インターミッション6 イチとオイルマッサージ

  歴史的インターミッション6

  バルティゴ連邦歴18年10月12日月の日。

  四肢の骨を折られたイチが治療を受けある程度の回復を見せるまで実に3か月に近い時間を要した。

  杖をついて歩けるようになるまで2ヶ月。

  概ね自由に行動できるまで約3ヶ月の時間を要した。

  これは彼女の怪我の程度を鑑みた上で現代の医学で考えれば非常識な回復速度であるが、彼女の生まれつきの力と魔法治癒技術により回復力が活性化した為であろう。

  現代では高度な魔法治癒は一部の物が利用する高額医療になってしまい庶民が受けられる代物ではないが、この時代は最先端の医療がない代わりに民間で魔法医療を気軽に受けられた。

  現代で言えば小さな病気や日常の痛みを町の診療所や接骨院などで見てもらうような感覚と言えるだろうか。

  やがてイチも杖なしで歩けるようになるのだが、少し歩くだけでも酷く筋肉に負担がかかる。

  しかも悪い事に当面の間イチのリハビリを殆ど無利益の格安価格で受けてくれていたミュルガルデは遠くへ冒険の旅に出る事になってしまい、日々を痛みとつきわなければならなくなってしまった。

  しかしながらイチは日々の食い扶持を稼ぐ為に痛む身体に鞭を打ち、荷物配達や犬の散歩、チラシ配りなど日雇いの依頼を受けてその日の生活費を稼いでいた。

  本来であればまだ安静にしているべきであるが、冒険者稼業というのは休めば休んだぶんだけ生活が苦しくなる。

  この当時、社会保障などは一部を除き基本的にはなく、重傷を負った冒険者の為の保険会社などもあったが加入している者は少数で、イチもまだ入っていなかった。

  なんにせよ、シーサーペントに丸呑みされた時に骨を折られ、その為にかかった治療費と入院費用、働いていない間の生活費で貯金の大部分を消費してしまったのだ。

  稼がなければならないし、稼ぎつつ身体も気遣わねばならない。

  無理をして身体を酷使し、痛みの後遺症などが残り後の冒険が鈍るのをイチは恐れていた。

  そこでイチは働きながらスウィートバウムの冒険者通りで有名な治癒魔術師にかかる事にした。

  その店は『パーナガス治療院』という、按摩と治癒魔術を組み合わせた魔法マッサージで患者の痛みを取り除く事に長けた店で、その腕前だけは中々良い評判であった。

  しかしながらその評判と同じくらい、院長の『リン・パーナガス』の評判が特に女性冒険者からよろしくない店でもあったらしい。

  その理由は、つまりこういう訳である。

  ◆

  「____んっ…………、________ふっ」

  細い女の指が脚を揉みほぐす度に、イチの口から湿っぽい喘ぎが漏れた。

  「イチさんのここ、すごーく固くなってますよ。ちゃーんと解していきましょうね~」

  今、イチは薄暗い個室の中でショーツ1枚にバスタオルを身体に巻いて寝台にうつ伏せになり脹脛を揉まれている。

  個室は狭く、タオルケットが敷かれた寝台。オイルの入った瓶や按摩の為のローラー器具などを積んだ台。観葉植物と大日国風の小物やランプで飾りつけられたどことなく怪しい雰囲気の部屋であった。

  「____痛みを、かばって歩き方が、変になってるのかもしれん。だから余計な筋肉を使う」

  「うんうん。わかりますよ~。癖になったら大変ですからね。しっかり痛みを和らげていきましょうね~」

  リン・パーナガスはそう言いながらオイルを手にとると徐々に太腿のほうに塗り広げ、そして按摩していった。

  この医院の院長、リン・パーナガスは人族の女で年齢不詳である。一説には50歳を過ぎているとも言われるがその外見は30歳前後にしか見えず、常に潤いのある笑顔を浮かべ艶のある長い黒髪を一本に結った美貌の女であった。

  しかしながら、その浮かべた笑顔にどこか妖艶な陰がある事に気づく者は少なくない。

  弓張り月にように優しく歪んだ目尻にある泣きぼくろにどこかただならぬ色気を感じさせた。

  「お、おい。そんな所も揉むのか?」

  リンの手のひらがイチの太腿の付け根まで伸び、その筋を優しくしなやかに解してゆく。

  その際どい指先に思わずイチは尻を隠しているバスタオルの端を伸ばしてリンの視線を遮ろうとした。

  「腰からつま先まで筋が伸びていますからね。ちゃんとやらないと、効果がでませんよ?」

  しかしリンはそんなイチの恥じらいなど知らない顔をし、筋肉を揉みほぐす手を止めない。やがてその指がイチの小ぶりなヒップに到達してしまう。

  「い、院長!そこは尻じゃないか!」

  「お尻にも筋が集中していますからね~。女同士ですから、恥ずかしくないでしょう?」

  「し、しかし……!」

  実はイチが今回この医院を利用したのは初めてである。

  冒険者通りを腰をさすりながら歩いていたら、「レディースデイ・女性半額・更に冒険者割りあり」の幟広告に惹きつけられ、この医院の評判も知らずついつい入ってしまったのだ。

  「筋肉が緊張していますね。今日でしっかりコリを無くしてしまいましょうね~」

  「あっ________ちょっと」

  リンはタオルをめくるとイチの尻にまで手を伸ばした。

  細いがしなやかな指が貸出品のTバックショーツで秘部を隠したイチの尻肉に埋もれたかと思えば、まるで波を弾くようにその小さな山を揺らして彼女の筋肉をほぐしていく。

  「はっ、恥ずかしんだが________、あっ、そ、そんな触り方は………」

  「でも、コリが取れていくの、わかるでしょ~?」

  事実、リンの言う通りイチは先ほどまで下半身を苛めていた鈍い痛みがジワジワ引いていくのを感じていた。

  パーナガス院長の言葉に嘘はないらしく、それだけにイチは強く彼女を拒絶する事ができなかったのだろう。

  だが院長の言葉に嘘はないが、内なる思いは当然全て口に出してはいなかったはずである。

  「はい。後ろはここまでで~す。今度は仰向けになってくださいね~」

  「そ、そうか」

  イチは自分自身、だんだん妙な気分になっているのを自覚しながらも崩れたタオルを巻きなおし今度は仰向けに寝た。

  そう言えば部屋の中では妙に甘ったるい香りのインセンスが焚かれ、その匂いを嗅ぐとどうも思考が鈍るようであった。

  疑問を感じながらもしばらくリンの手技に身を委ねていたイチであったが、遂にリンの指先がイチのデリケートな部分の周囲をなぞりはじめ、たまらず声が出てしまった。

  「ふわっ________!?そ、そんなとこまで________!?」

  「鼠径部にはリンパ線が集中しています。毒素や疲労物質が回復を妨げますから、こうやってさすってリンパを流す施術をしていきますよ~」

  リンの親指の腹がTバックショーツで隠したイチの秘部の周囲にある鼠径部をぐりぐりと押しほぐし、その範囲は殆どイチのデリケートな部分ギリギリまで及んでいた。

  「股関節の筋もほぐしていきましょうね~。はい。脚をこうやって伸ばして~」

  「ひゃあっ________い、院長!流石にこれは!恥ずかしいって!」

  そしてリンはまるで人形で遊ぶようにイチの両脚を持ち上げると、まるで蛙の脚のようにイチの脚を開いて伸ばした。

  イチは溜まらずタオルを伸ばし股間を隠そうとするが、タオルの幅がギリギリで乳首を隠すか股間を隠すかのどちらかしか選べない。

  「大丈夫ですよ~。恥ずかしがらないでくださいね~」

  リンはイチのデリケートな部分に一切触れる事無く、彼女の鼠径部や股関節を撫で、解し、オイルを擦りこみ責めていった。

  それは奇術師かピアニストのような繊細な指捌きで、イチの敏感な部分には一切指を触れさせないままにイチの内なる神経を責めていくのである。

  

  「あっ、ちょっと_______ひっ、やっ、あっ………やめ」

  イチはこみあげてくる妙な刺激に思わず声が漏れないように必死で口を押え、リンの指先が身体をなぞるたびにつま先をピクピクと跳ねさせた。

  「もっと毒素と疲労物質を出していきましょうね~。女同士ですから、恥ずかしい事なんてないでしょ~?」

  「ダメ______こんな___あっ___あぅッ______ッッ」

  リンの指先が遂に一線を越えはじめ、イチのショーツを脱がそうと怪しげな動きを見せていた。

  ◆

  「ふぅ。ヒドイ目にあった」

  夜の冒険者通り。イチは顔を赤らめたまま帰路を急いでいた。

  懐中時計を取り出すと時刻は23時を過ぎている。

  仕事でもないのに深夜の冒険者通りにいるとロクな目に遭わない。

  結局、ショーツをはぎ取られる前にイチは好色院長のリン・パーナガスの手から逃れ、妙な展開になる寸前で医院から逃げ出す事に成功した。

  雰囲気に流され身体を相手に任せる程イチは甘い女ではないのだ。

  しかしながら、事実身体の痛みは不思議なくらい取れていた。

  リンのあの悪癖さえなければ、パーナガス治療院はもっと流行っていただろう。そう思うとイチは少し勿体ないような気がしてならなかった。

  「屋台でサンドウィッチでも買って帰ろう」

  そう思いながら自分の家であるルーナハイム女子寮に向かうが、その途中には冒険者ギルドのスウィートバウム支部……通称某支部がある。

  通常、某支部は一般冒険者の受付は20時で閉まる。

  緊急の案件に対応する為、深夜であっても数名の職員が署内にはいるが、その職員たちも基本は事務仕事を中心に行い、深夜でも開いている緊急窓口には通常人影がない。

  しかし、イチが某支部の敷地に近づくとどうやら緊急窓口が騒がしい事に気が付いた。

  某支部の敷地は鉄柵と垣根に覆われ、中の様子はわからないが柵の向こうから聞こえてくる声からただ事でない事がわかる。

  誰かが「殺された」「魔法」「テロ」などと剣呑な言葉を言っている。

  ___どうしたんだろう?

  やはり冒険者としては自分のホームとも言える支部で騒ぎが起きれば気になってしまうのが人情だろう。

  「どうしたんだ?何かあったのか?」

  イチはこの日の夜警をしている門番に事情を聴いてみる事にした。

  「あっ、イチさん」

  この日、門番を請け負っていたのは山猫階級の冒険者であるパターソという小太りの青年で、彼はイチに淡い恋ごころを抱いていた。

  少しドギマギしながらパターソは階級が上のイチに己の胸を二度叩く冒険者式の敬礼をイチに向けた。イチもパターソと何度か話した事もあるので若干崩した敬礼をパターソに返す。

  「殺しです。冒険者が殺されたんです」

  「殺された?」

  「そうです!全身から花が咲いて、死んでいるんです!」

  次回、第7話 『ハーフエルフを狩る者たち 冒険者生け花化事件』