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[chapter:サンプル]
「うわっ、虫!」
太陽の光が勢い増してきた七月の夏、武藤風花(むとう ふうか)と桑田雅美(くわた まさみ)の二人は学校の教室に置いてあった虫カゴの中を見て騒ぎ出していた。
カゴの中には生徒の誰かが採ってきたであろうカブトムシとクワガタムシが小さな樹木の上で元気に動いている。これが騒ぎの原因だろう。
「何学校に持ってきてんのよ信じらんない!」
「いくらカブトムシでもやっぱり気持ち悪いのよ!」
「ほんっと虫嫌いだよなー女子は」
「ちょっとそう言うのやめなよ!」
二匹の虫が原因でクラスは一時大騒ぎとなった。虫嫌いの風花と雅美は虫を学校に連れてきた張本人、クラスメイトの綱村夏彦(つなむら なつひこ)と言い合いになっていた。
「そもそも学校に私物持ってきちゃダメなんだよ! そんな事もわからないの!?」
「いいじゃん。俺生き物係だし、動物連れてくるのも係の仕事だろ?」
「虫は動物じゃないでしょ! 連れてくるならもっと可愛いの連れてきなよ!」
「虫だってリッパな動物だって!」
「虫は虫よ!」
不毛な言い合いはチャイムが鳴り担任の先生が教室に入ってくるまで続き、困り果てた他の生徒が先生に諍いの様子を報告すると、騒ぎを聞きつけた先生が彼らを叱りつけこの争いはひとまず収束する事となった。
「こらっ何してる! そろそろホームルーム始めるぞ!」
「はーい……」
その後、先生に怒られた三人はひとまず仲直りし無事に放課後を迎えたのだが、風花と雅美は未だに夏彦と虫の存在に納得がいっていなかった。
誰もいない教室で二人はぽつんと置かれた夏彦の虫カゴを睨みつける。
「もうムカつく! 何で私達が怒られなきゃいけないの!?」
「綱村のバカ! だから男子ってイヤなのよ!」
彼のいない所で行き場のない怒りをぶつける二人だったが、言葉を話さぬ虫に罵詈雑言を言っても何の意味もない。
顔を真っ赤にした雅美がつかつかとカブトとクワガタがいる虫カゴに向かっていく。
「こんな気持ち悪い生き物、いなくなっちゃえばいいのよ!」
そのまま雅美は虫カゴを教室の床に勢いよく叩きつけた。プラスチック製のケージは粉々に割れ、中の樹木や虫達が教室に飛び散る。
突然地面に放り出された虫はわけもわからずひっくり返った体勢のままバタバタとその体を暴れさせていた。
「ふふん、いい気味よ」
「さすがにやりすぎじゃ……」
「いいのよ、勝手に持ってきたアイツが悪いんだから! 見つからないうちに帰るわよ!」
雅美の突然の行動にさすがの風花も戸惑ったが、風花本人も心の底では溜飲が下がっていた。
風花と雅美はクラスメイトや先生に見つかる前に急いでカバンを背負いそそくさと教室を後にした。
床の上で未だ暴れている夏彦の虫を残して。
「何だよこれ! 誰がこんなこと!」
風花と雅美が学校を後にした十数分後、忘れ物である虫カゴを取りに来ていた夏彦が愕然とする。元気がなくなりつつあった虫達を慌てて拾い上げると、急いで自分の家へと帰っていった。
「せっかく持ってきたのに……ごめんな、カブ丸、クワ吉……」
普段元気が取り柄の夏彦は、元気なく横たわる虫達の姿に涙を浮かべながら急いで家への通学路を走った。
家に帰った夏彦は虫達を新しい虫カゴに入れて優しく樹木に置いてやる。初めは元気のなかった虫達も、樹液を舐め餌を食べれば夜にはすっかり昨日の元気を取り戻していた。
元気に動き回る虫を見て夏彦は安堵しながら部屋のベッドに入る。
「無事でよかったよカブ丸にクワ吉。じゃあ、また明日な」
夏彦はカブ丸とクワ吉の元気な姿を見届けるとそのまま深い眠りに落ちる。
その虫カゴの中で、カブ丸とクワ吉の体が淡く光り輝き始めている事に、夏彦は気が付かなかった。
◆
『愚かな人間め……命を愚弄した罰、一生をもって償わせてやる……!』
誰もが眠る深い夜空に、ふわふわと二つの光の玉のようなものが漂っていた。それはそれぞれ自分の部屋の中で眠り続けている武藤風花と桑田雅美の体にそれぞれ入り込む。
その瞬間、二人の体は赤と青の光に包まれるとひとりでにその肉体を空に浮かばせる。
風花と雅美はその状況に気付かぬまま家の壁をすり抜けて夏の夜空を飛ぶように移動していった――
◆
『……こ。……ひこ』
丁度同じくらいの時刻に夏彦は誰かの声を聞いた。それはきっと夢の中の声だろうと熟睡中の夏彦はひたすら無視を決め込んだ。が……
『起きて、夏彦!』
その声はだんだんと大きくなり、無視を決められない程の騒音となったため夏彦はたまらず飛び起きた。
まだ眠気冷めやらぬ夏彦は視界に映ったそれを目の当たりにして一気に目が覚める。そこには虫カゴにいたはずのカブ丸とクワ吉――しかも明らかに普通のカブトムシやクワガタとは異なるサイズとなった彼らが飛んでいたからだ。
「なんだこれ! もしかしてカブ丸とクワ吉なのか!?」
『そうだよ夏彦』
『今日は助けてくれてありがとう』
夏彦に感謝の言葉を述べるカブ丸とクワ吉。「これは夢だ」とほっぺたを抓っている夏彦を見て『これは夢じゃないよ』と諭すカブ丸。
証拠にカブ丸は自らの前脚を夏彦の体にちょいと触ってみる。確かにカブトムシの脚の感触がした夏彦は今この状況が夢ではないと思い始めていた。
「嘘だろ……? どうしてお前達が」
『今日は夏彦に見せたいものがあって起こしたんだ』
『虫の神様が今から面白いものを見せてくれるよ。まあ、明日にはこの事は忘れちゃうんだけど』
「見せたいもの……? 面白いもの……?」
夏彦は二匹の虫達に誘われるがまま、パジャマ姿のまま夜の街をひとり歩き出していた。まるで彼らに導かれるかのように……
◆
「うーん……」
全身にジャリジャリとした冷たい砂の感触がして眠っていた武藤風花がひとり目を覚ました。
気がつくとその視界には黄土色の土が一面に広がっていた。冷えた土が体のそこらじゅうに貼り付き彼女の体を汚している。
「え!? 何コレ!?」
慌てて体についた土を払い除けると辺りを見渡す。そこは宝石を散りばめたような一面の星空。そしてどこまでも続く地平線。
下は辺り一面黄土色の土が敷き詰められて、その周りには自分をぐるっと囲む白い線が円状に描かれていた。
わけもわからずただ狼狽る風花だったが、その近くにひとつの影がある事に気がつき恐る恐るその影の下へ向かっていく。その影の正体は、風花本人がよく知っている人物だった。
「雅美ちゃん!?」
「え……なに……?」
ぐったりと土の上に横たわっている雅美の姿がそこにはあった。慌てて彼女を揺り起こす風花。目を覚ましたものの、彼女もこの状況をよく理解していないようだ。
「え!? 風花ちゃん!? ここどこ!?」
「私にもわかんないよ! 何コレ、一体どうなってるの!?」
いつものように部屋の中で寝ていたはずなのに、いつの間にやらパジャマ姿で土の上に寝転んでいる。この異常な事態をまともに分析できる者など誰一人としていないだろう。まだまだ未熟な彼女達ならば尚更だ。
そんな時、狼狽を続けている彼女達に呼びかける声がした。それこそ、二人のこれからの境遇を説明する者だった。
『ようやく起きたか。罰当たりどもめ』
「誰!?」
「アンタなの!? 私達にこんな事したの!」
声はすれど姿は見えず。そんな状況でも彼女らは気丈に甲高い声を張り上げている。そんな二人の様子に辟易したのかその声の声色は一気に低くなる。
『黙れ、小童ども!』
「っ!?」
『貴様ら、今日ふたつの儚い命を奪おうとしたな。我は全て見ていたぞ』
その言葉で二人はどうして自分達がここにいるのか、ようやく理解できたようだった。しかし理解はできても納得はできない。こんな非常識かつ非日常な出来事が起きるはずがないという認識があったからだ。
だからこそ、二人は軽率にもこの今の状況を『所詮ただの夢』だと判断した。
「もしかして、あの虫の事!?」
「だって悪いのはアイツじゃん! 私達はアイツに罰を与えてやっただけ! それの何が悪いの!?」
「そうよ! 何が儚い命よ! たかが虫じゃない!」
『所詮はただの夢』。その認識を免罪符として二人は反省するどころか開き直り騒ぎ出す。もしここで多少反省し、心からの謝罪をしていれば、あるいは彼女達は容赦されていたかも知れない。
しかしこの選択により二人の未来は確定した。雄と力と淫のみが満ちる永遠の未来に。
『『一寸の虫にも五分の魂』。此の言葉を知っているか』
「はぁ?」
『知らないか。では、とくと味わわせてやる!』
天より響く声は大地揺るがす怒号となる。彼女達が今立っているその場所、土に描かれた大きな円――土俵が強い光を放つ。
その光は余す事なく風花と雅美の体の中に吸い込まれていく。光が消え、再び閑散とした空間が戻ったのも束の間、間髪入れず彼女達の『罰』が始まった。
「あうっ!?」
ドクン、と心臓が強く高鳴るのを感じた風花と雅美は膝をつき蹲る。全身に漲る熱いナニカを感じて二人は息を詰まらせながらうめき出した。
「あっ、がっ……!」
「ううっ……う、うおぉっ……」
体を丸まらせただ唸る事しかできない二人。彼女達の体から聞こえてきたのはミシミシという何かが軋んでいるような音。すると今度はブチ、ブチと何かが千切れていくような音がする。
『貴様達のような命を粗末にする輩は人の身を捨て、己の愚弄した者の姿となり果てるがよい!』
二人の体は少しずつ変わりだしていた。女らしい細い腕と脚はだんだんと太くなり、小さな体はぐんぐんと大きくなっていく。まるで幼虫が成虫になるかのように、未成熟な二人の肉体は屈強に剛健に発達していった。
「あっ、あっ!」
身体中には筋肉がぬいぐるみの綿のように詰め込まれていきボコボコと凹凸を持っていく。上腕筋、胸筋、腹筋、大臀筋四頭筋に至るまであらゆる箇所の筋肉が発達すると、今度はその筋肉を保護するためのぶ厚い脂肪に覆われる。
大きくなる体に耐えきれなかったパジャマは糸と布切れと化して次々と土俵に散らばっていった。
「ふーっ、ふーっ……」
目を血走らせ、口から涎を垂らす二人の姿は無様であり滑稽だった。既に服はほぼ千切れ飛びぼろ切れ同然だ。
「ううっ……なに……?」
そんな二人の股間にある、かつてショーツだった布切れを押し上げていたのは大きくて太い肉の棒。かつて陰核と呼ばれていた部位が変化したものが、長く固くなり直立していた。
女性として誰しも持っているはずの膣は閉じはじめており、既にその名残の小さな穴が空いているくらいだ。それどころか、棒の下には丸々とした大きな袋ができはじめていた。
袋の中にゴロリとふたつの玉ができあがる音がする。その中で製造されているのは無数のオタマジャクシ。雄が雌を孕ませ子を成すための種。それが女性であるはずの二人の玉袋の中で作られていた。
「なっ、なんか、ヘンッ……!」
「でる……なんかでちゃっ、う……!」
肉棒としてすっかりできあがった陰核は、今も無尽蔵に作られている種たちを吐き出すための準備をはじめる。先端からはダラダラと透明な汁を迸らせ柔らかくて白い布切れを濡らす。それは女性のものと男性のものが混じり合ったものだったが、次々と吐き出していくにつれその汁の構成は男のもののみとなっていった。
『貴様らの全てはその股座の精巣に全て詰め込んだ。今此の時より魂を精子として全て吐き出し、我らを喜ばせる屈強なる力士となるがよい!』
「いっ……いやあっ……!」
勃起を続けていた肉棒はいつの間にか子供の腕程のサイズとなり、周りにはグロテスクな血管がいくつも張り巡らされる。亀頭が赤黒く腫れ上がり先端がビクンビクンと痙攣するように小刻みに跳ねている。
「そ、そん、なの……い、やよ……わ、たし……だし、たく、ない……」
「でちゃう、でちゃうでちゃうでちゃう! とまってとまってとまって!」
肥大化する肉棒と玉袋に女子生徒であった風花と雅美の精神など堪えられるはずもなく、瞳を上ずらせうわ言を垂れ流し続けるだけの存在と化す。
玉の中に精子が作られていく感覚。
そして自分自身の全てがその精子になっていく感覚。
二人はそれを全身で味わい、その感覚は全て快感となる。
そしてその快感は二人を絶頂させるに至った。
「あっ、ああああああああああ!!」
ビュッ……
初めはその一筋の精液だった。
まるでそれが栓をしていたのように、わずかな量のゼリーのような精液が同時に飛び出ると、枷を外したかのように夥しい量の精液が噴き出していく。
ビュルルッ、ビュッ、ブビュビュピュプルルルルルルルーーーーーーーーッ!!
黄土色の土を真っ白に染める程に大量で濃厚な精液が神聖な土俵を汚していく。
変わった体を微調整するかのように二人の不完全な肉体がちゃんとした雄のものへと整えられていくと、立ち上る蒸気と共に二人の皮膚は茶色になり硬化していく。
それはまるで、甲虫の外骨格のようだった。
二人の全身はその屈強となった肉体を守るかのように焦茶色の固い鎧で覆われる。
「まだ……出るっ! おおおぉ!!」
喉仏が突き出しすっかり低くなった声で雄叫びをあげた二人は、股間の巨砲から第二波を放つ。
すると先程まで頭に生えていた風花のポニーテールと雅美の短髪は例外なく全て自らが撃ち放った精液の上に抜け落ちた。
代わりと言わんばかりに、頭髪がなくなり禿頭となった風花からは長くて大きい立派な角が、そして雅美からは一対の剛健な顎が生えてきた。
彼女達の“女性”の喪失により空いた隙間へ、今の二人に相応しい“男性”で埋められていく。それにより残っていた二人の顔つきが変化する。
「あ……おおっ……!」
風花の眉は太くなり目尻にいくつもの皺ができていくと鼻は吸い込まれ消失する。顎は四角に角張ってその上から黒い髭が生い茂っていく。
雅美の顔も風花同様太く濃い眉と顔中に蓄えた皺により一気に男らしくなる。特に彼女の顎は大きくしゃくれ上がってより厳つさを醸し出していた。口からは上向いた牙がチラリと覗く。
背中には昆虫特有の翅がマントのように垂れ下がる。今の彼女達の姿は、誰がどう見ても屈強なカブトムシとクワガタムシの虫人間と言えるようなものだった。
『ふはは。よいぞ、実に愉快だ』
「何笑ってんのよ!」
「いやぁぁぁっ! 私、こんなキモいのやだぁぁっ!!」
しかし、姿は変われど心は未だ人間の少女のままだった。二人が精子として吐き出した魂は、あくまで人間の“肉体”を司る箇所だけだったからだ。
そして次は“人格”を司る魂の番なのだが……そこで神はとある余興を思いついた。
『せっかく力士となったのだから、ここはひとつ取組でもしてもらわんとつまらん』
「えっ?」
「……きゃあっ!!」
立ち尽くしていた二人の体がぴんと跳ねる。
「体が、うごかない……?」
そのまま二人とも綺麗な『気をつけ』の体勢を取ったかと思うと本人の意志を無視して体だけが勝手に歩き出す。
「私の足が!」
そして二人は仕切り線を目印にしてお互い向かい合う。これはまるでこれから二人で相撲の試合でもしようという様子だ。
「えっ、なに? なに!?」
『これから貴様らには力士としての初場所を行ってもらう。観客も来たようだしな』
「観客?」
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