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鬼転の双六【FANBOX試し読み】

  [chapter:サンプル]

  世界には、まだ人類の知らない事や物がたくさんある。

  世界には知られていない様々な道具が隠されている。例えば、願いを叶えたり、海や陸を動かしたり、時を戻したり――

  例えば、人の姿を変えたり、頭の中を書き換えてしまう物なんかも、この世界には確かに存在するのだ。

  「ふぅ……ちょっと今日は遅れちゃったなぁ……忍がまってるし早く帰らないと」

  ごく普通の会社員である丘村雄児(おかむら ゆうじ)は仕事を終え家への帰り道を歩いていた。

  家で帰りを待つ妻の忍(しのぶ)が食事を作っているのだろうかと思いながら雄児は夜の街並みを眺める。するとふと目に浮かんだのは華やかな繁華街にぽつりと佇む露店商であった。

  「へぇ、こんなところに露店なんかあるんだ」

  ふと気になってフラフラと寄ってみる雄児。目の前には店主らしき壮年の男性が座っている。こちらを見定めるかのような目つきでこちらを眺めている様子が少し不気味に思えたが、雄児は思い切って店主に話しかける事にした。

  「あの、ここは何を売っているお店なんですか?」

  「……私が各地で発見した掘り出し物を売っている店ですよ」

  店主は小さな声でそう呟く。売り物が置いてあるであろうテーブルには少量ではあるが変わった見た目の物がいくつもある。

  しげしげとそれらの商品を眺めていた雄児はその中のある物にふと目を奪われた。双六だ。それも紙でできたシンプルなもの。

  (そういえば双六なんてやったの子供の時くらいか……)

  無邪気に賽子を投げて駒を進めて一喜一憂していた幼少時代に思いを馳せる雄児だったが、ふと我に帰りまた双六に目をやる。それはデフォルメされた鬼のイラストが描かれた双六で、見習いの鬼が立派な大鬼になるため修行を積むという内容のものだった。

  子供の頃の思い出が蘇った雄児はそれを手に取り思いがけず店主に訊いていた。

  「店主さん、これいくら?」

  ◆

  「なにこれ?」

  「双六だよ」

  「何でこんなもの買ってきたの?」

  その夜、雄児は忍に説教をされていた。帰りが遅くなった挙句必要もしない紙の双六を買ってきた事に忍は呆れ半分だ。それでも『仕方ないわね』と小さな子供を見るような視線で溜息を吐くと「ご飯温め直すから食べちゃって」と言ってキッチンへと歩いていった。

  「でも何か気になっちゃったんだよなぁ」

  忍がレンジで夕飯を温めている最中、雄児は双六を床に広げて眺めていた。そこで雄児はとある違和感に気が付く。

  「この双六、なんでイベントとかが何も書かれてないんだ?」

  双六といえば、マスに何らかのイベントが書かれているはずなのだが、この双六にはそれがなかった。どのマスも全て余す事なく空白だったのだ。

  どういう事だ? と頭を捻るが答えは出てこず、雄児は部屋着に着替えると忍が温めた夕飯をゆっくりと食べるのだった。

  ――その日の夜。

  「なぁ、せっかく買ってきたんだから二人で双六しないか?」

  「えぇ? 嫌よ、もう正月も終わったし、そもそもいい歳して双六やらなくてもいいでしょ」

  「いいじゃないか、せっかくだから。一回だけでいいんだ! お願い!」

  初めこそは拒否する忍だったが、夫の子供のような無邪気なお願いに絆されたのか、ふうとひとつ息を吐くと広げられた双六の前に正座した。

  「……仕方ないわね」

  「やった!」

  その喜びように少し気恥ずかしくなる忍だったが、忍はそんな雄児の純粋な所に惹かれて彼と人生を共にする事を選んだのだと改めて思う。

  「よし、始めるぞ」

  雄児は付属してきた賽子と駒を出すと、双六の

  前へと忍と向かい合うようにして座る。先攻後攻をジャンケンで決め先攻となった雄児が賽子を振る――そこで二人の意識は暗転した。

  ◆

  「うーん……」

  「あなた、しっかりして」

  「し、忍?

  ……えっ?」

  忍の声で目を覚ました雄児はその周りの風景を見て愕然とする。そこはさっきまでいた家のリビングではなかったからだ。

  そこは妙な形の岩や樹が立ち並ぶ不可思議な空間。空は赤と紫で構成されたおどろおどろしい色をしていて空気は妙な澱みを渦巻かせている。

  まるで夢でも見ているようだと頬を抓るも痛みだけが残りこれが夢でないのだと実感させるだけだ。

  「どうなってんだ! 俺達は確か双六をしようと……」

  「ここどこなの……んっ!」

  突然忍は耳を塞ぐ。続いて耳にキーンと鳴り響く音を雄児は感じる。忍の行動の理由はこれだったのかと雄児も同じように反射的に耳を塞ぐが、耳鳴りは止まず雄児の脳をますます混乱へと誘う。

  【双六スタート。プレイヤー、丘村雄児、丘村忍、以下二名】

  突然脳内に鳴り響いてきたのは会場アナウンスのような無機質な声。耳を塞いでも骨や脳に直接音を届かせているかのように鮮明に聞こえてきた。忍も同じ声が聞こえているのか、混乱している様子だった。

  「ちょっとこれなんなの! どういう……きゃっ!」

  慌てて後ずさった忍の眼前に降ってきたのは、空から飛来してきた真四角の物体だった。いくつもの数字が描かれた六面体のそれは、明らかに賽子である。しかしそれは普通のものではなくバラエティ番組などで使われるような大きいサイズのものだ。

  「これを振れっていうのか……?」

  そこで雄児は考える。これが双六ならば、賽子を振ってゴールに到着すれば、元の世界に戻れるのではないか? と。それならばとりあえずは双六のルールに従うほかない。雄児は覚悟を決めて巨大賽子を持ち上げ、投げた。

  「ちょっと何やってるの雄児!?」

  「これが双六ならゴールすればもしかしたらここから出られるかなと思って」

  賽子には漢字で『壱』と書かれている。おそらくは一マス進めるという事なのだろう。

  「よし……あっ!?」

  「きゃっ!」

  進もうと足を踏み出した雄児だったが、突然体が飛んでいくような感覚を味わう。忍ごと体が別の場所へ移動したのだ。不思議な力でワープした雄児は一瞬無重力空間を体験し、一瞬の間に指定のマスに足を踏み入れていたのだった。

  「びっくりした……」

  「ちょっと! これ本当に大丈夫?」

  「分からないけど、きっとだいじょう……」

  【鬼化マス。雄児、忍、立派な鬼になるべく修行を始める】

  「あっ!?」

  再び脳中を駆け巡る声が聞こえてきたと思うと、二人の身体は金縛りに逢ったかのように身動きが取れなくなる。

  全身をぴんと気を付けの状態にすると、二人の肉体はみるみるうちに変化していった。

  頭上に二本の角が生えると耳が尖っていく。口を開けると歯が伸びて発達し立派な牙となった。手と足の爪は鋭く尖りナイフのようになる。瞳の形が変わり全身の肌が雄児は赤色、忍は褐色に染まると二人の変化は終わった。

  「なっ、なにこれぇ!?」

  「うわあぁ! 忍が鬼に!」

  「雄児もなってるって! 肌が真っ赤よ!?」

  「そんな……」

  すっかり夫婦の鬼になってしまった二人。雄児はそういえばこの双六は鬼が主役の双六だったと思い返す。しかしこの展開は予想だにしていなかった。当然だろう。まさか、自分自身が鬼になってしまうなんて夢にも思うまい。

  「どうするのよこんな体になっちゃって! 元に戻るんでしょうね!?」

  「だ、だいじょうぶ、多分……きっと、ゴールすれば元の世界に戻れるって」

  「……こんな双六、早く終わらせちゃいましょ!」

  そう言って忍は賽子を振る。出た目は『肆』。すぐさま指定のマスにワープした二人はその双六の真の恐ろしさを知る事となる。

  【修行イベント・人間の頃の感覚をなくすため着ている服を全て破棄する】

  声と共に布を引き裂く軽快な音が二人しかいない空間に鳴り響く。二人が着ていた服が一瞬にして細切れになり弾け飛んだのだ。下着までも布切れとなり紫の空に飛んでいき二人はあっという間に生まれた時の姿にされてしまう。

  「きゃああぁ!」

  「くそっ、服がぁ!」

  「ちょっ……あなた何勃起してるの!」

  「ごめんっ、これはわざとじゃ……」

  久々の妻の裸体をその目で見た雄児は股間の逸物を勃たせてしまう。恥じらってはいたものの周りには誰もいないのもあって忍も夫に裸を見られるのは嫌ではなかったようだが。

  「と、とりあえずサイコロを振るぞ。もしかしたらまた服が手に入るかもしれないし!」

  「そうね、このままじゃ風邪ひいちゃう!」

  そう言って賽子を振る雄児。先程同様『肆』の目が出る。四マス先にワープした雄児と忍。今度は雄児は双六の洗礼を受けなかった。しかし忍はさらなる洗礼を受ける事となる。物理法則を歪めるとんでもない洗礼を。

  【進化イベント・忍、性別反転】

  「あふっ!?」

  『性別反転』――その意味不明な単語が流れた途端妙ちきりんな声をあげて忍が小さく跳ね上がった。瞳を上にやり意識は明後日の方向を向いているようだった。

  【肉体レベル決定・一般的な女鬼から筋骨隆々な雄鬼へチェンジ】

  ボンッッ!!

  何かが破裂したような凄まじい音と共に忍の身体が唐突に膨れ上がった。それは空気を入れられた風船のようだ。

  身体をガクガクと揺らしその異常な変化に抵抗する。その様相を雄児はただ見ている事しかできなかった。

  丸々と膨れ上がっていた忍の体に凹凸が現れはじめる。ボコリ! ボコリ! と段々に層のように幾重にも積み重なっていく肉の塊。それは固さとしなやかさを持ち合わせた極上の筋肉。その筋肉達が肩に、胸に、腹に、腕に、脚に、余す事なくついていく。

  その艶のある褐色の肌によく似合う筋肉の鎧を身に纏った忍は、もうあの儚げな女性の面影は微塵も感じられなかった。

  「忍!」

  「あ、がっ……やっ、なんが、でる゛ぅ……!」

  忍の、茂みの中に唯一残っていた“女性”がその役目を終えようとしていた。ジグジグと妙な音をたてながら子供を産むはずだった器官が閉じられ失われていく。もう雄児の陰茎は愛する妻の秘所に入ることはないだろう。

  代わりと言わんばかりに彼女のクリトリスが陰唇と共に膨れ上がっていく。ググ、ググと大きく、太く、長く変わっていく。忍の小さな豆は立派な茸となり真下の巾着袋ともども男なら憧れるであろうサイズに進化していく。

  「あぁ……忍に、チン……」

  成人男性の平均サイズまで到達したがまだ大きくなる忍のソレ。最終的にその二倍のサイズにまでになり、付随する玉も柑橘ほどの大きさのものがゴロリと二つ袋に収まった。

  「いやぁああああああぅ!!」

  我に帰った忍はその変わり様に叫んだがその声はまさに鬼の雄叫びにしか聞こえなかった。男になった事で声も変わってしまったらしい。

  その姿に見合う中年男性の声で忍は雄児を責めはじめる。

  「あなたが双六なんてしようって言ったせいよ! 私男になっちゃったのよ! 戻らなかったら責任取ってもらうわよ! 聞いてんの雄児!?」

  「ご、ごめん! こんな双六だなんて俺も知らなかったんだよ!

  でっ、でもゴールしないと結局ここから出られないし! とりあえず今はサイコロを振ろう! それで戻れなかったから俺が責任持つから!」

  「とりあえずサイコロ振るわよ! こんなとこさっさと出たいの!」

  忍はその剛腕で思い切り賽子を振る。『弐』の目が出ると忍は頭を抱え蹲る。

  「2なんかじゃ全然ゴールできないじゃない!」

  「まあまあ……うおっ!」

  忍を宥めようとした雄児も一緒に次のマスへとワープする。やはり何も書かれていない簡素なマスに止まった二人に次のイベントが襲い掛かる。

  【修行イベント・忍、口調矯正】

  「そんな! また私!?」

  またもやイベントの対象が自分であった事に愕然とするも、忍は唐突にその叫びを中断し奇怪な行動を取り始めた。

  「わたっ、わっ、おうおぅ、あぐうぐ、んむむるるるるぅぅ……!」

  突然頭を抱えて訳の分からない声をあげはじめた忍。その剛直は勃起しており、ガクガクと勢いよく腰を振り始めている。その度に逸物と金玉がブルンブルンと揺れる。先端からは透明な先走り汁なんかも飛び出しており手のつけようがない。

  「し、忍……?」

  「だめ、こんな、うお、やべぇ、こんなのはじめて、あれ、私、私違う、わたしこんな、ちがっ、ちげぇ、おれ、おちん、チンポ、気持ちよくて、何これ、おれ、俺って、違う、俺じゃない私……いや、俺、そんな、なんだこりゃ、俺、だんだん、おかしく、うあっ、チ、チンポ疼きやがる、だめっ、こんな下品な言葉……下品? 雄なんだからいいじゃねえか。イヤァ! 俺こんな喋り方やだぁ!」

  忍の口から発せられる言葉が段々と変わっていくのだ。元の女性のものから、その器に適した雄々しい鬼のものへと。本人は抵抗しているようだが振り続けている逸物の快楽に負け段々とその魂を器に適応させていく。

  「おごっ! やべっ、イク! イッたら俺ッ! ぐあああぁ!!」

  そしてとうとう床に濃厚な種汁を吐き出してしまった。男として最初の射精だ。その量は床をあっという間に精液まみれにしてしまうほどのものだった。よほど溜まっていたのだろう。

  「はぁ……はぁ……おい雄児」

  「なっ、何、忍?」

  「次はテメェの番だろ。早くサイコロ振りやがれ」

  「ちょっ……忍、その喋り方……」

  「あん? 何言ってんだ。俺は元々この喋り方だろ?」

  当たり前のように言ってのける忍を見て雄児は初めてこの双六に対して大きな危機感を覚えた。きっとゴールすれば元の世界に戻れるし、元に姿にも戻れるだろう――そんな机上の空論は忍の変貌により雄児の中で輪郭を失い始めていた。

  【進化イベント・雄児、忍、『雄』レベル上昇】

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