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外の空気は程よく冷たく、散歩するにはちょうどいい気候だ。
狼になってから二度目の外だ。あの時は焦りと混乱で何がなんだか分からなくなってしまったが…
「楽しそうだな。」
と、トモ先生。そう、なんだか凄く楽しいのだ。ただ外を歩く。空気の匂いをかぐ。
それだけの事が楽しい。それを私の尻尾は表現し続けている。
走り出したくなってしまうが…首輪もついてるし、止めておいたほうが無難だろう。
「トモ先生こんにちは。ところでどうしたの?その大きな犬…」
「こんにちは。タケル達が連れてきたんですよ。怪我してるからって。」
「あらあら。やっぱり男の子は元気ねぇ。」
とおばさんは微笑を浮かべていた。子供の行動力はスゴイな、確かに。
そしてトモ先生とおばさんは会話を始めてしまった。
暇だ。欠伸をしてお座りの姿勢で待つこととしよう。
お座りはいつの間にか寝る姿勢になりかけるころ、会話は終わったようでおばさんはそそくさとこの場を後にした。
「さて、行くか。待たせちまったな。」
紐を少し引っ張る。さて、ようやく散歩が出来る。
私が立ち上がろうとしたとき。もう一人の女性がトモ先生に近づいてきた。
「トモ先生、こんにちわ~」
随分とゆったりした喋り方の女性だ。肩の辺りまで伸びた黒髪、ナチュラルメイクで眼鏡がよく似合っている。
「ミク先生、こんにちは。」
「おおっきいワンちゃんですねぇ。よしよし。」
満面の笑みを浮かべてミク先生は私の頭を撫でる。…もしかしてこの人が。
「えぇ。その、タケル達が連れてきた奴です。」
「あらあらぁ。こんなにおおっきいんですねぇ。飼育小屋に入るかしら~」
いや飼育小屋とかそういう問題でもないと思うのだが。
しかし指細いな。ずっと私の頭を撫でているが非常に心地よい。
「クゥン。」
「あらあらぁ。可愛い子ですねぇ。…そういえば名前とかあるんですかぁ?」
「いや、ないですね。」
私の名前か。…本当の名前は全然思い出せない。
まぁ生まれ変わったって事で新しくついた名前を大切にしようか。
「それじゃあ付けていいですか?…そうねぇ。」
顎に人差し指をつけて私のほうを見ながらミク先生は眉間にしわを寄せる。
しばらくしてぽん、と手を打った。どうやら思いついたみたいだ。
「そうだ、ウルウルなんてどうかしらぁ。」
まてまてまてまて。いや別にどんな名前でも許容しようとしたけど流石に可愛すぎるんじゃないか?
しかもなんとなく安直だぞつけ方が。
「ウルウル…ですか?」
「えぇ。なんとなくテレビで見た狼に似てる気がするんですよねぇ。だから。」
まぁ大体そんな理由だろうな。ワフッ、と小さめに吼えてちょっと拒否を示してみるが…
私の意志が伝わるわけも無く。ミク先生は満足そうに微笑んで私の頭を撫でた。
「よろしくねぇ、ウルウル。」
もういいか。かくして私の新たな名前はウルウルになった。
自己紹介とかをする機会が無くて本当に良かった。
数分ほど私の頭を撫でて、ミク先生はあらぁ、と声を上げる。
「いけない、私買い物を頼まれてたんだわぁ。それに、ウルウルのこと校長先生に伝えなきゃぁ。じゃあトモ先生、失礼しますねぇ。」
「えぇ。…あ、また改めて学校のほうに挨拶に行くのでお願いしますね。」
そそくさと走っていくミク先生を見送り、散歩の再開だ。
やっぱり走りたくなってしまうがそこはぐっと我慢する。ふむ。我慢するのは辛いな。
夕方になってあたりが暗くなり始めるころ。散歩を終えて戻ってきた私は檻に入った。
程よい疲れが心地よい。次散歩する時はもっとしっかり走りたいものだな。
「ウルウル…流石にこの見た目から思いつかねぇよな。」
「バゥッ。」
本当にそう思う。でも慣れてくると別に違和感が無いのが恐ろしいところだ。
とりあえずお腹すいたな。ばぅ、と吼えて置きっぱなしにしていた皿をくわえた。
私の声―と表現していいか微妙なところだが―を聞いてトモ先生が私の檻の方へ。
「おっと悪かったな。ちょっと待ってくれよ、皿洗ってくるから。」
そのままでもよいのだが、衛生的に流石にまずいのか。仕方ない、待つことにしよう。
ぱちり、とトモ先生がテレビをつけた音が聞こえた。そういえばここ数週間、テレビを見ていなかったな。
ここの檻からだと音だけが聞こえる。なんかやたらやかましく聞こえるのは私の耳が狼のものだからだろうか。
特に外を歩いてる時は感じなかったのだが。
まぁ普通のニュースだ。事故が起きた、とか殺人犯が逃走した、とか。あまり聞いてて楽しいものではないな。
程なくしてトモ先生が皿を持ってきた。お待ちかね、ご飯の時間なのだ。
「ウルウル、後でちょっと診察するからな。」
「バゥッ」
こうして緩やかに時間が流れていくのだな。
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