私は今、断崖の上にそびえ立つ城に設置された展望台のような場所にいる。
禍々しい形をした玉座に座り、眼下の景色を見下ろしながら。
遙か彼方まで、何十万もの数の魔物達が私に頭を垂れて跪く姿が見て取れた。
その光景は、私という存在が如何に強大な物であるかを嫌でも認識させられる。
「魔王様、これが今日から魔王様が率いる軍勢に御座います。 彼らにその存在をお示し下さい」
私の横で、魔神将ヒョローがそう告げる。
彼の言葉に私は軽く頷き、玉座からゆっくりと立ち上がると大きく息を吸い込んだ。
そして、全ての魔物達に向かって声を張りあげる。
「私の力と言葉は絶対である! 私は万物の支配者! 私に仇成す全ての者にシ…… 制裁を!」
私の言葉に魔物達の咆哮と大歓声が上がる。
今、私は魔王としてこの世界に君臨した。
女子高生だった私が、魔王に仕立てられた瞬間だった……
◇◇◇
一週間前まで、私は普通の女子高生だった。
授業を終え、自宅に着き部屋のドアを開けると、そこは見知らぬ場所だった。
異世界転移…… なのだろうか。
しかし私は交通事故で死んだわけでもなければ、神様からチート能力を授けられた覚えもない。
現に私をめがけ、人の姿を逸脱した魔物達が奇声を上げながら向かってきている。
恐怖と絶望で死にたくなるがなんとか踏みとどまって、一か八かで暴れ回った。
「嘘でしょ?」
彼らは弱かった。
覆い被さってくる魔物の顔を手で払いのけると、その首は千切れ飛ぶ。
腕を振り落とせば、魔物の体は真っ二つに裂け内臓を撒き散らしながら崩れ落ちた。
私が強くなったのか、この世界の生物が弱いのかは分からない。
ただ、私にはこの世界で絶対的な支配者として生きていく力があった。
大量の血と肉が付着した自分の手を呆然と見つめていると、中々におぞましい姿をした悪魔が私の前に跪いた。
「この世界を統一し、我らを導いて頂けますでしょうか。 魔王様」
頷くしか選択肢は無かった。
◇
その後、私は右も左も分からないまま城へと案内された。
大勢の魔物達が私に跪く中、玉座に腰を下ろした私に、一人の悪魔が膝をつき頭を垂れた。
彼の名は魔神将ヒョロー。
妖魔族という種族らしく、かなり高貴な身分らしい。
姿も結構エグイけど。
側近となった魔神将ヒョローは、私に色々なことを教えてくれた。
人間を滅ぼし、魔族達の国を創ると決めたこと。
そして、彼らを導くための王を探していたことを。
「あの、私高校生…… というか、生まれてまだ16年しか立っていないんですけど。 そもそも人間なんですけど」
私の言葉に、魔物達から一斉に笑い声が起こる。
ヒョローですら、声を必死に押し殺して笑っていた。
「またまたご冗談を。 何のために人の姿に擬態しているのかは分かりませんが、あれだけの力を持つ者は人ではありません」
ヒョローの言葉に私は少しカチンとくる。
まるで私を化物のように扱うヒョローにイラッとした私は、軽い気持ちでキッと睨みつけた。
直後、彼の体から見る見る大量の冷や汗が流れ出る。
そして、彼の体がビクビクと痙攣を始めた。
「も、申し訳ございません魔王様!!」
ヒョローが頭を床に擦り付けるまで下げながら謝罪する。
ガタガタと震える彼の姿に私は、少し罪悪感を覚えた。
「あ、アハハ…… 冗談ですよ冗談。 頭を上げてくだ──」
「いい加減にしろ!!」
私の声を遮り、城中に響き渡るほどの怒号が響いた。
その声の主はヒョローではなく、最前列にいる一人…… 一匹? の魔物。
うん、完全に竜人だねあの姿。
「キキョロン卿! 王を前に無礼であるぞ!!」
ヒョローがキキョロン卿と呼ばれた魔物に怒鳴りつける。
しかし、彼はそんな言葉を無視してヒョローさんをギロリと睨みつけた。
私、食べられちゃいそう……
「あの、ヒョローさん? 彼は一体……」
「魔王様がいらっしゃるまで、魔王候補だった竜王キキョロン卿です」
ヒョローさんの言葉に私は彼に目を向ける。
なるほど、嫉妬か……
まぁ、いきなり現れたどこの馬の骨とも知れない私にその座を取られれば、敵対心を抱くのも分かる。
ここはなんとか和解したいところだ。
私は立ち上がると、ゆっくりとキキョロン卿に近づいていく。
「初めまして竜王キキョロン卿さん」
私は精一杯の笑顔を作り、手を差し出しながらそう挨拶した。
彼は私を睨みつけながら手を握り返す。
「くっ! 何という握力! バカ力のメスが」
キキョロン卿が苦悶の表情を浮かべながらそう吐き捨てた。
私は笑顔を崩さないまま、竜王の手を握りしめる。
ミシミシと骨が軋む音が響き、彼の額に脂汗が滲み出た。
彼のそんな姿に、私はニッコリと微笑みかける。
「レディーに対して、いきなりその暴言は失礼じゃ──」
「グアァッ!」
グチャ!
という不快な音と共にキキョロン卿の右手が潰れてしまった。
あっ、やっちゃった!
「お、おのれぇええ!」
キキョロン卿が腰から剣を抜き、私の首目掛けて横一閃に薙ぎ払う。
私の首から一瞬火花が散り…… 彼の剣が粉々に砕け散った。
「何すんのよ!!」
私の声にキキョロン卿の体が吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。
壁にめり込んだ彼はズルズルと崩れ落ち、そしてそのまま動かなくなってしまった。
うわぁ~ 私の体、めちゃめちゃに強くてちょっと引くわ……
「お怪我はございませんか! 魔王様!!」
ヒョローさんが慌てて私に駆け寄り、再び膝をついて私を見上げる。
周りの魔物達が、私を恐怖の眼差しで見つめていた。
「大丈夫です。 それよりキキョロン卿さんが……」
私が彼が埋もれた瓦礫に目を向けると、他の魔物達が一斉に膝をつき頭を下げた。
お~ 凄い。圧巻。
これが恐怖による支配というやつか……
「あなた様は力を持ってその存在を知らしめ、魔王としてこの我々を統べる王となられました。 我らはあなた様に絶対の忠誠を誓います」
こうして私は魔王として、担ぎ上げられてしまった。
そして、今に到る……
◇◇◇
魔王として魔物達の前で演説を終え、私は信じられないほど豪華な装飾が施された自室で寛いでいた。
ベッドで横になり、不思議な食感をもった果物っぽいものをポイポイ口に放り込みながら。
「これ美味ひいね」
モグモグと口を動かし、私は至福の一時を味わいながら、その片隅でこれからの事を考えていた。
正直、最初は早く元の世界に帰りたいと思っていた。
右も左も気色悪い魔物。
食事は明らかにヤバそうな色と匂い。
日がな一日、ゲームや漫画などを楽しんでいた女子高生にはハードルが高い世界だった。
しかし、一週間もするとそんな気持ちはどこかへと消えてしまった。
私が足を伸ばせば、お付きの従魔が慌てて飛んできて足を暖かなタオルで拭いてくれる。
お腹をさすれば、すぐさまデザートが用意される。
露出度の高いメイド服を着た淫魔さんが、何でも言うことを聞いてくれるのだ。
悪くない。
というかむしろ最高!
異世界バンザイ! 王様バンザイ!!
私は改めて思う。
もうこのままでいいよね?と……
帰り方だって分からないし。
「あの、魔王様。 少しよろしいでしょうか」
「何だい? セバスチャン」
「いえ、私はヒョ…… いえ、今日から魔神将セバスチャンとお呼びください」
私の前に跪き、そう告げるセバスチャン。
うん、権力最高。
「で、私に何か用?」
「はい。 恐れ多くも恐縮ではございますが……」
何か私に言いにくいことなのだろうか?
セバスチャンの歯切れがあまり良くない。
「遠慮せずに言ってよ。 何でも聞いちゃうよ?」
「有り難きお言葉。 その…… 魔王として、もう少し威厳を出されてはいかがかと思いまして」
あ~ うん。
何となく言いたいことは分かる。
私が着てるの高校の制服だしね。
威厳も何も無いよね。
「なら、私に合う服を用意してくれる?」
私の言葉にセバスチャンは、深々と頭を垂れた。
そして、満面の笑みを浮かべて私の前に再び跪く。
「魔王様に相応しい装いをこのヒョ…… セバスチャン、すでにご用意しております」
さすが私の側近。
仕事が早い。
私に相応しい衣装……
一体どんな豪華なドレスなのだろうか。
本当はウェディングドレスみたいな物が希望だけど、まぁ一応魔王だし黒とか赤いドレスも許そう。
私がキラキラと目を輝かせている表情を見たセバスチャンは微笑みを浮かべ。
指をパチン!と鳴らた。
「わっ!」
私の目の前に黒い大きな箱が突然現れる。
黒のドレスかな?
そわそわする私の前で、セバスチャンがその箱を開くと中には……
「……え?」
鎧? のような物が鎮座していた。
2メートルは超えるだろうか。
中世の騎士がつけていたような全身鎧…… いや、違う。
なんだろうこの造形は。
何となく生々しさがある。
「セバスチャン? これって何?」
「[[rb:魔鎧 > まがい]]に御座います。魔王様のためにご用意させて頂きました」
何? 魔鎧って……
私は鎧に近づき、その造形をまじまじと見つめる。
明らかに私とサイズが合わない巨大な鎧。
それに、脚の部分とか関節の数がおかしい。
膝と足の間に逆関節あるし、どう見ても私じゃ着れないよね? これ。
それにこの素材、絶対に金属じゃ無い。
何というか、生物的な何かだ。
う~ん……
「これ、私着るの無理じゃ無い?」
「着る? いえいえ、魔鎧ですから纏えば自然と体が適合いたしますので」
適合!?
私はセバスチャンの言葉に思わず後ずさる。
鎧が私に合わせるんじゃ無くて、私が合わせるの!?
「お気に召しませんでしたでしょうか……」
「いやいや、気に入る気に入らないとか言う以前に、私の体は伸び縮み出来ないから! 無理無理」
いくら魔王である私でも、素は人間。 無理に決まってる。
セバスチャンは、何とも申し訳なさそうな、残念そうな表情を浮かべ鎧に手を添えた。
「承知いたしました。 では、せめて礎となった者達に敬意だけでも……」
「敬意?」
どういう意味だろう。
私がキョトンとしていると、セバスチャンは鎧を頭から順に手を添えていく。
「頭部と胴は竜魔族の特攻隊長エモル、腕と脚は獣魔族の第1軍将軍のヤインと第2軍将軍ダルタ、そして腰は……」
「ちょ、ちょと待って! まさか、この鎧って……」
セバスチャンが無言で頷く。
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
もしかして、いや、もしかしなくても……
この鎧は魔物達の犠牲の結晶!?
「皆、魔王様の一部となれる事を誇りに思い、進んで志願し喜んでその命を捧げました」
「なに…… それ」
魔の者達が私に対して命を投げ出したという事実に、思わず体を震わせた。
私が魔王らしく見えるようになる為だけに、命をも犠牲にした……
それを私は踏み躙った。
彼らが私の体の一部となる事を誇りに思い、そして喜んで受け入れてたのに。
私はそれを拒否したのだ。
申し訳ない。本当に申し訳ない……
だけど……
「ごめんなさい! これは無理です! 私には荷が重すぎますー!! 」
私は鎧に背を向け一目散に走りだす。
そんな私をセバスチャンは不思議そうに見つめていた。
背後から「やはり淫魔将の言う通り触手は付けるべきだったか……」 という見当違いの声を聞きながら、私は部屋を飛び出した。
◇
夜。
適当に場内をブラつき、部屋に戻ってきた私はベッドのフカフカな感触を楽しみながら寛いでいた。
入り口に例の鎧…… 魔鎧が置いてある事を除けば、この豪華な部屋は最高だ。
何故か先程は無かった触手が腰回りに追加されている。
「きもっ……」
コンコン
扉をノックする音。
セバスチャンだろうか?
「どうぞぉ~」
私が返事すると扉がゆっくりと開かれ、一人の悪魔が姿を現す。
うん、見たことある。
確か結構お偉いさんだった気がする。
「お休みの所、失礼致します。 魔王様に拝謁を賜りたく参上致しました」
「え~とぉ~ あなたは……」
「侵攻指揮を執らせて頂いております魔神将のダビデビダと申します」
そうそう。
凄い名前だから記憶にある。
「何か用ですか? ダビデビダ将」
私はベッドから体を起こし、彼に向き直った。
従魔とセバスチャン以外がこの部屋に来る事って無かったから、ちょっとドキドキする。
ダビデビダ将は膝をつき、私に頭を下げた。
「人間共が、我らに反抗する動きを見せております」
「人間が?」
複雑な気分だ。
自分も人間であるのに、どの口が言っているのか……
しかし、一応は悪魔の長として振る舞わなければならない。
私は表情を引き締め、ダビデビダ将に尋ねた。
「状況を詳しく」
「はっ。 現在ヒョロー…… もとい、魔神将セバスチャンが指揮を執り、人間共の抵抗を抑え込んでおります」
ヒョローはセバスチャンに改名したようだ。
「彼が指揮を執っているなら大丈夫でしょう。 何か問題でも?」
「実はセバスチャンからの伝令で、魔王様にご出陣頂けないかと……」
出陣!?
私が!?
「どうして?」
「も、もうしけ御座いません!! 出過ぎた事を! セバスチャンの奴めが魔王様の存在を人間共に知らしめる良い機会だと申していたもので…… どうかお許し下さい!」
そんなに畏まらなくても。
噛んでるし。
私ってそんなに怖い存在なのかな?
まぁ、確かに威厳を出すのは大事だと思う。
特に配下の者達には。
一応魔王として良い生活をさせてもらってるし、ちょっと頑張ってみるか……
「分かりました。 出陣します」
「有り難き幸せ! すぐにテレポートの準備をいたします!」
私の言葉を聞いたダビデビダ将が、再び頭を深く下げる。
そして、嬉しそうに部屋を飛び出していった。
テレポートなんてあるんだ。
◇
私はダビデビダ将と一緒にテレポートなる魔法により、戦場へと送られた。
一瞬で目の前の光景が変わり、セバスチャンが何やら嬉しそうに私を見つめている姿と、眼下に整列する魔物達の姿が見えた。
どうやら、私は人間達が住む街の周囲に張り巡らされた外壁の上にテレポートしたようだ。
魔族達の先に人間達が竹槍やらハンマーのような物を持って、こちらに敵意を剥き出しにしているのが見える。
「今はどんな状況なんでしょうか?」
「双方にらみ合いの状態でして、互いに反撃のタイミングを図っております」
私がいきなり戦場に現れたせいで、人間達が攻撃してくるかと思っていたけどその様子は無い。
なら、挨拶だけして帰らせてもらおう。
うん、そうしよう!
「聞きないさい!人間達よ!! 私は魔王…… 魔王……」
やばい、名前考えてなかった。
何にしようか……
え~と……
「わ、私は魔王デーモン! い、以後お見知りおきを!」
私の自己紹介に、人間達がどよめく。
魔王デーモン……
うん、コッチの人には通じないだろうし大丈夫だろう。
「今日は挨拶代わりに出向いたまでだ! これからは一緒に……」
ベチャッ!
私の顔に泥団子のような物がぶつけられた。
「ふははっ! 見ろよあの小娘! 人間じゃねぇか!」
「アレが魔王だと? 笑わせてくれるぜ!!」
人間達がゲラゲラと笑いだす。
どうやら、私が魔王だという事を信じていないようだ。
頭にきた私は、足元に落ちていた泥団子を掴み取った。
あ~あ……
穏便に済ませたかったんだけどなぁ~
ちょっと悲しい。
私は泥団子を拾い上げ、思いっきり人間達に向けてぶん投げた。
それは一直線に投げつけた男の頭にヒットし…… 彼の頭部は吹き飛んだ。
「あっ、やべっ! 私凄く強いんだった……」
後悔後の祭り。
人間達はパニック状態に陥り、一斉に悪魔に向かって突撃を始めた。
目の前で、悪魔達が次々と人間に討たれていく。
当然人間の方も、殺されていく。
しかし、私は人間のことなど眼中に無かった。
私を慕い、命を懸けて私を守ろうと盾になる者達を、その命を……
「魔王様! これだけの人間相手ですと援軍を要請しなければ、魔王様に危険が!」
ダビデビダ将が私にそう進言する。
そして、外壁の下からもセバスチャンが私に向かって声を上げた。
「隊列の立て直しに時間がかかります! 魔王様は城へご避難を!! ダビデビダ! 転移魔法を発動しろ!」
「心得た!」
ダビデビダ将が魔法を発動し…… 私はそれを手で制した。
「セバスチャン、魔鎧をここへ転送できますか?」
「え?」
私の言葉を受け、セバスチャンが私に顔を上げる。
その顔は驚きと困惑、そして嬉しさで満ち溢れていた。
きっと、私がこのまま暴れればこの戦には勝てるだろう。
しかし、それではダメだ。
私はすでに人間にナメられた。
私が人の姿だから、魔王だと信じてもらえず人間にナメられたのだ。
その結果がこれだ……
私が魔王である事を人間共に刻ませなければならない。
アレを纏えば、きっと私は魔王としての存在を示せるだろう。
多分、それだけでこの戦は終わ──
「──様! 魔王様!! 後ろに魔鎧を転送しました! “着装”の一声を!!」
「え? 」
私の後ろにすでに魔鎧が現れていた。
いつの間に?
凄まじい威圧感を放つ魔鎧……
いや~ いざ見るとやっぱキツいかなぁ~
こんなのと同化するとか…… やっぱ無理っぽい。
「魔王様!!」
「分かったって! “同化”!!」
私がそう一声を発すると、セバスチャンとダビデビダ将がギョッとした表情を浮かべた。
一体どうしたのか?
そう思った瞬間、魔鎧が……消えた。
「まさか魔王様が着装で無く同化を選ばれるとは…… くっ!」
「流石で御座います魔王様。 人間共は思い知るでしょう、魔王様の偉大さを」
あれ? なんでセバスチャン達が泣いてるの?
っていうか、着装と同化って違うの?
「あの…… 私は一体どうなっちゃ…… ぎぃやぁああアアッ!」
強烈な痛みが私の体を駆け抜けた。
それもそのはずだ。
私の体が急激に膨れ、伸び、そして血肉を撒き散らしている。
メキメキと音を立てながら、肉の間から魔鎧が姿を表した。
魔鎧は巨大化し、私の体の形を構造を変えていく。
痛みで気を失いそうだ。
「うっ! うがぁあぁあァアッ!」
首がズルズルと伸び、私の視点が空を仰ぐ。
口が目にハッキリと見える程前方に迫り出し、鼻も膨れ上がりマズルが形成される。
まるで竜のような…… 竜魔族を思わせる顔に。
私の腕が肥大し、鋭い爪が伸びる…… 獣魔族の手。
私は自ら魔鎧を纏ったのではなく、魔鎧と融合されたのだ。
私の体は作り変えられた。
もはや人間とは呼べない、本物の魔族…… 魔王デーモンとして……
「グルルッ……」
視界がクリアになっていく。
目が開き、口が開く。
口から牙が飛び出し、涎が地面へと滴り落ちる。
「フフッ…… ファハハハッ!」
思わず笑いが込み上げてくる。
凄まじい力と、人では得ることの出来ない全能感が私を支配していた。
そして……
プシュッ!
下半身から湧き上がる快感。
長く伸びた首をもたげ、股間に視線を送る。
私の股から白い液がとめどなく溢れ、噴き出していた。
わたしの股間は淫魔将の生殖器から作られているようだ……
「魔王様! なんと素晴らしいお姿! このセバスチャン、感無量に御座います!」
眼下の魔族達も、私をまるで神を見るような眼差しで見つめている。
私は、自分の変わり果てた姿を改めて確認する。
うん。
これはもう完全に化け物だ。
魔族とかそういう物を超越した、それこそ犯しちゃいけない領域に片足を突っ込んだ存在だろう。
だったら……
私は牙の並んだ口を全開に開き、天を仰ぎ見る。
そして。
「グギャアアアアアッ!!」
大地を揺さぶるほどの咆哮を放って勢いよく跳躍した。
うわっ、すご!
逆関節と化した脚から放たれた跳躍力は凄まじく、私は一瞬で反対側の外壁まで到達した。
眼下に広がるのはここに住む人間達の住居だろう。
透視した限りでは皆、私が先程まで居た向かいの外壁に集まりもぬけの殻のようだ。
女子供も別の場所に避難していることが匂いで把握できた。
「私の存在も示せたし、ここら辺を焼き払えば人間達もしばらくは大人しくなるはず」
私は口を大きく開き、竜魔族の力を使って火炎のブレスを吐き出した。
一瞬にして業火に包まれ一面が火の海と化す。
「すっご!」
いやぁ~ ちょっとやり過ぎたかな?
でも、人間共には良い薬になったはず。
魔王を怒らせた罰は大きいぞ人間共め!
私は背から翼を生やし、大きく羽ばたかせた。
「フハハハッ! 愚かな人間共よ! 魔王に逆らうとどうなるか、思い知ったか!フハハッ!」
そう叫びながら街の上空を旋回し、城へと飛び去った。
あっ、私空も飛べちゃうんだ。
◇
魔王城へ戻った私は、魔鎧と融合した姿で凱旋した。
廊下の両脇に、配下達がずらーっと並び、跪いて私を見つめている。
羨望、畏怖、崇拝……
まるで私の事を神の様に崇める眼差しだ。
まぁ、実際彼らにとって私はその存在に等しい魔王なんだけど。
流石にその熱い眼差しに耐えきれず、私は玉座の間へは向わず自室へと足を運んだ。
そして自室に入ると、真っ先に姿見の前に立つ。
「うわぁ……」
そこに映るのは、魔鎧を纏った…… いや、魔鎧と融合した自分の姿。
人としての面影はどこにも無い。
目は肉食獣のように鋭く、口からは牙が…… というか頭が竜だ。
長く伸びる首には竜鱗がびっしりと生え、口を開けば鋭い牙が並び簡単に人の噛み砕けそう。
腕は人間の太股より太いし、完全に獣のそれだ。
脚なんて逆間接の部分があるし、足の形とか完全に鳥足だもん。
鋭い鉤爪の飛び出した手で体を触ってみる。
硬い。
まるで岩。
そして、私の股間からはトロッと液が糸を引いて溢れ出ていた。
「これって、愛液だよね……」
私は腰回りから生え出た触手で器用にその液体を拭い取る。
うん、このヌルッとした感触と臭いは間違いない。
淫魔族が放つ愛液だ。
そういえば、従魔の淫魔さんが淫魔族の愛液の匂いは、人も魔族をも魅了する効果があると言っていた。
凱旋時の羨望の原因はこれか!
「あ~ なんか私、人間じゃ無くなっちゃったなぁ~ この触手自分の意思で動かせちゃうし……」
そう呟く私だが、不思議と心は落ち着いていた。
これも姿が変わったせいなのかな?
いや、現実逃避だろう。
「どうしよう…… この体」
そんな折、扉をノックする音が部屋に響いた。
「誰?」
セバスチャンが深々と頭を下げながら入室してきた。
私は彼を見るなり口を開く。
物凄い早口で。
「ねぇ、どうやったら戻れる?」
「えっと…… 魔王様は魔鎧と融合されたので…… その……」
だよねぇ~
何となく自分でもそんな気がしていた。
だって、これ間違いなく自分自身の体だって分かるし。
「はぁ~ ……」
私は腕をダラリと垂らし、ベッドに腰をかける。
ミシミシミシとベッドが軋む音が、虚しく部屋に響き渡る。
「人の姿をご所望でしたら擬態されてはどうでしょうか」
「擬態?」
セバスチャンの言葉に私は聞き返した。
擬態って……
つまり人の姿を模して化けろってこと?
確かに今の私は化け物だし、そうするしかないんだろうけど……
「それってどうやってやるの?」
「人間の姿を念じて魔力を体内に注げば良いかと。 魔王様は今まで擬態されていたのでは?」
心外だ。
私は今まで擬態などしてなかったのに。
でも、なるほど……
やってみる価値はあるかもしれない。
擬態のやり方はよく知らないが、今まで姿を念じればいいのだろう。
私は目を閉じ、自分の姿をイメージする。
「あっ、出来そう」
私は自分の中で、人間の姿へとイメージを固める。
すると、私の体が光に包まれ、徐々にその形を変えて…… いくわけない。
「あっ! があぁああ! 痛い痛い!」
私は突如全身を駆け巡る激痛に、のたうち回る。
まるで全身の骨を砕かれるような痛みが私を襲った。
何これ!? なんで!?
もしかして、擬態ってこんなに痛いの!? 痛みで意識が飛びそうだ。
しかし、ここで意識を失うわけにはいかない。
「人の姿に戻れ! 戻れ!! 擬態! 擬態! 痛っ! 痛い痛い! 痛ったーい!!」
ゴキゴキと体から音を鳴らし、私は人の姿に戻っ…… いや、擬態を進める。
そして、ようやく痛みが治まり。
「お~ 流石魔王様。 一瞬で人間のお姿に! こんなに早く擬態できるとは……」
「はぁ、はぁ…… はぁ~」
セバスチャンの賞賛の声に、私はふらつく足取りで姿見の前に立った。
そして自分の体に視線を落とし。
「戻った…… の? これ」
真っ黒に染まった目に縦に割れた瞳が赤く光り、鋭い眼光を放つ。
口から覗く歯はギザギザし、上唇を持ち上げるように左右から牙が伸びている。
あれ? こんなんだったっけ?
指は手も足も3本、それに踵の後ろから太い爪が伸びていた。
う~ん……
よく思い出せないけど、何か違うような…… こんな感じだったような……
まぁ、いいか。
これで私は人間の姿にいつでも擬態できる。
「うん、良い感じだ。 どう見ても人間」
「私としては、本来のお姿の方が威厳があり、お美しいかと思うのですが」
セバスチャンはそう言うが、私は今の人間の姿で十分満足している。
親からもらった体は大切にしないとね!
私は姿見の前でポーズを取る。
うん、見事な腹筋!
このゴツゴツした肩とか、盛り上がる筋肉が人でありながらも魔王って感じ!
凄い力を感じるし!
何となく今までと違う気もするけど、たぶん私は人としても、魔王としても成長したんだ!
「よし、セバスチャン。 食事の用意を」
「はい。 本日は新鮮な食材が沢山手に入りましたのでご期待下さい」
やった!
私は、擬態した体でセバスチャンと共に大食堂へ足を運んだ。
全裸のまま、秘所から愛液を垂らして……
◇◇◇
それから1月後。
私は王の間で玉座に座り、頬杖をついていた。
両手を後ろに縛られ、首に斧を添えられた勇者一行を高みから見下ろしながら。
「油断したな勇者。 まさか魔王が人の姿をしているとは思わなかったであろう?」
私はそう言うと、勇者は鋭い眼光で睨み返してきた。
その姿に、思わず笑みが溢れる。
良い眼だ。
「それのどこが人の姿だ。 化け物め」
勇者の隣にいた戦士が、私の姿を見て口を開く。
その罵りに、私は思わず鋭い眼光をその男に向けた。
それだけで戦士の頭部が内側から破裂するように弾け飛ぶ。
首から上を失った戦士の体が、玉座の間の床に倒れる。
「おっと、すまない。少し興奮しているものでな、力が入ってしまった」
私は大股を広げた自分の腰に視線を落とす。
そこには人間の女が跪き、私の秘所に顔を埋めていた。
「誰が休めと言った、続けろ」
私がそう命令すると、女は秘所を舐め上げ舌を中へと滑り込ませた。
僧服に身を包んだ彼女は勇者の仲間の聖職者。
淫魔の力をも持つ私の愛液を全身に浴び、その体はもう私の手の内だ。
「良い手土産を持ってきてくれたな勇者よ」
「頼む…… もう止めてくれ。 シャルルを…… 彼女を解放してくれ」
勇者の完全敗北。
勝敗は既に決している。
別に解放しても私に損は無い。
元々勇者一行は追い返すつもりだった。
しかし、彼らは私の大切な配下を殺しすぎた。
私が許しても、他が許さない。
数千万の悪魔を統べる魔王としては、配下達に示しを見せなければならない。
だから。
「いいか、勇者よ。冥土の土産に我が姿をその目に焼き付けておけ」
ゴキゴキッ! ボキッ!
私は擬態を解き、本来の姿へと戻る。
首がズルッと伸び、鎌首をもたげた顔から口が前に大きく開く。
グチャグチャと音を立て、私の体が大きく変貌していく。
それを見た勇者一行が恐怖に表情を歪めるのが分かった。
私の体は、今や変身の痛みすら心地良く感じるほどにまでなってしまった。
だから、全力で魔鎧と融合した姿を解放できる。
「人間風情が我が姿を目に出来ることを光栄に思え!!」
全身が赤黒い鱗や獣毛に覆われ、蝙蝠の様な巨大な翼を背中から生やす。
足や手から鋭い爪が飛び出し、尾てい骨からは太く長い尻尾が生える。
そして、腰回りには無数の触手が蠢く。
「これが魔を統べる魔王の姿だ」
私は魔王。
これが私の本来の姿。
あらゆる魔族をその身に取り込んだ魔を統べる王の姿。
私は勇者一行を見下ろしながらゆっくりと口を開く。
その口からは、鋭い牙が何本も顔を覗かせていた。
そして、私は大きく息を吸い込み咆哮を放った。
「グオォアァアアーッ!」
それは音波となり、城の壁を破壊し、街へと響き渡ただろう。
勇者が敗北したと。
「貴様らが相手にしようとした相手は魔王だ。 人間如きが敵う相手ではない! その愚かな振る舞い、万死に値する!」
私はそう叫びながら、勇者達にその姿を誇示する。
彼らは恐怖に顔を引きつらせ、震えながら涙を浮かべた。
足元に転がる聖職者は、私の噴き出した愛液で全身を汚し、体を痙攣させながら潮を噴き上げている。
完璧な演出だ。
そして、私は彼らに最後の言葉を放った。
「勇者よ。 死ね」
私は勇者の横に立つ将軍ダビデビデに合図を送る。
彼は私に向け胸に手を当てると、深々とお辞儀をし意を汲み取った。
そして、背後にずらりと並ぶ配下達に指示を出す。
「殺せ! 勇者一行を喰らい尽くせ!」
魔物達が一斉に勇者一行に襲い掛かる。
目の前で中々の地獄絵図が展開されているが、もう慣れてしまった。
「魔王様の御前であるぞ! 血の一滴も残すな!」
ダビデビデがそう叫ぶと、配下の悪魔達の食事がヒートアップした。
その光景を眺めながら、私は再び玉座に腰を降ろす。
床に転がる聖職者を掴み上げ、再び秘所に顔を埋めて頭を強く押しつけながら。
しかし、この形態だと人間の舌ではどうも物足りない……
「魔王様、その聖職者はいかがなさいますか? 玩具として気に入ったようでしたら魔に堕としますが」
セバスチャンの言葉に、私は少し考え。
「不要だ」
そう告げ、頭を掴んでぽいっと群がる魔物達の中に投げ捨てた。
彼女の体から腕が飛び、足がもがれ、そして頭が噛み砕かれる。
それでも、死してなお犯され続けるその姿を見つめ私は……
ブシャッ! と秘所から愛液を撒き散らかした。
この惨状を前に、私は興奮しているのだ。
なんと悍ましい体になってしまったのだろう。
「部屋に戻る。 淫魔を3名控えさせろ。 体が疼いて仕方がない」
そうセバスチャンに告げると、私は秘所に触手を突き入れ、引っ掻き回しながら王座の魔を後にする。
「本日の魔王様のご高配、心より感謝申し上げます。 あなた様が我らの王で本当に良かった」
背後から聞こえるセバスチャンの声。
私は姿だけでなく心も、そして器まで魔王に染まってしまったようだ。
ならば魔王として、存分に楽しもう。
魔王らしく、人間達を恐怖に陥れよう。
魔王らしく、人間達を弄ぼう。
そして……
「魔神将ヒョロー。 明日、王都を潰す。 全魔族に伝えよ」
「はっ! 仰せのままに!」
明日、世界は私の物となる。
精々楽しませてくれ、人間共よ。
おわり