「KISSして……」
彼のアパートの前で待ち伏せして、彼に告げた言葉。
彼はマーベリック事件の時にみんなに宣言したようにヒーローを引退した。
本音ではずっとヒーローを続けていてほしかった。ずっと傍にいてほしかった。
けれど、彼の性格からそんなことは不可能だと……わかっていた。
だから彼がシュテルンビルトから去る日、他のみんなと同じように電車のホールには直行せず、早朝から彼のアパートの前にいた。
彼がいつ出てくるのか分からなかったから、日が昇る前から、ずっと待っていた。
一時間経ち、二時間経ち……出発予定の一時間前、彼は漸く玄関から出てきた。
私がずっと隠れていた物陰からそっと姿を現すと、彼は驚いたように目を瞠り、そして、嬉しそうに笑った。
迎えに来てくれたんだと喜び、一緒に駅に行こうと言ってくれた。
分かっていた。彼にとって私は仲間で、恋をする要素なんて欠片もないことなんて、けどこれが最後かと思ったら……自然と声が出ていた。
「KISSして……」
告げた瞬間、彼は小首を傾げた。
私が何を言っているのか彼には直ぐにわからなかった。
彼は私に近づくと、真っ赤になっているだろう私の顔を無視して、頭をくしゃりと撫でた。
「そういうことは、本当に好きな人と……」
そういって、彼は私の脇を通り過ぎた。
やっぱり別々に行こうと告げ、彼は私を振り返ることなく、歩いて行ってしまった。
「……ばか」
氷の女王の仮面をつけて、見送りに行った駅で、彼はいつも通りの笑顔でいつも通りに私の名前を呼び、そして、電車に乗って去って行った。
シュテルンビルトから、私の前から、消えてしまった……。
一年後。
彼はヒーローに復帰した。
二部のヒーロー、一部とは殆ど関わり合いのない事件ばかり扱うヒーロー。
それでも彼はこのシュテルンビルトに帰ってきてくれた。
だから……
「私からも逃がさないんだからっ」
――KISS ME……