3話 『水を冷たくする魔法』とかいうカス能力魔法が実はチート魔法だった件。パーティを追放されそうな俺が追放される前に全員の生殺与奪握ってざまぁすぎる! パーティ追放(以下略)11
「なによ! なんなのよあいつは!」
タオ・メイメイはホーイッツの部屋のベッドを苛立ちに任せて蹴った。
舞台が終わった後、ホーイッツがいなくなり、もしかしたら家に帰っているだけかもしれないと思った一同だったがホーイッツは家にもいなかった。
「やめろ、メイメイ。親父さんはもう寝ているはずだ」
メイメイを止めるイチであったが、彼女も内心穏やかではない。
もしホーイッツがその場にいたら、誰よりも先に胸倉を掴んで横っ面を思い切り殴ってやるつもりである。
ホーイッツは命を預け合う冒険の仲間としては最悪である。
虚勢を張り、その場凌ぎの嘘をつき、見過ごせない独断専行。
こういう類の人間は仲間にいるだけでパーティの安全を脅かす。
これでは他のパーティを追放されるのも仕方ないし、パーティにホーイッツのような人間が紛れ込んだらなんとしてでも追放すべきだろう。
「________もう、嫌!」
そう叫ぶとメイメイは部屋を飛び出してしまった。
「待てメイメイ! どこへ行くつもりだ!」
「お花摘みッ!」
メイメイは子供だが愚かではない。自分が感情的になっている事は自分が一番わかっている。用を足しに行くのと同時に頭も冷やすつもりなのだろう。
____メイメイが怒るのも無理はないな。
イチは他の仲間に気を配った。
普段ニコニコ笑っているピィピも難しい顔をして黙っている。
いや、それ以上に険しい顔をしているのはパルテルラットだった。
パーティを指揮する者としてこれは由々しき事態である。
ホーイッツの独断専行によってもはや事前に進めていた計画が全て崩れつつある。
それどころか、最悪の事態を考えるならパーティの安全を優先し一度村から離れる事さえ選択肢に上がる。
ここで言う最悪の事態とは、ホーイッツが単独で村を調査しているうちに敵に捕らえられイチ達の正体を喋ってしまう事であろう。
こうなっては人質救出どころではない。
「イチ、どうしたら良いと思う?」
パルテルラットはイチに意見を求めた。
決して判断する事を放棄したわけではない。
既に頭の中ではある程度方針が固まっているが、参謀役のイチの意見も取り入れたかったのだろう。
「まず、第一にホーイッツを探しましょう。最悪を考えるなら、彼は敵の手に落ちた可能性がある」
「うむ」
パルテルラットも同意見であった。
何をするにもまず自分達の身の安全を固めない事には依頼どころではない。
「ホーイッツが敵の手にある場合、必然的にラクシュ嬢にも近くなるはずです。ホーイッツを探す事は結果的に依頼目標に繋がります。更にピィピのおかげで村人は我々に協力的な者が多いはずです。ホーイッツを探していると言えば協力を得られる可能性もあるでしょう」
「同意見だ」
パルテルラットは頷くと皆に宣言した。
「我々はこれよりホーイッツを探す動き事にする。発見次第、彼をパーティから追放する」
「____待って」
そう口を挟んだのはピィピである。
ピィピは縦に伸びた長い耳を立てて難しい顔をしている。
「____誰か、近づいてくる」
ピィピは兎人族のハーフである。
獣人とのハーフは一般的に人族より嗅覚や聴覚が発達している。
ピィピが優れた斥候であるひとつの理由だ。
「メイメイが戻ってきたんじゃないのか?」
イチは自分で言って頭の中でその考えを否定した。
いくらなんでも早すぎる。
メイメイの事だから冷静さを取り戻す時間まで考えるともう少し戻るのが遅くなるはずだ。
「違うかな。だって、この足音は________ホーイッツ君かも」
皆ピィピの言葉に顔色を変えた。
暫くすると他の者にも家の扉を開けて誰かが入ってくる音が聞こえ、足音はそのままホーイッツ自身の部屋の前で立ち止まり扉を開けるのである。
「____お前」
思わず真顔になってしまったイチの目の前には、当のホーイッツが何事もないような顔をしてそこにいたのである。
特別、拷問を受けたり戦闘に巻き込まれたりした形跡は見当たらない。最後に見た時のホーイッツそのままであった。
「なんだ。みんな、変な顔をしてどうした」
空気を読まず、涼し気な顔を浮かべるホーイッツ。
そんなホーイッツに遂にブチ切れた者がいる。
このパーティの指揮を執るミラ・パルテルラットその人だ。
パルテルラットはイチが拳を振り上げるよりも先にホーイッツに近づくと彼の顔面に銃弾のように鋭いストレートをお見舞いした。
「ぐあッ____!!!」
鼻っ面を殴られて吹き飛び、リビングに転がるホーイッツを追いかけて馬乗りになるパルテルラット。呆気にとられつつもイチはそんなパルテルラットを見て、
____パルテルラット先輩、キレると先に拳が出るタイプだったんだな。
などと思っていた。
「貴様! 何を考えている!」
パルテルラットはホーイッツに馬乗りになって重い拳骨を何発も加えている。
「落ち着け、話を聞け!」
ホーイッツはせめて顔を守ろうと腕でガードするがパルテルラットの打撃がどんどんガードを崩してゆく。
「お前は最低だ! 勝手な事ばかりして、なにがしたいんだ? 即刻荷物をまとめてスィートバウムに帰れ________」
パルテルラットがホーイッツの追放を言い渡した次の瞬間、
「________うっ……」
どういうわけか彼女は覆いかぶさるようにしてホーイッツの上に倒れた。
パルテルラットの迫力に押され呆然と見ているしか出来なかったイチとピィピもパルテルラットの異常に気がつき、正気に戻る。
「だから、話を聞けと言ったんだ________」
ホーイッツは鼻から血を垂らしながら、パルテルラットの首に手を回しパルテルラットを抱くようにして立ち上がった。
「____あっ………えっ………」
気がつくとパルテルラットは顔面を蒼白にして震えている。
血の気が通っていないのか、指先までが真っ白い。
眼の焦点が合っておらず、口からはぶつぶつと言葉にならない音を発している。
どうやら意識を消失しかけているらしい。
「ホーイッツ! 貴様!」
パルテルラットの異常が何か魔法の仕業と気がついたイチにホーイッツが吼える。
「おっと! 誰も誰も動くんじゃあないぞ! 『水を冷たくする魔法』の応用だ。俺がその気になってマナを使えば、この女の体温は死体と同じ冷たさにまで低下するぞ」
そう言ってホーイッツは酷薄な笑顔を浮かべた。
弱者が他者の命を握った時に浮かべる、歪んだサディスティックな笑顔だ。
ホーイッツは自らが主役となった今の場面に酔っている。
「おっと! ピィピも魔法なんて使おうとするんじゃあないぞ。この距離が大切なんだ。手が触れてさえいれば、血液の温度だって自由自在に変えられるんだぜ。初夏に凍死するなんて冗談もいいところだろう。わかったら、頭を後ろに組んで地面に伏せろ」
ホーイッツはもはや自分の意志で身体を動かせないパルテルラットの口の中に指をつっこんで彼女の舌を弄んでいる。
ピィピは『気を逸らさせる魔法』を使おうとしたが、なるほど、ピィピが詠唱するよりもホーイッツがパルテルラットを凍死させるほうが早いだろう。
「ホーイッツ………、なぜだ」
怒りと悔しさに歯軋りしながらも、パルテルラットの命を考えイチはホーイッツの言葉に従って床に伏せた。
ピィピも同様に従った。
「ラッチェは、俺を認めてくれている」
「なんだと」
「ラッチェのほうが正しい。だから俺はラッチェを助ける」
そしてイチはホーイッツの後ろから彼の新しい仲間らしき数人の男達が縄や目隠しを手に部屋に入ってくるのを見た。
事態はイチ達の想像を遥かに超えて最悪だった。
ホーイッツは拷問され仲間を売るどころか、ラッチェに寝返って自らイチ達を差し出したのである。