3話 トイレトラブル! スライム分解式トイレに恐れ慄くタオ・メイメイ イチ、踊り子デビュー パーティを追放(以下略)8

  ユーカイの村の村長、キドナップはイチ達を表面上は快く迎えた。無論、村の出身であるホーイッツを伴っていた事も彼の警戒心を解くのに一役買ったが、なによりピィピの『印象を良くする魔法』がここでもその威力を発揮したのであろう。

  が、ピィピの魔法は強力であれど所詮『印象を良くする魔法』でしかない。

  強い警戒心や敵愾心の前には意味をなさない事は予め書いておかなければならないだろう。

  一応、最低限キドナップの事を書いておくと彼自身は善良な老人であり、伝統と安寧を望む穏やかな人物であったが、村への進出を望むシローキン、シローキンに反対する村人とその急先鋒のラッチェ、生まれ始めた近代化を望む村人の声に頭を悩ませている。

  村長との面会が終わった後、ホーイッツは一同を彼の家に案内した。

  この時代、近代化されていない村の家屋はどれも似たようなもので、ホーイッツの家は湖の近くの平屋で居間の他に部屋は3部屋しかなく、風呂はない。彼は家具職人でもあったので木材を加工する工房が家に隣接している。

  奇妙なのはホーイッツには母親はおらず50歳を前の父親が一人で暮らしていたが、ホーイッツの父親は冷淡な人物なのかイチ達にも息子であるホーイッツにすら関心を示さずコミュニケーションをとろうともしなかった事である。

  父親はホーイッツが事情を説明すると「そうか」とだけ言って彼の生業である家具作りに戻って行った。

  恐らく、ホーイッツがいようがいまいが毎日家具を作る毎日なのだろう。

  この男にはピィピの魔法も効力を示さなかった。

  イチ達はホーイッツの父、カーイッコに挨拶を済ませると、彼の部屋と工房を除き1日自由に使わせてもらう事を許され、一応の宿割りを決めた。

  ホーイッツとパルテルラットはホーイッツの部屋を使い、ピィピとタオ・メイメイは昔彼の兄が使っていた部屋。イチは自ら納屋を使う事を進み出た。

  宿割りが決まると、パルテルラットは村を案内してもらうという建前でホーイッツ、ピィピを連れて村の偵察に出た。

  そしてイチが自分の荷物を納屋に降ろし一息つこうとした時である。

  「いやーーーーーーーーー!!!! なによ! なによこれ!!」

  戸外に設置された便所からタオ・メイメイの叫び声が聞こえた。

  何事かと思いイチが駆け付けると、木の板で最低限の壁と屋根が作られた埃っぽい小さな便所の前でタオ・メイメイが青ざめている。

  なんだなんだと思って中を覗いて見ると、なるほど、タオ・メイメイが叫んだ理由が解った。

  「これは、随分と古典的だな」

  思わずイチは苦笑した。

  その便所とは気休め程度に作られた腰かけの中央に丸い穴が開いており、その下に樽が置かれているだけの簡素な物である。

  田舎ではこの時代、こういう簡素な便所自体は珍しくない。

  タオ・メイメイの育った町も決して清潔ではなかったのでそれは別に耐えられる。

  しかし、この当時一部で存在した屎尿の処理方法として『スライム分解式』という物があり、それはまさに捕まえて来たスライムを樽に入れて屎尿を分解させるという仕組みであった。

  これは、旧バルティゴ王国の13代目国王ウガイ衛生王が狂熱病と呼ばれる大疫病を封じ込める為に国内における屎尿処理についての布告を行った影響で、下水道を整備できる余裕のない農村などでとられた屎尿処理の手段である。

  当時、屎尿を河川などに流してしまう地域も多かったのでこれだけでも当時は公衆衛生の改善に役立った。

  「あ、あんた、ここでトイレできるの?」

  「最初は気持ち悪いが、まあ慣れだな」

  「………最低! これだから田舎は嫌いなのよ!」

  タオ・メイメイはぶつぶつと言いながら便所の戸を閉めてひとりになったが、暫くすると「ぎにゃ~~~~~~~!!!」という悲鳴と共に慌てた様子で飛び出て来た。

  「最悪! これならまだ外でしたほうがマシだわ!」

  イチは苦笑した。

  恐らく屎尿を餌にするスライムが股に伸びてきたのだろう。

  メイメイは急ぎ足で手ごろな茂みにしゃがみこんで見えなくなった。

  ____まったく、困ったもんだ。

  イチは苦笑して首を振った。

  ◆

  ユーカイの村はそこそこの大きさであるが、中心部だけみれば広くなく、2~3時間ほどでめぼしい場所は見る事ができる。

  イチとメイメイがホーイッツの家で5人が乗ってきた馬の世話をしていると、やがてパルテルラットら3人が戻ってきた。

  「首尾はまずまずだ」

  と言うのはパルテルラット。

  彼女が言うのであればそれなりに行動の指針となる情報を掴んだのであろう。

  が、どうにもパルテルラットとピィピの顔色が優れない。

  何か困りごとでもあったらしい。

  パルテルラットホーイッツの父を含め、他の村人に話を聞かれないようホーイッツの兄が使っていた部屋に皆を集めると事情を話した。

  村を見回るうちにラッチェが隠れ家としていそうな場所をいくつか見当をつける事ができた。

  その中でも最有力と思われたのが林の中に見えた屋敷で、村人らしからぬ様相の男が出てくるのが見えた。

  パルテルラットはその屋敷に斥候としてピィピに調べさせ、黒とわかれば救出の算段を立てるつもりだったのだが、思いもよらぬ事態が起きてしまった。

  「実はな、成り行きで大道芸をする事になってな」

  「は?」

  真顔で答えたイチにパルテルラットは困った顔で笑って答えた。

  「いや、ホーイッツ君の計らいというべきかな」

  事情はこうである。

  ホーイッツの案内で村を見回っていた3人だが、最初に遭遇した村人と再会した。

  そこまでは良かったのだが、彼はピィピを気に入っており「是非村の広場で大道芸をやってくれ」と頼み込んできた。

  村人の情報伝達速度は侮れず、その時には既に村中の人間が『都会から来たとんでもなく可愛い兎少女の大道芸人が来ている』と知れ渡っていた。というよりも最初の村人が広め回った。

  悪い事に彼は村の中でも祭りを取り仕切る立場の男だったので、村人が勝手に『大道芸人が芸を披露してくれるらしい』と思い込んでしまったらしい。

  無論、そんな事情に構ってられないのでパルテルラットは断るつもりだったが、ホーイッツが勝手に許可をしてしまった。

  ホーイッツは「皆が村人達の注目を集めている間に俺が情報を集める」と言ってさも妙案を思いついたかのように言ったが、とんでもない独断専行である。

  これには流石のパルテルラットも表に出さないものの大変な怒りを覚え、どんな事情があろうとホーイッツを二度とパーティに加えない事を心に誓った。

  パルテルラットが事情をひととおり説明し終えると、タオ・メイメイの露骨な溜息が聞こえた。

  「それで、私はいったいどうすれば…」

  「イチ君は踊り子になって、村人の前で踊ってくれ」

  イチの踊り子デビューが決まった瞬間である。