[chapter:前回のあらすじ]
7月29日、ケモノ小学校埼玉校の4年生は初の林間学校に行った。
山登り、カレーライス作り、キャンプファイヤーと様々なイベントで盛り上がったが、キャンプファイヤーの後でシマリスの縞野 くるみちゃん(4年2組所属)が行方不明になってしまう。
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[chapter:行方不明のくるみちゃん]
「誰か、縞野さんを見ていませんか?」
小山先生の声に、バンガロー内の栗田くんたちは驚いた。
「え、くるみちゃんが行方不明なの!?」
「まさかここでトラブルとは…」
「どうする?礼央、助けに行くか?」
「ぼくはちょっと怖いなあ…ぼくまで行方不明になったらどうしよう…」
「ぼくはもう眠いし…」
栗田くんが力強く言った。
「よし、ぼくが助けに行くよ!」
稲荷山くんが心配そうに返す。
「え、大丈夫?」
「大丈夫。同じシマリスとして見過ごせないよ!
それじゃ、行ってくるよ。無事に帰るからね!」
「気をつけてね、栗田くん。」
「くるみちゃんを見つけてね!」
栗田くんは5匹の声援を後に、バンガローを出た。
森口先生と小山先生は、懐中電灯を持って探していた。
森の奥でも懐中電灯の光が動いているため、他の教師も捜索中のようだ。
「先生、ぼくも協力します!」
「栗田くん、ありがとう!いい子ね!」
「ありがとうございます、先生。」
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[chapter:くるみちゃんを探せ]
捜索隊は森中に呼びかける。
「縞野さーん!」
「どこですかー!」
「くるみちゃーん!」
「返事をしてくださーい!」
呼びかけながら歩いていくと、遠くでかすかに聞こえた。
「ここよ…助…けて…」
「小山先生!今の声聞こえました?」
「はい、聞こえましたよ。あれは縞野さんでしょうね…」
「私は聞こえませんでしたけど、どっちから聞こえました?」
「あの木々の奥です。」
「わかりました。では行ってみましょう。」
3匹は声の聞こえた方へ直行した。
そこにたどり着くと、地面には岩が数個転がっている。その奥は急坂だった。
「きっと、この岩につまずいて坂を転がり落ちてしまったんだ!」
「そうらしいな…」
「呼びかけてみましょう。」
3匹は大声で呼んだ。
「縞野さーん!返事をしてください!」
「助けに来ましたよー!」
「くるみちゃん!待っててね!」
弱々しい返事が来た。
「その声は…栗田くん…それに先生たち?」
「そうだよ!そっちはくるみちゃんだよね?」
「そう…縞野 くるみよ…助けて…」
「くるみちゃん、どうしたの?」
「足をくじいて…動けないのよ…もう疲れたし…周りもよく見えないし…」
「今明かりをつけるからね!」
懐中電灯で坂の下を照らすと、くるみちゃんがうずくまっていた。
「あそこにいるぞ!」
「見つけた!」
「もう大丈夫ですよ!」
小山先生が坂を静かに下り、くるみちゃんを抱きかかえて戻ってきた。森口先生はスマートフォンを出し、他の教師にショートメッセージで発見を伝えた。
「このまま猫田先生の所に行こう。」
「ぼくも付き添います!」
任務を終えた捜索隊は、夜の森を行く。
「くるみちゃん、何があったの?」
「星空を眺めてたら、石につまずいて坂を転がり落ちちゃったの。暗くて怖かったし、足が痛いわ…」
「それは大変だったね…」
「そうね。でももう大丈夫よ。幸せなぐらいよ。」
「どうして幸せなの?」
「えーと、それは…でももうケガなんかどうでもいいわ…」
「縞野さん、体が熱いですね。熱でもあるんですか?」
「先生、大丈夫よ。大丈夫だから心配しないで…」
(ついに栗田くんと接近できたわ。私とっても幸せ…)
くるみちゃんは幸せの中、猫田先生の待つ管理棟にたどり着いた。くるみちゃんが自力でたどり着く場合も考慮して、彼女はここで待っていた。
「くるみちゃん、もう大丈夫だよ。」
「安心したわ…栗田くん、おやすみなさい。」
「おやすみ。」
栗田くんはバンガローに戻りながら考えていた。
(無事に見つかって良かったけど、くるみちゃんはどうして幸せだったのかな?「助かって嬉しい」とは少し違ったような…
それに、体が熱くなっていたのはどうしてだろう?)
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[chapter:バンガローの夜]
「ただいま。くるみちゃん無事だったよ!」
バンガローに戻ると、残りの5匹は体操服に着替えていた。相変わらず稲荷山くんと河合くんはお腹が隠せていない。
「お帰り。良かったね!」
「足をくじいたけど大丈夫だって。」
「そのくらいで済んで安心したよ。ぼくたちはもうシャワーを浴びてきたから、栗田くんも浴びてきて。」
「わかった。行ってくるね。」
「迷子にならないように気をつけてね。」
「もちろん!」
栗田くんはシャワーを浴び、全身ドライヤーで毛皮を乾かした。
(あー、さっぱり…)
体操服に着替え、トイレを済ませてバンガローに戻ると、残り5匹はもう眠っていた。
(ぼくも寝よう。おやすみ。)
布団の中でも、先程の事について考えた。
(もしかして、くるみちゃんはぼくがいるから嬉しかったのかな。そうなると…ぼくに恋してるのかも?
だとしたら嬉しいな…)
考えがまとまった辺りで、彼は眠りに落ちた。
数十分後。静寂の中、礼央くんが目を覚ました。
(トイレ行きたいな…シャワーの時に行けばよかった…)
恐る恐る布団を出て、ドアへ向かう。
(怖いけど…勇気を出さなきゃ…火の神に勇気の火を与えられたんだから…)
靴を履いてドアを開け、外へ出た。月はちょうど雲に隠れ、風の音やフクロウの鳴き声が聞こえる。
(ああ、怖いよ…でも勇気を出して行くぞ…)
森の中を進むうち、トイレが見えてきた。
(もう少し、あと少し…)
その時、近くの枝から飛び立ったフクロウがすぐ前を通過した。
「う、うわあーっ!」
彼は悲鳴を上げてバンガローに戻り、布団にもぐりこんだ。
(ああ、怖かった…いきなり来るなんて…)
震えているうち、眠りに落ちた。
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[chapter:バンガローは朝から大騒ぎ]
翌朝7時。
「あーあ、よく寝た…」
栗田くんが一番に目覚めた。
「おはよう。まだ眠いけどぼくも起きなきゃ…」
稲荷山くんも目をこすりながら起きた。他の4匹も次々と目覚める。
「気持ちいい目覚めだな。なあ礼央?」
「い、いや、ぼくはちょっと…ね、ねえ、みんなここから出てってくれないかな?」
春斗くんは普段通りに元気だが、礼央くんの態度が何かおかしい。
「ああ、またいつものか?見せてやれよ!」
春斗くんは礼央くんの掛け布団をはがした。
「ちょっと、やめてよ!…ああ…」
「どうしたの、礼央くん?」
布団を覗いた西園寺くんは、すぐに目をそらした。
「ごめん、見るんじゃなかった…」
彼の布団には、水たまりが広がっていた。春斗くんが得意げに説明する。
「礼央は臆病で、いまだに夜は誰かが付き添わないとトイレに行けないんだぜ。だから今でもしょっちゅうおねしょをするんだ。」
「そんな事言わないでよ…知られたくなかったのに…」
秘密をばらされた礼央くんは、恥ずかしがってうずくまった。
「そんなに恥ずかしがらないでいいよ。内緒だけどぼくだって時々しちゃうからさ…」
河合くんは彼にささやき、励ました。
「そうなんだ。少し落ち着いたよ…」
6匹は洗顔のため外へ。礼央くんは布団を干してから合流した。
朝の森には爽やかな空気が漂っている。
「すごく気持ちいいね!」
「晴れた空、澄んだ森の空気、自然の匂い、鳥のさえずり…自然ならではの良さだね。」
栗田くんたちが自然を楽しむ中、春斗くんは礼央くんをからかい続ける。
「おい見ろよ!あっちに礼央の仲間がいるぞ!」
「ちょっと、大声出さないでよ!」
別のバンガローにも、おねしょの布団が干されている。その中では穴田くんが困っていた。
(どうしよう、ぼくのおねしょ癖がばれちゃったよ…やっぱりおむつを履いてくるべきだった…
昨日の朝にぼくが慌ててた理由も、きっとばれちゃったよね…)
栗田くんは小声で話しかけた。
「ねえ礼央くん、パンツはどうするの?」
「え…あ…昨日のを履くよ。ちょっと汚れてるけど他にないからね…」
6匹は水道で顔を洗い、礼央くん以外はトイレも済ませた。
バンガローに戻ってから服を着替え、朝食に向かった。
「昨日カレーをあんなに食べたのに、もうお腹ペコペコだよ!朝ごはん何かな?」
栗田くんは楽しみで仕方がない。
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[chapter:自然の中で楽しむ朝食]
食事スペースに全員揃った所で、森口先生が挨拶をした。
「皆さん、おはようございます。今日もすがすがしい朝ですね。
まずお知らせです。昨夜は縞野 くるみさんが行方不明になり、先生たちで捜索しました。そして途中で加わった栗田くんによって、無事発見されました。」
児童たちから歓声が上がった。
「本当にありがとう!」
「くるみちゃんが無事でほっとしたよ…」
「栗田くんは英雄だ!」
「ばんざい、栗田くん!」
賞賛される栗田くんは照れながら、くるみちゃんを見た。右足の包帯を除けば元気そうだ。
「栗田くん、昨日はありがとう。」
笑う彼女に手を振り返すと、彼の心はときめいた。
朝食が配られた。メニューは豆乳、イチゴジャム、ロールパン、サラダ、目玉焼き、リンゴ。
「皆さん、今日も元気に食べましょう!」
「いただきまーす!」
ロールパンにイチゴジャムを塗り、口へ運ぶ栗田くん。
「パンも自然の中で食べるともっとおいしいね!」
稲荷山くんはサラダを食べている。
「これが自然の味か…最高!」
50頭全員がしっかり食べた。先程まで落ち込んでいた礼央くんや穴田くんも、元気を取り戻したようだ。
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[chapter:自然観察]
朝食後、児童たちはバンガローからプリントと筆箱、色鉛筆を持ってきた。これから自然観察を始める。
班ごとに森の自然を観察して、専用のプリントにまとめる。宿題の一環だ。
(どんな鳴き声が聞こえるかな?)
鳥の声に耳を澄ます稲荷山くん。
(あっ、この花きれい!)
西園寺くんは道端の花をスケッチする。
「この葉っぱは何だ?」
「むやみに触らない方がいいよ。毒かもしれないよ…」
葉を研究する春斗くんと、相変わらず心配性の礼央くん。
「あ、鳥だ。どこへ行くんだろう?」
栗田くんが顔を上げると、遠くで観察中のくるみちゃんと目が合ったため、また手を振った。
彼も次第に彼女を意識し始めていた。
2時間後、自然観察が終わった。
「いっぱい書いたぞ!いい評価もらえるかも。」
「栗田くん、鳥の絵が上手だね。」
「ありがとう、稲荷山くん。この葉っぱの絵も上手だね!」
「ぼくにしてはたくさん書けたかも!」
「でもせっかく自然の中に来たのに勉強はちょっとね…」
「礼央、これは林間『学校』だぜ。」
栗田くんたちはプリントを見せ合いながら、思い思いの事を話した。
次は昼食。これが林間学校最後の食事だ。
食事スペースに行き、キャンプ場が用意した弁当を全員で食べた。中身はごま塩のかかったご飯、漬物、ポテトコロッケ、エビフライ、サラダ。
「ああ、庶民的な味…こういう食事も良いですわね。」
しみじみ味わって食べる理沙ちゃん。
「おいしいお弁当が食べられて良かった…」
穴田くんは安堵した。
栗田くんと稲荷山くんも、話しながら食べている。
「ねえ栗田くん、自然の中で生活するのはどうだった?」
「そうだね、たまにはこんな場所で生活するのも悪くないと思ったよ。
ぼくたちが暮らす大上区は、いろいろな場所が揃っていて便利な生活ができる素敵な場所だ。
でも、自然の中にもいい物はたくさんある。小鳥の鳴き声、あふれる緑、きれいな花や草木、おいしい空気…この林間学校では、それを全身で感じられたよ。」
「いい事言うね、栗田くん。ぼくはそろそろテレビが見たいな…」
昼食後、児童たちはホールに集まった。終わりの会だ。
「皆さん、林間学校はどうでしたか?」
「とても楽しかったです!」
「そうでしょうね。皆さんはこの2日間で様々な事を学び、体験しましたね。」
「自然の美しさ、おいしいカレー、友達との夜、楽しいイベント…この旅行はいつまでも皆さんの心に残るでしょう。」
「家に帰ったらぜひ、家族にも話をしてくださいね。」
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[chapter:帰りのバス]
帰りの時が来た。スーツケースをバスに積み込み、児童たちも乗り込む。
「楽しかったね、栗田くん。」
「ぼくもだよ、稲荷山くん。」
「いろいろあったけど、なんだかんだで最高の思い出になったね。」
「そうだな、礼央!」
エンジンがかかり、バスが発車。栗田くんは振り返り、遠ざかるキャンプ場を見つめていた。
しばらく進むと、森口先生が言った。
「皆さん、帰りは映画を見ましょう。」
ボタンを押すと、天井からテレビの画面が現れた。
「わあ、すごい!」
「何の映画だろうね?」
森口先生はDVDパッケージを見せた。船に乗るコアラの女性が描かれている。
「『コアラと伝説の海』よ。」
「あー、これ見たかった奴だ!」
「私これ好き!」
「見た事はないけど、歌は知ってるよ!」
DVDがセットされ、映画が始まった。南の島に住むコアラのヴァイアナが、島を救う冒険に出る物語だ。
ヴァイアナを応援する稲荷山くん、静かに見る真里ちゃん、挿入歌を口ずさむ遠藤くん、映画を見ずに眠っている卯井是瑠ちゃん…楽しみ方はそれぞれだ。
ちなみに2組のバスでは「ベアマックス」が上映されていた。柴犬のヒロシ、ホッキョクグマ型ロボットのベアマックスなど6名のヒーローが悪と戦う物語だ。
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[chapter:林間学校の終わり]
行きと同様に休憩を1回挟み、学校前に到着。空は夕焼けに染まっていた。
児童たちはバスを降りて荷物を取り出し、教師たちの前に集合した。
「皆さん、安全に気をつけて帰りましょう。」
「明日はゆっくり休んでくださいね。」
柴田くんが質問する。
「じゃあ宿題しなくてもいいのー?」
「いいえ、宿題はちゃんとやってください。」
「わかりましたー。やっぱりそうだよね。」
「それでは皆さん、さようなら!」
「さようならー!」
児童たちはそれぞれの家へ向かった。
栗田くんはくるみちゃんに駆け寄った。
「ねえ、くるみちゃん。一緒に帰らない?」
「ありがとう、栗田くん!私もそう思っていたの。」
「そうなの?嬉しいな!」
「私もよ!以心伝心ね。」
2匹は手をつなぎ、会話を楽しみながら帰った。
「栗田くん、昨日は助けてくれてありがとう。」
「ううん、ぼくは当然の事をしたまでだよ。くるみちゃん、足は大丈夫?」
「ちょっと痛いけど、これぐらいならすぐに治るって。猫田先生が言ってたわ。」
「良かった。早く元気になってね。」
「ええ、明日は1日家で休むわ。栗田くんは?」
「ぼくもそうしたいけど、あさってから家族でグアム旅行なんだよね。だから明日は旅行の準備さ。」
「グアムに行けるなんていいわね!」
「夢だった海外旅行に初めて行けるんだ!くるみちゃんへのお土産も買おうかな。」
「ありがとう。お菓子がいいわ。」
2匹は非常に幸せだった。
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この林間学校で、栗田くんは2つの事を知った。
1つは、自然の美しさ。
もう1つは、誰かを好きになった時の気持ち。
[chapter:おしまい]