第41話「8月だよ!雪見家に集合!」(前編)

  [chapter:プロローグ]

  ここはケモノ界のさいたま市[[rb:大上区 > おおかみく]]。今回の物語は5月9日から始まる。

  ケモノ小学校埼玉校にて、太ったシマリスの[[rb:栗田 永雄 > くりた ながお]]くん(4年生)が下校するために下駄箱を開けると、封筒が入っていた。

  (何だろう……まさかラブレター!? でも誰から?くるみちゃんが今更送ってくるわけないし…)

  周囲に見られないよう静かに封筒を回収し、急ぎ足で帰宅した。

  [newpage]

  [chapter:お泊まり会への誘い]

  帰宅後に部屋で封筒を開けると、中の紙にはこう書かれていた。

  招待状 1/12

  この招待状が届いたあなたはとてもラッキーです!

  8月4~6日、私の家で2泊3日のお泊まり会を開きます。

  楽しいイベントをたくさん用意しています。みんなで楽しく過ごしましょう!

  [[rb:雪見 > ゆきみ]]カトリーヌ[[rb:理沙 > りさ]]より

  詳細や追加情報は追って伝えます。

  (理沙ちゃんの家でお泊まり会…!? すごいぞ!)

  理沙ちゃんは隣のクラスにいるホッキョクギツネ。日本とフランスのハーフだ。

  彼女は容姿端麗で誰にでも優しく、成績も優秀。

  町一番の大金持ちで、家は3階建ての豪邸。その姿や暮らしぶりには、多くの児童が憧れている。

  (あの豪邸に2泊3日なんて、他に誰が来るんだろう?そして何が待っているんだろう?

  ぼくは1泊した事があるし、それ以外にも何度かパーティーに誘われた事がある。でも今回は2泊3日だから、その時以上にセレブの生活を味わえそうだ!)

  想像に胸を膨らませていると、タブレットに着信が入った。

  [newpage]

  ここで、栗田くんがどこでタブレットを入手したか説明しよう。

  ケモノ界では2024年度より、全国の小中学校でタブレットの使用が義務付けられた。

  2017年から全世界で誰も歳を取らなくなったため、児童たちは同じ授業を何年も受けていた。その日常に変化が生まれたため、今では誰もが生き生きと授業を受けている。

  このタブレットにはチャット機能も付いており、放課後にグループチャットを楽しむ児童もいる。学校からの連絡も、遊びの約束も、ここでされるようになった。

  タブレットの画面にはこう表示されている。

  雪見カトリーヌ理沙さんがあなたをグループ【お泊まり会】に招待しました

  グループ【お泊まり会】

  メンバー

  雪見カトリーヌ理沙

  栗田 永雄

  [[rb:島野 > しまの]] くるみ

  [[rb:稲荷山 紺助 > いなりやま こんすけ]]

  [[rb:金子 真里 > かねこ まり]]

  [[rb:猫山 苗太 > ねこやま びょうた]]

  参加メンバーはいずれも、栗田くんの友達だった。

  細身なシマリスのくるみちゃんは、彼のガールフレンド。彼との相性は抜群だ。

  お互いが困った時に助け合った事で、信頼を築いている。

  太ったキタキツネの稲荷山くんは、彼の親友。その関係は1歳の時から続いている。

  席は隣同士で、部活動も彼と同じ相撲部。食いしん坊な所も共通だが、性格は栗田くんよりも活発。

  家も隣のブロックに建っており、家族同士も昔から仲が良い。

  細身な白猫の真里ちゃんは周囲への面倒見が良く、見た目も美しい。そのため、クラスではアイドルのような存在だ。

  太った黒猫の猫山くんは、稲荷山くんと同じく相撲部仲間だ。やんちゃでお調子者だが、真里ちゃんの前ではその面が控えめになる。

  ちなみに栗田くん、稲荷山くん、真里ちゃんは4年1組、残りは2組に所属している。

  その後、グループチャットが始まった。

  雪:皆さん、招待状は届きましたか?

  栗:届いた

  島:私も

  金:弟の分とセットで2枚

  猫:ぼくも真里ちゃんと同じ

  稲:ぼくも同じ(うちは妹だけど)

  雪:お家の皆さんに相談して、その日は予定を開けておいてくださいね。

  彼女以外:了解!

  稲:ところでぼくの所に来た分は「3/12」「4/12」って書いてあるけど、これ何の数字?

  栗:ぼくは「1/12」

  島:2/12

  猫:7/12と8/12

  金:5/12と6/12 つまり12枚あるの?

  雪:そうですわよ。

  猫:あと4枚はどこ?

  雪:当日までのお楽しみですわ。1つだけ言うと、この学校の子には届けていませんわよ。

  猫:じゃあどこの学校?

  雪:それも秘密ですわよ。

  稲:気になる…

  雪:今日はここまで。いろいろ決まったら続報を送りますわ。それではごきげんよう。

  お泊まり会が開かれるまでの約3ヶ月間、何度か続報が送られてきた。持ち物の詳細、服装は普段通りでOK、集合時間は13時……

  その中でも、イベントの内容や残りの4枚の行方については触れられなかった。

  [newpage]

  [chapter:雪見家へ出発]

  8月4日の12時40分。

  「それじゃ、行ってきまーす!」

  「行ってらっしゃい。楽しんでくるのよ。」

  栗田くんは家を出た。リュックサックには理沙ちゃんから指示された持ち物が詰まっている。

  着替えやパジャマ、歯ブラシ、タブレットなど定番の物が多い中、変わった物が含まれていた。それはエプロンと水着だ。

  どうやら、料理やプールがイベントに含まれているらしい。

  「栗田くん、すごく楽しみにしてるみたいね!」

  「もちろんだよ。パロちゃんもロットくんに会えるから嬉しそうだね。」

  「ええ、一緒に歌って楽しみたいわ!」

  リュックサックからは、赤いオウムが顔を出している。去年のクリスマスにもらった「おしゃべりパロボット」だ。

  高度なAIを備えたロボットで、精度の高い会話が可能。栗田くんは「パロちゃん」と名付けた。

  このおもちゃは、発売から半年以上が経った今でもヒットを続けている。

  家を出てすぐ、稲荷山くんと出会った。

  「栗田くん、今から行く所?」

  「もちろんだよ!」

  横には3年生の妹、[[rb:万梨阿 > まりあ]]ちゃんもいる。お転婆で少しいたずらっぽい彼女は、兄と違って細身だ。

  「またあそこに泊まれるなんて楽しみだよ!みんなで楽しい事いっぱいできるといいね!」

  この2匹は2017年8月、雪見家に泊まっている。その時も2泊3日だった。

  栗田家から雪見家までは徒歩10分ほど。道中でも参加者たちと合流し、門の前に着く頃には招待状を送られた8匹が揃っていた。

  くるみちゃんは青いオウムを抱えている。彼女も去年のクリスマスに、おしゃべりパロボットをもらった。

  こちらの名前は、先程の会話に出ていたロットくん。パロちゃんと仲が良い。

  真里ちゃんと猫山くんは、どちらも弟を連れている。名前はそれぞれ[[rb:雄二 > ゆうじ]]と[[rb:折葉 > おりば]]。

  どちらも1年生で、丸々と太っている。活発でやんちゃな性格も同じだ。

  しばらくして門が開き、理沙ちゃんが現れた。

  「皆様、ごきげんよう。ようこそいらっしゃいました。」

  「理沙ちゃん、こんにちは。でも残りの4匹がまだ来ないけど、どこにいるの?」

  「今、スカンダーが迎えに行っていますわ。集合時間は13時ちょうどですから、そろそろ戻るはず……

  あ、来ましたわ!」

  角を曲がってリムジンが現れた。運転席から執事のグリムズ・スカンダー(イギリス出身のスカンク。30歳)が現れ、後部のドアを開ける。

  「それでは皆様、どうぞお楽しみください。」

  そこから降りてきた4匹を見て、栗田くんは驚きと喜びの混ざった声を上げた。

  「あっ、君たちは!」

  [newpage]

  [chapter:2年ぶりの再会]

  その4匹は、いずれも太った男の子だった。

  1匹目は4年生のニホンアナグマ、[[rb:穴戸 風太 > あなど ふうた]]。上はタンクトップ1枚で、出べそが目立つ。太り具合は栗田くんとほぼ同じだ。

  4匹の中ではリーダー担当。元気が有り余っており、考えるよりも先に体が動くタイプ。

  2匹目は4年生のカワウソ、[[rb:太田 川之助 > おおた かわのすけ]]。ぽっちゃり体型で、Tシャツからお腹は見えていない。

  4匹の中では一番賢く、運動神経も高い。穴戸くんとは幼少期からの親友同士だ。

  3匹目は2年生の豚、[[rb:豚田 充 > とんだ みつる]]。栗田くんを上回る肥満児で、穴戸くんと同様に出べそだ。

  ふざけるのが好きなひょうきん者で、あまり賢くない。

  4匹目は5歳の野うさぎ、[[rb:能崎 跳 > のうざき はねる]]。彼も丸々と太っている。法被を着ており、リュックサックではなく風呂敷包みを持っている。

  見た目の割に運動神経が良く、元気で好奇心旺盛。4匹の中ではマスコット枠だ。

  「[[rb:穴太郎 > あなたろう]]に[[rb:川助 > かわすけ]]、トントン、ぴょん[[rb:太 > た]]!久々だね!」

  栗田くんは4匹をあだ名で呼んだ。

  「クリクリも久々だな!全然変わってなくて何よりだ!」

  栗田くん以外の参加者は、呆気に取られた。

  「栗田くん、この子たち誰?」

  「でもどこかで見たような気がするわ。」

  すると、くるみちゃんが思い出した。

  「もしかして、あのビデオレターに出てた子じゃないかしら?」

  稲荷山くんと真里ちゃんが続けて言う。

  「言われてみれば、確かにそうだ!」

  「でもどうしてその子たちがここにいるの?」

  猫山兄弟も尋ねた。

  「待って、そのビデオレターって何?」

  「ああ、猫山くんはあの場にいなかったから知らないよね。

  2年前、ぼくの誕生パーティーがこの家で開かれた。くるみちゃんや稲荷山くん、真里ちゃんもその場にいたんだ。

  そこで3本のビデオレターが上映された。ぼくのおじいちゃんとおばあちゃん──父方と母方それぞれ、そしてあの4匹からだ。

  ぼくがあの子たちと知り合ったのは、ちょうど3年前の今頃。みんなお父さんの実家の近く……つまり富山県の[[rb:土井中村 > どいなかむら]]に住んでいるんだ。

  みんな普段からあのあだ名で呼び合っている。ぼくにはクリクリというあだ名が付けられた。

  2年前の夏、みんなは一度大上区に来ている。そこで理沙ちゃんとも出会っているけど、理沙ちゃんはみんなの連絡先をどこで知ったんだろう……」

  スカンダーと理沙ちゃんが説明する。

  「お嬢様はこのお泊まり会を企画された当初から、穴太郎くんたちを招待すると決めていました。2年前に少しだけ会っただけですが、よほど印象深かったのでしょう。

  奥様の知り合いには、栗田くんのお母様がいます。そこでその夫の父、つまり栗田くんのおじい様を通じて、穴太郎くんの住所を聞く事ができました。」

  「みんなは富山から大上区まで、新幹線で来ましたのよ。そのチケットも私たちが提供しましたの。

  そこまでの引率を務めた穴太郎くんの両親のために、大上グランドホテルも予約してありますわ。」

  「皆様が大上駅に着いてから、穴太郎くんのご両親はホテルへ向かい、4匹の子供たちは私が送り届けました。」

  「そうだったんだ。ここまでしてくれて嬉しいよ!」

  [newpage]

  [chapter:雪見家の自己紹介]

  「さあ皆様、こちらへどうぞ。」

  12匹の子供は、理沙ちゃんとスカンダーに続いて門をくぐった。猫山兄弟は初めてここを訪れたため、感動の声を上げている。

  「こんな広い庭、初めて見るよ!」

  「すごいや!やっぱりお金持ちは違うね!」

  ぴょん太も目を輝かせている。

  「ねえ、あっちに楽しそうな物が並んでるよ!早く行こう!」

  「俺も気になるけど、今は理沙ちゃんに続こう。」

  「そうだね、穴太郎。でも早く遊びたいよ!」

  広い庭を横切り、家の前へ。

  ドアを開けると、その向こうは広い玄関だった。理沙ちゃんの両親や使用獣たちが並んでいる。

  理沙ちゃんとスカンダーも靴を脱いで両親たちに加わり、全員で同時に挨拶をした。

  「皆様、ようこそいらっしゃいました。」

  その後、理沙ちゃんが前に出た。

  「では、私が雪見家のケモノたちを皆様に紹介しましょう!

  まずはこの私、雪見カトリーヌ理沙。雪見家の1匹娘ですわ。

  お客様をもてなすのが大好きですの。この3日間、楽しんでいただけるように頑張りますわ!」

  次は彼女の両親。娘と同様、スマートな体格だ。

  「続いてお父様のフィリップ・ルナール。生まれはフランスの名門貴族の家ですわ。

  現在は雪見航空に勤めていますが、この3日間は皆様のために休みを取りましたの。

  それからお母様の雪見 すみれ。雪見グループ会長の娘で、勤務先はお父様と同じ会社ですわ。

  どちらも優しくて、私への理解もあり、「ケモノは誰もが平等」を家訓にしていますの。」

  「いいお父さんとお母さんだね!」

  「雪見グループって聞いた事あるぞ。どこだっけ?」

  トントンの質問に、川助が答える。

  「雪見航空と雪見観光の2社を持っているグループだよ。たまにCMが流れてるよね?」

  次は黒牛の男の子。理沙ちゃんなどと同様の4年生だが、全身に筋肉を蓄えている。

  「彼は[[rb:雪見 健吾 > ゆきみ けんご]]くん。2年ほど前のある朝、庭に倒れていたのですわ。

  家族は行方不明で、ここに来るまでの記憶もない。だから私たちが新しい家族になりましたの。

  とても働き者で、毎日我が家の仕事を手伝っていますわ。彼は遊びよりも働く事が好きですの。」

  「ここでは働かなければ生きられないと、ぼくの心が命令するんだ。だからぼくは働き続ける。

  どこかで凄まじい悲鳴を聞いたような記憶がかすかにある。それがただ1つの過去の記憶だ。」

  2年前に彼と出会っている穴太郎は、懐かしむように言った。

  「ああ、確かにあんな奴もいたな。凄まじい悲鳴って、何をされてたんだろうな?」

  「わからないけど、もしその記憶が本当ならひどい事をされていたのかもしれない。だからもう家族は見つからないままでいいと思うよ。

  働く事が生きがいなら、仕事がいつだってたくさんあるここに住むのが一番だ。」

  「それもそうだな、クリクリ。」

  次はスカンクの執事。スマートで背が高く、顔立ちも整っている。

  「こちらは執事のグリムズ・スカンダー。ロンドン出身ですわ。

  まだ30歳ですが、家事、ティータイムの準備、車やヘリコプターの操縦、機械整備など様々な事が得意ですのよ。」

  折葉くんとぴょん太が興奮の声を上げた。

  「へえ、ここってヘリコプターあるんだ!」

  「乗りたい乗りたい!」

  「すみません、ヘリコプターは今、点検に出しているんです。」

  次はアライグマのシェフ。丸々と太っており、陽気な印象を与える。

  「こちらは雪見家の専属シェフ、ラトン・ラブーシュ。パリの一流料理学校を卒業していますの。

  彼は料理が何よりも好き。毎日我が家に一流の料理を提供してくれますわ。皆様もきっと気に入るでしょう。」

  「ボンジュール!この私が皆様のために腕を振るって、おいしさと楽しさが詰まった時間をお届けします!」

  食いしん坊のトントンは喜んだ。

  「シェフまでいるなんてすごいな!楽しみにしてるぜ!」

  「最後はメイドたち。掃除と洗濯を中心に、毎日元気に働いていますわ。」

  6匹のメイドは全員が細身で、種族は別々。カワウソ、白猫、白うさぎ、キタキツネ、アライグマ、レッサーパンダの順に挨拶した。

  「[[rb:川野 真由美 > かわの まゆみ]]です。この屋敷のメイド長です。お嬢様が生まれる前から働いていますのよ。」

  「[[rb:白井 穂香 > しらい ほのか]]です。」

  「[[rb:鷺野 > さぎの]] くるみです。」

  「[[rb:北山 祥子 > きたやま しょうこ]]です。」

  「[[rb:荒木 > あらき]] さやかです。」

  「[[rb:笹竹 萌香 > ささたけ もか]]です。」

  川野は40歳で、残りは20代だ。

  理沙ちゃんが再び前に出た。

  「以上12名が、皆様を心からおもてなしします。皆様、改めてよろしくお願いします。」

  栗田くんたちは、元気に返した。

  「はい、よろしくお願いします!」

  「ねえ、せっかくだからぼくたちも自己紹介しようか?」

  「そうね。理沙ちゃんは4年生の事をよく知ってるけど、スカンダーさんやラブーシュさんはあまり知らないかもしれないから。

  それに、穴太郎たちにも紹介した方がいいよ。」

  それから、パロちゃんとロットくんを含む全員が自己紹介をした。

  [newpage]

  [chapter:それぞれの部屋へ]

  その後、12匹の子供は靴を脱いでスリッパに履き替えた。

  「皆様のお部屋へご案内しますわ。さあ、こちらへどうぞ。

  お部屋に荷物を置いたら、玄関に来てくださいね。」

  理沙ちゃんとメイドたちを先頭に、一同は大階段を登る。その途中で、トントンが言った。

  「理沙ちゃん、おいらたちの部屋は日当たりがいいんだろうね?」

  「ええ、よく日差しが入りますわよ。皆様のお部屋は、明るい物を選びましたの。」

  その会話を聞いて、栗田くんは考えた。

  (あれから2年経つけど、まだ変わっていないんだな。)

  着いた場所は、3階の廊下だった。この階には客室が並んでいる。

  「合計6部屋を用意しました。ドア横の貼り紙に書かれた名前を見てくださいね。

  それから、各部屋に1匹ずつ専属のメイドを付けますわ。」

  部屋の振り分けと専属メイドは、以下の通り。

  栗田くん/笹竹

  くるみちゃん/鷺野

  稲荷山くん、万梨阿ちゃん/北山

  真里ちゃん、雄二くん/白井

  猫山くん、折葉くん/荒木

  穴太郎、川助、トントン、ぴょん太/川野

  くるみちゃんは同じ名前、稲荷山兄妹と金子姉弟は同じ種族のメイドが選ばれている。

  どの部屋にもテーブルと椅子、2台のベッド、大きなソファー、大画面テレビなどが用意されており、大きな窓からは日光が差し込んでいる。それでいて冷房が効いているため、快適な環境だ。

  皆は荷物を置くと、部屋を物色した。

  「うわー、ホテルみたい!」

  「このソファー、すごくふかふかだ!」

  興奮する猫山兄弟。

  「お姉ちゃん、このベッド柔らかいよ!ジャンプしてみない?」

  「だめよ。せっかくメイドさんがシーツを整えてくれたのに悪いわ。」

  真里ちゃんは弟を諫めている。

  「ここでみんなと3日間も過ごせるなんて、楽しくなりそうだぜ!」

  「このクッション、うちにも欲しい!」

  室内ではしゃぐ穴太郎たち。トントンはソファーにダイブして、ぴょん太はベッドの上で跳ねている。

  「わーい!楽しーい!」

  「ねえみんな、気持ちはわかるけど、もうちょっと落ち着こうよ…」

  川助は苦笑した。

  皆は準備をする合間で、自分たちの専属メイドにも挨拶をした。

  ほとんどの子は挨拶と軽い会話で終わったが、穴太郎たちの会話は大きく違う物だった。

  「なあ川助、あの事言った方がいいよな……」

  「うん、恥ずかしいけど言うべきだと思う。」

  川助は真剣な表情になり、口を開いた。

  「川野さん、聞いてください。大事な話があるんです。この事はぼくたち4匹以外、誰にも言わないでください。」

  「あら、なあに?」

  「実はぼくたち、4匹とも、その……おねしょが治っていないんです。

  ここで粗相をするわけにはいかないため、ぼくはトレーニングパンツを、みんなにはおむつを用意しました。寝る時にはそれをはきます。

  その事をよくわかってください。お願いです!」

  「まあ、そうなのね……わかった、絶対誰にも言わないと約束するわ。メイド長として固く誓います!」

  穴太郎、川助、トントンは胸を撫で下ろした。幼稚園に通っていないぴょん太は平均的な5歳児よりも精神年齢が低く、「おねしょは恥ずかしい事」という認識がない。

  穴太郎は語り掛けた。

  「いいか、ぴょん太?出かける前にも言ったけど、この3日間でおねしょの話は絶対にしちゃだめだぞ。

  ここには君から見て大きい子がたくさんいるし、女の子だっている。そういう話をしたら嫌われちゃうからな。」

  「うん、わかったよ。ぼくの大きなおねしょ、みんなに見せたかったけどな……」

  「ぴょん太、それを自慢していいのは俺たちの間だけさ。普通、おねしょは恥ずかしい事なんだ。」

  [newpage]

  [chapter:庭は小さな遊園地]

  全員が玄関に揃った。理沙ちゃんと健吾くんが次の行動を説明する。

  「皆様、庭で楽しく遊びましょう。この日のために遊び道具をたくさん用意しましたわ。」

  「みんな気に入ると思う。思いっきり楽しんでね!」

  多くの子は玄関に向かう途中、庭の隅に並んでいる物たちに気づいていた。全員が胸を躍らせながら庭へ出る。

  もちろん、パロちゃんとロットくんも一緒だ。

  「わあ、すごい!」

  「庭にこんな物が置けるなんて、さすが大豪邸ね!」

  「ねえ、何から遊ぶ?」

  庭の片隅に集まった一同。その前には、大型のイベントで見るような遊具が並んでいた。

  西洋の城を模したエア遊具、実際に乗れるミニチュア機関車、様々な大きさのボールが詰まったボールプール、巨大トランポリン。

  折葉くんが興奮して問いかけた。

  「こんなすごい物、どこで買ったの?」

  「全部レンタルですわよ。いつも使うわけではありませんから。」

  「それでも十分すごいよ。ここまでしてくれるなんて、本当にありがとう!」

  栗田くんを初め、皆がお礼を言った。

  「さあ、気兼ねなく遊んでいいですわよ!」

  理沙ちゃんの合図で、皆は思い思いの遊具に向かって駆け出した。

  栗田くんとくるみちゃん、稲荷山兄妹はエア遊具で跳ねている。雄二くんと折葉くんはボールプールで大はしゃぎ。

  真里ちゃんと猫山くんはトランポリンで跳ね、穴太郎たちは健吾くんの運転する機関車に乗り込んだ。

  パロちゃんとロットくんは、隅のテーブルから一同を見守っている。

  「もし私たちもケモノだったら、一緒に楽しめたのね……」

  「そうだね。でも僕は今のままでも十分幸せだよ。だって大好きな君が隣にいるんだからね。」

  子供たちは、次々に遊具を切り替えて遊んだ。

  「わーい!こんなに高く跳べるぞ!」

  ぴょん太がトランポリンで様々な跳ね方を楽しんでいると、真里ちゃんが来た。

  「お姉ちゃんと一緒に跳んでみる?」

  「わあ、真里お姉ちゃんありがとう!もっと楽しくなりそうだ!」

  ぴょん太が女の子と触れ合う機会はほとんどないため、好奇心の塊でもある彼はわくわくしていた。

  トントンはボールプールをはしゃぎながら転げ回っている。入ってきた万梨阿ちゃんはピンクのボールを手に取り、自分のお腹に当てた。

  「ほら見て!トントンの真似!」

  「うわっ、おいらの出べそそっくりだ!じゃあおいらは……」

  トントンは少し大きなボール2個を、シャツの胸に入れた。元から肉付きの良い胸がさらに膨らんでいる。

  「万梨阿ちゃんの真似!」

  「えー、私の胸はそんなに大きくないよ!」

  栗田くん、穴太郎、川助は機関車に乗っている。穴太郎が話しかけた。

  「なあ、クリクリはくるみちゃんの事がどれぐらい好きなんだ?」

  「くるみちゃんが好きだと宇宙に叫びたいくらいだよ!」

  「それほどまでに好きなら、くるみちゃんがどんな子かよく知ってるのか?

  家族構成は?好物は?好きな遊びは?」

  「家族は両親との3匹暮らし、好物はホットケーキとスムージー、好きな遊びは縄跳びかな。」

  「結構詳しいんだな。」

  「もう5年ぐらい付き合ってるからね。」

  「でもまだ知らない事があるかもしれないぞ。もしくるみちゃんが隠れて鼻をほじってたら?その鼻くそを食べたら?」

  「ちょっと、やめてよ!」

  「クリクリ、子供は大体やる事さ。秘密だけどトントンもたまにやってるぞ。」

  「穴太郎、くるみちゃんは絶対にそんな事をしないから!」

  「してるかもしれないぞ。くるみちゃんが鼻に指を……」

  「ちょっと、穴太郎!」

  川助が小声で叫ぶ。機関車は既に止まっており、当のくるみちゃんが乗ろうと近づいてきた所だった。

  「みんなで私の事話してたの?鼻がどうこうとか聞こえたけど……」

  穴太郎は顔を引きつらせ、声を微妙に裏返しながら答えた。

  「く、く、くるみちゃんは花のようにきれいだって話してたんだ……」

  「まあ、嬉しいわ!穴太郎くんって意外と美的センスがあるのね!」

  「いやあ、それほどでもないぜ……」

  真相を知っている栗田くん、川助、健吾くんは必死で笑いをこらえていた。

  「そうだ!クリクリ、あっちの広い所で相撲を取らないか?」

  「いいね、穴太郎!」

  機関車から降りた穴太郎の提案で、相撲をする事になった。

  「ほら、川助も来いよ!

  そうだ、まだ言ってなかったな。川助は5月半ばから相撲部に入ったんだぜ。」

  「部員が1匹引っ越していなくなったから、穴太郎に誘われて入ったんだ。クリクリ、相撲って本当に楽しいね!」

  「そうなんだ。川助も相撲の良さがわかったみたいで嬉しいよ。強くなった?」

  「ぼくは部員で一番細身だけど、その分俊敏に動ける。穴太郎がパワータイプ、ぼくがスピードタイプって所かな。」

  健吾くんがホースで円を描き、土俵の代わりにする。相撲部員の稲荷山くんと猫山くん、相撲教室に通っている折葉くんも集まってきた。

  始めは栗田くんと川助の取り組み。女の子たちも見ているため、服を着たままだ。

  「はっけよーい……のこった!」

  行司となった健吾くんの合図で始まった戦いは、川助が俊敏さを生かして勝った。

  「ああ、前は勝てたのに……強くなったね。」

  その後も取り組みが続く。穴太郎は稲荷山くんが相手になると本気を出し、折葉くんが相手になると手加減した。

  観客となった女の子たちも盛り上がり、拍手と歓声を送る。突然始まった小さな相撲大会も、楽しく過ぎていった。

  [newpage]

  [chapter:招かれざる客]

  相撲が終わると、また遊具へ。遊んでいると、庭に誰かが入ってきた。

  「あら、ずいぶん楽しそうじゃない。あたいも入れてちょうだい!」

  それは[[rb:鼬川 卯井是瑠 > いたちがわ ういぜる]]ちゃん。4年1組に所属するイタチだ。

  イタチらしからぬ肥満体で、性格はわがまま、ぐうたら、下品と問題だらけ。不潔で風呂にもあまり入らない。

  理沙ちゃんと健吾くんは、怒りの声を上げた。

  「招待していないのに入ってくるなんて、ずうずうしいですわね!」

  「ここにいられると困るから、帰ってくれ!そもそもエコバッグを持ってるんだから、買い物に行く所だろう?」

  「ええ、そうよ。こんな暑い日なのにお使いを頼まれたの。その途中でここを通ったら楽しそうな声が聞こえて、覗いたらみんなが楽しく遊んでたわけよ!

  お使いなんか嫌だから、ここで遊ぶわ!もし断ったらイタチの最後っ屁をかますからね!」

  「あら、お使いをさぼったらあなたのお母様はさぞかし怒るでしょうね。」

  「いいわよ!怒られるのなんて慣れてるから。さあ、あたいも仲間に入れなさい!」

  卯井是瑠ちゃんが帰りそうにないため、理沙ちゃんは提案した。

  「あなただけに特別な遊具を用意しますわ。よろしいかしら?」

  「へえ、あたいだけの?お願い!」

  理沙ちゃんはヘリコプターに化けた。

  「さあ、乗って!」

  卯井是瑠ちゃんが乗り込むと、理沙ちゃんは空へ飛び立った。

  数分後、戻ってきたヘリコプターは理沙ちゃんに戻った。

  「卯井是瑠ちゃんを家に送り帰して、彼女のお母様に何が起きたかも説明しましたわ。ひどく叱られていましたわよ!」

  皆は胸を撫で下ろした。

  「ああ、良かった!これでもう来ないだろうね。」

  理沙ちゃんが出かけている間に話を聞いていた穴太郎は、心底安心したように言った。

  「これで邪魔者はいなくなったな。しかしあんな奴がクラスにいるなんて、クリクリも大変だな…」

  「卯井是瑠ちゃんは本当に困った奴だよ。学芸会を台無しにした事だってあるんだ!」

  [newpage]

  [chapter:映画鑑賞]

  遊具で遊び始めてから2時間後、健吾くんが言った。

  「スーパーヒーローの映画が見たい子、手を上げて!」

  「はーい!」

  男子全員と万梨阿ちゃんが手を上げた。

  「それじゃみんな、ぼくについて来て!」

  健吾くんの先導で、手を上げた子は玄関に向かった。

  「そうだ、パロちゃんとロットくんを部屋に戻さないと。くるみちゃん、ロットくんを部屋に戻していい?」

  「ええ、いいわよ!栗田くんありがとう!」

  一団が家に入ると、くるみちゃんが首をかしげた。

  「どうしてヒーローの映画にしたの?女の子も楽しめる物がいいと思うけど……」

  理沙ちゃんが答えた。

  「実は、くるみちゃんと真里ちゃんに我が家の秘密のコレクションを公開しようと思いますの。

  高級品ばかりですから、落ち着いた子にしか見せられませんわ。だからその間、元気な子にはヒーローの映画を見せる事にしましたの。

  予想通りのメンバーが手を上げてくれて、助かりましたわ。準備をしますからしばらくお待ちくださいね。」

  「わあ、コレクション?どんなのかぜひ見たいわ!」

  「家で映画を見るって、どんな感じだろうな?」

  「ずっと前にクリスマスパーティーをした時は、大広間の天井にしまわれてるスクリーンに映してたけど……」

  健吾くんを先頭に、階段を上がる一団。その途中でパロちゃんが言った。

  「ねえ、まだロットくんと一緒にさせてくれない?」

  「ぼくもパロちゃんのそばにいたいよ。同じ家にいながら離れ離れになるなんて嫌だ!」

  「わかった。じゃあ両方くるみちゃんの部屋に置くよ。」

  「ほんと?嬉しいわ!どれくらい一緒なの?」

  「そうだな……ぼくが迎えに来るまでだから、夕方ぐらいまでかな?」

  「そうなのね!そんなに長く一緒だなんて幸せだわ!

  さあロットくん、たくさん歌って楽しみましょうね!」

  「もちろんだよ、パロちゃん。君への愛を心の底から歌うよ!」

  栗田くんだけが3階へ行き、パロボットを部屋に置いてから2階へ。皆はドアの前に集まっていた。

  「さあ、ここがシアタールームだよ!」

  健吾くんがドアを開けると、皆は感動で息を呑んだ。

  「す、すごい!」

  「家にこんな場所があるなんて……」

  そこは、映画鑑賞専用の部屋だった。前には大きなスクリーンがあり、リクライニングシートが15個並んでいる。反対側の壁には、1頭用のブースがいくつかある。

  栗田くん以外は、初めてこの部屋に入った。

  「まるで映画館だね!」

  雄二くんの言葉を聞いて、穴太郎が言った。

  「俺は映画館に行った事がないから、本物がどんな感じか知らないな。クリクリ、教えてくれないか?」

  「本物はもっと広くて、椅子ももっと多いけど、リクライニングはしないよ。」

  「映画のソフトは別の部屋に置いてあるんだ。」

  シアタールームに並ぶ3部屋は棚が並んでおり、膨大な数のソフトがジャンル別に並んでいる。稲荷山くんが尋ねた。

  「ずいぶんたくさんあるけど、これは全部理沙ちゃんが見るの?」

  「スカンダーやメイドたちが見る事もあるよ。みんな好きなジャンルがいろいろあって、それらを全部買ってるから、こんなにあるんだ。」

  「へえ、やっぱりお金持ちは違うね!」

  「さあ、スーパーヒーロー系はここにあるよ。栗田くんはヒーローに詳しいから、みんなにおすすめしたい物を選んでね。

  ぼくはちょっと準備をしてくる。見たい映画を決めたら、ソフトを持ってシアタールームの前で待っていてね!」

  「やった、ぼくが選んでいいんだ!みんなが楽しめそうな物は……」

  栗田くんは棚に目を通した。

  「アイアンライオン」「アメイジング・スパイダータイガー」「マイティ・ゾウ」「ストロングパンサー」「ブラック・ウィーゼル」……彼はどれも見ている。

  (どれも面白かったから、迷っちゃうな……)

  考えていると、トントンが走ってきた。

  「クリクリ、これにしようぜ!ヒーローじゃないけど面白そうだからさ!」

  彼の持つブルーレイのパッケージには、犬の家族が描かれていた。横には手足の生えたオレンジが立っていて、背景には酢の川や滝、オレンジの陸地などが見える。

  タイトルは「酢とオレンジ・ワールド~酸味の世界~」だ。

  「いや、トントン、それは見ると喉が渇くからちょっと……

  それも見た事があるけど、酢やオレンジのCGがものすごくリアルで、見ていると口の中が酸っぱくなって、とても集中していられなかった。公開されたのは冬だったけど、見終わった後にジュースをがぶ飲みしちゃったぐらいだよ。

  だからこの映画はリピーターが少なくて、赤字になったんだ。」

  「ふーん、そうなのか……」

  「とりあえずいい映画を探すね。みんなが楽しめそうな物は……」

  「これにしようぜ!『デッドプードル』!」

  「いや穴太郎、それはR-15指定だから、ぼくたちは成長が再開しない限り見られないよ!」

  悩んだ末、栗田くんは見る映画を選んだ。

  「これがいい!『インフィニティーズ』だ。

  いろいろな種族が出てくるからね。特にカリスっていうシマリスがすごくかっこいいんだよ。」

  「あー、それぼくも好きだよ!」

  「俺は初めて見るけど、そんなに面白いのか?」

  「もちろん!さあ、シアタールームに行こう!」

  シアタールームの前に着いてしばらくすると、健吾くんがワゴンを運んできた。

  「みんなお待たせ!映画鑑賞のお供を持ってきたよ。」

  ワゴンにはトレーが10個置かれていた。そこにはオレンジジュース、バターポップコーン、ナチョス、チュロスが並べられている。

  栗田くんたちがシートに座ると、健吾くんはトレーを皆に配った。

  「こぼさないように気をつけて食べてね。」

  「わかってまーす!」

  部屋が暗くなり、ブルーレイがセットされ、映画が始まった。

  「インフィニティーズ」はシマリスのカリス、うさぎのスプラビット、象のエレファストスなど10頭のヒーローが地球の危機に立ち向かう物語だ。

  派手なアクションや盛り上がる展開に、皆は夢中になっている。スナックを食べる手も止まるほどだ。

  [newpage]

  [chapter:秘密のコレクションルーム]

  一方、くるみちゃんと真里ちゃんは理沙ちゃんに案内されて地下への階段を降りていた。理沙ちゃんの指示で、全員タブレットを持っている。

  地下には廊下があり、両側に扉が3つずつ並んでいる。理沙ちゃんは鍵束を持っていた。

  「さあ、第1ルームはこちらですわ。」

  鍵を開けると、その部屋には豪華な宝石やアクセサリーが飾られていた。

  指輪にネックレス、ティアラ、しっぽ用アクセサリー……都会の宝石店よりも豪華かもしれない。大きなダイヤモンドやルビー、エメラルドも置かれている。

  「すごいわ!触ってもいいかしら?」

  「特別に許可しますわ。気をつけて扱ってくださいね。」

  くるみちゃんと真里ちゃんは、夢中でアクセサリーを手に取り、身に着けた。

  「素敵だわ!一度こんな事してみたかったのよ。」

  真里ちゃんは両手の指に、それぞれ違った種類の宝石が付いた指輪をはめている。

  「ほら見て!マーメイドみたいでしょ?」

  くるみちゃんはダイヤモンドの埋め込まれたティアラにサンゴのネックレス、パールの腕輪を着け、金細工の貝殻を持っている。

  「まあ、2匹ともお似合いですわ。特にくるみちゃん、そのネックレスすごく似合ってますわよ!」

  「ありがとう、理沙ちゃん。そうだ、タブレットで写真を撮ってくれない?」

  「ええ、もちろんいいですわよ。このためにタブレットを用意させましたの。」

  2匹は様々な宝石やアクセサリーを身に着けて、写真を何枚も撮った。

  「さあ、次の部屋に行きましょう。」

  第2ルームは豪華なドレスや服。冬毛の長いホッキョクギツネの持ち物ゆえ、薄手の物ばかりだ。

  第3ルームは立派な家具。金細工の椅子や、立派な彫刻の施された棚などが並んでいる。

  第4ルームは骨董品。壁にはホッキョクギツネの頭部の剥製が複数飾られ、鎧や柱時計なども置かれている。ガラス張りの棚には、立派なティーセットやランプなどが並んでいる。

  「みんなお父様の実家から運ばれてきましたのよ。あの鎧はルナール家の先祖が着ていた物。あの剥製もルナール家の先祖ですわ。」

  「どれもかっこいいわ!」

  2匹はどの部屋でも、写真を何枚も撮った。立派なドレスを着たり、金細工の椅子に座ったり、鎧の隣でポーズを取ったり…

  もちろん、物品を単独で撮る事も忘れなかった。

  第5ルームは洋楽のレコード。理沙ちゃんの両親が集めているそうだ。

  「懐かしのアーティストをメインに揃えていますのよ。例えばこちらはザ・ビーグルズ。4匹のビーグル犬によるバンドですわ。」

  「私も知ってるわ。今でも有名だけど、レコードそのものは貴重品でしょうね。」

  「こちらはローリング・フィーラインズ。ネコ科のロックバンドですわ。ボーカルのジャック・ジャガーが特に知られていますの。」

  「その名前は聞いた事があるわ。」

  「こちらは私のお気に入りミュージシャンのマーティー・ライス。馬のフォーク歌手ですわ。彼の歌声には独特のセクシーさがありますのよ。」

  理沙ちゃんが説明していると、くるみちゃんが口を挟んだ。

  「ねえ理沙ちゃん、レコードかけてもいいかしら?」

  「ええ、いいですわよ。くるみちゃんはどんな曲が聞きたいかしら?」

  「ハードロックがいいわ。お父さんがよく聞いてるから、私も気になってるのよ。」

  「それなら……こちらはどうかしら?ザ・シベリアンですわ。」

  ジャケットにはシベリアンハスキー、ホッキョクグマ、ホッキョクギツネ、クズリからなるバンドが映っている。全員が野生に返ったような表情で演奏しており、背景では爆発が起こっている。

  理沙ちゃんはレコードをレトロな蓄音機に乗せ、再生した。このバンドの代表曲「ダイナマイト・ショータイム」が流れる。

  爆発音から始まるこの曲は、ハードロックらしい迫力満点のメロディだ。

  「ありがとう。これがレコードの音質なのね。」

  「今の高音質スピーカーに比べると低いですけど、そこが良いですのよ。」

  「この家は、新しい物も古い物も大切にしているのね。素敵だわ!」

  3匹はその後も、レコードを何枚か聞いて楽しんだ。

  [newpage]

  [chapter:スカンダーの大きな秘密]

  「さて、コレクションは以上ですわ。そろそろ地上に戻って……」

  「ねえ、あと1部屋あるけどそれは何なの?」

  「あの部屋は私も入った事がなくて……あら、この鍵は?」

  6部屋目のドアには、鍵が刺さったままになっていた。文字が刻印されている。

  「G.S……スカンダーのイニシャルですわ!スカンダーはこの部屋に何を……」

  その時、真里ちゃんが震える声で言った。

  「こ、この部屋には入らない方がいいと思うわ……」

  「どうしたの?」

  「前に本で読んだ事があるの。地下にある開かずの部屋を開けると、そこには大量の死体が並んでいる話だったわ……」

  くるみちゃんと理沙ちゃんも震え上がった。

  「そ、それってフィクションよね!?」

  「そうだけど、なんだかそっくりな展開だわ……」

  「まさか、スカンダーがそんな事をするわけ……」

  「開けてみる?どうする?」

  「ここまで来たら引き返せないわ。」

  「私も気になりますわ。スカンダーは何を隠しているのか……」

  理沙ちゃんが恐る恐るドアを開け、3匹で中を覗いた。

  「こ、これは……スカンダーがこんな物を!?」

  「どうしたのよ、理沙ちゃん……ええっ!?」

  「こ、これは……!?」

  その部屋の壁には、様々な種族の女性の……

  [newpage]

  等身大ポスターが貼られていた。どれもアニメ絵だ。

  さらに、様々なアニメのポスターも貼られている。「狐と甘味料」「らいおん!」「ムササビ!」「マウスキャット・エヴァーガーデン」「ししのこのこのこししふんじん」……十数年前の物から、最新の作品まで様々だ。

  美少女フィギュアが置かれたガラス張りの棚や、大量の映像ソフトが並ぶ本棚も置かれ、視聴用ブースまである。

  「まるでアニメショップみたい……」

  驚いていると、足音が近づいてきた。

  「お嬢様、そこで何を!ああ、見つかってしまった……」

  「スカンダーってアニメオタクでしたの?」

  「はい、私は日本のアニメが大好きです。だからちょうど空いていたこの部屋を、10年ほど前から私専用のコレクションルームとして使わせていただいていて、休憩時間や深夜にここでアニメを楽しんでいたのです。

  フィリップ様と私しか知らない秘密のはずでしたが、昨日は鍵を抜き忘れて、ついにばれてしまいました……しかもお嬢様のお友達にまで……」

  「驚きましたけど、自分の趣味にここまで一直線になれるとはすごいですわね。他の皆様には内緒にしますわ。

  くるみちゃんと真里ちゃんも、ご協力お願いしますわね。」

  「わかりました。私も秘密にします。」

  「誰にも言いませんので安心してください。」

  「本当にありがとうございます。感心なお嬢様たちですね。」

  [newpage]

  [chapter:よみがえる記憶]

  健吾くんはメイドたちやラブーシュを手伝っていたが、一段落した所で考えた。

  (みんな楽しんでるかな?)

  シアタールームに入り、ひそかに中を覗く。栗田くんたちは映画に熱中していた。

  スクリーンでは、敵に捕まったヒーローたちが電気鞭で叩かれている。それを見た健吾くんは、身を固くした。

  (電気鞭……そうだ、電気鞭!)

  彼の脳内に、忘れていた記憶の一部が流れ込んできた。

  (ぼくはここに来る前、電気鞭で叩かれた事がある!

  でも誰に?何のために?みんなをあまり心配させたくないから、完全に思い出すまでは黙っておこう。)

  [newpage]

  [chapter:大満足のディナー]

  「あー、楽しかった!」

  「ドキドキの連続だったぜ!」

  「いい映画が見られて良かったよ。クリクリ、ありがとう!」

  「お兄ちゃんはインフィニティーズの中で誰が好き?」

  「そうだな、万梨阿……エレファストスかな。強くて優しく、頼りがいがあるからね。」

  映画を見終わった子供たちが感想を言っていると、室内のスピーカーからスカンダーの声が流れた。

  「あと30分で夕食が始まります。時間が近づいたら、大広間の前に集まってください。」

  「やった、夕食だ!」

  「ラブーシュさんの料理はすごくおいしいんだよ。きっとみんな満足すると思う!」

  「そうなのか、クリクリ!ああ、楽しみでたまんねえぜ!」

  皆はしばらくそれぞれの部屋でくつろいだ。栗田くんはパロちゃんを自室に戻す。

  開始時刻の5分前には、全員が大広間の前に集まっていた。

  「もうお腹ペコペコだよ!」

  「どんな料理が出るか楽しみだね!」

  「おいら、楽しみで待ちきれねえぜ!」

  食いしん坊の男子たちは、特に楽しみでたまらない。

  5分後、ラブーシュが内側からドアを開けた。

  「皆様、お食事の準備が整いました!」

  大広間の中央には大きなテーブルが用意され、片隅のテーブルには料理が並んでいる。ラブーシュは今朝から、この料理を作っていた。

  「本日のディナーは、スペシャルビュッフェです!皆様、好きな物を好きなだけお食べください!」

  皆は席を決めると、早速料理を取りに行った。

  「うわー、どれもこれもうまそうだぜ!」

  「すごいよ!ホテルの食事みたい!」

  カレーライス、スパゲッティ、ワニ肉ハンバーグ、コロッケ、グラタン、寿司、餃子……子供の喜びそうな料理ばかり並んでいる。飲み物は水、麦茶、ウーロン茶の3種類だ。

  皆は好きなように料理を盛り付けた。きれいに盛る真里ちゃん、見栄えを気にせず山盛りにするトントンなど盛り方でも個性がわかる。

  なお、理沙ちゃんの両親と使用獣たちは事前に自分の分を取り分けており、別の部屋で食べていた。

  「それでは、いただきます!」

  皆は料理を食べ始めた。

  「ああ、おいしい!やっぱりラブーシュさんの料理はいつ食べても最高だよ!」

  「本当ね!レストランを開いてもいいぐらいだわ!」

  「こんなおいしい物を作れるシェフが家にいるなんて、やっぱり理沙ちゃんはすごいね!」

  栗田くんやくるみちゃん、稲荷山くんなどは割と落ち着いて食べている。しかしラブーシュの料理が初体験となった猫山兄弟や穴太郎たちは大興奮だ。

  「うめえ!これもうめえ!もう最高だぜ!」

  トントンは意地汚く料理を頬張っている。川助は呆れ顔だ。

  「ねえ、もっと行儀よく食べようよ……」

  しかし食い意地の張っている彼の耳には入らない。

  「ああ、理沙ちゃん、見苦しい物見せちゃってごめんね…」

  「気にしなくていいですわよ、川助くん。元気で良いと思いますわ。」

  折葉くんと雄二くんは、大食い対決のように料理を頬張っている。1年生の猫同士で競いたいようだ。

  [newpage]

  [chapter:愉快な雑談]

  食事の時間は、様々な会話を楽しむ時でもある。穴太郎が栗田くんに話しかけた。

  「なあ、クリクリ。夏休みの宿題はどれぐらい進んでるんだ?」

  「そうだね、半分くらいかな。去年とおととしは宿題が出なかったけど、今年はタブレットが導入されたから3年ぶりに復活したんだ。

  作文や漢字は紙のプリントだけど、計算ドリルは全部タブレットで、自由研究もタブレットにまとめるんだよ。」

  「へえ、どんな研究をするんだ?」

  「もう終わらせた。今年の研究テーマは『いろいろな食べ物を電子レンジで温めるとどうなるか』だ!

  マシュマロを膨らませたり、アイスを半分溶けた状態にしたり。楽しかったよ!」

  「ああ、そのテーマなら俺もずっと前にやった事がある。でもその時は卵をレンジに入れて、大変な事になったんだぜ……

  他にはどんな研究をした事があるんだ?」

  「トーストに絵を浮かび上がらせたり、黄身と白身が反対のゆで卵を作ったり。ぼくの研究テーマはいつも食べ物さ。」

  「食べ物関連なら、俺も面白い研究をした事があるぞ。名付けて『饅頭観察日記』だ!」

  「へえ、どんな日記?」

  「饅頭にカビが生えていく様子をひたすら観察するんだぜ。その年は親戚から饅頭を大量にもらって、あまりにも多すぎて飽きたから実験台にしたんだ。

  クリクリも来年の研究テーマにしてみたらどうだ?」

  「……やめておくよ。饅頭は食べるのが一番だ。」

  トントンが何度目かのおかわりに行った直後、万梨阿ちゃんは川助に話しかけた。

  「ねえ、何か面白い話ってない?」

  「そうだな……トントンの雑巾事件の話でもするか。

  あれは5年前。学校で掃除をしていると、トントンがハツカネズミの[[rb:根住 由香 > ねずみ ゆか]]ちゃんと揉めている声が聞こえたんだ。どうやら雑巾がけの当番を嫌がってやろうとしないらしい。」

  「うん、わかる。あのお腹で雑巾がけなんてできないよね。」

  「そう思うけど、当番で決まったから仕方ない。それでね……」

  ///////////////

  「とにかく、おいらはやらないぜ。もっと細身の奴に頼みな!」

  「いいえ、当番だからしっかりやりなさい!」

  「どこを拭けばいいんだ~?」

  「下!下!下!」

  すると、トントンは汚れた雑巾で自分の舌を拭き始めた。

  「うげっ……」

  由香ちゃんは嫌な顔をして、言い直した。

  「床!床!床……あっ!」

  彼女は口を押さえたが、もう遅かった。

  「そうか、きれいにして欲しいのか!」

  トントンは由香ちゃんの頭に雑巾を押し当てた。

  「助けてー!先生!豚田くんがー!」

  由香ちゃんの悲鳴が廊下に響いた。

  ///////////////

  「……それからトントンは先生にものすごく怒られ、雑巾をなめたからお腹を壊して3日間学校を休んだ。以上!」

  「アハハハハ!すごく面白かった!ありがとう!」

  爆笑する万梨阿ちゃん。川助がそれを見ていると、後ろから小突かれた。

  「おい、なんて話をするんだ!途中から全部聞いてたぞ!」

  「ごめん、トントン……面白い話をしてくれって言われたから……」

  ぴょん太は理沙ちゃんに話しかけた。

  「ねえ、この家にある物は全部高級品なんだよね!」

  「ええ、そうですわよ。」

  「じゃああそこに飾ってあるのは高級な造花だね!」

  「面白い事言いますのね。あれは本物の花ですわよ。」

  「へえ、本物だったんだ!やっぱりお金持ちは違うね!」

  「ぴょん太くんは造花をよく見ますの?」

  「うん!ぼくのお母さんは内職で造花を作ってるんだ。」

  それを横から聞いた稲荷山くんは考えた。

  (するとぴょん太は貧乏なのかな……それであの元気さとポジティブさを保てるなんて、すごい精神力だ!)

  彼の想像通り、ぴょん太はあまり裕福な育ちではない。太っている理由は、祖母に大量の食べ物を与えられたからだ。

  [newpage]

  [chapter:デザートタイム]

  90分ほどすると、料理はすべてなくなった。理沙ちゃんが壁のブザーを押し、キッチンのラブーシュに合図を送る。

  しばらくしてメイドたちが現れ、料理の器や食器を回収。さらに数分後、デザートが運ばれてきた。

  大きなケーキにフルーツゼリー、プリン、シュークリーム、ドーナツ、水ようかん。5種類のアイスクリームが入った冷蔵ケースや、10種類のフルーツジュースも並べられた。

  「さあ、お食事の後はデザートタイムです!甘いひと時を楽しんでください!」

  皆は食事で満腹になったはずだが、デザートは別腹。また次々と盛り付けていった。

  栗田くんとくるみちゃん、猫山くんと真里ちゃんのカップル2組は、お互いにアイスクリームを食べさせ合っている。

  トントンはスペシャルジュースを作ろうとして、全種類のジュースを1つのコップに入れたが、あまりおいしくはならなかった。

  デザートタイムは、のんびりと過ぎていった。

  1時間後、デザートもすべてなくなった。

  理沙ちゃんと健吾くんのお腹は軽く膨らんだ程度だが、残りの全員はお腹を風船のように膨らませている。

  「ごちそうさま!ふーっ、満腹だ……」

  「栗田くん、ずいぶん食べたのね。」

  「そう言うくるみちゃんだってお腹パンパンだよ。」

  「ええ、服がきついわ……」

  女の子たちや川助は、普段隠れているお腹をシャツから丸出しにしている。

  ぴょん太も法被を全開にしていた。本当は腹掛けも脱ぎたかったが、川助に止められて我慢した。

  皆は重くなった体に苦労しながら大階段を登り、それぞれの部屋に戻って食休みをした。

  「ウップ!こんなに食ったのは初めてかもな……」

  穴太郎が太鼓腹を撫でながら言う。

  「ぼくも初めてだよ。ちょっと食べ過ぎたかも……」

  「ゲープ!おいら、もう食えないぜ……」

  「ぼくだってこれ以上食べたら、パンクしちゃうよ……」

  川助たちもソファーやベッドに寝転がり、お腹を落ち着かせた。

  どの子も胃が完全に満たされ、動く気力も起きないほどだった。げっぷを何度も出す子もいた。

  栗田くんはパロちゃんと話していた。

  「栗田くん、ずいぶん食べたのね。お腹は大丈夫?」

  「ちょっと苦しいけど、大丈夫だよ。これでまた胃袋が大きくなるだろうね。」

  「あんまり食べたら、体に悪いわよ。」

  「でもぼくは生まれついての食いしん坊だから、やめられそうにないんだ。きっとお母さんの血を強く引いたんだよ。お母さんは高校時代まで太ってたからね。」

  [newpage]

  [chapter:にぎやかなお風呂]

  1時間ほどして、すべての部屋のスピーカーからスカンダーの声が流れた。

  「皆様、お風呂の準備ができました。今から30分は女の子、次の30分は男の子が入りましょう。」

  くるみちゃん、万梨阿ちゃん、真里ちゃんはパジャマやタオル、下着を用意して、理沙ちゃんの案内で風呂の前に集まった。

  「ここのお風呂ってすごいんだよ!どうすごいかは秘密だけど。」

  既に体験済みの万梨阿ちゃんが、嬉々として話す。

  「へえ、楽しみだわ!」

  「セレブのお風呂ってすごそうね!」

  「きっと皆様も驚きますわよ。」

  4匹の女子は、脱衣所へ向かった。

  その間に男子たちも準備をして、1階のリビングで待機した。

  男子の中で雪見家の風呂を体験した事があるのは、栗田くんと稲荷山くんのみ。

  「なあクリクリ、ここのお風呂ってどんな感じだっけ?2年前に聞いたはずだけど覚えてないんだよ。」

  「それは入るまでのお楽しみ!とにかくあれは驚くよ。ぼくたち一般庶民には考えられないようなお風呂さ!」

  「うわー、すごく楽しみ!」

  「ウォータースライダーとかある?」

  「さすがにそれはないけど、とにかくすごいよ!」

  「そうそう、みんなに見せたい物があるから持ってきたんだ。ほら!」

  穴太郎は潜水艦のおもちゃを取り出した。

  「去年の大掃除の時に、父ちゃんが昔使ってた奴が発掘されたんだ。40年近く前の物だけど、ちゃんと動くぞ!」

  「かっこいい!後でぼくにも貸して!」

  「もちろんだぜ、クリクリ。でも気をつけて使ってくれよな。」

  会話で時間をつぶすうち、女子たちが風呂から出てきた。

  「さあ、男の子の番だぞ!みんな、ぼくについて来て!」

  健吾くんに続いて、脱衣所に向かう男子たち。

  「うわー、広い!」

  「すげえな!脱衣所だけでもうちの居間ぐらいあるぞ!」

  広さに興奮しつつ、皆で服を脱いだ。折葉くんは皆の下着に興味津々。

  「栗田くんや雄二くんはブリーフ派なんだね。ぼくやお兄ちゃんと一緒だ!

  驚いた!トントンはふんどしを締めてるんだね。」

  「そう、おいらはこっちの方が好きさ!男らしくてかっこいいだろ?」

  「あっ、ぴょん太は腹掛けだ!」

  「そうだよ。似合うでしょ?」

  稲荷山くんは驚いた。

  「エプロンみたい……あんな下着もあるんだね。」

  折葉くんは喜んでいる。

  「ぼくとお兄ちゃんも腹掛け持ってるんだよ!昔、おじいちゃんが送ってくれたんだ。」

  「そうなんだ!でもいつ着けてるの?」

  「毎年5月5日。その日は腹掛けだけで過ごすって決めてるんだ!あと暑い日にも着ける事があるよ。

  まあ、その格好で外には出ないけどね。だってお尻丸見えだよ?」

  「ぼくはいつも腹掛けだけど気にしないよ!」

  ぴょん太の言葉に、大勢の男子が驚いた。

  「そんな格好で歩いて大丈夫なの!?」

  「怒られたりしないの?」

  穴太郎が説明する。

  「ああ、俺たちの集落は住民が少ないから大丈夫さ。もう村のみんなは受け入れてるんだよ。あの子はいつも腹掛け1枚だって。

  それにぴょん太はまだ幼いから、あんまり恥ずかしいとは思ってないみたいだ。」

  トントンも付け加える。

  「おいらだって夏はふんどししか締めないぜ!」

  「うわ……やっぱり田舎は違うんだな。」

  ちなみに稲荷山くん、健吾くん、川助はボクサーパンツ、穴太郎はトランクスをはいている。

  [newpage]

  「さあ、これがうちのお風呂だ!」

  健吾くんが扉を開けると、皆は感動の声を上げた。

  「す、すっげえ!うちの風呂よりでかいぞ!」

  「こんなお風呂が家にあるなんて……」

  「やっぱり金持ちのする事は桁違いだな!」

  「外国に来たみたい!」

  「こんなすごいお風呂、見た事ない!テレビに出せるよ!」

  浴槽のサイズは通常の3倍で、レンガ模様のタイルが貼られている。床も同じタイルだ。

  天井には星空と惑星、壁にはヴェネツィアの風景が描かれている。シャワーは2つ用意されている。

  「この壁画と天井画は、イタリアの画家が描いたんだ。」

  「さすが金持ちだ!」

  かけ湯をして、浴槽に入った。10頭が同時に入ってもスペースがある。

  「イタリアの景色を眺め、宇宙を見ながらお風呂に入る。こんな体験、他じゃ絶対にできないよ!」

  感動の声を上げる川助。穴太郎は潜水艦を出した。

  「さあ、発進だ!」

  ぜんまいを巻き、水に入れると潜望鏡を覗かせた状態で走り出した。

  「わあ、かっこいい!」

  「広い風呂だとよく走るね!」

  「次はぼくにもやらせて!」

  「その次はぼく!」

  「よし、みんな順番に遊ぼう。」

  ひとしきり潜水艦で遊ぶと、体を洗う時間。穴太郎と健吾くんは、年下の子を洗った。

  背中を洗われて、気持ちよさそうな雄二くん。

  「健吾くんの手つき、いいね!」

  「子供を洗うなんて初めてだけど、うまくできて良かった!」

  その後もいろいろな話で盛り上がり、また浴槽でリラックスしてから脱衣所へ。

  体をタオルでしっかり拭く栗田くん。裸で走り回るぴょん太と折葉くん、雄二くん。慌てて追いかける穴太郎と猫山くん。全身ドライヤーを使う稲荷山くん。扇風機に向かってエイリアンの真似をするトントン。

  大騒ぎの中、全員が着替えを済ませた。

  パジャマに着替えて風呂を出ると、理沙ちゃんが立っていた。

  「さあ、よく冷えたココナッツミルクを用意しましたわ。女の子の分は先程用意しましたの。」

  「ありがとう!気が利くね!」

  「冷え冷えでうまいな!」

  「やっぱり風呂上がりにはココナッツミルクだね!」

  全員で楽しく一気飲みしたが、栗田くんは心配を覚えていた。

  (このタイミングで飲み物を飲んだら、穴太郎たちはまたやっちゃうだろうな……理沙ちゃんは知らないから仕方ないけど。)

  「そろそろ寝る時間ですわね。それでは皆様、おやすみなさい。」

  理沙ちゃんの声で、皆はメイドたちに案内されそれぞれの部屋へ。

  「みんな、おやすみ!」

  「明日も楽しく遊ぼうね!」

  挨拶を交わし、ベッドの中へ。高級感あふれる柔らかな素材だ。

  穴太郎、トントン、ぴょん太はおむつをはく事も忘れなかった。ぴょん太はメイドにはかせてもらっている。

  1日中遊んだ子供たちは、すぐに寝静まった。

  [newpage]

  [chapter:トントンの恐怖体験]

  深夜1時、既に日付が変わった頃……

  トントンはふと目覚めた。まだおむつは濡れていないが、尿意はある。

  (ふう……今夜はおねしょせずに済みそうだ。すぐトイレに行かないと。)

  恐る恐る部屋を出ると、暗い廊下が広がっていた。照明のスイッチがどこにあるかもわからない。

  臆病なトントンは、部屋を出た事を後悔した。しかし熟睡している穴太郎たちやメイドを起こすわけにもいかない。

  (ああ、恐ろしい……部屋に戻ろうかな……

  いや、おいらだっていつまでもおねしょしてるわけには行かないんだ。1匹だけでトイレに行ってみせる!)

  真っ暗な廊下を震えながら歩くトントンは、恐ろしい想像が止まらない。暗闇から怪物が現れそうに感じられ、壁の絵や鏡から何かが出てくるような気もする。

  恐怖と戦いながら歩くうち、ドアがかすかに見えた。

  (トイレはここだったかな……)

  ドアを開けて中に入り、スイッチを探そうと壁に手を触れた。

  その瞬間、ドアが勢いよく閉まった。

  「わっ!」

  驚いていると、低く不気味な声が聞こえた。

  「お前を待っていた。我輩にはお前が必要だ。」

  同時に緑色の明かりが灯り、辺りの様子が見えた。奇妙な機械が並ぶ部屋だ。

  「ここは……トイレじゃないのか!?」

  「トイレなもんかね。ここは我輩の実験室だ。」

  声の主は、狐の博士だった。

  その目は血走り、毛並みは乱れ、白衣は血まみれになっている。普通ではないと一目でわかる姿だ。

  「一体おいらに何をする気だ!」

  「お前を実験に使うのだ。あれを見ろ。」

  そこには、鶏の入った檻が置かれていた。

  「お前とあの鶏の首を共に切り離し、お前の首を鶏の胴とつなげる。そうすれば、ベーコンエッグの入った卵を産む生物が完成するのだ。」

  「た、た、卵はいいとして、どうしてベーコンが生まれるんだよ!ベーコンの材料はワニだろ!」

  「我輩の住む世界では、ベーコンを豚から作るのだ。さあ、お前の首をよこせ!」

  「嫌だー!」

  「お前ら、逃がすな!」

  助手のカワウソと猫(こちらも白衣姿)が現れ、トントンを押さえつける。

  「悪いけど、協力して欲しいし。」

  「ぼくちゃんもおいしいベーコンエッグ、毎日食べたいのよね~!」

  トントンは金属製のベッドに寝かされ、手足を縛りつけられた。

  「助けてー!ここから離してくれー!嫌だー!死にたくないー!」

  「もう叫んでも無駄だし。」

  「君の体ちゃんはもうすぐ頭ちゃんと離れ離れになるのよ。悲し~いお別れなの。泣けちゃうね~!」

  博士は不気味な笑みでトントンの顔を覗くと、別の助手を呼んだ。

  「さあ新入り、君の番だ。打ち合わせ通りに頼むぞ。」

  「はい、わかりました。」

  黒い仮面を着けた固太りの白うさぎが、チェーンソーを持って現れた。金属音が近づいてくる。

  「ウギャーッ!」

  トントンは凄まじい悲鳴を上げて気を失い、同時におしっこを漏らした。

  その時、チェーンソーのスイッチが切られた。

  「これでいいですか?」

  「上出来だ。よくやってくれた。さあ、こいつは解放するぞ。」

  博士はトントンの拘束を解いて彼を抱え上げ、実験室から廊下に放り出した。

  同時に実験室のドアは消え、そこはただの壁に戻った。

  トントンは真っ暗な廊下に倒れていた……

  [chapter:中編に続く]

  執筆期間:2024.6.18~8.15