12.無力

  病院の外に出ると、迎えの車が止まっているのが見えた。

  俺が出てきたのを見て、千秋さんの部下で専属秘書の清水さんが傘を差して迎えに来る。

  「お疲れ様です。

  …本日もご自宅でよろしいですか」

  ぼんやりと歩き始めた俺に合わせながら歩く、清水さんに聞かれる。

  「……(コク)」

  今声を出せる気がしなくて、ただ小さく頷くと、清水さんは俺が座ったのを確認して後部座席のドアを閉めた。

  「かしこまりました。

  では、ご自宅まで送らせていただきます。」

  雨の音が鈍く響く車内で、俺はただ窓に流れる雨粒を見ていた。

  やがてそれにも疲れ、瞬きをする。

  信号待ちで止まった車の外で、俺と同じ制服を身に纏った高校生が騒いでいた。

  なんでもない風景。

  俺も、この前まで、当たり前に人生を送っていたんだ。

  同じ道を同じ制服で歩いていた。

  なのに、ある日突然、世界は俺達に背を向けた。

  なぁ、何でだよ

  どうして千秋さんなんだよ

  何で俺じゃないの

  俺が事故に遭えば良かった

  俺が昏睡状態になって、俺が記憶喪失に…

  全部全部俺なら良かったのに

  そしたらこんなに苦しい思いをすることもなかったのに

  視界が滲んで、俺は靴を脱ぐと膝を抱えて顔を埋めた。

  視界を塞いだら、頭に声が響いた。

  『記憶喪失だ。』

  『少し、臓器の機能が下がってる』

  『それはさ、パートナーが目覚めた時に渡してあげな。

  きっと喜ぶよ』

  『…昏睡状態です…』

  『──……ごめんね、君は…誰かな…?』

  「っ……うぅ…」

  千秋さんの言葉は、俺の心に突き刺さった。

  どうしたら良かったのだろう。

  何が正解だったのか。

  俺は、どうすれば良かったんだ…

  俺の小さな泣き声を隠すように、雨音は大きくなっていった。

  続く