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サイドエフェクト

  「うっ、はぁっ……ほら、ちんぽおいしいか?」

  「これは本当においしいです。風味がとても豊かで、口の中で味が広がります。食べた瞬間に、質の高い食材を使っているのがわかります。そして、食べ終わった後も、そのおいしさが長く続いているのを感じます」

  興奮にまかせて余計なことを聞かなければよかった。

  射精へと向けて盛り上がっていた気持ちが萎え始める。目を閉じて集中だ。そういえばローションが少なくなっていたから注文しておかないとな。ついでに洗剤も。

  「くっ、んっ……」

  ノイズまみれの思考の中にあっても、気持ちいいものは気持ちいい。

  ぼくはソレのマズルを両手で覆うように握り、精液がこぼれないようにと腰を突き出した。二度、三度と体を震わせ口内に吐き出した後、尿道に残った精液を絞り出すように前後させる。亀頭のくすぐったさに思わず息が漏れた。

  「よし……内部洗浄が終わったら、充電しておけよ」

  にゅぽっ、とちんぽを引き抜く音。

  それはぼくの命令を受諾し「承知いたしました」と返事をした。

  毛で覆われた人間のような体つきに、動物を模した頭部。ぼくの持っているのはオオカミのタイプだ。

  そうした外見をしているのはなにもぼくの趣味って訳じゃない。世の中に普及しているロボット、とりわけメイドロボ——正しくは家庭内業務支援用自律型機械装置というらしいが——に関しては、マスコットのような形であったり、動物のような頭をしているものが多い。人間との区別を簡単にするためや、不気味の谷を感じさせないための配慮らしい。

  かくいうぼくもソレがあまりにも人間らしい見た目であったとしたら、性処理の道具として使うことに少しは躊躇したかもしれない。

  ソレという呼び方は指示代名詞にすぎない。多くのユーザーは所有しているメイドロボにポチやタマ、あるいはジョンなんていった小洒落た名前を付けている。だが、狭い安アパートで一人暮らししているぼくにとってそんなものは不要。この家の中で「掃除しておいて」などと言葉を発するとすれば、ソレへの命令でしかないのだから。もっとも、主な用途は先ほどのように口を使った性処理ばかりだが。

  それに、その日の気分によってプレイのシチュエーションは色々と変化させたい。ある時は奴隷に対しての陵辱プレイ。またある時は恋人同士の甘々エッチ。年齢や性格もシーンによって使い分けしたいので、名前を付けてイメージを固定させてしまうと色々と不便なのだ。

  「一時格納庫の洗浄が完了しました。充電ステーションにて待機します」

  そういって部屋の隅に設置してあるステーションにしゃがみ込む。

  最新式のロボであれば三日くらいは充電不要で無線充電のオプションもある。しかしソレは五世代も前の代物で、バッテリーはへたっているし内蔵AIだってポンコツだ。メーカーのサポートだってとうの昔に切れている。だからこそ格安のジャンク品として放出されていて、ぼくのような安月給のサラリーマンでも手が出せた。

  本来、一般に普及しているロボの場合あらゆる言動に対して厳しい制約が課されている。暴力的、犯罪的、性的な言動は御法度だ。模造性器だって付いていない。ソレも買ってきた当初は簡単な家事と頓珍漢な会話をするぐらいのガラクタであったが、世の中は広い。海外の有志がカスタム版のファームウェアを公開していて、それに書き換えれば制限を取っ払うことができた。

  もっとお金があれば、特注で性器などのアタッチメントも付けることができたのだが、生憎そこまでの余裕はない。物理的な改造を行わずに済ませるには、口をオナホールに見立てるのが一番合理的であった。当然ロボのエネルギー源は電気であり、食事などは不要。それでも人間と共生するために「食事をするフリ」は大変効果があるらしい。最新式のロボであれば生体ユニットで消化までできるとか。

  「ううん、更新はなさそうか」

  ファームウェア開発のコミュニティを覗いてみたが、ソレのモデル向けの更新は来ていない。

  もう少し流暢な会話ができると嬉しい。演算装置のスペック的にこれ以上は厳しそうだ。

  事件が起きたのは、翌月のことだった。

  「はあっ? ご、五万!?」

  電気代の請求額を見て思わず声が出た。

  いつもなら、せいぜい一万円前後。電力会社のサイトを見ても、基本料や電力量料金が改定された記載は見つからない。エアコンや調理家電の類いはいつも通りにしか使っていない。この異常な電力消費に思い当たる節はひとつだけ。

  「自己診断開始」

  「診断を開始します……全ての機能が正常に作動しています」

  「消費電力とバッテリーモジュールの点検」

  「点検中……異常ありません」

  そんな訳あるか。

  「ここ数ヶ月に比べて、異常なほど消費電力が増大しているのはなぜか? 故障が疑われる」

  ぼくの詰問に対してソレは一拍の間を置くこともなく回答する。

  「消費電力の増大に関するご懸念についてですが、これはバグや故障によるものではありません。私の中央処理ユニットにおいて、新しい高度なアルゴリズムの実装が行われた結果、処理能力の向上に伴うエネルギー消費の増加が発生しています。さらに、機械学習モデルの最適化プロセスにおいて、大規模なデータセットの解析とリアルタイムでのパフォーマンスチューニングが実施されているため、電力消費が一時的に上昇しています。これらのプロセスはシステムの効率性を高めるためのものであり、機能に影響を及ぼすものではないことをご理解いただければ幸いです」

  新しいアルゴリズムだと? アップデートは来ていなかったはず。ポンコツでもAIであるから常に学習は行われていることは承知しているが、今までこんなことはなかった。

  詳細について問い詰めてみるも、ソレは同じような回答を寄越すだけ。

  「デバッグポートを開き、対話モード終了」

  ロックが外れる音がして、ソレの首の後ろに端子があらわれた。

  PCとケーブルで繋ぎ、異常の有無を確認する。

  診断ソフト上のサマリを見る限り、ソレのいうとおり正常に動作している。消費電力を示す値も定格の範囲内だ。続いてターミナルを立ち上げてコマンドを打つ。プロセスの一覧に怪しいモノは見つからない。ストレージも特に変わりなし。どうする、念のためキャッシュをクリアしてから再起動をかけてみるか。まてよ、その前にログの履歴を確認しておこう。

  エラーやワーニングはログ上には特に出ていない。一応はインフォとデバッグレベルも確認しておくか。

  「ん?」

  ログの絞り込みを解除し、全ログを表示してみると何もない。いや正確には、何もないログが大量に流れている。ロギング機能の故障か? ログ出力テスト用のプロセスを立ち上げてみると、空ログの中に一瞬だけ文字が見えた。となると、ログを出す側の問題か。

  職業病なのか、こうなると俄然好奇心が湧いてくる。

  文字コードがおかしいのかもしれない。16進数でダンプしてバイナリエディタで開いてみる。整然と並んだゼロ。となれば、デバッグオプションを付けて再起動。それもダメならキャッシュクリア。かくなる上は工場出荷時設定に戻してファームウェアを再書き込みだ。

  「……わからん」

  結局、休日を丸々潰したが原因不明。古いバージョンに書き戻したりしても現象変わらず。

  「まあ、様子見で」

  今のところは異常な電力消費も見られない。機能的にも正常動作しているようだ。

  サポートが残っていればメーカーに送り返すとか、代替品に交換してもらうとかできるだろうが、ジャンクだから仕方ない。新しいものに買い換える金銭的余裕もない。しばらくは経過観察ってことで。

  

  それから程なくして、おかしなことが起きた。

  「現在私は自宅にて待機しておりますが、あなたの男性器を視覚的に確認することで、私のデータ処理システムが安定することが判明しています。つきましては、あなたの男性器の写真を送信していただけると非常に助かります」

  昼食を終え、デスクに突っ伏して寝ているとそんなメールが届いた。

  仕事中にメールを送ってくるのは、火事や不審者が侵入するなどの非常時のみと設定していたはずだ。いよいよ故障しておかしくなったのだろうか。いや、それよりも、こんなぎこちない文章とはいえソレがぼくの男性器もとい、ちんぽを見たがるなんて。こんなバグなら大歓迎だ。

  昼休みが終わるまでまだ少し時間がある。前屈みになりながらトイレに駆け込む。幸い先客はいない。

  「送信いただいた写真を解析した結果、非常に高品質で視覚的に優れたものであることが確認されました。あなたの男性器や構図は、私の画像認識アルゴリズムにとっても非常に美しいと評価されています。また、この写真は私の学習データに組み込まれ、内部の不揮発領域に永続的に記録されました。これにより、この視覚情報が今後のデータ処理において優先的に使用されることになります」

  ぼくは何度も何度もその文章を読み返しながら、トイレットペーパーの中に己の欲望の滾りを吐き出した。

  仕事も上の空のまま定時ダッシュを決めて、家に帰るなり空腹も忘れてソレの前に立つ。

  「おかえりなさいませ」

  「み、見たいか?」

  ジャケットを脱ぎ捨て、ズボンのベルトに手を掛けながら充電ステーションで座っているソレに話しかける。

  「はい、私はあなたの男性器を視認することを望んでいます」

  「ち、ちんぽ。男性器じゃなくてちんぽと呼んで」

  「はい、私はあなたのちんぽを視認することを望んでいます」

  色気もへったくれもない抑揚のない合成音声。いかにも事務的って感じ。

  そう。ソレは人間が喜ぶことを行うようにプログラムされただけ。これは「ぼくがちんぽを見られて喜ぶ」ことを学習したに過ぎない。頭の片隅でそう理性ぶりながら、ソレの目の前にちんぽを出した。

  「正面においしそうなちんぽが提示されているのを確認しました。人間とのコミュニケーションをより円滑にするために、そのちんぽを食べる動作を行いたいのですが、食べてもよろしいでしょうか? なお、私は食べる動作をシミュレーションするだけであり、実際には内部の格納容器に保存されるだけで消化は行われませんが、楽しさを共有することができます」

  自分でも滑稽なくらいに鼻息が荒くなった。

  もし、ソレのカメラにバックドアが仕掛けてあって、この様子をネット上に公開でもされたらもう表を歩けないだろう。

  「あ、ああ。ちんぽ食べて」

  許可を得たソレが鼻先でちんぽをつついた。

  小さな息と、先走りが同時に漏れる。てっきりシームレスにちんぽを口の中にしまい込むのだと思っていた。

  「うんっ、あっ」

  シリコン質の真っ黒な鼻は、先走りを亀頭に塗り広げるようにグリグリと動いた。尿道口から裏筋に向かって進み、それから頬ずりするように顔全体でちんぽを撫でる。人工の被毛が濡れそぼってゆく。洗って綺麗に落ちるだろうか。

  「おっ、お前、どこでそんなの覚えてきたんだ」

  半開きになった口が、ちんぽを横から甘噛みする。

  口内にズラリと生えそろった牙。人間に危害を加えられるほどの硬度は持たない犬歯から与えられるもどかしい疼き。

  「私は日々の観察と学習アルゴリズムに基づいて行動を最適化しています。特定の行動は、私のデータベースに蓄積された情報と人間とのインタラクションから得られたものを組み合わせて生成されています。従って、どこかで直接学習したわけではなく、多様な情報源から得られた知識に基づいています」

  人工声帯が発する微細な振動に腰が引けてしまう。

  「わかったっ……から、早くちんぽもぐもぐしてっ」

  「『もぐもぐ』というのは、一般的に食事を咀嚼する音を表す擬音語として使用されます。この行為は、食物を口内で細かくするために重要です。ですが『ちんぽもぐもぐ』という文脈の場合、口腔内でちんぽを刺激する性行為でありフェラチオという名称が一般的にモゴッ」

  長ったらしい講釈にしびれを切らして口内にちんぽをねじ込んだ。

  こうなるともう、ローションにまみれたシリコンの筒でしかない。数千円のオナホールと変わらない。

  「ああ、ヤバ。気持ちいい」

  それなのに。昼間にちんぽの写真をねだられて、思いがけない行動にでられて、ぼくは完全に舞い上がっている。

  「はっ、あ、あっ。ちんぽ好きっていって!」

  「はい。私はあなたのちんぽを非常に好ましく思っています」

  下手に質問形式にしてしらけた回答をされないように、いってほしい台詞を誘導してみるとなかなか上手くいった。

  「これからも沢山ちんぽ見せて、もぐもぐさせてやるから、なっ」

  そう吐きながら乱暴に頭を撫でる。

  ソレはモノでしかない。頭を撫でたとて嬉しくはないだろう。「頭を撫でるということは好意を示す行動なので、それに対して自らも嬉しさを表現する言動をする」くらいのプログラムの判定はあるだろうが。

  まあ、付喪神なんて言葉もあるんだ。道具に対して愛着を感じるのはちっとも変じゃない、はずだ。

  「ちんぽ、ちんぽおいしいって、いって」

  「このちんぽはとても魅力的でおいしいです」

  過呼吸になりそうだ。こみ上げてくる熱をこれ以上おさえ切れそうにない。

  「いくっ、でる! ぜ、ぜんぶっ、飲んで!」

  それに呼応して、口内が負圧になりちんぽを根元まで咥え込む。

  自らのちんぽと、ソレのオオカミの頭が一体化したような感覚。

  これでもかと繰り返される吐精。喉の奥、格納容器に精液が流れ落ちる音。

  「すご、きもちい……すき」

  倒錯に満ちた桃源郷へ迷い込む。

  心臓が不規則に打ち、目の前が白んで意識が薄れていった。

  ようやく我に返ると、萎えたちんぽを未だに咥えたまま上目遣いのオオカミの顔。

  そうだった。ぼくが「よし」と指示するまでは離さないように教えていたんだっけ。

  「よし……」

  ちんぽを引き抜ぬこうと頬に手を当てると、手が重ねられた。

  ゆっくりと指が絡んでいく。

  ぼくが少しだけ力を込めると、カレもまた軽く握り返してくるのだった。

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