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異星文化交流

  「当機はまもなく人工重力を切り離し、惑星重力に移行します。軽い違和感や目眩を感じることがありますが、身体に害がないことは統計的にも——」

  無機質な電子音声が機内に響く。

  シートベルトの締め付けも手伝ってか、四時間ほど前に流し込んだ機内食が逆流してくる感覚。

  目をつぶり喉奥の酸っぱさに耐えていると、今度は例のヤツが来た。オトコなら誰しも一度は体験するアレだ。その、タマの辺りがゾワゾワっとするアレ。羽毛でくすぐられているようで、思わず声が出そうになってしまう。吐き気よりは幾分マシだが、好ましいとは言えない。

  「惑星Kー9着陸ステーションの天候はおおむね良好。地表付近の気温は摂氏二十八度、湿度は八十五パーセント。少し蒸し暑さを感じるでしょう。適度な水分補給を心がけてください」

  少し蒸し暑い、ね。

  惑星Kー9。表面の七割近くが熱帯雨林に覆われている。平均気温は三十度前後。湿度は常に高く一日に何度も雨が降る。

  そして——そこに暮らすのは、宇宙時代においても外部との交流をほとんど持たない部族。〝未開〟と呼ばれることもあるが、実際には降下ステーションや最低限の交易の窓口は存在している。必要な物資をやり取りし、調査隊や観光客を迎え入れる程度の関わりはあるのだ。

  ただ、数少ない報告は口をそろえている。彼らは極めて独自の文化を守り続けていて、よそ者が深く入り込むことを警戒している、と。未開なのか、それとも……ぼくたちがまだ理解していないだけなのか。

  このときはまだ、自分が〝観察する側〟だと思っていた。

  まさか自分の身体まで観察されることなんて、夢にも思わずに……。

  「……中村くん、配属されてまだ間もないところ悪いが——きみに任せたい任務がある」

  課長に会議室へ呼び出された日のことを思い出す。

  「に、任務ですか?」

  胸が少し高鳴る。書類仕事ばかりだった前部署から異動してきたばかりだ。

  ようやく現場に近い仕事ができるかもしれないと、一瞬期待した。

  「異星文化交流事業の一環として、惑星Kー9に行ってもらう」

  「け、Kー9ですか?」

  即座に期待が萎んだ。資料で名前を見たことはある。辺境、熱帯雨林、未開部族。先進的な技術など望めない場所。

  「わかっている。不満だろう。だが、人員と予算の都合でね。人気のない派遣先に回せる人材が限られているんだ」

  人気のないって言っちゃったよ。

  つまり、ぼくはイケニエってことだ。

  「あの、まだ異動してきたばかりで……」

  交流事業なんて全くの未経験なんだぞ。

  「だからこそだよ。きみは前任地でずっと内勤の書類仕事ばかりだったろう? これを機に、外の現場を経験してもらいたいんだ」

  もっともらしい意見。

  でも、せっかくならもっと先進的な惑星に行って高等技術を学びたかったのに……。よりによって辺境の交流事業だなんて。

  「現地は未開と報告されているが、降下ステーションや最低限の交流窓口はある。危険は少ない。記録と報告、それで十分だ。——頼んだぞ」

  そしてぼくが口を開く前に、辞令とチケットが渡される。

  「出発は明日の朝。今日は定時で上がっていいから」

  呆然とするぼくを残して、会議室のドアが金属音を立てて閉まった。

  無事に着陸後、検疫と時差調整を兼ねてステーション内の宿泊所で泥のように眠り(もちろん報告を送信してからだ)、翌朝一通りの検査と手続きを終えたぼくは出口のドアの前に立っていた。

  ガラスの向こうに広がるのは一面の緑、ミドリ、みどり。

  見渡す限り、此処以外に人工物が見当たらない。

  恐る恐る一歩踏み出すとドアが開く。

  「あっつ!」

  肺になだれ込んでくる湿気と熱気。

  あわててステーションの中に戻る。五秒も耐えられなかったぞ。マジか。

  何かの間違いかもしれないと、再度外へ出てみる。即座に身体中から溢れてくる汗。

  「ムリだろ、これ……」

  調査期間は三ヶ月。迎えのチャーター便が来るのも三ヶ月後。蒸し焼きになる未来しかみえない。

  「……おい、何をしている」

  絶望に打ちひしがれているぼくの前に、ぬっと大きな影が立ち塞がった。

  二メートルはあるその影を見上げると、頭の先には二本のツノもとい耳。

  ギロリと睨み付ける金色の眼。長い口吻には不機嫌そうな皺が寄っている。

  「お、オオカミ」

  そうとしか形容できなかった。

  オオカミが二足歩行しているにしては体つきはガッシリとした人間的なモノ。アヌビスとか、人狼とか、まるっきりそのまんまだ。

  カーキ色のくたびれた軍用ジャケットの襟元からは毛並みがのぞき、ダメージ加工——いや加工じゃなくてただのダメージだろう——がふんだんにあるダークグリーンのズボンの後ろにはダラリと垂れた尻尾。軍人、いや警察犬のような出で立ち。

  「オマエがナカムラか」

  「ひゃっ、ひゃいぃっ!?」

  見た目の威圧感に思わず両手を上げてしまう。

  「……行くぞ」

  それだけ言って、彼は歩き出してしまった。

  歩き始めてから、かれこれ一時間は経っただろうか。

  現地の気候に合わせつつ礼節を欠かないようにと半袖のワイシャツを選んだが、それでも汗がじっとりと張り付いて気持ち悪い。オマケに革靴には適していない足下の悪い獣道。集落までは車での送迎くらいあるだろうと思っていたが甘かった。

  「あっ、あの」

  涼しい顔をして先導するオオカミに声をかける。全身毛むくじゃらなのに暑くないんだろうか。

  「えと……そ、その服。すごくワイルドで格好いいですね」

  沈黙に耐えかねてのことだった。まだロクに自己紹介もしていないし、会話しながらであればこの蒸し暑さも少しは紛れるだろうとの考え。それに、ここに来た目的は異星文化交流だからな。

  「たっ、確か、調査資料では毛皮のままで過ごすとありましたが、実際は違うんですね」

  交流の第一歩は、こちらが相手の文化に理解を示していることが大事だ。

  宇宙船内で何度も読み返した調査資料を必死に思い出しながら話題を探す。

  「……服を着ることも知らない未開の部族だと思っていたか?」

  期待とは裏腹に、返ってきたのは吐き捨てるような言葉だった。

  背筋が凍り、冷や汗がつたう。

  「ちがっ、そ、そんなつもりじゃ……!」

  慌てて手を振って否定するも、心の中を見透かすような視線に射貫かれる。

  「外の者は皆そう思う。獣のように野蛮で、文化もない連中だと」

  言い訳をつむごうと頭の中をフル回転させてみるも、言葉を出せずに口ごもってしまう。

  確かに、そう思っていた節があったのだ。

  「……おれ達は普段は腰蓑で暮らす。だが、客を迎えるときは礼儀として服を着るくらいの分別はある」

  この星に着いてから、自分がいかに失礼な態度をとっていたのかを指摘されたようで返す言葉もなかった。

  上司の命令で嫌々来て、上辺だけの交流だけを済ませてさっさと帰りたいと思っていた。

  「……まあ、蒸れるからあんまり着たくないんだけどな」

  そう言って、わざとらしく舌を出し暑さにまいったという表情をしてみせる。

  その優しさが、どうしようもなくありがたかった。

  「カイ・ルガルハーン」

  顔を上げると幾分か柔らかな表情。

  「なっ、ナカムラです。ナカムラアキラ」

  差し出された大きな手の感触を何度も思い返しながら、また二人で歩みを進めるのであった。

  無限に続くかと思われた森が、突如として開ける。

  鬱蒼とした緑の合間に広がるのは、木と土で作られた高床式の住居が並ぶ集落だった。煙が立ち上り、子どもたちの笑い声が風に混ざる。

  広場では、老若男女が入り混じり、思い思いに暮らしている。

  子どもたちは腰蓑だけで走り回り、泥だらけのままで笑い転げている。

  女性たちは火の側で調理をし、男たちは木材を運び、年寄りたちは木陰で談笑していた。誰もが素朴な腰蓑ひとつの姿だが、その表情には力強い誇りと笑みがあった。

  「お、おお……すごい」

  これが村の暮らし。

  裸に近い格好なのに、恥じらいはなくて、むしろ自然体で堂々としている。ここではこの姿こそが正装なんだ。

  目を丸くして驚嘆の声をあげるぼくをみて、彼は少し自慢げに口元を緩ませた。

  「これがおれたちの村だ」

  見慣れない来訪者に気付いた子どもたちが歓声をあげて走ってくる。

  恐怖心と、それを勝る好奇心から、ちょっと近づいては走って逃げ、年長者の背に隠れてじっとこちらを見ている。

  やがて広場の奥から、ひときわ大きな影があらわれる。灰と白が入り混じった毛並みは若者のようにツヤはない。だがその毛の一本一本に、幾年の季節を生き抜いてきた証が刻まれているようだった。間違いない、族長だ。

  「よく来たな。遠路ご苦労だった。ナカムラアキラ」

  低く響く声。鋭さと温かさを併せ持つ眼差しでじっとぼくを見据える。

  「あっ……! は、はじめまして。こ、この度はお世話になります……!」

  慌てて頭を下げて、ぎこちなく言葉を並べた。

  事前に考えてきた〝それらしい〟挨拶の言葉もすっかり頭から飛んでしまっていた。

  「外からの客人を歓迎する。われらの大地、ルガルへようこそ。だが……ここはわれらの掟で動く村だ。おまえがどういう人間か——よく見させてもらうぞ」

  その言葉に背筋が伸びる。

  そうだ。自分が観察する側だと高をくくっていたが、むしろ逆。見られる側なんだ。

  「……さて、このあと歓迎の儀を行う。荷を背負ったままでは参加できない。まずは荷を置いてこい。カイ、案内してやれ」

  そうして導かれるままに、村の外れにある木造の家へと入った。

  茅葺きの屋根に、床は板張り。どうやら一人暮らしらしく、飾り気はなく実用的な住まいだった。

  ぼくが荷物を下ろしている間、家主であるカイ・ルガルハーンは黙って軍用ジャケットのボタンを外していた。湿気に濡れた布が肩から滑り落ち、逞しい体毛がのぞく。彼は無造作にそれを壁の掛け棒にかけると、次にズボンの紐を解いた。

  ……それもそうか。あくまで出迎えのときの礼儀であって、彼らにとってはこれが本当の姿なんだよな。

  ぼくに見られていることを気にする様子もなくズボンを脱ぎ、腰蓑を腰に巻き直す。

  草の繊維が揺れて、シンプルだが堂々とした姿。その姿に、ぼくは目を奪われていた。

  「……あ、あのっ」

  少し声が震えた。振り返った姿に心拍数が上がるも、意を決して口を開く。

  「それ……もうひとつ、ありませんか?」

  満月のように見開かれた眼。

  「…………腰蓑のことか?」

  ぼくは頷いた。

  「よ、ヨソ者だけど……格好だけでも近づけたらって」

  手を差し出されてから、ずっと考えていた。

  「村の一員に近づきたいんです。客としてではなく、ここで生きる仲間として……」

  痛いほどの沈黙。

  ふざけるな、調子に乗るなと思われただろうか。

  「無理をするな。だが——そう言うなら受け取れ。おまえがそう望むなら、今日から仲間として見よう」

  差し出された腰蓑を受け取り、ぼくは覚悟を決めた。

  「あっ、ありがとうございます。ル、ルガルハーン……さん」

  「カイでいい。仲間は皆そう呼ぶ」

  嬉しいような、恥ずかしいようなむず痒さ。

  「アキラ。親しいひとはそう呼びます」

  「わ、わかった……アキラ」

  ぼくの恥ずかしさが伝染したのか、カイはそっぽを向いて頬を掻いた。

  着替えて家を出ると、昼下がりの広場には焚き火とそれを取り囲むように木の器に盛られたご馳走が並べられていた。果実、焼いた獣肉、香草の香りが空気に混じる。

  「ちょっとスースーする……」

  スーツ姿よりは圧倒的に快適なものの、パンツすら履いていないのだから腰蓑の中はフリースタイル。

  やっぱりやめておくか? とカイに心配されるも、ぼくは頭を横に振った。

  「ほう…………。外の者が自ら腰蓑を纏い、われらと同じ場に座るとは。勇気のあることだ」

  隣に座る族長の低い声に、周囲から小さなざわめきと肯定の頷きが起こる。

  やがて太鼓の音が鳴り響き、踊りが始まる。若者たちが火の周りで跳ね、身体をぶつけ合い、毛並みを揺らして舞う。その肉体の逞しさに眼を奪われてしまう。その中でも、とりわけカイの姿に引き寄せられていた。

  陽を浴びた毛並みが光り、腰蓑がリズムに揺れる。堂々として力強い動きに、なぜだかどうしようもなく胸が高まった。

  「あっ!」

  そのとき、子どもの声が響いた。

  ぼくを指さしている。いや、正確にはもう少し下。つまりはぼくの下半身。

  踊りを観覧していた女性や子どもたちの視線が一気に集中した。

  「わあぁっ!?」

  そこには腰蓑の繊維を押しのけて昼の光の下で露わになった亀頭。

  う、ウソだろ!?

  自分でも全く気付かなかった。

  「出ちゃってる……」

  「脈打ってるね」

  「彼とてわれらと変わらぬ」

  それぞれが感想を口にする。

  ぼくは咄嗟に隠そうと手を伸ばしかけて、はたと止まった。

  だめだ……隠したら逆に失礼かもしれない。皆の様子だと、驚きはしているが猥褻物への非難はない。腰蓑だけで生活しているんだ。こういう〝事故〟だってたまにはあるだろう。自分だけが恥ずかしがっていたら、やっぱりヨソ者だと思われてしまうかもしれない。

  視線は容赦なく亀頭に突き刺さる。

  子どもたちの無邪気な好奇心。大人たちの真剣な観察。そして族長の深い眼差し。

  それに……カイだって、踊りながらもきっと気付いている。

  「……隠さぬか。ほう……正直な雄だな」

  その言葉に顔が燃えるように熱くなった。膝がガクガクと震えて、心臓は破裂しそうだ。

  ぼくは両手を下ろしたままひたすらに羞恥に耐え、腰蓑から飛び出した昂ぶりをそのまま晒し続けるしかなかった。

  

  太鼓の音が止み、踊りが終わる。

  息を弾ませたカイが輪から戻り、ぼくの隣、族長の反対側に腰を下ろした。

  あれから結構な時間が経っているはずなのに、腰蓑からは勃起が顔を覗かせたまま。踊りから戻った者たちの視線もぼくの亀頭に注がれた。

  「……アキラ」

  ギクリと背筋が凍る。

  「そのままじゃ、窮屈だろう。それに擦れて傷になってもよくない」

  いたって真剣な、ぼくを気遣う声。

  「えっ、いや、これはっ……!」

  さすがに慌てて手を出そうとするも、カイの大きな手にそっと制される。

  「心配しなくていい」

  そう言って、腰蓑の結び目に指をかける。ざらりと草の繊維が音を立てて取り払われた。

  「っ……!!」

  燦々と照りつける陽の光の下に、勃起したちんぽが全て晒された。

  根元から先端まで赤く脈打ち、汗に濡れて光っている。

  広場のざわめき。驚きや感嘆の声が飛び交う。

  「わあ……ぜんぶ出ちゃった!」

  子どもの歓声。

  「力強い……脈が見える。立派なものだ」

  若者が仲間同士でうなずき合う。

  「陽の下に隠さず示すとは、雄の誇りだな」

  年配の女性が感心する。

  ざわめきは称賛の声で満ちていた。誰も卑しく笑わず、ただ真剣に観察し、純粋に「雄としての強さ」を褒めていた。

  「……うむ。隠さず、あるがままを示す。それは誠実であり、雄の証だ。——堂々たるものだぞ」

  そんな純粋な目で見られるからこそ、余計に恥ずかしいんだってば。

  「……ほらな。アキラの力を、みんなが認めている」

  カイの励ましの声に応じるようにちんぽがビクッと脈打った。

  死ぬほど恥ずかしい思いだったが、これも文化の違いだからと自分を納得させた。村人たちは「雄の証」だとしきりに褒めてくれたが(もちろん報告書にはあの日のことは書けるはずがない!)。

  それでも日が経つにつれ、村の暮らしにも慣れ、カイと一緒に狩りや水くみを覚えるうちに少しずつ「仲間」として認められていく実感もあった。

  ある夜のこと。森の音が静かに響く中、ぼくはカイの家で毛布に腰を下ろしていた。月明かりが差し込み、隣ではカイが火を調整している。逞しい背中が炎に照らされ、毛並みがきらめいた。

  ……カイ。出会った日から、ずっとぼくを気遣ってくれて、助けてくれている。

  はじめは怖いと思っていたのに、今は、こんなに。

  気付けば視線がカイの腰蓑に吸い寄せられ、鼓動が速くなる。熱が下半身に集まって、腰蓑の奥がじわじわと膨らみ始めた。

  ダメだ。意識しちゃうと余計に……。

  「……アキラ? どうした、顔が赤いぞ」

  咄嗟に膨らみを隠そうとしたが、カイの眼はぼくの変化を見逃さなかった。

  「オマエのは……立派で、逞しい。隠す必要なんてないんだぞ」

  獣の眼差しは鋭いが、そこに欲望の濁りはなく、ただ誠実な響きがあった。

  「だから……もし、アキラがイヤでなければ……見せてほしい」

  期待するな。違う、これは純粋な気持ちからだろう。

  姿形の違う異星の存在。その生殖器がどうなっているか、好奇心ぐらいもつさ。

  見せたい。見て欲しい。こんな邪な思いがあると知ったら幻滅されるだろうか。

  炎がゆらめく家の中。ぼくは深呼吸をして、震える手で腰蓑にかけた指を動かした。

  少しずつ、少しずつめくり上げて、ついに勃起したちんぽが露わになった。

  「……っ」

  黄金の眼が瞬く。しばし見つめてから、低く呟いた。

  「やっぱり……立派だ。雄の力があふれている」

  息が苦しい。鼓動がうるさい。この炎よりも顔は真っ赤になっているだろう。

  「……カイ。も、もっと……見てほしい。本当は恥ずかしいけど……見てほしい」

  カイの耳がピクリと動いた。

  「こ、これ……ね。カイを見て、こうなったんだ」

  カイの毛がぶわっと逆立った。

  カイのことを、性的に見て、昂ぶっている。その揺るぎない証拠が、勃起が、いまカイに向かって突き出されている。赤く脈打ち、はち切れそうなほど勃起したちんぽ。

  「なっ……!? お、オレ……を? そ、それで……?」

  これまで見せたことのない動揺。

  いつもはゆるく垂れている尻尾がばさばさと音を立てる。

  「カイが格好よくて……ずっと一緒にいて……気付いたら、こんなふうに……」

  指でつまみ、裏筋まで見せつけるように向けた。

  「……だ、だめだ……そんなふうに……見せられたら……」

  目線をそらし、喉の奥からかすれた声を出した。

  「カイ。ほ、ほら……立派なんでしょ? だったら……たくさん見てよ……」

  羞恥で震えながらも立ち上がり、腰蓑を外してカイの前に立つ。

  カイは視線をそらしたままだったが、耳はせわしなく動き、ちらちらとちんぽを覗き見る。

  ここまで来て止まれる訳がない。

  ダメだと言いつつも尻尾を振って何度も視線を寄越す姿に、ぼくはもう我慢の限界だった。

  「……こ、こうしたら……」

  意を決し、カイの前に踏み出して、その鼻先へとちんぽを差し出した。

  ふいに近づいた熱と匂いに、カイの鼻孔がひくりと震えた。無意識に息を吸い込み、くん……と音を立てて嗅いでしまう。

  「っ……!!」

  呻きとも唸りともつかぬ声。

  カイの腰蓑の奥から、ごそり、と盛り上がる気配。

  次の瞬間、繊維の間を押し分けて、カイ自身の「雄の誇り」がニュッと顔をだした。

  鮮やかな赤色が目に焼き付く。

  「ち、ちが……! これは……無意識に……っ」

  声は裏返り、尾は暴れるように動く。理性も威厳も吹き飛んで、ただ羞恥に翻弄される姿。

  カイが反応してくれた。それが尿道口から先走りを滴らせる。

  「……く……はあ……っ……」

  抗えない本能。

  カイは亀頭に触れそうなほどに鼻先を近づけ、何度も何度も匂いを嗅ぐ。

  ピンと立っていた耳は伏せられて、口元がだらしなく半開きになった。

  生温かい息がかかる。これって……つまり……。

  どちらともなく喉がゴクリと鳴った。金色の瞳は揺れて、葛藤が見える。

  交わる視線。炎の揺らめきの中で、暗黙の了解が結ばれた。

  「……っ……カイ……!」

  ゆっくりと近づき、半開きの口が勃起ちんぽをそっと包み込む。

  熱と湿り気が触れ、思わず声を上げてしまう。

  口内は熱く柔らかく、最初は慎重に、遠慮がちに先端を包み込んでいた。舌先でそっと触れ、味を確かめるように。

  「……っ……カイ……それ……気持ち……よすぎ……っ」

  声がかすれ、腰が震える。

  羞恥と快楽がまぜこぜになり、全身が火照っていく。

  カイも呼応するように鼻息を荒くする。

  ぐちゅ……じゅる……と濡れた音が響き始める。最初は優しく包んでいた口が、次第に深く貪るように動き出す。

  唇が滑り、根元まで飲み込まれていく。

  だが次の瞬間、カチ、と鋭い感触が先端をかすめた。牙が軽く当たったようだ。

  「ひっ……! い、今の……!」

  思わず腰を引いてしまった。

  「す、すまない! 加減がまだ……っ」

  尻尾を振り乱しながら謝るが、ちんぽを離そうとはしない。

  再び根元まで飲み込み、牙を舌で必死に覆い隠そうとするが、時折かすかに擦れてヒリ、とした刺激が走る。

  そのたびに、怖いはずなのに、ぼくの腰は勝手に揺れてしまう。

  ぐちゅ……じゅるる……喉が大きく動く。

  喉奥にちんぽが押し込まれるたび、牙の存在を意識させられる。危うい感覚と快感が入り乱れて、頭の中がどんどん真っ白になっていく。

  「っ……あ……カイ! そんな、激しく……っ」

  カイの口内はがむしゃらな熱に満ちていた。舌がざらつくように這い、喉がひくひくとちんぽを吸い込む。時折かすめる牙の刺激さえも快楽に変わっていく。

  ぐちゅ、じゅるるっ、じゅぽん……といやらしい音が夜に響く。

  ぼくたちはただ快楽と本能に突き動かされていた。

  「あっ……だめっ……もう……いくっ……!」

  これ以上耐えることなんてもうできなかった。

  全身が、ちんぽが震え、カイの口内で射精する。

  その刺激でカイの喉が反射的に動き、熱を受け止めながらごくごくと必死に飲み込んでいく。

  「……っ……ごく……ごく……っ……」

  喉を鳴らし飲み下すも、量に押され、口端からは白濁が零れ、艶やかな毛並みにしたたり落ちた。

  硬さを失いはじめても、口内の熱が名残惜しくて、甘えるように舌先に擦り付ける。

  カイは目尻に涙を溜めながらもうっとりとした表情でそれを受け入れてくれた。

  そしていつの間に出したのか、カイの腰蓑は自らの白濁にまみれてぬらぬらと光っていた。

  翌日。ぼくは村の男たちと並んで薪を運んでいた。

  カイは子どもたちと一緒に水汲みをしている。村の日常は賑やかで、昨夜のことが嘘のように穏やかだった——その時までは。

  「ねえねえ! 昨日の夜見ちゃったよ!」

  広場で遊んでいた子どもが突然大声をあげた。

  「カイにいちゃんが、アキラにいちゃんの〝雄〟を食べてた!」

  その場が一瞬にして凍り付く。大人たちは顔を見合わせ、若者たちがざわめいた。子どもは悪意なく、にこにこと言葉を続ける。

  「すごかったんだよ! カイにいちゃん、口いっぱいにして、ぜーんぶ飲んでた!」

  ぼくは手に持っていた薪を落とした。

  カイは耳をぴたりと伏せ、尻尾がゆるく動く。

  村中の視線がぼくとカイに集まった。

  「あっ、また出てる!」

  無邪気な声。だって、そんな、思い出しちゃったから……。

  「……二人同時に、か」

  「まるで呼応しているようだな」

  「……ふむ。ずいぶんと良い〝交流〟をしたようだの」

  広場にざわめきが広がる。だれもが茶化すこともなく、真剣に「なるほど」と頷いているのが余計にくるところがある。

  思わず顔を覆いかけて、手を止めた。

  ……そうだ。決めたんだ。

  見せてやろうじゃないの、雄の誇りってヤツをっ!

  「おお中村くん。Kー9で元気にやってるか? レポートならちゃんと届いて——」

  「課長。報告があります」

  「なんだ。ああ迎えの宇宙船ならちゃんと二週間後に手配しているから安心したまえ」

  「わたしは、Kー9……いえ。ルガルの地で生きていきます」

  押し問答の末にようやく通話を終えると、カイが心配そうにのぞき込んできた。

  「……本当に、いいのか?」

  ぼくは返事の代わりに大きな手を握った。

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