9話 テオドールとの共闘 バルティゴ鉄道乗っ取り事件15
___くそ………、なんて風圧だ。少しでも上体を起こすと吹っ飛ばされかねない。
イチはセダッセン号の屋根を這って列車の進行方向と逆側を這って進んでいる。
イチは強靭な体力によってなんとか列車にしがみついているが、列車が線路の些細な歪みから受ける衝撃や傾きがダイレクトにイチを襲う。
しかも右手を乗っ取っているテオドールと腕のテンポを合わせなければいけないので神経を使った。
イチは檻から脱出し装備を取り戻すとなんとか一等車の窓から屋根に移ったイチは二等車を目指して這った。
三等車の乗客を救う為である。
テオドールの協力を結びつけたイチたちに考える時間はなかった。
シーナには身体を小さくしたまま身を隠すように伝え、テオドールの助言を受けて一旦窓から屋根に移った。
今二等車を目指して這い進んでいるのもテオドールの指示によってだ。
これは、テオドールも驚いたことだろうがイチは彼の指示に驚くほど素直に従い反論をしなかった。
無論イチはテオドールという男を微塵も信頼をしていなかったが、それでも一度テオドールの知恵を借りると決めた以上、従いきったほうがいっそ良いと判断した。
そういう覚悟ができるのがイチという少女だった。
「このクラスの機関車なら必ず各車両に緊急で後部車両を切り離すことができる装置がある。敵がアンバー・フォックスともうひとりだけなら、目を盗めば三等車を切り離せる」
「わかった。その後はどうする?」
「その後はあのハンマー野郎をどうにかしてあんたがぶっ殺せば済む話だ。アンバー・フォックスは触れた物を自由なタイミングで爆発させられる魔法を使う。暗殺なんかには向いてるのかも知れんが、あのハンマー野郎さえなんとかできりゃあ、勝機はあるはずだ」
「問題はハンマー野郎だけか」
シーナの見立てによると、グレイ・ベアーは肉体を強化する魔法で銃弾を弾いているらしい。
無敵の魔法にも見えるが、シーナの推測だと目や口の中などは強化できないはずとのことである。根拠はシーナが今まで学んできた魔法学によるものと、グレイ・ベアーの仮面の目の部分に格子のようなものがはめられていたからである。
無論、単にそういうデザインだけである可能性もあるがそれより恐らくは斬撃や刺突などを防ぐためにそうしていると考える事も出来る。
イチはその可能性に賭けた。というよりそれに賭けるしかなかった。
愛用のカーペイト15式も取り戻した。イチの射撃術なら目だけを狙って撃ち貫く事など容易だろう。
「奴らをぶっ倒したら列車の止め方は俺が知っているが、わかってるな? 約束は守ってもらうからな!」
「わかってるよ!」
この時テオドールは自分でもわからない高揚感を感じていた。それは、生まれて初めて他者と協力し同じ目標の為に死線を共にする事で生まれる高揚感だったのだろうが、それを味わえるような人生をテオドールは送ってきていなかった。
「窓があるぞ!」
イチは叫んだ。
読者諸氏にとってはあまりにも当然の知識だろうが、通常列車には窓がある。
そんなことはイチも知っていたのだが、そんな当たり前の事を失念しているほど考える時間がなかったのだ。
「鉄道なんだ! 窓があるのは当然だろう!」
「知ってるよ! どうやって二等車に入るんだ!」
「自分で考えろ! 冒険者だろ!」
そんな問答をしている間にもイチを乗せたセダッセン号は空気の壁を切り裂き爆走している。
浮かぶ雲を追いかけるように、荒野に並ぶサボテンを千切るようにして鉄の猛進機関は止まらない。
「テオドール! なんとか踏ん張れよ!」
イチは覚悟を決め半身の保持をテオドールと己の脚に任せると、カーペイト15式を左手に身を列車の屋根から乗り出させた。
列車の窓を銃把を使って叩く。二度、三度叩くと窓ガラスに蜘蛛の巣上にヒビが走った。
「突入するつもりか!? 飛び込んだ先に奴らがいたらどうする!」
「もう今更他に方法がない! いくぞ!」
イチは列車の屋根に上手く掴まれる部分を見つけると、殆ど博打同然に足から窓に飛び込んだ。
キラキラと星屑のように輝くガラスの破片を散らしてイチは二等車に突入したのである。