変身方法が異なる理由って…?

  ―――おめでとう。君たちは『魔法少女』に選ばれた…!!これはとても栄誉であり、幸運なことだ。

  「………はい?」

  「………はぁ。」

  学校での集団下校での帰り道、いつもの道を歩いていると、れもんとキョウカ…2人の小学3年生の少女達は、まばゆい光に包まれたかと思うと、ふわふわと光の中で…一糸まとわぬ姿で浮いていた。

  「あの、服返してほしいんですけど…」

  キョウカは恥ずかしそうに、自分の胸を隠す。

  「わたしも……」

  れもんも同じように、自分の股間を隠した。

  ―――気にしなくて構わない。ここは現世…君たちの住んでいる世界とは隔絶された、『異なる世界』だ。元の世界に戻れば、その容姿は元に戻り、服も着た状態で戻れる。

  「じゃあ、早く戻してよ!」

  れもんは怒り気味に、怒鳴る。

  ――残念ながらそれは出来ない。今から君たちには、『魔法少女』の力を授け、地球に訪れる『脅威』達と戦ってもらうことになる。理解したかね?

  「……意味わかんないんだけど。」

  れもんは、苛立つ。だが、それを気にしないかのように、声は話を続けた。

  ――君達に理解など求めていない。ただ、これから君達には地球を襲う『敵』と戦い続けて、地球を守ってもらう。それが君達の使命だ。

  「そんなこと言われても…私達、ただの小学生ですよ?戦うなんて無理です……!」

  キョウカは首を大きく振り、訴えかける。

  ――案ずることはない。そのために私達はいる。まず、最初にこれを渡しておこう。

  声と共に、光の玉が現れた。

  「これって……?」

  ――変身アイテムだよ。それぞれ違うデザインをしているだろう?

  確かに、渡された光の玉を見ると、レモンは真っ赤な装飾のついたステッキ。キョウカは紫色の…中央に赤い液体が入っているステッキに変化した。

  ――使い方を説明しよう。まずは、ステッキに口づけをするんだ。そうすれば、魔法の使い方がわかるようになる。

  「……本当でしょうね?」

  れもんは半信半疑ながらも、言われたとおりにステッキの先端に口をつけた。すると、頭の中に情報が流れ込んでくる。

  (なるほどね……大体わかったわ)

  れもんは赤いステッキを頭上に掲げると、呪文のようなものを唱え

  『[[rb:変身 > トランスフォーム]]!!』

  と叫ぶと同時に、振り下ろす。

  すると、れもんの身体が光に包まれ、れもんの姿が変わっていく。手足が伸び、大人サイズまで成長すると、フリルのついた衣装が身を包んでいく。

  髪が広がり、色が変わる。両腕には白く、長い手袋、両足には膝下まで覆うブーツのようなものを嵌め、靴のような部分にも装飾が着く。

  目を閉じ、頭部にティアラのようなものが装着される。そして、目を開けると、その姿はれもんと同じ姿でありながら、身長が高く、胸が大きく、まるで大人の女性のように変身していた。

  「………………!!」

  れもんは自分の姿を見て、驚く。

  「れもんさん…あなたなの?」

  キョウカはいきなり大人の姿に変身したれもんを見て、紫色のステッキを握りしめたまま、驚きの表情を見せた。

  「うん。こんな姿になっちゃったけど、わたしはれもん…れもんだよ。キョウカさん。」

  髪色が変わり、服装も、身長も小学生とはかけ離れたものになっているが、眼の前の女性は自分のことを『れもん』と答える。

  「どういうこと?」

  キョウカは困惑する。

  「えっとね…ステッキに口づけしたら、いろんな情報が頭の中に入ってきて…『こうしたら、変身できる』。ってわかるの。で、頭の中に入ってきたとおりにやったら、こんな姿になったわ。あと、この姿の時はわたしのことは『レモネード』って呼んでくれると嬉しいかな……」

  「そう…」

  キョウカは握りしめた紫色のステッキを見る。わたしも口づけしたら、れもんさんのように大人の姿に変わるのだろうか?

  ―――ああ、『君』は変身方法が異なる。ステッキに口づけしても意味はない。そこに黒いボタンがついているだろう?

  キョウカは謎の声にそう言われると、確かに紫色のステッキ…丸く、サーベルの持ち手のような形をした丸い部分に黒いボタンがついているのを見つけた。

  「これ…押せばいいの?」

  ―――そうだ。押したまえ。

  キョウカは言われたとおりにボタンを押す。すると、ステッキの上部分がスライドし、中から鋭い注射針のようなものが出てくる。

  「…………は?」

  ―――ちょうど、『通常のステッキ』を切らしていてね、君には『通常のステッキ』の製造までの間、『臨時のステッキ』を使用してもらう。

  「私だけ…れもんさんとは違うステッキってこと?」

  「キョウカさん…この姿のときは『レモネード』って呼んでね。」

  その言い方が気に入っているのか、頭の中に入ってきた情報に『そうしろ』と言われているのか…れもんは今の姿のときは、『レモネード』と呼んでほしいらしい。

  「……わかりましたよ。レモネードさん」

  キョウカは呆れた表情で答えると、ステッキを見つめる。

  (どう見ても…ホラー映画で見るような、注射器にしか見えないんですけど!?)

  まさか、自分にもこの姿になって戦えというのではないか?そんなことを考えていたときだった。

  ――――急ぎたまえ。キョウカ君と言ったか。脅威はすでに迫っている。だから急ぎではあるものの、れもん君…『レモネード』君にはその姿に変身してもらった。現場は上空10000mだ。間もなく、多数の隕石が地球に降ってくる。その数、100はくだらないだろう。レモネード君は急ぎ現場に急行し、これを迎撃してほしい。

  「はい。わかりました。それでは現場に急行し、迎撃します。キョウカさん…先に向かいます。」

  そう言って、レモネードは光の粒子となって消えていった。

  「……え!?ちょっと待ってよれもんさ…」

  言うが早く、れもんさん…レモネードは私の目の前で消えてしまった。

  ―――さて、キョウカ君。君も急ぐんだ。変身の仕方は少し異なるが、君も…魔法の力でその身を強化し、先に向かったレモネード君と同じように、『脅威』に対抗できる力を持てるようになる。

  「……私じゃないと…ダメなんですか?」

  ―――君が断れば、すべての隕石は先に向かったレモネード君がすべて迎撃を請け負うことになる。その負担は計り知れないものとなる。

  私は迷った。私が断った場合、れもんさんは一人で、たくさんの隕石を受け止めることになるだろう。もし、それを防ぎきれなかったとしたら、地上への被害は甚大なものになるのは想像に難くない。

  「『脅し』ですか…?わたしが行かないと、まるで地球は滅びるって言っているように聞こえますけど?」

  ――その通りだ。このままでは地球上の生命は全て死に絶えるだろう。それは避けなければならない。そのためなら我々は手段を選ばないつもりだ。

  「わかったわよ!行けば良いんでしょ!?」

  キョウカは苛立ちながら答えた。

  ……紫色のステッキの先…鋭い注射針のようなものが、その先端をキラリと光らせている。ステッキの中央には赤い液体がチャポ…と揺れている。

  「これ……本当に大丈夫なのよね?」

  キョウカは訝しげに呟く。

  ―――待て。まずは『空気抜き』をするんだ。ステッキの先端にスライドレバーがあるだろう?

  キョウカはステッキを確認すると、黒いスライドレバーがステッキの先端についているのを見つけた。

  ―――それをステッキの先端方向にスライドし、中の液体が少し出るまで待ってくれ。

  キョウカは指示通りにステッキを操作し、針の先から液体を少し出したあと、スライドレバーを元の位置に戻す。

  (やっぱり注射器じゃないの…)

  病院で看護師さんがやっているのを見たことがある。あれと同じではないか? なぜするのかは分からないが…

  「これでいいんですよね?」

  ――大丈夫だ。では次に、まず自身の右腕を見てくれ。まずは右腕をまっすぐ伸ばして、親指を内にして、握り込むんだ。

  (予防接種…?)

  「こうですか……?」

  キョウカは言われるままに、腕を真っ直ぐ伸ばし、指を内側に折り込んだ。青い静脈が薄っすらと白い肌に透け、血管の筋が浮き出ている。

  ――それでいい。肘の反対側…腕を曲げる部分に青い筋が透けて見えているね?そこに、先ほどの注射針をあてがうんだ。

  「え……注射を打つんですか!?」

  注射はあまり好きではない。痛いからだ。

  ―――そこが一番、『痛くない』。君も病院とやらで時々やってもらってないか?

  確かに、風邪を引いたときに、看護師さんに点滴を打たれたことがある。その時は痛くなかった記憶があるが、それでも注射が嫌いなのは変わらない。

  「うぅ~……いやだ……」

  ―――――覚悟を決めるんだ。キョウカ君。

  「わ、わかりましたよぅ~」

  仕方なくキョウカは注射針を腕に近づけた。

  (こんな小さな針なのに……なんでこんなに怖いんだろ……)

  左腕でステッキの先端に着いた注射針…それをあてがい、躊躇するキョウカ。だから私のステッキだけ小ぶりだったのか…れもんさんのステッキはアルトリコーダーぐらいのサイズなのに、私に渡されたステッキはサーベルのような形をしているが、そのサイズは時代劇に出てくるような十手ほどのサイズしかない。

  ――キョウカ君。決心したまえ。

  「わかってますよ……!もう!!」

  キョウカは意を決して、注射針を肌に刺した。

  ぶすっ!!

  「痛ッ!」

  思わず声が出る。痛みはないと言われていたが、やはり痛かった。先端が少し刺さっただけで、思わずステッキを引っ込めてしまう。

  ―――我慢しなさい。それと、針は打つ方向に対して垂直ではなく、少し寝かせて刺すと、痛みがやわらぐはずだ。

  「えぇ……そんなこと言われても」

  そう言われると逆に打ちづらい気がする。それに打ったところがヒリヒリするし、血が滲んでいるような気がするし、なんだか気持ち悪いし……あまり気乗りしない。だがやらねばなるまい。これが地球を救う唯一の方法なのだとすればなおさらだ。

  「うぅぅ……」

  言われた通りに、今度は少し寝かせて、恐る恐る針を入れていく…ホントだ。チクリとはしたものの、それほどの痛みでもない。これなら我慢できそうだ。

  そのままズブズブと針を刺していくと、突然右腕にビリリとした感触があった。

  ―――まさかとは思うが、右腕が痺れるような感覚がないか?もしそうだとしたら、少し針を戻しなさい。それは君の『神経』だ。そのまま突き刺せば、痛みが発生するぞ。

  「そんな……!」

  冗談じゃない。これ以上痛いのは嫌だ。言われたとおりに針を少し戻す。

  ―――それでいい。ステッキの持ち手の部分…黒いスイッチがあるだろう。それを中の赤い液体が入るまで、押し続けてくれ。

  キョウカは左手で持っているステッキの持ち手の部分に、握り込んだ上部に親指で押せるところに黒いボタンがあるのを見つける。ボールペンのノック部のように見える。

  「これを…押せばいいの?」

  ―――そうだ…中の赤い液体がなくなるまで、押し続けてくれ。そうすれば、君は『魔法少女』になれる。

  (本当に大丈夫なのかな……?)

  キョウカは不安に駆られながら、ボタンをグッと押す。すると、ステッキの中に入っている、少しだけ粘り気のある液体…まるで血のように赤い液体がキョウカの身体の中に、徐々に入っていく。キョウカは謎の声に言われるがまま、ボタンを押し続けた。

  異物が自分の体の中に入るような感覚。注入している間、腕は少しだけ痛みがあるものの、中の赤い液体はどんどんキョウカの身体の中に入っていった。

  [newpage]

  ドゴォン!!

  ドゴォン!!

  上空10000m…ステッキの先端を銃口のように向け、間髪入れずに魔法を撃ち続けるれもん…いや、『レモネード』。先端から放たれる極太のビームは的確に落ちてくる隕石を捉え、小規模の爆発を起こすと共に、跡形もなく消滅させていく。

  「キョウカさん…遅いなぁ…」

  間髪入れずに放たれ続ける極太のビーム。一発も撃ち漏らしてはならないが、その連射速度も凄まじく、まるでセミオートの狙撃銃のように、次々正確に、隕石を打ち砕いていく。

  そんな凄まじい威力の魔法を放つ、れもんこと『レモネード』。隕石が成層圏に到達するよりも先に撃ち落とすことも珍しくなく、そもそもキョウカは必要なのか?という疑問すら浮かんでくるほどだ。頭の中に入ってくる情報によると、レモネードの魔力はまだまだ余裕があるとのこと。

  ガゥッ!!

  ガゥッ!!

  放たれ続ける極太のビーム。空に撃ってるから問題は無いが、これが、地上に当たればどうなるか…その情報もレモネードの頭の中に入っていた。

  「地上には…向けないほうがいいみたい。」

  ということは、自機は下方向に撃てないため、どうしても上方に撃たざるを得ないのだ。楽勝なように見えて、実は結構難しいのかもしれない。

  地上に向けないように、慎重に上空へ狙いを定め、ビームを放ち続けるレモネード。このままなら楽勝な任務なのだが…

  「このままならいいんだけど…」

  黄金に光る瞳は狙いを定め、とにかく撃ち続けた。

  「うぅ!くうぅ!」

  一糸まとわぬ姿のキョウカ…すでにステッキの中の赤い液体はすべて注入され、キョウカの姿を劇的に『魔法少女』の姿に変異させようとしていた。身体の中でなにかが生まれようとしている感覚……それは形容しがたい違和感であった。吐き気や腹痛ではない。しかし、どこか不快な感じがする。身体が作り替えられているような不快感と、それに伴う恐怖心のようなものが沸き上がってくる。

  それが体内で暴れているような感じがして、キョウカはとても苦しかった。息をするのが苦しいし、今にも吐きそうな感じさえする。

  「あぐぅう!!」

  思わず呻き声をあげる。身体が熱い。身体が燃えるようだ。

  「うぅぅぅう!!!」

  身体が破裂しそうな苦しみに耐えながらも、キョウカは必死にステッキを押し込み、ボタンを押し続け、そしてついに、その時は訪れた。

  ――

  「かはっ!!」

  思わずステッキを取り落としてしまうキョウカ。

  「あ…ステッキが…」

  ――もう『君』には必要ない。彼女と君はそもそも変身方法が違うのだ。

  「え…?どういうこと…?」

  そういえば、先程まで身体が熱く、燃えるような…破裂するような苦しみがあったにも関わらず、今のキョウカはそれを一切感じなかった。むしろ清々しい…そんな気分もあった。

  ―――念じるんだ。今の君なら、変身方法が分かるだろう。

  確かに、目を閉じれば、いつの間にか頭の中に入ってきた情報が、瞼の裏側に羅列されていた。なるほど……どうやら、わたしの変身方法は自分の意思で変身できるらしい。

  「うん……やってみる。」

  キョウカは目を閉じて、変身したいと願う。

  すると、身体の内側から、何かが這い出るように、身体中をうごめく感覚がした。まるで寄生虫が全身を駆け巡っているかのような…うぞうぞとした、気持ち悪い感覚…それが全身の指先に至るまで、隅々まで行き渡ると…『その感覚』は突如として訪れた。

  「[[rb:変身 > トランスフォーム]]!!」

  目を見開き、隅々まで行き渡った感覚とシンクロする。

  ボコ…ボコボコボコ!!

  体中が泡立つように、ボコボコと風船のように膨れ上がっていく。それはキョウカの手足をすらりと引き伸ばし、胸を成長させ、美しいラインを作り出していく。

  その姿はまるで粘土細工のように形を変えていき、徐々に人のような形へと変わっていく。

  背丈も伸び、手足もスラリと長くなり、胸もお尻も女性らしく成長し、腰もくびれている。髪はサラサラのロングヘアとなり、最後に

  ズズズ…!!

  と体中から戦闘服のカタチが浮き上がると、液状化していたそれは徐々に『服』となり、キョウカの新しい身体を隅々まで包む。そして、光が晴れると、そこにはれもん…レモネードと同じ服装をした、大人の姿の女性がそこにいた。

  「これが……『魔法少女』……!」

  自分の姿を眺めるキョウカ。そこに見えるのは、大人の姿の自分だった。

  身長はかなり高くなっており、170センチほどはあるだろうか。服のサイズはぴったりで、まるで自分が成長したかのように、身体にフィットしている。そして、髪の色は紫色に染まり、瞳は紅い光を薄っすらと放っている。

  ―――無事、変身出来たようだな。あとは君の『頭の中』に入った情報に従い、地球に迫る『脅威』を殲滅してくれ。以上だ。

  声はそう言うと、それ以上聞こえなくなった。れもん…レモネードを助けにいけということなのだろう。

  「わかったわ。それじゃあ行ってくるわね!」

  頭の中に入ってきた情報通りに、現世への空間転移を行う。光に包まれたキョウカは、『異なる世界』から現世へと帰ってくる。光のゲートをくぐり抜けると…

  ガゥン!!

  ガゥン!!

  ガゥン!!

  ステッキの先から放射状に極太ビームを、上空の無数の隕石に撃ち続けるレモネードの姿がそこにはあった。反動…または威力が凄まじいのか、一発撃つたびにレモネードの持つステッキが上方にマズルジャンブしているのが分かる。

  「キョウカさん…やっときた!」

  

  キョウカの姿を認めると、レモネードは安堵の表情を浮かべた。

  「お待たせ、レモネード!今助けるわ!!」

  (………と言ったはいいものの…私…必要かな?)

  間髪入れずに上空に放たれ続ける極太のビーム…しかも、ショットガンのように放射状に放たれるそれは、まるでマルチロックオンを常にしているかのように、無数の隕石を複数同時に落としていくのを見て、キョウカはそう思ったのだった。

  「……あれ、もしかして、私いらない?」

  キョウカは思わず、そう呟いてしまったのだった。

  「そう言いたいとこだけど、私の火力が高すぎて、地上の方向には撃てないの。万が一、わたしが撃ち漏らすことがあったら、キョウカさんにはそれを迎撃してほしい。」

  この会話の間も、レモネードは常に上空に極太ビームを撃ち続けているのを見て、あまりに余裕がありすぎると思ったが、とりあえず頷くことにした。

  「分かったわ。任せてちょうだい。」

  そう言って微笑むキョウカを見て、少しだけ安堵したのか、レモネードも微笑み返すと、またすぐに真顔に戻り、空の彼方を睨みつける。あれは…

  「大きい…!!」

  今までにない大きさの隕石。ひとつの都市ほどはあるのではないだろうか。炎をまといながら、ゆっくりと落下してくるそれは、今にも地上に衝突しそうだ。

  「キョウカさん、最大出力で撃つけど、おそらくバラバラに砕け散ってしまう!なんとか全弾迎撃はしてみるけど、万が一わたしが撃ち漏らしたら、お願いね!」

  そう言い残すと、レモネードは再び空を見上げる。

  「いくよ……」

  ―― バシュウウ!!! そんな音と共に、彼女の持つステッキの先端が光り輝くと……そこから溢れ出す魔力の光が、彼女を包み込むように輝き始める。そしてその光は段々と大きくなっていき……やがて、一つの大きな球体となって彼女を包む。そのエネルギーの塊が彼女のステッキの先端に再度集束すると、空気を震わせるほどの巨大なエネルギーが集まり、バチッ!バチッ!と放電を繰り返す。

  「いっけええええええええ!!!!」

  そして、そのエネルギーを一気に解放するように、彼女は巨大な隕石に狙いを定め、ステッキの先端を向ける。

  カッ!!

  「うわっ!!」

  思わずキョウカは目を瞑る。周囲を照らし、夜の闇すらも一瞬昼のように照らしたその閃光は、そのまま真っ直ぐに隕石に向かって飛んでいくと、轟音と共に、隕石を粉々に粉砕していく。

  「くっ……!!」

  しかし、それでも全てを打ち砕くことは出来ず、いくつかの小さな破片が、キョウカたちの元へと降り注ぐ。

  「はっ!!」

  キョウカは落ちてくる隕石の破片を見て、我に返った。あのサイズでも、一つでも地上に落ちれば、ひとたまりもないだろう。

  「まだまだぁぁぁぁ!!」

  間髪入れずにレモネードが拡散ビームをステッキから放つ!

  ドドドドドドド!!

  いくつかの隕石は撃ち落とすことができたが、3つほど取りこぼした。しかしそのサイズは、素手で叩き壊すには大きすぎる。

  「キョウカさん!お願い!」

  レモネードより下部に落ちてしまったため、レモネードは地上に向けてその大火力を撃つことは出来ない。あとはキョウカだけが頼りだった。

  頭の中の情報は、キョウカに語りかけてくる。

  ―――『第一形態』では、無理だ…と。

  「―――第二形態…ッ!!」

  キョウカはレモネードほど適性が高くなかった。いや、『もともと』…

  「ぐぁうっ!!」

  キョウカは自身の身体を抱きしめる。やり方は頭の中に入ってくるが、それは全身の痛みを伴う変化だ。構わず、全身の身体を『攻撃特化の形態』に変化させる。

  ゴキゴキ、メキメキ!

  自分の体を抱きしめている両腕の爪が鋭く伸びていく。両足の爪も長く伸びると、膝関節からは獣の脚のような形状に変化する。腕や足だけではない。体中の筋肉という筋肉が全て隆起していき、全身を覆う体毛が濃くなっていく。頭頂部から生えた耳は、頭の上に移動していき、三角形の形を取る。魔法少女の服はパツパツになり、大胸筋のカタチがくっきりと服に浮かび上がっているものの、破れることは無い。手や足も同様だ。

  グバッ!!

  突如、両肩の服装が変化を始める。両肩の部分がパックリ上下に割れたかと思うと、勢い良く伸びる。割れた部分の上下に鋭い牙が生え始め、頭部と同じように三角形の耳が生え、体中と同じく、紫色の体毛に覆われていく。ずず…とゆっくりとそれぞれが赤い目を見開くと、よだれを垂らしながら、長い舌が割れた肩から生え、それは犬のような頭部となる。

  ずるり…

  最後にキョウカの臀部から、毛の生えた尻尾が伸びると、キョウカの身体の変化は終わったようだった。

  「はぁ…はぁ…」

  (大丈夫?)

  (キョウカちゃん…)

  真ん中の頭部…キョウカ自身が体の変化の痛みに顔を歪ませながらも、心配する両肩に生えた犬の頭部…に

  「大丈夫よ。あなたたち、いきなりの大技だけど、やれる?」

  (キョウカちゃんがやれるなら…)

  (もちろん!任せてよ…!)

  両肩の犬の頭部はやる気満々である。

  「じゃあ、いくわよ!」

  (うん!)

  ((合体魔法!!))

  キョウカが両手を前に突き出し、空中で四つん這いの姿勢になると、両肩を正面に突き出し、自身も落下する隕石の一つに目を向ける。

  「あなたたちは左右の2つを!わたしは正面の隕石を落とす!」

  (おっけー!!)

  (任せて!)

  3つの紫の毛をした犬の頭部が、それぞれのターゲットをロックオンし、口を大きく開くと、開いた口に紫色の光が集まっていく…レモネードほどではないが、高威力の大技…!!

  「[[rb:地獄の業火 > ヘルファイア]]!!!」

  ゴォォォォォォ!!

  3方向に放たれた3つの火炎放射…!

  巨大な炎は巨大隕石の破片に触れると、それを溶かすように燃やし尽くしてゆく。[[rb:炎 > ほのお]]故に射程距離が決まっている。レモネードの放つ極太ビームと異なり、目標だけを駆逐する炎は、街には届かないように、その隕石だけを燃やし尽くす。

  キョウカの放った『地獄』の炎によって、3つの隕石は全て焼き尽くされ、地上への被害はゼロとなった。

  [newpage]

  「ふぅ……終わったわね…」

  「お疲れ、キョウカさん」

  傍から見ると、3つの頭を持つ獣人姿のキョウカのほうが強そうに見えるが、レモネードの『適性』はそれを凌駕している。なにより、拡散する極太のビームを撃ち続けても、レモネードの額は汗一つかいていない。対するキョウカは『第二形態』の顕現で

  疲労困憊……

  「はぁ…はぁ…。」

  (キョウカちゃん、大丈夫?)

  (無理しないでね…)

  両肩の2つの頭部が語りかけてくる。この子たちもまた、キョウカのことを心配して、話しかけてきてくれる。

  (ありがと……ちょっと休憩させて……)

  そういって、キョウカは空中で膝に手を置き、ガックリと項垂れるのだった…

  ―――よくやった。2人共。ご苦労だった。今現在、地球に対するこれ以上の『脅威』は確認されていない。もう戻っても結構だ。『魔法少女』達よ。これからも我々に代わり、地球の盾となれ――

  「了解しました、これより帰還します。お疲れ様でした」

  レモネードが謎の声との交信を終えると、キョウカはレモネードのほうを見る。

  「どうかした?キョウカさん…?」

  「いえ…別に…。」

  (キョウカちゃん、レモネードの『異変』に気づいてる…)

  (僕たちが、キョウカちゃん達をサポートしないと…)

  実はキョウカは魔法少女の『適性』が殆どないのだ。『魔法少女』の適性が高ければ高いほど、『異なる世界』の力を引き出しやすくなるかわり…それは『異なる世界』との同調率が高くなることを意味していた。そう、いまやれもん…レモネードは…

  (れもんさん…最初は嫌がってたはずなんだけど…どういうこと…?まるで、最初から自分が『魔法少女』だったかのように、当たり前に『謎の声』と話している―――)

  [newpage]

  2人は地上に降り、変身を解くと、小学校3年生の…もとの年相応の姿に戻っていた。

  「キョウカさん…それじゃ、また学校で。」

  「!?ああ、はい。れもんさん…さよなら…?」

  れもんは素っ気なく、まるで軍人のように挨拶を済ませると、さっさと歩いていってしまった。

  (れもんさん……あんなに冷たかったっけ……?いや、元々れもんさんはあんな感じだったっけ?)

  れもんは元々、活発な性格であったし、あんな素っ気ないクールなタイプではなかった気がするのだが、今の彼女はどこか違うような雰囲気があった。

  (キョウカちゃん…君が思っているとおりだ。もともと適性が高かった、れもんちゃんはともかく…キョウカちゃんは『適性』なんか全く無かった…だから『僕達』が投与されたんだ)

  (『僕達』がキョウカちゃんの身体に入ることで、キョウカちゃんの弱い『適性』をカバーする…だけどそれは…それを行うということは…キョウカちゃんの『身体』はもう…。)

  新しく、キョウカの身体と同化した、2頭の獣は言いたくとも言えない…キョウカの身に起こったこと、そして、れもんはすでに『魔法少女育成機構』の命令を忠実に守る、『尖兵』になってしまっていること――――

  (地球を守るためとはいえ、『機構』は残酷だね――――)

  (今に始まったことじゃないけど、『嘘』をついて、キョウカちゃんに『僕達』を投与する…やっていることは『人体実験』となにも変わらない…)

  ぞぞぞ………!!

  「………?くっ!!?…」

  キョウカの体中が虫が這い回るような感覚に襲われる。身体の中が熱い……まるで、マグマが流れているかのような感覚……吐き気と、痛みと、苦しみと、熱さと、様々な感覚が一度に押し寄せてくる。

  「くあぁっ!!」

  (キョウカちゃん!しっかりして!!気を確かに!!)

  「うっ……ぐっ……」

  キョウカはその場に倒れ込み、苦しそうに呻く。

  (まだ『僕達』がキョウカちゃんの身体に馴染んでいないんだ…大技を使うには早すぎた…身体に負担がかかってしまったんだ…)

  「はぁ……はぁ……私……一体どうなるの……?」

  まだ真実を言うには早すぎる。2頭の獣は、キョウカを…幼い子供を不安にさせないため、『嘘』をついた。

  (大丈夫だよ。キョウカちゃん…落ち着いていれば、それは治る。ゆっくり、深呼吸して…)

  (大丈夫だから……)

  「うん……わかった……」

  キョウカは言われた通り、深呼吸をする。なんとか、気分も落ち着き、身体に感じる気持ち悪さも、引いていくようだった。

  「ふぅ…」

  頭の中に聞こえてくる声。『第二形態』を顕現してから聞こえてくるようになった声に対し、キョウカは違和感を覚える。

  「ねぇ…あなた達って…何者なの?」

  (『僕達』は魔法少女のサポート役だよ…君が『そう』望んだんだ。)

  (よろしくね!キョウカちゃん!)

  そんな声が聞こえつつも、キョウカはまだ半信半疑だった。本当に自分は、こんな得体の知れない存在を受け入れてしまったのか?そんな不安に駆られてしまう。だが、ステッキの中の液体を身体の中に入れてからは、『それが当たり前』と言う情報が頭の中に入ってくる。…しかしいつまでも違和感が抜けない。

  「本当に…これが魔法少女の『当たり前』なのかしら…?」

  [newpage]

  「――――今回選ばれたもう一人の『魔法少女』に対し、言われたとおりに『[[rb:KERBEROS > ケルベロス]]』を投与しました。しかし、なぜこのようなことを?他に『適性』が高い者を探せばよろしかったのでは…?」

  研究員の一人が、上司らしき男に問いかける。

  「確かに君の言うとおりだが…『上』がうるさくてね…なんでも、『魔法少女』の数が足りないとかで、少しでも多く、『魔法少女』を確保せよとのことだ。適性などこちらで底上げしてやればいいと…」

  「なるほど……そういうことですか。ですが、『上』がそんなことを言うなんて…地球のためとはいえ、我々がやることも、『悪』となにも変わらないのでは……?」

  「まぁ、そう言うな……我々はただ『上』の命令に従うのみだ……片方の『適性』は他を凌駕しているのだろう?ならば問題ない…たとえ片方が潰れても、片方が次の『適性』を持つものが現れるまで保てばいいというだけの話だ。我々下々の者がやることは変わらない。ただ今までどおりのことをやるだけだ」

  「そうですか……わかりました。」

  男はそういうと、椅子から立ち上がり、ドアを開け、部屋を後にした。

  「どちらが『悪』か…」

  これで一人の少女の『人としての生』を潰してしまったことを思うと、男はいたたまれなくなる。

  「………許してくれ………。」

  それはキョウカに向けた贖罪のつもりだったのか、その言葉は誰にも届くことはなく、虚空へ消えていったのだった。