【空白の一年間捏造】旅のお供に……(タイトル変更しました)

  日の昇らない暗いうちから、バーナビーは崖の上に立っていた。

  転落防止の為の柵などない、人が来ることなど想定していない自然のままの絶壁の上に立っていた。

  昨日日が高いうちから来て、地形を確認し、テントを張り、ベストポジションを調べておいて本当に良かったと心から思う。

  バーナビーの視線の先、遥かなる水平線の彼方が徐々に白み始め、星々がささやく時間は終わりを迎え、ビロードの空は茜色に塗りつぶされていく。

  少しずつ色を取り戻して行く世界に、その過程に心奪われていたバーナビーだったが、ふと隣に視線を向ける。

  隣で同じ光景を見ていた虎徹が視線に気が付き、バーナビーの顔を見て笑う。

  『見ろよ、バニー。お空がファイヤーエンブレムみてぇだ』

  満面の笑みを浮かべ、得意げに暁色に染まった空を色から連想する仲間の一人に例える。あまりに虎徹らしいたとえに、バーナビーは呆れるような微笑ましいような気分になる。

  『ほら、バニーちゃん、写真写真っ』

  虎徹がバーナビーに写真を撮るように促すので、バーナビーは小さく頷くと首から下げているストラップの先にあるアナログ一眼レフカメラを構えて、写真を撮り始める。

  棚引く雲に映える茜色に、茜色の空。人工物が一つもない大海原には空の色が映り込む。

  バーナビーはその光景をカメラに収めた。

  鞄の中の沢山のフィルムには、この一年間でバーナビーが美しいと感じた光景が焼き付けられている。

  乾いた風に舞う金色の砂の世界。

  地上に描かれた巨大な絵。

  人類史上最大の建造物。

  巨大な王族の墓。

  百万ドルの夜景。

  空中都市。

  世界中の様々な光景をフィルムに焼き付けた。

  デジタルならば、ちょっとした都市に行けばすぐにでもプリンターでプリントアウトでき、メールなどで送ることができてしまうが、アナログのフィルムはそうはいかない。道具がなければ焼くことは出来ないし、下手をすれば現像する過程で失敗して永遠に見れなくなってしまう可能性もある。

  だが、バーナビーは敢えてデジタルではなくアナログを選んだ。

  誰にでもワンタッチで撮れるものではなく、自分にしか撮影できない自分だけの景色。デジタルで自動的に映され、パソコンで簡単に編集できるものではなく、技術も特別な道具も必要だが、自分だけの光景を印画紙に焼き付けることができる。

  無心で写真を撮っていると、いつの間にか世界はいつもの色を取り戻していた。

  透けるような蒼い空と、空を映した碧い海。どこまでも広がる青い世界。

  泣きたくなるような壮大な自然に、バーナビーは願いを込めてカメラのシャッターを切る。アナログなので、きちんとカウントしながら。

  最後の一枚まで撮り終えると、肩にそっと手が置かれる感触に振り返ると、虎徹が微笑んでいた。

  『いつか……いや。そろそろその写真を俺に見せに来いよ、バニーちゃん』

  『行けよ』ではなく『来いよ』と言って、虎徹は跡形もなく消えた。まるでバーナビーが作り上げた幻ではなく、恰も本人であるかのように。

  旅を始める前に、アナログ一眼レフカメラと共に購入したフィルムは一本を残して、全て使用済みだった。今のご時世、フィルムはどこでも手に入れられるものではない。限りあるフィルムだからこそ、初めから最後に映す景色は決めていた。その後はどうするかまだ決めていないが、まだまだ世界には素晴らしい光景がある。再びフィルムを購入して旅に出るのもいいが、まだどうするかは決めかねていた。

  だが、今バーナビーがしなければならないことは帰り支度だ。

  次のステップに進むためにバーナビーは動き出した。

  二人が出会い、共に過ごしたシュテルンビルトに散らばる想い出たちをカメラに収め、そして本物の虎徹に会いに行くために。

  END.