第1話「栗田くんの1日」

  [chapter:プロローグ]

  昔、昔、その昔。今から約137億年前…

  宇宙の誕生と同時に、別の世界でも宇宙が誕生した。

  時が流れ、その宇宙にも地球が形成された。

  海中で生命が進化を重ね、やがて恐竜の時代が到来。

  しかしある時、巨大隕石の衝突で恐竜たちは滅びた。

  地球は寒冷化したが、毛皮を持つ哺乳類は生き残り、増えていった。

  それから、地球は哺乳類の天下となった。ここまでは人間界と同様だ。

  しかし、ここからが違った。そこからさらに進化した種族は、霊長類以外の哺乳類だった。

  哺乳類たちは進化の過程で二足歩行をするようになり、それに合わせて体の大きさや形も全種族で変わり、食物連鎖は消えた。

  知能も発達し、言語能力も手に入れ、やがて文明を築いた。

  いつしか、この哺乳類たちを総称する「ケモノ(Furry)」という言葉も生まれた。

  歴史の流れと共に文明は発達し、数千年後には現代の人間界とほぼ同等の文明、世界中に広がった平和、豊かな経済を手に入れた。

  そのためか、全世界のうち半分近くのケモノは太っている。しかし「太っている=豊かな証拠」と世界的に認識されているため、大多数は気にしていない。

  物語は、ここから始まる。

  [newpage]

  [chapter:栗田くん登場]

  ケモノ界の日本国、埼玉県さいたま市[[rb:大上区 > おおかみく]]。

  そこに建つケモノ小学校埼玉校には、300頭の児童が通っている。

  今回の物語は、そこに通うある児童の平均的な1日。

  住宅街に建つ1軒の家。表札には「栗田」と書かれている。

  朝7時、2階の子供部屋に日光が差し込んできた。

  (もう朝か…)

  ベッドには男の子が寝ていた。毛布の下からは太いしっぽが覗き、お腹の辺りがやけに盛り上がっている。

  彼はベッドから起き上がった。

  頭の上にピンと立った2つの耳、額と目の横にある模様、出っ歯、太く長いしっぽ、茶色の毛皮…彼の種族はシマリスだ。

  頬袋には何も入っていないが、顔はふっくらとしており肉付きが良い。

  手足も太く、筋肉の上に脂肪が乗っている。

  お腹は見事に突き出しており、その大部分はパジャマから丸出しだ。

  彼は洗顔、歯磨き、トイレを済ませると、嬉しそうに階段を降りた。

  (お腹ペコペコだ。朝ご飯、朝ご飯!)

  彼の名は、[[rb:栗田 永雄 > くりた ながお]]。小学4年生。

  性格は穏やかでのんびり屋。またかなりの食いしん坊ゆえに丸々と太っている。

  [newpage]

  [chapter:栗田くんの朝]

  1階のダイニングテーブルには、朝食が用意されていた。メニューはトースト、スクランブルエッグ、リンゴ、オレンジジュース。

  「おはよう。今日もおいしそうだね!」

  母親の[[rb:幸江 > ゆきえ]]が、明るく声をかける。

  「永雄、おはよう。今日も永雄の好きな物ばかりよ!」

  タブレットでニュースを読んでいた父親の[[rb:純一 > じゅんいち]]も、顔を上げて息子に声をかけた。

  「おはよう。しっかり食べて大きくなれよ!」

  「うん、もちろん!いただきまーす!」

  栗田くんはオレンジジュースを飲み、リンゴをかじり、スクランブルエッグを頬張り、トーストにジャムを塗って食べた。

  「お母さん、トーストのおかわりちょうだい!」

  「永雄は今日もよく食べるわね。元気で嬉しいわ。」

  「たくさん食べるのは元気な証拠だな!」

  息子を微笑ましく見つめる両親は、彼と違って細身。しかし母親は高校時代まで太っていた。

  栗田くんの食欲は、彼女から受け継がれている。

  「ごちそうさまー!おいしかった!」

  朝食を済ませて満足した栗田くん。子供部屋に戻り、タンスからTシャツとズボンを取り出した。

  ズボンの後ろは、しっぽを通せる構造になっている。後ろ手で扱いやすいようにするため、マジックテープで留める方式だ。

  Tシャツを着たが、隠せる部分は胸の下辺りまで。それより下にはどう頑張っても下ろせない。

  ズボンもきつく、ファスナーはなんとか上げられたがボタンは留められない。

  しかし彼は気にしない。太った子からすれば当たり前の格好だ。

  (ぼくの体、ずいぶん大きくなったなあ…お腹も気持ちいい触り心地だよ。)

  それからランドセルを背負い、玄関で靴を履いた。毛皮のある種族のため、靴下は履かない。

  靴はローファータイプ。紐やマジックテープなどを使用した物はお腹が邪魔になるため、太った子はあまり履かない。

  「行ってきまーす!」

  「行ってらっしゃい。気をつけてね!」

  栗田くんは母親に見送られて家を出た。

  [newpage]

  [chapter:学校へ]

  通学路を歩いていると、声をかけられた。

  「栗田くん、おはよう!」

  そこにはキタキツネの男の子が立っていた。

  狐と言えばスマートなイメージの種族だが、彼は栗田くんと同じぐらい太っている。シャツやズボンに関しても同様だ。

  「稲荷山くん、おはよう!」

  彼は[[rb:稲荷山 紺助 > いなりやま こんすけ]]。栗田くんのクラスメイトで、幼少期からの親友だ。

  家は隣のブロックにあり、家族同士も仲が良い。

  2匹は早速会話を始めた。これも普段通りの光景だ。

  「栗田くん、今日の朝ご飯は何だった?」

  「トーストとスクランブルエッグとリンゴとオレンジジュースだったよ。あんまりおいしいからトースト3枚も食べちゃった!」

  「ぼくはご飯と味噌汁と焼いた油揚げと麦茶だったよ。ご飯を2回もおかわりしたんだ。」

  「やっぱり稲荷山くんは食いしん坊だね。」

  「栗田くんだって同じだよ。」

  会話を楽しみながらケモノ小学校埼玉校まで歩き、4年1組の教室に入った。2匹の席は隣同士だ。

  25頭の児童が揃う教室。スマートなハツカネズミの[[rb:森口 美樹 > もりぐち みき]]先生が来て、朝の会が始まった。

  「皆さん、おはようございます。」

  「おはようございます。」

  こうして、今日も学校が始まった。

  [newpage]

  [chapter:午前の授業]

  1時間目は国語。

  「それでは栗田くん、61ページを読んでください。」

  「狐のジャックとうさぎのローダは、自転車で並走しながら話していた。ジャックは…」

  栗田くんは教科書をすらすらと読み上げた。前日に予習した場所だ。

  2時間目は算数。森口先生が黒板に計算問題を書いた。

  「栗田くん、この問題を解いてください。」

  前に出た彼は、早速チョークを手に取った。

  (まずはこうして、こうなって…あれ、これで合ってるかな?)

  「頑張りましたが、惜しいミスですね。正解はこうです。」

  悩みながら答えを出したが、結果は不正解。彼は少し落ち込みながら席へと戻った。

  3時間目は音楽。場所は音楽室だ。

  授業終了時点で少し時間が残っていたため、白猫の[[rb:金子 真里 > かねこ まり]]ちゃんがピアノの演奏を披露した。音楽部に所属する彼女は、かなりの腕前を持つ。

  演奏が終わると、栗田くんは彼女に声援を送った。

  「上手だね!感動したよ!」

  「ありがとう!猫山くんにも聴いてもらいたかったわ。」

  [[rb:猫山 苗太 > ねこやま びょうた]]くんは黒猫の男の子。クラスは隣だが、真里ちゃんと仲が良い。

  ちなみに彼も栗田くんと同様の太り具合だ。

  4時間目は体育。児童たちは着替えて校庭に出た。

  今日はランニング。5頭ずつに分かれ、校庭を3周することになった。

  「えーっ!?」

  栗田くんは悲痛な声を上げた。彼は太っているため、走りが苦手だ。

  (10分以上かかるだろうな…)

  まずは真里ちゃんを含む1組目が走った。彼女のタイムは3分41秒。

  「疲れたわ…」

  「真里ちゃん、よく頑張ったね。」

  栗田くんは一番に走り終わった彼女を労わった。

  「栗田くん、ありがとう。」

  稲荷山くんを含む3組目の番になった。

  彼は太鼓腹を大きく揺らしながら走っているが、早歩きと呼んだ方が適切かもしれない。

  タイムは8分57秒。

  「ハア、ハア…疲れた…」

  「稲荷山くん、完走おめでとう。」

  「あ、ありがとう栗田くん…もうくたくただ…」

  栗田くんを含む5組目の番が来た。

  (頑張るぞ!)

  彼の走りも早歩きにしか見えないが、表情は真剣そのものだ。

  (大変だけど、最後まで走らなきゃ…)

  荒い息を吐きながら、全力を尽くした。

  栗田くんは完走した。タイムは7分55秒。

  (やった、思ったよりも速かった…)

  疲れ果てながらも笑顔を見せ、校庭に倒れこんだ。

  「ああ、疲れた…」

  すると、ある程度疲れの取れた稲荷山くんが語り掛けた。

  「栗田くん、よく頑張ったね。次は給食だよ。」

  「わーい!給食だー!」

  食べ物の事となれば元気になる栗田くん。食いしん坊の彼は、この時間が何よりも楽しみだ。

  [newpage]

  [chapter:給食と午後の授業]

  今日のメニューは豆乳、食パン、クリームシチュー、ミニトマト、エビフライ、オレンジゼリー。

  人間界の給食には牛乳が出るが、ケモノ界には家畜としての牛がいない。そのため豆乳が出されている。

  「わあ、今日もおいしそうだな!いっただっきまーす!」

  空腹の栗田くんは、喜んで豆乳を飲んだ。

  「冷たくておいしーい!疲れたぼくにぴったりだよ!」

  次に食パンをかじった。

  「トーストもいいけど、焼いてないのもおいしいよね!」

  「そうだね、栗田くん。柔らかさがいいよね。」

  残った物も次々と食べた。完食してもまだ食欲は衰えない。

  「よし、シチューのおかわりだ!」

  栗田くんが席を立つと、稲荷山くんも続いた。

  「ぼくもおかわり!まだまだ食べるぞ!」

  給食の時間が終わった。

  「ああ、食べた食べた…」

  「お腹いっぱいで幸せだ…」

  栗田くんは4回、稲荷山くんは3回もシチューをおかわりした。給食を詰め込んだ2匹のお腹は程よく膨らんでいる。

  お腹をなで、軽く叩く栗田くん。

  「ぼくのお腹、また大きくなっちゃった。ゲ~ップ!」

  お腹をつまむ稲荷山くん。

  「気持ちいい手触りだ…ゲエ~ップ!」

  2匹とも思わず、大きなげっぷを出してしまった。

  「お行儀が悪いわ!げっぷぐらい我慢しなさい!」

  隣に座る真里ちゃんに注意された2匹は、決まり悪そうな表情を浮かべた。

  「はーい、ごめんなさい。」

  「でも、たくさん食べたんだから仕方ないよ。ゲ~プ…

  あ、失礼。また出ちゃった。」

  給食の次は掃除の時間。栗田くんと稲荷山くんは雑巾をかけるとお腹が汚れてしまうため、ほうきを担当する。

  その後は昼休み。校庭で遊ぶ児童が多いが、2匹は図書室で本を読んだ。

  次の5時間目は理科。今日は理科室で物の温まり方を調べた。

  (へえ、鉄ってこんな風に温まるんだ。)

  実験結果を早速ノートに書く栗田くん。理科が得意なわけではないが、実験は心が踊るため気に入っている。

  [newpage]

  「それでは皆さん、さようなら。」

  「さようなら。」

  帰りの会が終わると、栗田くんと稲荷山くんは廊下に出た。

  「やっと部活の時間だ!」

  「今日もこの時を待ってたよ!」

  隣の4年2組からは、猫山くんとアライグマの[[rb:新井 楽 > あらい らく]]くんが出てきた。

  新井くんはぽっちゃり体型で、栗田くんや稲荷山くんに比べると細身だ。お腹は丸みを帯びているが服から覗く事はなく、ズボンのボタンも少しきつそうな程度だ。

  4匹は部室へ向かった。道中でも次々と部員たちが合流する。

  部室への到着時には4年生、5年生、6年生が4頭ずつ集まっていた。程度は様々だが、全員が太っている。

  [newpage]

  [chapter:相撲部]

  その部室は、校庭の隅に建っていた。中には土俵が用意されている。

  ここは栗田くんたちが所属する相撲部の部室だ。活動は週に3回。

  相撲はケモノ界でポピュラーな格闘技。特にある程度太った子は相撲を始める事が多い。

  土俵の前には、黒いまわしを締めたホッキョクグマが立っていた。

  その体は縦横に大きい。筋肉と脂肪が蓄えられた手足は丸太のように太く、栗田くんたちを上回る太鼓腹の中心には饅頭のような出べそがある。

  彼は相撲部の顧問、[[rb:保良 部亜 > ぽうら べあ]]先生。若い頃は力士だったため、45歳となった現在でも相撲に詳しい。

  「今日もみんな元気そうで何よりだ。さあ、着替えてこい!」

  その合図で12頭の部員は更衣室に入り、まわしを締めた。

  「よし、早速稽古を始めよう!」

  まずは筋肉ほぐし、四股、鉄砲からなる準備運動。全員が真面目に取り組んでいる。

  それから休憩を挟み、取り組みが始まった。

  虎の[[rb:島田 大河 > しまだ たいが]]くん(6年生、力士らしい体型)と、ヤマアラシの[[rb:五十嵐 棘郎 > いがらし とげろう]]くん(5年生、筋肉が多めの固太り)が土俵に上がる。

  島田くんは部長で、非常に強い。幼稚園児の頃から数々の大会で優勝したほどの強豪だ。

  五十嵐くんも現役の力士を父親に持ち、自宅でも毎日自主稽古に励んでいる。

  特に強い部員同士が、土俵の上で向かい合う。

  「はっけよーい…のこった!」

  保良先生の合図で、2頭は取り組みを始めた。

  島田くんは五十嵐くんにつかみかかろうとしたが、ヤマアラシの背中には剛毛があるため背後からは手を出しづらい。そのためまわしをつかんだ。

  (俺だって!)

  五十嵐くんも相手のまわしをつかんだ。お互いがっぷり四つに組んでいる。

  (負けないぞ…)

  (俺だって…)

  その時、五十嵐くんのまわしがほどけてしまった。

  「島田の勝ちだ!五十嵐は不浄負けだ。」

  「おい板山、もっとしっかり結んでくれよ…」

  五十嵐くんは前を隠しながら、恥ずかしそうに言った。

  取り組みが数回続き、稲荷山くんの番になった。

  相手はイタチの[[rb:板山 太一 > いたやま たいち]]くん(5年生)。稲荷山くんより太っているが、相撲の実力は低い。

  「はっけよーい…のこった!」

  組み合う2匹。稲荷山くんは板山くんに足をかけて転ばせようとしたが、次の瞬間には自分の方が転ばされていた。

  (まさか板山くんに負けるなんて…)

  また取り組みが数回続き、栗田くんの番が来た。相手は新井くんだ。

  (同じ学年だから軽い軽い!それにぼくの方が太ってるから有利だな。)

  「はっけよーい…のこった!」

  栗田くんは新井くんのまわしをつかんだ。

  (よし、これでまわしを引いて転ばせるか。)

  しかし、一瞬の油断が失敗となった。考える隙もなく新井くんがまわしを引いたため、栗田くんは転んでしまった。

  「新井の勝ちだ!」

  (あーあ、負けちゃった…)

  部活が終わり、完全下校時刻が来た。空は夕焼けに染まっている。

  栗田くんと稲荷山くんは、帰路に着いた。

  「ねえ、稲荷山くん。」

  「何?」

  「今日、ぼくは同じ学年の子が相手でも負ける事があると学んだ。ぼくはもっと強くなってみせるよ。」

  「その通りだね。栗田くん、ぼくだって負けてばかりの板山くんに転ばされたんだ。」

  「いつも弱い子が必ず負けるとは限らないよね。ぼくも気をつけるよ。」

  「今日の失敗を次に生かして、お互いに頑張ろうね。」

  その時、栗田くんのお腹が鳴った。

  「もうお腹空いちゃった。給食いっぱい食べたけどな…」

  「ぼくももうペコペコだよ。」

  「ぼくたち、食べ盛りだもんね!」

  「先輩みたいにでっかくなるには、たくさん食べなきゃ!」

  話しながら歩くうち、分かれ道に出た。

  「栗田くん、さよなら!」

  「稲荷山くん、また明日ね!」

  2匹はそれぞれの家に帰った。

  [newpage]

  [chapter:栗田くんの夕方]

  「ただいま。」

  栗田くんが帰宅すると、母親が迎えてくれた。

  「永雄、お帰り。おやつがあるわよ。」

  手を洗ってからダイニングルームに行くと、コーヒーゼリーとシュークリームが用意されていた。

  「わーい、いただきまーす!」

  早速おやつを頬張る栗田くん。

  (んー、おいしい!この苦味がいいんだよね。シュークリームも冷たくておいしいな…)

  食べ終わると子供部屋に入り、今日の宿題を終わらせた。のんびり屋の彼も、宿題は真面目にこなす。

  それから好きな漫画「ローデンツ・ファイターズ」を読んだ。5匹の齧歯類が主役のヒーロー物だ。

  読んでいるうちに、眠ってしまった。相撲部で体を動かした疲れが来たようだ。

  「永雄、ご飯よー!」

  その声で目覚めた栗田くん。ダイニングルームに下りると、父親も仕事から帰っていた。

  彼は浦和区の山猫商事にて、係長を務めている。大上駅からは電車で2駅のため、割と早く帰る事ができる。

  「お父さん、おかえり!」

  「永雄、ただいま。」

  「お母さん、今日の夕食もおいしそうだね!」

  「頑張って作ったのよ!」

  テーブルにはチキンライス、パン、ハンバーグ、エビフライ、野菜サラダ、コーンスープが並んでいた。

  ちなみに、ハンバーグはワニ肉を使用している。ワニ肉はケモノ界で一般的な食材だ。

  「いただきまーす!」

  栗田一家は談笑しながら夕食を摂った。

  「このエビフライ、カラッと揚がってるね!」

  「そうでしょ?」

  「君は料理の天才だな。」

  「ありがとう。そう言われると嬉しいわ!

  永雄、今日は学校でどんな事があったの?」

  「理科の授業で物の温まり方を実験したんだよ!」

  「どんな感じだったんだ?お父さんにも教えてくれ。」

  「まずは…」

  夕食の時間は、一家団欒の時。幸せで温かい光景だ。

  「ゲエ~ップ…おいしかった!ごちそうさま!」

  栗田くんは特大のげっぷを出し、膨らんだお腹をなでた。

  (ああ、満足満足…でもちょっとお腹が重いかな。チキンライスを3回おかわりしたもんな…)

  階段を上り、子供部屋へ。

  (ぼくのお腹、太鼓みたい。いい音出るかな?)

  ポンッ!叩いてみるといい音が鳴った。

  (わあ、狸みたいだ!)

  栗田くんは調子に乗り、腹鼓を打ちながら踊った。

  「ポンポコポンのポンポーン!楽しいな!」

  満足するまで叩いた時、ドアの方から拍手が聞こえた。見ると、両親が笑っている。

  「永雄、上手ね!」

  「いい音だったぞ!」

  見られていた事を知った栗田くんは、恥ずかしそうに後ろを向いた。

  「ちょっと、見ないでよ…」

  「いや、ドアが開けっ放しだったから1階にも聞こえてたぞ。」

  「永雄、ずいぶん大きなお腹になったわね!昔の私に負けず劣らずよ!」

  「たくさん食べて大きくなれよ!」

  「もう、恥ずかしいな…」

  「そうそう、お風呂沸いたわよ。」

  「わかった。入ってくるね!」

  [newpage]

  [chapter:栗田くんの夜]

  栗田くんは風呂でくつろいだ。

  (疲れが取れて、気持ちいいな…)

  風呂から上がると、大きな箱型の機械に付いているスイッチを押した。

  (時間は3分、温度は普通…よし。)

  箱に入ると5秒のカウントダウンが始まり、その直後に内部で温風が吹き始めた。栗田くんは毛皮をなで、乾かしている。

  これはケモノ用のドライヤー。人間界では手に持って使用する物が一般的だが、全身に毛の生えたケモノにとってはこちらの方が効率よく乾かせる。

  ドライヤーを終えるとパジャマに着替え、両親の元へ。

  「おやすみなさい。」

  「おやすみ、永雄。」

  それから子供部屋へ。明日の用意を済ませ、ベッドに入った。

  栗田くんはベッドの中で考えていた。

  (今日は楽しい1日だったな。たくさん食べて、遊んで、家族や友達と過ごして…)

  そのうち、彼は眠りについた。幸せそうな表情を浮かべ、寝言を口にしている。

  「わあ、大きなケーキ…いただきまーす…」

  夢の中でも大食いが始まるようだ。

  栗田くんには、明日も楽しい1日が待っているだろう。

  家族や友達と共に過ごし、よく遊び、よく食べ、よく学ぶ1日が。

  [chapter:おしまい]