16.知らないあの子

  最近、夜明け前に目を覚ますことが、よくある。

  薄暗い中手探りでスマホを見つけ、ロック画面を見る度に、あの子の泣き顔が浮かんだ。

  病室に飛び込んで、よかったと泣き笑いの表情を浮かべていたあの子。

  俺の言葉に硬直し、悲しみ以上の感情を溢れさせたその顔を、俺は忘れられない。

  俺があの子とどんな毎日を積み重ねて、あの子がどんな気持ちで俺の目覚めを待っていてくれたのか、想像も出来なかった。

  ただ、時々痛む頭が、早く思い出せと急かしているように思えた。

  ゆっくりながらも体を動かせるようになってからは、あまり人の使わない階段を上り下りして自分なりのリハビリをするのが習慣となった。

  「……っ…」

  痛む身体をゆっくりと動かし、階段を上り切ると、またゆっくりと下り始める。

  「……はぁ…はぁ……」

  何回か繰り返した所で休憩がてら階段に座り、息を整える。

  あの子の名前は、なんだったか…

  涼介はなんて呼んでいたかな

  あの日からあの子に会えていないが、元気だろうか

  記憶が無い状態で見ても分かる、痩せた身体。

  ろくに食事が取れていなかったのではないだろうか。

  でも、そうだとしたら俺のせいなのかな

  恋人なら、心配だもんな

  俺は何も覚えてないけど……

  床を見つめて考えていたら、不意に視界に足が映った。

  「考え事ですか?」

  顔を上げれば、月守先生だった。

  確か愛斗先生

  「……ぁあ…まぁ……」

  曖昧に返して、また視線を落とす。

  「……無理に思い出す必要は無いと思います。

  戻るべき時に、きっと記憶は戻りますよ」

  なぜだかしっくりきたその言葉に、俺は何度か頷いて立ち上がった。

  「……そうだね…ありがとう、先生」

  そう言うと、愛斗先生は優しく微笑む。

  「いいえ、力になれて何より」

  その笑みから哀しみが溢れ出して、俺は思わず息を呑む。

  どうしてなんて聞いてはいけない気がして、見なかった振りをしてその場を去った。

  数日後、中庭を散歩していたら、奥に続く道を見つけた。

  行っていいか迷ったが、体調も良かったのでゆっくり様子見程度に見てみることにする。

  暫く歩くと、割と大きな建物が見えた。

  入口らしき所には、“カウンセリング、Play病棟”と書かれている。

  中は独特の雰囲気が漂っていたので、その横を通って庭の方に出た。

  自然が上手く活用された中庭は、そこにいるだけで心休まるような不思議な感じがする。

  ゆっくりと足を前に踏み出した時、目に入ってきた男の子に釘付けになった。

  続く