第12話「世界一大きなシマリス」

  [chapter:プロローグ]

  普段通りの朝だった。そのような事が起きるとは誰も思わなかった。

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  ここはケモノ界のさいたま市大上区。

  とある家で、シマリスの男の子が目覚めた。

  彼は栗田 永雄。小学校4年生で相撲部所属。また食いしん坊なため、丸々と太っている。

  「ああ、よく寝た…」

  目覚めた彼は洗顔などを済ませ、服を着替えた。

  Tシャツの下から突き出たお腹が覗いているが、これが普段の格好だ。

  「行ってきまーす!」

  朝食を終えるとランドセルを背負い、元気に家を出た。

  普段通りの朝だった。そう、ここまでは…

  「ああ、いいお天気!」

  青い空に白い雲。栗田くんは夏の空を眺めた。

  「空からお菓子が降ってくればいいのにな…」

  その時、不思議な事が起きた。突然空からビスケットが落ちてきた。

  「ん?なんだこれ…わあ、本当にお菓子が降ってきた!」

  喜んでビスケットを口へ運んだ。

  「今日はいい事ありそうだ!」

  彼は元気に歩いていった。この後何が起きるかも知らずに…

  [newpage]

  [chapter:栗田くんが巨大化!?]

  しばらく歩いた所で、クラスメイトの金子 真里ちゃん(白猫)に話しかけられた。

  「おはよう、栗田くん…身長が急に伸びたわね。」

  「おはよう…あれっ?真里ちゃんが小さい…」

  栗田くんは横を見て驚いた。自分の身長がカーブミラーとほぼ同じ高さになっている。

  「ええっ!? どういう事?」

  事態に気がついた彼は騒ぎ始めたが、巨大化は止まらない。もう家の天井に届きそうな身長だ。

  「キャーッ!怖いーっ!さようならー!」

  真里ちゃんは悲鳴を上げ、逃げだした。通学中の児童たちも逃げていく。

  「え、ちょっとみんな、逃げないでよ!なんとかしてよ!」

  助けを求めて手を振っていると電線に触れてしまい、全身に電気が走った。

  「うわーっ!」

  驚いて逃げ出すと、止まっていた車を踏み潰してしまった。

  「ああ…ごめんなさーい!」

  彼は逃げ出した。

  (これ以上被害を出さないように…)

  慎重に歩く栗田くん。

  (家を壊しちゃだめだ…車を踏まないように…)

  しかし巨大化は止まらない。現在の身長は小さめのビルほどだ。

  さらにお腹が大きいため、足元がよく見えない。注意を払っているつもりだったが、また車を踏みつぶしてしまった。

  「ああ、まただ…」

  住宅街ではすぐにパニックが起きた。

  「巨大なシマリスがいるぞ!」

  「どうすればいいの!?」

  「とにかく逃げろ!逃げるんだ!」

  住民たちの騒ぐ声が響き渡る。

  (そんな…ぼくだって早く元のサイズに戻りたいのに!)

  栗田くんは恐怖のあまり泣き出した。

  「うわーん!元に戻してー!誰かー!」

  すると、その声で周辺に建つ家のガラスがすべて破壊された。

  「またやっちゃったー!」

  彼は我を忘れて走り出した。

  (この体で走ると疲れるよ…)

  そう考えながら、大上駅東口で息を弾ませる栗田くん。あれからまた少し大きくなった。

  (ん?走った…?って事はまさか…)

  振り返った彼は、悲鳴を上げた。

  「ああーっ!ぼくはなんて事を!」

  そこにはコンクリートや鉄、石の塊が大量に転がっていた。彼の通り道にある建物は、すべて踏み潰されてしまった。

  (ああ、一体何頭のケモノが犠牲になったのか…こんなの絶対許してもらえないよ…

  これからどうすれば、どうすれば…)

  考えるうち、脳内が混乱状態になった。

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  [chapter:進撃の栗田くん]

  その時、栗田くんの中で何かが吹っ切れた。

  「そうだ!これならいっその事好き放題やっちゃえ!もう誰もぼくを止められないぞ!」

  城を模した食べ放題レストラン「フード・キャッスル」へ向かい、建物を地面から引き抜いた。並んだ尖塔をむしり取って放り投げると、道路の各所が陥没する。

  屋根をはがすと、食べ物の並ぶ店内が見えた。

  「いっただっきまーす!」

  彼は店内の物をすべて口に放り込んだ。

  「いろんな味のハーモニー!こんなの滅多にできないよね。」

  大上駅には新幹線が近づいてきた。栗田くんはそれをつかみ、高架線路の上を前後に動かす。

  「リアルな鉄道模型だ!ミニチュアの中に入ったらこんな感じかな?

  さてと、楽しんだからこいつは用済みだ!」

  新幹線をつかみ上げ、東口のビル街に投げつけた。それらは一瞬で崩れ落ち、爆炎が上がる。

  「ああ、何もかもが楽しくてたまらないよ!」

  高架線路を破壊しながら進み、高層ビルの立ち並ぶ西口へ。そこでは大勢のケモノたちがおびえていた。

  「ああ、ついにこっちに来てしまった!」

  「俺はもうすぐ死ぬのか…」

  テレビの撮影もされており、象のレポーターが叫んでいる。

  「見てください!巨大なシマリスが暴れています!このシマリスに話は通じるのでしょうか!」

  その声は栗田くんにも聞こえた。

  「おっと、撮影だ。テレビに出られるぞ!」

  身をかがめ、スタッフ一同に顔を近づける。

  「はい、話は通じますよ!」

  「あなたはなぜこんなに大きくなってしまったんですか?」

  「空から降ってきたビスケットを食べたらこうなったんだ。

  最初は元のサイズに戻りたかったけど、もう元には戻れないみたいだから好き放題やっちゃうねー!」

  「いい加減にやめてください!あなたのせいで町が大変な事になっているんですよ!」

  「うるさいなあ。ぼくに注意しないでよ。こうすればもう注意なんかできないよね。」

  栗田くんはテレビ局のスタッフ一同を踏みつぶした。

  気がつけば、西口で一番高い大上スピードシティのビルと同じ高さになっていた。

  「さーてと、体がなまっちゃいけないから相撲の稽古でもするか!」

  栗田くんが四股を踏むと、大上駅が粉々に破壊された。もう1回踏むと、ウルフデパートが踏みつぶされた。

  「よし、今度は突っ張りだ!」

  大上スピードシティに突っ張りを当てると根元から崩れ、周辺のビルを巻き込んで大クラッシュ。

  道路も破壊され、水道管が破れて水が噴き上がった。栗田くんはその水を飲む。

  「水分補給も忘れずにと!さあ、次は何を壊そうかな?」

  周囲の迷惑を考えず、楽しそうに笑う栗田くん。

  もう彼の心に罪悪感や優しさはない。破壊しか考えられなかった。

  [newpage]

  [chapter:栗田くんの破壊活動]

  「よーし!何から何まで壊してやるぞ!」

  栗田くんは大上区を出て、各地の町を破壊する。

  山を崩し、住宅街を踏みつけ、高速道路の車を放り投げ、ビルを地面から引き抜いて遠くに投げ、お腹をビルにぶつけ…

  「こんな面白い遊びができるのは、世界中でぼくだけだ!」

  巨大化している点を除けば、彼の姿は普段通り。しかし中身はモンスターと化していた。

  彼が通った後には、大量の瓦礫が広がっていた。少し前までそこが大都市だったとは信じられない見た目だ。

  歩いていくと、キリンを模した銀色のタワーに出くわした。634メートルの高さを誇る東京ジラフタワーだ。

  「ぼくよりちょっと大きいな。でも動かせるかも!」

  力をこめると、簡単に地面から外せた。

  「さあ、これで…」

  タワーを周囲のビルに叩きつけ、次々と破壊していった。

  「それっ!それっ!こんな壊し方もいいな!」

  100棟ほど破壊した所で見ると、手に持っているタワーはボロボロになっていた。

  「もういらないや。捨てちゃえ!」

  東京湾に投げ捨てると、ものすごく大きな水柱が上がった。

  「わあ、きれいな噴水!あ、観覧車があるぞ!」

  ためらいなく引き抜き、横に伸びる線路の上を転がす。観覧車は先の駅に衝突し、共に大破した。

  その近くには、ケモノたちで賑わう場所がある。

  「さあ、次はあそこに行くか。」

  そこは東京ドリームキングダムと東京ドリームオーシャン。ケモノ界で有名なテーマパークだ。

  栗田くんは東京ドリームキングダムのエントランスに現れた。

  「うわ、ついにこっちにも来た!」

  「助けて!どうか襲わないでください!」

  客たちが騒いでいる。

  「ふーん、そう言われると余計に襲いたくなるよ。」

  満面の笑みでエントランスを踏みつぶし、入園した。

  パーク内の城や岩山も、今の彼にはミニチュア同然。

  「よーし、どんどん破壊しちゃうぞー!」

  足を上げ、パークの上に大きな影を作る。

  「お願いです、帰ってください!」

  「ここだけは守って!」

  「ああ、大好きな場所と共に最期を迎えられるなんて、俺は幸せだ!」

  足元から様々な声が聞こえるが、彼は無視した。

  「よし、この辺りにしよう。せーの!」

  狙いを定め、一気に足を踏み下ろす。足元から叫び声が上がったが、すぐ静かになった。

  その後、東京ドリームオーシャンも踏みつぶした。

  「夢の国は夢と消えたのであった…フフッ、かっこいいでしょ?

  あ、ごめん!誰も聞いてないか!」

  栗田くんはまた歩いて行った。今ではただ歩くだけで道路がひび割れる。

  [newpage]

  [chapter:すべてが破壊されて…]

  その後も彼は破壊の限りを尽くし、1時間後には日本中を破壊してしまった。

  巨大化は止まらず、雲を見下ろすほどの高さに成長した。

  「うわあ、世界が見下ろせるぞ!そうだ、この大きさなら短時間で世界旅行できる!

  …あ、違った。世界の破壊だった。」

  栗田くんは足をアジアに踏み出した。

  「♪この地球はぼくの物 だから何をしてもいいんだよ~

  ぼくのパワーは世界一 もう誰にも止められないのさ~」

  即興で作った歌を歌いながら、世界を突き進む。

  ただ踏むだけでは飽きたらしく、ユーラシア大陸に寝転んだり、ロッキー山脈や氷山を食べたり、くしゃみでヨーロッパを吹き飛ばしたり…

  それから2時間後、栗田くんは世界中を破壊してしまった。もう地球上で生きているケモノは彼のみ。

  まだ巨大化は続き、ついに地球よりも大きくなってしまった。そのため頭は大気圏外に出ているが、なぜか呼吸ができている。

  「なんでだろう?あのビスケットのおかげかな?

  そもそも服やランドセルが一緒に巨大化している時点で不思議だけど。まあいいか!」

  [newpage]

  [chapter:惑星の食べ放題]

  栗田くんは地球を飛び出し、宇宙に出た。

  「ついに宇宙旅行だ!」

  その時、お腹が鳴った。

  「ああ、たくさん動いたから腹ペコだ。食べ物ないかな…

  おっ、惑星が山ほどあるぞ!いっただっきまーす!」

  まずは月を手に取り、太陽であぶって食べた。

  「チーズの味だ!おいしーい!」

  次は地球を口に入れた。

  「塩水がいっぱいでしょっぱいけど、これもおいしい!」

  月も地球も栗田くんのお腹に消えた。

  水星、金星、火星、小惑星帯、木星、土星、天王星、海王星も食べられ、太陽系は消滅した。

  それでも巨大な彼の胃にはまだ空きがある。全身が銀河系サイズとなった今では、星など砂糖の粒同然だ。

  「よーし、こうなったら何から何まで食べちゃえ!」

  [newpage]

  [chapter:宇宙にシマリスただ1匹]

  3時間後。とうとう栗田くんは全宇宙の星を食べつくしてしまった。

  冥王星などの準惑星、ハレー彗星、太陽、ブラックホール、大きな星から小さな星まで全部食べた。

  もしかしたら生命体の住む星もあった可能性もあるが、彼は気にも留めなかった。今のサイズでは生命体を肉眼で見る事も不可能だろう。

  「グゲエエエエーーーーーッッッップ!!!!!」

  お腹を大きく膨らませた彼は、特大のげっぷを出した。

  「ああ、満足満足…宇宙がみーんなお腹に入っちゃった!」

  今の宇宙は、巨大なシマリスが浮かぶ空間と化していた。もう全宇宙の生命は栗田くんのみ。

  「今日は楽しかったな…さあ、お家に帰ろう。」

  その時、大変な事に気がついた。

  「しまった!地球を食べちゃったから帰る場所がないよ!」

  栗田くんは急に寂しくなった。

  「ねえ、誰か返事してよ…」

  当然だが誰も答えない。

  「話し相手もいないし、食べ物ももうない。どうやって生活すればいいんだろう?あと何日かでぼくは飢え死にするのかな…

  あのビスケットを食べなければ、ぼくはいつもの生活ができたのかな…」

  彼の目に涙が浮かんだ。

  「うわーん!みんなごめんなさい!ぼくはなんて悪いシマリスなんだ!

  地球も宇宙もみんな食べちゃうなんて、食いしん坊にも程があるよ!

  ああ、あのビスケットなんか食べなきゃ良かった!すべてはぼくが食いしん坊なせいだ!」

  聞く者はいないが、彼は泣きながら謝った。

  「ぼくはもう許される訳ないよね。飢え死にを待とう…」

  泣き疲れると目をつぶり、眠りについた。

  [newpage]

  [chapter:エピローグ]

  どれくらい長く眠っただろうか…栗田くんは薄目を開けた。

  (あれ…ここは…)

  そこは見慣れた自分の部屋。

  (これは…幻?)

  目をこすったが、まだ部屋は見えている。窓の外には見慣れた住宅街が広がっている。

  (部屋も町も残ってる…)

  意識がはっきりとした彼は、喜びの声を上げた。

  「そうか、あれはみんな夢だったんだ!夢ならなんでもありだよね。」

  心から落ち着き、息をついた。

  その後、彼は普段通りの行動を始めた。

  「行ってきまーす!」

  朝食を終えるとランドセルを背負い、元気に家を出た。

  普段通りの朝だった。

  「ああ、いいお天気!」

  青い空に白い雲。栗田くんは夏の空を眺めた。

  「まさか、ビスケットは降ってこないよね。」

  その時、上からビスケットが落ちてきて口の中へ。彼は反射的にそれを食べてしまった。

  「あ…あ…うわーっ!ビスケット食べちゃったー!大変だー!」

  彼は泣き叫びながら走っていった。

  その横に建つ家の2階では、うさぎの母親が1歳の息子に注意した。

  「ちょっと、窓からビスケット投げちゃだめでしょ!」

  [chapter:おしまい]