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【1】アレってまじでイカっぽい匂いすんのな。【R18】

  現在二徹目。

  その甲斐あって、目の前には完成間近の原稿。

  印刷所の締め切りまで後一時間。

  今回もどうにか間に合いそうだと胸を撫で下ろして、翼が授けられると銘打つエナドリを手に取る。

  この原稿が間に合わないと、イベントで新刊が出せないところだった。

  危ない危ない。

  それなりに売れているとはいえ、コンスタントに出して行かないとすぐ忘れられてしまう。

  これで食べていくと決めたのだ。稼げる内に稼ぐ!貯金大事。

  好きでやっている事ではあるが、毎回死にそうになりながらペンを握る自分にはちょっと呆れる。

  「・・・よし。確認おっけい。ぽちっとな!!」

  ワイヤレスのヘッドフォンからデータ送信完了の効果音がして、達成感に強張った背筋を伸ばす。

  「脱稿だーっしゃおら!!さすがに三冊同時は無茶だったか?あはははは!しゃーねぇのよ。イベント被ったけど描きたい欲が高ぶっちゃったらね!!」

  一人暮らしの三十路である[[rb:綾小路 > あやのこうじ]][[rb:頼子 > よりこ]]は解放感からつい独り言が大きくなった。

  この名前、ペンネームではない。本名である。

  お堅い印象の苗字も、古臭い名前も実はあまり好きではない。

  昨今話題になっているキラキラしたやつよりはマシだと思ってはいる。

  気に入ってはないが。

  だというのに、ペンネームの「アコ」は名前の前と後ろを取っただけだったりする。

  因みにBL作品の時は「あーこ」殆どひねっていない。

  本人の主張は「考えるのが怠い」

  興味が無い事にはとことん無頓着な女なのだ。

  さて二日ぶりの風呂にでも入るかと中古で買ったゲーミングチェアから立ち上がった時、部屋の中の異臭に気が付く。

  『なんだこの匂い・・イカ?』

  部屋の中に魚介のイカが痛んだ時のような匂いが充満していて顔をしかめた。

  ゴミはちゃんとゴミ袋へ入れているものの、ゴミ出しは最近忙しさにかまけてさぼり気味。

  シンクに皿は積んだままだし、部屋も汚部屋一歩手前(決してまだ汚部屋ではないと主張)

  「・・しゃーない。ゴミを纏めて、整頓だけでもしますか」

  それから風呂に入るとしよう。そうしようと行動方針を固め、ヘッドフォンから流れる曲をノリの良いアップテンポな作業用アニソンメドレーに切り替える。

  寝不足と疲労によるハイに任せて、頼子はサクサクと部屋を片付け始めた。

  「いや、横の物を縦にして床にワイパーかけただけだけどね!!」

  掃除機だと近所迷惑な時間だったので。

  大丈夫!髪やホコリが取り除かれただけでも十分スッキリだ。

  にしても、イカ臭い。

  窓を開けて換気をしたものの、部屋の中に原因があるとしか思えない。

  「イカなー。最近買ったか?記憶にないんですけどー?」

  匂いの元はどこだ?と、鼻をすんすん鳴らしながら部屋中を歩き回る。

  ワンルームの小さな部屋だ。場所は直ぐに特定できた。

  ベッドの脇に置いてある、亡き母から譲り受けた鏡台。

  『なんでこんな所からイカ臭?』

  黒い埃避けのカバーを捲る。

  視線の先、鏡の表面に少し白い汚れがついていた。

  「なんで内側が汚れてるんだよ」と呟いて、捲った布の裏側を見て硬直。

  白い付着物がカピっていた。

  如何にも「ドロッとした白い液体が垂れて乾きました」といったその状態に、口元がヒクリと引き攣る。

  「ん、なんっじゃこりゃあーっ!!」

  白い液体にイカ臭。

  思い当たる物体といえば精液である。

  『いやいや、なんで一人暮らしの女の部屋に精液?!』

  思わず短パンと下着をみょんと伸ばして生えていないか目視で確認。

  「ちっ、んだよ生えなてないのかよ残念」

  自前のチン〇があれば色々と原稿が捗るのに。

  リアル男性の自慰はどんなもんかな?と興味も尽きない—

  「って違う違う!誰だ勝手に人の部屋に入って精液ぶちまけた奴は!警察に突き出す前に資料用のディルドぶち込むぞゴラァ!!」

  「伊達にエロ同人描いてねぇぞ!」と勢いに任せてカバーを剥ぎ取り、ゴミ袋に突っ込む。

  『洗ったって使えるかこんなもんっ!!』

  怒りから荒々しい一歩を踏み出し、はっとしてヘッドフォンを外して耳を澄ます。

  暫く待っても壁ドンはされなかった。

  ほっとして、普通の速度で洗面台に向かう。

  ボロいタオルを取り出して、水で濯ぎ固く絞って鏡台へと戻った。

  「全く!大事な鏡台なのに・・犯人め!お前は絶対に許さ—・・」

  ぶつぶつ文句を言いながら鏡台の椅子に座って鏡にタオルを当て・・・

  ようとしたが、そのタオルが鏡をすり抜けた。

  鏡に沈んだのはタオルだけで、指はその表面にひたりと当たる感覚。

  どういうことだってばよ?と眼鏡のつるを持ち上げつつ鏡を覗き込むようにした途端。

  目の前にデデンっ!と男性器が現れた。

  非現実的な光景に息が止まる。

  思考が停滞を起こし、視界の情報を処理しきれずにただ映り込んだ場面を受け入れ続けた。

  それは浅黒く、ぷくりとしたふくらみの先端部分はきめ細かい肌質、鈴口からは透明な汁を垂らしており、表面に走る血管が荒々しい興奮状態を伝えて来る・・まさに肉棒の名が相応しい雄々しさ。

  そして、今まさに、白い手でゴシゴシと扱かれている。

  それどころではないというのに、つい好奇心に駆られ、マジマジと観察してしまう・・

  目が離せない。

  にゅちにゅちと生生しい音がして「成程、男の自慰とはこんな感じか」と場違いな感想を抱いたところで、扱く手の速度が上がった。

  『あ、まずい』と咄嗟に距離を取ったが時既に遅し。

  震える欲棒の先からびっ!びっ!と激しく迸った白濁が鏡を通り抜け、手、服。

  更には眼鏡にまで飛んできた。

  突然の状況に呆然として固まっていると、白い飛沫越しに肌の白い男性が目を閉じて気持ち良さそうに放心している様子が、鏡の枠越しに伺えた。

  二徹の、脱稿直後に、怠いのに部屋の掃除をし、二日も風呂に入っていない。

  更に言うとお腹も空いている。

  肉体的にも、精神的にも割と限界が近かった頼子は、自分の血管が切れる音を聞いた気がした。

  「ねぇ君」

  鏡の男性に向けて、冷ややかに声を掛ける。

  と、男性は驚き椅子の上で背筋を伸ばした。

  その表情は驚愕に強張り、目を開いて固まっている。

  「なっ、は?まさか、えっ!?」

  股間の棒を隠すのも忘れて、こちらを指さしながら顔色を悪くする男性。

  さらりとなびく程度の短髪で、色は見事な金。

  切れ長の目、瞳はアイスブルー。

  すっと通った鼻筋。形の良い唇。

  その全てがバランス良く収まった顔といい、はだけたシャツから見て取れる細マッチョな身体といい、股間の凶悪さからは想像し辛い美青年だ。

  王子様かな?

  『イケメンは目の保養!だがそれとこれとは話が別だ!!』

  プッツンした勢いのまま、冷たい口調で言葉を紡ぐ。

  「服が汚れたんだけど、どうしてくれんの?」

  「は?あ、いや。その・・」

  飛沫が付着した眼鏡を外して、とりあえずTシャツの裾で拭く。

  後で水洗いして消毒だちくしょうめ。

  「だから。あんたの欲望の迸りが悪さをしたんだけど?どう責任取ってくれんの?」

  「迸り・・あっ?!」

  今更、慌てて股間を両手で隠す青年。

  『トロいやつだな』と思いつつ、自分の台詞にピクリと反応していた欲棒は見逃さなかった。

  「その・・申し訳ない事をした。まさか鏡が何処かと繋がるなど想像すらできず・・詫びは、金貨で良いだろうか?」

  「は?」

  「そ、そうだな!白金貨で!白金貨でお願いしたい!それと、出来れば今見た事は口外しないでくれると・・」

  股間を押さえたままの情けない姿で、上から目線に金を払うから黙ってろと要求してくる青年。

  こいつ、何様だろうか?

  ゴメンの一言も言わないとは・・・ますますムカつく。

  グラグラと煮えるような怒りが頭を支配していたが、それもコレと話してスッと冷めてしまった。

  今はただ冷たく、嗜虐的な気分で胸中が満たされている。

  『そうだな。ちょっと酷い目にあってもらおう』

  お仕置きだ。

  沈黙する私に顎を引き、恐る恐るといった感じで上目遣いで見て来る青年へ、眼鏡を掛け直してニッコリと微笑んだ。

  「金なんざいらないよ。代わりに、最初から見せてくれたら許してあげる」

  「は?それは、どういう・・?」

  「察しが悪い子だな。自慰だよ。さっきもしてたろ?もう一回、して見せてって言ってんの」

  「なっ?そんな事出来る訳ないだろ!?」

  怒りに震える青年。

  だが、よくよく観察してみれば・・

  『おや?ちょっと嬉しそう?口元が緩んでますよ~。性癖駄々洩れじゃねぇかこの変態』

  この青年。随分と残念な性癖を持っているらしい。美形なのに。

  そういえば、さっきチン〇が反応してたな。

  ・・ほほぅ。

  成程成程・・・そういう事なら楽しめそうだ。

  意識してニコリと微笑み、顎に指を当てて小首を傾げる。

  「良いの?見た事バラされても・・」

  「ぐっ!」

  「そっかー。婦女子に精液掛けて、興奮してる変態だってみーんなにバラしちゃっても良いんだー」

  「ま、待て!止めてくれ!それだけはっ」

  「あれ?・・否定しないの?精液掛けて興奮したのは本当なんだ?」

  「や、ちが・・」

  「違わないよね?」

  鏡にグイと顔を寄せ、楽し気に目を細めて真っ直ぐに青年と視線を合わせる。

  「興奮したんだよね?見知らぬ女の人に、自分の精液がぴゅっぴゅって掛かったの見て、ゾクゾクしちゃったんだよね?」

  言いながら、黒いTシャツに跳んだ飛沫をなぞって見せる。

  頼子の言葉に青年は息を呑み、ぶるりと身体を震わせた。

  「ね?ほら。手を退かして。最初からだよ。出来るよね?」

  顔色を悪くしながら口元を喜びに歪めるという器用な表情の青年は「最後までずっと見ててあげるから」という頼子のダメ押しに、震える指を開いて見せた。

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