"手"というものは、その人の人生そのものを表している。
たとえば、手相。よく言われるのは左は産まれた時からあまり変わらない、その人の本来の運命。右は生きていくうちに刻々と変化する現在の運命……。
たとえば、肌の質。水洗いを生業にしている人の手は荒れていることが多い。反対にアイドルやタレント……特に手タレと言われる人たちは肌が荒れないよう水仕事も控える人が多いと聞く。
手はその人の人生そのもの。手を見れば色々なことがわかる。わかってしまう。
たとえば、左手薬指にきらりと光る指輪一つでも。
バーナビーの視線は虎徹の手にくぎ付けになった。
何の変哲もない雑誌の撮影。ブルーローズことカリーナ・ライルもヒーローとしてではなく、一般の読者モデルのふりをして参加したくらいで、いつもと変わらないスチール撮影。
本来ならバーナビーが気にすることではない。虎徹の指に嵌った二つ目の指輪の存在だって、たとえそれがシルバーとグリーンのワイルドタイガー色の指輪であったとしても、それはあくまでファッションであって、虎徹が自発的に身に着けているわけではない。
だから、バーナビーが気に掛けることではないと分かっているが、笑顔で「あ、バニーちゃん・今日撮影した服とかアイテム、持って帰っていいって」と虎徹に言われてしまえば、気にならないはずがない。
虎徹の指に結婚指輪以外の虎徹の為の指輪が嵌っていること……これからも何かの折に身に着けるかもしれない……もしかしたら、日常的に身に着けるかもしれないアイテム。そんなものが毎日のように行動を共にしているバーナビーの眼の中に飛び込んでこないはずがない。
ただでさえ、虎徹の手はバーナビーのお気に入りなのだ。
男らしいゴツイ手。
ちょっと粗野で大雑把、うっかりで手が触れて物を落とすことバーナビーが知る限り数十回――カウントしていなかったからよくわからないが、もしかしたらバーナビーが見ているだけでも既に百回は達成しているのかもしれないが、そんな虎徹の性格そのものの、手。
落ち込むとバーナビーの頭にポンと乗せられる手。
行動を切り替えるときに(たとえば緊急コールが掛ってきた場合)、バーナビーの肩に乗せられる手。
バーナビーを抱きしめる手……。
我儘かもしれないが、虎徹には指輪はして欲しくなかった。
結婚指輪という最強の自己主張。それ以外は身に着けてほしくなかった。
虎徹が気に入ったのも、バーナビーには気に入らない。
「そんなに気に入ったんですか?」
「当たり前じゃん。お前は気に入らねぇの?」
よくよく考えれば、虎徹が服やアイテムを貰うことを喜んだことはあまりない。
いつも同じ洋服を着ているせいか、いつも辞退しようとして、「貴方の為に作ったものだから、これはあなた以外に着ることは出来ません。辞退するなら誰にも着られることなく倉庫の奥に仕舞われてしまいます」と返され、辞退を断念することが多い。恐らく【倉庫の奥】という場所はある種の宝物庫に近いのではないかと、いつもバーナビーは推測するが、それは虎徹には教えない。虎徹の着た服が第三者の手で大切に大切に仕舞われることが……場合によっては使われるかもしれない可能性もあるが故に、バーナビーが気にならないはずがない。
もしも、虎徹の辞退をメーカー側が受け入れたら、こっそり絶対に譲り受けようと決意している事実を虎徹は知らないし、幸いなことに、今まで一度もそれを実行されたことはない。
「虎徹さん……それ、普段も使う気ですか?」
「んあ? 当たり前だろ。お前は使わねぇの? ブレスレット」
「そうですか、ブレスレット……え?」
バーナビーの無駄に優秀な思考が停止する。
「ブレスレット?」
「そうそう。俺のはお前の眼と同じ色の石が付いてて、お前のは俺の眼の色だろ? 始め、ワイルドタイガーのカラーだと思ったんだけど、「お二人はバディですからお互いの眼の色に揃えさせていただきました」なんて言われちゃってさ。よく考えたら、俺ってお前の眼と同じ色のヒーロースーツ身に着けてるんだよねぁ」
虎徹が無邪気に笑う。
バーナビーの疑念も嫉妬心も何もかも破壊したことに虎徹は気が付かない。
「じゃ、じゃあ……その指輪も?」
バーナビーの問いに、虎徹がニカリと笑う。
髪を切って以来、あまりそういう風に笑うことはなかったが、悪戯が成功した子どものような満足そうな笑顔。
「そ。これはバニーちゃんの指輪」
――ジュニア君はアライグマのおっさんしか見てねぇけど、アライグマのおっさんはジュニア君のことしか考えてないんじゃねぇの