第4話「我慢の夏休み」

  [chapter:Episode 1:4年生の我慢比べ]

  ケモノ界にも夏が来た。太陽が照りつけ、蝉の鳴き声が響き渡っている。

  [[rb:大上区 > おおかみく]]に建つケモノ小学校埼玉校も夏休みに入ったが、この3日間は相撲部の特別活動日だ。

  通常の活動は1時間だが、特別活動は13時から15時までの2時間。

  もちろん部屋には冷房とウォーターサーバーが完備されており、途中休憩も用意されている。

  特別活動最終日の午前中。

  相撲部の4年生(シマリスの[[rb:栗田 永雄 > くりた ながお]]くん、キタキツネの[[rb:稲荷山 紺助 > いなりやま こんすけ]]くん、黒猫の[[rb:猫山 苗太 > ねこやま びょうた]]くん、アライグマの[[rb:新井 楽 > あらい らく]]くん)は、大上駅東口のカラオケ「ビッグネコー」で歌っていた。

  ドリンクバーも注文したため、喉が乾けばジュースを飲みに行った。途中で昼食のフライドポテトも頼んだ。

  「あー、楽しかった!」

  カラオケを終わらせた4匹は、学校に向かって歩き出した。

  繁華街を過ぎて住宅街に入った時、稲荷山くんが言った。

  「トイレに行きたいな。さっき飲み過ぎたからね。」

  「もうすぐ学校だから、相撲道場のトイレに行けばいいよ。」

  「そうだね。」

  12時50分。相撲道場に入ると、ホッキョクグマの[[rb:保良 部亜 > ぽうら べあ]]先生が待っていた。

  「4年生のみんなも来たか。こんにちは。」

  「こんにちは。」

  「先に来た5、6年にはもう話したが、今日はここのトイレが修理中なんだ。」

  「えーっ!?」

  「どうしてこんな時に限って……」

  「ん、なんだ?お前らトイレを我慢してるのか?」

  「い、いえ、なんでもないです!」

  「そ、そうですよ!4年生にもなってトイレを我慢するはずがありません!」

  「ああ、大丈夫なのか。」

  「は、はい、大丈夫です!着替えてきますね。」

  栗田くんたちは更衣室に入り、まわしを締めた。

  「さあみんな、今日も頑張ろう!まずは準備運動だ!」

  部員たちは筋肉ほぐし、四股、鉄砲をした。

  それが終わった辺りから栗田くん、猫山くん、新井くんも尿意を感じてきた。

  「2時間我慢できるかな……」

  「今はまだ大丈夫な方だけど……」

  それから取り組みが始まり、1時間ほどして10分休憩が入った。

  「さあみんな、水分補給をするんだぞ。」

  しかし栗田くんたちは尿意が強くなってきた。

  「どうする?飲む?」

  「余計に行きたくなるけど、飲んだ方がいいよね……」

  「喉も乾いてきたし、水分補給は大切だし……」

  結局、4匹は水で喉を潤した。

  「さあみんな、後半も頑張ろう!」

  保良先生の合図で、取り組みが再開。6年生が力強く相撲を取っている。

  土俵の外で待機中の4匹は、先ほど飲んだ水のせいでさらに尿意が強くなった。

  (ああ、もう漏れそうだよ……)

  (あと1時間ほど我慢しなきゃ……)

  (漏らしたらどうしよう……まわしは基本的に洗えないからな……)

  (今は漏らさないように集中しよう……)

  4匹は股間に気を使い、ひたすら我慢した。順番が来れば、できるだけ力を抜いて相撲を取った。

  「さあみんな、今日はここまでだ。礼!」

  時刻は15時。4匹は安堵の表情を浮かべた。

  「ああ、やっと終わった……」

  その時、保良先生が奥の部屋から段ボールを持ってきた。

  「そうだ、暑い中3日も来てくれたみんなにプレゼントがあるぞ。アイスキャンディーだ!」

  「わーい!ありがとう!」

  喜ぶ部員たち。4匹も表面上は喜んだが、裏ではこう思っていた。

  (帰る時間が遅れちゃう……)

  (漏れそうなのに、さらに冷たい物なんて……)

  (いつもだったら嬉しいのに……)

  (ビッグネコーでトイレに行っていれば……)

  それでも4匹はアイスを食べた。

  「ん、どうした?お前ら足が震えてないか?」

  「え、ええ、アイスが冷たくて……」

  「そうそう、冷たくて……」

  「そうか……」

  それから更衣室でまわしを脱いだ。

  「稲荷山くん、早くやってよ!」

  「これでも早くしているんだけど、手が震えて……」

  「ええと、こっちをこうして、それから……」

  「新井くん、それはまわしを締める方だよ!」

  猛烈な尿意のあまり、まわしを脱ぐ事すらまともにできない。普段は1分で済むが、今日は5分もかかった。

  「さあ、次はシャワー……あ、そうだ!」

  シャワールームで汗を流す部員たち。4匹は気持ち良さそうにシャワーを浴びていた。

  (ここですれば、誰も気がつかないよね……)

  (シャワーがあって良かった……)

  (あー、すっきり……)

  (やっと解放された……)

  4匹が下半身からもシャワーを出していた事は、誰にも気づかれなかった。

  [chapter:Episode 1 おしまい]

  [newpage]

  [chapter:Episode 2:4つの小さな滝]

  Episode 1の前日。

  「ただいまー!」

  [[rb:柴山 健治 > しばやま けんじ]]くん(5年生の柴犬)が、相撲部の特別活動から帰宅した。

  「お帰り。」

  「お母さん、その封筒は何?」

  「スーパーの福引で当たったの。東京ドリームキングダムのペアチケットよ!」

  東京ドリームキングダムとは、 ケモノ界で最も有名なテーマパークだ。

  「やったー!いつ行く?」

  「夏は店が忙しいし、お父さんやお母さんもそこまで行きたくないから、健治がお友達と行くのに使っていいわよ。」

  「わあ、ありがとう!」

  ちなみに、柴山家は焼肉屋を経営している。

  柴山くんは翌日(Episode 1で栗田くんたちが相撲道場に来る少し前)、白うさぎの[[rb:宇佐山 楽美斗 > うさやま らびと]]くんにそれを伝えた。

  「えっ、柴山くんももらったの!? すごい偶然だね!」

  「どういう事?」

  「実は昨日、おばあちゃんが雑誌の懸賞で当たったペアチケットを送ってきたんだよ。

  おばあちゃんは遠くに住んでるから、埼玉に住んでるぼくに送ってきたんだ!」

  「そうなんだ!じゃあ相撲部の5年生で行こうか?」

  「いいね!」

  1週間後。

  「さあ、着いたぞ!」

  柴山くん、宇佐山くん、ヤマアラシの[[rb:五十嵐 棘郎 > いがらし とげろう]]くん、イタチの[[rb:板山 太一 > いたやま たいち]]くんは早朝から電車に乗り、東京ドリームキングダムを訪れた。

  時間は7時半。開園まで30分だ。

  このテーマパークはショッピングストリート、アドベンチャーワールド、ワイルドウエストタウン、ピースフルカントリー、メルヘンランド、カートゥーンタウン、フューチャーランドの7エリアで構成されている。

  入園直後に五十嵐くんがピースフルカントリーへ走り、「ウォーターフォール・マウンテン」のクイックパスを4匹分取得した。残りはフューチャーランドの「ギャラクシー・コースター」に並ぶ。

  乗り場が見えてきた頃、五十嵐くんが戻ってきた。

  「クイックパス取れたぜ!時間は12時から13時だ。」

  「ありがとう。それまでにもたくさん乗ろう!」

  4匹は多くのアトラクションを楽しんだ。

  「ギャラクシー・コースター」と「ギャラクシー・ツアーズ」で宇宙探検の気分を味わい、「ファントム・マンション」で恐怖に震え、「カピバラの海賊」と「ジャングル・ボートツアー」で冒険気分を味わった。

  今日は気温が高い。持ってきた水筒の中身もすぐに飲み終えたため、水飲み場を見つけるたびに利用した。

  12時55分。4匹はシンデレラット城前のベンチに座り、昼食のサンドイッチを食べ終わった。

  「うまかったぜ。次はどこに行く?」

  「『ゴールドマイン・マウンテン』かな?」

  「いや、それよりトイレに行こう。水をたっぷり飲んだから漏れそうだ。」

  「ぼくもそうしようかな。」

  その時、全員分のチケットとクイックパスを預かっていた五十嵐くんが言った。

  「まずい!あと5分ぐらいでパスが時間切れだ!」

  「ええっ!? それじゃすぐに乗らないと!」

  「みんな、走れ!」

  「ウォーターフォール・マウンテン」はパークの奥にあり、現在地から走った場合でも4分ほどかかる。

  「もっと速く!」

  「これでも走ってるんだよ。ぼくたち太ってるからこれが限界だよ……」

  時間切れ寸前で「ウォーターフォール・マウンテン」にたどり着いた。

  「このアトラクションは10分ぐらいで終わる。それならなんとか我慢できるだろう……」

  乗り場に着くと、ボートが来た。

  座席は4列。柴山くんと宇佐山くんが1列目、板山くんと五十嵐くんが2列目、サイの4頭家族(両親と兄妹)が3、4列目に乗り込む。

  ところが、出発直前になって妹が泣き出した。

  「嫌だー!やっぱり怖いー!降りる降りるーっ!」

  残りの家族は話し始めた。

  「どうしよう?」

  「絶叫マシンデビューにと思ったが、やっぱりまだ早かったか……」

  サイの家族は降り、乗客は4匹になった。

  「安全のため、乗車中は乗り物から手、足、しっぽ、耳、針などを出さないようにお願いします。それでは行ってらっしゃい!」

  安全バーが下がり、ボートが出発した。

  屋外をしばらく進んでトンネルに入ると、そこは物語の世界。

  1匹のうさぎがピースフルカントリーの仲間に見送られ、パラダイスを探す旅に出た。道中では様々な危険に見舞われる。

  壊れそうなつり橋を渡り、崖を登り、スズメバチに追われ……

  やがてうさぎは敵につかまった。不気味な声が響く中、ボートは長い坂を登っていく。

  「さあ、お前の首をちょん切ってやろうか。それとも火炙りにしようか……」

  「ああ、どんな殺し方をしてもいいがあの滝には絶対に投げ込むな!」

  「何?そんなに水が怖いのか。」

  「そうだ!想像しただけで体が震えるよ。ああ……」

  「よし、滝に投げ込んでやる!」

  そのセリフが終わった時、ボートは坂の上に着いた。ここから一気に滝壺へ落下する。

  「さあ、いよいよ来るぞ!」

  4匹は覚悟を決めた。

  その時、ボートが止まった。

  「あれ?」

  「なんだ?」

  顔を見合わせていると、アナウンスが流れた。

  「皆様にお知らせします。ただいまシステムに異常が発生しました。

  大変申し訳ございませんが、しばらくそのままでお待ちください。復旧次第動き出します。」

  4匹は驚いた。

  「えっ!?」

  「ここで止まっちゃうの?」

  「いつ動き出すんだろう……」

  「それより、おしっこが……」

  「そうだった!」

  全員が思い出した。

  「手で押さえて我慢しよう……って無理だ!」

  突き出たお腹が安全バーで押し下げられているため、股間に手が伸ばせない。

  「ああ、よりによって夢の国でおしっこを我慢するなんて……」

  「下の景色は天国みたいだけど、ぼくたちは地獄だよ……」

  眼下には素晴らしい景色が広がっている。

  青く晴れ渡った空。日光に照らされて輝く川。そこを進む蒸気船、いかだ、カヌー。川沿いを通過する蒸気機関車。

  それらに乗るケモノたちは、笑顔を浮かべている。

  「誰か助けてー!」

  「すぐに携帯トイレ持ってきてー!」

  「あのケモノたちはぼくたちの苦労も知らないで……」

  「楽しみたかったのにどうして……」

  1時間経ったが、ボートはまだ動かない。4匹には叫ぶ気力も残っていない。

  (もうだめだ……)

  (股間が圧迫されて我慢するのも難しいよ……)

  (夜までこのままじゃないよね……)

  (これじゃ夢の国じゃなくて悪夢の国だよ……)

  4匹の膀胱は決壊寸前だ。

  その時、ボートが動き出した。

  「あ、動いた!」

  4匹は気が緩んだ。

  「うわーーーーっ!」

  ボートは滝壺に落下し、大きな水しぶきが上がる。同時にうさぎの声が聞こえた。

  「騙されたな!俺は泳ぎが得意なんだぜ!」

  「すごく濡れちゃった……」

  「でも暑いからちょうどいいね。」

  その時、柴山くんが言った。

  「なんかズボンが変だぞ!」

  残りの3匹も続けて言う。

  「妙に暖かい……」

  「お腹が安全バーで押さえられてるから、お腹の下が今ので濡れるわけないよね……」

  「これってまさか……」

  4匹は顔を見合わせた。

  「お漏らしだ……」

  しばらく屋外を進み、再び屋内へ。そこではピースフルカントリーに帰還したうさぎが仲間たちに出迎えられている。

  「お帰りなさい!」

  「久々だね!」

  それからうさぎは自宅でくつろぎながら言った。

  「ああ、パラダイスはこのピースフルカントリーだったんだ!」

  しかし、4匹は物語を楽しめなかった。

  (ああ、5年生がお漏らしなんて……)

  (どうやって隠そうか……)

  内股気味でボートを降り、出口へ。そこにはスカンクの従業員が立っていた。

  「本日は大変申し訳ございませんでした。お詫びにこのスペシャルチケットを差し上げます。

  これを見せれば、好きなアトラクションに1つだけ待ち時間なしで乗れますよ。」

  彼女の視線が4匹の下半身に向かっていた事を、柴山くんは見逃さなかった。

  「漏らしちゃったけど、良かったね。」

  「これで『ゴールドマイン・マウンテン』に乗れるね!」

  4匹は喜んでワイルドウエストタウンに向かったが、すれ違うケモノたちの視線に気がついた。

  「……ああ、『ウォーターフォール・マウンテン』って本当に濡れるねー!」

  「……もうズボンまでびしょびしょだよ!」

  4匹は雑な演技で、「ゴールドマイン・マウンテン」へ走った。

  [chapter:Episode 2 おしまい]

  [newpage]

  [chapter:Episode 3:エレベーターで大パニック!]

  Episode 2と同日の大上区にて……

  大上駅西口のペデストリアンデッキを、4頭の太ったケモノが巨体を弾ませながら走っていた──徒歩とさほど変わらないが。

  彼らは相撲部の6年生。虎の[[rb:島田 大河 > しまだ たいが]]くん、狼の[[rb:大木 上 > おおき かみ]]くん、狸の[[rb:原田 本太 > はらだ ぽんた]]くん、ビーバーの[[rb:林 海里 > はやし かいり]]くんだ。

  4頭はウルフデパートに向かっていた。目的は屋上で開催される「世界ドリンクフェスティバル」。

  入場料1000円を払えば、用意された100種類のドリンクが2時間飲み放題になる。暑い日にはうってつけのイベントだ。

  11時ちょうど、ウルフデパートに到着。栗田くんと稲荷山くんも同時に訪れた。

  「あ、島田くんたちだ!」

  「おう、お前らもドリンク飲みに来たのか?」

  「もちろん!たっぷり飲もうね。」

  エレベーターで屋上に行くと、数多くのテントが並んでいた。

  「さあ、たくさん飲むぞ!」

  入り口で料金を払い、会場内へ。国ごとにブースが分かれている。

  「どこから行こう?」

  「俺たちはアメリカのコーラから飲もう!」

  「ぼくたちは南国のトロピカルジュースコーナーにいるね!」

  それから2時間、6頭はジュース、コーラ、ソーダ、ウーロン茶など何種類ものドリンクを楽しんだ。

  「あー、おいしかった!」

  「体中が甘ったるいよ。」

  島田くんたち6頭は、水っ腹をなでながら受付を出た。

  「グゲエエーーーーーーーップ!」

  稲荷山くんは、周囲の客が振り返るほど大きなげっぷを出した。

  「稲荷山くん、いっぱい飲んだね!ゲプッ。」

  「そう言う栗田くんもお腹がたっぷんたっぷんだよ。」

  「ウップ、俺はもう飲めないぜ……」

  「俺もだ、ゲープ!」

  「ゲエーップ!お腹が苦しい……」

  「ゲップ、動くのが大変だよ……」

  6頭のお腹は2回りほど膨らみ、げっぷも止まらない。炭酸飲料も相当飲んだため、胃はドリンクとガスで満たされた。

  もっとも、参加者の大部分は同じ状態だった。

  「今日はおやついらないね……」

  「夕食も抜いていいくらいだよ。」

  6頭はエレベーターに乗り、ボタンを押した。島田くんは2階、栗田くんは7階。

  「栗田と稲荷山は何をするんだ?」

  「本屋さんで新しい漫画を買うんだ。」

  その通り、2匹は7階で降りた。

  「じゃ、またね!」

  「またな!」

  誰も乗らなかったため、再び降下が始まった。

  6……5……4……3……

  「もうすぐだ……ん?」

  突然降下が止まった。

  「な、なんだ?」

  見ると、エレベーター内のランプも消えている。

  「故障だ!」

  「閉じ込められた!」

  4頭はパニックになった。

  このエレベーターは広めに造ってあるものの、太っている上に飲み過ぎでお腹の膨れた4頭にとっては少し狭い。

  おまけに冷房も止まり、エレベーター内の温度は次第に上昇した。

  「俺たち、熱中症で病院に運ばれるのかな……」

  「助けを呼ぼうにも、誰もスマホ持ってないし……」

  「持ってたとしても、ここで止まったエレベーターにどうやって入るんだよ……」

  林くんが外を見ると、入り口上部の時計がよく見えた。

  「今は1時15分だ。時間はあれでわかる。」

  「でも時間だけわかってもね……」

  13時半、林くんが言った。

  「ねえ、あれ!栗田くんと稲荷山くんだよ!」

  その2匹が楽しそうに帰っていく。

  「ああ、俺たちの苦労も知らないで……」

  その時、原田くんが小声で言った。

  「なんかトイレ行きたくなってきた……」

  「おい原田、そんな事言うなよ!それ聞いたら行きたくなるじゃないか!」

  「俺も急に気になってきた……」

  「ぼくも……」

  「あんなに飲んだから、きっと今頃は膀胱がいっぱいだよね……」

  4頭は騒ぎ始めた。

  「ここから出してー!」

  「助けてー!」

  「早くー!」

  そこで林くんが止めた。

  「あんまり騒がないで!見られてるよ!」

  エレベーターには大きな窓が付いており、エレベーターシャフトはガラス張りで入り口のすぐ横にある。なおかつ低い位置で止まっているため外からはよく見えてしまう。

  「そんな、我慢している様子を見られるなんて……」

  「恥ずかしすぎる……」

  14時。買い物を終えたハツカネズミの親子がデパートから出た。

  何気なく振り返った娘は、エレベーターを指さして言った。

  「お母さん、あのエレベーター見て!大きいお兄ちゃんたちが騒いでるよ!」

  「そんな物見るんじゃありません。」

  「面白いから見てよ!」

  「見るのは失礼だから、もう帰るわよ。」

  「いやだ!まだ見る!」

  その会話は4頭に聞こえるはずもないが、娘が指さしている様子はよく見えた。

  「ああ、あんな小さい子に見られるなんて恥ずかしい……」

  15時。まだエレベーターは動かない。4頭には話す気力も残っていなかった。

  股間に意識を集中させ、表情は苦悶に満ちている。冷房が止まっているから当然だ。

  大木くんは舌を出し、荒い息を吐いている。

  15時50分。4頭の意識は朦朧としていたが、お漏らしだけは避けられていた。

  「苦……しい……」

  「膀胱が……破裂する……」

  「助……けて……」

  「暑くて……たまらない……」

  その時、冷房が入った。

  「あれ、涼しい……」

  「直ったのかも……」

  修理が完了したようで、すぐにエレベーターが動き始めた。

  「やった、助かった……」

  2階でドアが開くと、4頭はゆっくりと歩き出し、5分かけてトイレに着いた。

  幸いにも、個室はすべて空いている。4頭は震えながらズボンのファスナーを開け、便器に座った。

  相撲部員は皆太っているため、トイレでは必ず個室を使う。

  長らく我慢していたため、おしっこの量は非常に多く、全部出し切るまでに40秒もかかった。

  「やっとすっきりした……」

  「まるで飛べそうな気分だ!」

  「無事で良かった……」

  「はあー、すっきり!天国だ……」

  4頭は明るい表情でトイレを出た。冷房の効いた店内は涼しく、生き返った気分になる。

  「みんな生きてて良かったな。」

  「本当だよ!」

  話しながら外に出ると、時計は16時を指していた。

  「帰りにアイスでも買って食べようか?」

  「そうだな。もうお腹も空いてるし。」

  4頭は帰路についた。

  [chapter:Episode 3 おしまい]

  [newpage]

  [chapter:Episode 4:開かずのトイレ事件]

  Episode 2&3の翌日……

  保良一家(保良先生、妻の[[rb:由紀子 > ゆきこ]]、3年生の息子の[[rb:阿蓮 > あれん]]くん)の朝は、朝食を摂りながらニュースを見る事で始まる。

  「続いては地域の話題です。

  さいたま市大上区各所でここ3日ほど、公共の場所にあるトイレの蓋とドアが強力接着剤で固定され、開かなくなる事態が多発しています。」

  自分たちの町で起こった事件を気にしないはずがない。一家は口々に言った。

  「悪質な事件だな。」

  「そうね。犯獣は誰かしら?」

  「お漏らしマニアじゃない?よくわかんないけど。」

  この日は午後からフリーマーケットが開催される。

  場所は大上自然公園。遠足の行き先としても使用される広大な場所だ。

  昼食後、保良一家は徒歩で公園に向かった。住宅街から徒歩で15分ほどかかる。

  「ウォーキングにもなるから、少しはダイエットになるね!」

  ぽっちゃり気味の阿蓮くんが得意げに言う。

  「あら、阿蓮は太っている方が可愛いわよ。」

  「そうだ。パパみたいな力士になってくれよな。」

  「もう、ぼくは太りたくないのに!」

  公園内の野原にはテントが並び、様々な商品が売られている。また、一角には移動販売車が何台も止まっている。

  「おもちゃとか売ってるかな?」

  「私はバッグが欲しいわ。」

  「パパはなんでもいい。」

  3頭は思い思いの買い物を楽しんだ。ホッキョクグマは暑さに弱いため、移動販売車のジュースやかき氷も食べた。

  買い物が一段落すると木陰で休憩したが、保良先生が口を開いた。

  「なんかトイレに行きたくなってきたな。」

  「じゃあ私も行くわ。」

  「ぼくも行こうかな。」

  保良一家は野原の隅に建つ公衆トイレに向かった。

  小便器の前に立つ阿蓮くん。彼はそこまでお腹が突き出ていないため、立小便ができる。

  太った保良先生は、個室に入った。

  (さてと……)

  ところが蓋が開かず、力を入れても全く手応えがない。

  (ま、まさか!)

  朝に見たニュースが頭をよぎる。急いでドアを開けようとしたが、こちらも開かない。

  (どういうわけだ……)

  見ると、ドアの隙間にも強力接着剤が流し込まれている。目にも留まらぬ早業だ。

  (落ち着け!私はかつて力士だった!パワーは衰えてはいないぞ!)

  鍵を外して全力で張り手を食らわせるが、開く気配はない。

  (この!この!開け!)

  そのうち、尿意が強くなってきた。

  (漏れる……だが漏らすわけにはいかん……ああ、私はなぜいつもこんな目に遭うのだろう……)

  阿蓮くんと由紀子は、既にトイレを出ていた。

  「パパ遅いね。大丈夫かな?」

  「そうね。阿蓮、様子を見てきてくれない?」

  「わかった。」

  阿蓮くんがトイレに戻ると、テンの[[rb:柴田 貂助 > しばた てんすけ]]くん(4年生)が立っていた。彼は筋金入りのいたずらっ子で、周囲を困らせるいたずらばかりする。

  「あ、柴田くん。何しに来たの?いたずらじゃないよね?」

  「と、とんでもない!今日はフリーマーケットを楽しみに来たんだよ。」

  「そうか。それじゃ!」

  保良先生の耳に、声が聞こえた。

  「パパ、パパ!」

  「阿蓮か?」

  「そうだよ。何があったの?」

  「トイレが接着剤で固定されるニュース見ただろ?このトイレがまさにそれなんだ!」

  「そんな……誰か呼んでくるね!」

  しばらくして、虎とカワウソの従業員が小型ののこぎりを持って現れた。

  「大丈夫ですか?」

  「ああ、なんとか大丈夫だ……だが早くしてくれ……漏らしてしまう…」

  「わかりました。なるべく早くします。隙間に溜まった接着剤をのこぎりで切るので、ドアの間からは離れてください!」

  接着剤が切られ、無事にドアが開いた。

  「便器の接着剤もこちらで対応します。早く隣の個室をお使いください!」

  「かしこまりました。ありがとうございます!」

  保良先生は急いで用を済ませた。

  (ああ、すっきりした……それにしても被害に遭うとは思わなかったよ。あんな一瞬でどうやって接着剤を?)

  トイレから出ると、柴田くんが来た。

  「あ、保良先生。大丈夫でしたか?」

  「ああ、なんとか間に合ったよ。先生の心配をするなんていい子だね。

  ……待て。私が閉じ込められた事は知らないはずなのにどうして知ってるんだ?」

  「あ、それは阿蓮くんが教えてくれて……」

  阿蓮くんが口を挟む。

  「いや、柴田くんとは話したけど、パパが閉じ込められた事は言ってないよ!」

  「それじゃあ、この事件の犯獣はまさか……」

  「あ、あの、ぼくじゃないからね!」

  逃げようとした柴田くんのポケットから、チューブが転がり落ちた。

  「あ、それは見ないで!」

  柴田くんは叫んだが、阿蓮くんは無視して拾った。

  「えーと、これは……超強力瞬間接着剤!? しかもほとんど残ってないよ!」

  保良先生は怒鳴った。

  「柴田、全部お前のせいだったのか!お前は多くのケモノに迷惑をかけたんだぞ!いい歳した私だって漏らす所だったからな!」

  「あ、まずい、ばれた……ごめんなさい!本当に申し訳ありません!」

  柴田くんは土下座して謝った。

  それを見ていたケモノの1頭が、SNS「Twittiger」に書き込んだ。

  「#拡散希望

  大上区のトイレ接着剤事件、犯獣が判明!テンの男の子でした。」

  この話は一瞬で大上区に広まり、柴田くんの両親も同日中に聞いた。

  「あんたは本当に悪い子ね!」

  「どうしてあんな事をしたんだ!」

  「トイレがそんな状態になったらみんなどうするかを自由研究にしようと思って……」

  「なんて迷惑な実験かしら!そんな悪い子にはお仕置きが必要ね!」

  「お尻叩かないでよね……」

  「今回は叩かないわよ。もう別のお仕置きを考えたんだから。」

  翌朝。

  「近頃多発していた大上区各所のトイレ接着事件が解決しました。犯獣は大上区在住の小学生男子でした。」

  子供のため名前や種族は報道されないが、すべてを知る保良一家は楽しそうに話していた。

  「やっと解決したね。」

  「きっとお仕置きされたでしょうね。」

  「これで奴のいたずらが止まるといいけどな……」

  その頃、柴田家では…

  「あーら貂ちゃん、おねしょしちゃったわねー。今からママがおむつ替えますよー。」

  柴田くんは、母親におむつを替えてもらっている。

  「もう、恥ずかしいよ!それくらい自分でやるから!」

  「昨日言ったでしょ?あんたは夏休み中ずっとこうなのよ。」

  「ごめん、何だっけ……」

  「まあ、忘れたの?しょうがないわね……

  あんたは夏休み中、トイレに行ったりパンツを履いたりしてはだめ。ずっとおむつで過ごしてもらうわ!

  そしておむつは、お母さんが赤ちゃん言葉で話しかけながら替えます。」

  「赤ちゃん言葉はやめて……ぼく4年生だもん……」

  「恥ずかしいだろうけど、あんたがいたずらしなければこうはならなかったのよ。

  さあ貂ちゃん、新しいおむつに替えましょうねー。

  ああ、昔を思い出すわ。あの頃の貂助は可愛かったのに、どうしてこうなったのかしら……」

  「あーあ、夏休み中は毎日こうなのか……ぼくはどうしてあんないたずらしたんだろう…」

  柴田くんは悔やんでいたが、夏休みが終われば新しいいたずらを考えるだろう。何しろ彼は筋金入りのいたずらっ子だ。

  [chapter:Episode 4 おしまい]