ーほんの僅かでも長く、あなたといっしょにいたいから。
「今日めっちゃ疲れたし、ちょっと休んできません?」
帰路につく足をぴたりと止め、廣岡は植田に提案する。
「…俺もう宿舎帰りたいねんけど…」
とっとと部屋に戻って、一刻も早く眠りにつきたい植田は、あからさまに嫌そうな顔をしている。
「ええやないですか、すこしクールダウンさせてからの方がカラダにもええですよ」
いかにもらしいことを言って、廣岡は植田を惑わせる。
「そうかなあ…」
心の中では未だ早く部屋に戻りたい気持ちに変わりはないのに、口をついて出た言葉は否定ではなかった。
「そーです、そーです」
「お前、テキトーやろ」
いつの間にか、近くにあったベンチに腰掛けていた廣岡の横に、ちょこんと植田も座って、たわいもない話をすこしだけ続けた。
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「あーもー座ったら動けん!帰んのちょっと休んでからにしましょうよ」
相変わらず廣岡は植田を巻き込んで、まっすぐに家へ帰ることをしないでいる。
「お前、またそれ?じいさんやんか」
何度も付き合わされる植田は、いい加減呆れている。
「歳ッスかねーめっちゃ疲れるー」
「腹立つわー」
そう言いながらも、植田は廣岡を置いて、さっさと帰っていくこともしなかった。
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「むっちゃ喉渇いたわー。海さん、なに飲みます?」
自販機の前で廣岡は植田に問いかける。
「いや、俺はいらんよ」
特に欲していない植田はあっさりと断る。
「俺といっしょでええですね?」
植田の返事を無視して、廣岡はボタンを二度押した。
「…ひとのはなし聞けや…」
「これ貸しなんで、今度返して下さいね」
同じ色をした細長い缶の一つを、廣岡は植田へ向かって放り投げた。
「おかしいやろ…ほら、大志、すぐバス来るで?」
片手で缶をキャッチした植田は、通りの向こうから、バスがこちらへ近付いてきているのを確認する。
「ええです、俺、海さんに送ってもらうんで」
急ぐ様子をまったく見せず、廣岡は、プシュッと缶の口を勢いよく開ける。
「バス乗りーや」
マイペースにぐびぐびと喉を潤す廣岡を、脱力しながら植田は見ている。
「これで貸し借りナシってことで」
「俺だけ損してない?」
勝手にジュースを奢られ、そのお礼に送って行けというのだから、誰もが疑問に思っても仕方がない。
「だって、海さんも俺といっしょに帰りたかったでしょ?」
どこまで自己中心的なのかこいつは。
自分の気持ちをどんどん勝手に決めつけられていく。
「海さん"も"ってなに」
すこしムッとしながら、植田は答える。
そんな植田の気持ちを知ってか知らずか、廣岡はすらすらとさわやかに続ける。
「俺はいっしょに帰りたかったッスよ?」
そう言われて、嫌になるどころか、なんとなくうれしく感じている自分に、植田は気が付きたくなかった。
「…やったら最初っからそう言ったらええやろ…」
浮かれそうになるところをグッと堪えて、視線を下に落として、植田はぼそぼそと答える。
そんな植田を見て廣岡は、にやりと口角を上げて得意気に訴える。
「そこは察してくれんと〜そういうとこッスよ?海さん?」
植田の顔を覗き込むようにして、廣岡は上目遣いで植田と目を合わせる。
「腹立つわ…」
楽し気に弾む会話の横を、バスはゆっくりと通り過ぎていった。
- end -