[chapter:プロローグ]
ここは、ケモノ界の富山県。山間部に[[rb:土井中村 > どいなかむら]]という場所があった。
山で隔たれた複数の集落で構成され、住民たちは主に農業を営みながらのんびりと暮らしている。
時は2016年5月。ある集落に、[[rb:豚田 充 > とんだ みつる]]という豚の男の子が住んでいた。
彼は土井中小学校に通う小学2年生で、かなりの肥満児。ふざけるのが好きなひょうきん者で、「トントン」というあだ名で呼ばれている。
同じ学校に、[[rb:礼堂 乃愛 > れいどう のあ]]という6年生の狼がいた。
彼女は美しい見た目をしているが、中身は意地悪で、誰かの粗探しが趣味。
何度叱られても、全く懲りずに続けていた。
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[chapter:事件]
5月のある日、乃愛ちゃんは凶行に出た。トントンを理由もなく罵倒して自分の事をゴミだと思い込ませ、生きたまま焼き殺そうとしたのだ。
幸い、着火される直前で教師に見つかり、トントンは助かった。
乃愛ちゃんは激しく叱られたが、それでも自分の行為が正しいと主張したため、帰宅後には両親によって部屋に監禁された。
その後、彼女は忽然と姿を消した。程なくして、彼女の両親も姿を消した。
それ以来、トントンは今までよりも臆病になった。これまで安全と信じていた場所で殺されかけたから当然だ。
「乃愛ちゃんが消えた」と聞いても、恐怖は消えない。
(突然消えたなら、ワープの力を身に着けたのかもしれない。もしおいらの家にワープしてきたらどうしよう?)
そう考えると恐ろしくてたまらず、なかなか眠れない日々が続いた。
事件から1週間後の夜、彼は尿意を感じて目覚めた。
(トイレに行かなくちゃ。でも怖いな……)
しばらく布団の中で悩んでいたが、やがて恐る恐る廊下へ。手探りで電気のスイッチを探す。
(ああ、ここだ)
スイッチを押した瞬間、彼の体が突然宙に浮かんだ。
「えっ!?」
次の瞬間、照明がついた。しかし電球ではなく、ランプのようにぼんやりとした灯りだ。
トントンはロープで縛られ、宙吊りになっている。あのスイッチがロープにつながっていたようだ。
(どうしてこんなスイッチが!? それにこの不気味な灯りは何だろう……)
考えていると、廊下の奥から足音が近づいてきた。
「嘘だろ!? お前は……」
足音の正体は乃愛ちゃんだった。灯りに照らされ、より不気味に見える。
「アハハハハ!簡単に引っかかったわね。もう逃がさないわよ。
さあ、今すぐ焼かないと。これを使えば確実だわ」
彼女は火炎放射器を取り出し、引き金を引いた。
「ギャァァァァァァーッ!!!!!」
「あーら、予想以上にすごい声ね!こんなに叫ぶ生ゴミって、本当に面白いわ!」
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[chapter:落ち込むトントン]
トントンは慌てて身を起こした。
「助けてーっ!あ、あれ?夢か……」
彼は布団に入っていた。外は朝日に照らされており、下半身が湿っている。
「ああ、まただ……」
殺されかけた翌日から、彼は毎朝おねしょをするようになってしまった。しかも一晩で3回ほどだ。
ちなみにそれ以前は、月に1回するかどうかまで減っていた。
「まあ、またおねしょしたの?」
「だって、夜のトイレが怖くて……ドアの向こうに乃愛ちゃんが立っていそうな気がするんだ……」
「あんな思いをしたから体の調子がおかしくなるのもわかるけど、トイレにはしっかり行かないとだめよ!」
母親の[[rb:真由美 > まゆみ]]にも呆れられ、彼はみじめな気持ちになった。
(おいらは何も悪くない。悪いのは全部乃愛だ!
しかし、あいつは家族ごと消えてしまったから、責めようと思ってももうできないんだよな……)
学校でも元気がなくなり、休み時間は常に暗い表情で座り込むようになった。
「トントン、ボールで遊ぼうぜ!」
「いや、そんな気分じゃない。ここから動きたくないんだ。
もし出歩けば、その先でまた襲われそうな気がしてさ……」
クラスメイトが遊びに誘っても断るばかり。そのため、彼はクラスの中で孤立していった。
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[chapter:救いの手]
「あれじゃ、あの子がかわいそうだ。何とかしよう、[[rb:穴太郎 > あなたろう]]!」
「おう、[[rb:川助 > かわすけ]]!」
数日後の放課後、2匹の4年生がトントンのいる教室を覗いていた。太ったアナグマの穴太郎(本名:[[rb:穴戸 風太 > あなど ふうた]])と、ぽっちゃりしたカワウソの川助(本名:[[rb:太田 川之助 > おおた かわのすけ]])だ。
この2匹は仲が良く、お互いに上記のあだ名で呼び合っている。家も近いため、毎日一緒に遊んでいる。
穴太郎は活発で、考えるより先に体が動くタイプ。遊びの中ではリーダーとなる。
川助はしっかり考えてから行動するタイプ。周囲にもよく目を配っている。
トントンと絡んだ事はあまりないが、同じ集落の住民とは知っている。そのため、彼の元気を取り戻そうとひそかに考えていた。
2匹は教室のドアを開けた。
「よう、トントン!」
「ぼくたちと一緒に遊ばない?」
「やめろ!どうせおいらを丸焼きにするつもりだろ!もう誰とも遊びたくないんだ!」
「大丈夫、そんな残酷な事はしないよ。自然の中で楽しく遊びたいんだ」
「学校終わったら、俺んちに集合な!だって俺たち、この学校じゃ珍しくみんな家が近いだろ?」
「へえ、おいらの事知ってるのか?それなら遊んでみてもいいかもな……」
下校してからしばらくすると、川助が訪ねてきた。
「こんにちは、トントン。穴太郎の所まで案内するよ」
「ああ、こんにちは……って靴はどうした?」
「ぼくと穴太郎は、この辺りで遊ぶ時は裸足になるんだ。トントンもやってみな!」
「でも、そうすると母ちゃんに怒られる……」
すると、真由美が背後に現れた。
「今日は思いっきり裸足で遊びなさい。そうすればきっと気分が変わるはずよ。
家に入る前にちゃんと足を洗えば大丈夫よ。さあ、楽しんできて」
「母ちゃん……ありがとな!」
真由美の態度が変わったため、トントンの心は少し楽になった。
川助の後について行くと、大きな和風家屋の前に出た。平屋建てだが、相当な広さだ。
「ここが穴太郎の家。この集落で一番大きいんだ」
「すげえ!遠くから見てもでかい家とは思ってたけど、近づくとさらにすごいぜ……」
インターフォンを押してしばらく経つと、穴太郎が出てきた。
「おお、連れて来たか。さあ、遊びに出かけるぞ!」
3匹は集落を抜け、森の中へ。
森を駆け回ったり、裸になって小川ではしゃいだり、虫を探したりして1日を過ごした。
「ああ、今日は楽しかったぜ!おいら、こんな明るい気分になれたのは久々だ!」
夕暮れの中を帰る3匹。トントンの表情は特に輝いていた。
「良かったな、トントン。誘った甲斐があったな」
「また遊びたくなったら、いつでも言ってね」
「もちろんだぜ!」
この日からトントンは少しずつ元気を取り戻し、以前のような明るい性格に戻った。
毎朝のおねしょは治らなかったが、やがてそれも個性として受け入れ始めた。
夏休みになると、毎日のように穴太郎や川助と遊んだ。様々な会話を楽しむうち、その2匹もおねしょが治らないと知った。
「やっぱりおいらたち、仲間だな!」
「そうだな。でも恥ずかしいから、他のみんなには内緒にしてくれよ」
「もちろん!せっかく友達ができたんだから、この友情は大切にするぞ!」
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[chapter:宝探し]
7月29日──夏休み開始から1週間後、穴太郎が提案した。
「今日は遠くの森へ宝探しに行こうぜ!まだ行った事のない場所さ」
「へえ、どんな宝だ?」
「最近、森によくカラスが飛んでくだろ?きっとカラスが宝を集めてるんだ」
「図鑑で読んだ事がある。カラスは光る物が好きだってね」
「すごいじゃないか!そんな話初めて聞いたぞ!」
「さあ、出発だ!みんな、俺について来い!」
3匹は森に入った。
「どんな宝が待ってるか楽しみだぜ!」
「光る物だから、ダイヤモンドの山?それとも小判かな?」
「宝石、真珠、金銀財宝……何でもいいから、見つかったらおいらたちで山分けしようぜ!」
胸を躍らせながら歩くうち、周囲の木々が増え、日光もあまり差し込まなくなってきた。
「だいぶ奥まで来たね。そろそろ宝のありかに着くんじゃない?」
「いや、もっと奥だ!川助にトントン、行くぞ!」
その時、トントンの耳に何かが聞こえた。
「みんな、待って!何か聞こえるぞ。子供が泣いてるような声だ……」
「そうだ、確かに聞こえる!」
「もしかして迷子かもしれない!宝は後回しだ!」
穴太郎の合図で、3匹は声の方へ向かった。
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[chapter:救出]
川「あそこだ!」
そこには野兎の男の子が座り込み、泣いていた。トントンよりも年下で、丸々と太っており、腹掛け1枚のみ着けている。
穴「おい、大丈夫か!?」
「ぼくたちが助けに来たよ!」
ト「もう安心していいぜ!」
野兎は号泣しながら、穴太郎に抱きついた。
「助かったー!もう助けが来ないかと思ったよー!」
「君はなんでここにいるんだ?」
「探検ごっこをしてたら、いつの間にか知らない所まで来ちゃったんだ。帰り道もわからなくなって……」
「俺たちは森から出る道を覚えてる。森の外まで送ってあげるぜ」
「ありがとう、お兄ちゃんたち……」
3匹は野兎を連れて、道を戻った。川助が優しく語り掛け、彼の気持ちを落ち着かせる。
「ねえ、君の名前は?」
「ぼくは[[rb:能崎 跳 > のうざき はねる]]。5歳だよ」
「能崎……その苗字には聞き覚えがある。ぼくたちの集落にそんな名前の家があるよ。
5年ぐらい前にそこで赤ちゃんが生まれたって、村で話題になってたから、君はそこの子だ!君の家まで送ってあげられるよ!」
「それじゃ、お家に帰れるんだね!」
「そうだよ。それで、君に友達はいないの?」
「いないよ。ぼくはまだ5歳だから、学校には行ってない。家の近くにも子供はいないんだ。
お父さんもお母さんも毎日働いてるから、よくおばあちゃんに預けられてる。今日はおばあちゃんに用事があるからぼくだけで遊んでたんだ。そしたら迷子になっちゃった……」
「じゃあ、今日からぼくたちが友達だ!今は学校が休みだから、毎日一緒に遊べるよ」
「ほんと!嬉しいな!ありがとう!」
トントンも尋ねた。
「君はいつも腹掛け1枚なのか?」
「夏はね。それ以外の季節は[[rb:半纏 > はんてん]]を着てるよ」
「へえ、今時珍しいな」
「そっちの方が好きなんだ。腹掛けだって涼しくて気持ちいいから大好き!」
「そうか、涼しいのか……じゃあ、おいらも今度からふんどしだけで過ごそうかな?」
歩き続けるうち、周囲が明るくなってきた。
「もうすぐ森を抜けられるよ!」
穴「あと少しで帰れるはずだぜ!」
「やったー!わーい!」
能崎くんは喜んで跳ね回った。腹掛けがまくれ、股間が丸出しになってもお構いなしだ。
その時、穴太郎が得意げに言った。
「よし、思いついた!」
川「何を?」
「こいつのあだ名さ。ぴょんぴょん跳ねてるから『ぴょん[[rb:太 > た]]』にしよう!
お前、このあだ名気に入ったか?」
「うん、とっても!」
「ぴょん太、改めてよろしくな!」
[newpage]
[chapter:友情の始まり]
自己紹介を続けるうち、4匹が住む集落に戻ってきた。
「あっ、ぼくの家だ!あそこだよ!」
「俺たちの家からはずいぶん離れてるな。だからお互いに知らなかったのか」
「それでも場所がわかったから、明日からは気軽に会えるね」
ト「もう十分友達になったからな。明日も一緒に遊ぼうぜ!」
「うん!みんな今日はありがとう!それじゃ!」
元気を取り戻したぴょん太は、自宅まで走った。太った体からは想像もつかない速さだ。
「あいつ、本当に元気だな。俺はあんなに速く走れないな……」
川「明日はぴょん太も一緒に、宝探しの続きをする?」
「もうおいらたちは宝を見つけたじゃないか。それは新しい友達。
遊び好きなおいらたちにとっては、それが一番の宝物だと思う。ダイヤモンドや小判なんかよりずっといい物だ!」
「トントン、お前いい事言うな!俺もそう思えてきたぜ!」
「もう宝探しはおしまいだね。明日はみんなで虫取りに行こう」
「でっかいカブトムシを捕まえて、ぴょん太をびっくりさせてやるぜ!」
3匹は会話を楽しみながら、それぞれの家に帰った。
その翌日からぴょん太も加わり、4匹で毎日遊ぶようになった。
この夏から、彼らの友情が始まった。
[newpage]
[chapter:エピローグ]
3匹が宝探しをやめた事は、正解だった。
カラスにとっての宝物は確かにあったが、光る物ではない。
それは、骨の山だった。近くには朽ち果てた衣服と劣化したメモが落ち、空になった睡眠薬の瓶が転がっている。
もしこれを見つけていたら、トントンは新たなトラウマを植え付けられただろう……
[chapter:おしまい]