11話 イチ、ビキニアーマーを着る バルティゴ都市国家連邦外伝26

  煌めくエメラルドグリーンが視覚より先に心を洗う。

  イチ達が進んだ先に広がる水場はそういう場所だった。

  「わぁ! 綺麗な場所っすね!」

  「本当に、この遺跡の奥にこんな場所があったんですね」

  遺跡苔の緑と遺跡蛍の蒼によって優しく輝く水面を見てシャネルとイルハは感嘆の声をあげた。

  人工的かつ巨大な柱が並び、そのどれもが苔むしている。

  イチたちの膝上までを浸からせる水面は透き通っており、泳ぐ魚の姿さえ見える。

  闇の中で慈しみを集めたように輝く空間は幻想的だった。

  流石のカークとヌースも純粋に景色に目を奪われている。

  「だが、見とれてばかりはいられないぞ」

  イチは心をくすぐる美しい景観を一旦忘れることにした。

  視界の奥に1体、他の個体より大きいスァンブルムの影を見つけている。

  この遺跡の主と言えるだろう。

  随分と生命を平らげたのか、人ひとりを容易に呑み込めるだろう巨体を柱に張り付けて眠っている。

  物理の力だけで言えばあの巨体を柱に張り付けて眠るのは不可能だが、スァンブルムは手足の吸盤にマナ袋を持っている。

  一種の魔法で自重と重力に抵抗しているのだ。

  他の驚異はまだ見つけられていない。

  本来、無為な長居を避けるべき空間でもあった。

  「あいつらを狩ったら依頼達成とみなしていいな」

  イチは声をかけながら視線を横に動かし、イルハに緊張を促す。

  単にスァンブルムを狩るだけならまだしも、シャネルに万一の事態が起きることを防がねばならない。

  「もちろんっす! バッチリとエロかっかっこよくお願いしますよ!」

  合意を成立させたイチとイルハは身体と精神を狩りの形に変える。

  イルハが先を進み、イチは5歩分の左斜め後方に位置どる。

  「むほ! なにやら面白くなりそうな予感がしますぞ!」

  ヌースが小声でカークに囁く。

  言外にシャッターチャンスを逃すなと言っていた。

  「わかっておりますとも!」

  答えるカークの視線ではイチとイルハの尻がビキニショーツに守られ揺れている。

  絶対領域を浸す水面が新たな肉感の生々しさを引き出し、後ろ姿だけで興奮を催させるものだった。

  尻の描写に終始すれば筆者も変態紳士の仲間入りしてしまうので、狩りに赴くイチたちの描写もせぬわけにはいかない。

  

  イチはライフル銃を腰だめに構えている。

  肩に銃床を当て頬付けしないのは、予想外の方向からの攻撃に即座に対応する為である。

  照星を覗くとどうしても視界が狭くなる。

  現代的な発想で言えば戦術的に見えない構えである。

  が、視認と照準をほとんど一体にさせられるイチにとってはこのほうが合理的だった。

  対してイルハは剣先を目線の先に真っすぐ伸ばし、前しか見ない。

  正面の脅威に誰よりも早く対応する為の構えである。

  前以外はイチが見る。

  互いの信頼があって成せる形であった。

  ふたりは余計な音を立てないよう水面を少し揺らめかせながら近づいてゆく。

  もっとも、本来ならイチが遠方からスァンブルムを狙い撃ちにすればなんの苦労もなく目標達成となるのだが、今回は装備のテストが依頼主の本懐にある。

  最初の一太刀は剣士というのが条件だった。

  ____一撃で、やれるな?

  ____まかせてください。

  視線だけで意志を疎通する。

  余計な声は出さない。

  スァンブルムは音に敏感だ。

  柱に張り付けて眠っているのも水中よりも音を拾えるためだろう。

  声を出せば即座に外的と認識されるし、伸びる舌の速度は驚異的だ。

  万一舌に巻かれれば一瞬で口内に呑み込まれ行動不能となってもおかしくない。

  戦闘にする心算はない。

  狩りは、獲物の反撃を許した時点で命を奪い合う戦いに言葉が変わる。

  故に、一瞬で仕留めなければならないのだ。

  ____いきますよ。

  イルハがいつもよりも獲物に距離を詰めている。

  本来は7mまで距離を詰めれば一瞬で剣を急所に突き刺せる。

  だが水が張り足場が悪くなっているためそれより近づかねばならなかったのだろう。

  イルハは腰から下の筋肉に意識を集中させる。

  ブーツに入り込んだ水の不快感はもうとうに忘れている。

  その一方でイチも意識の形を変化させた。

  同じくビキニショーツに跳ねて染みになった水分の気持ち悪さをもう感じていない。

  ____やはり、もう一匹いたか。

  イチはイルハから見て左側の柱にまた別のスァンブルムが張り付いていたのを察知し、意識を両方に向けた。

  もう一体よりやや小さく、色が赤黒い。

  恐らく番の雌なのだろう。

  これは想定内のことだった。

  イルハの刺突と同時に排除するつもりで銃口を向け構える。

  イルハもイチの動きを気配で察知し、意識を合わせた。

  その瞬間である。

  「ぶあッ________あっくしゅおおおおおおん!!!!」

  やたらとデカいクシャミをする男が世の中にはいる。

  悪意はなくても場所をわきまえずされるとすこぶる場の流れを乱す。

  カークはそういう男だった。

  「!?」

  

  イチとイルハの意識がほんの一瞬乱される。

  そして、そこから起きる現象は殆ど同時かつ、思考よりも先に発生した。

  「しま____!」

  目覚めたスァンブルムの動きは速かった。

  剣を構えたイルハが踏み込むよりも先に正面のスァンブルムが舌を伸ばしイルハの身体に巻き付けた。

  肋骨のあたりを一周したピンク色の舌はイルハを締め付け、それがためビキニアーマーで守られたイルハの豊満な胸がブルンと揺れる。

  「________む“!」

  そして次の瞬間にはイルハの胸から上がスァンブルムの口の中に取り込まれた。

  スァンブルムの捕食は蛙をイメージすればよい。

  無理矢理獲物を丸呑みにし、そのまま胃袋でゆっくり消化するのだ。

  「イルハ!」

  イチは声の強さに反して冷静だった。

  まずもう一体いる雌のスァンブルムを無力化する為に引き金を引く。

  片方さえ始末すればイルハが完全に呑み込まれるより先にもう片方も対処できる。

  だがイチが装着しているのはビキニアーマーだ。

  これがいけなかった。

  「____!?」

  確かにイチの射撃は一種の伝統芸能のように完成された動体でスァンブルムの雌を仕留めた。

  しかしそこに無駄な余韻が入る。

  イチの銃撃よりも一瞬先に伸ばしたスァンブルムの舌が偶然イチの胸に張り付き、ビキニアーマーを引っぺがしたのである。