3話 パーティを追放された俺がこの世から追放されるってマジですか? パーティを追放(以下略)17

  イチ達は倒したカーンらをブーツの靴紐を使って手の指と足の指をきつく結んで拘束し、ついでに男性としての機能も無力化した。

  (余談ながらこの縛り方は縛った箇所を壊死させる危険があり、男性機能への傷は命に係わる場合もあるので注意していただきたい)

  そしてパルテルラットとピィピを救出し、ラッチェを捕縛、ラクシュ嬢を助け出すために屋敷へと戻って行った。

  ラッチェを考えなければ残る脅威はホーイッツのみである。

  これは、メイメイが単独でイチが囚われている部屋にたどり着けた事と、ベッドの数を考えると妥当と思われる。

  もし他に戦力があればメイメイはイチの助けに現れる前に遭遇していてもおかしくないし、カーン達と共にイチの追撃に参加していたと見てよいだろう。

  イチとメイメイはカーンらから奪った拳銃を手に、屋敷の前に戻って来た。

  逃げている最中はその外観を気にしていなかったが、2階建ての黒い屋根の建物で、そこまで大した大きさはない。せいぜい200平米ほどだろうか。(我々の時代で言えば中程度のコンビニエンスストアを想像して貰えばよい)

  イチが屋敷の様子を外から伺うと、2階には灯がついている。

  ラッチェとラクシュがいるとすればそこであろう。

  そしてホーイッツは恐らくパルテルラットとピィピの見張りとして、地下に置いてけぼりにされたに違いない。

  イチは思わず苦笑した。

  カーンは最低の人間であったが、戦士としては優秀だった。

  恐らくカーンは早くからホーイッツの危険性に気が付き、イチらを追う際にホーイッツを連れていく事で足手まといになる事を恐れたのであろう。

  「どうするの?」

  メイメイは首をさすりながら言った。まだカーンに踏みつけられた痛みが残っているのだろう。

  「メイメイは入り口を固めてくれ。私は先輩達を助ける」

  「あんたひとりで?」

  メイメイはいつもの反抗心を宿した目でイチを見つめた。

  思えば今回の冒険がこんな事になったのも全てホーイッツのせいではないか、とメイメイは考えている。

  出来る事ならばメイメイもホーイッツに落とし前をつけさせたかったのだろう。

  「ホーイッツはな。一度他のパーティから追放された男なんだよ」

  突然のイチの告白にメイメイは一瞬呆気にとられ、みるみるうちに顔を怒りで赤くした。

  「なによ! なんでそんな事隠してたのよ! なんで今更!」

  「先輩と話し合って、隠しておく事にしたんだよ。パーティ内で仲間同士不信感を持たないようにな。結果論だが、ホーイッツを信用しようとしすぎた。私も、先輩も。____だから私が始末をつけたいんだ」

  「________最低!」

  メイメイは怒りのあまり、口にしたい言葉が出ずにそっぽを向いて黙ってしまった。

  メイメイは子供だが、それでも冒険者としてパーティとして行動する上で何が大切かを幼いながらに学び感じ取っている。

  だからイチとパルテルラットに対して怒りはするが、拒絶する事もできなかったので黙るしかできなかったのだろう。

  「すまん。今度、上手い飯でも奢ってやる」

  「余計なお世話よ!」

  入り口をメイメイに固めさせ、イチは屋敷の中へ足を踏み入れパルテルラットらが囚われている地下を目指した。

  ◆

  イチは地下に向かう為にオイルランプで照らされた階段を降りながら今回の冒険について思い返していた。

  一体、何がいけなかったのだろう。

  ホーイッツが悪かった。というのを筆者としては否定できない。

  彼は人間的に未熟であり、冒頭で彼をパーティから追放したデギンが言う通り冒険者には向いていない男だった。

  浅慮な考えで動き、道理を弁えず、周囲の人間を軽んじ余りにも自分を良く見せる事を優先しすぎた。

  彼は人間的に好ましくない性格であり、同じ冒険に挑む仲間としては最低だった。

  しかし、そのホーイッツが仲間に加わる事を許したのはこのパーティのまとめ役である大烏の冒険者であるパルテルラットだ。

  そしてイチもホーイッツの危うさを知りながらもその事を黙認した。

  無論、ホーイッツをパーティに加えるように仕組んだのはシローキンである。

  ではシローキンが悪いのか?

  彼にはユーカイの村を手中に収めるという野心があったが、彼も娘を誘拐され、その中で自身のビジネスも成立させるための手段として今回の依頼を出したに過ぎない。

  それならラッチェはどうか。

  ラッチェがシローキンの娘を誘拐したことが今回の事の発端である。

  それを考えればラッチェが悪いのは確かだが、今のイチが頭を悩ませている問題とは別種の問題である。

  (筆者として断っておかねばならないが、この時点でラッチェは既に屋敷から逃亡していた為、何故ラッチェがシローキンを裏切ったかこの時点では判明していない。敏い女だったのだろう)

  ____もしかしたら、私たちがホーイッツをもっと信頼してやれたら、また違ったのかもしれないな。

  もしホーイッツともっと話し合い、お互いの事を理解した上で信頼し合っていれば。例えばだがイチ達が舞台に立っている間の彼の独断専行を防げたかもしれないし、仮にホーイッツの考え通りにさせてやったとしても裏切られる事はなかったかも知れない。

  ____殺したくは、ないな。

  結局、イチは完全に自分の正義を正当化できないままだったのでホーイッツの命を奪うのに抵抗を感じた。

  無論、パルテルラットとピィピ、メイメイへの落とし前を着けさせるとして、後は二度と会わない約束をして縁を切ればそれで十分ではないか。

  もしホーイッツを殺してしまえば、それは己の未熟さの結果としては酷く苦い。

  イチにしては土壇場において珍しく戦いの事以外に思考を割いたが、地下への扉を開く時にはいったん全ての思考を放棄する事にした。

  無駄な思考で隙を生みたくはなかったからであろう。

  ◆

  イチが地下に降り、パルテルラットが捕らえられている牢に向かうとそこにはホーイッツが鉄格子の中にいた。

  恐らくカーンに二人の見張りを命じられたのであろう。そしてカーンは一切ホーイッツを信用していなかった。

  彼はホーイッツに勝手な行動をさせないよう、牢に放り込んでしまったに違いない。

  「ホーイッツ。いいか、妙な気は、おこさないでくれよ。私は、お前を撃ちたくない」

  イチがカーンから奪った銃口を向けた先でホーイッツが怯えた顔をして見ていた。

  鉄格子を隔てた向こうで、ピィピとパルテルラットの首に己の手を回し抱くようにして肉の盾にしている。

  見れば顔が青く腫れている。イチの掌底の後に、恐らくはカーンに横面を思いきり殴られたのであろう。

  イチはどこに行ってもこのような扱いを受けるホーイッツに憐れさを感じずにはいられなかった。

  そう思うと、彼は人質をとっているというよりは二人の陰に身を隠しているように見えた。

  「銃を向けるな。俺の魔法は知っているだろう。この二人を、殺すぞ」

  ホーイッツはイチに向けて大胆な笑顔を作ろうとしたが、頬の痛みのためか、それとも精神的に参っているのか子供が泣き出す前に無理して作っているかのような笑顔しか作れなかった。

  「やめろ。お前の魔法は、もう効かない。今すぐ投降しろ。抵抗しなければ命は私が保証する」

  イチは努めて冷静に、ホーイッツを刺激しないよう穏やかな口調で告げた。銃口は逸らさないまま。

  「脅しじゃないからな。3つ数える前に、銃を捨てろ。そうすればこの二人は殺さないでおいてやる」

  「効かないんだよ」

  「____いち」

  「やめろ」

  「____にい」

  「ホーイッツ、やめるんだ」

  「____さん! 馬鹿が! 仲間が凍えて死ぬのを後悔しろ!」

  ホーイッツの、『水を冷たくする魔法』は実際のところ優れた魔法であった。殆ど無詠唱で、手に触れた物体を通して液体の温度を自由に下げる事ができる。

  手が触れてさえいれば、コップに入った水だろうが、人体に流れる血液だろうが。

  しかし、

  「____なぜだ! なぜ、魔法が効かない!」

  ホーイッツの魔法は確かに発動した。

  発動したが、それは何の効果も発揮しなかった。

  「マナの抵抗だよ…。人の身体にもマナは流れているんだよ。だから、マナを守りに集中させれば魔法に抵抗できるんだよ…」

  ピィピはホーイッツの手の中で力なく呟いた。

  「だから、効かないと言ったんだ」

  それは魔法を使えないイチでも冒険者としての知識として知っている事であった。

  ホーイッツはそんな知識さえないまま冒険者になってしまったのだ。

  「さぁ、わかったなら武器を降ろせ。先輩も、いいでしょう?」

  青ざめ狼狽するホーイッツを見てパルテルラットも憐れを感じたのか、イチに向かって頷いてみせた。

  ホーイッツは許されたわけではないが、その生殺与奪はイチに委ねられたし、イチはホーイッツを殺すつもりはない。

  しかし、人とは時として不条理に動く生き物である。

  「ふざけるな! 俺はこんな所で____」

  逆上したホーイッツはイチの指に傷をつけた折り畳みナイフを取り出し、パルテルラットを傷つけようとした。

  2人いるうちのひとりを害すればイチの気が変わると思ったのか、それとも衝動的な行動だったかはわからない。

  「____馬鹿野郎が!」

  イチは中指で引き金を引いた。

  もしホーイッツが2人を肉の盾にしていなかったら、イチの腕前があればナイフを取り出す前に彼の手だけを撃ち抜けたかも知れない。

  或いは、人差し指が万全であれば針の穴を通すような精密射撃でギリギリ急所を外せたかもしれない。

  事実、イチは秒刻みに流れる時間の中でギリギリまでホーイッツを無力化できる場所がないか探したが、結局彼の動きを止められる確実な場所は彼の眉間しかなかった。

  そして強烈な破裂音の後にホーイッツは額から血を噴き出して倒れ、絶命した。

  「________馬鹿野郎が」

  イチは右手に銃撃の鈍い痺れを感じながら、悲しそうな目でホーイッツの死骸を見下ろした。

  こうしてバルティゴ都市国家連邦におけるホーイッツの冒険の歴史は幕を閉じたのである。