耳の聞こえない僕を娶って孕ませた虎おじさんと僕のお話
僕の名前は井上マモル。18歳の人間の男の青年。母親と2人暮らしでパン屋を営んでいる。現在父親はいない。僕が8歳の時に亡くなったのだ。…だから僕は、父というものに憧れがあった。…だからなのだろう。僕が好きになる人は大人の男の人。それも、父の年齢に近い、獣人のおじさんであるということ。…このことは母も知っている。普通と違うことに悩みに悩んだ僕。…怖かった。打ち明けることで拒絶されることが。でも、母は拒絶しなかった。それどころか、恋をすることは素晴らしいことなのよ。と言ってくれた。…僕のことを理解してくれる母。…優しい母…。そんな母が大好きだった。僕には男の人が好きだという以外にも普通の人と違うことがある。…それは…
(おはよう、マモル。今日もいい天気ね。)
(おはよう、母さん。晴れてていい天気だね、過ごしやすそうだ。)
普通の人なら行われる日常の会話。だが僕たちは口で会話するのではなく、手話で行われている。
…僕が普通の人と違うこと。それは、僕は生まれつき耳が聞こえないということだ。
耳の聞こえない僕を娶って孕ませた虎おじさんと僕のお話
僕が生まれた時、両親はそれはそれは喜んでくれたようだ。…だが、僕が2歳になったある日。両親からの声にも全く反応することがなかったらしい。不思議に思った両親が病院に連れて行くと、僕は生まれつき耳が聞こえないと診断されたそうだ。…その時の両親は、きっとつらかったのだろう。生まれてきた我が子に、障害を持っていたのだから。…だが、そんな僕を両親は見捨てなかった。むしろ、僕を愛してくれた。…僕は親に恵まれていたのだろう。耳の聞こえない子を一から育てるのは、大変だっただろうに。僕のためにできることはないかと考えてくれ、手話を覚えてくれた。また、手話を通じて文字の読み書きを学んだ。自分自身の声を聞くことはできないが、言った文字の発音が正しいかどうかも一から教えてくれたのだ。そのおかげで、何とか生きてこられることができた。…小さいときは、周りの子たちからからかわれていたのだと思う。何と言っているのかわからなかったから、本当のことは分からない。学校も、普通の子たちとは違うところに通った。…いわゆる特別学級。同じような境遇の友達はできた。…生まれつき喉に障害があり、話すことができない子。目に異常があり、白黒でしかものを見ることができない子…様々だ。そして、学校に通う子たちの中には、親がいなかったり、孤児院出身だったり、親に目の前で捨てられた子もいる。…本当に、自分は親に恵まれていると思った。ぼくが8歳の時、父が病気で亡くなった。…その時の母はどれだけ悲しかったか。…おそらく、僕よりも深い悲しみに暮れていたのだろう。僕がいるのにも気づかず、僕に聞こえない声を上げながら、目に大粒の涙を浮かべていたのだ。そんな母を元気づけてあげたい。…ほとんどできることのなかった僕は思いっきり母に抱き着いた。
「##########…」
母が何と言ったかはわからない。だが、母の目から涙は止まり、何かを決心したような顔をしていた。
それからの日々はあわただしく過ぎていった。学校に通いながら、勉強をする日々。母は、いつも忙しそうにパンを焼いていた。…パンつくりというのは意外と重労働だ。体も疲れているだろうに…だが、僕が帰ると、いつも笑顔で母は抱きしめてくれた。
(マモル、おかえりなさい。学校はどうだった?しっかり勉強できた?)
(母さん、今日は新しい本を借りたんだ。友達に勧めてくれた本。)
(それはよかったわ。面白い本だといいわね。)
(面白かったら、母さんにも教えてあげるね。)
(ありがとう、マモル。優しい子に育ってくれてよかったわ。)
そして、僕が12歳になり、性に興味がわいてくるころ。男子学生が女子学生の方を指さして、何かをしゃべっていた
「#######…」
(ごめん、なんて言ってるのか、僕にはわからないよ。)
筆談で友達に尋ねる。友達はごめんと文字を書いた後、僕に教えてくれた。
(さっきすれ違ったあの子、かわいいと言ったんだ。)
(さっきのって…あの女の子?)
(そう、あの子。かわいらしいと思わねぇか?なんかこう、ドキドキするっていうか…)
(ドキドキって、どんな感じ?)
(そうだな…その子ともっと仲良くなりたいと思うようになったり、好きだと思うようになったりかな…改めて表現すると、難しいな。)
(好き…)
(マモルには、そういう存在、いないのか?)
(僕?僕にはまだよくわからないや…)
(そっか。でもまぁ、マモルも年頃だからな。そのうちわかると思うぜ。じゃあな、マモル。)
最後にそう筆談した後、友達と別れた。
帰宅後、母に好きとはどういうことかを聞くべく、質問をした。
(ただいま、母さん。)
(お帰り、マモル。今日も一日楽しめた?)
(うん。楽しかった。…ねぇ、母さん、聞きたいことがあるんだけど、良いかな?)
(いいわよ、マモル。何かしら?)
(あのね、母さん。好きってどういうことかな?)
(急にどうしたのマモル?…マモルも年頃になったのかしら?)
(からかわないでよ、母さん。)
(ごめんなさい。好きっていうのはね、その人ともっと一緒に居たい。自分のことを見てほしい。力になってあげたい。…そういうことだと母さんは思うわ。)
(そうなんだ…じゃあ、愛っていうのは?好きとは何が違うの?)
(そうねぇ…愛っていうのは、好きっていう気持ちが大きくなって、何年たってもずっと側に居たい。…私にとってこの人以上の人はいない…と思えるのが、愛なんじゃないかしら?)
(母さんも、愛を感じたことがあるの?)
(ええ、マモルの父さんにね。…それとマモル。あなたも愛してる。)
(僕にも?)
(ええ、愛というのは恋愛的な意味なだけじゃない。守ってあげたいとか、そういう気持ちでも、愛を感じるのよ。)
(複雑なんだなぁ…愛って…)
(マモルも、きっといずれわかるようになるわ。)
(こんな僕を愛してくれる人、出来るのかなぁ…耳が…)
(耳が聞こえるかどうかは問題じゃない。その程度の生涯をひっくるめて受け入れられないのは愛ではないわ。…きっとマモルにも、愛し、愛される人ができるわ。…それがどんな人でも、母さん、応援するからね。)
(ありがとう、母さん。僕も愛してる。…使い方、間違ってない?)
(そんなことないわ!とても嬉しいわ、マモル。)
そして、僕は14歳になる。…このころの僕は年上の男の人。…それもかっこいいおじさんや逞しいおじさん。…特に獣人のおじさんを見るたびに、なぜだかドキドキしてしまう自分がいた。…14歳になった今では理解できる。普通の人だったら男の人が恋をするのは女の人。男の人が男の人に恋をするのは普通じゃない。…僕はただでさえ、耳が聞こえない。もとから普通じゃないのに、こんなこと話したら、母さんを困らせてしまう。…頭ではわかっている。だけど、この気持ちは捨てきれなかった。そんな僕の様子を察したのだろう。母が僕に尋ねてきた。
(マモル、どうかした?悩み事があるなら、母さんに言ってちょうだい。)
(…どうして悩み事があるってわかったの?)
(私はマモルのお母さんよ。子供が何かに悩んでいることくらい、私には分かるわ。)
(やっぱ母さんって凄いね…でも…)
(マモル、話したくないなら無理に話さなくてもいいわ。でも、私はマモルの力になりたい。マモルと一緒に悩んで、答えてあげたいの。)
(ありがとう、母さん…実はね…恋のことなんだけど。)
(恋…マモルも年頃になったのねぇ…)
(母さん…男の人が女の人に恋をするのは普通のことだよね。)
(…そうね、普通だと思うわ。)
(じゃあ、男の人が男の人に恋をするのは、普通じゃないことだよね…)
(…そうね、確かに普通じゃないかもしれないわね…)
(ごめんなさい、母さん…)
(何を謝ってるの?マモル。)
(僕、普通じゃないみたい。ただでさえ耳の聞こえない普通じゃない子なのに…僕、男の人が好きなんだ。それも、年上で僕の父さんのような年齢のかっこよかったり、頼れるような獣人の男の人が…母さん…普通じゃなくて、ごめんなさい…)
申し訳なさから思わず涙を流す。だが、母は僕を優しく抱きしめた。
(母さん…?)
(マモル。男が男を好きになる。普通じゃないかもしれない。…でもね、人が人を好きになる。それはとても素晴らしいことなのよ。相手の性別や年齢なんて関係ないわ。…打ち明けてくれて、ありがとう。マモル。…母さんはマモルの味方よ。だから、男の人が好きになったとしても胸を張りなさい。好きな人を好きだということに恥ずかしいことなど何一つないわ。)
(母さん…ありがとう。)
(もし、マモルがその人のことを心から愛し、マモルのことも心から愛してくれる存在が現れたら、大切になさい。マモルの人生なのだから。マモルには幸せになってほしいし、その権利がある。だから、もし愛する人が現れたら、お互い幸せになりなさい…母さんとの、約束よ。)
(うん。約束するよ、母さん。)
僕の悩みにも向き合って味方になってくれる母。…そんな母を支えられるような男になりたい。そう誓った。
僕が15歳になると、学校に行く傍ら、パンを作る手伝いをしていた。もちろん、僕の意志で。手伝いの前に母に聞かれたことがあった。
(マモル、学校の友達とは遊ばなくていいの?)
(うん。学校で遊んでいるから大丈夫だよ。それよりも僕、パン屋の手伝いをしたいんだ。)
(マモル、母さんのことは心配しなくてもいいのよ。)
(そのこともあるけど、それだけじゃないんだ。僕、将来パン作りの仕事をしたい。僕が作るパンで誰かを幸せにしたい。僕でも誰かを幸せにできる。そう証明したいんだ。)
(マモル…覚悟はいいのね。あなたの生き方を縛るようで申し訳なく感じるわ。)
(もちろん、覚悟はできてるよ。僕自身がやりたいから、言ってるんだ。)
(マモル…分かったわ。母さんはもう否定したりしない。できることがあるというのはマモルの将来にも役に立つしね…じゃあ、これから早起きとかになるけど、頑張ってもらうわね!)
(ありがとう、母さん。僕、頑張るね。)
それから僕はパン屋の仕事を手伝った。朝は早起き。パンの生地をこねる作業も重労働だし、味にも工夫が必要。正直、仕事と自分の考えのギャップがあった。でも、母に褒められる時。初めて僕が焼いたパンが売れた時。そして、僕が焼いたパンを食べた人が笑顔になってくれる時。…僕はその時、嬉しかった。耳の聞こえない僕が誰かの笑顔を作ることができるのだから。その笑顔を見るたび、もっと誰かを笑顔にしたいと思えるようになり、パン作りに精力的に取り組むことができた。
18歳になり、高校を卒業した僕は、パンを作る傍ら、通信教育を使って食に関する資格を取ることを目指していた。もっと食に関する知識を深めたい。パン以外のものも、作れるようになりたい。このころには、そう思えるようになっていた。僕は、そのために勉強をして、食生活アドバイザーや食品衛生責任者の講習、さらには、介護職や離乳食アドバイザー等の資格も取った。資格を取るうち、様々な料理を作るうち、自分の可能性が広がっていくのを感じた。…確かに耳が聞こえないことのデメリットはある。例えば接客。お客さんからの注文が分からず、戸惑うことがある。でも、料理なら。作るだけなら、耳が聞こえないことのハンディキャップを補うことができていた。そうして僕はパンを作る傍ら勉強を続けていた。…そんな僕に運命の出会いがあったのは、1年後の、とある日だった。
僕は19歳になった。いつもと同じようにパン屋で働く日々。いつもと違うのは母が外出していてしばらく戻ってこないということ。幸いにも、お客さんは見知った人が多く、僕の事情も知っているため、接客は何とかこなせた。だが、昼をすぎ、パンを買うお客さんが誰もいなくなった中、その男の人はやってきた。初めて見る人。その男の人は見たところ40歳前後の虎獣人の男で大柄で、逞しい。かっこいいだけじゃなく、頼れるような雰囲気。ズボン越しからでもくっきりと見えてしまう、もっこりとした大きそうな逸物。雄のエロスを感じる。…僕のタイプにドストライクな男の登場に僕はどきりとしてしまった。
男が店内をきょろきょろと見た後、僕に話しかけてきた。
「######!!!」
もちろん、何と言っているかわからない。だから僕はいつものように1枚のクリアファイルを見せた。
…僕は耳が聞こえません…
その文字を見た時、男の人は驚いたような表情を見せた。…だが、男の人が僕の目の前から立ち去る様子も、何かを買う様子もなかった。そこで、僕はもう一つのアイテムを取り出し、コミュニケーションを図ることにした。
…ご要望があれば、こちらにお書きください…
取り出したのは、小さなホワイトボードとペン。幸いにも、僕は文字を読むことはできる。男が少し間を置いた後、僕に対して質問をしてきた。
(耳が聞こえないというのは本当なのか)
たまに聞かれる質問だ。だから僕は素直に答えた。
(はい、本当です。でも、文字は分かります。なので、ご要望があれば書いていただけるとありがたく思います。…もしくは手話なら対応可能です)
(そうか、耳が聞こえないとは、辛い思いをしているのだな)
(そんなことありません。優しい母のおかげで、生きてこられたのですから)
(親に恵まれたのだな、君は…)
(僕も、そう思います。)
男から親を褒める言葉が出て、僕は嬉しさからつい、くすりと笑ってしまった。思わず男の方を見る。僕が男を見つめると、男も笑みを返してくれる。…思わずドキッとしてしまった。
(君は笑顔が似合うな)
(ありがとうございます。少し、恥ずかしいです。でも、あなたの笑顔も、素敵ですよ)
(ありがとう。よかったら、君の名前と、ええと、年齢も聞いて構わないかな)
(構わないですよ。僕の名前は井上マモル。19歳の男です。…男っていうのは、書かなくてもよかったかな。よかったら、あなたの名前を教えていただいても構わないでしょうか。)
(構わない。俺の名前は虎谷虎之助という。年齢は39歳。虎獣人の素敵なおじさまだ)
冗談めかして書きながら、にかっと笑う男の人。…なぜだろう。その笑みから目をそらすことができなかった。
(確かにかっこいいおじさまですね。虎之助さん)
(そう素直に反応されると、意外と恥ずかしいものだな。それと、俺のことは虎之助と呼んでほしい。俺も、マモルと呼ばせてもらいたい。構わないだろうか。)
(分かりました。虎之助。僕のことも、マモルと書いてもらって構いません。)
僕と男の人…虎之助が筆談で会話をしていると、ドアが開くのが見えた。お客さんが来たようだ。
(すみません、お客さんが来たようなので、対応しないと。)
(こちらこそ、時間を取らせてしまってすまない。何かおすすめはあるかな?)
(甘いものが好きでしたら、メロンパンやクリームパンがおすすめですよ。)
(俺は甘いものが好きだ。是非買わせてもらおう。また、来ても構わないか?)
(もちろん、またの来店をお待ちしています。)
最後に僕がそう書いた後、虎之助はメロンパンとクリームパンを買って、店を後にした。
そして、店じまいの時刻になり、ようやく母が戻ってきた。
(店番ありがとうマモル。何かいいことがあった?)
(どうしてそう思うの?)
(私はマモルの母親よ。マモルにいいことがあったら、真っ先にわかるわ。)
(うん。あったよ。実はね…)
そう言って僕は今日会った素敵なおじさまの虎之助のことを伝えた。
(素敵な人に出会えたようで何よりだわ。もしかして、マモルのタイプの人なのかしら?)
(からかわないでよ、母さん)
(ごめんなさい。でも、また会えるといいわね。その虎之助という人に。私も会ってみたいわ。もしまた来ることがあったら、その時は教えてね。)
(もちろんだよ、母さん)
再び来るかどうかわからない虎之助。だが、約1週間後のある日。虎之助は再びやってきた。その時、僕は店番をしており、母は今日も不在だった。
(虎之助、来てくれたんだね)
(ああ、この前買ったパンがおいしかったからな。また立ち寄らせてもらったよ)
(嬉しいです。今日はお仕事、お休みなんですか)
今日の虎之助は私服姿だ。前に来てくれた時はスーツ姿で様になっていると思ったが、私服姿もかっこよく、思わずどきりとしてしまうようなたたずまいだった。
(ああ、今日は休みなんだ)
(そうなんですね。私服姿、かっこいいです)
(ありがとう。マモルもその姿、かわいいぞ)
(かわいいだなんて、からかわないでください)
(俺の本心だ)
(ありがとうございます)
おそらく、お世辞と冗談のつもりで僕のことをかわいいと言ってくれたのだろう。それでも、僕は嬉しかった。せっかくだから、虎之助の好みを聞いてみたいと思い、僕は質問をしてみた。
(虎之助は、甘いもの好きなんだよね)
(ああ、好きだぞ)
(好きな食べ物を聞いても構わないでしょうか)
(ああ、チョコレートにマフィン、あとは、プリンだな)
(プリンって、虎之助の方がかわいらしいじゃないですか)
(言ってくれるな、マモル)
(ごめんなさい。そういえばマフィンならたまに僕の店でも売っていますよ)
(それはいい、この店に来る楽しみが増えたよ)
(僕も、虎之助が来るのを楽しみにしています)
(嬉しいこと言ってくれるな、マモル。今度は俺から質問だ。マモルの好きな食べ物、聞いてもいいか)
(いいですよ、僕は…)
答えを書こうとした途中で、文字が描けなくなった。…インクが切れたのだ。代わりのインクを探そうとしたが、見つからない。…僕は申し訳なさそうな顔をして、メモ用紙に鉛筆で文字を書いた。
(ごめんなさい、インクを切らしているみたいで、これ以上文字は)
(それなら仕方ない、今日はおすすめのパンを買って帰ることにするよ。)
(すみません)
最後に僕はそう書き、おすすめのチョココロネを指さした。虎之助は理解したのだろう。チョココロネを一つとって、パンを買った後、去っていった。今日はついてない。せっかく虎之助とお話しできる機会だったのに。虎之助にも、申し訳ないことしちゃったかなと、僕は虎之助に対し申し訳なさを感じた。
そして、次の週。虎之助はまたも店にやってきてくれた。スーツ姿で、改めて見てもかっこいいと思える姿だった。以前母と約束した。虎之助が来たら知らせると。今日は母が裏でパンを焼いていたため、僕は呼び鈴を鳴らし母を呼んだ。
(マモル、どうかしたの)
(母さん、前話していた虎之助がやってきたんだ)
僕と母さんは手話で話をした。虎之助は困っているような不思議そうな顔をしていた。
「##########…」
「##########…」
「##########…」
虎之助と母さんが何かを言い合い、虎之助が1枚の紙を差し出した。その紙を見た瞬間、母さんは少し驚いた顔をしていた。
「##########…######…」
「#########…」
なんて言いあっているのだろう、不思議に思っていると母さんが手話で教えてくれた。
(この前買ったチョココロネがとてもおいしかったから来たと言っているわ。)
(本当?嬉しい。僕が焼いたパン。気に入ってくれたようで、嬉しいよ。)
手話で話をする僕と母さん。またしても虎之助は困り顔をした。
「#########…」
「#######…」
虎之助が何かを言った後、僕に優しい笑みを浮かべていた。
今日はきちんとインクを補充したペンを持っている。思い切って、虎之助に質問をしてみた。
(今、お仕事中なの?)
(実はそうなんだ。これからすぐに向かわないといけない。すまない)
(仕方ないよ、お仕事、頑張ってね)
(ありがとう。マモルの作ったパンを食べて、元気をもらうとしよう。)
「#########…」
「#########…」
虎之助が母に質問をし、母がその質問に答える。そして、虎之助は僕が今日焼いたパンを選んでもってきた。お金を受け取り、パンを手渡す。
「########…」
母が虎之助に対し何かを言っていた。おそらく、また来てくださいとでも言っているのだろう。
「######…」
虎之助も、母の言葉に何かを返事した後、去っていった。
店じまいを終え、母が僕に手話で話しかけてきた。
(あの人が、あなたの言っていた虎之助さんなのね)
(そうだよ、母さん。そういえば、虎之助から紙をもらったよね。何が書かれていたの?)
(もらったのは名刺よ。…そうね、マモルにあげるわ)
(ありがとう母さん)
そう言って母から紙をもらう。そこにはこう書かれていた。
…虎谷コーポレーション会長 虎谷虎之助…
…とらたにコーポレーション…虎谷コーポレーション!?
(母さん!あの人ってもしかして)
(そうよ。あなたの想像している通り、虎谷コーポレーションに所属しているそうよ。道理で初めて見た時どこかで見たことのある顔だなぁって思ったのよね)
虎谷コーポレーション…この国でも、だれでも名前くらいは知っているであろう超一流の会社で不況にも負けず、業績も右肩上がりの会社。それも各支社の社長をはじめ、敏腕会長だからこそなせる業だと世間では言われている。…虎之助が、そんなにすごい人だったなんて…
(びっくりよね、マモル)
(驚いたよ。虎之助が、そんなにすごい人だったなんて)
(それに、かっこいい素敵なオジサマだったわね。丁寧でしっかりとしていて…マモルのタイプなだけあるわね!)
(か、母さん…)
(虎之助さんと、仲良くなれるといいわね)
(そうだね、僕も仲良くなりたい)
(マモル、相手の立場を知ったとしても、こびへつらう必要なんかないわよ。対等な一人の人間として接しなさい。むしろ、そんなことをすることの方が虎之助さんにとって失礼だと思うわ。)
(…そうだね。たとえ虎之助がどんな立場だとしても、同じ人間なんだからね)
(そうよ。私たちは同じ人間。耳が聞こえていなくても同じ人間。そのことを、忘れないでね。)
(…ありがとう、母さん。)
そして2週間後。昼より少し早い時間に虎之助がやってきた。母から聞いたところによると、先週も店に来てくれたそうだ。だが、先週は僕がいなかったので、パンを買ってすぐに帰ってしまったのだそうだ。
(マモル、今日も来たぞ)
(虎之助、来てくれてうれしい)
(マモルは態度を変えないのだな)
(どういう意味ですか?)
(おそらく知っていると思うが俺は虎谷コーポレーションの会長だ。俺の地位を目当てにすり寄ってくるやつも多いから)
(そういうことですか。確かに虎之助は僕とは違ってすごい人だと思うよ)
(やはり、そう感じるよな)
(でも、僕と虎之助は同じ一人の人間だもん。虎之助の立場なんか関係ない。媚びへつらったりしない。そしてこれからもゴマを擦ったりする真似なんかしないよ)
(マモル、ありがとう。やはりマモルはできた人間だな。ご両親の教育がよかったのだろうな)
(そうかも、しれませんね)
(少し話をしても構わないか?)
(構いませんよ。今はお客さんもいませんから)
(マモルの好きな食べ物を聞いても構わないか?前回は結局聞きそびれたままだったから。)
(いいですよ。そうですね…僕は甘いものは好きですよ。チョコレートとか、プリンとか)
(マモルもプリンが好きなんじゃないか。俺とおそろいだな。)
(そうですね。実は僕も好きだったんです。僕も虎之助と同じで子供っぽいよね。)
(それ以外は?)
(辛いものも結構好きですよ。麻婆豆腐とか、エビチリとか。ちょっと違うけどチンジャオロースのような中華もいいですよね)
(和食は好きじゃないのか?)
(好きですけど、あまり食べたことはないかなぁ。どっちかといえばパンをメインに食べているのでそれに合わせた料理ばっかり食べることが多いな。だから、最近は食べてないな。お刺身とか食べてみたいなぁ)
(そうか、ありがとう。知れてよかった。)
(虎之助は和食はどうなの?)
(好きだぞ。普段はどちらかといえば和食中心で主食はご飯を食べることが多いんだ。だから、パンはそこまで食べなかった。だから、この店を知れてラッキーだ。とてもおいしいパン。今や俺のお気に入りの店だ)
(お気に入り…嬉しいです)
(そろそろお客が来てしまったみたいだな)
(そうですね、残念です。虎之助と話せるの、楽しみなんだけどな)
「…」
虎之助は少し無言だった。その時何を思っていたのかは、わからなかった。
(今日、マモルが作ったパンを聞いてもいいか)
(僕のですか?おすすめじゃなくって?)
(ああ、マモルの作ったパンがいいんだ)
(分かったよ。クロワッサンとサンドイッチ。他にもあるけど、そろそろお昼時だし、そっちの方がいいでしょ?)
(そうだな。お昼時だからボリュームのあるものがいいかな。じゃあ、買わせてもらうよ。)
そう言って、虎之助はサンドイッチとクロワッサン。そしてそのほか、総菜パンをいくつか買っていった。
(またのご来店、お待ちしています)
僕が掲げたメッセージ。それに対し虎之助は振り向き、笑顔で手を振ることで応えた。
その後も約1週間ごとに虎之助はパンを買いにやってきてくれた。虎之助がやってくるにつれて、少しづつお互いのことを知ることができた。虎之助の好きなものや、趣味。そして、僕のことも。ある日、虎之助が1枚のポスターをもってやってきた。
(マモル、絵に興味はないか?)
(絵ですか…まぁ、嫌いじゃないですけど)
(それはよかった。じゃあ、このイベントに一緒に参加しないか?)
そう言って虎之助が見せたのはこの町で行われる絵画イベント。鉛筆のみで絵を描くシンプルだがだれでも参加できるイベントだ。
(珍しいね、参加したいだなんて、虎之助は絵を描くこと、好きなの)
(いや、普通だ。)
少し間が開いた後、虎之助が答えた。
(だが、せっかくの催しなのだ。マモルと一緒に参加したいと思ったんだ。…駄目か?)
(お誘いは嬉しいけど、店の営業が)
「それなら心配しなくていいわよ」
(母さん)
話を聞きつけた母さんが話に入ってきた。手話と言葉。両方を使って僕と虎之助に伝えた。
「せっかくだからその日は外でパンを売らせてもらうことにするわ。だから、店自体は休業。パンを売ることも私一人で対応できるわ。だから2人で楽しんでらっしゃい!」
(そうマモルの母上が言っているが…どうだ、マモル?)
(そうだね。せっかく虎之助が誘ってくれたんだ。そのお誘い、受けさせてもらいます。)
(ありがとう、マモル。今日はこれで失礼する。当日、楽しみにしているよ。)
(僕も、楽しみにしています)
…どんな形であれ、虎之助ともっと一緒に居られる。そのことが僕にとって純粋に嬉しかった。
そして当日。虎之助はおしゃれな私服姿で店まで迎えてくれた。僕も少しばかりおしゃれして、虎之助とともに会場まで向かう。もちろん、筆談のためのホワイトボードは欠かせない。ペンも、きちんとインクを入れたものを用意している。…周りの人たちは僕たちのことをどう思っているのだろうか?…きっと、仲のいい親子とでも思っているんだろうな…
会場は綺麗な花畑。すでに人でにぎわっており、どうやら子供や子連れの人の参加が多そうだった。
「######…」
周りの人が何を言っているか僕にはわからない。でも、虎之助には、わかるんだろうな…
(マモル、俺たちもそろそろ絵を描こうか)
(そうだね、虎之助)
そして2人数十分無言で絵を描く。僕の方はある程度絵は完成した。虎之助はすでに描き終わったのだろう。手を止めていた。
(マモル、どうだ?完成したか?)
(虎之助、うんある程度は…)
(どれどれ…なかなかうまいじゃないか)
(ありがとう。虎之助も見せてくれるかな?)
(構わないぞ)
そう言って虎之助が描いた絵を見せてくれる。…僕のとは全然違う。クオリティが高く、立体的で、プロと言っても過言ではないほどだ。
(すごい、虎之助!こんなに上手だなんて思ってもみなかった!絵の才能、あるよ!)
(そんなことはない、普通だ)
(謙遜しなくてもいいよ。僕の描いた絵なんかよりもはるかにうまいよ)
(ありがとう。そう言ってくれると嬉しい。)
少し間が開いた後、虎之助がお礼の言葉を書いた。しばらく、周りを眺めていると、遠くの方で母さんの姿が見えた。
(虎之助、母さんがあっちでパンを売ってるみたい。少し、行っても構わないかな?)
(構わないぞ、俺はここで待っている)
虎之助の了承を得た僕は母さんのもとへ向かった。
(母さん、パンは売れている?)
(マモル?そうね。結構売れているわ)
(それならよかった)
(マモルの方はどう?楽しんでいる?)
(うん、楽しいよ。そういえば虎之助、凄いんだよ。描いた絵がとてもうまくって。あとで母さんにも見せてあげたい)
(マモルがそこまで言うなんて、よほどその絵は素晴らしいんでしょうね。私も見てみたいわ。でも、虎之助さんを待たせてもいけないわよ)
(そうだね、そろそろ戻らせてもらうよ。じゃあね、母さん)
虎之助の元に戻る僕。その時、何人かの女の人が虎之助に向かって会話をしていた。
「#######…」
「#######…」
何と虎之助が言ったのかはわからないが、虎之助が何かを言った後、女の人達は残念そうに去っていった。
(虎之助、待たせちゃったね。さっきの女の人は?虎之助の知り合い?)
(マモルか。いいや、初対面だ。道を聞かれたから答えたんだ)
(そう、なんだね)
少し間が空いてからの虎之助の答え。道を聞かれたから答えたというのは嘘だったのかもしれない。こんなにもかっこいい虎之助なんだ。…そりゃ、言い寄ってくる女の人がいても、不思議じゃないよね…僕は少し落ち込んでしまう。
(マモルの方はどうだった?母上と話していたのだろう)
(うん。パンが売れてるかどうか聞いたんだ。あとね、母さんに虎之助の絵がうまいことを話したんだ。母さんも見てみたいと言ってたよ。)
(そうか、なら俺が描いたこの絵はマモルにあげよう)
そう言って虎之助は自分が描いた絵を僕に渡してくれる。
(いいの?もらっても)
(構わない。その代わりマモルが描いた絵、俺にくれないだろうか)
(構わないけど、そんなにうまくないよ)
(俺が、欲しいんだ。今日の記念に…な)
ウインクをしながら僕に筆談で告げる虎之助。そのしぐさもかっこよく、僕は必至で顔が赤くなるのを隠しながら、描いた絵を虎之助に渡した。
(ありがとう。大切にする)
(僕も、虎之助が描いたこの絵、大切にするね)
(そろそろ今日のイベントも終わりか。一日がたつのがこんなに早いとは思ってもみなかった。名残惜しいが店まで送っていくよ、マモル)
(そこまでしてくれなくても)
(俺が、そうしたいんだ。)
そう言って手を差し出す虎之助。恥ずかしさを感じながらも、差し出された手を握り返した。そうして、店まで2人歩く僕たち。僕たちの間に会話はなかったが、ドキドキが止まらなかったため、仮に話題を振られても、返事、出来なかっただろうな…
(今日は本当に楽しかった。いい思い出になった。ありがとう、マモル)
(こちらこそ、楽しかったです。また誘ってくれると嬉しいです)
(もちろんだ。是非、誘わせてもらうよ。それでは体に気をつけてな。またな、マモル)
(またね、虎之助)
虎之助が去ってから約1時間後、母さんが店に戻ってきた。
(ただいま、マモル。もう戻っていたのね)
(お帰り、母さん。パン、全部売れたみたいだね。虎之助が描いた絵、もらっちゃった。母さんも見てみてよ)
(どれどれ…本当にうまいのね。とても綺麗で、立体感があるわ。せっかくもらったのだから、大切にしなさいね)
(もちろん、大切にするよ)
虎之助からもらった初めてのプレゼント。とても嬉しかったので、汚したりしないよう額縁に収め、僕の宝物にした。
それから2か月後、店にやってきた虎之助は僕に対し提案をしてきた。
(マモル、今度の週末一緒にカフェへランチに出かけないか?よさそうな店を見つけたんだ。口コミを見たが評価もいいそうだ。是非、君と行きたいと思ったんだ)
(カフェですか?どこのカフェ?)
(隣町のカフェだ)
(隣町…ですか)
僕はすこしためらう。虎之助とのランチは魅力的だ。週末は店も休みで空いている。だが…
(ホワイトボードを持っての会話だから、虎之助に窮屈な思いをさせるかもしれないよ)
(それなら、大丈夫)
僕からの返答に対し、虎之助は手話を用いて応えたのだ。僕は驚いてしまった。
(俺、練習したんだ。手話。完ぺきとは言えない。でも、ある程度のコミュニケーションは取れる。俺も、ある程度、手話理解できる。俺の練習の結果、披露する意味でも、最適。だから、大丈夫。君と一緒、行きたい。)
(虎之助、ありがとう。僕もそのお誘い、お受けします)
僕はあえて手話で応えてみた。虎之助は僕の答えを理解したのだろう。満足げにうなずいた後。
(ありがとう。当日、楽しみだ)
そう手話で返答してくれた。
そして当日。虎之助は僕の店まで迎えに来てくれた。隣町までは電車で行く予定だ。
僕もおしゃれをして虎之助を待っていた。一応小さなホワイトボードとペンを持って。
(お待たせ、マモル)
(虎之助、大丈夫だよ。今日、楽しみだね)
(俺もだ。わからないことがあったら何でも聞いてくれ。出来うる限り、答える)
そして駅まで向かう虎之助と僕。週末なだけあって人が多い。はぐれたら、どうしようかな…そう思っていると虎之助が手を握ってきた。思わずびっくりして虎之助を見た。虎之助は手を離した後、こう僕に伝えた。
(はぐれたら、いけない。迷惑だった?)
(そんなことない。いきなりだったから、びっくりしただけ)
(そうか。なら、マモル)
そう言って虎之助は再び手を差し出してきた。ドキドキしながらも僕は虎之助の手を取った。駅では虎之助がエスコートしてくれた。行先までの切符を買い、いつ頃出発なのかも教えてくれた。そして、約10分電車に2人座り、手話で簡単なおしゃべりをした。手話のいいところは声を出すことで周りの人の迷惑にならないところだと思う。
そして、隣町に着き約10分ほど歩いて目的のカフェへとやってきた。人気だと虎之助が教えてくれただけあって、結構混んでるみたいだ。
「#######…」
「#######…」
店員さんと虎之助が何かを話している。その後、僕たちは2人掛けの奥のテーブルへと案内された。
(結構並んでいる人、多かったけど、大丈夫なの?)
(今日のため、あらかじめ予約、してた。だから大丈夫)
(そうだったんだね、ありがとう、虎之助)
(礼に及ばない)
その後店員さんがやってきてメニュー表を広げた後、何かを言った。
「#######…」
「#######…」
虎之助が店員さんに何かを言った後、店員さんは去っていった。
(なんて言ってたの?)
(今日のおすすめのメニュー、言ってた。今日のおすすめ、パスタセット、らしい)
そう言って虎之助がメニュー表を広げて見せてくれる。そこには本日のおすすめパスタと書かれていた。
(だったら、パスタセットにしようかな。虎之助は?)
(俺も、同じもの、する。ドリンク、何?)
メニュー表を見るといくつかのドリンクが書かれていた。
(じゃあ、オレンジジュースで)
(すまない、わからなかった)
(じゃあ、これで)
そう言って僕はオレンジジュースの文字を指でなぞる。虎之助は理解したようだ。
(分かった)
(虎之助は何にするの?)
(コーヒー。店員、呼ぶ。)
そう言って店員さんを呼んだ後、虎之助が店員に対し何かを言っていた。おそらくメニューのオーダーをしているのだろう。店員さんは虎之助の言葉を聞いた後、去っていった。料理が来るまでの時間、虎之助と手話で話した。
(俺の手話、変?)
(そんなことないよ。手話を学んで、どれくらいたつの?)
(4か月)
(そんな短期間でそれだけできるなら、凄いよ)
(ありがとう。褒めてくれて、嬉しい)
(虎之助って、趣味とかあるの?)
(趣味?特にない)
(じゃあ、好きなことは?)
(改めてきかれると、思いつかない)
(そうなんだ)
(いや、一つあった)
(何?)
(マモルの店のパンを食べること)
(虎之助の好きなことになれて、嬉しい。)
(マモルの趣味は?)
(僕は、やっぱり料理だね。パン以外にも、お菓子を作ることも、好き。)
(それはいい趣味。マモル、俺、趣味ないの?変?)
(そんなことはないと思うよ。でも、何かあった方が楽しみにはなるかな?)
(俺に合う趣味、なんだと思う?)
(虎之助に?…絵を描くこととか?前描いた絵、上手だったし。)
(絵を描くことか、せっかくだから、やってみようかな。他にはどんなもの、ある?)
(虎之助は料理したことはある?)
(実は、無い。必要だと思わなかったから)
(だったら、今度一緒に料理を作ってみない?お菓子でもいいよ)
(マモル、一緒に?)
(うん。せっかくだから、僕も虎之助と一緒に作ってみたい。もしかしたら、料理を作ることが好きになって、そのうち趣味になるかもしれないよ)
(それ、良い考え)
(虎之助は作ってみたい料理はある?リクエストに僕、なんでも応えちゃう)
(だったら、プリン。マモル、作れる?)
(プリンなら作ったことあるから大丈夫だよ)
(だったら2週間後の週末、一緒に作りたい。大丈夫?)
(もちろん、大丈夫だよ。楽しみにしているね)
(俺も)
周りからは無口な2人だと思われているかもしれないが、僕たちは手話でれっきとした会話をしている。そうして手話で会話をしているうち、メニューが運ばれてきた。虎之助のパスタの量が多い。虎之助は大盛りサイズを頼んだようだ。
(マモル。熱いうち、食べよう)
(そうだね、虎之助。じゃあ、いただきます)
(いただきます)
そして、パスタを口に運ぶ僕と虎之助。
(おいしいね、虎之助)
(ああ、美味しい。マモル)
(僕、料理を作るのも好きだけど、食べるのも好きなんだ。だから僕、嬉しい)
(マモルが喜んでくれて、何より)
そして、パスタセットを食べ、ドリンクを飲み、食事を終える僕たち。少しだけ手話で会話をした後、店を出ようとする。僕はお金を出そうとしたが、虎之助が僕の分までお会計を済ませたようだ。
(虎之助、自分の分は自分で出すよ)
(ここは俺がおごる。俺に付き合ってくれた礼)
(でも)
(2週間後の週末。プリン一緒に作る。それで、大丈夫)
(分かった。本当にありがとう、虎之助)
笑顔でお礼を言う。虎之助も笑顔で答えてくれた。
そして、僕の店の前まで送ってくれる虎之助。
(虎之助、今日は本当にありがとう。虎之助のおかげで、美味しいものをたべられて、嬉しかった)
(俺もだ。やはりマモルといると、時間がたつ、早い。なんだか惜しい)
(僕も、惜しいと感じるかな。虎之助と一緒に居られると楽しくて、時間がたつの、早く感じるから)
(俺と同じ気持ち、嬉しい)
(僕もだよ、虎之助)
(今日は本当にありがとう。また一緒に、どこか出かけたい。その頃、俺の手話、もっと上達、する。またな、マモル。体に気を付けて)
(虎之助の方こそ、体、気を付けてね。)
僕が最後にそう伝えた後、虎之助は去っていった。
2週間後、虎之助は約束通りやってきてくれ、僕と一緒にプリンを作った。一緒に作ったプリンを食べ、美味しいと手話で感想をくれた。
(料理がこんなに楽しい、思わなかった。マモルと一緒、なおさら。好きになりそう)
(本当?よかった。)
(マモルと一緒なら、続けたいと思う。俺の趣味、料理に決まり。力になってくれて、ありがとう、マモル)
(虎之助の力になれてようで、嬉しいよ)
僕たちは2人笑いあった。
それから約2か月後。僕が外出から戻った後、母から虎之助が来ていたとの連絡を受けた。なんだかうれしそうだったのは気のせいじゃなかったかもしれない。やっぱり、母さんも、虎之助のこと、気に入っているのかなぁ…?少し悶々としながら約1週間過ごした後、店にやってきた虎之助が僕にある提案した。
(マモル、今度の週末に俺と一緒に泊りがけの旅行に行かないか?)
(虎之助と?)
(そう、俺とマモルの2人きりで温泉旅行に行きたい)
(僕は構わないけど、でも)
(マモル、私のことはいいわ。せっかくの虎之助さんのお誘いなんですもの。是非、お受けしなさい。私のことは心配しなくても大丈夫よ)
(母さん、いいの?)
(もちろんよ、虎之助さんと楽しんでらっしゃい)
(マモルの母上も後押ししてくれているんだ。お金に関しては心配ない。俺が出す)
(そんな、悪いですよ)
(俺から誘ったんだ。俺が、そうしたいんだ。それに、マモルに伝えたいことがあるんだ)
伝えたいこと…何だろう?
(分かった、虎之助。でも)
(コミュニケーションに関しては完璧だ。俺は手話をマスターしたから通訳もできる。それにはぐれないようGPS入りの探知機のキーホルダーもある。これがあれば大丈夫だ)
(虎之助)
(俺を信じてくれ、マモル)
(ありがとう虎之助。それでは、旅行の誘い、お受けします)
(ありがとうマモル。では当日楽しみにしてくれ)
そして、旅行当日。母に手伝ってもらい、バッグに荷物をまとめた。虎之助の訪れを待っていると、店の扉が開かれ、スーツケースを持った虎之助が目の前に現れた。
(マモル、待たせたな)
(虎之助、今日は誘ってくれてありがとう。僕、とっても楽しみだよ)
(俺もだ。マモルの母上、マモルのことは俺に任せてください。きっと心に残る思い出にして見せます)
(ありがとう虎之助さん。マモルのこと、よろしくお願いいたしますね。行ってらっしゃい、マモル)
(母さん、行ってきます)
そう言って虎之助が用意してきた車へと乗り込む。事前に移動手段は伝えられていた。場所は隣の県の温泉旅館らしい。車で約1時間ほど。虎之助が運転しているため僕たちが会話をすることはできなかった。でも僕には十分だった。嬉しさのあまり、僕は虎之助の膝の上に手を置いた。虎之助は少し驚いたものの、赤信号の時は僕の手のひらの上に虎之助の手のひらを重ねた。
約1時間後、旅館へと着く僕たち。
(虎之助、運転してくれてありがとう)
(礼には及ばない。運転、下手じゃなかったか?普段はあんまり運転しないから)
(そんなことないよ。とても、上手だった)
旅館前の玄関でおかみだと思われる人たちが僕たちを出迎えてくれた
「######…」
(ようこそお越しくださいました。だそうだ)
(通訳してくれてありがとう、虎之助。)
「######…」
(夕食にはまだ早い時間ですがいかがしますかだそうだ。どうする?)
(せっかくだから、温泉街を歩いてみたい。駄目、かな?虎之助)
(構わないぞ、マモル)
「######…」
「######…」
(おすすめは足湯が楽しめる時計台と喫茶店のオレンジジュースだそうだ。もう、オレンジという意味も分かるぞ!だから、大丈夫だ)
(ありがとう。虎之助。じゃあ、一緒に行こう)
(ああ、一緒に行こう。はぐれないように手をつなぐぞ)
そう言いながら人前で手をつなぐ虎之助と僕。少し気恥ずかしさを感じながらも手をつなぎながら歩いた。
そして、時計台の前の足湯につかる。ちょうどいい温度で気持ちがいい。
(足湯、気持ちいいね。虎之助。これなら旅館の温泉も期待できるね)
(そうだな、マモル。俺も楽しみだ)
(ねぇ、虎之助)
(なんだ、マモル)
(ここに来るまで手をつないでいたけど僕たち、どう見られていたのかな?やっぱり仲のいい親子かな?)
(何を言っているんだ、マモル。もちろんカップルに決まっているじゃないか!)
(か、カップル!?からかわないでよ、虎之助)
「######…」
(どうかしたの?虎之助)
(いや、何でもない。そうだな、親子かもな)
少し悲しそうな顔をしてしまった虎之助。そんなに気にしてるのかな…?
(じゃあ、今日は虎之助は僕の彼氏だね。彼氏さん。僕をエスコートしてください)
(彼氏…そうだな。雄として、マモルをリードさせてもらう)
(ありがとう、期待してるね。彼氏さん)
僕が虎之助のことを彼氏といった手話の内容も周りの人は分からないだろう。なんだか秘密の合図みたいでちょっとドキドキした。
そして2人で入った喫茶店。
(虎之助は何にするの?)
(せっかく来たんだ。俺は名産品のオレンジジュースとタルトのセットにしようか)
(じゃあ、僕はオレンジジュースと団子のセットで)
(分かった。それじゃあ、オーダーするぞ)
そう言って虎之助が店員さんにオーダーをした。数分後、オーダーしたものが目の前に並べられた。
(それじゃあ、いただきます)
(いただきます)
そうして、虎之助と2人でオレンジジュースを飲む。
(このオレンジジュース、甘酸っぱくっておいしい)
(そうだな。ここのオレンジジュースは甘いな。普段ジュースはそこまで飲まないがたまにはいいとも思えるな)
(母さんにも飲んでもらいたいな)
(だったら旅館へ行くまでの道の土産屋でオレンジジュースを買おう。きっと、喜ばれるさ)
そして、土産屋でジュースを買おうとすると、虎之助がジュースを買い、土産用に包んでもらっていた。
(虎之助、ジュース代くらい僕が出すよ)
(構わない。いつもおいしいパンを食べさせてくれるお礼も兼ねている。だから俺からプレゼントさせてほしい)
虎之助から出てくる母への気遣い。…虎之助がこの旅行で話したいこと…もしかしたら僕の母さんが好きってこと…なのかな…
僕は虎之助が好きだ。もちろん、恋愛的な意味で。だが、母さんにも幸せになってほしい。それに、虎之助なら…
(分かった。虎之助、ありがとうね)
(どうした、マモル。なんだか少し…)
(何?)
(いや、何でもない。お土産も買ったし、そろそろ旅館に戻ろうか)
そして旅館に戻る僕と虎之助。そろそろ夕食時だ。
「#######…」
「#######…」
(そろそろ夕食の時間とのことだ。料理は部屋までもってきてくれるらしい。俺たちも荷物を置きに行こうか、マモル)
そう言って虎之助と2人部屋へと入る。部屋には個室の露天風呂が付いており、上質な部屋だと一目で分かった。
(こんなにすごい部屋だなんて思ってもみなかった。本当にありがとう、虎之助)
(気に入ってくれて、よかった)
虎之助が穏やかに微笑んでくれる。僕の好きな虎之助の笑顔。つい、見とれてしまった。
「######…」
(ただいまから夕食をお持ちしますとのことだそうだ。一緒に食べよう)
そう言って、虎之助と2人運ばれる料理を食べる。刺身にてんぷら、牛ステーキに鯛めし。どれもおいしかった。
(ごちそうさまでした。もうお腹いっぱい。とてもおいしかったね、虎之助。)
(ごちそうさまだ。美味かったな。マモルと一緒だから、なおさらおいしく感じた)
(恥ずかしいよ、虎之助)
(本心だ)
(ありがとう。そろそろ僕、お風呂に入ろうと思うんだけど、虎之助はどうする)
(俺も、風呂に入ろうと思う。せっかくだ、一緒に入ろう)
(ふ、二人で!?)
(ああ…マモルはいや、なのか)
(ううん、そんなことないよ、じゃあ、一緒に入ろうか)
あくまで平静を務めて伝えた僕。だが、内心はドキドキしていた。男の人の裸を見ることなんてほとんど経験のない僕。そのうえ、好きな虎之助の全裸など見たら、ドキドキが爆発してしまうだろうと思った。
服を脱ぎ、体を洗う僕たち。虎之助の体を改めてみる。大きな体に見合った岩の様ながっしりとした筋肉。黄色と黒の縞模様のグラデーションがきれいだ。被毛にも艶がある。つい、下半身を見てしまう。そこには僕と違って太く、長い。萎えているのに立派な巨根と言える立派な逸物が備わっている。玉も大きく、ずっしりとしている。年に見合った落ち着きも感じられ、僕とは違う雄としてのエロスを漂わせる体に興奮しないよう頑張って務めた。…男の体に興奮するなんてこと、虎之助に知られて嫌われたくない…
体を洗った後、湯船につかる。虎之助が僕の体をじっと見つめた。
「#####…」
なにかをつぶやいた後、虎之助が僕の隣で湯船につかる。腕同士が当たる。
(虎之助、温泉、気持ちいいね)
「…」
(虎之助?)
(あ、ああ、気持ちいいな。マモル)
そうして、数分湯船につかる。不意に虎之助が僕を側に寄せ、抱きしめてきた。
(と、虎之助!?)
(…風が冷たいかと思ったから。でも湯船につかってるんだから、意味がなかったかもな…恥ずかしいか?)
(うん)
(そうか、実は俺もだ)
(だったら、どうして…?)
(俺が、したいからだ)
温泉のにおいに混じって感じる虎之助の雄のにおい。その匂いに、興奮と、安心を感じる自分がいた。
風呂から上がると、布団はすでに敷かれていた。
(虎之助、お風呂、気持よかったね)
(ああ、気持ちいいお風呂だったな。また2人で来たいな、マモル)
(僕も、同じ気持ち。また一緒に来たいね)
(マモル)
真剣な目をして僕に向き合う虎之助。なぜだかいつもと違い、余裕のない緊張したような顔をしていた。
(マモル、旅行の前にマモルに伝えたいことがあるって言ったよな。聞いて、くれるか?)
(…うん、いいよ。虎之助)
(マモル…)
虎之助は深呼吸した後、僕に向かって伝えた。
(俺は、マモルのことが好きだ。マモルのことを愛している。)
思ってもみなかった虎之助の告白。思わず、聞き返してしまった。
(それって、どういう)
(もちろん、恋愛的な意味でだ。一人の雄として、マモルのことを愛している)
(虎之助…)
嬉しかった、虎之助が僕のことを好きだと言ってくれることが、でも…
(でも、僕は…)
(耳が聞こえない…だろ?そんなこと関係ない!すべてを含めて、マモルを愛しているんだ。マモルの母上には実はすでに許可を得ている)
(えっ!?そうなの!?)
(だからそのことについて心配する必要はない。改めて伝える。俺はマモルを愛している。今すぐにでもマモルを抱きたい。俺の恋人になってほしい)
(本当に、僕で、いいの?)
(俺はマモル以外考えられないんだ)
(…僕も、虎之助のことが好きです。もちろん恋愛的な意味で愛しています。僕を、虎之助のものにしてください。)
「######!!!」
虎之助が何をしたいか僕にはわかる。これからの展開も。それを含めて、僕は虎之助の告白を受け入れた。
(マモル、ありがとう!俺、幸せだ!)
(僕も、幸せだよ、虎之助…)
僕と虎之助の視線が重なる。虎之助の顔が近づく。僕はそれを受け入れ、そして…
ちゅっ…
僕と虎之助の唇が、重なった。
…それは僕のファーストキスだった。
R-18
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ…
触れるだけのキス。そのキスは回数を増していき、次第に舌を絡める濃厚なものへと変貌していく。
くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん…
ちゅぽっ…
僕と虎之助の口が銀糸でつながり、切れる。…気持ちがよかった。だが、もっとしてほしい。僕は舌を出しておねだりをした。虎之助は理解したのだろう。先ほどよりも激しいキスを僕にお見舞いしてきた。
ぐじゅん、ぐじゅん、ぐちゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐちゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐちゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐちゅん、ぐじゅん!!!!
「んんんんんんんんんっ❤」
その激しいキスに思わず目を白黒させてしまう。きっと手加減していたのだろう。先ほどまでのキスとはくらべものにならないほど暴力的なキス。目の前の存在が雄だとわからされるには十分だった。
ぬちゃん、ぬちゃん、ぬちゃん、ぬちゃん、ぬちゃん、ぬちゃん、ぬちゃん、ぬちゃん、ぬちゃん、ぬちゃん、ぬちゃん、ぬちゃん!!!!
…じゅるっ…
「あふぅん❤」
つい、声が漏れてしまう。僕の声に気をよくした虎之助は、僕の服を脱がせ、生まれたままの姿にさせた。僕の体を隅々まで舐めまわす虎之助。貧相な僕の体。…女の人とは違う、僕の体。…やっぱり、女の人が、良いのかな…
「#####…」
なにかを虎之助がつぶやいた後、虎之助は僕の体にキスマークを付けた。
ちゅっ!
「ああん❤」
気持ちよさから声帯を震わせるような音が僕から漏れる。どんな声かはわからないが、いつも出している声ではなかった。そして、虎之助は僕の体のいたるところにキスマークをつけていく。
ガプッ、ガプッ、ガプッ、ベロン、ベロン、ベロン、じゅっ!じゅっ!!
「あっ❤あっ❤ひゃん❤」
嬉しかった。僕の体が虎之助のものだという証になっているのだから。
虎之助が一通りキスマークを付けた後、虎之助の手と口は僕の乳首へと向かった。
軽くつねったと思ったら、舐めまわし、甘噛みする。そして頃合いを見て強く吸う。強い刺激。僕は体をよじってしまう。だが、虎之助はやめることはなかった。
ペロン、ペロン、ペロン、カプカプッ、きゅっ、きゅっ、きゅっ!カプカプッ、きゅっ、きゅっ、きゅっ!ちゅっ!ちゅっ!ちゅっ!!ベロベロン!!
「あああああああ❤んんんんん❤」
そして、虎之助は僕の2つの乳首を強い力でつねった。
ぎゅむん!!
「ひゃああああああん❤」
どぷん、どぷん、どぷん…
「はぁ…はぁ…❤」
僕は乳首の刺激だけで達してしまった。…女の人みたいで、恥ずかしい…
僕の出した精液を手に取り、ぺろりと魅惑的に舐める虎之助。その姿に雄のエロスを感じ、ついドキッとしてしまった。だが、虎之助は満足していないのか、僕の逸物に顔を近づけて…そして…
「えっ…ひゃああん❤」
虎之助は大きな口を開け、僕の逸物を舐めまわした。
ぬちゅり、ぬちゅり、ぬちゅり、ぬちゅり、ぬちゅり、ぬちゅり、ぬちゅり、ぬちゅり…
「んぁああああああ❤」
暴力的なまでの快楽。今まで感じたことのない快感に、無意識に声が漏れてしまう。
ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん!!!
「らめぇええええええ❤」
だが、虎之助は口での追撃をやめない。このまま口で僕をイカせるようだ!
ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぐちゅん、ぐちゅん、ぐちゅん、ぐちゅん、ぐちゅん、ぐちゅん、ぐちゅん、ぐちゅん!!!!
「ああああっ…❤いくぅううう❤」
どびゅるるるるるる…
僕の逸物から虎之助の口に放たれる僕の精液。とてつもない快感だった。
「はぁはぁ…❤」
だが、虎之助は口を離さない。それどころか、射精後の敏感な亀頭をそのまま舐めまわしてきたのだ!!!
くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅくちゅくちゅくちゅ!!!!!
「でりゅううううううう❤」
ぷしゃあ、ぷしゃあ…
僕は女の人のように潮を吹いてしまった。…お漏らしみたいで、恥ずかしい…。
今度は虎之助が服を脱ぎ、生まれたままの姿になる。筋肉質の大柄な体。濃い雄の体臭。ビクンビクンと反応している竿は皮がむけており、玉も大きく、そこから濃い雄の匂いがする。だが意外なことに亀頭はピンク色をしている…。逸物は、完全勃起でないのに、圧倒的な存在感を感じる。…目の前の存在が圧倒的な雄で僕は彼の雌なのだと肌で実感してしまった。そして、無言でその逸物を僕の顔に近づける。何をしてほしいかはわかる。だから、僕は虎之助の逸物に口を近づけた。
ペロン…
初めて舐める雄の逸物。熱くて、少し塩辛いような、そんな感じがした。僕は虎之助の逸物へと奉仕をする。竿を全体的に舐めまわし、亀頭に口をつける。ハーモニカを吹くようにまんべんなく舐めまわす。
ペロン、ペロン、ペロン、ペロン、ペロン、ペロン、ペロン、ペロン、ペロン、ペロン、ペロン、ペロン、ペロン、ペロン、ペロン…!
虎之助が僕の頭の上に手を置き、下にずらせる。玉も、舐めてほしいということなのだろう。僕は了承した。僕の舌が虎之助の玉に触れる。濃い雄の味を舌に感じる。…嫌悪感はない。それどころか、愛おしさすら感じる。また、ずっしりと重い玉から強い生命の息吹を感じる気がした。
ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん…
ひとしきり玉を舐めた後、ぼくは口いっぱいに亀頭を頬張る。完全に勃起した虎之助の逸物は長く、太く、巨大だ。顎が外れそうになる。全部口に含むことが難しい。でもそれでも、僕は虎之助に気持ちよくなってもらうように奉仕した。
カプン、カプン、ペロン、ペロン、ペロン、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん、ぬちゅん!
虎之助も気持ちいいのだろう。僕の頭を押さえる手の力が強くなった。
くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん、くちゅん…!
亀頭が膨らむ。そろそろ虎之助がイキそうなのだろう。僕の口の中で、イカせてあげたい!僕は亀頭をぐるぐると舐めまわす。
ぐちゅん、ぐちゅん、ぐちゅん、ぐちゅん、ぐちゅん、ぐちゅん、ぐちゅん、ぐちゅん、ぐちゅん、ぐちゅん、ぐちゅん、ぐちゅん、ぐちゅん、くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ、ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ!!!!!
「#######!!!############!!!!!!!」
びゅるるるるるるるるるるるるる!!!!!!
「んんんんんんんんん…❤」
僕の口の中に吐き出される虎之助の精液。量が多く、濃い雄の味。…力強い生命の源を感じる…。これで上澄みなら、本気汁はいったいどれくらい濃く熱いのだろう…❤
ごくん、ごくん……❤
量が多く、飲み切れない。口からこぼれてしまう。はしたないとは分かっていたが、指に虎之助の精液を絡め、舐めまわした。
ペロン…
その様子に興奮したのだろうか、虎之助は僕にキスをお見舞いしてきた。
ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん!!!!
2人舌を絡める。ザーメンキスになったが僕も虎之助も気にしなかった。むしろ、目の前の雄の唾液がもっと欲しい…❤その一心で無我夢中で舌を絡めた。
ちゅぷっ…
僕と虎之助の口が白く透明な線でつながり、切れた。
僕を優しく抱きしめた後、虎之助は僕を四つん這いにさせ、僕の尻の穴のすぼみを舐めまわした。
「虎之助…そんなところ、汚いよぉ…❤」
つい声に出したが、虎之助は気にしていないようで僕のすぼみを舐めまわした。
ベロン、ベロン、ベロン、ベロン、ベロン、ベロン、ベロン、ベロン、ベロン、ベロン、ベロン、ベロン、ベロン、ベロン、ベロン、ベロン、ベロン、ベロン、ベロン、ベロン!!!
まるで熊が蜂蜜を舐めるがごとくしつこさで舐めまわされる。その後、ゆっくりと人差し指を入れられる。虎之助の指は太く、それだけでものすごい圧迫感がある。だが、それ以上のものを受け入れるのだ…。それに虎之助なら、構わない。多少圧迫感があるが、我慢できる!虎之助の指がある一点をとらえた時、僕の体は快感からのけぞった。
「ひゃああああん❤」
前立腺をつつかれる。気をよくした虎之助は僕の前立腺を中心に攻め立てた。
ごりゅん、ごりゅん、ごりゅん、ごりゅん、ごりゅん、ごりゅん、ごりゅん、ごりゅん、ごりゅん、ごりゅ、ごりゅ、ごりゅ、ごりゅ…!
「ひゃん❤ひゃああん❤」
そして、2本、3本と増えていく虎之助の指。そして、僕の中が十分ほぐれたのを感じた虎之助。指を引き抜き、最大限まで勃起した逸物を僕の尻の穴に近づける。…圧倒的な存在感と熱さを尻穴に感じる。若干の恐怖がある。だが、それ以上に虎之助と一つになりたいという気持ちの方が強かった。僕ははしたなく尻を振ることで一つになりたいとアピールした。僕の想いをくみ取った虎之助。僕を仰向けの態勢にし、手話で僕に伝える。
(愛している)
虎之助の逸物を僕の尻の穴に近づけ、そして…!
がじゅうううんん!!!!!!!!
「あああああああああああああああっ❤」
圧倒的な圧迫感と熱い感覚。まるで熱された鉄を入れられているがごとく。そして、強い生命の息吹…。その大きさから、僕のおなかが若干ポッコリと膨らんでしまった。莫大な快感から目がグルンと上を向いてしまう。快感を感じていることを理解したのだろう。虎之助は激しく腰を振った!!
がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん…!
「ああああああああああああああっ❤」
荒々しい腰の動き。虎之助が僕にとっての雄なのだと理解させられる。その腰の勢いはとどまることを知らない!!
がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん…!!!!!!!
「ひゃあああああ…❤」
どぷっ…どぷっ…
僕はお尻の刺激だけで雌イキしてしまった。はしたなさと同時に嬉しさも感じる。僕は虎之助の…雌…なんだ…❤
がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん、がつがつがつがつがつ!!!!!!!
「####!!!###!!!########!!!!!!!」
どりゅううううううううううううううううう!!!!!!!!
「ああああああああああああ❤」
僕のおなかの中に出される虎之助の精液。熱く力強い奔流。量は多く、僕の尻穴からザーメンが漏れ出る。
「はぁ…はぁ…❤」
快感から肩で息をする僕。突如、虎之助が僕の体を抱き、思いっきり下から突き上げる。…いわゆる、駅弁だ!
どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん!!!!!
「らめぇええええええええ❤」
僕の制止にもかかわらず、虎之助は腰を振る!!
どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん!!!!!
「ひもちいいよぉおおおおおおお❤」
どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん!!!!!
「しゅきぃいいいいいいいい❤」
どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん、どちゅん!!!!!
「####!!!####!!!############!!!!」
びゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる!!!!!!
「ひゃあああああああああ❤」
再び僕にたたきつけられる熱い奔流。やはり量が多く、逆流してしまう。
「…❤」
チュプン…
「ああん❤」
虎之助の逸物が一度引き抜かれる。その逸物はいまだ硬く、熱い。今度は僕をうつ伏せにした後、後ろから荒々しく腰を振った!
ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん!!!!
「あああああああああああ❤」
まるで、獣の様なセックスだ!目の前の雌に種付けしようとするような。そこまで僕を求めてくれる虎之助。…嬉しかった。そして、虎之助は僕を種付けプレスの態勢で腰を激しく振る。虎之助は僕の…雄なんだ…❤僕の遺伝子にたたきつけられた。
ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん!!!!
「####!!!##########!!!!」
ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごちゅん、ごつごつごつごつごつごつごつごつごつごつごつごつごつごつごつごつごつごつごつごつ!!!!
「########!!!!!」
どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん、どぷん!!!!!
僕の胎の奥深くに種付けされる。…そして…
チュプン…
チュプン…
僕の胎の奥深くにある何かが、僕の雄の遺伝子を受け入れた。…そんな感覚を本能が感じた。
激しい腰振りに意識がなくなっていく僕。…だが、そんな様子を見ても休むことなく腰を振る虎之助。激しいセックスに耐えられなくなった僕はそのうち気を失っていた。
「…ううん…」
激しいセックスも終わったのだろう。僕が目を覚ます。虎之助はすでに起きており、僕の側に寝そべっていた。
(おはよう、マモル)
(おはよう、虎之助。昨日、僕と虎之助は)
(ああ、俺たち、セックスしたんだ)
(…!)
恥ずかしさから顔が赤くなる。だが、虎之助は続いて僕に伝えた。
(最高だった、マモル。とても、気持ちよかった。マモルは、気持ちよかったか?)
(…はい、気持ち、よかったです)
(それならよかった。マモル…)
(なに、虎之助)
(セックスの時のマモル、かわいかったぞ)
そう伝えた後、虎之助が僕の唇にキスをした。僕は恥ずかしさのあまり赤面してしまった。そのせいで、豪華な朝食も素直においしいと感じることができなかった。
そして、虎之助の運転する車で僕の店まで送ってくれる。やはり会話はなかったが、虎之助の手を握ることで、感謝の意を伝えた。そして、車から降り、店のドアを開けてくれる。その音で気付いたのだろう。母さんがやってきた。
(お帰り、マモル。旅行、楽しかったかしら)
(母さん、もちろん、楽しかったよ。虎之助のおかげ)
(俺も、楽しかった。母上、これはお土産です)
そう伝えると虎之助は買ってきたジュースを母さんに手渡した。
(わざわざありがとうございます)
(虎之助、本当にありがとう)
(こちらこそだ。マモル、ちょっとだけいいか)
(何?虎之助)
そう伝えるが否や何と虎之助は母さんが見ている前で僕の唇にキスをしたのだ!
(な!?と、虎之助!?)
(あらあら…)
(見ての通り、俺たちは結ばれました。母上、これからもよろしくお願いします)
(虎之助さん、こちらこそ、マモルをよろしくお願いします)
(それでは、マモル。母上。また会えるのを楽しみにしています)
そう伝えると、虎之助は車に乗り、去っていった。
母さんの前でキスされた恥ずかしさのあまり、呆けている僕に母さんは伝えた。
(マモル、よかったわね。虎之助さんと結ばれたみたいでなによりだわ)
(か、母さん…)
(マモル、虎之助さんは信頼できる人よ。マモルも、虎之助さんのことを大切にしてあげなさいね)
(…うん、わかってるよ、母さん。それよりも、僕と虎之助のことを認めてくれてありがとう)
(私はマモルの母親なのよ。当然のことだわ。それよりも、旅行の話、聞かせてちょうだい)
(もちろんだよ、母さん)
そして、僕は旅行の出来事を母さんに伝える。母さんはニコニコしながら僕の話を聞いてくれた。
それから、約4か月。虎之助が店に時々パンをやってきて僕と手話で会話をしたり、近くの店でランチをしたりするありふれた幸せな日常が続いた。虎之助と母さんがいてくれる幸せな日常。…だが、その幸せな日常は突然崩れ去ったのだ。
ある日の夕方。昼前に母さんは出掛けてくるわと僕に伝え、店を出た。それにしては戻ってくるのが遅い。もう、店を閉める時間だ。少し心配になりながら、僕は店を閉めようとした。その時、虎之助が現れた。それも、真剣そうな顔で。
(虎之助、どうしたの?仕事帰りに寄ってくれたの)
(…)
(虎之助?)
(マモル、落ち着いて俺が伝えることを聞いてくれ。…マモルの母上が事故に会い、意識不明の重体だそうだ)
「えっ!?」
思わず声が出る。今、虎之助は…何って…母さんが…
(今から病院に連れていく。マモル、急いで支度を…)
虎之助の手話も目に入らず、僕は店を飛び出そうとした。だが、虎之助が僕の肩を手で押さえた
「!?虎之助!?」
(マモル、病院へは俺が車で連れて行く。車に乗ってくれ)
虎之助の運転する車の中、僕は必至で祈った。母さんの無事を。…母さん、大丈夫…だよね…
そして、母が運ばれた病院へと虎之助とともに着く。耳の聞こえない僕に変わって、病院のスタッフにいろいろと聞いてくれている。虎之助が真剣そうな顔で僕に伝える。
(マモル、母上の状況は…予断を許さないそうだ…病室の場所を、教えてくれた。一緒に行こう)
虎之助から伝えられ、手術室の前で待つ僕と虎之助。手術の終わりを待つまでの間
(大丈夫だ、マモル。きっとよくなるさ)
(マモルには俺がついている。だから、心配するな)
虎之助から手話で気遣われた。だが、僕の不安は一向に晴れなかった。
…そして、手術室のランプが…切れた…
「#######…」
虎之助が耳の聞こえない僕の代わりに医師に話しかけていた。
意思は首を横に振り、言葉を告げたようだ。
「#######…」
「###…」
そして、医師が去っていく。虎之助は悲しそうな顔をしながら僕に手話で、伝えた…
(マモル、落ち着けと言っても落ち着かないのは分かる。だが、気をしっかり持ってほしい)
(どういう…意味)
(マモル、マモルの母上は…残念ながら…亡くなったそうだ)
…とらの…すけは…なにを、かあさんが、なく…なった…
「嘘、だよね…」
(マモル、残念だが、母上は…)
「嘘だっ!!!」
虎之助を突き飛ばし、部屋に入る。…母さんがいた。顔に、白い布が、かけられていた…
「かあ…さん…??」
「…」
「嘘だよね…こんなの、嘘だよね…」
「嘘だと言ってよ、母さん…ねぇ、虎之助!!」
「…」
「かぁ…さん…母さん!!!!!あああああああああああああああああっ!!!!!!」
母の死。その事実にショックを受けた僕は虎之助の胸で泣き叫んだ。そんな僕を虎之助はただ抱きしめてくれた。
母の葬式。現実味のない僕をよそに、葬式は行われていった。喪主として、振舞わないといけないのは分かる。でも、胸にぽっかりと穴が開いたようになっていた。葬式には、虎之助も手伝ってくれた。本来は部外者である虎之助。だが、正直耳の聞こえない僕にとって、ありがたかった。
(マモルには俺がついている)
そう、伝えてくれた虎之助。火葬場で焼かれた母を見る。…骨だけになった母さんを見て、改めて母が亡くなった事実を実感する。虎之助は、火葬場にいるときも側に居てくれた。…母さんが亡くなって、僕にとって虎之助だけが安心してコミュニケーションをとれる唯一の存在になった。見知った町の多くの人が手を合わせてくれた。みんな、母がいなくなることを悲しんでくれているようだった。そんな中、歳をとった一人の虎獣人の男の人と人間の女の人がやってきた。誰だったか思い出そうとしていると、後ろから虎之助が現れ、僕に伝えた。
(マモル、隣にいるのが俺の父と母だ)
そう伝えられて、改めて見る。確かに目元とかが、虎之助に似ているようだった。
僕は耳が聞こえないことを2人に伝えた後、
「今日は来てくださってありがとうございます」
それだけ伝えた。
「#####…」
(このたびはご愁傷様…だそうだ)
虎之助が手話で伝えてくれた。
「お気遣い、ありがとうございます」
「#####…」
(あなたの辛さは、よくわかります。さぞかし、素敵な方なのでしょうね…だそうだ)
「はい、その通りです。僕にとって、大切な母、でした…」
一粒の涙を流しながら言葉を紡ぐ。虎之助の両親は僕の言葉に優しくうなずいた後、僕の母の遺影に手を合わせた後、虎之助と共に去っていった。
そして、1週間がたった。母がいなく、一人、孤独を感じることが多くなった。だが、生きていかなければならないのだ。僕はパン屋を再開した。…以前と比べて、パンの種類も、数を減らしての再開だったが。そんな中、虎之助が店に現れ、僕に手話で伝えた。
(マモル、調子はどうだ。少しは…いや、何でも)
(虎之助、心配してくれてありがとう。僕は、大丈夫だよ)
(いつでも、俺を頼ってくれてもいいんだからな)
(ありがとう、虎之助。それと今日は、どうしたの)
(今日はマモルに伝えなければいけないことがあるんだ)
(何かな?)
(これから約1か月、海外で仕事をすることになった。)
(海外?)
(ああ、頼ってくれといった手前、すまないと思っている。時差もあって、その間はマモルに連絡を取ることができない。こんな時期に本当に済まないと思っている)
虎之助がいない…正直辛かったが、あえて明るくふるまった。
(仕方ないよ、仕事だもん。…僕は、大丈夫。仕事、頑張ってね)
(ありがとう、マモル。戻ったら、マモルが作ったパンを食べることを楽しみにさせてもらう。…店を再開できて、よかった。…今日は、これで)
(忙しいのに、来てくれてありがとう、虎之助)
ちゅっ…
僕からの手話に対し、虎之助は僕の唇にキスをすることで答えた。…僕が虎之助から愛されている証拠だった。
それから2週間、一人でパン屋を続けていたが、なんだか体が重い気がする。それに、お腹も張ってきている気がする。母が死んだため気分の問題だと思っていたが、一応、病院に行った方が、良いのかな…?
僕は次の日にパン屋を休みにし、病院に行った。…そこで、信じられないことを伝えられた。
(マモルさん、落ち着いて聞いてください)
筆談で医師が前置きした後、医師が僕に伝えた。
(マモルさん、あなたは妊娠しています。今、5か月目です)
「えっ!?」
つい、言葉が漏れる…妊娠…男の僕が…?
(…心当たりはありませんか?…例えば、獣人とセックスしたとか…獣人の種は濃く、人間の男を孕ますことも可能ですから…)
(…はい…)
心当たりはある。僕に中出しした獣人…それは僕の好きな人…虎之助しかいない。
(…マモルさんの望まない妊娠なのですか?)
「いえ…」
また、つい言葉に出してしまう。…確かに嬉しい気持ちがある。だが、どこか現実味がなかった。
(…それとですね…お腹の中の子は、双子です)
…双子…
(…今なら堕ろすことはできます…パートナーと、よく話し合って、決めてください…)
「…」
それからどう帰ったかはわからない。気づいた時には僕は店の中にいた。
双子…僕と虎之助の…赤ちゃん…
僕が愛している虎之助との子供。嬉しくないわけがない…でも、母を亡くしたばっかりの僕は悪い方向にばかり、考えてしまう。
…もしも、虎之助が、子供を望んでいなかったら…?
僕のことは愛していると言ってくれた虎之助。…でも、子供に関しては分からない。…それに…
…仮に、子供を産むことを望んでいたとしても…
…もしかしたら、生まれてくる子に障害があったら…?僕だからわかる。その子にとって、生きづらい人生を味合わせることになったら…?
「僕は、どうしたらいいの…?」
分からなかった。嬉しさもある。それ以上に、不安がある。もしも、子供を堕ろせといわれたら…?子供に障害があったら…?
「…助けて…」
無意識に僕はそう呟いていた。
それから2週間、店を開けることができず、ぐるぐると頭の中で悪い考えが巡る日々が続いていた。それが体にも表れたのだろう。
くらっ…
強いめまいを感じ、机に崩れ落ちる。…無意識に、お腹を守っていた。…起き上がることができない…立ち上がろうとしても、足に力が入らない…だんだんと視界がぼやけてくる。このまま、死ぬのかな…
「####!!!!」
だれかが僕の側にやってきた。…店は閉まっているはずなのに、どうやって…?だが、考えることのできなかった僕は、そのうち意識を失った。
「ううん…」
僕が目を覚ます。…白いベッド…僕はどうやら病院にいるようだった。
その時ドアが開かれる。そこに医師と虎之助がやってきた。医師は僕の脈を測った後、去っていった。そして、病室に僕と虎之助が残された。
(虎之助、どうして、ここに…)
(そんなことはどうでもいい!!)
怒ったような、悲しそうな貌をする虎之助。…怒り顔を見るのは、初めてだった。
(心配したんだぞ!マモルが倒れているのを見て!!不安でしょうがなかった!)
(虎之助…心配かけて、ごめんなさい)
(マモル、先ほど医師から聞いた。マモルの体に何が起こったかを)
(それって…)
(妊娠…しているんだな、俺の…俺とマモルの子供を)
(知られちゃったんだ…)
(どうしてそんな悲しそうな顔をしているんだ!マモル!?嬉しくないのか!?)
(虎之助は、嬉しいの…?)
「######!!!!」
虎之助ははっとしたような顔をした後、手話で僕に伝えた。
(嬉しいに決まっているだろう。俺とマモルの子だ、愛おしくないわけがないだろう?)
(そっか…)
(まだ何か、あるのか?不安そうな顔をしている…俺では頼りないか…?嬉しく…ないのか?)
(そんなことない。堕ろせと言われるんじゃないかと不安だったから、嬉しいよ…でも)
(でも、なんだ…?)
(もし、生まれてくる子に障害があったら…生きづらい人生を味合わせるんじゃないかと思うと、怖くて…言えなくて…)
数十秒、虎之助は固まったままだった。そして、真顔になった後、僕に伝えた。
(マモル、たとえ障害があろうとも、俺は生まれてくれる我が子を見捨てたりしない。俺の…いや、マモルの子だ。たとえ障害があろうとも、障害に負けない強い子に育つに決まっている。俺が、マモルともども、守ってやる…だから…!)
(虎之助…?)
(マモル、俺と、結婚してください!俺を子供たちのパパにしてください!マモルも、お腹の子も、愛しています!)
(本当に、いいの?…虎之助…)
(もちろんだ!きっと幸せにしてみせる!誓う。俺のすべてをささげて!)
(…虎之助…はい、喜んで…僕を虎之助のお嫁さんにしてください。そして…この子たちのパパになってください…)
(ありがとう、マモル!愛している!)
(僕も、愛しています。虎之助)
僕と虎之助が見つめ合う。…耳が聞こえていなくても感じるお互いの想い。…お互い言葉はいらない…そして…
ちゅっ…
僕と虎之助は2人誓いのキスをした。お互いの気持ちが完全に結ばれた瞬間だった。
子供が生まれる前に、虎之助の両親に結婚のあいさつをすることになった。…僕は男だ…認められなかったら、どうしよう…不安でいっぱいだった。
(マモル、大丈夫だ。俺がついてる。マモルのことに関しては、両親も知っている。それに何かあっても、俺はマモルを選ぶ。…俺を信じてくれ)
虎之助からの励まし。勇気をもらった僕は前を向いて、虎之助の両親に会った。虎之助の両親には一度だけあったことがある。
「初めまして、僕はマモルと申します。あの時は手を合わせていただき、ありがとうございます。…知ってるかもしれませんが、僕は耳が聞こえません」
初めにそう伝えた後、僕は虎之助の両親の方を向く。虎之助の両親は無言で僕の話を聞いてくれいていた。続いて、僕は自分の気持ちを伝えた。
「僕は、虎之助を愛しています。僕が男だということは分かっています。でも、この気持ちは本当です!僕と虎之助の結婚を認めてください!」
虎之助の両親の目を見て告げる。
「#####…」
虎之助が手話で伝えてくれた。
(マモルさん、私たちは虎之助とあなたの仲を、認めています)
「え…?」
(虎之助からマモルさんの話を聞いていました。虎之助が唯一執着し、愛した人だということを雄弁に語ってくれましたよ)
恥ずかしそうに手話で伝えてくれる虎之助。だが、さらに手話で伝えてくれる。
(耳が聞こえないことは私たちにとって大きなことではないわ。虎之助が認めた相手だ。素晴らしい人に決まっている。…マモルさん、虎之助の良き妻となって、虎之助を支えてください。これからも、虎之助の側に、いてください)
「ありがとう、ございます…!」
嬉しさのあまり、涙を流しながら僕の気持ちを告げる。
(マモルさん、これからは私たちのことを義父さん、義母さんと、呼んでください。私たちは、家族も同然です)
「義父さん…義母さん…」
僕の言葉に満足げにうなずいてくれる。…表情は見えない。嬉しさのあまり、涙で前が見えなかったからだ。…僕の新しい家族。そんな僕を、虎之助は優しく抱きしめてくれた。
そして僕は虎之助と籍を入れた。…これからは井上マモルではなく、虎谷マモルという名前になった。結婚式は、子供を出産して、安定してからという話になった。優しい虎之助と義父さんと義母さんがいてくれる日々。…そして…
「うーん、うーん!」
「#####!!!!」
お腹が張り、陣痛の痛みが僕を襲う。男の僕が出産の痛みを味わうとは思ってもみなかった。だが、愛しい我が子のことを思うと、どんな痛みにも、耐えられた。それに、虎之助も、いてくれるのだから…!長く、僕にとっては途方もない時間がたつ。そして…
「#####!!!######!!!」
口をパクパクしている産まれてきた2人の虎獣人の赤ちゃん。僕と虎之助の2人の我が子。おそらく、生まれたことの産声を上げているのだろう。
「僕と、虎之助の、赤ちゃん…」
出産の疲れから、僕は気を失っていった。
「ううん…」
ベッドの上で、目を覚ます。そばには虎之助と義父さんと義母さんがいてくれた。虎之助が僕たちの2人の赤ちゃんを優しそうな目をしながら抱いてくれている。虎之助が我が子を義父さんと義母さんに預けた後、僕に手話で伝えてくれる。…笑顔で!
(マモル、俺たちの子を産んでくれてありがとう!2人とも、元気な男の子だそうだ!俺の両親も、孫の顔を見ることができてうれしいと言ってくれた。もちろん、俺も嬉しいぞ!)
(そういってくれてよかった…生まれてきてくれて、ありがとう)
僕は、僕と虎之助の愛の結晶である2人の虎獣人の男の子を見る。すやすやと安らかそうに眠っていた。
(子供たちも、元気そうでよかった)
(そうだな。俺たちの子供に、名前を決めないとな!もちろん、マモルとだ!俺たちの子供なんだから、一緒に考えてくれよな!)
(もちろんだよ、虎之助!)
そして、2人キスをする。子供たちが目を覚ます。その顔は笑顔だった。まるで、子供たちが僕たちを祝福しているようだった。
我が子には虎太郎、虎次郎と名付けた。慣れない子育てに、虎之助と2人取り組んだ。虎之助は子供たちの夜泣きがうるさくて困ると嬉しそうにぼやいていた。それに、義母さんが協力してくれたから、初めての子育ても、何とかなった。そして、ミルクから離乳食へと変わる。離乳食アドバイザーの資格を取った経験が活きたと思った。
1年後、虎之助と僕は結婚式を挙げた。虎之助の親族が中心の挙式だったが、十分だった。みんな、僕たちのことを祝福してくれた。
…そして、子供たちが生まれてから3年の月日が流れた…
子供たちも、健やかに育ってくれている。それに、耳も聞こえるし、目も見える。2人とも、障害を持つことなく育ってくれた。でも、仮に障害を持っていたとしても、虎之助は見捨てることがないだろう。それだけ愛情をもって接していることがわかる。…そろそろ、子供たちが保育園から帰ってくる時間だ。
「####!!!」
「####!!!」
義母さんに連れられて虎太郎と虎次郎が帰ってくる。身振り手振りをしながら。虎之助の手話をまねようと、手話もどきの行動をしている。正直に言って、意味は全く伝わっていない。手話で伝わるのはせいぜいおはよう、おやすみ、虎之助が頻繁に伝える愛してるくらいだ。だが、子供たちの身振りから、楽しそうに話す笑顔から、伝わってくる気持ち。…母さんも、こんな気持ち、だったのかな?僕自身がママになってから初めて母さんの気持ちを理解した気がした。食事は義母さんと作ることが多い。料理に関しても、介護食アドバイザーの勉強をしておいてよかったと思えた。義母さんとのコミュニケーションは筆談が中心だが、簡単な手話も交えている。最近耳が遠くなってきたから、虎之助から手話を学んでおいてよかったわと伝えてくれた。もちろん、関係は良好だ。
「#####!!」
「#####!!」
子供たちがドアの方を向く。ドアが開かれ、そこには虎之助がいた。確か、今日は早上がりだと虎之助から伝えられていた。
「ただいま、皆」
手話を交えながら、虎之助が挨拶をした。
(おかえりなさい、虎之助)
(ただいまだ、マモル。今日も、マモルが焼いたパン、社員から高評価だったぞ!)
(それならよかった!)
僕は実は仕事をしている。内容は虎之助の所属する虎谷コーポレーション本社の社員向けの朝食無料サービス用のパンを焼くことだ。忙しい日は、朝食を食べれない人もいるとのことで、このサービスはありがたいと社員から評判だと、虎之助が伝えてくれた。初めは僕一人だったが本社にはかなりの人数がいるため、僕以外にも朝食無料サービスのためのパンを焼くスタッフも増えた。僕と同じように、耳が聞こえづらかったり、足が若干不自由だったりと障害を抱えている人も中にはいた。サービスを始めてから1か月がたち、義父さんからお金を渡されそうになったときは、断ろうとした。…僕が好きでやっていることだから。だが、そんな僕に義父さんは伝えたのだ。
(マモル、仕事をして賃金を得るのは当たり前のことだ。是非、受け取ってほしい)
(ですが)
(マモル、賃金を得るということは同じような境遇で働く人への自立や自信につながる。だからこそ、受け取ってほしいんだ)
(わかりました。ありがたく、受け取ります。)
義父さんがそこまで考えているとは…さすが、虎谷コーポレーションの総帥だと思った。
(俺も、社員と一緒にマモルの焼いたパンを朝食で食べている。だから、今まで知れなかった社員の一面を知れたし、社員からは話しやすそうな会長だと、言われるようになった。マモルのおかげだ。これからも、是非、頼むぞ!)
(もちろん、これからもさせてもらうね)
(ありがとう、愛しているぞ、マモル!)
(僕も、愛しています、虎之助!)
そう言って、2人触れるだけのキスをする。子供たちが笑顔で手を伸ばしていたので、虎之助は子供たちのほっぺにもキスをした。
ありふれた家族の日常。…これからも、この日常を、大切にしていきたい。この先、どんな困難があったとしても、虎之助となら、乗り越えられる。だから、安心してね、母さん…。
(虎之助)
(なんだ、マモル?)
(僕、虎之助の妻になれて、幸せです。もちろん、子供たちのママにもなれて幸せです)
(俺もだ。マモルの夫になれて、幸せだ。もちろん、子供たちのパパになれて幸せだ!)
この気持ちだけは、言葉がなくても、2人伝わる。そして、2人、心から笑顔で、笑いあった。
[newpage]
俺の名前は虎谷虎之助。虎獣人の男で、虎谷コーポレーションの総帥の一人息子。いわゆる御曹司というやつだ。自分で言うのもなんだが、俺はたいていのことは人並み以上にできる。体格もいい方だ。勉強も、スポーツも、絵も人並み以上にできた。もちろん、努力とかはしていない。初めは、出来のいい俺を周りは喜んでくれた。小さいころは称賛の声に喜びを覚えたが、いつの間にか、虎之助ならできて当然という風に扱われるようになっていた。もちろん、俺自身、そうだった。そのため、いつの間にか、自分の中で自ら努力して何かを成すことをしなくなっていた。そして、自分自身、欲しいものは何もなかった。欲がないと、周りからは高評価だが、自分自身、味気ない人生を味わっていると思っていた。中学のころ、父から一つの話を聞いたことがある。
「虎之助、恋というのは自分の人生を変える素晴らしいものだ。運命の相手…わしも自分の番に会った時は雷が落ちるような衝撃を味わったものだ。…虎之助もそういう相手が見つかると、良いな」
その時はうなずいたが、俺自身、恋というものを理解していなかったし、する必要もないと思っていた。運命の相手…正直、他人にもそこまで興味を持てなかった俺はどうでもいいと感じていた。そして、高校、大学、と駒を進めていく自分。当然壁などなく、何でもできた。周りからはすごいと思われているようだが、俺自身は出来て当り前のことをしているだけだった。その頃には、女性からのアプローチもあった。…男からも。だが、そのどのアプローチにも応えることはなかった。告白されても、興味すら持てなかったからだ。周りからは友人とよべる人物は多い自分だったが、心から自分自身をさらけ出し、知りたいと欲する人はこの時にはいなかった。社会人になってからも、アプローチはある。むしろ、虎谷コーポレーションの自分の地位から、アプローチの数は増えていた。相変わらず、だれのアプローチにも、応えなかった。だから俺は社会人になってからも童貞で、キスすらしたことがなかった。正直、する必要を感じていなかった。そして、自慰行為ですら。一応、俺の逸物は長くて太い。巨根と言っても差し支えのない大きさで、玉も大きい。獣人の雄は性欲が強いとは聞くが俺には当てはまっていないようだった。仮に1月に一回したらいいというときもある。それも、事務的に手を動かして出すだけの処理。夢精しないためだけの行為でしかなかった。
そんなこんなで、俺も39歳。中年のおじさんという年になった。健康維持の必要があるため定期的にジム等に通っていたため、体格だけは、筋骨隆々とした巨躯だ。この歳になっても恋を知らない俺は、童貞で、キスすらしたことがなかった。だが、虎谷コーポレーションの今後を考えると、そろそろ子どもを求められるだろうとわかっていた。だが、仮に伴侶を当てられても、そいつを愛するどころか、興味を持つこともできないだろうと思った。もちろん、生まれてくるであろう我が子であっても同様だと思っていた。…この時までは。
新しい支社ができるということで、虎谷コーポレーションの会長となった俺がしばらくその支社で仕事をする必要があったため、支社に通った。とある日。いつものように商談を終え、歩いて支社へと戻ろうとする帰り道にパン屋を見つけた。ちょっと小腹がすいたため、パンを買おうと店に入ることにした。それに、なぜか甘い匂いも、したから。店の中は焼き立てのパンの、美味しそうな匂いがしていた。時間帯もあって、お客は自分以外居ないようだ。そして、店を見渡し、一人の店員の男と目が合った!!
ドグン!!!!!!!
その青年を一目見た時、俺の中に雷に打たれたような激しい衝撃が沸き上がるのを感じた。それに、なぜだか甘い匂いが強くなった。俺が感じていた匂いは、この人からか!?
「君は、まさか!?俺の運命の番なのか!?」
今まで恋というものを知らなかった俺。衝動的に、目の前の青年に声をかけていた。青年は困惑していた。…当たり前だろう。出会ったばかりのおっさんに、こんなことを言われても困るだけだろう。だが、真に困っている理由を知り、俺は衝撃を受けてしまった。
…僕は耳が聞こえません…
まさか、俺の言葉が聞こえていなかったとは…俺は少し冷静になり、目の前の青年と筆談でコミュニケーションを試みた。
(耳が聞こえないというのは本当なのか)
(はい、本当です。でも、文字は分かります。なので、ご要望があれば書いていただけるとありがたく思います。…もしくは手話なら対応可能です)
…やはり、俺の声は聞こえていないのだろう。…目の前のこの人のことを、知りたいと思う。…はじめてだった。俺が誰かに興味を抱くことが。そして、もっと知りたいと思うことが。俺は目の前の青年の名前を聞いた。
(僕の名前は井上マモル。19歳の男です。…男っていうのは、書かなくてもよかったかな。よかったら、あなたの名前を教えていただいても構わないでしょうか。)
もちろんだ、是非、俺のことを知ってほしいと、その時思っていた。
(構わない。俺の名前は虎谷虎之助という。年齢は39歳。虎獣人の素敵なおじさまだ)
本来なら、おっさんと言える年齢だがかっこつけておじさまと書いた。そして、笑顔が自然に漏れる。…初めてだった。作られた笑顔でない表情を他人に見せることが。
そして、もっと親しくなりたいと思い、俺のことを虎之助と呼んでもらい、目の前の青年のことをマモルと呼ばせてもらうことをお願いした。目の前の青年、マモルは了承してくれた。マモルの前では、完璧に作られた自分ではない、自然体の自分でいられるような気がしていた。だからつい、唯一好きだと呼べる甘いものが好きだと自然に伝えられた。マモルがメロンパンとクリームパンを勧めてくれたため、買って帰ることにした。道中、買ったパンを食べながら思う。
…もっとマモルのことを知りたい…もっと仲良くなりたい…それにこのパン、とてもおいしいな…また来て他のパンも食べたい…きっとおいしいんだろうな。
他人への興味とまた何かを成したいという気持ち。…俺の中で初めて沸き上がった気持ちだった。
1週間後、俺のこの気持ちが本物かを確かめるため、再び店を訪れた。マモルはそこにいた。前と同じでお客はいない。チャンスだ!…チャンス?やはり、俺はマモルと、話をしたいのか…?俺は前とは違い、私服姿だった。マモルはかっこいいと言ってくれた。今までに腐るほど言ってくれた格好いいという賛辞。いままでのどの言葉よりも俺の心に響いた。それよりも、マモルの方がかわいいと素直に伝えると、照れたような顔をしていた。…もっとマモルのいろいろな表情が、見たい…!自分はプリンが好きだと伝えると、マモルも俺のことをかわいいといった。俺としてはかっこいいと言ってくれた方が嬉しい。他人にどう思われても構わなかった俺が、そうみられたいと思った瞬間だった。今度はマモルの好きなものを知る番だ。…だが、マモルのペンの手が止まる。…どうやらインクが切れたようだ。さすがの俺も、ホワイトボード用のペンは持っていない。マモルは残念そうにしてくれたが、俺の方が残念だった。…もっとマモルのことを知りたい。もっと、もっと…!俺のこの気持ちが本物だと自覚した日だった。
無理を言って、支社にいる期間を延ばしてもらった。どうでもいい理由を並べ立てて。まるで子供のわがままのようだと自覚はしている。それでも、マモルと会うことの方が、大事だった。そして、再び店を訪れる俺。俺の姿を見たマモルはもっていたベルを鳴らした。そして、女の人がやってきた。年からして、マモルの母親だろうか?
「##########…」
「##########…」
2人は手を動かしている。あれは…手話?…何を話しているか、わからない…女の人が俺に話しかけてきた。
「あなたが、マモルの話していた、虎之助という人かしら?」
「初めまして、私の名前は虎谷虎之助と言います。こちら、俺の名刺です。」
「わざわざご丁寧に、ありがとうございます。私はマモルの母ですわ。」
俺が渡した名刺を見て、マモルの母は少し驚いたような顔をした。
「あの有名な虎谷コーポレーションの会長さんがどうして?」
「前に買ったチョココロネがとてもおいしかったのでな。またパンを買いたいと思い、立ち寄らせてもらった。」
俺が告げた後、2人は手話でコミュニケーションをとっていた。…手話…それを知っていれば、俺もマモルとコミュニケーションを図ることが…できる!
「#########…」
「#######…」
やはり、今の俺では、何を話しているかはわからない。悪い話ではなさそうだが…今日のところは、パンを買って、立ち去るとしよう。でも、せっかくだから…
「マモルが作ったパンで、おすすめのパンはありますか?」
「それなら、クロワッサンがおすすめですわ。」
俺が虎谷コーポレーションの会長だと知っても、こびへつらうことなく丁寧に接してくれるマモルの母。…おれにとっては、好印象だ。
「また、いらしてくださいね」
「必ず、また来ます。」
…マモルに会いに。
俺は帰社がてら、一つの決断をする。
…マモルと、もっと円滑にコミュニケーションをとりたい。筆談以外の方法でも、問題ないように、手話を勉強しよう。そうすれば、マモルが困ることなんて、無い!その日から俺は手話の勉強を積極的に行った。思えばこれが人生で初めてだろう。俺が自らの意志で何かを学びたいと思えたのは。そして、誰かのために学ぶことが。…自分自身が変わっていくのを感じた。
時折、マモルの店にパンを買いに行く俺。今日はマモルの好きな食べ物をようやく聞くことができた。手話の勉強も、並行して行っている。…思っていたよりも、手話は奥深い。簡単なものならともかく、会話レベルとなると、相当勉強しなければならない。だが、決して俺が諦めるようなことは、無かった。…そろそろ、定期的な処理を行うころか。そういって自室でおれは逸物を取り出す。いつものように手を上下させる俺。その時、ふとマモルのことを考えた。
…マモルも、こうやって処理しているのだろうか…?
マモルが自分で処理している姿を想像する。なぜだか興奮が止まらない!!
「なんだ!?これは!!?」
俺の逸物。いつもよりも勃起し、快感を感じる。マモルのことを考えながら行うと、いつもの比じゃないくらいの快感だ!!
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、
「マモル…マモル…!」
マモルのまだ見ぬ裸体を想像する。…興奮が止まらない!!もっと、もっとと欲する自分がいる!!
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅん!!!!!
「イクッ!!!!ガァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
びゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる!!!!!!!!!
「はぁ、はぁ…まだ、まだだ…」
今までなんかの比じゃないくらい射精した俺。だが、いつもと違い、物足りない!!マモルのことを考えながら、もっと、もっとしたい!!俺の手は逸物へと伸び、再び上下に擦りたてた!!!!
ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、
俺の逸物をマモルに触ってほしい!!!俺の逸物をマモルの口に突っ込んで俺の精液を飲んでほしい!!!マモルの中に俺の逸物を突き立て、一つになりたい!!!マモルが欲しい!欲しい!!欲しい!!!!俺のものだ!!俺のものだ!!オレノモノダ!!!!
ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅん、ぐじゅ!!!!!!
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
びゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅる!!!!!!!!!!!!
再び逸物から精液を吐き出すがまだまだ足りない。…俺は本能で理解する。俺はマモルを性的に見ている!!マモルは俺の番だ!!マモルを抱きたい!!いや、抱く!!抱いて、種付けして、孕ませて、孕ませて、俺だけのものにして見せる!!!
「逃がさない!!!俺の番!!!!俺のマモル!!!!」
そして、再び逸物へとのびる俺の手。何度精を吐き出してもとどまることを知らない俺の性欲…マモルを愛しているという事実を自覚し、俺…虎之助という雄が目覚めた、瞬間だった。
マモルへの欲望をひた隠しにしながら接する俺。マモルのいないところで、マモルのみだらな姿を妄想し、自慰にふける日々を過ごしていたある日。ふと、絵画イベントのポスターが目に入った。…俺自身、絵はどうでもいいと思っているが、マモルは絵が好きなのだろうか?…知りたい…せっかくだから、俺はマモルを誘うことにした。…マモルは受け入れてくれた。嬉しかった。パン屋以外でも、マモルと交流できることが。
そして、当日。私服姿のマモルはかわいかった。思わず、見とれてしまうほど。
「今日のイベント、楽しみ!」
周りからそんな声が上がる。俺も楽しみだ。…マモルと一緒に居られることが。だが、せっかくのイベントだ。俺とマモルは絵を描き始めた。ある程度出来上がった。いつも通りのできだ。俺が手を止めているのを見て、マモルが俺に聞いた。まずはマモルが描いた絵を見せてもらった。とてもかわいらしい、イラストのような絵だ。…マモルに似合った、雰囲気の…絵…。マモルが俺の描いた絵を見て、凄いと褒めてくれた。いつも通り描いただけの絵だが、マモルに褒められたという事実。…久しぶりに褒められたという事実に心の奥では高揚していた。…俺にもまだ、こんな感情があったんだな…。マモルは母を見かけたと言って、少しだけ立ち去る。たったそれだけの時間なのに、俺の側に居てほしいというこどものような独占欲が沸き上がるのを感じた。仕方なく、一人であたりを見渡す俺。その時、何人かの女が俺のもとにやってきた。
「かっこいいおじさま、一人ですか?」
「…ああ、そうだが」
…正直、苦手というか嫌いな部類のチャラそうな女どもだ。だが、そんな俺の気持ちをよそに、女どもは告げる。
「よかったら、私たちと一緒に参加しません?」
「あっちの方、景色いいんです!一緒に行きましょう?」
こういう輩には、はっきり断らないと、わからないだろう。
「申し訳ないが、俺には番がいる。他を当たってくれ。」
…マモルという俺の番が。冷たい声と態度に無駄だと悟ったのだろう。女どもは不満そうな顔をしながら立ち去った。…俺の方が不満だ。俺が一緒に居たいのはあんな女どもじゃない。マモルだ。偶然、女どもが立ち去る場面を目撃していたのだろう。俺は道を聞かれただけだと嘘をついた。そして、イベントの終わり際、マモルは俺が描いた絵が欲しいと言ってきた。俺は了承した。代わりに、マモルの描いたイラストをもらった。マモルが描いた絵なのだ。俺にとっては、宝物も同然なのだ。マモルも、俺が描いた絵を大切にしてくれていると、良いな…俺は少し勇気を出して、マモルの手を握った。…初めて触るマモルの手、温かくも、力強さをも感じる手。…おそらく、毎日、パンを作っているからだろう。マモルも握り返してくれた。…嬉しかった。そして、離したくないとも思った。また、こういうイベントがあったら、マモルを誘おう!今日は今までになく充実した1日と、なった。
それから約1か月後。久しぶりに虎谷コーポレーションの総帥である父と俺の母とともに食事をした。久しぶりの親子での食事。開口一番口を開いたのは父だった。
「虎之助、最近手話を勉強するという話を聞いたが、本当なのか?」
「ええ、本当ですよ、父上。」
「…仕事で必要なのか?耳が聞こえない人との取引先で使うのか?」
「いえ、違います。でも、なぜ?」
「…虎之助が自ら学ぶことなど、初めてであろう?」
「…父上、俺はそんなに不出来ですか?」
「…言葉を変えよう。自らの意志と願いから特定のことを学ぶなど、初めてのことだろう?」
「どうして、それを」
「わしはお前の父だ。忙しくてろくに見ることができなかったがそれくらいわかる。必要でないことに興味もなく、しようともしなかったお前がしたいと思っていることなのだ…それは誰のため…なんだろうな?」
茶目っ気をもって俺を見つめる父。…お見通しだったとは。俺は素直に答えることにした。
「俺の番のために、手話を学んでいます。父上。」
「番…お前の口からそんな言葉が出るとはな…相手は耳が聞こえない…のだな」
「ええ、そうです。」
「もし、わしがそんな奴と別れろ、と言ったら、お前はどうする?」
「そんな言葉に、俺が従う必要はない!!」
「…それがたとえ、虎谷の全てを捨てることになってもか?」
「構いません。覚悟はできています。」
「そこまで、お前が執着する相手とはな…どんな人か、聞いてもいいか?」
「私も、興味があるわ。虎之助」
父と母から尋ねられる。…隠し通すことは、出来そうにない。いや、隠す必要などない。正々堂々マモルのことを伝えよう!
「俺の番は、マモルという、男です。」
「男…」
「はい。俺よりも年下で、歳が20歳ほど離れています。親子といえる歳の差があります。だがそれでも、俺はマモルを愛しています。」
「そうか…」
「拒絶しないのですか?」
「わしが拒絶したら、あきらめる程度の相手か?」
「そんなはずないでしょう!」
「虎之助、わしは反対なんかせんよ。虎之助が認め、執着する人だ。さぞかし、立派な人なのだろうな。」
「その通りです。」
「断言するのね。」
「もちろんです。」
「虎之助、わしは相手が男だからと言って反対するような器の小さい男じゃないぞ。今の時代、多様性が当たり前の社会だ。男と男が付き合う。それもいいだろう。」
「…父上。」
「ここだけの話だがな、実はわしの初めての恋人も、男なんだ。」
「なっ!?」
「もちろん、このことは妻も知っている。というのも、相手はわしの同級生で、妻の兄だったのだから!」
「兄が恋人を連れてきた時は、驚いたわ。まさか、男の人だとは、思ってもみなかったから。」
「ではなぜ…その男の人とは…」
「わしの最初の恋人はな、事故で亡くなったんじゃ…」
「…」
「その時、わしは憔悴しきってしまっておってな。情けない話なんだが、自殺まで考えたもんじゃ」
「自殺…」
「そんなとき、わしのほほを思いっきりビンタして叱り、励ましてくれたのが妻だったというわけじゃ。自分もつらかっただろうに。…それから、妻のことを意識し出して、改めて好きになって…今に至るというわけじゃ」
「そうだったのですか…」
「虎之助、番にはきちんと愛を告げたのか?」
「…いえ、まだです。そのためにも、手話をマスターし、コミュニケーションを完璧にとれるようになる。…その時こそ、俺はマモルに愛を伝えます。」
「虎之助。…そこまで大切な相手なら、手放すでないぞ。それに、ただでさえ相手は耳が聞こえないのだ。苦労も多いだろう。そんな時に見捨てるような情けない雄ではいかん。…きちんと、守ってやるのだぞ。」
「わかっています。俺の全てをかけて、守って見せます!」
「それでこそ、虎谷の雄、わしの息子だ!」
そして、マモルのことを父と母に伝える。マモルのことならすらすらと自分の口から出てくる。父と母は俺が話す様子を静かに、でも幸せそうに聞いてくれた。…俺の父と母の中で、マモルのことを認めてくれた日だった。
マモルと出会って4か月ほどたった。手話もある程度理解できるようになった。そこで、実践がてら、マモルをカフェに誘いランチに行くことを提案した。マモルは受け入れてくれた。カフェまでの道ははぐれてはいけないと伝えたうえでマモルと手をつないだ。俺がつなぎたいだけだったが。そして、カフェ前へとたどり着く。人気なだけあって、けっこう並んでいたが、大丈夫だ。
「予約していた、虎之助です」
「虎之助様ですね。こちらへどうぞ」
そう、事前に予約していたのだ。待つまでの間、手をつなぐのも乙だが、今回は俺の手話がどれくらい伝わるかを理解する場でもあるのだ。テーブルに腰かけると、店員がやってきた。
「オーダーはいかがしますか?今日のおすすめはパスタセットです。」
「説明ありがとう。オーダーが決まったら、また呼ばせてもらう。」
耳の聞こえないマモルの代わりに俺が店員の言ったことを伝えた。ドリンクを何にするか聞いた時、マモルの手話の内容が分からなかった。指で差され初めてわかった。…それはオレンジという意味か。やはり、完璧に手話を理解しているとは、言えないな…。ドリンクを決め、オーダーを伝える。料理が来るまでの間、俺の趣味について聞かれた。自分で言うのもなんだが、趣味はない。マモルと出会うまで、好きなものも取り立ててない。…自分がつまらない人生を送っていたのかと客観的に理解できたような気がした。そんな俺に対し、絵を描くことはどうかと提案してきたが、自分自身、しっくりはこなかった。まぁ、マモルに言われたからやってみようとは思うが…。他に、一緒にお菓子を作ることを提案された。俺はもちろんだと素直に了承した。一緒にということに魅力を感じたからだ。料理が来たので、一緒に食べる。人気なだけあって、味は良かった。それ以上にマモルが喜んでくれているという事実が嬉しかった。お金はもちろん俺のおごりだ。マモルも出すと言ったが、雄の意地にかけて俺が出した。…でも、おごられるのが当然だと思っていない性格は俺にとって好ましいものだった。そして、後日。約束通り、一緒にお菓子を作る。…楽しかった。料理が好きになった。趣味と呼べるかもしれない。だが、一人で同じ料理を作ってもマモルと一緒に作った時と比べると、楽しくはなかった。俺の趣味…それは、マモルとともに何かを成すことなのだと理解した。
それから2か月がたつ。もう、手話を完璧に理解した俺。使いこなすことも、可能だ。今の俺なら、マモルに愛を伝える資格がある。だが、愛を伝えた後の課題が2つある。一つはもちろん、マモルが受け入れてくれるかどうか。俺と会うとき、マモルは嬉しそうにしてくれているが、それがどんな気持ちなのかはまだわからない。拒絶されることは怖いが、必ず、俺のことを好きにさせる自信がある。そしてもう一つは、マモルの母親に受け入れられるかどうかだ。マモルは母親を大事にしている。もし母親が難色を示したら、仮にマモルが俺のことを好きだとしても、俺の告白を断ってしまうに違いない。マモルに受け入れられることと、マモルの母親に受け入れられること。…でも、俺は簡単にあきらめたりするものか!その決意をもって、今日もマモルのパン屋に向かった。遅い時間に行ったため、もう閉店時間に近い。店に入る。お客は誰もいないようだった。それにマモルもいない。マモルの母親が店番をしていた。…こうなったら、先にマモルの母親に俺のことを認めさせよう。どちらにせよ、必要なことだから…意を決し、俺はマモルの母親にマモルへの愛を伝えることを決意した。
「あなたに大切なお話があります。」
俺の真剣さを感じ取ったのだろう。俺の言葉を聞いたマモルの母上が店を閉め、俺に向きなおった。
「なんでしょう、大切なお話とは。」
俺は深呼吸をして、告げる。
「俺はあなたの息子のマモルのことが好きです。マモルのことを愛しています。男同士で歳が離れていることは承知しています。それでも愛しているんです。マモルを俺にください!」
俺の告白に真剣な目をしたマモルの母親が、聞き返す。
「それは、マモルの全てを受け入れたうえでの言葉なのですね?」
「もちろんです。耳が聞こえないところも含めて、マモルを愛しています。決して手放しません。必ず守ります。だから、マモルを俺にください!!」
「本気、なのですね」
「もちろんです!」
「虎之助さん」
「はい」
「マモルのこと、よろしくお願いします。」
「それは…!」
「もちろん、私はあなたのことを認めていますよ。あなたの人柄は十分理解しているつもりです。あなたにならマモルを任せられる。…そう、思います。」
「ありがとうございます!」
「もう、マモルには告白したのかしら?」
「それは、まだです…」
「そう…ここだけの話よ。マモルはね、あなたのような頼りがいのあるオジサマが恋愛対象として、好きみたいですよ。」
「本当ですか!?俺のような…!」
「ここから先は、マモルの口からきいてくださいね」
「はい!必ず、愛を伝えます。ありがとうございます!マモルの母上!」
「私のことは、義母さんと呼んでいただいても、大丈夫ですよ。私にとって、あなたは息子も同然ですから」
「義母さん…」
「私が義母では、嫌かしら…?」
「そんなことありません、義母さん、よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね。虎之助さん」
「義母さん、早速ですが、お願いを聞いていただいても構わないでしょうか?」
「何かしら?」
「今度マモルと2人で温泉旅行に行きたいと思います。そこで俺の愛を伝えたいと思います。…コミュニケーションについては大丈夫です。俺は手話をマスターしたので、マモルに何でも伝えることができます。それに、はぐれないための方法も考えております。」
「旅行…もちろん賛成ですよ。母子家庭ということもあってマモルには旅行させてあげることができなかったから、いい思い出になるでしょう。」
「ありがとうございます!」
笑顔の義母さんが急に真顔になる。
「私からも一つ、お願いを聞いていただいても構わないでしょうか?」
「…何でしょう。」
「私の緊急連絡先に、あなたの名前を書いても構わないかしら?」
「…ご病気、なのですか?」
「あっ、いいえ、そういうわけではないわ。…今もし私に何かあってもマモルに伝える人がいないから。あなたならと思って…もしかしたら辛いことを伝えるようなことがあるかもしれない…それでも、構わないかしら?」
真剣な口調。確かに生半可な覚悟では受け入れるのは難しいだろう。…だが、それだけ俺のことを信頼してくれているのだ。俺は真剣な顔をして、義母さんに伝えた。
「分かりました。もちろん、構いません。これが、俺の連絡先です。」
そう言って俺は名刺にも書かれていないプライベート番号を伝えた。
「ありがとうございます。…ちょっと待っててくださいね」
そう言って、店の奥に行く義母さん。戻ってきた時に一つのものを俺に手渡した。
「これは?」
「店の合い鍵ですわ。あなたになら渡しても大丈夫ですわ。」
「ありがとうございます。」
「…虎之助、マモルをこれからもお願いいたしますね」
「もちろんです、義母さん」
そして俺は店を出る。マモルの母上…義母さんは俺を認めてくれた。その信頼に応えてみせる。俺は決意を強くした。
そして、マモルも賛成してくれた旅行。旅館へは、車で向かう。マモルの耳が聞こえないこともあって会話はなかったが、マモルと2人一緒に居られる。それで十分だった。旅館に着く。女将が俺に話しかけてきた。…俺の行きつけの旅館で、愛を伝える行為を行うかもしれないことは事前に伝えてある。女将も了承してくれたので、問題はないだろう。俺たちを見た女将が一瞬固まったが、すぐに笑顔になり、俺たちに告げる。
「ようこそお越しくださいました。」
女将からの言葉をマモルに告げる。前とは違い、流暢に手話を使いこなすことができるため、他人の言葉もマモルに伝えることができた。まずは観光。マモルにどう思われているか聞かれたので、自信をもってカップルだと伝えた。マモルは照れて否定していたが、俺は「本当のことなのに…」とつぶやいた。喫茶店ではオレンジジュースを頼んだ。今では、オレンジという意味も、分かる。飲んだジュースがおいしかったので、お土産がてら、義母さんにジュースを買うことを決めた。そして旅館に戻り、夕食を共にする。マモルが満足している。それが俺にとって何よりのごちそうだった。そして、マモルと一緒に露天風呂に入る。…マモルの一糸まとわぬ姿。…俺がずっと見たいと恋焦がれていた姿。「…綺麗だ。」つい、つぶやいた。この体を俺だけのものにしたい!俺は必至で興奮を抑えようと努力した。…風呂から出たら、俺の愛を伝えようと決意した。風呂から出ると、布団はすでに敷かれていた。…今こそ俺の愛を伝えるときだ!俺は、真剣な顔をして、マモルの方を向いた。
(マモル、旅行の前にマモルに伝えたいことがあるって言ったよな。聞いて、くれるか?)
(…うん、いいよ。虎之助)
(マモル…)
俺は深呼吸した後、マモルに向かって伝えた。
(俺は、マモルのことが好きだ。マモルのことを愛している。)
俺の告白に対し、マモルが返答を告げる。
(…僕も、虎之助のことが好きです。もちろん恋愛的な意味で愛しています。僕を、虎之助のものにしてください。)
「よっしゃああああああ!!!!!!」
つい、雄たけびを上げてしまうが気にしない!マモルが俺を愛しているといった!俺のものにしてほしいとも…俺、今、幸せだ!!!
そして、おれは真顔になる。俺とマモルの視線が重なる。俺はマモルに顔を近づける。マモルは受け入れてくれている…そして…
ちゅっ…
俺とマモルの唇が、重なった。
…それは俺のファーストキスだった。
これからする行為。キスすら初めてなのだ。もちろんはじめてに決まっている。だが、事前に勉強はした。それに俺は雄だ!絶対に気持ちよくして見せる!!激しくキスをした後、マモルを生まれたままの姿にさせる。
「綺麗だ…」そう呟き、マモルの体にキスマークを付ける。俺のものだという証に興奮した。そして、体をつなげる。…今までの自慰行為よりも快感を感じた。マモルの中は気持ちよすぎた!腰を振りながら、俺は「愛してる」という言葉が自然に口から何度も出た。聞こえていないのは分かっていたが、止められなかった。そして、種付けするときに、「孕め!!!!」と叫んでいた。孕ませて、俺のものにする!!何度も、何度も、マモルの中で達した。それでも、俺の性欲は止まらず、マモルが気を失っても、俺の腰振りは止まらなかった。
そして、朝。マモルが目覚める。俺は若干寝不足気味だったが、気分は晴れやかだった。そして、マモルとキスをする。…昨日の行為が夢ではなかったとわかるには十分だった。そして、俺の運転する車でマモルを店まで送る。その時、義母さんが出迎えてくれた。笑顔で。俺は義母さんにマモルに愛が伝わったことをマモルの唇にキスをすることで、伝えた。
それから、約4か月。俺は店に時々パンを買いに行き、マモルと手話で会話をしたり、近くの店でランチをしたりするありふれた幸せな日常が続いた。マモルと義母さんがいてくれる幸せな日常。…だが、その幸せな日常は一本の電話により、終わりを告げる。
昼過ぎ、仕事をしている俺に一本の電話がかかる。俺は、電話を取る。
「もしもし…」
「こちら、虎谷虎之助様の電話で間違いないでしょうか。」
「はい。そうです。どうかしましたか?」
「…実は」
…電話から告げられた言葉。…義母さんが事故にあい意識不明の重体だということ。俺は仕事を中断し、すぐさまマモルの店に向かう。そして、マモルに伝え、ともに病院へ向かう。マモルが不安そうにしていたため、自分のできる限りの励ましをマモルに伝えた。…マモルからは反応はなかった。無理もないことだと思った。そして、手術室のランプが消え、医師が俺たちに向かって告げる。
「手術、どうだったのですか?」
「残念ですが、亡くなりました…」
「そんな…」
今から伝えることは、マモルにとって、酷なことだ。だが、義母さんからマモルを託されたのだ。伝えないわけにはいかない…。
(マモル、落ち着けと言っても落ち着かないのは分かる。だが、気をしっかり持ってほしい)
(どういう…意味)
(マモル、マモルの母上は…残念ながら…亡くなったそうだ)
マモルは大声を上げ、飛び出した。そして、白い布がかけられている姿を見る。
「かぁ…さん…母さん!!!!!あああああああああああああああああっ!!!!!!」
マモルからの慟哭。…無理もないだろう。俺は無力だ。そんな俺にできることは、泣いているマモルを抱きしめることだけだった。
葬式の間。マモルは憔悴していた。どこか心がここにあらずのような。…俺は葬式を手伝った。耳の聞こえないマモルだけでは、行うことが難しいという理由だけではない。俺にとっても、マモルの母親は大切な義母さんだったから。俺の両親が手を合わせたいといったため、俺の両親をその時、マモルに紹介した。その時は俺の両親も、マモルに質問することはなかった。そして、1週間がたつ。…そんな俺に伝えられた1か月の海外での仕事。正直、ふざけるなとも思った。こんな状態のマモルを置いておくなんて。…それに場所が場所だ。1か月も、音信不通になると言っても過言ではない。父である総帥もわしが行けたらと言っていたが、総帥を除いて俺以外に務まる相手がいないことも、わかっていた。マモルにそのことを、伝えた。
(仕方ないよ、仕事だもん。…僕は、大丈夫。仕事、頑張ってね)
マモルは笑顔を浮かべている。だが、俺には無理をしているのが分かった。
(ありがとう、マモル。戻ったら、マモルが作ったパンを食べることを楽しみにさせてもらう。…店を再開できて、よかった。…今日は、これで)
(忙しいのに、来てくれてありがとう、虎之助)
少しでもマモルの気持ちを軽くしたい。俺はマモルから離れないと安心させてやりたい。その一心で…
ちゅっ…
俺はマモルの唇にキスをした。
そして、約1か月の海外での仕事を終え、マモルの店に向かう。海外での仕事の間、マモルのことを想わない日はなかった。店は閉まっているようだった。…定休日なのだろうか…また明日改めて、出直そう。俺は振り返ろうとした。
…駄目よ…
声が聞こえた気がした。…そして、俺の本能がその声に逆らってはいけないと警鐘を鳴らした。俺は持っていた合い鍵で店に入る。そこには…
「マモル!!!」
倒れているマモルを見て俺は叫んだ。俺はすぐさま救急車を呼び、病院へと向かう。…その時、マモルを失うのではないかという恐怖で俺の心は埋め尽くされた。医師を問い詰め、マモルの状態を聞いた。この時俺は焦っていた。
「先生、マモルは大丈夫なんだよな!?」
「軽い、栄養失調ですね…無理もないことでしょう。」
「…どういう意味ですか…?」
「もしかして、ご存じないのですか?」
「何がだ!?」
「マモルさんは…妊娠されています。」
「に…んしん…妊娠!?」
「ええ、他の医師から聞いたところ、今5か月過ぎとのことです…知らなかったのですか?」
「知らなかった…マモルが妊娠しているなんて…」
「…父親は、あなたなのですか…」
「はい、そうです…」
「こんな状態のマモルさんを放っておくなんて…」
「…」
「…とりあえず、母子ともに問題はありません。今後のことはパートナーと話し合ってくださいね」
「…はい」
医師から告げられた言葉。…マモルが妊娠している。その事実に様々な感情が浮かび上がった。マモルが俺の子を妊娠してくれているという嬉しさ。どうして教えてくれなかったのだという筋違いの怒り。俺では頼りないかという悲しさ。様々だった。俺は、マモルが目を覚ますまで、側に居た。…まったく眠ることができなかった。そして、マモルが目覚める。その時の俺は、どんな顔をしているのだろう。自分ではわからなかった。俺はマモルの妊娠の事実を知っている。それでもマモルの顔は嬉しそうではなかった。
(どうしてそんな悲しそうな顔をしているんだ!マモル!?嬉しくないのか!?)
(虎之助は、嬉しいの…?)
「嬉しいに決まっている!!」
つい、大声を出してしまう。自分の大声に冷静になり、マモルに嬉しいということを伝えた。だが、まだマモルの顔は不安そうな顔をしている。俺では、頼りないのか…!?
(もし、生まれてくる子に障害があったら…生きづらい人生を味合わせるんじゃないかと思うと、怖くて…言えなくて…)
ガツンと頭を殴られたような衝撃にかられた。…そうだ。マモルは耳が聞こえないことの辛さを身をもって知っている。当然、子供もそうだったらと不安に思っているに違いないのだ。俺は自分自身のことしか考えていなかった。俺は自分を殴りたい衝動にかられた。…だが、いますることはそんなことではない!マモルを安心させ、俺の嘘偽りない気持ちを伝えることだ!だからこそ俺はマモルに伝える。
(マモル、たとえ障害があろうとも、俺は生まれてくれる我が子を見捨てたりしない。俺の…いや、マモルの子だ。たとえ障害があろうとも、障害に負けない強い子に育つに決まっている。俺が、マモルともども、守ってやる…だから…!)
(虎之助…?)
(マモル、俺と、結婚してください!俺を子供たちのパパにしてください!マモルも、お腹の子も、愛しています!)
(本当に、いいの?…虎之助…)
(もちろんだ!きっと幸せにしてみせる!誓う。俺のすべてをささげて!)
(…虎之助…はい、喜んで…僕を虎之助のお嫁さんにしてください。そして…この子たちのパパになってください…)
(ありがとう、マモル!愛している!)
(僕も、愛しています。虎之助)
俺とマモルが見つめ合う。マモルの耳が聞こえていなくてもお互いの気持ちが伝わる。…お互い言葉はいらない…そして…
ちゅっ…
俺とマモルは2人誓いのキスをした。お互いの気持ちが完全に結ばれた瞬間だった。
その後、俺の両親にマモルを紹介した。あらかじめ、マモルのことは伝えてあったため、俺の両親もマモルのことを受け入れてくれた。…そして、約4か月がたち、ついにマモルが出産する日を迎えた。
「まだか…まだか…」
「落ち着きなさい…虎之助…」
俺と俺の両親は産婦人科にいる。マモルが出産するまでの間、不安と焦りでしょうがなかった。うろうろしているだけの俺。たった数時間のことが永遠に感じた。そして、
「おぎゃあ!!おぎゃあ!!!」
声が聞こえた。そして、数十分後、2人の赤ちゃん…俺とマモルの子供を抱いたナースが俺のもとにやってきた。
「生まれましたよ。二人とも元気な、男の子です」
「男の子…」
「抱いてあげてください…お父さん」
俺が、この子たちの父親…!手渡された2人の赤ちゃんを俺の腕に抱く。小さくも、温かい存在。
「ああ…ああ…!」
俺は無意識に涙を流した。嬉しさと愛おしさから。…俺には無縁だと思っていた感情がとめどなくあふれ出す。
…守ろう、この2つの小さな命を!たとえ子供たちが障害を持っていようとも、見捨てたりなんかしない!俺が幸せに育ててみせる!!
俺はこの日、2人の子供たちのパパになったのだ…
そして、3年の月日が流れる。その間行ったこと。それは、子供たちの名前を付けること。マモルとともに一生懸命考え、虎太郎、虎次郎と名付けた。子供たちの夜泣きは多かったが、元気なことのあらわれでもあった。母も手伝ってくれるため、何とかなった。幸運なことに、子供たちに障害はなく、すくすくと育ってくれる。そして結婚式。マモルのことを考え、親族のみの小さな挙式にしたが、マモルも幸せそうにしてくれているようでよかった。
そして今。俺は朝食を社員とともにとっている。…正確には、マモルとスタッフが作ったパンを朝食無料サービスの一環として社員に振舞い、共に食べる。社員からは、付き合いのよさそうな会長だと言われることが増えた。俺も、改めて社員一人一人に向き合うようになった。今までの俺では考えられないことだ。これも、マモルのおかげなのだろう。
今日は、早上がりだとマモルに伝えていたため、早めに家へとたどり着く。そして、部屋のドアを開ける。そこにはマモルと子供たちがいて、子供たちが俺を出迎えてくれた。
「おかーりなさい、とうちゃ!」
「とうちゃ、おかーり!」
「ただいまだ!虎太郎、虎次郎!」
(おかえりなさい、虎之助)
(ただいまだ、マモル。今日も、マモルが焼いたパン、社員から高評価だったぞ!)
(それならよかった!)
(俺も、社員と一緒にマモルの焼いたパンを朝食で食べている。だから、今まで知れなかった社員の一面を知れたし、社員からは話しやすそうな会長だと、言われるようになった。マモルのおかげだ。これからも、是非、頼むぞ!)
(もちろん、これからもさせてもらうね)
(ありがとう、愛しているぞ、マモル!)
(僕も、愛しています、虎之助!)
そう言って、俺とマモルは2人触れるだけのキスをする。その様子を見た子供たちが笑顔で手を伸ばしていたので、俺は子供たちのほっぺにもキスをした。
ありふれた家族の日常。…これからも、この日常を、大切にしていきたい。この先、どんな困難があったとしても、マモルとなら、乗り越えられる。だから、安心してくれ。俺の…義母さん。
(虎之助)
(なんだ、マモル?)
(僕、虎之助の妻になれて、幸せです。もちろん、子供たちのママにもなれて幸せです)
(俺もだ。マモルの夫になれて、幸せだ。もちろん、子供たちのパパになれて幸せだ!)
この気持ちだけは、言葉がなくても、2人伝わる。そして、2人、心から笑顔で、笑いあった。