神域を穢した者は狼の嫁となる

  暗い道路の中をバイクで駆け抜けていく。人通りもほとんどないような不気味な道はやけに静かで、風で木の葉が揺れる音も、動物の鳴き声の声もしない。

  エンジンの音が先の見えない暗い闇の中へ溶けていく。しばらく走っているとどうやら目的地に着いたらしい。空き地のように開けた場所へバイクを止めると、途端に木々がざわめき出した。

  「⋯⋯ここかな?」

  デジタルカメラを起動する。暗闇の中を歩き回るたびに枝がポキポキと折れる音が響く。ガサガサと藪の中をかき分けていくと、奥には廃れた古いであろう建物が現れ、それを懐中電灯の頼りない光でそれを照らすと数匹の蛾が光に集まりヒラヒラと光を反射して気色悪い。

  「大体、幽霊なんて科学的にありえない。馬鹿馬鹿しい」

  大抵の現象は人間の幻覚とか、錯覚で片付けることができるのだ。では、なぜ僕が今このように心霊スポットを巡っているのかというと、ネタ探しのためである。

  人は皆恐怖を求める。それは絶叫マシンしかり、バンジージャンプしかり。無駄にも思えるそれを人は娯楽として楽しむ生き物なのだ。それに便乗することはこの世界で生きるために必要なこと。明らかに廃墟でしかないこのような場所もてはやすような記事を書けばそこは心霊スポットになるのだ。

  「⋯⋯馬鹿な読者が多いものだ」

  いかにも出ますと言うような鳥居や石碑、何かの動物の石像を数枚パシャパシャと撮影する。後でそれっぽく加工を加えればあっという間に心霊写真の完成というわけだ。眠気覚ましに飲んでいた缶コーヒーの空き缶を茂みの奥へ蹴飛ばす。

  ⋯⋯ガサガサ。

  突如、茂みをかき分けたような音が聞こえる。テリトリーを追い出されたホームレスか、あるいはこの辺りを闊歩しているヤンキーか。どっちにしろ幽霊よりも人間の方が怖いというのは明白である。早いところ立ち去ろう。

  バイクのエンジンを入れようとした時、二つの小さな光が茂みの奥から覗かせているのが見えた。おそらく野犬か何か野生動物だろうが、ネタにもならなさそうなのでそれを無視して僕はバイクでその土地を後にした。

  眩しいブルーライトを全身で受け止める。退屈であくびが出てしまいそうだ。

  「⋯⋯はぁ」

  先日訪れた廃墟の写真を加工して、カタカタと当たり障りのない文章を書いて、ようやく一つのページが完成する。最近は仕事が来ることだけでもありがたいので決してクライアントに言うことはできないのだが、本来であれば旅行やグルメの記事を志望していた。それなのに経っても心霊系のネタを書き続けている今の生活にうんざりする。しかしインターネットの台頭によって現在雑誌は厳しい境遇にいる。そのため確実にお金が稼げるような、購入者が多いネタが多くなるのは仕方のないことなのだろう。

  「⋯⋯つまんねー」

  キラキラと、自分の感じたものや見たものを感性のままに書くライターの仕事を夢見ていたが、実際にはこんなものかとため息を吐く。

  長時間のデスクワークで少し肩が重いのでググッと伸びをして、散歩にでも出かけよう。

  昼と夜の狭間。それっぽくいうのであれば逢魔が時だろうか。昔ならいざ知らず、今時になって夕暮れを不吉だと思う人なんていないだろう。

  ゆっくりとレストランで食事でもしようかと通りを歩いていると、妙な看板を見つける。それは以前この通りを通った時には空きテナントとなっていたところだった。

  「⋯⋯[[rb:咒屋 > まじないや]]?」

  黄色い背景に黒の文字。何をする店なのだろうか。[[rb:咒 > まじない]]という文字から推察するにオカルト系だろう。となると、占いか⋯⋯?

  仕事のネタになりそうだと思いながら引き戸を引くと、思ったよりも軽くドアが開かれる。中は薄暗く、湿っぽい。

  オカルトを信じないとは言うものの、好奇心は人一倍ある方だと自負している僕は奥へと足を進める。

  「なんだここ、占いでもするのか?」

  キョロキョロと見回すと先客も誰もいない人気のない店ということがわかる。掃除も行き届いていないようで、いくつか並んである椅子には埃がうっすらと積もっていた。

  「⋯⋯いらっしゃい」

  奥から低い男の声がする。暗い店内でよく顔が見えないが体格がかなりしっかりとしているようだ。そんな人間が占いなんてやるのだろうかと疑問に思う。

  「あの、ここは?」

  「ここではあなたの運勢を占うほか、霊障に悩まされている方の相談に乗ります」

  「⋯⋯はぁ」

  胡散臭い。それを察知したのか彼は椅子を指さして座るように指示をする。

  「⋯⋯一度試しては?」

  机に置かれた値札表を見ると、300円との記載。まあその程度の値段であれば偽物でもいいだろう。記事のネタにもできそうだ。

  財布から小銭を出して渡すと、それを大きな手で受け取り指先で数える。鋭く長い爪がコツコツと音を立てて小銭に触れる。

  「⋯⋯さて、まずあなたの悩みは?」

  「⋯⋯まあ、仕事ですかね。想像していたような内容の仕事ができなくて、最近は仕事も減ってきて」

  「⋯⋯ほう? ライター、ですか」

  ボソッと彼が呟いた言葉にドキリとする。しかし、非科学的なものを信じない僕はたまたま当てたか、統計からそう読み取ったのだろうと考える。しばらくの沈黙の後、僕は言葉を発する。

  「はい。おっしゃる通り僕はライターをしているのですが、興味がない心霊スポットの記事ばかりしかお仕事をもらえず。おまけに最近は肩も痛いし」

  それっぽく肩を回して話を誘導する。この肩の痛みは学生時代の頃ブログを書いていた時からの痛みであるため幽霊は一切関係ない。これで『肩に霊が寄りかかっている』などというならばおそらくこの人は偽物だ。

  「⋯⋯それはそれは。確かに、数人霊がついていますね。一人は怒っている様子です」

  ⋯⋯やはりこの男も偽物だ。所詮300円。お腹も空いたし、ネタにもならなさそうな会話を切り上げてさっさと帰ろう。もう少し面白いことを言ってくれたのなら記事にでもしたのに。

  「そうですか。ではもう時間ですし帰りますね」

  椅子から立ち上がると、低く男は呟く。

  「⋯⋯あなたはその心霊スポットで空き缶を捨てませんでしたか?」

  睨むような二つの光。ピンポイントで指摘された僕の行動に思わず声が漏れる。知り得ない事実を突きつけられた僕は一瞬本当に見えたのかと思ったが、すぐに冷静に分析する。きっと記者がゴミを散らかすという話をよく聞くからそれを当てずっぽうで行ったのだろう。そう考えれば最初に仕事を確認したのも納得がいく。

  「それに対して霊は怒っているようです。よろしければお祓いいたしますが」

  「⋯⋯どのように?」

  「あなたはただ心から謝るだけで良いのです。あとは私が話をつけましょう」

  存在するかも不確かな者に謝る? それじゃあまるで幽霊を僕が信じているようだ。決して僕は幽霊を信じないし、科学が全てだと思っている。だいたいこんな胡散臭い男が話す内容なんて信じられない。

  「⋯⋯結構です」

  引き戸を引くが、ガタガタと音を立てるばかりでびくともしない。入った時とは別のドアのように、暗闇の中で僕を遮っている。

  「⋯⋯謝るだけで良いのに」

  「幽霊だとか信じるなんて馬鹿らしいですからね。科学的に考えればすぐにわかることですよ」

  ぬらりと立ち上がる男を睨む。が、様子がおかしい。大柄なその姿は人間のように二足歩行をしているが和装の下は毛に覆われていて、人とは思えない大きな口をしている。まるで、犬か狼のような⋯⋯。

  「何者だ! こんな趣味の悪いドッキリはやめろ!」

  テレビのドッキリか何かだと思い叫ぶ。どこからともかく『ドッキリ大成功』だとか書いた立て看板を持った人が現れることを期待するも、そのような気配はない。しかし、ドアの前で困惑する僕をよそにジリジリとその男はこちらに近づいてくる。

  「何を言ってるのでしょうか。あなたは先日訪れた私の聖域に侵入しましたね? しかも、このゴミを置いて」

  毛に覆われた手で持っているのは僕がよく飲むコーヒーの空き缶。それを紙屑のようにグシャッと潰す。

  「反省の色があるなら許そうと思いましたが⋯⋯。やはり人間は愚か。神域を穢した罰を受けてもらいましょう」

  引いても叩いても開かない引き戸から剥がされ、店の奥へと引きずられる。そして、僕に覆い被さるように牙を見せるのは人間の姿ではなかった。

  「さて、あなたには穢れを祓った時に無くした力を返すためにここで私に喰われる必要があります。本来であれば人の誤りなど許すべきなのですが⋯⋯。あいにく私は信仰を失った神。穢れを清めたことで失った力を得るにはあなたの命が必要です。まだまだ若いあなたの肉を食べることができれば私も十分に力を取り戻すことができそうです」

  大きく開く口には鋭い牙が並んでいる。これで噛まれたら命はないと感じ、身震いする。こんなことになるのなら、咒屋などという言葉に誘われて入らなければよかった。

  「そんなに怖がらないでくださいよ。あなたは運がいいようですね。今回はもう一つの選択肢があります。それは私の嫁となることです」

  ⋯⋯嫁? 僕は男だぞ? と疑問に思っていると、続けて目の前の化け物は口を開く。

  「⋯⋯驚いたような顔をしていますが。我々のような神は性別よりも縁の結びを重視するのです。本当のところは私も一人で静かに暮らしていたかったのですが、父が嫁を娶れとうるさいのです。そこで試験的にあなたを嫁として迎えてみようと考えたわけです。⋯⋯意味が分かりますか?」

  「⋯⋯その嫁になったらどのようなことをする必要があるのですか?」

  「普段と変わらない生活を送ってもらって構いませんよ。ただ、一日に一度私を敬っていただければ。人間を抱く気にはなりませんし、契りさえ結んでしまえば父も満足するでしょう」

  つまり、こいつの嫁になれば命は助かる⋯⋯ということだろうか。僕はまだ色々なものをみたい。こんな変なところで死ぬなんてまっぴらごめんだ。それに、嫁になったからと言って特に不利益があるわけではないだろう。

  「⋯⋯じゃあ、嫁になります。これだけでいいんですよね?」

  というと、満足そうに目の前の狼は目を細める。気色の悪い人外を目の前にして嫁になるなどという日が来るとは思わなかったが、これがそもそも夢だという可能性もある。

  いや、夢である確率が高いだろう。

  「それはよかった。人の肉など私も食べたくはありませんからね。⋯⋯少し良いですか?」

  目の前が毛に覆われる。口の中に入り込むヌメヌメと湿った舌が音を立てて口内を一周する。何が起きたのか分からないまま、呆然としていると今度は僕の服を剥ぎ取り始める。

  「⋯⋯え?」

  「ああ、安心してくださいね。もちろん食べませんよ? ただ⋯⋯あなた、旅が好きなようですね?」

  「⋯⋯はぁ」

  ライターの仕事だって、旅が好きだから始めようと思ったのだ。色々なものをみて回るのは自分の知らないものを見ることができて、とても楽しい。

  「あなたには分からないでしょうが他の神の匂いがついているのが少々気になりましてね。おそらく旅行で神社などを参拝した時についたものだと思いますが」

  ベロリと肌をひと舐めされる。その不快な感触に鳥肌が立つ。思わず足で狼の頭を蹴っ飛ばすと奴は怪訝そうな顔をして言葉を紡き始めた。

  「⋯⋯あなた、嫁になるということは私に身体を捧げるということですよ? それなのに他の神の匂いがついていたら嫌じゃないですか。命を奪われないだけマシだと思うのですが」

  「⋯⋯それは、その」

  不機嫌そうにこちらを見つめる狼。言い分は分かるのだが、もう少しほかに方法はないのだろうか。

  「そんなに嫌なのであれば今ここで食べてしまっても良いのですよ?」

  突如、バクリと腕が口に含まれ圧迫される。ブチブチと肉が引き裂かれるような感覚と骨が粉砕する普通に生きていれば聞くことはないであろう変な音。そして今までに遭遇したことのない痛みが全身を駆け巡る。

  ⋯⋯股が生ぬるい。ガクガクと足が震える。

  「あっ、すみません。私としたことが力を入れ過ぎてしまったようです」

  と言って、ぐちゃぐちゃになった右腕を見つめる。こん何なってしまってはもう今まで通りの生活なんてできやしない。文字を書くことも、美味しくご飯を食べることもままならないのか。その冷酷な事実を目の前にボロボロと無意識の涙が溢れる。もう殺してくれと思うような痛みにビクビクと身体が痙攣する。しかし、世にも奇妙なことにみるみる腕は元の形に戻った。

  「⋯⋯また力を使ってしまいました。元はと言えばあなたが嫌そうな顔をするのが悪いんですよ?」

  「⋯⋯だって、気持ち悪⋯⋯」

  と思わず呟いてしまったところでしまった。と口を押さえる。しかし、放った言葉は無慈悲にも狼の耳に届いてしまったようで、不気味に光る目でこちらを睨む。

  「⋯⋯あなたは立場を分かっていないようですね? 神域を穢したお詫びとして嫁になると言うのに、私が匂いを落とそうとすれば私の頭を蹴飛ばす。しまいには私を気持ち悪いと。⋯⋯あまり怒らせない方がいいですよ? 温厚な神ほど怒れば何をするか分かりませんからね」

  「うぁ、あ」

  牙を見せて小さく唸るのが恐ろしい。そもそもいきなりこんな存在を知って受け入れることができるわけないじゃないか。

  「⋯⋯ところで名前は?」

  呆れたように、黒い狼が尋ねる。口を開こうとしたときに、一つの話を思い出した。

  『魔物に安易に名前を教えてはいけない。真名を知られたが最後、支配されてしまう』

  オカルトなど信じていなかった僕だが、この時ほど心霊系のライターをしていてよかったと思った。

  首を振り返事を拒否する。

  「⋯⋯真名を言わないのは賢いですね。しかしあなたは私に身体を捧げるのですから伝えなければならないのですよ?」

  ⋯⋯あ、どうやらまた怒らせてしまったらしい。僕を押さえつける力がさらに強くなっていくのを感じる。

  「⋯⋯取り乱しました。私も力を使い過ぎたので少しじっとしていなさい。本来はこのようなことはしたくないのですが、このままでは力が枯渇してしまいます」

  蛇に睨まれたカエルのように硬直しきった僕の身体から布が全て取り除かれる。もう、帰りたい。人(人ではないのだが)の目の前で粗相するなんて痴態を晒してしまったことにショックを受けていることに気がついていないのか、目の前の狼はやけにスンスンと鼻を鳴らす。

  「ああ、失禁していたのですね。大人にもなって恥ずかしくないのですか?」

  と言って、軽蔑するような視線を向けられる。それがひどく恥ずかしくて恥ずかしくて、目を逸らしていると温もりを股に感じる。

  「やっ、ちょっ⋯⋯」

  グチャ、ピチャ、ピチョ⋯⋯。

  やけに大きく水音を立てて、目の前の狼は僕の股に顔を埋める。一見すると捕食されているように見えて恐怖を感じるも、的確に与えられる刺激に否が応でも身体が反応してしまう。声を押し殺そうと手で口を押さえるが、その度により激しく刺激が与えられるせいで我慢ができない。

  運の悪いことに、最近は忙しく処理をしていなかったのだ。慣れない感触に出会い、すぐに感情は昂りだす。

  ジュルッ、ズポッ、ジュッ、ジュルル⋯⋯。

  「はなっ、あっ、もう無理っ、あ!」

  頭を引き剥がそうとしても離れず、その結果獣の口内で久しぶりの吐精をする。放たれたものの行き先は狼の喉で、それをなんの躊躇いもなく飲み込む姿に狂気を感じた。

  「⋯⋯え、飲んだ?」

  「⋯⋯ック。はぁ、体液など気色悪いと思っておりましたが案外いいものですね。力も取り戻せますし優れた供物なのかもしれません」

  ペロリと舌で指を舐め、とち狂ったかのような感想を残す狼。全裸を見られ、尿を漏らしたところも見られ、自分の精液を飲まれるなどと言う恥でしかない出来事の連続に顔は沸騰しそうなほど熱を帯びている。

  匂いを落とすためと言いながらベロベロと身体を舌で刺激される。もどかしい感覚から逃れようと身体をクネクネと動かすが、もちろん固定されているために逃げる事は叶わない。

  耳の裏を舌で触れられればそこから全身へと得体の知れない何かが蔓延していく。ハムハムと甘噛みされてしまえば、四肢に力が入らない。息がだんだんと上がってくる。動悸がする。お構いなしに全身を大きな舌で舐められて、嫌悪感が快感へと上書きされていく。

  分厚い舌による愛撫が止む。一通り全身を舐め終わって満足してしまったのかと、ほんの少しだけ心残りを感じながら彼をみると様子がおかしい。片手で僕を押さえつけていたのがいつのまにか腕全体で抱くような体制になっていて、その結果先程よりも彼の体重を感じる。

  熱い息が顔にかかり、大きなマズル越しに紺青色の目が妖しく揺らめく。

  「⋯⋯官能的ですね。まさか、人間がここまでそそられるものだとは思っていませんでしたが」

  品定めをするように僕を見つめると、彼はするすると自身の腰に巻いた帯を解き始める。ゆっくりと胸元から服をはだけさせると豊かな獣毛が現れ、下半身は今の時代見ることはなさそうな白い褌を身につけているようだった。

  それは山のように膨張しており、もしも人間と同じ仕組みであるのならば興奮しているようだ。ハラリと落ちる布。見せつけるように腰をくいっと動かしたのにつられて赤黒い肉がゆっさゆっさと揺れる。

  「最初は人間など抱くつもりはありませんでしたが⋯⋯。どうやら私にもそのような欲はあるようです」

  スリスリと腹に擦り付けられるたびになんともいえない匂いが鼻につく。ぬちょぬちょとした感触が気持ち悪いが、何故だか胸がドキドキとする。

  「やぁ⋯⋯いや⋯⋯あ」

  「ああ、先程気が付いたのですがどうやら私は拒否されるとより心が乱されるような性質のようで。その言葉も甘美な響きに聴こえるのですよ」

  その言葉を耳で受け、割れ目に熱の接触を感じる。まさか、このまま入れるつもりなのではないか? それは流石に看過できない。拒絶の意味を込めて必死に首を振る。

  「無理っ! そんな! 嫁になるだけって言ったのに!」

  「やはり気が変わったのですよ。嫁となる契りは既に交わしたのですからおとなしくしなさい!」

  ズズッ。先端の細くなった部分が秘部に触れる。そして、そのまま浅く出し入れが繰り返される。

  反射的に侵入を拒もうと力を入れてしまうが、なぜか力が上手く入らない。それどころかあっけなく侵入を許してしまう。

  「私の力で抵抗できないようにしてありますからね。ほら、私を受け入れなさい」

  グググッと押し込まれる質量に息が詰まる。いくら追い出そうとしてもそれを無視するように肉の塊は入り込んでくる。

  痛みはない。でも、あまりの存在感にお腹が苦しい。

  「あああっ! いっ、あっ! んっ!」

  「入りましたよ? これが初物というのでしょうか。なかなかに窮屈で、それでいて心地いい」

  ズルッと引き抜かれ一瞬腹部の圧迫感から解放されたかと思いきや、再び奥に押し込まれる。その周期は段々と短くなっていき、運動の度に肉を抉られる感覚がする。

  「いっひっ、はっ、あっ、や、やめっ、やめでっ!」

  「ふふふ。もっと早くに嫁を貰っておけばよかったですね。こんなにも良いものだとは」

  はっ、はっ、はっ。荒い息遣いが上半身に吹きかかる。その度に、全身の感覚細胞がビクビクと刺激を享受して、脳が快楽物質を放出する。

  後頭部を手で押さえられ、口内も犯される。ジュルジュルと音を立てて交換される熱は混ざり合っていくうちに平衡となり、一体化していくようだ。

  大きなマズルが離れると銀色の橋がかかり、それが儚くプツリと切れる。

  「ほらっ、気持ちが良いのでしょう? もっと声を聞かせなさい! 神域を穢した者よっ!」

  肉同士がぶつかり合う衝撃に頭がクラクラする。腸の中はもうズタズタになっていそうではあるがやはり痛みはなく、むしろ気持ちがいい。思考が蕩けて狂ってしまいそうだ。

  「あっ、はっん、ん、わっ、あぁ! いっ、きもちいっ、きもちっ!」

  ズチュ、ズチュ、グチュ。

  ふわふわの体毛が対照的につるつるな肌と擦れ合うたびに火花のように表面で弾け飛ぶ快感と、身体の奥から感じる快感。二つの押し寄せる感覚にもう意識を手放しそうになる。

  「⋯⋯さて、こんな時に聴くのも無粋ですがあなたの名前は?」

  突如、落ち着いた声色で語りかけられる。

  「えっ、あっ、はっ、あっあぅ、なっ、なまへっ?」

  「そうです。先程聞きそびれてしまいましたからね?」

  腰の動きが徐々に落ちていく。それと共に冷静さを取り戻すと、今の状況を鮮明に客観視してしまう。

  「⋯⋯あっ、えっ、い、いやだっ!」

  「⋯⋯言う気がないのですか?」

  「言ったら、だめだって⋯⋯あっ、いっいや! うごかないで!」

  一度だけ大きく身体が貫かれる。それのせいでまた頭がおかしくなって、全てがどうでも良くなってしまう!

  「ほら、ほらほら。楽になりたければ早く言ってしまいなさい。真名を今ここで言うのです。⋯⋯言ったら先ほどのように気持ちよくしてあげますよ?」

  甘すぎる言葉。理性は必死にこのまま逃げろと言っているのに、それよりも大きな声で快楽を享受しろと本能が叫ぶ。

  無論、天秤は本能に傾いて⋯⋯。

  「あっ、うぁ、うぅ⋯⋯。しっ、栞でっ⋯⋯あっ!」

  名前を耳にした途端、再び運動が始まる。

  「栞っ⋯⋯! あなたが神域を穢したのが悪いのですからねっ! いいですか? 中に注ぎますよっ! 受け入れなさい! グッ⋯⋯アッ」

  速度を増すピストン運動。このまま出されてしまってはもう元には戻れなくなる。その前になんとかしなければという本能が自然と働き始めて、毛に覆われた胸を叩くもそれは彼にとって意に介するものではなかったらしく、腰の動きが止むことはなかった。

  「ああアぁあ! はっ、はぅあ、ご、ごめんなざい! いやっ! 出しちゃだめーーーーーっ!」

  しかしその言葉は逆効果だったようで、ウッと小さく狼が唸ると、ぶるぶると中で震えるものはドクドクと液体を注ぎ始めた。引き抜こうとしても抜けるはずはなく、お腹がグルグルとなり始める。

  全身が覆い被されて、目の前は天井も見えない。あるものは大きな獣の身体だけだった。

  「はぁ、はぁ⋯⋯。私の⋯⋯嫁。もう、離しませんよ?」

  直接触れ合う唾液の交換。もう力も入らない僕はただ応じるままに舌を絡ませた。ジンワリと広がる体内の熱に頭がのぼせてしまいそうだ。

  ——結論から言うと神はいたし、幽霊もいた。

  以前目に力を込めてもらい心霊スポットで撮った写真を見るとはっきりと、大量のおぞましい異形の姿がそこには写っていた。それを見てから僕はもう一人で心霊スポットにはいけなくなってしまった。

  「⋯⋯あの、離れていただけると」

  キーボードと僕の間に入り込む不機嫌そうな和装姿の黒狼。僕の要望は無視され、湿った鼻と僕の口が触れる。

  「あなたはやはり私の嫁という自覚がなりないようですね。以前伝えたはずでしょう」

  「いや⋯⋯! これは仕事で⋯⋯」

  目の前には少し前に訪れたとある神社の記事。最近は運が味方についたのか旅行やグルメの記事などといった仕事が増えてきたのだ。これが神が近くにいることの効果、なのだろうか?

  しかし、それは別の問題も生み出しており⋯⋯。

  「やはり一度抱き潰して理解させないといけないようですね」

  「⋯⋯いつもされてるし」

  やけに神社に関係する仕事が増えたと思ったら、どうやら僕を嫁にしようとする神様がなんとかして自分の神社に引き寄せようとしているらしい。一度誰かの嫁になるとそれが神様の間では瞬時に伝わってしまうようだ。

  最後に誤字脱字を確認して、完成。保存した後にパソコンの電源を落とす。

  「⋯⋯やっと終わった」

  「では、まず最初はその嫌な匂いを落としましょうか」

  ニヤリと笑いながら布団に横たわる大きな獣。和装をはだけさせたことによって現れるふわふわの毛が僕を誘う。

  「⋯⋯ちょっと一瞬いい?」

  モフモフの胸毛に顔を埋める。獣くさいというよりは、陽だまりの匂い。これは神様だからなのだろうか。

  「本当にあなたは私の匂いが好きですね。変態ですか?」

  「いや、ほんとにいい匂いなんだって」

  触れるだけのキスをすると、何か妙案を思いついたかのように彼はつぶやいた。

  「今度神社の目の前でまぐわいましょうか」

  「⋯⋯なにそれ。見られるじゃん」

  「わざと見せつけるんですよ。神社といえば、奈良か京都ですかね? それならあなたは楽しく旅行することができますし、私はあなたが嫁であることを他の神に知らしめることができます。⋯⋯立派に祀られているのもなんだか腹立たしいですし」

  ピチャピチャと水音を立ててそんなバカみたいなことを考える狼の頭を叩く。⋯⋯変態はどっちだ。