ドラゴンと放浪

  こちら春になりたての少し肌寒い季節。

  花粉症はきついが、私の少ない長所のうちで花粉症ではないことが幸いだ。

  とても気持ちがいい、過ごしやすい季節だ。

  そう、死ぬには絶好の季節だと私は思う。

  妥協に妥協を重ね、自分をなるべく殺してようやく見つけた職場をついこの間、クビを言い渡された。

  5年も努めていたとは思えない情など一切感じられぬ、来月から来なくていいから、であった。

  いやはやなんともせいせいしたわって言い放ちたいところだが、思った以上にショックだったらしい。私。

  先程も伝えたが自分を殺しに殺した結果、努力した結果、切り捨てられてしまった。

  最悪だ、もう自分を現実で殺すしか無い。嘘ではない。

  そう決めた途端すっと軽くなった体がその証拠だ。

  人様には迷惑をかけたくはないが自分の一生に一度のイベントなので、度々訪れていた夜桜のきれいな橋の上からダイブしようと思う。

  大丈夫、生き残ることはない、他にも先人たちが検証済みだ。大丈夫。大丈夫。

  聞いた話だが人はなんせ死ぬときは性行為以上の快感を覚えるらしい、もしかしたら私にとってユイツの救いかもしれない。

  いつもだったら出勤しなくはいけない時間に起き、きれいに身支度をし、お気に入りの靴をはいて鍵をかけずに出た。

  もう死ぬのだからいらんだろう。大家さんもきっと困るだろうから鍵は部屋においてきた。

  電車に乗り、人混みをかき分け、少し遠いはずの場所はあっという間に橋の上にたどり着いた。

  手すりにつかまりのぼり、さほど無いバランス感覚でやっと立ち上がった。

  夜特徴の騒ぐ大人の声、空気が多少乾燥しているせいか、遠くにあるはずの電車の音がかすかに聞こえる。

  ここまで頑張って生きた、誰でもいいから褒めて欲しいものだ。

  これにてサヨナラ。

  グラリと体をかたむけ、頭から落ちていく。

  そろそろ水面につく頃合いかと思った束の間、

  全身が水とは違う硬い、温かい何かにぶつかった。

  「ぐぇっ、」

  上から落とされたカエルはこのような気持ちなのだろうか。

  気を失ってしまった。

  「そこの君、そろそろ起きてはくれないか。」

  体を打ちつけた衝撃で、頭がガンガンと痛かった。

  だれか、に、声をかけられているような気がする。

  「すみません。とても頭が痛くて、、もう少しだけ、、」

  ふと意識してみると、とても生暖かく程よい温度で、ちょっと硬かった。

  「しかし、君。私はこの体制がきつくなってきている、、。そろそろ限界に近い。 あ、ほら。」

  するとなにかの背からズルリと落ちてしまった。

  「ほら、言わんこっちゃない。」

  「ぐぅ。 すみません。とても起き上がれる気力と体力が、、、!!!!!」

  よいこらと起き上がってみると、目の前には大きなツルツルとした鱗が見えた。

  そしてゆっくりと視線を上に持っていくと、そこには大きな龍がこちらを覗き込んでいた。

  少し失禁してしまった。

  あまりにもでかい異物を見てしまったため股間がゆるくなってしまった。情けないと思うであろうが仕方がない。

  「むぅ。君、怖がらせて申し訳ないとは思うが、漏らすことはないだろう?少しばかりショックだ。一応恩人なのだぞ。」

  「そう言われましても、見慣れぬゆえ、死のうとした身でありながら死の恐怖を感じてしまって、、。申し訳ない、ご親切な命の恩人殿。」

  ふと口にして見て思ったが、死ぬのを邪魔したことはご親切なのだろうか?

  本当のところ、不親切では?

  あ、いや、もしかしたら、ここは走馬灯の最中なのかもしれない。

  「あの、もし、そこのご親切な命の恩人殿。」

  「長いな、、私の名前があるとすればこれだと思うから、、ナインとよんでいいよ。何かね。死を覚悟した若者よ。」

  「ナインさん。ここは死に際の世界なのでしょうか?少し見慣れた日本の風景なのは私の走馬灯だからなのでしょうか?あなたは死神とか、もしかしたら天使とか?」

  そう伝えるとナインは目がまんまると見開き、少し黙ってしまった。

  「私を見て死神はわかるが、天使とは驚いた。やっぱり誰かと話すと意外性を見つけられて面白い。なに、久しぶりに姿を消し、野におりて飛び回ってていたらちょうど君が私の背に落ちてきたのだよ。安心してくれ、ここは現実だ。」