因果は巡る

  [chapter:前回のあらすじ]

  2016年5月。ケモノ界に暮らしていた狼の礼堂 乃愛ちゃん(小学6年生)は、下級生を殺そうとした事で周囲から激しく叱られる。

  自室に閉じ込められた彼女は、悪魔のディアブロッケン総統に誘われ、異世界にある悪魔の国・ファルゴーブ帝国へ。

  この国は様々な異世界から負の感情を集め、それをエネルギーや食糧に変える事で生活している。

  乃愛ちゃんは総統の元で暮らしつつ、悪魔の老婆・ダークリンデから魔法の修行を受けた。

  1年後。彼女はプレゼントとして魔法の杖をもらい、体を成獣の物に、名前を「エレノア」に変えてもらった。

  翌日、ファルゴーブ帝国と同じ世界に位置するファンタスティカ王国へ。ここは平和で、おとぎ話のような雰囲気だ。

  そこで1羽のカラスを手下としてスカウトし、「レイヴァン」と名付けた。

  それから数日後、エレノアは思い立った。

  「私はそろそろ自力で活動してみようと思う。どこかの平和な国を支配し、負の感情であふれる国に変えてやろうと思うのだ。」

  夕食の席でディアブロッケン総統に頼んだ。

  「素晴らしい考えだ!ぜひやってくれ。さすが私が見込んだだけはある。

  それで、どんな国に行くつもりだ?」

  「私の嫌いな物であふれた国さ。例えば悪臭とか。

  それであふれている世界なら、そこの住民にとってはそれが良い物のはず。理不尽な理由でそれを奪い取れば、負の感情を一気に集められるはずだ。」

  総統はある世界を紹介した。そこには様々なレベルの文明が同じ時間軸にあり、そのすべてが排泄や放屁に寛容だ。

  エレノアはおとぎ話のような文明の国に行く事を希望する。総統はいくつかの国を選び、メモに書いて渡した。

  「この3つの国がいいだろう。」

  「少ないね。でもお前が勧めてくれるなら、きっといい場所だろう。礼を言おう。」

  「それで、いつから向かうつもりだ?」

  「そうだね…3日後だ。

  レイヴァン、3日後から新たな地での生活を始めるよ。きっと素晴らしい物になるだろうねえ。フフフ…」

  覚悟を決めたエレノアは、不気味に笑った。

  [newpage]

  [chapter:エレノアの自立]

  それから2日後…旅立ちの前夜。

  ディアブロッケン総統が暮らす宮殿の庭で「エレノアお見送りパーティー」が開かれた。全国民が集められ、料理や会話を楽しんだ。

  エレノアは国で唯一のケモノ。そのため、国民からは注目されていた。

  姿を変えた日には、それを国民に報告している。そのためエレノアとなって日が浅いものの、国民は彼女の変身を理解していた。

  「エレノア様、成長おめでとうございます。」

  「私もエレノアさんみたいになりたい!」

  「明日から頑張ってください。この国に届く負の感情が増えるように祈っています。」

  老若男女に応援され、握手を何度もリクエストされる。エレノアは嬉しさを感じていた。

  「ここまで応援されるなんて嬉しいねえ。私はこの期待に応えるだけの成果を出してみせるぞ!」

  パーティーの後、総統はエレノアに小さな鏡を手渡した。

  「連絡用の鏡だ。もし吾輩と話したくなれば、この鏡に呼びかけてくれ。吾輩の持っているもう1枚とつながっているからな。」

  「嬉しいねえ。私が前に住んでいた世界にあったスマホのような物か。」

  「まあ、そんな所だな。ただし顔を写す事と通話以外の機能はないぞ。」

  「別に気にしないさ。私はスマホなど持った事がないからね。」

  エレノアは大窯を模した風呂で体を清め、心を落ち着かせてベッドに入った。

  (私は明日から新しい場所で生きる。しばらく総統閣下や部下たちとも直接は会えない。

  しかし、これは私が望んだ道。それに今はこの国が故郷と言っても過言ではない。

  愛する国、総統閣下、国民たちのために頑張らなくては…)

  考えているうち、眠りに落ちた。

  [newpage]

  翌朝、朝食を終えるとディアブロッケン総統は全国民に呼びかけた。

  「これよりエレノアは異世界へ出発する。皆で見送ろうではないか!」

  昨夜と同様、宮殿の庭に国民が集まった。

  「エレノア、元気でね。私の教えた事をしっかり生かすのよ。」

  ダークリンデが手を握り、涙を浮かべながら送り出す。

  「いろいろ頑張って欲しいし。負の感情をどんどん集めて欲しいし。」

  「エレノアとはしばらくお別れだね~!頑張ってきてちょ!」

  総統の忠実な部下、フィッシェ・アウゲとカッツェ・ゼーエンは普段の調子で見送った。

  それ以外の国民も、改めて彼女と握手やハグを交わしたり、励ましや別れの言葉をかけた。

  総統は仕事部屋に入り、世界検索装置を起動させた。

  これは異世界の情報を調べる他、そこへつながるワープ空間を自由に作り出せる。しばらくして庭にワープ空間の入り口が現れた。

  「それでは行ってくるよ。お見送り感謝する。」

  エレノアは見送りの声や拍手を背に受けながら入り口へ。彼女の自立が始まった。

  [newpage]

  [chapter:始まった支配]

  初めに向かった国は、ディアリア王国。緑が溢れる豊かな地で、欠点と言えば全国民のお腹が緩い事ぐらい。

  エレノアは城を乗っ取り、熊の国王や女王、姫を石化させた。

  レイヴァンは血にまみれる事を嫌ったため、その心配がない方法で国民を苦しめるようエレノアに頼んでいた。

  また、エレノアも血のにおいには不快感を覚えていた。ファンタスティカ王国でレイヴァンにシマリスの夫婦を解体させた時にそれを初めて嗅いだため、内心ではもう血を流したくないと思っていた。もっともその時は初めての手下に弱みを見せたくないため、平静を装っていた。

  そこで彼女は、国民を石化させようと思い立った。

  「手下と良い関係を築くには、相手の好き嫌いを理解する事も大切」。ダークリンデから教わった事の1つだ。

  また、石化させると恐怖に怯える顔を固定させられるため、自分に対する恐怖感がどれほどの物だったかよくわかる。

  さらに命を奪うわけではないため、いずれ復活させて動くようにすれば、また感情を持つようになる。もっとも、すぐに復活させるつもりはない。

  魔法で国中に声を送るエレノア。

  「さあ、この国は私が支配した!

  国民どもに命令する。ただいまよりこの国でのおならを禁止する!

  もししているとわかったら、直ちに石にするよ。現に王族はすべて石にしたからね。」

  国民は恐怖に怯え、家に閉じこもってしまった。

  とはいえ、おならは生理現象の1つ。出さないわけにはいかない。

  しかし、この世界ではおならが黄色い煙として目に見える。エレノアはレイヴァンを偵察係として使い、常に城で待機していた。

  黄色い煙を見つけると、レイヴァンはエレノアの元へ飛んでいく。

  嗅覚を持たない鳥類にはぴったりの役目だ。もしダークリンデの勧め通り狼を手下にしていたら、鼻が良すぎるため毎回のように気絶していただろう。

  「エレノア様、おならをしている住民がいました!場所は…」

  場所を聞くと、においが消えたタイミングを見計らい、魔法でその場所へワープする。

  「よくも私の命令を聞かなかったね。お前らは石になるがいい!」

  その言葉が終わった直後、住民は石に変わる。それはエレノアによって回収され、城の地下牢に運ばれる。

  彼女は毎日地下牢へ行き、石化した住民を眺めて楽しんだ。まるでエレノア専用の石像美術館だ。

  「素晴らしいだろう、レイヴァン?私の命令に背いた者は、こうして石像となり、私の目を楽しませる物になってもらうのさ。

  この恐怖に怯える顔。どれほど負の感情が集まってるか楽しみだねえ。」

  これを何度も続けた結果、国民の約半数は石化した。まだ動ける国民も、あまり外に出なくなった。

  おならを感知させないためには、締め切った場所で出すしかない。そのため、多くの種族は悪臭で気分を悪くするようになった。

  エレノアは時々、鏡でディアブロッケン総統に状況報告をする。総統によれば、この国からは負の感情が順調に集まっているようだ。

  「よくやったぞ、エレノア!この調子であと2国からも楽しみを奪ってくれ。」

  「ああ、もちろんさ。総統閣下と我が国のため、全力を尽くしてみせる!」

  [newpage]

  [chapter:総統の新たな計画]

  9月になると、エレノアは次の国…ガッシー王国へ。ここも同じように支配した。

  ここの国民はおならをする事が好きなため、負の感情はより多く集まった。

  1ヶ月後…

  「…そんなわけで、ここの国民も半数近くを石化させた。」

  「エレノアは本当に才能があるな。我が国はますます豊かになっているぞ。」

  「それは良かった。この国を選んでくれた総統閣下にも感謝しているよ。」

  「嬉しいお言葉だ。

  そうだ、吾輩は新しい計画を立てたぞ。お前がかつて住んでいた世界から、多くの負の感情を集める事にした。

  あの世界ではこれまで小さな方法でしか集めていなかったから、そろそろ大きな恐怖で襲おうと思ってな。」

  「面白そうだね。どんな方法だい?」

  「地球に巨大な隕石を向かわせるのだ。」

  「つまり地球を滅亡させるのか。総統閣下らしくないね。」

  「いや、滅亡などとんでもない。滅亡と思わせておいて、直前で回避させるのだ。

  私の能力で巨大な隕石を出した数分後に、小さな隕石も出す。地球に衝突する寸前で小さな隕石がぶつかり、軌道が変わって地球をそれていく筋書きだ。」

  「それだったら、住民はかえって喜ぶのでは?」

  「いや、負の感情を多数集められるだろう。私はそう考えている。

  隕石は突然現れ、24時間かけて地球に迫ってくる。何も対策ができていないのだから住民はパニックを起こすだろう。

  気の弱い奴は、隕石の衝突前に死を選ぶかもしれない。また『どうせ死ぬなら好き勝手にやってやる』と考える奴もいるだろう。

  また、手持ちの金をすべて使い切ったり、大切にしていた物を一気に使う奴もいるはずだ。隕石がそれたら、そいつらはきっと深く後悔する。

  恐怖、悲しみ、不安、焦り、後悔…様々な感情が一度に集まってくるはずだ!」

  「でも小さな隕石が数分後に来るとわかれば、大した事はないのでは?」

  「巨大な隕石が来るとわかった時点で、地上はパニック状態になる。つまり小さな隕石について、すぐに報道される事はないだろう。なにせ、地球が滅亡するであろう未曽有の事態が起きるのだからな。

  報道されたとしても、聞いている奴はほぼいないだろう。」

  「そうか、それはいい考えだ。やはり総統閣下は天才だねえ。」

  「早速準備を始める。エレノアはエレノアで頑張ってくれ。」

  「総統閣下もしっかりやるんだよ。それほど大量に負の感情を集められるチャンスなんて、滅多にないからね。」

  お互いを励ました所で、通話を終えた。

  [newpage]

  数日後。エレノアが石化した住民を眺めていると、鏡から声が流れた。フィッシェとカッツェだ。

  「エレノア、帰ってきて欲しいし!総統閣下が大変だし!」

  「そうなのよ!もう頭が相当カッカしちゃってるのよ!総統閣下だけにね~!」

  「そんな冗談言ってる場合じゃないし!」

  「わかった。何があったか気がかりだ。すぐに向かおうじゃないか。」

  エレノアは移動魔法でワープ空間を作ると、ファルゴーブ帝国へ戻った。

  ディアブロッケン総統は暴れながら怒りの言葉を叫んでいた。壁を殴り、床を転げまわり、カーペットの端をかじる。

  「ああ、なんて事だ!奴らがあそこまで平和ボケしてるとは!ウウーッ!」

  そこへエレノアが入ってきた。

  「総統閣下、いったいどうしたんだい!そんな駄々っ子みたいな真似をするなんて、国民が見たら幻滅するだろう!」

  「吾輩の計画が失敗したのだ!この吾輩が失敗するとは!落ち着いていられるか!ああーっ!」

  「落ち着きな。失敗など誰にでもある物さ。ダークリンデもそう言ってたよ。

  それで、どんな失敗を…まさか、あの隕石が地球に衝突したとか?」

  「いや、隕石は予定通りに地球をそれていった。

  予定外だった部分は、思ったよりも負の感情が集まらなかった事だ!『最後の日だから思う存分楽しむ』と考える住民があれほど多いとはな!

  初めのうちはパニックの感情が面白いように集まったが、10時間もしないうちに減っていった。手持ち金を使い切った奴はそこそこいたが、犯罪や死に走る奴は想像以上に少なかった!

  それを見抜けなかった吾輩は、総統として失格だ!ああーっ!」

  そこへフィッシェとカッツェも来た。手に紙袋を持っている。

  「もういい加減落ち着くし。これで機嫌直して欲しいし。」

  「総統閣下のために買ってきたのよ~ん!はい、プレッツェルとシュトーレン!」

  「エレノアの分もちゃんとあるし。」

  それを見ると、総統はいくらか落ち着きを取り戻した。

  「ああ、感謝する。お茶の準備をさせよう。」

  数分後、一同は大広間でお茶を飲みながら話した。

  「総統閣下、どうすれば成功したと思う?」

  「別の世界に隕石を向かわせれば良かったかもしれないな。

  考えてみれば、あのケモノ界では長きにわたって平和が続いている。だから住民の考えも平和になる。あの世界から大きな負の感情はあまり集められない事がわかった。」

  「じゃあこれからはどうするの~?」

  「大きな負の感情は、もっと別の世界から集める事にした。あのケモノ界からは、これまで通り小さな感情だけを集めよう。」

  「俺もそれが一番いいと思うし。」

  その日、エレノアは久々にファルゴーブ帝国で過ごした。町へ出ると国民が駆け寄ってくる。

  「エレノアだ!エレノアが帰ってきたぞ!」

  「またここで暮らすのですか?」

  「いや、ちょっと帰省しただけだ。久々に皆の顔が見たくなってね。明日にはまた旅立つつもりだ。」

  「そうですか。引き続き頑張ってください!」

  総統が暴れていた事は、秘密にしておいた。

  もしそれを話したら、総統に対する国民のイメージが悪化するかもしれない…彼女はそう考えた。

  翌朝にはガッシー王国へ戻り、また1ヶ月ほど滞在した。その頃には国民の9割が石化していた。

  「さて、そろそろこの国を出ようと思う。どうだね、レイヴァン?」

  「賛成です、エレノア様。」

  「それじゃ、明日には旅立とう。最後の国、スカンキー王国へ!」

  [newpage]

  [chapter:誕生日の悲劇]

  翌日の午前中。

  「…そんなわけで、行ってくるよ。最後の国だから、これまで以上に気合を入れるつもりだ。」

  「ああ、行ってこい。今度も期待しているぞ。吾輩はお前を信頼しているからな。」

  ディアブロッケン総統との通話を終えると、エレノアとレイヴァンは旅立った。

  行き先はスカンキー王国。スカンクのみが住む王国だ。

  その日、城の中庭は国民で賑わっていた。中央のステージでは国王が話している。

  「今日集まってもらったのは他でもない我が国のプリンセス、オーナラ姫の誕生日祝いだ。」

  「お姫様、おめでとうございます!」

  国民たちはオーナラ姫を讃え、同時におならをした。非常に強烈だが、スカンクにとっては良い香りだ。

  それから、プレゼントの贈呈が始まった。国王、女王、兄のヘガップ王子からプレゼントを贈られ、オーナラ姫は喜んでいる。

  「ありがとう!今日はこれまでで一番幸せな日かも!」

  その時だった。城の上空が暗雲で覆われ、雷が鳴り始めた。

  「なんだ、いきなり!?」

  「どうしたのかしら…」

  スカンクたちが不安に襲われていると、大音量の雷が轟いてエレノアが現れた。

  「おや、スカンクども。ずいぶんと楽しんでるみたいだねえ。」

  会場は騒然となり、国王と女王は驚きの声を上げた。

  「お前はいったい誰だ!すぐに出て行け!」

  「今日はお祝いの日ですから、楽しんで当然です。あなたこそいきなり入ってくるなんて、失礼だと思わないのですか!?」

  「口を閉じて私の話を聞きな。

  私はね、悪臭が大嫌いなのさ。お前らスカンクは、ただ悪臭を垂れ流すだけの汚い種族だ。

  だからこの国を私好みにするため、乗っ取りに来たのさ。」

  ヘガップ王子が言い返す。

  「だったらこの国から立ち去ればいいだろ!」

  「うるさい!それじゃつまらないじゃないか。今じゃ私がすべてだよ。」

  「この国を乗っ取らせるわけにはいかない!衛兵!」

  衛兵たちが素早く駆けつけてきた。

  「石になるがいい!」

  エレノアが言いながら杖を振ると光線が発射され、それに当たった衛兵たちは一瞬で石化した。

  「な、なんと恐ろしい…」

  「早く逃げろ!」

  国王は怯え、国民たちはパニックを起こし、慌てて逃げ始めた。

  その隙を狙い、また魔法を使う。国王、女王、ヘガップ王子も石化した。

  オーナラ姫はギリギリで光線から逃れ、急いで城の外に逃げた。その直後、エレノアが唱えた。

  「出でよ、透明障壁!」

  城の出入り口に透明なバリアが張られ、敷地にいるスカンクは外に出られなくなった。もちろん中に入ってくる事もできない。

  唯一逃げられたオーナラ姫は、絶望の表情で城内を見つめた。見つからないよう、顔を少し覗かせるのみで。

  「さあ、これで王族はただの石像と化した。つまり私が新たな支配者だ!

  支配者として、全国民に命令する。ただいまより、この国でのおならを禁止する!

  もししている事がわかったら、そいつも石像になるのだ!」

  「それだけはやめてください!おならは私たちにとって日常の一部です!」

  「口を閉じな!もう私がすべてだよ。

  さあお前たち、黄色い煙に別れを告げるのだ!ハッハッハ!」

  オーナラ姫は号泣しながら走り出した。あまりの事に気が動転し、まともに考えられない。

  (自分以外の家族は石にされてしまった。あんな絶望的な表情を浮かべながら。元に戻るかどうかわからないわ。

  国は魔女に乗っ取られ、国民はスカンクとして大切な事を奪われてしまった。私はプリンセスだけど、どうしたらいいかわからない。

  国民を助けたいけど、もし私が失敗してその相手が石にされてしまったらどうすればいいの?

  もう私には何もできない!おならをしても見つかりそうにない場所に…そうだ、森よ!)

  町を出ると、深い森がある。姫は森の奥へ消えていった。

  エレノアはこれに気がつかなかった。

  国民たちは、悲しみと怒りの表情を浮かべながら帰っていった。それを見届けると、エレノアは石化した王族や衛兵を地下牢へ移動させた。

  「相変わらずいい表情じゃないか。ねえレイヴァン?」

  「そうですね。特にこの女王様!」

  「やはり石化は何度見てもいい物だ。王も王子も恐怖に怯え…」

  「ちょっと、エレノア様!お姫様がいませんよ!」

  「ん?確かにそうだな。混乱に乗じて逃げたのか…」

  「どうします?魔法で探し出すとか…」

  「今は放置しておこう。姫は最後…つまり、私たちがこの国を出る直前に石化させるつもりだ。

  ここにいないとなれば、あの姫はすぐ逃げるような弱虫さ。そんな奴を放置しても、大した事はできないだろう。」

  その日から、スカンキー王国も絶望に包まれた。

  スカンクは悪臭に耐性があるため、締め切った場所でおならをしても気分を害する事はない。しかし豪快に出せないと、気分が沈んでしまう。

  結果として、負の感情も他の2国を上回る量が順調に集まった。

  エレノアはこの国が気に入った。ここの城は丘の上に建っているため、自分が頂点に立った気分になれる。

  1日数回、レイヴァンに偵察をさせる。そこで黄色い煙を目撃すれば、エレノアの出番だ。

  国中のスカンクは、次第に石化させられていった。

  [newpage]

  [chapter:あの子は今…]

  毎月初め頃の1~2日はファルゴーブ帝国に帰省。総統へ状況を報告したり、国民との時間を楽しんだ。

  2018年6月1日の帰省から、事態は大きく動き出す。

  「お帰り、エレノア。状況はどうだ?」

  「もう地下牢は石化したスカンクでいっぱいさ。私専用の石像館だね。」

  「半年以上も健闘しているようで何よりだ。しかし石像館とはまた面白い表現だな。」

  「ああ、私が前に住んでいた世界にあった剝製館に掛けたのさ。世界の著名なケモノを模した剥製を展示した場所だ。もっとも、田舎暮らしだった私は行った事がないけどね。

  全住民を石化させたわけではないが、そろそろ姫を石化させてあの国を出ようと思う。その後はまたここで暮らすよ。」

  「そうか。最後までしっかりな。」

  その日の昼食時、カッツェが楽しそうに語った。

  「昨日ここでケーキを食べてたら、いきなりゴキブリが出てきちゃったのよね!それを新聞でぶっ叩いたら…」

  ディアブロッケン総統とフィッシェが笑う中、エレノアは過去を思い出した。

  「ぶっ叩く…ぶった…豚…

  総統閣下。私がかつて焼き殺そうとした豚は、今どうしてるんだ?」

  「ああ、お前がここへ来るきっかけとなった奴か。食事が終わったら見てみるか?」

  食後、総統はエレノアを連れて仕事部屋へ。世界検索装置で現在の土井中村を覗いてみた。

  その豚…トントンは森で3匹の友達(アナグマの穴太郎、カワウソの川助、野うさぎのぴょん太)と遊んでいた。穴太郎と川助は服を着ているが、トントンはふんどし1枚、ぴょん太は腹掛け1枚だ。

  今日は全員が枝を持ち、穴太郎を先頭に歩いている。

  「敵が出たぞ!かかれ!」

  穴太郎の合図で、4匹は近くに生えている木の幹を枝で叩き始めた。ひとしきり叩くとまた合図が入った。

  「敵は倒れた!さあ、また進もう!」

  再び歩き始める一同。どうやら勇者ごっこをしているようだ。

  「フフッ…ハーッハッハッハ!」

  モニターを見ていたエレノアは、突然高笑いを始めた。

  「一体どうしたんだね?」

  「あんな格好で勇者気取りとは、もうおかしくて仕方ない!下着姿で武器は木の棒だけなど、ザコにもやられそうな格好だ!

  やはりあの豚は愚か者。あれから2年近く経っても変わってないとはじつに彼らしい。」

  「まあある意味当然だ。あの世界では去年から全住民の成長が止まっているようだからな。吾輩が手を加えたわけではないから理由は知らないが。」

  「しかし私は大きく変わった。強力な魔法が使えるようになったからねえ。奴らなど一発で殺せるだろう。

  スカンキー王国の姫を石化させたら、次はあの勇者もどきを始末してやろうかね!」

  「さすがエレノア。連中が死んだら、村中が悲しみに包まれるだろうな。今から期待してるぞ。

  そうだ、6月6日の事は忘れていないだろうな?」

  「ああ、建国記念日か。今年も盛大なパーティーを楽しみにしているよ。」

  スカンキー王国に戻ると、レイヴァンはオーナラ姫を探し回ったが、見つける事はできなかった。

  「エレノア様、今日も見つけられませんでした…もういい加減に魔法で探せばどうですか?」

  「いや、せっかく手下がいるのだからお前に探させないとな。」

  「今日も国を隅々まで探しましたが、見つかりませんでしたよ。外国に逃げたんじゃないですかね…」

  「もう少し注意して見たらどうだい?ドレスを着たスカンクなどすぐに見つかるだろう。」

  [newpage]

  [chapter:建国記念パーティー]

  6月6日の午後、偵察中のレイヴァンは森の上を飛んでいた。

  すると今までに見た事もないほど濃い黄色の煙が上がっていた。誰かがおならをしているようだ。

  「カーカー!エレノア様、エレノア様!」

  慌てて城に戻り、報告する。それを聞いたエレノアは驚きの声を上げた。

  「なんだって?この国にはまだおならをしているスカンクがいるのか?」

  「はい。しかもかなり濃い黄色でした。私は匂いがわかりませんが、あれはエレノア様には耐えられないでしょう。」

  「おならをするなど許さん!今すぐ石にしてやる!」

  彼女は勢いよく立ち上がり、杖を片手に城を出た。

  「さあレイヴァン、今すぐ私を案内するのだ!」

  「はい、エレノア様!」

  森へ向かっていると、ポケットに入れていた鏡から声が流れた。

  「エレノア、もうすぐ建国記念日のパーティーが始まるぞ!早く戻ってこい!」

  「ああ、そうだった。しかしよりによってこのタイミングとは…」

  エレノアは文句を言いながらもワープ空間を呼び出し、ファルゴーブ帝国へ戻った。

  /////////////////////

  宮殿の庭には豪華絢爛な飾り付けがされ、国旗が何本も立っている。テーブルには豪華な料理が並び、国一番の楽団やダンサーも揃っている。

  今夜は全国民がここに集まり、一晩中祝宴が続く。ディアブロッケン総統が会場にかけた魔法のおかげで、参加者は夜通し起きても眠気を感じない。

  エレノアにとっては3回目のパーティー。彼女は毎年この日が楽しみだった。

  「我がファルゴーブ帝国の建国記念日が、今年も到来した。

  国民諸君、このめでたい日を今年も心から祝おうではないか!」

  総統の挨拶からパーティーが始まった。エレノアも純粋な子供のように楽しんでいる。

  フィッシェやカッツェと共に料理を堪能したり、子供たちに混ざってゲームやダンスをしたり、楽団の演奏に聞き入ったり…

  この後に起きる事を考えると、今夜パーティーを楽しめた事はある意味幸せだったかもしれない。

  開会から3時間ほど経った頃、総統がエレノアを呼び出した。

  「お前に重要な話がある。だからこうして伝えようと思ってな。」

  「そうか、それはありがたい。それで話とは?」

  「吾輩が世界検索装置で調べたのだが、明日7匹の勇者がお前を倒しに行くようだ。

  勇者どもは今日、王国に着いた。それでその後…」

  「なんと!まさかそんな事が起きるとは思わなかったよ。教えてくれて感謝する。

  これは腕が鳴るねえ。私からも提案だが、私と勇者たちのバトルを国民一同に見せる事はできないだろうか?」

  「ああ、魔法でなんとかしよう。しかし今までそのような事もなかったのに、どうしたのだ?」

  「私はここに来て2年以上経ち、様々な魔法を習得した。手下も手に入れ、異世界の国を3つ支配した。国民も皆私に注目している。

  そこで、その成果を見せつけようと思ったのさ。建国記念日の最後を飾るのにふさわしい出し物だと思わないか?」

  「いい考えだ、エレノア。」

  「それから、鏡は置いていく。アドバイスを受けず、自力で戦いたいからさ。

  私はまたパーティーに戻るよ。頃合いが付いたら、今の話を国民たちにも伝えてくれ。」

  「ああ、わかったとも。その時にはお前にも来てもらうからな。」

  エレノアは再び庭に戻った。

  朝日が昇ってきた頃、総統とエレノアがバルコニーに立った。

  「国民諸君、パーティーももうすぐお開きだ。いよいよ最後のイベントが始まる!」

  バトルについて伝えられると、国民は沸き立った。

  「エレノア、すごいぞ!」

  「最後のイベントにぴったりね!」

  「あの子がどれほど強くなったか、楽しみだ!」

  エレノアも得意げな表情を浮かべた。

  「私が勝つように祈っていてくれ。きっと勝利を収めてみせるさ。」

  エレノアが庭へ降りると、総統はワープ空間を呼び出した。

  「それでは行ってくる。戦いが終わったら、また戻ってくるからね。」

  「行ってらっしゃい!」

  「頑張るんだぞ!」

  「実力を見せるんだ!」

  彼女は声援に送られながら、ワープ空間へ。その先はスカンキー王国の森だ。

  「我が子を見送るとは、このような感じなんだろうな…」

  総統はしばらく感慨に浸っていたが、ふとある事に気がついた。

  (待てよ、エレノアに肝心な事を伝えていなかったぞ!それに気づけばいいのだが…)

  [newpage]

  [chapter:捕らわれたプリンセス]

  森に着いたエレノアが歩いていくと、小屋が建っていた。

  「エレノア様、あそこです!昨日はあの煙突から黄色い煙が出ていたのです!」

  窓から覗き込むと、スカンクの女性が2匹で朝食を摂っている。片方は若く、もう片方は中年だ。

  「オーナラ姫、おいしいかしら?」

  「ええ、ヴェルトンさん!今日も最高の味よ!」

  それを聞いたエレノアは、表情を変えた。

  「オーナラ姫だと!? まさかここにいたとは!あんなみすぼらしい服を着ていたとは計算外だった…」

  「あの娘なら何度か見かけた事がありますよ。まさかあれが姫だったなんて…」

  「よし、姫1匹だけになった隙を狙おう。」

  朝食が終わって数分後。

  「オーナラ姫、私はトイレに行ってくるから後片付けをお願いね。」

  「わかったわ。」

  ヴェルトンがトイレに入った直後、エレノアは魔法で室内にワープした。オーナラ姫は驚きの声を上げる。

  「あ、あ、あなたは!」

  「やっと見つけたよ、オーナラ姫。もう逃がさないからね。」

  「キャーッ!ヴェルトンさん助けてー!」

  「つべこべ言わずに来るんだよ!」

  その時、ヴェルトンが慌ててトイレから出てきた。

  「エレノアね!彼女を今すぐ放しなさい!」

  「邪魔するんじゃない!」

  エレノアはオーナラ姫を連れ、城の地下牢へワープした。

  そこには前述通り、石化したスカンクが何匹も置かれていた。

  「ああ、みんなかわいそうに…」

  「でもね、お姫様。私にとっては素敵な芸術品なのさ。悪臭を放つスカンクも、こうすれば良い物になる。

  ほら、これは誰だかわかるかい?」

  「これはお父様!? お母様にお兄様も、ここにいたのね…」

  「そう、お前の愛する家族だよ。もっとも、今ではただの石像さ。」

  半年ぶりに再会した家族は、恐怖と絶望の表情を浮かべたまま石化していた。オーナラ姫は涙を浮かべ、それらに抱きつく。

  エレノアは抑えきれない笑いを浮かべながら、その光景を眺めていた。

  泣き声が少し収まった所で、また声をかけた。

  「私は何のために、お前をわざわざ連れてきたと思う?」

  「きっと私も石化させるためでしょうね。覚悟はできています…」

  「その通りだよ。物分かりのいい奴が石になるのは惜しいが、やっぱりスカンクだからね。

  さあ、お前はもうすぐそこの連中と同じ姿になるんだ。どう思う?」

  涙声で答えるオーナラ姫。

  「愛する家族と…同じ姿になれて…嬉しいです…」

  「自分から石化を望むのか。これほどまでに従順とは思いもしなかったよ。さあ、石になるがいい!」

  その声と同時に、オーナラ姫も石化した。

  「ついにやった!」

  「おめでとうございます、エレノア様!」

  「さあ、これで勇者を消したらファルゴーブ帝国に帰ろう。私がどう出迎えられるか楽しみだよ。」

  「きっと拍手や歓声が迎えてくれますよ。」

  /////////////////////

  宮殿の庭でも、喜びの声が響いた。

  「よく見つけたな!やったぞ!」

  「あれほどのスカンクを石化させるなんて、エレノアも立派になったわね…」

  「さあ、この調子で勇者たちも始末してやれ!」

  [newpage]

  [chapter:勇者の到来]

  エレノアは自室として使っている部屋へ。

  「レイヴァン、偵察に行ってくれ。もし勇者たちがこの城に近づいていれば、すぐ私に報告するのだ!」

  「はい、かしこまりました!」

  レイヴァンが窓から飛んでいくと、紅茶を飲み始めた。

  「戦い前には、心を落ち着けないとな。」

  飲み終わった直後、レイヴァンが慌てて飛んできた。

  「エレノア様、勇者が来てしまいました!」

  「よし、この城を奴らの墓場にしてやる!」

  魔法の杖を持ち、門が見える場所まで移動。7匹の勇者は城の敷地に足を踏み入れていた。

  その姿を見たエレノアは、笑い出した。

  「フフフ…アッハッハッハ!ハーッハッハッハ!」

  「エレノア様、何がそんなにおかしいんですか?」

  「武器も何も持っていないではないか。これは絶対に私の勝ちだ!」

  勇者は全員子供だった。種族はイタチ、コツメカワウソ、オオカワウソ、フェレット、スカンク、オコジョ(紅一点)、ラッコ。

  年齢は推定9歳前後。手には何も持っておらず、格好はパンツやふんどし、腹掛けなど下着1枚のみだ。

  数日前に見た穴太郎たちの勇者ごっこが頭に浮かぶ。木の枝を武器代わりにしていた彼らと異なり、こちらは無防備に等しい。勝っている点は頭数のみだ。

  エレノアは杖を掲げ、攻撃魔法を唱え始めた。長く詠唱するほど効果が強くなる。

  「出でよ大岩の群れ!流星群のごとく降りそそぎ、奴らに直撃するのだ!」

  門の上に大岩がいくつも現れ、勇者たちに向かって降り注いだ。

  これで勇者たちは圧死するだろう。エレノアも悪魔たちも確信した。

  しかしその直後、信じられない事が起きた。大岩は一瞬でシャボン玉に変わり、勇者たちにはダメージを与えられなかった。

  「な、なんだこれは!私の魔法が無力化されるなど、これまでになかったぞ!」

  「それじゃ他の方法で始末したらどうですか?」

  「言われなくてもそうするつもりだよ。攻撃魔法はまだまだあるからねえ。

  それより連中の中にはスカンクがいた。もしかしたらそいつのおならが武器かもしれない。あのスカンクだけ離脱させる事はできないだろうか…」

  勇者たちは城内に入った。エレノアは先回りして、攻撃方法を考えながら一同を観察する。

  廊下を歩いていた時、スカンクが便意を催した。それを聞いたエレノアはすぐに、トイレの近くまでワープした。

  この城には半年近く住んでいるため、部屋の位置はすべて理解している。

  スカンクがトイレに近づいてきた時、彼女は物陰から小声で詠唱しながら杖を振った。

  「起これ永遠の便秘!体内の固形物よ、永遠に留まれ!」

  しばらくすると、予想通りトイレからは踏ん張る声が聞こえてきた。

  「フフフ、うまくいった。これであのスカンクは便秘になり、トイレからは出てこられない。死ぬまでトイレにこもっているがよい!」

  残った6匹は、塔の螺旋階段を上がっている。エレノアは上まで先回りした。

  「出でよ弓矢嵐!突風のように奴らを襲え!」

  大量の矢が現れ、階段を降りるように飛んでいく。しかし悲鳴は一瞬しか聞こえなかった。

  それどころか「わあ、きれい!」と歓声が聞こえる。

  「どういう事だ!レイヴァン、何が起きたか見てきてくれ!」

  レイヴァンは勇者たちに気づかれないよう、事態を確認した。

  「エレノア様、階段には大量の花が落ちていました!あの矢はすべて花に変わったようです。」

  「また失敗か…」

  「でも階段を上がり切ったら塔の上ですよ。そこには逃げ場がありません。そこでとどめを刺しましょう。」

  「もちろんさ、レイヴァン。とっておきの魔法を使わなければねえ。」

  /////////////////////

  モニターを見つめる悪魔たちは、やきもきしていた。

  「エレノア、早く気づいてちょ!」

  「あの勇者たちには魔法使いが付いているんだし!でも虫のように小さくなってるし!」

  「ああ、吾輩が早く伝えていれば…」

  その通り、勇者たちはスカンクの魔法使い・ヴェルトン(姫と森で暮らしていた女性)にサポートされながら城まで来ていた。エレノアによる物理攻撃の無効化も、彼女の魔法による物だ。

  [newpage]

  [chapter:エレノア、ドラゴン化]

  エレノアは塔の上へ。しばらくすると勇者たちが上がってきた。

  「よくぞここまでたどり着いたねえ。そろそろ本気を出そう。」

  不敵に笑い、複雑な呪文を唱える。彼女は煙に包まれ、巨大なドラゴンに変身した。

  灰色の体、茶色の角、緑に光る目。

  「こ、これは…」

  さすがの勇者たちも怯えている。

  「さあ、この炎を見よ!」

  エレノアの吐いた炎は、塔の一部を一瞬で灰に変えた。

  「ああ、あんなのが当たったらひとたまりもない!」

  「喰らえ!」

  勇者たちに向かって炎を吐いたが、当たるより一足早くよけられた。

  「おのれ、すばしっこいイタチめ!」

  勇者たちのリーダー、ふんどしを締めたイタチが叫ぶ。

  「みんな、ばらばらに逃げよう!それなら当てられにくいぞ!」

  「わかった!」

  6匹は散り散りに逃げ始めた。

  「逃げるとは卑怯だぞ!」

  次々と炎を吐くが、一発も当てられない。腹掛け姿の太ったラッコも、見た目に反して素早く動く。

  何度目かの炎をイタチに向かって吐いた時、突然彼が盾を取り出した。隙を見てヴェルトンに授けてもらった物だが、彼女はそれを知らない。

  炎は盾で跳ね返り、エレノアに向かってきた。身をひるがえして炎をかわし、体制を立て直す。

  「武器があったのか!この!この!」

  何度も炎を吐くが、すべて盾で跳ね返された。それでもエレノアはくじけず、目をつぶって闇雲に炎を吐き続けた。

  「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」という言葉の通り、いつかは命中するかもしれない。

  しばらくして目を開けると、イタチ以外が消えている。

  「あれ?どこへ消えたんだ?」

  すると、イタチが泣き出した。

  「うわーん!みんな灰になっちゃったよー!守れなくてごめんね…」

  「ハッハッハ!見たか、私の炎のパワーを!」

  得意になり、高笑いを始めるエレノア。隙を見てイタチが階段を降りていった事には気がつかなかった。

  「さあ、最後はリーダーのお前を…

  あれ?いないぞ!さては逃げたか!」

  エレノアは塔の上につながる階段に向けて口を開けた。ここまで来られるルートはこの1つのみだ。

  「あのふんどしイタチがまた上がってきたら、炎で焼き殺してやる!」

  10分ほど待ったが、まだ上がってこない。口が疲れてきたが、それでも閉じなかった。

  イタチの姿が目に入ったら、すぐにでも炎を吐けるように…彼女はそう考えていた。

  /////////////////////

  エレノアがなかなか動かないため、ディアブロッケン総統はモニターに塔の中を映した。

  「そ、そんな!吾輩もすっかり騙されたぞ!」

  勇者たちは全員無事だった。イタチが泣きながら言った言葉は、エレノアを騙すための演技だったらしい。

  ヴェルトンは元のサイズに戻り、勇者たちと共に塔の上へ飛んでいく。先程のスカンクもトイレから連れ出されている。

  「エレノア!奴らはそこから来ないぞ!」

  全力で叫んでも、エレノアが鏡を持っていない以上は無駄だった。しかし彼女は「自力で戦いたい」と言っていたため、こちらから彼女の元に行く事もできない。

  悪魔たちはわずかな希望を持ち、固唾を飲んで見守った。

  [newpage]

  [chapter:因果は巡る]

  エレノアの背後で声が聞こえた。

  「黄金の煙よ早く飛べ!ドラゴンの鼻腔を直撃せよ!」

  「なんだ?」

  振り向くと、そこには倒したはずの勇者たちとヴェルトンが立っていた。

  予想外の出来事に驚きつつも炎を吐こうとした瞬間、勇者たちがおならをした。その黄色い煙は1つに固まり、すべて彼女の鼻に入った。

  鼻は強烈な悪臭で満たされ、内臓をかき回されるような不快感が全身を襲う。目も開けていられない。

  「うわあああ!鼻が曲がる!」

  エレノアは悲鳴を上げ、炎を闇雲に吐きながら暴れ回った。

  「ああ、ああ、そんな!イタチどもにやられるなんて…」

  「今だ!」

  イタチは隙を見て炎を盾で跳ね返し、エレノアに当てた。炎は彼女の全身を包み込んだ。

  「ギャーッ!」

  全身が灼熱に包まれ、耐えがたい痛みと苦しみに襲われる。それは地獄のような辛さだった。

  一瞬の間に、過去の出来事が脳裏をよぎった。

  「あんたって本当に臭いわね!ちゃんとお風呂に入ってるのかしら?」

  「失礼だな!毎日入ってるよ!」

  「ああ、わかった。生ゴミのお風呂ね。だからそんなに臭いのね。

  私、悪臭は大嫌いなの。生ゴミならさっさと焼いてやるわ!」

  「そんな事言わなくてもいいじゃないか!」

  「へえ、あんたってゴミのくせに動くししゃべるのね。面白ーい!焼いたらどんな声で叫ぶかしら?

  さあ、聞きたいから理科室に行って!あそこにはガスバーナーがあるからね。」

  すべての始まりとなったこの会話。過去のエレノア…乃愛ちゃんは、生きたまま焼かれる時の声を聞こうとしていた。

  その当時は想像もしていなかった。2年後に自分が生きたまま焼かれ、その直前にはこの世の物とは思えない悪臭を嗅がされるなど。

  あの時は知らなかったが、自分が焼こうとしていた相手はふんどしを締めていた。同じ条件を持つ子供に同じ事をされるとも想像していなかった。

  こうしてエレノア…礼堂 乃愛ちゃんは一瞬で灰となり、その一生を終えた。同時に上から見ていたレイヴァンも炎に巻き込まれ、燃え尽きた。

  彼女は不幸だったか、幸福だったか…それについては断定できない。

  [newpage]

  [chapter:誰かの幸福は誰かの不幸]

  エレノアが倒された事により、すべての呪いは解けた。

  空から暗雲が消え、石化されたスカンクたちも元に戻り、国には平和とおならが戻った。勇者のスカンクも便秘が治ったため、呪いが解けた瞬間に粗相をしてしまった事はご愛敬。

  勇者たちは祭り上げられ、一同を讃えるパーティーが始まった。昨日のファルゴーブ帝国に負けず劣らずの盛り上がりだった。

  /////////////////////

  一方、ファルゴーブ帝国は悲しみに沈んでいた。建国記念日のラストイベントが悲劇に終わってしまったからだ。

  「ああ、そんな、エレノアが…」

  「絶対勝つと思ってたし…」

  「エレノア、どうか安らかに…」

  ディアブロッケン総統たちは落ち込んだ。普段はテンションの高いカッツェも例外ではない。

  「エレノアは本当にいい子だったわ。それがどうしてあんな事に…」

  ダークリンデは特に悲しんだ。様々な魔法を習得させた彼女にとって、エレノアは実の家族と変わりない存在だった。

  「あの勇者どもに魔法使いがついている事を、なぜ伝え忘れたのだろう…吾輩にとって一生の不覚だ!

  エレノア、いつかお前の敵を討ってやるからな…」

  総統は自分の失敗を悔やみ、敵討ちを誓った。

  6日後、町外れの墓地にエレノアの墓石が立てられた。国民は次々とそこに足を運び、花や贈り物を供えた。

  墓の下にエレノアは埋まっていないが、国民は信じていた。彼女の魂だけでもここに戻ってきていると。

  /////////////////////

  エレノアが倒されても、1つだけ元に戻らなかった物がある。それはジェフの両親だ。

  魔法で操られたレイヴァンによって殺されたため、直接的に呪いがかかったわけではない。

  目の前で両親の惨殺死体を見たため心に傷を負ったジェフは、あれからエイミーに新たな家族を紹介してもらった。エイミーの家にも毎日出かけるようになり、彼女や森の動物と楽しい日々を送るうち、いつしか心の傷は消えていた。

  エレノアの墓完成と同日、エイミーはキャンバスに絵を描いていた。横では幼児から少年となったジェフが見ている。

  「エイミー、そりゃ誰だい?」

  「ジェフ、これは私の理想の王子様よ。私の夢はこんな素敵な王子様と出会う事なの。」

  「そんな夢があったのか!いつか叶うといいな。」

  ここから新たな物語が始まる。愛と冒険に満ち、ハッピーエンドを迎える物語が…

  [newpage]

  [chapter:エレノアの復活]

  あれから3年…2021年夏。スカンキー王国にシェルフィールド卿という白猫の青年が現れた。

  彼は全知全能の力を持つ独裁者で、残虐趣味を持っている。自分の住んでいた世界の住民を全滅させてしまったため、異世界へ仲間を探しに来た所だった。

  「魔女エレノアよ、現れろ!」

  彼の発言はすべて真実になる。そう唱えると、大量の灰が飛んできた。

  それをすべて集め、自分の世界に帰ると、エレノアを蘇生させた。

  「ん?ここはどこなんだ?…お前は?」

  「お目覚めですか、エレノア様。私が蘇生させたのですよ。」

  「そうか。礼を言おう。」

  「スーパーコンピューター3000万台分の頭脳を持つ私には、不可能な事などありません。死者蘇生など朝飯前ですよ。」

  「そうか。しかしスーパーコンピューターとはいったい…」

  「単純に言えば、複雑な計算を一瞬で行う道具ですね。私はそのぐらい優れた頭脳と全知全能の力を持っているのです。」

  「全知全能…私よりも強いのか…」

  「はい。ですがエレノア様も強力な魔法が使えたという話を聞きました。私はぜひともその力をお借りになりたいのです。」

  会話の最中、彼女はこう考えていた。

  (そう言えば、いつか総統閣下やダークリンデが言っていたな。死者蘇生は禁断の魔法だと。

  しかしこの猫はそれが使える。つまり総統閣下よりも強いというわけか。

  それなら、今から私はこの猫と暮らそう。私は強い者に就きたいのさ。あの総統の話など、ここでは封印しよう。

  でも彼も私の質問を少し勘違いしている面もあるようじゃないか。私はスーパーコンピューターの定義じゃなくて、どのコンピューターを基準にしたか聞きたかっただけさ。

  まあ、考えてみればそこまで重要な話でもないか。別の機会でもいいだろう…)

  /////////////////////

  エレノアの復活を知った総統は喜んだものの、彼女は総統を捨ててより強い相手に就いた。

  彼はそれを見て、彼女を呼び戻す事はあきらめた。

  「ああ、もう吾輩の知っているエレノアはいなくなってしまった…」

  /////////////////////

  エレノアはシェルフィールド卿によって、残虐な性格に改変された。それからも仲間を増やし、様々な世界を滅亡させた。

  勇者たちの島も、ファンタスティカ王国も襲った。直接手は下さなかったが、ファルゴーブ帝国まで滅ぼした。

  2022年3月、シェルフィールド卿一味はケモノ界に手を出した。エレノアの出身地だ。

  狙った地はさいたま市大上区。ランダムに選んだ住民を凶暴化させ、平和な町を地獄に変えた。

  その日、滅ぼされた世界から集められた生き残りたちが一味と戦う事になった。世界の運命を賭けた戦いだ。

  その中には、勇者たちのリーダーだったイタチやヴェルトンも混ざっていた。

  戦い前の食事で、イタチは一同にエレノアと戦った時の話をした。

  やがて戦いが始まった。その中で穴太郎たちも死んだ。

  初めは一味が優勢だったが、ふとした事で生き残り側が逆転勝利を収めた。エレノアは最終的にミキサーで粉砕された。

  詳細は省略するが、戦いの後に元凶のシェルフィールド卿が生まれないように過去が改変されたため、彼によって滅ぼされた世界はすべて復活した。

  エレノアは勇者たちに倒されて以来現れていないが、ファルゴーブ帝国は現在でも残っており、様々な世界から負の感情を集めている。

  エレノアの命日が来るたび、彼女の墓には花を供える行列ができた。時が流れても、彼女の事は誰も忘れないだろう。

  [newpage]

  [chapter:語り継がれる伝説]

  大上区に住むシマリスの栗田 永雄くん。戦いに加わった1匹だ。

  2022年8月、彼の元に穴太郎たち4匹が泊まりにきた。夜、ぴょん太が興奮しながら言った。

  「クリクリお兄ちゃん、何かお話してよ!今度は楽しいのがいい!」

  「お話か。そうだな…魔女退治の伝説にしよう。」

  「魔女退治か!面白そうだね!」

  「すっごく気になるぜ!」

  「ぼくの知らない話だといいな。」

  「心が躍るぜ!」

  胸を躍らせる4匹。栗田くんは嬉しくなり、話を始めた。

  「これは、ぼくが友達から聞いた話。どこの本にも載っていないんだよ。

  ある島に7匹の子供が住んでいた。種族はイタチ、カワウソ、スカンク…」

  それはエレノアを倒した勇者たちの物語だった。彼は戦い前の食事中にこの話を聞いている。

  かつてトントンは乃愛ちゃんに焼き殺されかけた。それから2年と1ヶ月後、エレノアとなった乃愛ちゃんは自分の炎で焼け死んだ。

  さらに4年後、その出来事はこうしてトントンの耳に入った。これで事態は一巡りした。

  彼らは知らない方が幸せかもしれない。その魔女が自分たちと同じ世界の出身な事も、自分たちがその魔女に殺される可能性があった事も…

  [chapter:おしまい]