11話 イチ、ビキニアーマーを着る(1) よせあつめ外伝23
連邦歴20年夏。
イチが大烏の階級になってからしばらくが経つ。
この日、イチはスウィートバウムの冒険者通りにあるヘルメェス・ランジェリーショップに来ていた。
「かわいいが、ちょっとなぁ」
ランジェリーショップの試着室の中、イチはヘルメェスが新たにデザインしたランジェリーを試着室の中で試していた。
それは大変可愛らしい上下で、純白のブラとショーツは瑠璃色のリボンで飾られている。
イチの豊で凛としてはいるが威圧感のないちょうどよい大きさの乳房を優しく包み魅力を引き立てていた。
「保持性がなあ。このリボン、冒険の最中に服の中でほどけたら面倒だぞ」
カーテンに遮られた中でイチは姿見に映った自分の下着姿を見て苦笑した。
文句なしに可愛いランジェリーだが、飾りのリボンがそのまま留め金の役割を果たしていて、リボンを引っ張ればハラリと容易にほどけてしまう。
可愛いのは嬉しいのだが、意に反したタイミングでリボンが解けては困る。
「ほどけるようにできてんのよ!」
イチがしばしのあいだ乳房の保持性を確かめているとカーテンがいきなり開けられる。
店主のヘルメェスがシュッと手を伸ばすとスルリとブラのリボンが解け純白の布が床に落ちる。
「なにすんだバカヤロウ!」
慌てて胸を手で覆い隠すイチ。
イチとて年頃だ。他人にむき身の乳房を晒すのは当たり前だが恥ずかしい。
「夜のお楽しみが盛り上がるのよこういう仕掛けは」
ヘルメェスは煙管から煙を吐き出す。
赤っぽく染めたブロンドに、露出度の高い現代でいうギャル風の服を着た筋骨逞しい姿をしている。
「いいから閉めろ! 勝手に見るんじゃあない!」
顔を真っ赤にしてイチはヘルメェスを足で蹴るように押し出した。
ちなみにこのヘルメェス、既に本小説に2度ほど登場しているが男に生まれながら理想のランジェリーのために外科手術によって男のシンボルを切り落とした覚悟の人である。
胸にはスライムを加工して作ったシリコンのようなものを入れて体つきを少しでも女性に近づけているのも自分でランジェリーを身に着けるためである。
「あんた冒険のことばっか考えてるんじゃあないわよ。せっかく可愛いランジェリー仕立ててんだから、見せる相手ぐらい作ったらどうなのよ」
「余計なお世話だ!」
イチはプリプリしながらカーテンを閉めた。
今日、ヘルメェスがわざわざイチを店に呼んだのはランジェリーのテスターをさせるためだけではない。
冒険者のイチに依頼の相談を持ち掛けるためだった。
◆
「あなたに弟がいたとは知らなかった」
店の事務室でテーブルに出された茶菓子を楽しみながらイチは言った。
「食べながら喋るんじゃないわよ。下品な子」
ヘルメェスの事務室は趣味がよく出ており茶器を見ても家具を見ても洗練されている。
「血は繋がってないけどね」
イチと向かい合ったヘルメェスは小指を立てたまま上品に紅茶を口に運んだ。
聞くとヘルメェスの義弟、シャルネ・チュチュアンナは隣の都市シープスで服飾店を経営しているらしい。
「流通はうちほどじゃないけど、品質の高さとこだわり抜いたデザインで太い客がついてるってはなしよ」
「ほう」
イチは興味を向けた。
バターの風味が軽やかな焼き菓子は既に食べてしまっている。
食い意地のはった少女なのだ。
そして年相応に可愛い服も好きだ。
「新しい冒険者用の装備を開発してるらしくて、そのテスターになる冒険者を探してるって話よ。腕利きのね」
「装備か?」
さらにイチは関心を持った。
ヘルメェスの作った下着の素晴らしさは知っている。
そのヘルメェスの義弟がデザインした冒険者用の装備ならきっと品質と可愛さを両立しているであろうと期待しているのだ。
「しかも試作の装備はそのまま褒章で渡してくれるそうよ。いい話よね~」
「ふむん!」
イチは得心し鼻から息を吐いた。
話を詰めると、シャネル・チュチュアンナの仕立てた装備を身に着け実用性を試験するために遺跡に潜り危険生物を狩るという依頼内容で、報酬額もそれなりである。
冒険者ギルドへの手続きはシャネルに代わりヘルメェスがしてくれる。
また、テスターはふたり必要であり、剣を扱う者がいると尚良しとのことだった。
イチは二つ返事で引き受けることにした。
普段世話になっているヘルメェスの頼みを聞いてやりたいというのもそうだが、義弟のシャネルが作った新しい装備が気になる。
「イルハっていう剣の達人がいる。確か今は身体が空いていいるはずだ」
「結構じゃない」
ヘルメェスは会ったことがないが、イチの仲間にイルハという少女騎士がいる。
彼女も既に本小説に何度か登場しているが、剣で大烏階級にまで上り詰めた達人である。
実力も人間性も信頼に足りる。
「せっかく良い身体してんだから、冒険ばっかしてないでたまには恋でもしなさいよ」
「恋なんて必要ない! 余計なお世話だ!」
カップの底に僅かに残った紅茶の雫を飲むと、早速イルハに新しい冒険の話をもちかけに住処に帰ることにした。
こうしてイチの新しい冒険が始まるのであった。