水の大陸、ワイワイタウンにあるレシラム教騎士団本部。
先週から取調室に軟禁されている牡のエンペルト、商人のフルトは、椅子に腰掛けたまま窓の外を見ている。彼の視線は復興に励むワイワイタウンの街並みに向けられており、彼は机上に置かれている珈琲のカップに口をつける。
取調室の中には騎士団の副団長である牝のブリガロン、ガロンと護衛の騎士の姿がある。彼らはフルトに質問を続けているが、フルトは沈黙に徹しており、ガロンは少し疲れた顔でため息をこぼす。
取り調べを始めて、既に数時間が経過している。
その間、フルトは沈黙に徹しており、先任者と交代で取り調べを行っているガロンは、自身の腹を無意識に撫でながら口を開く。
「話さないのは構いませんが…貴方を解放するのは我々の要件が済んだ後になりますよ」
ガロンは穏やかな口調で警告するが、フルトは沈黙したまま珈琲を飲む。その姿を見たガロンは顔を顰め、自身の腹を再度撫でる。その様子を見たフルトは、小さく笑い、初めて口を開く。
「身重の小娘が私を尋問するとは…舐められたものだな」
ようやく口を開いたフルトであったが、その口から出た言葉はガロンに対する嘲笑であった。だが、ガロンは「そうですか」と涼しい声で返すが、顔色が若干悪い。その事に気がついた護衛の騎士が扉を叩き、通路の外に合図を送る。
「ルール殿を呼んでくれ」
護衛の騎士は通路に立つ見張りの騎士に声をかけ、彼は応接室にいるルールの下へ伝令を送った。それを見たガロンは「不要です」と言おうとするが、腹部に広がる張りの感覚に顔を歪める。
少しして、通路の奥から走ってきたルールが到着する。取調室内にいるガロンは護衛の騎士に誘導され、息を切らしたルールの下へ連れて行かれる。
「ガロン殿、さぁ…こちらへ…」
ルールは横になれる応接室へとガロンを連れて行き、その背中を騎士達は見送る。その光景を見たフルトは珈琲を飲み、外に目を向ける。
直後、取調室内に団長のルドルフが入ってくる。
通路に立つ見張りの騎士に「ガロンを休ませてやれ」と声をかけ、ルドルフは取調室の中に入る。ある程度の傷が回復しているが、まだ包帯だらけのルドルフは残った左眼は鋭くフルトを睨みつける。その眼力にフルトは息を呑むが、負けじと視線を逸らさずにルドルフを見る。
フルトの反応を見たルドルフは、小さく息を吐き、口を開く。
「…やはり、冷静ではあるが…修羅場慣れはしていないな…」
フルトの反応から彼の本性を見抜き、ルドルフはフルトの目を見る。彼の目には焦燥の色が滲んでおり、ルドルフは静かな声で話す。
「端的にいこうか、カウフマンとヴィレムはどこにいる?奴らの装備と拠点についても教えてもらおうか」
「…何のことか、理解できないな」
フルトは口先で強がってみせるが、ルドルフには通用しない。ルドルフは手に持つ紙の束に目を落とし、話を続ける。
「貴様は知らないかもしれないが…我々騎士団とゼクロム教自警団、調査団、そしてプクリンのギルドとは友好関係にある。互いに情報交換し、既に貴様らの正体もわかっているぞ。時の守護者よ」
ルドルフの口から「時の守護者」というワードが出た事でフルトの目が大きく見開かれる。ルドルフの言う通り、カフカ達から集めた情報はヘンデルを通して騎士団や調査団、自警団に伝えられている。
フルトは生唾を呑み、視線を落とす。
「…この包帯、そして潰れた右眼はお前達の新兵器により、傷つけられたものだ。幸い、私は生き延びたが…多くの部下の命が失われた」
穏やかな口調ではあるが、怒りを感じさせる話し方である。フルトは心拍数が上昇するのを自覚し、視線を逸らす。
騎士団団長であるルドルフが時の守護者の存在を認識しているということは、カウフマンやヴィレムの正体も見抜かれている可能性が高い。
(これ以上の誤魔化しは不可能、か…)
フルトはため息を吐き、荷物の奥に隠していたカプセルの存在を思い出す。取り調べの前にこっそりと取り出したカプセルは、今もフルトの指先にあり、周りから見えない様に隠している。
その中身はグレーテが精製した青酸カリであり、万が一の時は自決する事を命じられている。
だが、フルトはカプセルを飲めずにいる。
その気になれば、口に手を運び、落ち込む様子を彼らにみせ、その間にカプセルを噛み砕く事もできる。だが、今のフルトは過去の世界を知り、様々な物事を体験してきた。
(…死にたくない)
それらを思い出し、フルトは自身の中に生存欲求がある事に始めて気がついた。かつてのフルトは時の守護者として、自身の生に対する執着を持っていなかった。
だが、今のフルトは強い生存欲求を有しており、彼は息をゆっくりと吐き出す。
彼はカプセルを机上に置き、ルドルフの目を見る。
フルトは息をゆっくりと吐き出し、言葉を紡ぎ出す。
「…取引したい」
フルトの言葉を聞き、ルドルフはゆっくりと頷く。それを視認したフルトは慎重に言葉を選び、話し出す。
「まず、これだけは明らかにしたい。私は殺害行為に直接加担した事は一度もない。あくまでも巫女殿の婚姻の仲介と必要物資の調達が役割だ。それを踏まえて…私の無罪を確約してほしい」
ルドルフはフルトの提案を聞き、考え込む。フルトは修羅場慣れしておらず、聴取役がガロンからルドルフに変わっただけで狼狽する程度の度胸である。そんな彼が殺害行為に加担できるとは思えず、ルドルフは彼の顔をじっと見つめる。
(…あくまでも、商人か)
生傷だらけの武人の視線から逃れようとするフルトの動きを見て、ルドルフは判断する。彼は息を吐き、「要求を認める」と応えた。
フルトは安堵の表情を見せ、ルドルフに向かって口を開く。
「何が聞きたい?」
*
騎士団本部にある応接室にルールとガロンの姿があった。
ソファに横になるガロンは従者の差し出す水を飲み、休憩を取っている。彼女の横には婚約者であるルールの姿があり、心配そうな顔でガロンを見ている。
落ち着かない婚約者を見たガロンは、微かに笑い、声をかける。
「安心してください、ルール殿…少し目眩と腹の張りを感じただけですよ…」
「し、しかし…」
ルールとは反対に、落ち着いているガロンは身体を起こそうとする。だが、ルールの手がガロンの肩を抑え、ゆっくりとソファに横にさせる。
ルールの動きにガロンは目を丸くさせ、彼を見上げる。
ルールは真面目な表情でガロンを見つめ、口を開く。
「今はお休みください…ルドルフ殿が仰った様に…」
「…しかし、団長は負傷しています…あまり無理をさせるわけには…」
ルールの気遣いに対して、ガロンは応える。彼女の言葉にルールは頷き、ガラス球の様に輝くガロンの瞳を見つめる。
「ガロン殿の仰る事はもっともです…ですが、それはガロン殿の体調が万全の時の話です」
「…」
「今のガロン殿の身体は、貴方1人のものではない…お腹の子もいるので…もっと身体を労わってください…」
ルールに指摘され、ガロンはため息を吐き出す。不安そうな表情で見てくるルールを見上げたガロンは笑みをみせ、「そうですね」と返した。
「団長も休めと言っていますし…たまには団長の好意に甘えますね」
ガロンの返事を聞き、ルールは安心したように息を吐く。ガロンはそのままソファに身体を預け、目を閉じる。暴動の対処と人命救助、後始末などの指揮をとっていたガロンは疲労しており、ゆっくりと意識を手放していった。
その姿を見たルールは安堵の溜息をつき、ガロンの身体にブランケットをかけた。
扉が開いた。
ルールが扉に視線を向けた。そこには取調室から戻ってきたルドルフの姿があり、彼はソファから離れた椅子に腰かける。従者が机上に暖かい珈琲の入ったカップを置き、ルドルフは礼を述べる。
ルールもまた、ルドルフの向かいの椅子に腰かけ、同じく従者の入れる珈琲に礼を述べる。
ソファに横になるガロンは眠っており、微かな寝息が聞こえる。それを耳にしたルールは穏やかな表情で彼女を見ており、珈琲を口に含む。
口内に微かな苦味が広がり、ルールは頬を緩める。
時計の針が動く音とガロンの寝息が聞こえる中、ルドルフは声を抑えて話し出す。
「…ルール殿も知っていると思うが…ガロンは騎士の家系の生まれだ」
突然、話しかけられたルールは目を丸くさせるが、小さく頷き、視線をガロンに向ける。彼女の寝顔は穏やかなものであり、ルールが傍に控えているため、非常に安心しきっている。通常の武人ならば、無防備な姿を人前で見せる事を嫌う傾向がある。だが、ガロンは穏やかな表情で眠っており、その姿を見たルドルフは苦笑いを浮かべる。
ルールの視線が、ガロンに向けられる。
「…ガロン殿は兄弟姉妹が居らず、唯一の跡取りとして…騎士団に入団したと聞きます」
ルールの言葉を聞き、ルドルフは頷く。ルドルフは無防備な姿を曝け出す部下に目を向け、口を開く。
「…当初はただの小娘に騎士が務まる訳がないと思っていたが…根性と打たれ強さはそこらの牡より優れていたな…」
「…」
「俺が直々に兵法や戦術、武術を鍛えてやったが…覚えが良かったな」
「時々、半べそになる日もあったがな」とルドルフは笑い、珈琲を口に含む。
「そんな小娘が成人前に副団長に就任し、新兵教官を務める様になる、か…」
ルドルフは遠い目で呟く。続けてルドルフはルールの顔を見て、口を開く。
「ガロンを幸せにしてくれ、俺にとっては妹のような存在だから、な…」
ルドルフは力強く口調で言い、ルールに向かって深々と頭を下げる。彼の思いを聞き、ルールもまた深く頷く。
「お任せください、ルドルフ殿…必ず、ガロン殿と腹の子は私が幸せにして、護ってみせます」
穏健派であり、文官のような立ち位置であるルールの言葉は、武官であるルドルフでも感心できる話し方であり、彼の強い意志を確認できた。ルドルフは満足した様に頷き、珈琲の入ったカップを手に持ち、ルールと目を合わせる。ルールもまた、カップを手に持ち、彼らは静かに盃を交わした。
*
ワイワイタウン、調査団拠点。
城のようなデザインの調査団拠点の中は整理整頓されており、衛生管理が徹底されている。調査団の団員達が空き時間に清掃し、団内の規律も保たれている。
その一角、団長室の中も普段なら整理整頓されているが、現状は非常に散らかっている。応接用のソファとテーブルの周囲は整理されているが、窓際にある執務用のデスクには数本の酒瓶と酒の肴の木の実が置かれており、辺りにアルコールの臭いが広がっている。
部屋の主人である牡のデンリュウ、団長はデスクに突っ伏して寝ており、微かな寝息が聞こえる。
扉が開いた。
通路には参謀を務める牝のクチート、ウルスラの姿があり、デスク周りの惨状を見た彼女はため息をつく。
ウルスラは威風堂々と室内を歩き、風を肩で切る。
デスクに突っ伏して眠る団長の傍まで歩み寄り、ウルスラはデスクの脚を蹴った。デスクの上から空き瓶が落下し、絨毯の上に落ちる。
「起きろ、アンポンタンが」
ウルスラは冷たい口調で言い放ち、続けてデスクの脚を蹴る。その衝撃で目を覚ました団長は、二日酔いで痛む頭に手を当てつつ、身体をゆっくりと起こす。
「なんですか…せっかく気持ち良く寝ていたのに…このアンポンタン」
いつも通りの口調ではあるが、どこか不機嫌な様子が滲み出ている団長を見上げ、ウルスラは呆れ顔で話し出す。
「仮にも組織の長が二日酔いで働けない、とか言うなよ?団員や外部の者が見ているぞ」
ウルスラに指摘された団長は「はいはい」と不満げな声で言う。そのまま身体を起こし、固まっている筋肉を伸ばしていく。
「おぉ…身体が悲鳴をあげていますね…」
「身体中がバキバキです」と呟き、団長はウルスラが持参した瓶を受け取る。中には冷えた水が入っており、団長はそれをゆっくりと飲み干す。
「ベッドで寝ないからだぞ…」
ウルスラは呆れ顔で言い放ち、開け放たれた隣室へと目を向ける。隣室にあるベッド上には数多くのアルバムが散らばっており、寝るスペースすら存在しない。
遠目で見たウルスラは、アルバムに収められた写真がライラとリラのものばかりである事を理解していた。
彼女に指摘された団長は空になった瓶を机上に置き、天井を見上げる。
「…昨晩、おだやか村から戻ってから…献杯していましたので…」
「…」
団長の呟きを聞き、ウルスラの脳裏に先週の出来事が鮮明に描かれる。
騎士団団長であるルドルフからリラの正式な死亡報告書が提出され、レシラム教は円卓の一員であるリラの死を大々的に報じた。報せは大陸中に広がり、他の大陸にも広がった。ある者は異端審問官リラの死を喜び、ある者は異端審問官の活動が収まることに安堵の息を漏らした。もっとも、大多数の者はリラの死に無頓着であり、彼女の存在した証はレシラム教の大聖堂内にある石碑に刻まれた名前のみとなった。
そして、ルドルフからライラとリラの遺体を引き取った団長は、埋葬のためにおだやか村へと旅立った。道中はレシラム教騎士団の部隊が護衛という名目で同行していたが、その目的がリラの遺体をきちんと埋葬したかの確認である事は明白である。
そうして、ライラとリラの遺体はおだやか村の跡地にある丘の上の大樹の根本に埋葬された。2人の隣にはアバゴーラの翁の墓もあり、それが団長からのせめてもの餞であった。
おだやか村から戻った団長は献杯という名目で飲み明かし、現状は二日酔いに苦しんでいる。
ウルスラはぼんやりと天井を見上げる団長に目を向け、静かな声で尋ねる。
「翁殿の隣に埋葬したんだろう?」
ウルスラの問いに団長は頷く。
「えぇ…静かで風が吹き、おだやかで良い所です」
「…なら、それが私達にできるライラとリラへの餞じゃないか…あまり考え過ぎるのは…良くないぞ」
ウルスラに助言された団長は「そうですね…」と呟き、ゆっくりと椅子から立ち上がる。頭痛で顔を歪めるが、しっかりとした足取りで団長は歩き、通路に出る。その背中をウルスラが追いかける。
「とりあえず…お風呂に入ってきますね」
団長の言葉を聞き、ウルスラは「既に準備しているよ」と返す。団長の動きを完全に予見しているウルスラの手腕に団長は舌を巻いた。
「…そういえば」
ウルスラがぽつりと呟く。動いていたウルスラの脚が遅くなり、それに合わせて団長の歩幅も小さくなる。団長の視線がウルスラに向けられ、彼女は静かな声で話し出す。
「今朝、ヨマワル銀行から連絡があったぞ。調査団の口座の内、23番名義と24番名義の口座残高が底をついたから、このままだと解約になる、と…」
ウルスラの報告を聞き、団長は「そうですか」と返し、歩き始める。
団長の脚が止まる。
その動きにウルスラは怪訝そうな目を向けるが、団長は振り返り、ウルスラを見た。
「ヨマワル銀行『から』連絡があった?」
団長の問いにウルスラは頷く。それを見た団長は、調査団が所有する複数の口座の使用用途を思い出す。
(…23番と24番はライラとリラに与えた口座…2人の死亡連絡と口座凍結連絡はまだしていない…)
個人名を有さないポケモン同士が口座を持つ際、身元確認が複雑になる場合がある。そのため、調査団ではあらかじめ複数の口座を開設し、数字を名義として利用している。これならば、同種の団員でも口座名義を判断できる。
ウルスラはヨマワル銀行から残高が無くなった事による口座解約の連絡があったと話した。それが意味する事、それは。
(…誰かが、2人の口座から預金残高を全額引き出した?)
ヨマワル銀行の口座から預金を引き出すには、口座名義と口座番号、暗証番号、身元確認のための脚型が必要となる。給与の支払いのため、口座名義と口座番号は団長だけが把握しており、もちろんウルスラも知らない。口座の所有者以外の者がこれらの情報を把握できるはずがない。
(レシラム教の関係者かヨマワル銀行の内部の者が引き出した…?)
団長は内心推測するが、リラに与えた24番名義の口座は調査団に所属していた時にのみ、使われた口座である。円卓の一員となってからは、使われていない筈である。また口座名義は数字表記のため、仮にリラの死を知ったヨマワル銀行の内部の者が引き出そうとしても、そもそもリラの預金口座の名義が不明なため、口座を特定できる筈がない。ライラに与えた23番名義の口座も同様に、ヨマワル銀行の内部の者が口座を特定する事は不可能である。
では、誰が2人の預金口座の名義と番号と暗証番号、身元確認の脚型を特定して、預金を引き出す事ができるのか。
「…可能なのは、本人だけ…」
ぽつりと団長は呟く。その言葉の意味を理解できないウルスラは、不思議そうに首を傾げる。
団長は続けて考える。
(2人が死ぬ前に全額引き出した可能性は…)
可能性はゼロではない。しかし、仮に2人が死ぬ前に預金を全額引き出したのなら、2人が死んだ先週の段階でヨマワル銀行から連絡がある筈である。2週間近く経過した今になり、ヨマワル銀行から連絡があったという事は。
(2人の死後に預金が引き出された、から…)
団長の脳裏におだやか村で埋葬した時の光景が再現される。ルドルフから受け取った死体は、間違いなく本物であり、間違いなくライラとリラであった。団長も世界中の土地を調査し、時には自然災害や戦争の現場を調査した経験がある。それ故に、死体も見慣れており、ライラとリラの死体が本物であると確信していた。
(先週、死んだ2人が…今週になり、預金を引き出した…?)
それは、明らかにおかしい状況である。
脚を止めた団長は考え込み、やがて「とりあえず、お風呂に入ってきます」とウルスラに言った。団長の動きを見たウルスラは不思議そうに首を傾げるが、そのまま自身の仕事場へと向かった。
ウルスラの背中を見届けた団長は、ぽつりと呟いた。
「…これは調べる必要がありますね」
*
「あ…あ…いぃ…」
狭い室内に置かれたベッドの上で、ニコルは四つ這いになり、臀部を後方に突き出している。ニコルの大きな臀部を鷲掴みにして、腰を振り続けるヴィレムはニヤニヤと笑いながら、淫らに鳴くニコルを見下ろす。
獣のように交尾する姿に当初、ニコルは羞恥心を抱いていた。だが、ヴィレムの調教により、今のニコルは恥じらう事が無くなり、淫らな声を上げ続ける。
ニコルの大きな乳房がヴィレムの動きに合わせて揺れ、ニコルの流した汗がシーツに垂れる。微かに膨らんだニコルの下腹部に汗が伝い、それはニコルとヴィレムの体液に混じり、シーツに水溜りを作る。
ニコルは自身の月経が来ない事に気がついていた。
普段の周期ならば、既に生理が訪れている筈である。だが、ヴィレムに監禁されて以降、ニコルの月経は止まり、代わりに下腹部が微かに膨らみを帯びている。
皮肉な事に、下腹部の膨らみの大きさがニコルに日の流れを教えていた。
その感覚が意味する事を理解できるニコルは、絶望を覚え、自殺する事を考えていた。だが、グレーテの「逃亡や自殺を図ったら、他の人質を全員殺す」という脅しの言葉を思い出し、自殺を躊躇していた。
なにより、ヴィレムにより刻まれた性的快楽とヴィレムの優しさがニコルの心に影響を与えている。
監禁によりストレスが満ち溢れる環境下、ヴィレムの優しい言葉や態度がニコルの心にヴィレムに対する親近感を与え、彼に好意を抱く様になっている。
それは、命の危機にある状況下で、ニコルの心が取った無意識の防衛反応である。
その事は医師であり科学者でもあるニコル自身が一番理解していた。理解しているが、受け入れざるを得ない状況にあった。
敵に誘拐され、監禁され、玩具にされ、孕まされる。
この状況を受け入れる事はニコルの心に深刻なダメージを与える危険性があり、ニコルの本能が無意識に回避した結果である。
故に、ニコルはヴィレムに与えられる性的快楽に従い、彼の欲求を受け入れ、『仕方がない事』として処理している。
ニコルは下腹部の膨らみを意識しながら、嬌声を上げ続ける。
「あ、あぁ…良いぃ…」
ニコルは微かな嬌声を上げ、身体を震わせる。絶頂を迎え、ヴィレムの一物から精液を搾り出すため、ニコルの膣は痙攣していく。その感覚にヴィレムはニヤリと笑い、彼女の最奥で欲望を解き放つ。
そのままニコルの身体は崩れ落ち、シーツに身体を沈める。
ヴィレムは大きく息を吐き出し、息が切れつつあるニコルの身体を強引に動かし、仰向けにさせる。微かに膨らんだ下腹部と丸みを帯びつつある臀部がヴィレムに曝け出され、ニコルは恥ずかしそうに顔を背ける。
かつてのニコルのウエストは細く、跳躍や走行など活発な動きを得意としていた。だが、今のニコルは下腹部が微かに膨らみ、臀部が丸みを帯び、少しずつ子を育む身体へと変容しつつある。その事を自覚しているニコルはヴィレムの視線から逃れようとするが、彼はニコルの顎を掴み、強引に目を合わせる。
「…あぁ、美しい…さすがは俺の牝だ」
ヴィレムはそう呟き、強引にニコルに口付けする。口内に侵入するヴィレムの舌の感覚をニコルは受け入れ、自身の舌を絡める。
ニコルが無抵抗な事に満足したヴィレムは、仰向けにさせたニコルの脚を掴み、強引に股間を開かせる。
ヴィレムの視界に、ニコルの微かに膨らむ下腹部と剥き出しになった膣が映り込み、彼は生唾を飲み込む。眼前の美女が、豊満な胸と尻を持つ牝が、自身の種で孕み、子を育む準備をしている。その事実がヴィレムに更なる興奮を与え、彼の一物は再び剃り立つ。
ヴィレムはニコルの膣に一物を挿れる。
「あ、あぁ…」
その感触がニコルの脳を支配する。彼女の口から矯正がこぼれ、ニコルは恍惚とした表情でヴィレムを見上げる。ニコルの目の奥には、普段の理知的な光は存在せず、快楽に溺れる牝の目となっている。
ニコルの変貌を見抜いているヴィレムは、ニコルの膣に一物を挿れた状態で腰を振り、彼女に快楽を与える。ニコルは大きく仰け反り、下腹部を中心に広がる快楽の波から逃れようとする。
「おい、逃げるなよ…」
ニコルの臀部を鷲掴みにしたヴィレムは、狂気の笑みをみせる。
ニコルの嬌声と水音は部屋の外まで広がり、通路を歩いている将校、いやカウフマンは脚を止め、視線をヴィレムとニコルのいる部屋に向ける。
カウフマンはタバコの煙を吐き出し、くすくすと笑い声をあげる。
「…まさか、あのグレーゴルが牝だったとは…」
グレーテとヴィレムから事態の詳細を聞いているカウフマンは、自分らの最大の敵となり得るグレーテルの身柄を確保できたことに満足していた。カウフマンは部屋の前を通り過ぎ、階段を登り、建物の最上階に到着した。
ここは霧の大陸ノエタウンにあるレシラム教の教会。
建物内はグレーテとカウフマン達が制圧しており、反抗する者は皆殺しにした。無抵抗の者は全員拘束し、牡は拷問の被験体に使い、牝は守護者達の欲求解消の玩具として使っている。
少し前にも、牡の従者を焼き殺したカウフマンは、愉快そうに笑みを浮かべたまま、最上階にある一室に脚を踏み入れる。元はレシラム教の高位司祭に割り振られた部屋であったが、部屋の主は教会陥落時に殺された。
部屋を乗っ取ったカウフマンは美しい調度品の合間を歩き抜け、窓から外を見下ろす。屋外は強烈な吹雪により視界が奪われ、真っ白な世界が広がる。
それを見たカウフマンは、近くの安楽椅子に腰かけ、今朝届いた新聞に目を通す。
「…おやおや」
先週の紙面でリラの死を知ったカウフマンであったが、今週の紙面では各地の被害状況が詳細に記されている。死者数と負傷者数を見たカウフマンは微かに笑みを浮かべ、タバコの煙を吐き出す。
本来ならば、マスケット銃や塩素ガスを用いた攻撃により、各地でより甚大な被害を出す予定であった。しかし、実際は各地の騎士団や自警団、ギルドに妨害され、思うような被害まで辿り着かなかった。
「あぁ…残念だ…」
カウフマンは独り言を漏らす。
彼の脳裏に、過去の記憶が描かれる。
カウフマンは円卓の一員であるカウフマン家の生まれである。しかし、実際は使用人である母と当主の間に産まれた妾の子である。
妾の子は日の目に当たらず、ただ仕事のみを与えられた。貴族の子ならば次代を担うために教育を受けるが、カウフマンは妾の子のため、まともな教育を受ける事ができなかった。彼は独学で知識を身につけ、生きていく力を得ようとした。
状況が変化したのは、太古の宗教であるディアルガ教を信奉する母親が、レシラム教の異端審問官達に捕まり、火刑に処された時である。
バクフーン種でなかった母親はワイワイタウンの広場で火刑に処され、幼いカウフマンはその光景を見ていた。
カウフマン家の当主である父親は彼女を見捨て、母親は悲鳴を上げながら燃やされた。
父親も民衆も、誰も母親を救ってくれなかった。
カウフマンの復讐と狂気の火が灯された瞬間であった。
知識を身につけたカウフマンは父親を毒殺し、カウフマン家を引き継いだ。そのタイミングでニンゲンの世界から飛ばされてきたグレーテ、そしてディアルガ教と出会い、彼女から様々な技術を与えられた。その後、ディアルガの秘宝を使い、星の停止を発生させた。
母を見殺しにした世界に、母を殺したレシラム教に、そして無力な自分自身に復讐するために。
その後はマスケット銃や塩素ガスを用いて、星の停止が起きた世界で民衆を虐殺していった。この時点でレシラム教とゼクロム教は共倒れとなり、民衆を守る者は誰もいなかった。
世界中を血に染め、多くの者を殺し、カウフマン達ディアルガ教徒は過去の復讐を果たす。
そんなおり、グレーテと同じく元ニンゲンを名乗るグレーゴルに出会い、そして過去の世界へと逃げられてしまった。
グレーテと同等の知識と技術を持つ者が過去の世界へ渡れば、星の停止を阻止されるかもしれない。
そう考えたカウフマン達は幹部と直属の部下と共に過去の世界へと渡り、グレーゴル達の捜索と時の歯車の回収、そして武器の準備を始めた。
かつて行った星の停止を再現するために、カウフマン達は暗躍した。
この世界の時間軸に存在するカウフマン家当主を殺害し、家を乗っ取る。そして自身の母親と思われる使用人の牝も殺害し、カウフマン自身が同時に存在しないようにする。
彼らは暗躍し、世界への復讐を企てていた。
だが、この世界の時間軸ではレシラム教とゼクロム教が組織的に機能しており、ディアルガ教徒の攻撃を防いだり、逆にディアルガ教を撃破した。
その原因は明らかである。
オズボーン殺害がレシラム教を一致団結させたからだ。かつて、カウフマンが星の停止を発生させた際、レシラム教は組織的な反抗を試みようとしたが、円卓のメンバー内での意見の不一致や派閥争いがあり、騎士団が十分に機能しなかった。その結果、マスケット銃や塩素ガスを有するディアルガ教徒が勝利し、世界は絶望に支配された。
だが、この世界の時間軸ではグレーテがオズボーンを殺害した事により、一時的な暴動が発生した。そこに時の守護者達が便乗しようとした結果、この世界での新兵器であるマスケット銃や塩素ガスの存在を、騎士団や自警団、調査団、ギルドに安易に知らせてしまう結果となった。
かつて、星の停止という異常時に起きた戦争で新兵器を投入した時は、星の停止により余力のないレシラム教やゼクロム教を撃破できた。しかし、この世界の時間軸ではオズボーン殺害直後の暴動に新兵器を投入してしまい、まだ余力のあるレシラム教やゼクロム教、調査団、ギルドに対抗策を練られてしまった。
また、オズボーンを排除した事により、レシラム教が穏健派を中心とした一枚岩と化し、より盤石な反撃体制を敷けるようになっていた。
グレーテのオズボーン殺害とカウフマンの新兵器投入の判断が、ディアルガ教徒の勝利を打ち砕いた。
その事を理解しているカウフマンは、タバコの煙を吐き出し、新聞紙を畳む。
彼の視線は天井を向く。
「…今度は負け、かな…」
かつての世界の時間軸では勝利できたが、この世界の時間軸では勝てる見込みが存在しない。だが、カウフマンはくすくすと笑い声をあげ、タバコの煙を吐き出す。
母親を見殺しにした世界とレシラム教へ、無力だった自分自身への復讐を果たすために。
ふと、カウフマンは気がついた。
この世界の時間軸で、過去の世界へと渡ってきた際に、カウフマン家当主の父親と使用人である母親を殺害した事を。
母親を殺害、それは以前の世界の時間軸で、カウフマン自身の憎悪の根源となる行為であった。その行為を平然と行えたカウフマンは、自分自身が狂っている事を改めて理解した。
「…死に場所を探そうか」
カウフマンはぽつりと呟き、にやりと笑った。