老人と狼、第一王子ポルコと会い、カジノに興じる

  ウルハラ・ポルコ、エアスト王国の第一王子。ヒロと同じく無邪気な雰囲気で話し掛けてくる。

  「俺はヒロの兄で、ヒロとは双子。俺もヒロと一緒で、狼の血が流れているんだぜ」と、陽気に話す。ヒロと一緒で混血のようだが、ヒロとは違い、狼の耳がある。

  「ヒロから色々訊いてたぜぇ。あきらのこと」

  ヒロと一緒で、生意気な話し方をする十歳の第一王子のポルコは、得意気な顔で告げる。

  一体ヒロは、双子の兄に何を話したというのか。

  ──ろくなことを言ってなそうだが、一応、訊いてみるか。

  「そうかね。ヒロからどんな話を訊いたんだ?」

  「あきらが偏屈じじいの変わり者で、イビキがうるさい、腰が弱い、意地汚く食べる──とかだな!」

  ──ヒロめ、適当なことを吹き込みおって!

  ヒロは相変わらずだ。とはいえ、話の内容はほぼ合っている、否定はできない。

  しかして、ヒロとの再会を試みて追い返されたこの状況、第一王子なら解決できるのか。すでにお引き取りならぬ、お断りの金の延べ棒を数本渡されてしまった後だ。

  ──考えていても仕方がない。訊いてみるかの……

  「ポルコよ、ワシはヒロに会いにきたんだが、ここで追い返されてしまってな」

  「ああ、最初から見てたから知ってるよ。あきらと狼が喋ってる時から、見てたからな。それにしても、レデンがあんな風に人を追い返すのは初めてみたよ。今日は妙に、王宮内はピリついてるし、なんか、変なんだよなぁ」

  ポルコはそう言ってから、狼に視線を寄越す。

  「ところで狼はさ、名前はないの?」

  「ない。元から狼と呼ばれるのが好きでな。名前呼びは断ってんだ」

  狼の拘りは強い。元来の、狼呼称がお気に入りなのは珍しい。

  さておき、問題はヒロだ。ここで門前払いにされて、はいそうですかと引き返す訳にはいかない。

  「それでポルコ、お前さんなら何とかなるのか?」

  早速ポルコに疑問をぶつけてみる。するとポルコはニッと笑い、口を開く。

  「勿論! 第一王子の権限があれば、簡単にヒロに会えるぜ」

  「そうか。ならば、ヒロに会わせてくれんかの?」

  「いいぜ! けどその代わり、今から俺の遊びに付き合え。俺の遊びに付き合うのが先だ!」

  交換条件を出される。子供の遊びに付き合うのは少々骨が折れそうだが、仕方あるまい。

  「分かった。遊んでやろう。どんな遊びをするんだね?」

  エアスト王国の王宮住まいの第一王子の遊び。一般の子供の遊びとは、少し違うかもしれない。

  ──腰に負担が掛かる遊びだけは、止めてもらいたいがの……。

  馬になれだの、だっこして走り回れだの、その辺はないとは思うが。十歳の子供ならば、流石に、その辺りの遊びは卒業してると思いたい。

  ──どんな遊びに付き合わせられるのやら……

  それから間も無く、ポルコは口を開く。

  「今からエアスト王国の城下町にあるカジノで、ギャンブルをしに行く! 掛け金はその金の延べ棒だ! さぁ、運転しろ!!」

  「なんだって……?」

  聞き返すが、第一王子のポルコはサイドカーへと走っていく。

  「おい、待たんか」

  「すごいガキだな。ヒロより面白そうだ」

  狼は面白そうに尻尾を振っている。

  「面白いわけがあるか。この金の延べ棒を使って、ギャンブルなんぞ……はぁ。まぁ、仕方あるまい」

  金銭感覚が一般からずれている。折角の金の延べ棒がパァになる予感しかしないが、この延べ棒は元々は貰い物で、このエアスト王国の王宮にあった所有物だ。第一王子が使いたいとあれば、差し出すしかない。

  それに全ては、ヒロに会う為だ。

  「……疲れるの。今だけは、寝たきり老人になりたいもんだ」

  「そうなったら俺が骨まで美味しくいただいてやる」

  「狼よ、こんな年寄りを食うても、旨くはないぞ?」

  「おーい! はやくぅ!」

  狼と話をしていると、ポルコはサイドカーの車台に乗って待機している。

  ──やれやれ……

  狼と共に、サイドカーに向かう。

  「振り落とされんように、しっかりと乗ってるんだぞ?」

  「うん、任せとけ!」

  それからバイクに股がり、ふと気付く。第一王子のポルコに、従者が一人もついてないことに。うまく抜け出したにしても、誰かしら見張ってても良さそうなのに。

  ──何故、誰も付けないんだ?

  周囲を見渡しても、誰もいない。誰かいる気配すら感じない。

  「狼よ、この近くに誰かいるか?」

  「いないけど、何で?」

  「いや、いい。気にせんでくれ」

  矢張り、誰も見ていないようだ。

  ──これは、何かありそうだの……

  「ほら、はやく行こうぜ!」

  懸念が過るが、ポルコが急かしてくる。

  「はいよ」

  一先ず考えは仕舞い、バイクのエンジンを掛けて出発する。

  ポルコはワシの隣で楽しそうに寛いでいる。狼はその後ろを走って追っているので、スピードはゆっくりめで走行する。

  「そうだポルコ、道案内を頼んだぞ。ワシはこのエアスト王国のことはよく知らんでの」

  「おう! 任せておけ」

  ༓࿇༓

  エアスト王国の城下町はそれなりに賑わっている。露天の店が並び、食べ物、雑貨、織物等、色々揃っている。季節が一貫しないクローネ島で年々、人が減っているとはいえ、それなりに人はいて、流通も盛んで活気づいていた。

  ちなみに道幅は広く整備されているので、サイドカーと歩行者が難なく通過できるようになっている。

  「ポルコや、ギャンブルができる場所がこの城下町のどこかにあるのか?」

  「いんや、ギャンブルできる場所はまだまだずっーと向こうだ」

  「なんだ。そうなのかね」

  それから露天を通りすぎた頃、ふたてに分かれる道に直面する。

  「どっちだ?」

  「右だよ」

  ポルコに言われるがまま、右に曲がって走行すると、段々と道幅が狭くなっていく。サイドカーと人が行き来するには少しきついかもしれない。

  「この道は、ずっと細いままなのかね?」

  「うん、そうだよ。この細い道の先に、ギャンブル場があるんだ」

  「ふむ、そうか。この先に、駐車する場所があればいいが……あるのかの?」

  「もう少し先に進めば、駐車するスペースはあるぞ。ほら、あれ」

  サイドカーがギリギリ止めれるスペースが見えてきた。窪地になっていて、誰かしら駐車できるスペースとして確立しているようだ。

  「あそこに止めても、問題ないのかの?」

  「問題ないって。それにギャンブルができる場所は、あの駐車スペースから歩いて五分のとこだし」

  「そうか」

  その狭いスペースにサイドカーを止め、狼に見張りをさせることにした。

  「狼よ、ここで見といてくれよ」

  「ああ」

  それからポルコと共に歩いていく。

  道が壁と壁が狭まった細道に変わるが、直に派手めな蛍光色ピンクのテント型の怪しい店が見えている。

  「あれだよ」

  ポルコははしゃいで教えてくれる。

  しかしギャンブル……。何故、ギャンブルなのか?

  「ところでポルコ、何でギャンブルなんかがしたいんだね?」

  「いいじゃん別に、俺がやりたいからやるの! あきらは見ててくれればいいから……いや、それだと無理かな? そうだな……あきらは俺がやりたいギャンブルをやってくれればいいから!」

  「はいよ」

  ともあれ、ギャンブルをやることに変わりはなく、迷いもないようだ。

  ༓࿇༓

  怪しげな丸いテントの垂れ幕を潜って店に入ると、シルクの絨毯にテーブルがセットされ、そこで男達がギャンブルに興じている。見るからに怪しい連中だ。年齢層は色々だが、第一王子のポルコが来るような場所ではない。

  「本当にここで、ギャンブルをやるのかね?」

  治安の悪さと空気の異様さに今一度訊けば、

  「やるの! ほら、金の延べ棒一本をチップにしよう」

  ポルコは急かしてくる。これが自分の子なら迷わず咎めるだろう。咎める以前に、こんな場所にはそもそも連れてこない。

  ──ワシはとことん、悪いじいさんだの。

  自嘲めくも、ポルコのお願いは断れず、金の延べ棒をチップに換える。キャッシャーのカウンターで金の延べ棒一本を店員に渡せば、目をギョッとさせている。まぁ、無理もない。延べ棒はチップ一千万分となり、ポンと渡される。チップを受け取って出ようとするが、「あのお客様、そちらのお連れのお子様は……」と言ったところで、ポルコが店員をきっと睨む。

  「俺はこう見えても、二十歳を越えているんだ! ほら、IDカードもあるけど?」

  「し、失礼しました……」

  ポルコがIDカードを店員に見せつけると、店員はスゴスゴと奥へと引っ込んでいく。キャッシャーのカウンターを出たのち、ポルコに話し掛ける。

  「おいおいポルコ、いつから成人したんだね?」

  「へへっ、今だけさ。これは偽造のIDカードだよ。もしもの時の為に用意してたんだ」

  ポルコはニシシと笑っている。

  「ははっ、抜かりないの」

  悪知恵は働くようだ。

  「それで、どれをやるんだ?」

  「あれだよ」

  ポルコが指差したのは、ルーレットでも、スロットでも、ブラックジャックでもない【[[rb:lost kingdom > ロストキングダム]]】と表示されたボードゲームだ。見た目はチェスのような駒が揃っているが、チェスのような盤上ではなく、三角形の盤上で、三角形の中心には王様のような金の駒が一つ、設置されている。

  「さ、行こうぜ!」

  ポルコの後に付いて、【lost kingdom】のテーブルに行けば──

  「[[rb:lie or truth > ライ オア トゥルース]]。そこの貴方は、このゲームに興味がありまして?」

  不意に、【lost kingdom】のディーラーをしているのだろう、若い女性から声が掛かる。

  格好は漆黒のメタリックの派手めなドレスを着込んでいる、細身の女性だ。興味の是非を問われるが、そもそもがやったことも、聞いたこともないゲームだ。

  一先ず、場の雰囲気に合わせて受け答えるしかない。

  「まぁ、少し……興味がありましてね。チップは、いくらからで?」

  すると女性は右手を軽く上げたのち、人差し指、中指、薬指以外の指を丸める。

  ──三十万からかの?

  チップを三十枚渡すが、女性は首を振ったのち、にっこりと微笑む。

  「これじゃ全然足りなくってよ。チップは三百枚からなの。ごめんなさいね?」

  つまり、三百万だ。とんでもない掛け金のゲームに、金銭感覚がおかしくなりそうだ。

  ──こんなの、子供が楽しむ遊びじゃないだろうに。

  そう巡らす中、女性は妖艶に微笑み、口を開く。

  「あら、金額に驚いてしまいまして? そうね──いいわ。特別に、三十枚から許可してあげる。説明が足りてなかったしね。それに貴方も、このゲームが初めてのようだし。説明はゲームをしながらするから、先ずはあたしと一緒に、楽しみましょ?」

  女性はそう言うと、三角形の盤上の外に、今度は四角形の塀の形をした物を配置する。

  「あきら、【lost kingdom】はさ、このクローネ島の気候と同じように、常に一貫しないゲームなんだ。地形は変わるし、ゲームも自分で指示することができたりする。だから自分の都合のいいように動かせたりするんだ」

  「あら坊や、随分と詳しいのね」

  「坊やじゃない! これでも成人してんだ!」

  「ふふっ、あらそう? 失礼しまして。それじゃ、あたしと遊んでく? あたしはレリフと言うの。あなたはとっても素敵だから、色々と教えてあげてもよくってよ?」

  「うっ……。きょ、今日はいいっ!」

  ポルコは顔を真っ赤にし、レリフと名乗った女性から離れてワシの後ろに隠れる。

  ──何だかんだいっても、子供だの。

  大人の色香は、ポルコにはまだ早かったようだ。

  「ちょっとからかっただけなのに、随分とかわいくて、初な反応ね。それじゃ、今から説明するわね」

  レリフはそういうと、三角形の盤上の上に駒を並べていく。

  「こっちがあたしの駒、そちらが貴方の駒よ」

  駒は銀製で出来ており、大人の男女、青年の男女、子供の少年少女、狼の計七種類の駒が配置されていく。

  中心に立っている金の王様に体を向けるようにして並んでいる状態だ。そして外側に配置した四角形の塀の上に、黒い鳥の駒がずらっと並べられていく。その数は二十一個で、王様に正面の体を向けた状態だ。

  「この鳥はなんだね?」

  「これはカラスよ。このゲームでは、カラスはみんなに知恵を渡す鳥という役割を持っているの。けれど、知恵というのは良い知恵だけじゃない。悪い知恵も吹き込むのよ」

  「カラスをうまく利用するのも、このゲームでは重要なんだぜ」

  今度はポルコが教えてくれる。

  「ふむ、しかし良い知恵も悪い知恵も渡すと言うても、ただの駒だろう?」

  「ただの駒に見えるでしょうけど、この駒は特注製。カラスの頭の上についているボタンを押すと、お喋りするのよ」

  レリフはそう言って、カラスの頭の上についているボタンを指で軽く押す。

  『カァー。狼が来たぞ。狼が来たぞ』

  機械的な音声だが、聞き取れる声だ。すると三角形の盤上に乗っている狼の駒だけが一歩前に動く。

  「ほぉ、面白い仕掛けだの。しかもお互いの駒が同じように動くのか」

  「ええ、今のはそういう指示だから。このカラスの指示はおよそ、百五十種類あるとされているわ」

  「なんだ、レリフさんも知らないのかい」

  「ええ。前のディーラーさんが辞めて、私が引き継いだ時に軽く教えてもらった程度なのよ。詳しいマニュアルはあるけれど、それ以外にも解明されてない謎があって……だからこのゲームは、高くつくのよ。たまにこのゲームをやりたさに、わざわざエアスト王国の城下町の外れにある、このカジノを訪れる人達もいるの。けれど、渡航の途中であえなく亡くなって──なんてこともよくあるわ」

  「そうなのか……」

  このクローネ島の、エアスト王国に辿り着く前に、命を落とす──。

  ──もしかしたら、ワシがそうなっていたかもしれんな……。

  給油所の女性店員の花谷紗央莉とタコの狂四郎がいなければ、命を落としていたかもしれない。

  「ワシは、巡り合わせがよかっただけかもしれんな」

  よくよく考えれば、紗央莉とタコの狂四郎よりも前にも、助けてもらっていた。麗美、健也、百音の家族だ。

  「あら、もしかして貴方も、このエアスト王国に旅してやってきた口かしら?」

  「ああ、そんなところだよ。いなくなってしまった子供を探してな」

  「まぁ、そうなのね。その子供さんは、見つかったの?」

  「まだ会ってはいないが、いる場所は分かったよ」

  「そうなの。ふふっ……運はお強いのかもしれないわねぇ?」

  「さぁてな。偶々、巡り合わせがよかっただけかもしれんよ」

  ヌル列島の山小屋で出会ったヒロの狼。山道で出会った麗美と百音と健也。船で出会ったベンガルトラの桐生悠。給油所で出会った女性店員、花谷紗央莉とタコの狂四郎。全ては巡り合わせだ。

  「巡り合わせも運よ──さぁ、次の説明をするわね」

  レリフの説明を訊きながら、ワシは今一度、自分の頭の中でも整理していく。

  三角形の盤上にお互いの駒を王様に向かう形で七種類置く。一方はA陣地で、もう一方はB陣地だ。三角形の外側には更に四角い塀があり、そこにカラスが二十一種類並べて置かれている。

  そこから中心地に置かれた金の王様に向かい、王様の駒を落とすのだが、落とせるのはたった一人、少年の駒だけだという。

  カラスを使用すれば駒が動く。だが駒の動きは一定ではない。カラスの指示で無数に動く。

  しかもカラスの指示で王様が逃げる場合もあるという。三角形の中心にいた王様の駒が盤上の下に潜り、姿を消したりする仕掛けがあるそうだ。もしそうなった場合、少年が王様がいた駒に辿り着いたとしても、王様の駒がいなければクリアにはならないという。

  更に駒だけでなく、カードもそれぞれ十枚ずつある。カードには駒と同じ、大人の男女、青年の男女、子供の少年少女、狼の七種類の駒が表記されており、後の三枚は王様、カラス、フードを被った謎の男の絵柄が記されている。

  全てのカードにICチップが組み込まれており、そのカードを三角形の盤上に備え付けられている挿入口から差し込んで読み込めるようになっている。

  カードはいつでも、どのタイミングで使用してもいいそうだ。

  一先ず整理してみたが、何とも複雑だ。

  「やってみないことには分からんのぅ……」

  と、ぼやいてしまう。するとレリフが笑い、口を開く。

  「カードを使用すると盤上の駒が変化したり、盤上が変わったりもするわ。このICチップに組み込まれているプログラムが百種類以上あって、何が起きるか分からないの。そうね……試しに大人の男性のカードを差し込んでみましょうか」

  レリフは挿入口にカードを差し込む。すると読み取ったカードで盤上に変化が起こる。盤上が黄金色に光った後、大人の男性の駒が下の盤上に仕舞われ、代わりに、黒いカラスの駒が塀に出現する。しかもボタンつきだ。そして盤上からアナウンスが鳴る。

  『男はカラスになりました。カラスになったので指示をお願いします』

  「これは、どういうことかね……?」

  「カラスに変わると、塀のカラスと同じく指示もできるようになるのよ」

  レリフはボタンを指で押す。

  『カァー。俺はカラスだ。塀のカラスを五羽減らせ』

  すると塀にいたカラスの駒が下へと仕舞われていく。自分の持ち手の駒、カードが切れたらゲーム終了で、その時に多く残っている方が勝ちになるという。ちなみに狼が先に王様の駒に到達した場合もクリアではなく、終了になる。

  「これは、難儀だのぅ……。覚えるまでに時間が掛かりそうだ。ポルコ、本当にこのゲームをやるのかね?」

  「あったり前だろ! やるに決まってんじゃん!」

  「ふむ……」

  ──ポーカーや、スロットゲームのほうが楽しめそうだが……。

  悩んでいると、レリフが口を開く。

  「ちなみにこのゲームの謎は解明されてないし、クリアした人もまだいないの。あたしも何度も対戦してきたけど、お客様のチップがなくなって、いっつもそれで終わりになってしまうのよ」

  「それはつまり、最初からカジノ側が勝つように、仕向けているからか?」

  最初に客に勝たしといて、後で必ずカジノ側が勝つようにする。よくあるパターンだ。だがレリフは首を振る。

  「いいえ、それはないわ。それに、何が起こるかあたしも把握してないしね。それと、クリアした人だけに送られる物が、この盤上に詰まっているそうよ」

  「それは、詰まり……?」

  「さぁ、お宝なんじゃない? 誰も見たことがないから知らないけど。前のディーラーからそう訊いたわ」

  謎のゲームのルール説明を受け、暫く考えていると、ポルコが口にする。

  「このゲームのお宝、どうしても見てみたいし、欲しいんだ。お願いあきら、頼むよ!」

  ポルコは懇願してくる。

  ──ここまで必死になる理由はなんだいのう?

  気にはなるが、取り合えずやってみることにした。

  ༓࿇༓

  ワシとレリフはお互いにサイコロを振っていく。出目のある方が最初に指示できる。ちなみにワシがA陣地で、レリフがB陣地だ。

  サイコロを振ってみれば、レリフが【三】で、ワシが【五】だった。まず最初ということで、塀の端にいるカラスの頭のボタンを押してみる。

  『カァー。B陣地の少女が迷子になったぞ』

  するとB陣地にいる少女の駒が盤上の下に仕舞われていく。

  「あら。早速、消されてしまったわね」

  レリフは笑うが、余裕たっぷりの笑みだ。レリフは今まで何度もお客と対戦してきたのだ。クリアしたことはないにせよ、勝ち残る自信はあるのだろう。

  レリフは盤上を見ながら、カードを一枚、取り出していく。

  「あたしはこの狼カードを使おうかしら」

  レリフは黒い狼カードを挿入口に差し込む。すると盤上が赤色に光り、盤上からアナウンスが流れる。

  『狼の群れが動き出しました。これから五ターンずつ、一歩前に進みます』

  A陣地にいる狼とB陣地にいる狼が一歩前に進む。

  「あらら、王様に辿り着くのは狼が先かしらね」

  「ふむ。じゃあワシも使ってみるか」

  黒いカードのカラスカードを挿入口に差し込む。すると今度は黄色に光り、カラス達が一声に言う。

  『カァー。A陣地とB陣地の村人達が狼に襲われて亡くなりました。ゲームオーバー。両者ドロー』

  するとA陣地、B陣地に配置された全部の駒が下に仕舞われていく。

  「はぁ、早速やってしまったな……」

  「あきら、ダメじゃん」

  ポルコから厳しい苦情が飛んでくる。

  「ふふっ。まぁ、最初はこんなものね」

  レリフは笑い、「どうする? まだやる?」と訊いてくる。

  チップは三百枚からだ。今失ったチップは三十枚なので、まだ四回は挑戦できる。

  「ああ、もう一度やる」

  「ふふっ、そうこなくっちゃね」

  レリフは妖艶に笑う。

  あれから四回やってみたが、ゲームオーバーになり、あっという間にチップは消えた。

  「まだ続ける?」

  と、レリフが訊いてくる。金の延べ棒はまだ五つある。やれるといえばやれるが、やっても敗北の結果しか見えない。

  ──ここで引くのがいいのかの、それとも……

  迷っていると、ポルコが、「やろう」と急かしてくる。しかしこのまま無作為にやっても負けるだけだ。何か手があればいいが。

  キャッシャーに行き、金の延べ棒の一本をまたチップに換えてもらう。

  「そういえばポルコは、このゲームを見たことがあるようだな」

  「あるよ。お祖父様が生きてた時、ここに来て見てたんだ」

  「なるほどな、それでか」

  「うん。あと思い出したんだどさ、カラスのカードと狼のカードはあんまり使用しないのがいいと思う。自分の陣地の駒が消されたり、よくないことが起こる確率が高かったから」

  「そうか。じゃあ、なるべく使わんようにしよう。そうだ、フードを被った謎の男のカードはどうなんだ?」

  「それは分からない。分からないから、レリフが使用してから考えてみたほうがいいかも」

  「なるほどな。じゃあレリフが使ったのを見てから考えるとするか」

  金の延べ棒をチップに換えて戻ってくれば、レリフが微笑んでいる。

  「チップに換えてきたのね」

  「ああ。このゲームの謎解きもしたくてね」

  「そう。じゃ、始めましょうか」

  お互いにボードに向き合って座る。

  あれから三時間が経過する。いつの間にかボードゲームの周囲にはギャラリーができてしまった。

  「じいさん、頑張れよ」

  「いや、その少女のカードは出さないほうがいい」

  「真ん中のカラスは触るのはやめたほうがいいぞ。前に対戦してるのを見た時、真ん中はよくないことが起きた」

  等と、集まった客達は口々に言う。助言してくれるのはありがたいが、煩わしい。だが助言のおかげで、呆気なくゲームオーバーにならずに済んでいる。駒は減ったが、ゲームは続いている。

  「ふふっ、珍しいわね。こんなに人が集まってくるなんて」

  「まるで見世物小屋のサーカス気分だな。はぁ……」

  「ほらほら、貴方の番よ」

  レリフは穏やかに急かしてくる。

  盤上にはA陣地の狼と共にB陣地の狼も盤上の下に仕舞われている。そしてA陣地には大人の男性の駒、子供の少年と少女の駒が残り、レリフのB陣地は少年の駒と少女の駒が残っている。塀のカラスは二十一から八羽になった。そして金の王様の駒は中心地にいる。中心地から一番王様に近いのはA陣地にいる少年、ワシの駒だ。ちなみに持ち手のカードは、王様のカード、フードを被った謎の男のカード、カラスのカードと少女のカードが残っている。

  「これはもしかして、クリアするんじゃないか……?」

  「かもな」

  ギャラリー達がささめく。

  「あきら、あともうちょっとだ」

  「ああ」

  そして塀の上にいるカラスのボタンを押す。

  『カァー。B陣地の少女が拐われてしまったよ』

  瞬間、レリフの盤上から少女が消える。

  「あら、少なくなってきたわね。それじゃあ、このカードを使おうかしら」

  レリフはフードを被った謎の男のカードを挿入口に差し込んでいく。すると盤上は紫に光り、盤上にフードを被った謎の男の駒が出現する。

  「この男は、駒にもなるのか」

  「今回はそういうパターンだったみたいね。あら……」

  不意にレリフが疑問を口にする。

  「どうしたね?」

  「謎の男の駒に、ボタンが付いてるのよ」

  レリフが指した謎の頭の上にはボタンが付いている。

  「今まで付いてなかったのかね?」

  「ええ、初めて見たわ。じゃあ、押してみる」

  レリフは謎の男の頭の上のボタンを軽く指先で押す。すると盤上が赤く光り、盤上よりアナウンスが入る。

  『謎の男は住人達に言いました。エアスト王国の王は偽りで異端だと、私が本物の王だと、偽りの王がこの国を支配している──と。すると住人達の間で瞬く間に噂が広まり、謎の男を真の王として崇め、本物の王を糾弾しました。後に本物の王は王宮からも追放され、地下に閉じ込められてしまいました。しかし本物の王は抜け出し、エアスト王国の外に脱出しました。その後、謎の男が暫く王になるも、直ぐに嘘がばれて追放されました』

  そのアナウンス後、三角形の中心地にいた金の王様の駒が盤上の下に仕舞われ、かわりに謎の男の駒が盤上まで動いていき、中心地に立つ。

  「どういうことかしら……?」

  レリフは不思議そうに首を傾げる。金の王様だった男の駒が王様ではない──となると、展開が変わってしまう。もしかしたら、クリアは金の王様ではないのかもしれない。

  「今の話……、お祖父様が貸して見せてくれた本の物語の話と似てる」

  不意にポルコが口にする。

  「ほぅ。よく読んだりしたのかね?」

  「うん、読んだ。すっごく似てる」

  「続きは覚えているか?」

  「本物のエアスト王は、今もどこかで、放浪してるって感じで終わってた気がする」

  「完結しないで終わってたのか……」

  「うん。しかも手書きの本だったんだよ」

  「手書き……」

  手書きとなれば、自伝の可能性が高い。

  ──もしかして、このクローネ島にあるエアスト王国と、このボードゲームは繋がっているのかの?

  このボードゲームは【lost kingdom】という。意味は失われた王国だ。

  ──このゲームをクリアすれば、このエアスト王国の秘密がでてきたりするのか?

  「ポルコ、クリアを目指そう」

  「え、うん!」

  この王国の秘密がもし眠っているならば、ヒロと確実に会えるチャンスになるかもしれない。

  早速、黒いカードのフードを被った謎の男のカードを挿入口に入れる。すると再び盤上は紫に光り、今度は一人の女性の駒が出現する。しかし今までの女性の駒と違い、頭上にボタンがある。迷わず押してみれば、女性から音声が聞こえる。

  『本物の王様が消えた後、エアスト王国もクローネ島も荒れていきました。そこへ、一人の女性がやってきました。女性はこう言いました。私が建て直そうと。女性は双子の少年を産みました。のちに王子にするために。女性は妃となり、王のいない国で生計を建て直すことにしたのです。それから暫くして、戦争が始まりました。王がいない国で女性は一人で太刀打ちできず、やむなく、一人の子供を手放しました。いつか迎えに行く約束をして、賢い狼に預けました』

  ──もしかしなくてもこれは、ヒロの話か……?

  そして盤上に狼の駒も出現する。

  「やっぱりこのゲーム、俺達の生い立ちに激似なんだけど……。ヒロは預けたって言ってたし……」

  ポルコの呟きを一先ず聞き流し、レリフに声を掛ける。

  「さぁ、次はレリフの番だ」

  促せば、レリフは暫し考え込んでから口にする。

  「このゲーム、クリアだけが目的じゃないのかもしれないわね。それに変よ」

  「変というのは……?」

  「この【lost kingdom】のボードゲームが製作されたのは、今から五百年も前よ。ここに製造年月日が書いてあるから間違いないわ。それにあたしもこの話、噂で聞いたことがあるの。今のエアスト王国の妃の話……。このゲームの駒に現れた女性、妃に似すぎている。でも、どうしてかしらね。それに、このクローネ島の季節は一貫しないし、気候変動は激しいし、もしかしたら……」

  レリフはそこまで呟くも口を閉ざす。しかしそこまで言われて続きが紡がれないのは気になる。

  「レリフ、もしかしたら……の後はなんだね?」

  「これはあたしの推測になるんだけど、このクローネ島のどこかに、時空の歪みが生じているんじゃないかしら?」

  「時空の、歪み……?」

  「このクローネ島のどこかに、時間の流れが滞留してれば考えられる話よ」

  レリフは真剣に言う。

  「ははっ、流石にそれはないだろう」

  「おいあきら、待ちくたびれたぞ。それに誰もこないし、見張ってなくても問題ない」

  刹那、室内に狼が現れ、のそのそとやってくる。

  「ああ、すまんすまん。外で大分待たせてしまったな」

  「あら──喋る狼なのね」

  「ああ。賢い狼でね。人を襲うこともない」

  そう説明する中、狼がテーブルに乗ったボードゲームに鼻を押し付けて匂いを嗅いでいる。

  「あきら、ここから匂いがする」

  「匂い?」

  「うん。ヒロと同じ匂いがする」

  ──どういうことだ……?

  謎はますます深まるばかりだ。