第一幕
寒さがより一層増した12月後半、なんやかんやあって成瀬家から帰宅した。
帰り際の峻君の「いかないで」には膝から崩れ落ちた。横に居たワタルはえびみたいに背中を反っていた。
帰宅してからというとなんともいえない寂しさに襲われていた。まぁ向こうは賑やかだったしなぁ...
ワタル「...寒いな」
春樹「うん...」
俺とワタルは寂しさからというより勢い任せのキスが原因でちょっと気まずい。
とは言っても喧嘩後の気まずさじゃなく、恥ずかしさから来る気まずさだ。それもあって自分の部屋で寝ようかと思ってる。
俺よくワタルのベッドで寝れてたな...
ワタル「あ、あのさ、春樹...」
春樹「どした?」
ワタル「...えっと...あ...あれって、本気...?」
春樹「...言ったでしょ? ...その...ワタルがいいって...」
ワタル「そそ...そっか...」
心理的?な距離は少し離れてても物理的な距離は近い。すぐにでも手が握れるくらいの距離だ。
ずっとお互いに顔が火照ってるのが見てわかる。ふと見るとワタルの耳がぺた~っとなってる。かわいい。
尻尾はずっと揺れてる。まぁそれは俺もなんだけどね。手で押さえても抑制できないくらいには揺れてる。簡単に言えば踏切の遮断機の動きを止めようとしてるような感じだ。つまり止められない。
ワタル「...」
春樹「...」
ワタル「...ふふ」
春樹「?」
ワタル「もうなんかどうでもよくなっちゃったなって」
春樹「? なんで? 俺なんかした?」
そう言われて素直に不安になった。勢いとは言え告白してキスまでしたんだからさすがに不安にもなる。
ワタル「そうじゃなくて、恥ずかしさでふやふやしてるの、それがどうでもよくなったってだけ。」
ふやふやって初めて聞く擬音だぞ。
まぁでも恥ずかしさは正直俺もどうでもよくなってるな。
ソファにもたれかかっていろんなことを振り返る。記憶がごっそり抜け落ちてる部分もあるけどワタルとは喧嘩した記憶がない。ほんとに。
公園駆け回って、体のどこかを絶対にケガして帰って、ワタルと一緒にご飯を食べて。家は近かったし一緒にご飯を食べる機会はすごく多かった。俺にとってもワタルにとっても楽しい思い出だし忘れられない記憶。忘れたくない記憶。
ワタル「今日から部屋一緒にしない?」
春樹「ン!?」
ワタル「だから、部屋一緒にしないかって」
聞き間違いじゃなかった。ワタルははっきりと『部屋一緒にしない?』と言った。そこまで広いってわけでもないからベッドも必然的に同じになるだろう。まぁもともと大きめのベッドだしそこまで気にならない。暖かくて寝やすいからありがたい。
春樹「いーよ。もふられる覚悟はしておくよーに」
ワタル「春樹こそもふられる覚悟しておいてよね」
春樹「へいへい」
部屋にある棚やら机やらを移動させた。まだ買い足す物があるけどこれはまた今度でいいかな~。
第二幕
ワタル「っぷしっ」
寝る前、寒くないように暖かいパジャマに着替える途中でワタルが盛大にくしゃみをかました。毎度の如くかわいらしいくしゃみだ。
ワタルはパジャマは素肌の上に着るタイプだ。つまりその辺にシャツを脱ぎ捨ててからパジャマを着る。ワタルのお腹は初めて見た。もっふもふだった。筋肉はそこまで無さそうかな。ぷにぷにしたいなぁ...
ワタル「...ずっと見てるけどなんかついてる?」
春樹「うんにゃ、なんでもない。」
ワタル「...触る?」
ワタルはこっちに体を向けてまだボタン全開のパジャマをおっぴろげて俺にそう言った。正直に言うと今すぐにでも触りたい。
...でも...あの顔は...あの顔は絶対なんか企んでる...けど欲望には逆らえないよね☆
春樹「...触りたい」
ワタル「じゃぁ」
うん分かってた。代償的なのあるよね
ワタル「ちゃんと『俺』を堪能してくれよ?」
ちょっといかがわしい言い方するのやめてくれ...あとそれ代償なのか?
俺とワタルは寝るべくベッドに体をつっこんだ。もちろんワタルをもふる準備をして。
ワタルはというとボタンは全開のまま布団に入っている。寒くないのかなとは思いつつもふもふのお腹の毛を眺めていた。
俺はワタルのつやつやもふもふしているに手を伸ばした。と思ったらワタルの方から引っ張ってきた。ゆっくり伸ばしてたのがじれったかったのだろうか。そんなことよりすごくもふもふしてる。
春樹「...! もふもふ...」
ワタル「ふふん」
どこか誇らしげに鼻を鳴らすワタル。それをよそに両手でお腹をわしゃわしゃしている俺。胸はどんなだろう、と変態的な考えが脳裏をよぎる。少し触ろうと思ったけどやっぱやめた。それに気づいたのかワタルがなんかにやにやしている。
春樹「...」
ワタル「ふふ、別にどこ触っても怒らないよ?」
春樹「う...見透かされてた...」
ワタル「ほら、全身どこでも触っていいから。遠慮せずに。」
春樹「でも...」
ワタル「さっきからじれったいなぁ。ほれ」
春樹「みぁ...」
例の如くワタルが俺の手を引っ張って胸まで運んで行った。やっぱりもふもふしてる。やっぱり胸触るのは恥ずい。
少し触ってから手を離した。ワタルは残念そうにボタンをしめていった。
暖かい毛布と掛け布団にワタルと一緒に包まれて眠ろうとした。が、ワタルが喋り始めた。
ワタル「ねぇ...春樹...」
春樹「ん?」
ワタル「...」
薄暗くてワタルの表情はよく見えなかったけどなんとなく赤くなってるんだろうな、ということは感じ取れた。もぞもぞこっちに移動してきてるけどどうしたんだろう。
俺とワタルの間の距離がゼロに等しくなったあたりでワタルが俺に抱き着いてきた。急にどした。なんかあったんか?
ワタル「...」
春樹「...?」
ワタル「...しばらくこのままでいい?」
春樹「別にいいけど急にどしたお前」
ワタル「春樹さ、どうしても思い出せないことがあるって言ってたでしょ?」
春樹「う、うん」
ワタルの方からその話を切り出してくるとは思わなかったから正直驚いた。
ワタル「その思い出せない箇所、高校生くらいのことだって言ってたでしょ?」
春樹「...うん」
ワタル「その高校生の頃、春樹の方から俺に告って、付き合ってたんだよ?」
...えっまって俺知らない...けどワタルが言うんだからそうなんだろう。
じゃぁ...成瀬家でしたキスもファーストキスじゃないってことなのか...?
春樹「...じゃぁファーストキスじゃなかったの?」
ワタル「そうだけどそのキスの相手は春樹だったしそこまで気にしなくていいんじゃないかな」
春樹「そうなのかなぁ...」
そこでふと気になったことがある。
少し聞きずらいがワタルと...ワタルと俺はえっちなことはシたことあるんだろうか...
春樹「え...とね、ワタル」
ワタル「ん?」
春樹「その...俺とワタルって...セッ...えっちなことって...シたことある...の...?」
ワタル「うんにゃ、まだ童貞だよん」
それを聞いて少し安心した。初めてくらいはしっかりと覚えておきたい...いや、はっきり覚えててもいろんなとこでやばいことになりそうだな...ていうか初めてだとキス忘れてるからなんとも言えないな...
春樹「...そっか」
ワタル「なに? もしかしてシたいの? も~積極的だなぁ」
春樹「いや気になっただけだから別にシたいわけじゃない」
ワタル「ちぇ~」
春樹「そういうのはもうちょっとお互いを知らなきゃ...」
ワタル「まぁそだよね。俺は一方的に春樹のこと知ってるだけってのが現状だし」
春樹「だから...その...今日から毎日一緒に寝よ...?」
ワタル「あんた自分のベッド分解してたからそうなるのは決定事項でしょ」
春樹「割と勇気出したのにそりゃないでしょ」
ワタル「まぁ一緒にすること増やすならまずお風呂かなぁ」
そうなるか~...まぁ俺は嬉しい?からいいんだけど...
そこで俺はなんとなくワタルの裸を想像してしまった。背中とか脚の模様はどんな感じなんだろ~とか...アレの大きさとか...我ながらナニ考えてんだ...
ワタル「俺の裸でも想像してるの?やけに鼓動がはやいけど」
春樹「はぅっ」
ワタル「ふふ、当たった♪ 想像しなくたって今すぐにでも見せてもいいんだよ?」
春樹「羞恥心どこに捨てたんだよお前」
ワタル「さーね」
ワタルって俺に裸体晒すことに抵抗ないんだな...俺もいずれはワタルに裸体晒すのかなぁ...
第三幕
目を覚ますとまぁびっくり。ワタルが上裸ではありませんか。布団も蹴とばされてるし...
布団をかけ直そうにもワタルにガッチリホールドされてて動けない...毛並みをまた堪能するなら今がチャンスか...?
大晦日の朝はとにかく寒い。エアコンはつけてないし外の気温と比べても差はほとんどない。つまりは部屋も気温はマイナスだ。
...待ってほんとに寒い...手はかじかんで思うように動かないし布団も被ってないから体も寒い...俺でこれなんだからワタルなんてほんとに熊みたいな冬眠しそうだぞ
ワタル「...ゅ~...」
春樹「ゅ~ってなんだ...」
ワタル「ぺしっ...」
春樹「ほらくしゃみした...」
ワタル「ずず...」
くしゃみしたと同時にワタルの鼻水が俺の服についた。きちゃない...
とにかく起こさないと...冬眠に入る前に
春樹「起きろ~」
ワタル「ん~」
春樹「起きろったら」
ワタル「ぁふ~...」
起きない。自分ごと揺れてワタルを揺さぶっても、なんとかして頬をつまんでも、無理矢理ガッチリホールドを解こうとしても起きない。
最終手段にキスがあるけどホールドを解く必要が...
あ、緩んだ。今なら解ける
春樹「...よっと」
ワタル「ん~...まくら~...」
春樹「俺は枕じゃねぇっての」
俺はしばらくワタルの歳の割に可愛い寝顔を眺めて覚悟?を決めてワタルに顔を近づけた。
ワタル「...ん」
寝ているワタルと舌を絡ませた。寝てる人にこういうことするのほんとはだめなんだろうなぁ...色々と。
ワタル「ん~...?」
ようやくワタルが起きた。ほんとによく寝るなコイツ
ワタル「...!?」
春樹「そんな驚かなくてもいいだろ」
ワタル「だって...さすがにディープは初めてだから...」
春樹「そりゃ俺だってそうだよ」
ワタル「ぅぅ...」
春樹「寝る前まではワタルの方が積極的だったのにな~?」
ワタル「だってぇ...その...朝だ...が...」
春樹「そりゃ俺もだ」
朝勃ちは男ならよくあることだ。別に恥ずかしがるようなことでもないだろ、と思いつつ布団をかけ直した。
ワタルは服を着ようとしないので自分の方に抱き寄せた。
ワタル「みぁっ...」
春樹「寒いからしばらくこうさせて」
ワタル「...うん」
もちろん建前だ。寒いのも事実だけどワタルに風邪を引いてほしくない。服を着ないなら人肌で温めるだけのこと。俺は服着てるから正確には人肌ではないけども。
ふと耳を澄ますと布団の中で『ぱたぱた』と優しく布団を叩くような音が聞こえてきた。
中を覗くとワタルの尻尾がそこそこ激しく揺れていた。
春樹「ばたばた忙しい尻尾だな」
ワタル「仕方ないでしょ 尻尾だもの ワタル」
春樹「相田み●を風に言うんじゃない」
ワタル「へへ」
ワタルのが俺のに当たってるけど特に気にしない。正直セクハラは慣れた。慣れちゃダメなはずなんだけどね。
まぁワタルなら許してくれるだろう、と思いつつワタルの毛並みを満喫する。ワタルの顔を覗くと満更でもなさそうな顔をしていた。