1話 4階 VS壁尻トラップ

  イチが4階を探索していた時である。

  既にラプダンジーの塔に入って8時間ほど経過していた。

  単に頂上を目指すだけであればこんなに時間はかからなかっただろうが、罠を探りながら慎重に進む為に殊更に時間がかかっている。マスクが毒を濾過できる持続時間は200分ほどなので、既に無毒化の為の缶を2度変えている。

  残された缶はひとつなのでイチは内心焦りを感じていた。

  _____おかしい。

  イチがそう思うのも無理はない。

  塔に消えた少女を捜索して4階まで、可能性がある場所は全て探した。なのにまだ少女の痕跡すらつかめない。

  そもそも少女とは何者か。

  バルティゴ都市国家連邦には人族だけでなく多様な種族が住んでおり、子供のような見かけだが成人している者もいる。

  そういう者は当然知識や経験などが人族の子供よりも豊富であるから、これまでのトラップを踏破して最上階まで達している可能性もないではない。

  が、人族の子供であればどんなに運を頼りに進んでも3階のスライム地帯の時点で妙な目に遭っていただろう。

  無論、見張りの二人が他の種族の子供を人族の子供と見違えた可能性も捨てきれないが、もしそうであればわざわざ許可も得ずにこの妙な塔に足を踏み入れる理由はなにか。

  確かにラプダンジーの塔を攻略した者には魔法の報酬が与えられるという話はあるが、その報酬を得たという人間の話はあまり聞かないし、大した報酬ではなかったという話もある。

  その為、ラプダンジーの塔は不人気のダンジョンで、見張りを交代で立てている事もあり近年は挑戦する者自体少ないのだ。

  事実、イチもこれまでわざわざラプダンジーの塔に挑戦しようなどと思った事はない。

  _____まさか、魔王国の残党では……。

  魔王国の残党とは先の大戦で敗れた魔王ボースに忠誠を誓っていた者の中で、魔王国の再起の妄執に囚われた者たちで、連邦内でテロ行為などの地下活動を行っている。

  が、イチはその可能性を自分で否定した。

  もしそうだとしてもこんな妙な塔に足を踏み入れる理由がわからない。

  _____やめよう。

  無駄な思考は隙を生む。

  イチは考える事をやめて先を急いだ。

  集中力を欠いて罠にひっかかったり魔物の襲撃を受ける冒険者は少なくない。

  頂上を急ぐイチの先に再び白い石壁の袋小路が現れた。

  その壁の中央には人ひとりがなんとか潜り抜けられる穴が開いている。

  当たり前のことを言う用だが、この先に行くためには頭を穴に突っ込んで通り抜けなければならない。

  「__________ハァ………」

  イチはげんなりしてため息をついた。

  これは通称『壁尻トラップ』と言われる類のようなものだろう。

  この罠は穴を通り抜けようと身体を突っ込むと発動し、腰で犠牲者の身体を挟みこみ身体を拘束する仕掛けになっている。

  拘束されたものは間違いなく妙な目に遭わされ、場合によってはそのまま命を失うという危険な罠だ。

  イチにはこの類の罠にひっかかる冒険者の気持ちがわからない。

  不自然過ぎるからだ。

  この穴を目にして考えないのだろうか?

  万一身体が抜けなくなったらどうしようとか、潜り抜けた先に敵が潜んでいたらどうしようとか、そもそも壁尻トラップ自体の存在も認知されているのだから引っかかるほうが難しい。

  しかし、やはり今回も既に調べられる場所は全て調べてしまったために否が応でも通り抜けなければならない。

  __________罠とわかっていて進まなきゃいけないのも虚しいものだなあ……

  イチはリュックから薄い白濁色の液体が入った小瓶を取り出すと、まずリュックを壁の向こうに投げた。

  それからガンベルトを外してコートを脱ぐ。

  冒険装束の上着を脱いで肌着も脱ぎ、ベルトを外してショートパンツを降ろし下着姿になった。

  下着姿になると、脱いだ衣服とポーチや武器を取り付けたガンベルトも壁の向こうに投げた。

  手袋もブーツも壁の向こうに投げ、身に着けているものはレモンイエローの下着上下と、右手のカーペイト15式。そしてトレードマークのベレー帽のみである。

  そして瓶の中の液体を左手で身体中に塗りたくった。

  これはヒトクイカズラの粘液が原料と言われており、古くは17世紀頃から健康補助用品として民間に普及している潤滑剤で主にマッサージや医療行為などで使われている。

  イチが塗ったものは皮膚への吸収率が高く、比較的短時間で潤滑性がなくなるタイプのものだった。

  _____やだなあ、もう。

  誰も見ていないからと言って外で下着姿になるのはイチとは言え年頃なので心地悪さを感じるのは仕方がない。

  しかしグズグズしているとトラブルを招きかねない。

  イチは意を決すると「____やあっ!」と気合を入れて穴に助走をつけて飛び込んだ。

  ____くうっっっっっっっっっっっ!

  イチが頭を突っ込んだ瞬間に壁尻トラップが発動し、壁の穴が急速に縮んでヘソの上のあたりを挟みこんだ!

  ____ぬううううううううう!

  ここからは気力が試される。

  壁尻トラップの穴の縁は決して固くなく、まるで巨大な人間の手に掴まれているような感覚だ。

  故に、潤滑剤の効力がなくなるまでが勝負だった。

  しかし、イチの予想以上に締め付けがキツく容易には抜けてはくれない。拳を上半身側の壁に押し付け力を入れながら尻を振って脱出を試みる。

  そして力む彼女の尻を何者かの手が撫でるような感覚が襲った。

  ____________!!!

  イチは何者かの手のしっとりとした感覚に、嫌悪感と恐怖を感じ肌を粟立たせた。

  「ぬおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

  「りゃあああああ________ッッッッッッッ!!!」

  イチは息を一拍吸うと、全身全霊の力を込めて頭側の壁を思いっきり押した。

  スポンッッッッッッッッッッッッ!!

  という音はしなかったがそんな勢いでイチは壁尻の罠を脱した。

  己のショーツを向こう側の壁に置き去りにして。

  ________!!!!!

  イチはショーツに潤滑剤を塗る事を怠った。

  その為布の部分が変な具合に穴の縁にひっかかり、包まるようにして尻から脱げてしまったのだ。

  とはいえ下半身が裸になっただけで慌てふためくようでは大烏の階級など目指せないだろう。

  周囲に敵の気配がないか、新たなトラップがないか、速やかに警戒態勢をとった。下半身丸出しのまま。

  ____________………………………。

  が、幸運な事に周囲に脅威はなくイチは安堵した。

  潤滑剤の滑りも肌に吸収されつつあり、多少の猶予がある事を知るとイチは急いで衣服を着直した。

  ただし、ショーツの替えは持ってきていない。

  イチは下半身がスースーする違和感になんとも言えない顔をした。

  ____帰りたい。帰ってサウナに行きたい………。

  ラプダンジーの塔は次が5階。更にその上に最後の部屋があるという。

  困難の道のりはまだ終わらない。

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  イチ ぼうけんしゃ

  【LV :   33】

  【体力:  371】

  【気力:  880】

  【状態:  半ぬれ】

  【状態: ノーパン】

  ・壁尻トラップを突破した。

  ・潤滑剤を消費した。

  ・ショーツを失った。ノーパンになってしまった。