1話 エロトラップダンジョンへ

  「まったく、なんでわたしが某支部の尻拭いをしなけりゃならないんだ」

  思うことは色々あれど、イチは結局依頼を引き受けることにした。

  「経費を水増ししてやるからな!」

  拠点にしている冒険者寮に戻るとテキパキと準備を整えはじめる。

  第一次大戦の軍服に似た瑠璃色の冒険者用のコートを羽織り、5号拳銃弾を仕込んだガンベルトを巻く、右側のホルスターには愛用のカーペイト15式魔導回転拳銃、左には丈夫なナイフが挿されている。

  「何が悲しくてエロトラップダンジョンなんかに挑まにゃならんのだ」

  そのエロトラップダンジョン対策の道具を詰め込んだバックパックを背負い、同じようにポーチをガンベルトに吊り下げる。

  そして紺色のショートパンツを履きベルトを締めた。

  現代人の感覚からすれば長ズボンにすれば良いと思うかも知れない。

  だがこの時代、腰周辺の布面積を少なくすると足さばきが良くなるという迷信が信じられている。

  そのため若い女性の冒険者の間で股間の付け根まで大胆に短くしたショートパンツやブルマー、ミニスカートなどを履くスタイルが流行していた。

  「ぶつぶつ………ぶつぶつ………」

  ぶつぶつと文句を言いながらもイチは準備を整えた。

  転ばずの竿と呼ばれる罠を察知するための棒を一竿背負い。手には指だけを出した革のグローブをはめ、丈夫で走破性の高い牛革のブーツを履き紐をしっかりしめた。

  この装備があれば世界すら歩ける気にさせる。

  「しょうがない。行くか!」

  イチはトレードマークである瑠璃色のベレー帽を被ると部屋を出た。

  いつしか困難な冒険に心を疼かせる冒険者の顔になっている。

  この冒険者イチが、この物語の主人公であり、この物語はバルティゴ都市国家連邦という短いがロマンに輝く時代に生きた冒険者たちの物語である。

  ◆

  時間になり某支部から飛脚馬を借りると、ラプダンジーの塔まで駆けた。

  馬に無理をさせれば2時間で着く距離である。

  市場や露店で賑わうボウブルグの冒険者通りを駆け西に、中流階級の居住区を抜け、かつては関所であった冒険者達が守る砦を抜ければ山吹色の煉瓦が果てなく敷き詰められているように錯覚するバウム街道がある。

  バウム街道を先に、馬駆け平野を風を切って馬を走らせる。

  馬駆け平野には田園風景が広がり、農家や牧草地帯が広がっている。

  右手の空を一頭のワイバーンが長い尾を揺らしながら飛んでいた。

  森を駆け抜けいよいよ飛脚馬の息が荒くなり始めた頃、周囲が明るくなったかと思えば、目的のラプダンジーの塔にたどり着いた。

  それは森の中にある開けた空間に建てられた乳白色の塔で、その周囲はラプダンジー氏が造らせた、すり鉢状の遺跡で囲まれている。

  ラプダンジーの塔にたどり着いたイチを、冒険者の男二人組が出迎えた。

  「止まれ!このダンジョンは立ち入りが禁止されている!」

  二人組みの男のうち、背の高い中年の男が手を広げてイチを制止した。

  「某支…、冒険者ギルド・ボウブルグ支部から派遣されてきた。イチだ」

  イチは馬を宥めてその場に止まり、懐から某支部から手渡された依頼書と自分の冒険者手帳を馬上から彼らに渡して見せた。

  「これは、失礼を」

  男達は背の高い中年をラムジー、小太りがパターソと名乗った。二人ともライフル銃で武装している。

  どうやらこの二人が少女を制止できず遺跡に侵入を許した男達だろう。

  「君たちが中に入って探してくれても良かったんだぞ」

  これはイチの意地悪である。

  二人はイチの帽子につけられた銀色に輝く狼の紋章を見て顔を見合わせた。

  「いじめんでください。私ら、山猫《リンクス》じゃ、どうしようもないのす」

  パターソが居心地の悪そうな顔で言う。言葉に北部の訛りがあった。そういう彼の冒険装束は胸にくすんだ銅色の山猫の紋章がつけられている。

  「冗談だ。とは言っても、本来なら私も大鴉《レイヴン》に任せたいところだがな」

  ここで言う猫だ鴉だと言うのは、冒険者の階級であり駆け出しにはそもそも階級がつけられないが、ある程度の活躍が認められると山猫階級《リンクス》から始まり次が狼階級《ループス》、最高級が大鴉階級《レイヴン》となる。

  更には髑髏という階級もあるがこれはバルティゴ都市国家連邦の中でも十人しか授けられていない。

  「私ら、情けないす。イチさん、女性なのに、こんな変な塔に一人で行かせるなんて」

  パターソは目を伏せて言った。どうやらイチの可憐な外見に心惹かれたのか、顔色が浮ついている。

  「なに、変態が作った塔だ。男だって十分危険だ」

  イチはそんなパターソの心情に微塵も気づかず馬からおりながら答える。

  「もし私が変な事になってもあんまり見ないでくれよ。悪いが馬の世話を頼む」

  その言葉はイチの真剣な言葉だったが、パターソはあらぬ想像をしてしまい誤魔化す為に下を向いて黙ってしまった。

  「ご武運を」

  ラムジーのほうは年長者だけあって、単身挑むイチに向けて自分の胸の前で拳を握る冒険者式の敬礼で彼女を見送った。

  一拍遅れてパターソも敬礼を見せる。

  「もし私が駄目でも、某支部で狼以上の人員を確保しているはずだ。まあ、せいぜい行ってくるよ」

  イチは馬をパターソに任せ白い石才で作られた大きな門の前に立つと、その手の平を門扉に当てる。

  するとイチの身体が淡い光に包まれて塔の中に飲み込まれていった。

  イチのエロトラップダンジョン攻略が今始まる。