(散文注意)【虎薔薇】バーナビーの苦心(タイトル追加)

  楓は二冊の女性週刊誌を前に覚悟を決めた。

  五年前――ジャスティスデー事件のすぐ後、バーナビーは楓にある真実を教えてくれた。それとともに「五年待ちます。今はまだ認めたくないでしょうけど、時間が経てばわかると思いますよ。僕はそのために全力で虎徹さんを口説き落としますから」と宣言された。

  当時12歳だった楓も、今では17歳。それなりに片思いを経験している。相手はサッカー部のエースの先輩。楓が先輩に淡い恋心を抱いた時には既に付き合っている同級生の彼女がいたため、残念ながら成就されなかった。次は科学の教師。いつも白衣をぱりっと着こなして、教壇に立ち、実験中はいつも優しく丁寧に教えてくれた。彼は妻帯者だった。中学時代にもそれなりに好きになった人はいる。同級生だったり、下級生だったこともあり、恋に年齢は関係ないとわかってしまった。

  楓は意を決して、バーナビーに電話を掛けた。

  「バーナビー。私の心は決まったから……」

  バーナビーの宣言から五年経った今、それなりに恋愛を経験した楓は父親の恋愛に口を出す気はない。問題は素直に祝福できるかということだが、思うところがないこともないが、それでも家族としてやっていけると自信を持って言える。

  「おめでとうっていうよ、私」

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  虎徹は今、てんてこ舞いだった。

  一週間前、女性週刊誌にすっぱ抜かれたのは【TIGER&BARNABY 同棲か!?】というやつは今更のこと。

  家呑みするたびに家から出てくるところを写真を撮られ、どっか出かけるたびに二人だけのデートのような写真を撮られ、付き合っているという記事になる。

  五年前から毎週のように記事にされているので、今さら過ぎるくらい今更で、リアクションしないことに慣れた。否定しまわれば【れて隠し】やけくそになって肯定しようものなら、ワイドショーで取り上げられ、会社の電話は鳴りっぱなし。ロイズさんに叱られ、ベンさんにため息を吐かれ、否定も肯定もしないと誓ったのは五年前の話。相棒はちゃっかりハンサムフェイスで「僕の恋人は市民の皆さんです」なんて言って株を上げていた。虎徹には到底できないので、沈黙こそ全てだった。

  だが、つい二日前に出た女性週刊誌に書かれていたことは無視できない。

  【Wild TIGERの本命はヒーロー関係者二十代女性】

  虎徹が火消しに回ったのは言うまでもない。

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  電話を切ったバーナビーはほっと安堵のため息を吐いた。

  思わず動いてしまったときは時期尚早かと思ったが、虎徹の娘である楓に受け入れられてもらえたことはとてもうれしい。

  女性週刊誌の記事を見ながら、バーナビーは抜け道はないか施行する。

  五年間‐‐五年もよく持ったと自分を褒めたい。

  五年間、根回しに根回しを重ね、時期を見極め、そして、実行に移した。

  「虎徹さん、これでもう逃げられませんよ」

  バーナビーが悪い顔で笑った。

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  ネイサンは会場と衣装の手配に奔走していた。

  衣装の詳細は他のヒーロー仲間にも伝えている。

  一組の真っ白な結婚衣装を前に、ネイサンはほうっと息を吐いた。

  この衣装を着て結婚式に臨むヒーロー仲間のことを思い、最高の結婚式にすることを改めて誓い、気合を入れなおした。

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  「やっぱ、ブーケには薔薇だよね」

  パオリンは花屋に飾ってある多種多様の薔薇の花を前にどれがいいかなぁと悩んでいた。

  「ド……パオリンさん。買ってきましたよ」

  イワンが買ってきた紙をパオリンに見せた。

  ライトグリーン一色の輝く紙と薔薇の花がうっすらと印刷されている半透明な白い紙。

  「イメージ通りだね、ありがとう。折紙……イワンさん」

  ふわりと笑うと「ねぇねぇ、ちょっと貸して」とイワンが買ってきた紙を薔薇に合わせて、「ねぇ、これなんかいいんじゃない?」とイワンに意見を求めてくる。

  「暗めの赤いバラってどうですか? 花言葉は永遠の愛……」

  「あ、いいかも。けど色会うかなぁ」

  「カスミソウやホワイトレースなんかと一緒にすればいいと思います」

  「え? どんな花なの?」

  「白くて小さい花ですよ。花言葉は感謝だと思いました」

  「すごいっ。うん、そうしよう」

  イワンとパオリンは仲間のためにブーケを作る。

  そのブーケの意味は決して≪奇跡≫ではない。

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  アントニオはwedding cakeをデザインしていた。

  ショートケーキを幾段にも重ねた白い塔のようなオーソドックスなものだ。

  けれど、味と細部にはこだわり、親友の為に最高のものを用意しようと奮闘していた。

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  キースは色々と頑張っていた。

  だが、セリフは決まって……

  「ありがとう! そして、ありがとう」

  司会・進行……配役を間違えた感、半端ないです。

  「アドリブだ! そうアドリブさ」

  軌道修正必要です。

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  カリーナは……展開についていけなかった。

  「ですから、事実無根です。ですが、娘さんの将来に不名誉な傷をつけてしまったことはお詫びします」

  タイガーがカリーナの父親に謝罪する。

  「君は娘を傷物にしたままにするつもりか?」

  「え? あ……けどですねぇ。責任って……」

  「カリーナ、こんな男のどこがいいんだ?」

  「え? え? た、タイガーは……タイガーは……」

  父親に尋ねられて、直ぐに答えられるわけがない。

  「楓ちゃんの前でいつもかっこつけようするけど、失敗して呆れられるし……」

  「はい?」

  「いいこと言おうとして、直ぐに滑るし……」

  「え? お前、そんな風に思ってたの?」

  「しっかり真面目にやってないふりして、実は結構頑張ってるの知ってるけど……いつもどこか抜けてて……」

  「お~い……お前の中で俺ってそんなんなの?」

  言っていてカリーナは絶望的になる。

  はっきり言ってしまえば、いいところなんてない。

  いいところはあるにはあるけれど、言葉にできる類のものではない。

  けれど、これだけはわかる。

  これだけは自覚した。

  何度も否定されたけれど、それでも、……

  「けど、私はタイガーが好き。タイガーだから好きなの」

  きっぱりと言い切った。

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  虎徹は混乱していた。

  女性週刊誌に書かれた内容は事実無根。だから安心してください。責任は取ります――そういうだけのはずだった。

  けれど、カリーナからのまさかの告白。

  「私はタイガーが好き。タイガーだから好きなの」

  カリーナの真剣な目が虎徹に向けられている。

  「えっと……好きって……」

  「恋愛として好きなの」

  「と、年! 年が離れすぎてるだろ?」

  「と、年なんて関係ない! 奥さんがいるってわかっても、楓ちゃんがいるって知ってる。けど、それでも好きなの」

  「お、おっさんだぞ、俺……」

  「だから、年は関係ないって言ってるでしょ! 諦めようと思ったけど、どんなに頑張ったって諦められなかったのよ。ずっと、ず~~~~~~っと……タイガーが好きだったんだから……」

  カリーナの目から涙が零れた。

  「え? え? だ、だけど……」

  「あ~、もうっ! 私がタイガーを好きなの! タイガーの意見なんて聞いてないんだからっ」

  カリーナの真剣な目から、虎徹は視線を逸らした。

  そして、逸らした先で、視線が交差してしまった。

  「で、どうするつもりかね?」

  カリーナの父親が、何かを諦めた目で虎徹を見た。

  「このままずっと娘を泣かせておくつもりなのか? 君にとって、娘はその程度の者か? 少しは情がないのか?」

  なんとなく、本来なら反対されるはずの立場なのに、背中を押された気がした。

  「俺は……」

  まだ子供だと思っていたが、いつの間にか年頃の娘になっていた。

  だからこそ、女性週刊誌に書かれたことはきっちり火消ししないとならない。

  けれど……

  「思えば、お前だけだったんだよな……」

  六年ほど前のことを虎徹は思い出した。

  「マーベリック事件の時、お前だけが俺を犯罪者じゃないって信じてくれた……相棒だって、親友だと思っていたやつだって俺のことを犯罪者だって疑わなかったのに、お前だけが俺を信じてくれた」

  それに……

  「ジャスティスデーの時……俺がクビになった時、お前だけが楓のことを考えていてくれたんだよなぁ。あの時のチケット、今でもうちにあるぜ」

  他にもいろいろとある。

  六年前にあげたタオル、今でも大事に使ってくれていることを知っている。

  毎年、バレンタインデーにはチョコをくれるし……思い出せば、きりがない。

  「……俺には死に別れたとはいえ、奥さんがいてバツイチだし……娘だって高校生だ」

  「……知ってるわよ」

  「けど、さ……俺、お前の事結構好きみたいだ。だから、さ。お前がこんなおじさんでも良ければ……嫁に、来るか?」

  沈黙は一瞬。

  「行く……行くに決まってるじゃない!」

  カリーナの目から涙があふれ、虎徹は涙を隠そうと慌てて抱きしめた。

  父親の前だが、致し方がない。

  虎徹はカリーナが落ち着くまで抱きしめていた。

  「あ……けど、楓が良いって言わなかったら……」

  

  最後まで閉まらなかったが……

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  バーナビーは垣根越しに虎徹とカリーナの様子を見ながら、ほくそ笑んだ。

  女性週刊誌を見て、カリーナの両親に謝罪しに行くと飛び出そうとする虎徹を引き留め、自分が送っていくとうまいこと言いくるめて運転手役を手に入れた結果にバーナビーは満足していた。

  五年間、よくまぁ、ホモカップル疑惑に耐えに耐えに耐えたものだと自分を褒める。

  そして、五年間、家呑みのたびに、無意識にあふれるカリーナへの思いを虎徹から聞かされ続けてきた。無自覚にもほどがある。

  五年前、虎徹とカリーナが両思いだと知り、ずっと根回ししてきた。

  楓に真実を伝え、カリーナの父母を説得し、アポロンメディアとタイダンインダストリーの両会社を納得させ、そして、今日という日を迎えた。

  それというのも約一週間前、バーナビーにも気になる女性が出来たからだった。

  できたと言っても告白したわけでも付き合っているわけでもない。

  けれど、相棒とのホモ疑惑がある以上、容易に女性とは付き合えないことくらいバーナビーとて気が付いている。

  下手をすれば相手女性と三角関係疑惑が……それはなんとしても避けたかった。

  故に虎徹の真の相手であるカリーナについての情報を流し、一気に勝負に出た。

  これで虎徹がカリーナを選んでくれなかったら、本気で相棒の座を辞することも実は考えていたが、それは杞憂に終わった。

  「こんな内容知っているの、僕ぐらいだって少しは気付いてくれてもいいじゃないですか」

  【Wild TIGERの本命はヒーロー関係者二十代女性】

  ‐‐彼女はタイガー&バーナビー結成当初からの付き合いであり、毎年贈り物をやり取りしている。

  ‐‐彼女はタイガーの娘にも何度か贈り物をしており、娘も好意的である。

  ‐‐彼女はタイガーが上げたタオルをずっと大切にしており、トレーニングにはいつも使用している。

  ‐‐彼女はタイガーが犯罪容疑を駆けられた際、唯一タイガーを信じていた。

  ‐‐彼女は……

  ‐‐タイガーは彼女から五年前に貰ったジャスティスデーのチケットを大事に保管している。

  ‐‐タイガーは酒を飲むと彼女のことばかり口にする。

  ‐‐タイガーは……

  ‐‐タイガーは……

  ‐‐タイガーは彼女と結婚を考えている。

  バーナビーは件の女性週刊誌を車のダストに捨てた。

  後日、ワイルタイガーこと鏑木・T・虎徹とカリーナ・ライルは仕事仲間に祝福され、小さな教会で結婚式を挙げた。

  けれど、ブルーローズの正体は、まだ世間には秘密である。