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三十過ぎの喪男が、こうして遊園地に来ると言う事は、それまでの人生から考えると、あまり信じられない事だ。
童貞、彼女いない歴=年齢と来ていて、それでも家族かカップル向けにしか作られていない施設に立ち入る意味とは、そこにレイヤーさんがいるからだ。
カメラに二十万、レンズ一本に十五万とか、ストロボや諸々含めると、今持ち歩いている装備は五十万円を超える。
決して高給取りではないが、実家暮らしで車を持たず、酒も煙草も他に趣味もないと来ると、これぐらいはどうにでもなるのだ。
しかし、こうした趣味が、単にハッタリであるのは言うまでもない。
高級そうな装備であれば、相手も少しはちゃんと相手にしてくれるだろうと言う期待だけだ。
写真を撮っては、名刺を配り、連絡が取れるなら、その写真を差し上げる。そうしていれば、いつか、僕のことを気に入ってくれる人がいるのではないか? 心の片隅に、そんな淡い幻想を抱いている。
しかし、現実問題として、チビでガリで、顔の作りも今ひとつな僕に、社交辞令以上の連絡をくれる人は居ない。
写真の腕があれば、撮影会や大型の"合わせ"なんかに誘われるかもしれないが、二年近く、毎週続けていても、それらしい成果はない。
多少、顔は覚えられているようだが、挨拶と写真の受け渡しがせいぜい。
出禁になるような事をしていないから、迷惑なカメコと思われていないだけマシか。
兎にも角にも、そんな悶々とした日々も、「きっと喜んでくれる人も居るはず」と言う自己欺瞞で誤魔化して、メールやSNSの新着メッセージを待っていた。
メールボックスに、いつか見たことのある名前を見つける。
タイトルは「お写真ありがとうございました」だった。
先日写真を撮った、大柄の――身長180センチはあるだろう、モデル体型の女性からだ。
この女性はよく憶えている。足が長く、すらっとしているのに、太腿の肉質感、ふくよかな胸、細く長く整えられた指先。細面で切れ長の目、真っ直ぐ通った鼻筋と、上品と言えるほどの口元、定規で引っ張ったのではないかと言うぐらい、美しく長い黒髪。
謎の恐怖感を感じるほど、威圧的で、そして気品があったのだ。
メールの内容は、割と可愛い目で、礼儀正しかった。
「見た目は怖いのに、中身は普通の女の子なんだな」
"女の子"がどういうものであるのか、全く知らないって言うのに、こんな事を決めつけているから、自分は未だに童貞なんだろう。
本分の最後には、「また、機会があればよろしくお願いします」と締めくくられていた。
"またの機会"なんてものは、今までも何度も見てきた言葉だ。
期待なんかしない。何も感じないようにしよう。
そう、心に誓って、今日もやり過ごすことにした――そうはいえども、「こちらこそお願いします。何でも言って下さい」なんてメールを返信したのだけど。
それから、数日間、今までの"またの機会"と違って、今回に限っては、頭からそれがずっと離れず、彼女の姿が瞼から消える事がなくなってしまった。
自分の撮った不出来な写真を見つめ、嘆息し、そして、彼女の名前を探して、あちこちのサイトを見て回ったりした。
様々なカメコのサイトで写真を見る事が出来たし、某掲示板でも彼女に関して写真を出し合い、盛り上がっていた。
しかし、彼女自身、WebサイトもSNSの類も一つとして登録していないようだった。
ネットストーキングする連中の多い、某掲示板でも、正体を明かせないでいるのだから、本当に何もやっていないのだろう。
これは、特に懇意にしているカメコはいない証拠であり、それ故に、妙に浮かれたりしていた。
この浮かれ方は、アイドルの握手会に並ぶオタクと何一つ変わらない。
彼女の心の中に、自分がいるのだと、根拠もなく信じて、それの為に生きているのだ。まるでカルトだ。
そう言う、自己分析と自己嫌悪と、それでも拭い去れない期待感の中で、その夜、自室に戻ると、メールボックスを確認する。
タイトルは「憶えていらっしゃいますか?」そして、名前はあの子だ!
本文は、今度、山の方でロケをしたいから、自分に撮って欲しいと言う内容であった。
急いで了解の返事を出すと、すぐさま、幾つかの日程の候補を出され、自分が車で迎えに行くと言う旨のメールを戴く。
その日程の中で、直近の日時――明日の朝でも行けると言う返事や、待ち合わせ場所を連絡した。
やり取りは、三十分ほどだっただろうか?
この三十分で、自分の人生が大きく転換したのではないか? 実に神秘的な感慨に浸って翌朝を迎える。
起きたのは翌朝の三時。しかし、眠れない。装備品のチェックを何度も行い、しつこいぐらいにシャワーを浴び、長々と歯を磨いた。
待ち合わせ場所へは、歩いて十分程だというのに、一時間も前に着いてしまう。
一時間もやることがないと、考える事ばかりに集中する。
ロケの内容に関して、何一つ書いていなかったけど、聞いた方が良かったのだろうか?
そもそも、撮影者は自分一人なんかじゃない可能性だってある。いやいや、美人局なんて可能性は?
ネガティブな考えに囚われると、自分は自分の人生が崩壊する瀬戸際に立たされている気分にもなる。
だが待て、そんな事をやっていれば、被害者が例の掲示板で大騒ぎするに決まっている。
彼女だって、昨日今日始めた訳じゃないだろうから、何かあれば、悪い噂も耳にするだろう。
難しい顔をしているところに、一台のコンパクトカーがやって来る。
"わ"ナンバーである所を見ると、お金を使うことが大好きなタイプの女性じゃないなと安心した。
こんな僕でも、女性を値踏みしている――だから童貞ってヤツは。
「おはようございます! ひょっとして待ちました?」
僕は、手振り身振りを総動員して、それを否定した。
「友達が来る予定だったんだけど、急に都合が悪くなっちゃって」
衝撃的、しかし、下手に踏み込むとマズそうな事実を聞かされる。
友達とは、男性だろうか? 女性だろうか?
心の中で、その内容をもっと知りたいと思いつつも「いえ、大丈夫です」の一言だけで、このやりとりは終了してしまった。
車内でする彼女の話は、実に面白かった。
僕自身が、コスプレのカメコをしていると言うのに、あまりアニメを知らない事に触れると、オススメのアニメを紹介してくれた。
オタクと言う種族は、「オススメのアニメ」の話になると、一方的な思い込みを無闇矢鱈に吐露し、自分だけ満足して終わるものだが、彼女の話しっぷりは、手短に要点を説明し、熱っぽく魅力を伝えるが、しつこくならないうちに、話題を次から次へと、新しいものへと更新していく。
僕は、単に相槌を打つばかりだったが、しかし、決して退屈しない相槌であった。
話は流転して、コスプレイベントの話になり、その中での女装の話になる。
彼女は、「自分だって人の事を言えないけど、手を抜いている人は嫌いですね」と、今までにないはっきりとした口調で意見を述べた。
女装のことが嫌いなのかと思っていたら、口調を反転させ、明るく嬉しさに溢れた声で、「でも、可愛い人って凄いですね!」と笑った。
「ええ、そうですね。名刺交換の時、"女だと思ってたでしょ?"って言われて驚いた事がありますよ。
"可愛いなら関係ないです"っていったら、"本気にしちゃう人から誘われるから、あんまり言わない方がいい"だなんて言われちゃって」
自分の返答が、少しばかり下ネタに触れた気がした――口を突いて出た直後、"本気にしちゃう人からの誘い"とは、"掘られる"と言う意味だと気付いた。
これはマズイと、この言葉を誤魔化すために、頭の中をフル回転させる。
「正直に可愛いって思うなら、そう言えばいいんじゃないかなって」
よし、これなら先の男の娘から言われた忠告の真意を分からないままでいられる。
僕が安心するのもつかの間、彼女は、明るい口調のまま恐ろしい質問を寄越した。
「"本気にしちゃう人"がいてもいいんですか?」
この場合、彼女は今回の下ネタに機敏に反応したのだろうか? それとも、"本気"は"本気で好きになる"程度の意味として捉えているのだろうか?
答えに迷うが、黙っている時間が長ければ長いほど、深い意味になってしまう。
「好き同士なら、何でもいいんじゃないですか?」
これは、性志向的マイノリティに配慮した模範解答だ。事実、僕自身、ゲイがゲイ同士で付き合って、お互いに幸せになれるなら、それは善いことだと思っている。ただ、それは僕とは全く関係のない世界の話だが。
「そ、そうね。性別で判断するのってダメね」
幾らか乾いた口調で、僕の言葉に頷くと、続けて「ああ、忘れていたけど、そこのコーヒー飲んで下さいね。温くなっちゃったかも知れないけど」と、エンボス加工の紙が巻かれた、蓋付きの紙コップを勧めた。
「ご免なさいね。会話に夢中になっていて」
この失敗は、如才ないと見られがちな彼女の、実はドジなギャップ萌えを、僕の中で醸成させることになった。
「それでは、遠慮なく」
確かに、コーヒーに暖かみは殆ど残っていなかったが、勧められたものに口を付けないのは失礼だと思い、一気に口の中に注ぎ込んだ。
「朝も早かったですからね」
彼女の最後の言葉に、疑問を抱くよりも早く、僕は意識を失うことになった。
気が付けば、女の子の雰囲気全開のピンク色の部屋にいた。
ベッドから起き上がると、僕の名前が記された便箋に目が行った。
内容は概ねこういうものであった。
第一に、自分は遺伝子疾患のお陰で、身体ばかりは女なのに、性器と、性的志向は全くの男で、女の人の事が好きなのだと言うこと。
第二に、普通の女性は、この女らしい身体のお陰で、全く相手にしてくれなかったと言うこと。
第三に、レズビアンには、生物的に男である事を酷く罵られたと言う。(そう言う手でレイプする人間がいるから仕方ないらしい)
第四に、付き合ってきた男の娘は、浮気がちであったり、自分が女装に誘い込んだ男も、最終的には自分を裏切ってしまったと言うこと。
第五に、自分を裏切らない人形が欲しいと言うこと。
そして、この手紙を読んで、付き合いきれないというなら、横にある薬を飲めと言う事が書いてあった。
薬の説明によれば、それを飲めば、前後数時間の記憶を失うという。
僕は、正直迷った。
記憶を消してしまうような薬は、確かにPTSD予防薬として研究が進んでいるが、マトモに承認されたなんて話を聞いたことがない。
副作用はどのようなものなのだろう?
もし、被害者が僕一人でなければ、何人かが同じ薬を飲んで……そして、この一件を何処にもネタとして上げなかったとしたら、被害者はそれを出来なくなるほど、脳みそか、身体がやられてしまったのではないか?
考えに考えを重ねたが、部屋を出ようという気力はなかった。
どうせ錠が下りているに違いない。妙な行動をすれば、命が危ないかも知れない。
何故なら、僕を拉致するために睡眠薬なんかを手際よく飲ませてしまうぐらいの女――男だからだ。
僕は、消極的ながら、"付き合う"方を選んだ。
彼女が男だとしても、彼女ほどの美貌ならば、それも仕方ないと思ったからだ。
そちらを選んだなら、隣の部屋で服を脱ぎ、シャワーを浴び、クローゼットの中のものに着替えろと書かれている。
しかし、どうだろうか? チビである事は、女装をするときに便利かも知れないが、顔はただの三十がらみの汚いオッサンである。
化粧するにしても、方法を知らないわけだし……彼女がそれをしてくれるのだろうか?
あの美人が自分の顔を見つめ、自分を美しくしてくれるというのだろうか?
想像すると、股間が温まるのを感じる。
シャワー室では、身体を洗うことに関して、事細かに指令が書いてある。
先ずは、バリカンとシェイバーで髭、髪の毛、脇毛、すね毛、陰毛を刈れと言う事。出来るなら、剃刀でそれらを剃った方がいいと書かれている。
「これは本格的にマズイ事になったな」
心理クイズで、「貴方は美容師です。好きな相手の髪の毛をどうしたいと思いますか?」なんてものがある。
"クイズ"と言われているだけあって、心理学的に正しいかどうか怪しいが、曰く、「髪の毛はエネルギーの象徴なので、髪の毛を多く切るヘアスタイルは、相手をそれだけ拘束したいと言う意思の表れだ」と来ている。
僕は殆ど信用していなかったが、今になって、それが正しいのではないかと、恐れおののいている。
脇毛を剃ると、腕を下げる度にちくちくするのが分かる。
なるほど、剃った方がいいんだな。
言われたとおり、できる限り多くの箇所を剃刀で剃ることにした。
頭の後ろの方は、流石に怖くて出来なかった。
お坊さんはどうしているのだろう?
次に、歯の磨き方が続く。
その作法も事細かに書かれていて、後で叱られるのが怖くて、念入りに磨く。
続くシャワーも同じだ。耳の後ろや脇もしっかり洗う。
さて、そうして、若干ぬるめのシャワーが終わり、身体をタオルで拭うと、ヌードブラのようなものを着用する。
胸に、おしり、太腿。シリコーン製のものだろうか? 皮膚に近い触感だ。
接着面が、べとべとしているが、糊が身体に残る事はなく、上手く貼れるまで何度でもトライすることが出来た。
こうしてみてみると、シルエットだけは女性かも知れない。
胸を揉みながら、初めてのおっぱいをひとしきり楽しんでいた。
誰に急かされると言う事もなかったが、一陣の虚しさの風が全裸の身体を冷やした。
次は全身タイツである。
表面はラバー製のようでありながら、光沢の弱い素材だ。引っ張るとかなり伸びるが、反面コシがあり、強く締め付ける感じがあった。
身体を入れるのは、顔の部分に限定されていたが、シルクのようななめらかな生地で裏打ちしてあり、魔法のようにスムーズに身体が収まっていく。
着てしまえば、実によく身体にフィットしている。首の部分なんて、自分の肩まで通ったというのに、しっかり拘束して、のど仏が押さえつけられている感覚を覚える。
締め上げられているのは、のど仏ばかりではない、股間や脇や足首や……関節と言う関節が、締め上げられている。尤も、それは時間の経過と共に、慣れたのか、麻痺したのか、苦痛には感じなくなっていった。
ここで、姿見を見る。
身体は女で、顔だけがオッサンだ。無様すぎる。
続いて、ピンク色のフリルが沢山付いたドレスを着る事になる。
先の姿が脳裏に残っているので、もう、鏡など見まいと心に誓い、袖を通し、脇のファスナーを閉め、リボンを整える。
さぁ、最後の箱だ。
最後の箱には、アニメのような大きな瞳が特徴的な、プラスチック製のお面が入っていた。
前後二つのパーツに分かれていて、前と後ろで頭部を完全に包むような形になっている。
二つは爪がかみ合うようになっていて、装着すると、自分一人で外すのは殆ど不可能だと理解した。
プラスチックは、手で歪ませようとしても変形しないほどに丈夫で、何かあったらたたき壊せば良いと言う想像を、すぐに無駄な足掻きだと思い知らせた。
しかし、ここで躊躇したところで、僕は、この部屋から脱出する事も出来ないだろう。
覚悟を決めて、両方のパーツを組み合わせる。
"パチン"
と、衝撃的な音が頭蓋骨に響く。
何処で測ったのか分からないが、顔に素晴らしくフィットしていて、お面が動く様子は全くない。
装着したての感覚では、特に息苦しい程ではなく、むしろ、視界の狭さの方が気になった。
残るウィッグを被ると、磁石でくっつくのか、小石が面を叩く音が続いた。
そして、再びの姿見。
そこには、アニメの世界から出てきたような美少女が立っている。
自分が思うようにそれは動き、自分の意思に従って、自身の顔や身体の各部に触れる事が出来た。
鏡に近付くと、その可愛い娘が、自分に接近していくのを感じる。
存在感がこの身に迫ってくる。
それは、ただ手で触れられるばかりか、ほぼ無距離の関係にある。
そうした、美少女の存在を自身に感じると、自然に股間のモノが硬くなっていくのが分かる。
全身タイツは、ギリギリとそれを締め上げ、その上に可愛いショーツがあり、ボリュームのあるフリル付きのスカートの中に、そうしたものが隠されているのだと感じると、今までの自分では想像も付かないほど、心拍数が上がる。
服の上から、それに触れてみる。
目の前の美少女が、自分のそれに触れてくれる。
彼女は、全く自分の外部から、自分の内面に向かって、望んだ通りのように自分を慰めてくれる。
確かに、それは単に自分で自分の逸物をなで上げているだけの事である。しかし、鏡面を隔てて、世界は二分され、自分と美少女の二人が、一体になって、一緒に気持ちよくなるのだ。
硬い、硬いそれは、タイツの拘束具合、衣装のフリルの厚みを通して、おぼろげな刺激として伝わる。
否、おぼろげとは言え、今までにないほどの愉悦を教えてくれている。
控えめに、それとは分からないように、しかし、しっかりと股間を押さえ、両手で慰めている。
そう、美少女が、自分にそうしてくれている。
もし、このスカートの中に手を入れたら。
どうしよう? やれるかな? やってもいいかな?
迷いながら、スカートをたくし上げては躊躇う、その姿も可愛い。
この大きな瞳の娘は、恥ずかしさを持ちながらも、その快楽に逆らえない。
スカートを少し持ち上げるだけで、細い細い足首が見える。
色白な彼女の足を、もっとよく眺めてみたい。
姿見の角度を少し前傾させ、その前に座り込む。
足を突き出した格好で座り、再び、スカートを引き上げる作業に戻る。
今度は重力がないから、躊躇しても戻ることはない途である。
足首、脹ら脛、臑、太腿と進んでいく度に、その部位一つ一つが愛おしくて、手を伸ばして感触を確認する。
僕はそうして、彼女に触れ、そして彼女に僕は触れられているのだ。
太腿まで来ると、気持ちの高ぶりはもう、理解の限度を超えていた。
手が、己の、そして彼女のモノに触れる前に、黄色い刺繍の施された下着を見た瞬間、胸の高まりは開放され、腰から背筋、首に至るまで、痙攣したかのように脈打つ。
その実にみっともない姿は、美少女の見てはいけないはしたない行為を覗き見たようで、興奮のスパイラルに落ちていく。
アドレナリンで頭が真っ白になる。
もう、どうなったっていいさ。
[[jumpuri:着ぐるみネタ習作2 > http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3591854]]
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