第6話 水着+包帯+骨折 丸吞みシーサペント大量発生事件12
シーサペントの討伐大会が開始されてから既に1時間と30分ほどが過ぎていた。
現時点で参加している冒険者の船20隻の内、既に7隻が沈められ行方不明者の数は45人近い。
今回集まった冒険者の数は162人。
45人の損害はもし軍隊であれば3割に近い数になり、戦闘要員と操舵などを担当する要員の区別と、他の条件を加味しないならば全滅が差し迫っていると判断する事もできる。
対してシーサーペントも50頭近くが死骸に変わっている。通常、シーサーペントは300頭近くの群れを構成し、その中には成熟していない幼体も含まれるので50頭の被害は、これも群れをある種の軍隊と考えるのであれば壊滅的な領域に達しつつある。
しかしながら彼らは自勢力の損害を無視して特攻に近い形で冒険者達に襲撃を仕掛けてきたのである。
冒険者側とシーサペントの数を単純に比較した場合、冒険者側の不利は否めず、シーサペントの不可解な統率に対し混乱状態の冒険者達の現状を考えれば、冒険者達が壊滅させられる未来は現実のものになりつつあった。
さて、そのような状況の中でイチ達はどうしていたか?
「ヘルヒャン!もっと飛ばせないのかい!?」
エルビアニカはカーペイト10式ライフルで襲い来るシーサペントを迎撃しながら叫んだ!
「無理言うなって!これが精一杯だよ!」
キャビンで船の舵をとっているヘルヒャンは悲痛な叫び声を返した。
既に彼女らが命を預けているガンバリ―ニャ号は度重なるシーサペントの攻撃を受けて損傷が酷い。
ヘルヒャンの絶妙な舵取りもあって被害は最小限に抑えているが、既に船体が酷くへこまされ、亀裂が入り水を吸いかけている箇所もある。
事実、甲板上のエルビアニカは船が僅かだが後方に傾きかけているのを感じていた。
このままではある瞬間に船が浸水し、そのまま転覆する未来は容易に想像できたであろう。
むしろヘルヒャンがいなければ船は真っすぐ進む事さえままならず、シーサペントの襲撃に耐えきれずとっくに撃沈させられていたと見るべきだ。
「ちくしょう!」
エルビアニカは少しでもシーサペントを遠ざけようとライフルを構えるが、これが困難であった。
何しろ彼女のライフルでは海中のシーサペントに対して有効でない。陸地では最高級の貫通力と破壊力を誇るライフル弾は、海面に衝突した瞬間に砕けてその威力を失ってしまう。
そのため海獣がその身体を晒した瞬間を狙うのだが、襲い掛かるシーサペントは1体でなく、常に3~4体が波状攻撃を仕掛けてくるので射撃の機会が限られる。
ショットガンで武装したタオ・メイメイも同様でシーサペントを撃退するというよりも己の身を守るだけで精一杯な様子だった。
シーナもマナアローと各種の魔法でエルビアニカとメイメイの火力を助けているが、魔法の詠唱と魔力の維持で精神力を摩耗させ、コンセントレーションが鈍り魔法が安定しなくなっている。
シーナを護衛するイルハも槍を片手に甲板上を跳ねまわり、仲間を狙って伸びて来た首を槍の腹で殴りつけ怯ませているが流石に集中力が切れてきている。他3人をカバーしながら自分の安全も確保し続けるのは無理がある。
彼女ら4人は誰もが油断なく動き的確に船と己を守っているが、弾薬の消費量、個々人の体力と精神力を鑑みれば限界はそう遠くなかった。
そんな中、この物語の主人公であるイチは傷つき動けないでいた。
ミュルガルデに施してもらった応急処置で腕や脚に包帯を撒かれたまま、キャビンの床に敷かれた毛布の上で天井を見つめていた。
____情けない。こんな時に動けないなどと……。
なにしろ、骨折が為に両腕と右足首が不自由になっている。
この状態で彼女に出来る事などあろうはずもないではないか。
床に寝かされたまま周囲の状況を見ると、ヘルヒャンは悪態をつきながら総舵輪にしがみつき、一歩間違えればあらぬ方向に切れてしまいそうな舵を誤魔化し誤魔化し操っている。
ミュルガルデは魔導機関にマナを注ぐ事に集中し、少しでも速力を維持しようと険しい顔をして一言も喋らない。
外からはエルビアニカやメイメイらの怒号と銃声、そして船体になにかがぶち当たる音がする度に船が大きく揺れる。
ふと、ミュルガルデが傍らに置いてくれた自分の瑠璃色のベレー帽が目に入った。
こういう時、戦力に加われない冒険者の感情とはどういうものか。
イチはかつて戦闘中にこれほどまでに負傷し動けなくなった経験がない。
多少の怪我はあったとしてもそれは自分の身を守り一人で動ける程度のものであった。
だからこそ現状を情けなく思っている。
今のままでは自分の身を守るにもミュルガルデか誰かの助力がなければままならない。
何かできる事はないかと思い、身体を起こそうと試みるがその度に激痛が襲い、たとい起き上がれたところで恐らくはミュルガルデに余計な負担をかけるだけだと思い直し苦し気に呻くだけだった。
____情けない。
気が付けば涙が伝っていた。
そんな時である。
「あっ____________むううううううううううう!!?」
甲板で戦っていたメイメイの苦し気な呻き声がイチの耳に聞こえてきた。
一匹のシーサペントがメイメイが弾薬を装填している一瞬の隙に、海中から飛び出て頭に食らいついたのである。