の中、小さな丸いテーブルに向かい合わせに僕は座っている。狼男は上機嫌で今にも鼻歌でも歌いそうなほど。喜色満面。

  「思っていた以上にシオンが頑丈そうで、俺との交尾にも耐えられそうでよかったぜ~! 最悪、俺はお預けになっちまう可能性があったからなぁ……。」

  笑顔に反比例するかのようにすごく不穏だ。

  確かに今までも彼らと愛を交わしてきたけれど、よく無事だったと思う。だというのに、耐えられそう、というワード。一体どれだけ激しいことをされるのか。

  「それじゃ早速……。始めるとするか!」

  あっという間もなく、椅子に座っている僕を大事なものだと言わんばかりに優しく抱え上げると、ベッドの上まで運ばれていく。

  そして僕の視界に広がる狼の大きな口。

  「できるだけ優しくしてやるから、耐えてくれ……な?」

  それが僕の首元めがけて思いっきり閉じられる。首筋から血が流れだし、彼の唾液と混じり薄赤色の川が流れる。

  激痛。それを覚悟していたのに、全身を襲うのはゾクゾクとした快感。しかし、それだけではなかった。

  身体中を流れる血液が沸騰するかのように沸き立つ。全身の毛が逆立つような感覚と共に、変化が、始まった。

  鋭く伸びていく爪。指先から生えていく毛は彼とおそろいの銀色の獣毛。徐々に、徐々に、全身へと広がっていく。

  肉体が膨らみ、シャツが、パンツが、ズボンが、肉体の変化に耐えられず裂けて、破片が散らばった。

  骨がきしみ、骨格さえも変化していく。背骨からの違和感が少しずつ伸長し、お尻から揺れるのは新しい器官の感覚。ふりふりと本能のままに尻尾が揺れた。

  そして、変化は頭部にまで広がっていく。鼻先が伸び、耳が頭上にずれていく。歯は鋭い牙へと伸びていく。

  変わってしまった。人間ではなくなってしまった。

  だというのに、心の中にあるのは恐怖ではなくて、増していく彼に対する愛情。

  彼と結ばれたい。彼と交尾したい。そんな感情が頭の中を支配していく。

  「わ……♡ わぅ……♡」

  「へへっ……前の姿もかわいかったけど、もっと俺好みの姿になったなぁ……♡ これに耐えれなくて死んじまう奴が故郷の星には多くてなぁ……。」

  ペロリ、ペロリと気遣うように頭の毛を舐められる。まるでツガイに毛繕いをしているかのように。僕がまだ生きていることを喜ぶかのように。

  「それじゃ……、ヤろうぜ、シオン♡」

  「わぅ……、は、はぃ……♡」

  変わった口にいまだに慣れず、上手くしゃべれないけれど、なんとか肯定の言葉を紡ぐ。

  本能のままに、彼に背を向けて四つん這いになって尻尾を立てる。狼の交尾ってこんな感じだったっけ、なんて考えながら。尻尾を左右にゆっくり振って彼を誘った。

  「グルル……♡」

  嬉しそうに唸る声が背後から聞こえる。そして、彼が覆いかぶさってきた。

  毛皮に覆われた厚い胸板。優しく僕の腕に腕を絡ませて、ペロリ、ペロリと首筋を気遣うように舐めてくる。すでに彼に噛まれた傷はなく、ただ微かに跡を残すだけ。

  そして、熱いモノが体に触れた。

  濡れそぼる巨大な槍。それが体の中へと吸い込まれるように突き入れられていく。

  「わぅん……!♡」

  思わず、子犬のような声が漏れた。びっくりして。気持ちがよくて。その声が彼の情欲を誘ったのだろうか、繰り返される抽送。加速する。加速していく。快感も増していく。

  唸り声。激しくなる動き。興奮のあまり、彼の口が僕のうなじを嚙みついた。逃がさない。逃がさないという意思表示。僕は与えられた快感に、ただただ子犬のように鳴きわめくだけ。

  それから間もなく、彼が一際大きく腰を引いた。そう感じたと思うと同時に思いっきり突きあげられる。彼のペニスの根元にある膨らみまで体内に受け入れて、そして。

  「ぐるぉおおおおおん!!!♡」「わぅぅううううん!!!♡」

  絶頂と共に、響く二頭の狼の遠吠え。流し込まれる生命。絶対に孕ませてやるという強い意志。それが体内をかき混ぜ、快楽を発する。

  彼とつながったまま僕の手足は、もう快感で限界。彼に押しつぶされるようにベッドに倒れ伏す。背中から一仕事を終えた僕に対してねぎらうように舐める彼の舌の感触を最後に、僕の意識は遠のいていった。

  ……。

  目を覚ますと、ベッドの上。狼男の寝息が横から聞こえる。

  先ほどまで視界の中にあった狼だった自分の鼻先はすでに見えなくて、そっと彼の頬を撫でた自分の手は、いつの間にか元の人間の物に戻っていた。

  少し残念なような、でもほっとするような感覚。自分の身体を確認しているうちに、むにゃむにゃと、横の狼が口を開いた。

  「シオン……、好きだ……愛してる……。」

  狙って言ったのではないかと疑いたくなるほどの寝言。そんな彼に、そっと僕は頬に口を付けて、起きてこないことを確認すると、ゆっくりと目を閉じて、甘美な二度寝の世界へと旅経つことにした。

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  [newpage]

  「あ~、やっとボクのばんだね~。まちくたびれちゃったよ~。よろしくね~シオン君!」

  バンバンと蛇男に背中を叩かれながら、船内の廊下を歩く。緑色の鱗がテラテラと光る蛇男のゲー。それが今回のお相手である。

  「ウフフ~、シオン君なら僕ともやっていけるって、ドクターからお墨付きをもらったからさ~。ウフフ~楽しみだなぁ~♡」

  そう言いながらエスコートしているつもりなのか、僕の腰に手を回す蛇男と向かっているのは船内の一番底部、使われていない倉庫だと聞いている。

  壁も、床も、冷たい金属がむき出しで、使われていないというだけあって何もない。それだけの部屋。

  「ここじゃないとね~、周りに迷惑かけちゃうからさ~! ごめんね~雰囲気も何もない部屋で~……、あ、服はちゃんと全部脱いでね~、ダメにしちゃうぞ~♡」

  ニタリと口角を上げる蛇男に言われるがままに服を脱ぐ。ジャケットを脱ぎ、シャツのボタンを外し、恥ずかしいけれど、ズボンも下着まで脱いで、畳んで床に置いた。

  彼らの前で裸になるのも、これでもう何回目だったか。とはいえ恥ずかしいものは恥ずかしい。恥ずかしさのあまり顔が火照り、つい伏し目がちになってしまう。

  「ん~、おいしそうだね~シオンくん♡ それじゃ、いただきま~す♡」

  音もたてずに僕の身体を確かめるかのように僕の周りをくるくると回る蛇男、一体どんなことをされるのか。覚悟を決めて目を開け、彼の顔を見上げる。すると。

  「あ~ん♡」

  眼前に広がる彼の口内。鋭い牙、真っ暗な深淵。真っ赤な舌が、チロチロと揺れる。がっしりと腰のあたりを彼の鱗質の手に掴まれて、思いっきり持ち上げられたと思ったら、天地が逆転し、

  世界は闇に包まれた。

  全身にまとわりつくどろりとした液体。脈動する肉が皮膚に触れ、奥に、奥に取り込まれていく。何が起こったのか理解できなくて、たまらずもがこうとするも、肉の壁に阻まれて、身動きが取れない。そして、深いところまで落ちていくのを感じた。

  「どうかな~、僕のお腹のなか、きもちいいかい~?♡」

  遠くから声がする。そこで僕はようやく、彼に食べられてしまったとのだと気が付いた。彼の声に連動して肉の壁がうねる。その壁から染み出す液体は、まさか……胃液?

  「……!?!?!?」

  声にならない悲鳴をあげる。それが彼の体内で響いて彼の耳に届いたのか、外から聞こえたのは大きな笑い声。

  「アハハハ! そんなに怖がらなくても大丈夫だよ~、簡単には溶けないはずだからね~♡ 今の君なら、せいぜい温泉に浸かったときみたいにドロドロになっちゃうくらいじゃないかな~……、なんてね♡」

  じわじわと液体が触れたところが熱を持つ。熱い、熱い。でも、それが気持ちよくて。敏感になった皮膚を彼の体内がこすってさらに刺激される。気持ちいい、これが?

  「僕の種族はね~、こうやってお嫁さんになってくれる人を丸のみにして、ほかのオスに取られないように巣穴まで運ぶんだよ~、だけど胃液の強い僕には耐えてくれるお嫁さんができなくてさ~、ずっと無理だとおもってたんだ~♡」

  全身に媚薬を塗られたみたいに皮膚がジンジンとうずきだす。血液が沸き立つ。僕の小さな男の象徴さえも快感を主張して。

  「名残惜しいけど、そろそろ吐き出すね~♡ ボクも本番……したいし……♡」

  突然の、押し上げられる感覚。体が浮かび上がっていく。ごぽごぽと泡立つ音と共に、外から光が見えた。

  全身がべたつく液体に包まれて、吐き出されたのは倉庫の床の上。吐き出された場所の金属の床から煙が出てるのは、溶けていっているからだろうか、その事実にゾッとする。

  ただ僕の身体は与えられた快感が抜けきらないまま。疼く体が動かせないままに身を震わせていた。ひくつく全身、下半身も何かを受け入れたくて、ただただ震えて。

  それを見て蛇が笑う。彼の股座の穴からは狂暴そうな二本の剣がポタポタと先走りをこぼしながら構えられていた。

  「じゃあ、本番……しようか~……♡」

  動けない体に巻き付くように絡みつく彼の長い尻尾。お尻に押し当てられた二本のヘミペニスはガチガチに硬くなり、全身に力が入らない僕の身体にあっさりと突き入れられてしまう。

  「うわぁ~……♡ シオン君の中ってあったかいね……♡ い~っぱいボクとの卵、孕んでね~……♡」

  こちらのことなどお構いなしに乱暴に動き回る二本の性器。ぐちゃぐちゃに中をかき回され気持ちがよくて、もう頭の中がどうにかなってしまいそう。そして、体内で爆発するかのように吐き出される精液。呼応するかのように僕の中からもポタポタと薄い液体がこぼれていった。

  全身を襲う倦怠感。ぐちゃぐちゃにされた体は、もう意識を保つことができなくて。

  「もう、離さないよ~……シオンくん♡ 一生、大事にするからね~♡」

  最後に聞こえた声は、まるで胃袋の外から聞こえるかのように、ぼんやりとしていた。

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  [newpage]

  「さて、シオンさん。 何人かお相手をしていただきましたが、……どうでしたか?」

  目の前の蛸の頭をした人型生物、オクタという名前の医者、が電子カルテのようなものだろうか、タブレット端末のようなものを操作しながらそう言った。

  病院の診察室のような部屋。見たことのあるようなないような大量の医療器具に、何に使うのかわからない機械群。最初に出会ったときに着ていた作業着ではなく白衣に着替えた蛸男が、その機械の内の一つを手に取って、返答を促すかのようにこちらを向いた。

  「ど、どうって……。」

  今までの痴態が脳裏によぎり、思わず赤面する。噛まれたり、舐められたり、そして、彼らに愛情を注がれていく自らの姿を思い出す。気持ちよかったけれど、恥ずかしさは、また別だ。

  「体に不調はありませんか? あれから毎日こちらでチェックはしていますが、我々の技術力でも完全とは言えませんからね。」

  そう言って、彼はこちらにコンビニレジのバーコードリーダーのような機械をこちらに向けた。機械が音をたてている、何かを記録しているのだろうか。蛸男はふんふんと頷いては別の触手で端末を操作する。

  「再生能力向上手術と耐久性向上手術は無事に定着していますね。あの星の方々なら簡単に死ぬような傷でも無事みたいですし……、それなら我々の中でも命にかかわりそうなメンバーとの交合を進めても問題なさそうですね。」

  そう言って蛸男の眼が嬉しそうに細められる。

  い、命にかかわるって……。いままでも散々痛そうな、でもきもちいい、ことをされてきたというのに……。これからどんなことをされるというのか。

  「では最後に私自身の手で最終チェックといたしましょうか。殺してしまったら申し訳ありません。まぁ、私、医療ミスで殺したことは未だありませんので、安心してくださいね?」

  そう言って目の前の蛸男の触手が迫る。触手が器用にジャケットを脱がし、シャツのボタンを外し、ズボンのベルトさえも取り外していく。

  「汚してしまうと後処理が面倒ですからね、着衣は脱がせてもらいます。それでは、始めましょうか♡」

  蛸男がゆっくりと近づき、そして背中に回る。殺してしまったら、なんて、そんなこと言われて恐怖しないわけもなく、だけど動くこともできなくて、背後に感じる気配に、唯々おびえていた。

  「あまり激しく動かないでくださいね、動き方が悪いと、うっかり殺しちゃいますから……ね♡」

  頭をがっちりと手で固定され、ひたひたと触手が首筋を滑る。頬を通りそして、耳に触れた。鼓膜に響くナニカの音。

  信じたくなかった。耳から触手が入ってきているなんて。

  「や、やだぁ……。」

  「大丈夫ですよ、安心してください。ちゃんと気持ちよくしてあげますから……♡」

  僕からの拒絶の言葉もなんのその。頭の奥に、奥にと何かが滑る。そして何かが切れた音が聞こえた気がした。

  「……シオンさん、ここがあなたの脳ですよ。これから少しあなたの脳を刺激します。気持ちよすぎて壊れてしまうかもしれませんが、その時はちゃんと直してあげますから安心してくださいね♡」

  「~~~~~!!!!!?!??!?」

  恐怖で叫びたかった。でもできない。本当に怖い時は身体が動かないんだ。なんて、恐怖で凍り付いている自分とは別に、冷静に考えている自分がいた。

  痛みがないのがなおさら恐怖を誘う、嬉しそうに頭の中を這いずる触手の感覚。そして。

  触れてもいないのに、ピクリと身体が動いた。僕の平たい胸の先端、乳首。股座で縮こまりまるで子供の物みたいに小さな男性器。散々彼らに貫かれた下の穴。それらが一斉に疼き出す。

  ありえないほどの快感。強制的に引き起こされる感覚に、頭の中が真っ白に染まっていく。何も考えられない。快感以外何も感じない。呼吸ができない。ただただ脳が快感に支配される。

  顔からは涙やよだれをまき散らし、胸からは乳汁があふれ出す。壊れたかのように股間からは薄い液体を垂れ流し、下の穴は物欲しそうにひくついている。壊れてしまった。壊されてしまった。僕は。

  「これだけ激しくしても無事ですね。これなら大丈夫そうです。それでは、私も楽しませていただきましょうか……♡」

  彼の白衣の中、股座のあたりから一本の触手が飛び出す。グロテスクな、陰茎を思わせる肉の塊。それもまた、僕の身体の中に吸い込まれていく。

  さらにぐちゃぐちゃと触手が僕の全身をうねる。両胸、股座、そして下の穴。全身を犯される、犯されていく。壊れてしまう。壊れていく。

  そして肉穴を貫いた触手がごぽりと膨らんだかと思うと、止めだと言わんばかりに体内に精の塊を流し込む。激しい絶頂感。痙攣が止まらない。

  そこで僕の意識は薄れていって、

  「あ……つい、やりすぎてしまいましたね。 ま、まぁ生命反応に異常はないので大丈夫でしょう。うん。」

  最後にどこか焦った様子の彼の声が聞こえた気がした。

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  [newpage]

  僕が彼らに誘拐されて、地球時間にして一年近くが過ぎた。どういう理屈かはわからないが謎の技術で、いつの間にか僕の部屋が船内に増え、そこで何度も彼らの相手をしていくうちにと、あっという間だった。

  「まぁまー。」

  僕の両手には狐と狸の赤ん坊。お腹がすいたと言わんばかりに両胸に吸い付いている。吸い上げられる感覚に母性本能をくすぐられつつ乳汁を飲み終えた彼らを、そっとベッドに寝かせる。何個も並ぶベッドに、僕から、僕と彼らから生まれた愛の結晶達が並んで眠っている。

  人間と比べると成長速度が速いのか、生まれてそれほど経っていないのに、もうこんなに大きくなった。種族によって成長の差もあるようで一番最初に生まれた蛇の赤ん坊は、もうすでに食糧合成装置で作られた肉みたいな食べ物をひとのみしているほど。

  「どうした、シオン? 考え事か?」

  今日は非番である虎男が、我が子が寝ているベッドから離れてこちらに近づいてきた。その表情は我が子にべったりといった感じのにやけ面で、ほかの父親たちも大体同様。自身の血を引いていない子の世話も甲斐甲斐しく、みんなやってくれている。

  「ん……。みんなにあのまま連れてこられちゃったけど、僕、失踪したことになってるよね。事件になってるだろうし、大丈夫かなって。せめて両親にだけでも無事だって知らせたいんだけど……。」

  「ああ、それに関してだが、ちゃんとお前の部屋に情報保存媒体をおいてきたから大丈夫だとはおもうぜ。お前の両親については、こっちの情勢が落ち着いたら改めてあいさつにでも向かうか!」

  ニカッと笑う虎男。うーん、こんな生き物、両親が見たら卒倒してしまうんじゃないだろうか。それに子供までできてるなんて言ったら心臓が止まってしまうかもしれない。

  ひとまず、彼らが何らかの対策をしてくれているみたいだし、僕にできることはもう何もないだろう。僕には僕ができることをするまでだ。

  ただ、ふと思い出す。 あの日、あの時、彼らに連れてこられて僕は。

  「しあわせ、だなぁ……。」

  「そうか、そうかぁ……。」

  つい聞かれた独り言に、うんうんと頷く笑顔の虎男。

  「それじゃあ、もっともっと俺が幸せにしてやるから……な?」

  虎男の顔がゆっくりと近づいてきて、そして。

  「コラァッ!フウの奴、今日はシオンは休養日だろがぁッ!」

  「すとっぷ! すとーっぷ!」

  「抜け駆けは許さないよぉ!」

  「フンッ……お前だけにいい思いさせるかよ!」

  「ずるい~、ボクもボクも~!」

  「オレも、シオンと……キス、したい……。」

  「やれやれ……仕方のない人たちですね……。」

  いつの間に扉の前にいたのか、皆がなだれ込んでくる。ドタバタとした新しい日常がそこにあった。かつての、暗い、暗闇の中をただ彷徨うだけのような日々ではない、幸せな日常。

  どうか願わくば、この幸せがずっと続きますように……。

  アブダクション☆ 獣人型宇宙人に誘拐されちゃった!?  了

  [newpage]

  「先輩、一体何なんでしょうね、この事件……。」

  二人の警官がアパートの一室を捜査している。警察の制服に身を包んだ年配の警察官とまだ年若い警官。部屋の様子からは、一人暮らしの男性の部屋だということが見て取れる。男物のスーツ、私服、洗面所には一人分の歯ブラシ、髭剃り。女性の気配は一切ない。

  「何って、なんだ新入り。世界各地で頻発している失踪事件、ってだけだろ? そもそも全部同じ事件だと決まったわけじゃねぇんだ。そうやって先入観で捜査してると足元すくわれっぞ……と、なんだこりゃ?」

  年配の警官が見つけたのは小さなタブレット端末のような何か。とりあえず押収して解析班に回そうと密閉された袋に詰めようと手に取る。

  すると、スイッチを押していないはずなのに電源が入った。

  画面の中にはよく見たことのあるフォーマットの画面に数件のファイルと閲覧用のアプリケーションが並んであるだけ。

  他は一切何も見当たらない。テキストファイルと動画ファイルが数件。

  「……おい新入り、お前、これ確認しとけ。 俺はこういうのはようわからん! さすがにぶっ壊して始末書は避けたいからな。」

  「え~! 俺だっていやですよ、先輩! って……も~、しょうがないなぁ。」

  タブレットを渡して別の部屋へと言ってしまう年配の警官をしり目に、若い警官はタブレットを覗き見た。テキストファイルは目が疲れそうだからと動画ファイルを再生する。

  そこに映し出されたのは、動物の頭部をもつ人外の生物に犯されている行方不明者の男性の映像。CGか特殊メイクかはわからない。ただ、犯されている男性は確かに失踪したとされるこの部屋の住人であった。

  「せ……先輩。 こ、これは……。」

  返事がない。隣の部屋なんて壁が薄くて簡単に声が届くはずなのに。そして急に照らされる室内。窓から輝く光。そして……。

  「ミツケタ……!」

  …………

  「午後のニュースです。先月から世界各地で頻発している連続失踪事件ですが、ついに警察からも被害者が出てしまった模様です。失踪事件の被害者とみられる男性の部屋を捜査中に失踪したとみられており、警察庁では全力をあげて捜査に臨むとのコメントをいただいております……。では次のニュース……」

  おしまい……?

  [newpage]

  乗員プロフィール

  虎人  フウ

  元軍人。上官の理不尽な命令に逆らい、その上官相手に暴力事件を起こしたため、婚姻権を剥奪されてしまう。

  その後、パンデミックにより地球人類に見た目が似ているA種生命体(彼ら獣人の遺伝子を取り込んでその子供を産むことができる)が絶滅の危機に瀕したため、外宇宙にその近縁種を捜索する任務に志願し、776番艦の隊長として任命される。

  特例として、今回の任務で新種族を発見することができれば、その種族と婚姻することを許可されたため、任務には本気で当たっている。

  婚姻した相手をどれだけ大切にしているかを親族に見せる文化があり、映像ファイルをシオンの部屋に残すように設定したのは彼である。

  狸人  リィ

  エンジニア。成人前にパンデミックが起こり、今のままでは一生結婚できないと父親に言われ続け、童貞のまま死ぬのは嫌だという動機で今回の任務に志願。

  自分の住んでいた星から出たことがないにも関わらず、外宇宙探査という難度の高い任務に志願してきた彼だったが、エンジニアの腕前は本物だったため、問題児だらけの776番艦のメンバーに。

  船内庭園の管理を行ったり、宇宙船内の空間管理システムを操作してシオンの部屋を作成したりしている。

  狐人  レン

  元詐欺師。犯罪者専門の詐欺師で様々な組織に潜入しては内部分裂や、情報のリークなどを起こし組織を分解させ、おこぼれを預かる形でお金を稼いでいた。

  その結果、各方面から恨みを買い、命を狙われるようになったため、ほとぼりが冷めるまで外宇宙に逃亡するために今回の任務に志願。

  人手不足の中、航空宇宙士の資格を持っていたため採用となったが、その犯罪歴のため776番艦のメンバーに。

  蝙蝠人 ヴァン

  元カルト教団の御神体。生まれた時から強力な催眠能力を持ち、それをカルト教団に利用される形で育つ。成長するうちに利用されていることに気が付き、嘘ばかり言って近づいてくる周りの大人に、他人を信じられなくなってしまった。

  ある日、とある詐欺師によってカルトは崩壊。その詐欺師に引き取られる形で教団を離れ、無理やりの同行者として今回の任務に参加。その催眠能力によるトラブル回避が期待され776番艦のメンバーに。

  狼人  ロウ

  元軍人。フウとは同期。フウが軍を辞めさせられる際に一緒に辞表をたたきつけ出奔。

  子を成しやすくするために、別種の生物を自らと同じ種に不可逆的に変化させるという能力を持つ種族だが、細胞の負担が大きく、ほとんどの種族は細胞の変化に耐えられず死亡してしまうため基本的には使えない。

  一番死亡率が低かったA種生命体が絶滅の危機に瀕しているため、自らの子を抱くことはできないとあきらめかけていたところ、今回の任務に志願した。出奔した元軍人という、本来なら採用されることはなかったかもしれない経歴だったが、無事に776番艦のメンバーに加入した。

  シオンの場合は施された再生能力向上手術の一環で、変化が不可逆ではなく可逆的となっている。

  

  蛇人  ゲー

  航宙技術通信士。外部との通信や管理機器の操作を行う担当。

  古代、彼らの先祖はツガイとなる生物を体内に隠して守る習性があり、現代、人型に進化したあとも風習として残っていたが、死亡事故が多発したため、胃液を薄める薬品を摂取することで執り行われていた。

  しかし、彼の場合その薬品に拒絶反応が出てしまう。そのため、今回の任務に志願し、外宇宙で自らの胃液に耐えられる相手を探すつもりだったようだ。

  蛸人  オクタ

  船医。大病院の医者の一人だが、現在は殺人の罪で服役していた。

  数多の患者を診ていくうちに、死病の患者ばかりを割り当てられ、救うことができない彼ら、痛みに苦しむ彼らを安らかに眠らせるために殺人に手を染めた。

  人手不足、医者不足のため今回の任務に抜擢。司法取引もあり減刑を条件に、寄せ集めである776番艦のメンバーになった。

  蜥蜴人 ジー

  

  もともとは普通の蜥蜴人であったが、犯罪組織に拉致され強化兵士への人体実験の材料にされた。筋力強化改造、脳改造などを経て、もともとの生物とは完全に別種のような生命体になり、かつての同種とは子を成せないとされている。

  脳改造の影響か、人型生物へと進化する過程で無くなった発情期があり、そのたびに狂暴化してしまう。

  その犯罪組織が崩壊した際に軍によって回収されるも、扱いに困り処分寸前に。だがフウの元上官の案で妨害のためにと、776番艦のメンバーに編入された。

  シオンとの間には子供に恵まれ、発情期の狂暴化は安定傾向にある。