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【96】実技試験 疑惑の払拭にて

  冒険者登録試験に合格した青年の不正を声高に主張したオオカミ獣人の若者は、その行為そのものが他受験者の試験を著しく妨害したとみなされ、試験監督であった猫耳の職員に「不合格」を言い渡された。

  試験官のゲオルグに促され、漸く周りに目を向けた若者は状況を察して、真っ青な顔で深く項垂れる。

  「不合格?・・俺が?そんな・・だって、ならコイツは?卑怯な手で合格したこいつは!?」

  気落ちした様子から一転、若者は「納得いかない」と青年に指を突き付けて叫ぶように言った。

  その言葉に眉をひそめ、不快感を滲ませた試験監督は「お言葉ですが」と前置きして答える。

  「筆記試験の問題については不正が出来ないよう、用意された問題は試験実施まで封印された状態で保管されます。担当の試験監督ですら、直前まで内容は知り得ません。事前に答えを調べるのは不可能です」

  淡々と告げられた内容に若者は口をつぐみ、歯噛みして青年を睨んだ。

  見当違いな主張であると未だ認められずにいる若者に、試験官も説明の為口を開く。

  「俺からも言わせてもらうぜ?実技試験は受験者の実力を測るためのモンだ。そいつがどの等級でやって行けるかを把握する為に実施している。これはな、絶対に失敗出来ねぇ判断なんだよ。そいつの命に係わるからな。・・だから判定は甘くねぇし、容赦もしねぇ。俺は毎回、自分の人生をかけてそいつの力を見極めてると、武の精霊にだって誓えるぜ」

  「けど・・だけどゲオルグさ―「ダドリー」・・」

  キッパリと「不正はない」と言い切った試験官に若者は尚も言い募ろうとしたが、途中で静かな声に遮られた。

  「もう一度、自分が何言ったか良く考えてみろ。お前の発言は「冒険者組合という組織自体が信用出来ねぇ」って言ってるのと、何も変わらねぇんだぞ?」

  「・・え、いや、そんな・・」

  「そろそろ「世界最大の組織に喧嘩を売った」って事。自覚しろよ」

  「あ・・」

  そこまで言われて、若者は漸く自分の発言が如何に「やらかした」のか気が付いたようだった。

  同時に、試験監督と試験官の2人は自分を守ってくれたのだと理解する。

  試験の意義を知り、冒険者が等級で分けられる理由も本当の意味で解った。

  それに「不合格」を言い渡した事は自分への罰でもあり、試験の邪魔をされた者たちも幾らか留飲が下がっただろう。

  寧ろ、今時点で冒険者資格を取り消されないだけマシだと言える。

  追加で組合からの罰則もあるだろうが、それも仕方ない事だと今なら納得出来た。

  「おれ・・俺、すみませんでした・・今回、すげぇ自信あったのに・・俺よりもっと、ずっと早く終わったコイツが憎らしくて・・証拠も無いのに、酷いこと言いました・・ごめん、なさい」

  そう言って頭を下げた若者に、試験官は「謝るなら俺らじゃなく、アド本人にだろうが」と青年への謝罪を促した。

  若者も素直に「はい」と頷いて、青年に向き直ると改めて謝罪の言葉を述べる。

  「アド、だったか?・・俺、お前に酷い事言っちまって・・ごめんな。迷惑かけて、ごめん。悪かった・・」

  両脇で拳を強く握り、深く頭を下げて謝罪と反省を示す若者に青年は頷いて答えた。

  「その謝罪受け入れよう。私はもう気にしていない。他の者たちにも同じように頭を下げるのなら、もう何も言う事はない」

  「もちろん謝るよ・・お前、凄いな。俺なんかとは「格」ってヤツが違うんだな・・」

  「・・次回の試験で君が望む結果が得られるよう応援させてもらう。努力が報われると良いな」

  少し言いづらそうにそう励ました青年に、若者は苦笑いで「頑張るよ」と答え、後ろに振り返って周囲に立つ者らに向けて言った。

  「悪い!皆に迷惑掛けた!この通り、すまなかった!!」

  両脇に下げた手は軽く拳を握り、頭を腰の位置にまで下げて他の受験者らへ真摯に謝罪する。

  と、受験者らが反応を返す前に突然「その心意気や良し!」と良く通る声が響いた。

  皆が声のする方に視線を向けると、いつの間に現れたのか見学者の者たちに交じって竜人の女性・・この王都支部の支部長であるギータが煙管を片手に壁に寄りかかっている姿を見つける。

  「ダドリーとか言ったね?今回は良い勉強になったろ。世の中には色んなヤツが居るってね・・ウチの職員から話を聞いて反省出来たんなら未だ見込みはあるさね。頑張りな」

  「は、はいっ!ありがとうございます!」

  「うん、良い返事だ。さて、今回の騒動での罰則についてだが・・ニーオ。5等級の塩漬け依頼はあったかね?」

  そう問われた猫耳の試験監督は「3つあります」と端的に答え、続けて「支部長。何度も言いますが訓練場は禁煙です」と上司の喫煙を注意した。

  「あ、そうだったね。悪い、悪い・・」

  そう言って、支部長は煙管の火皿を指で塞いで火を落とし懐に仕舞うと「依頼内容は?」と訊ねる。

  「5等級で長期間処理されていない依頼は「南側の孤児院の補修手伝い」「鍛冶屋ガンツの運搬補助」「西地区の溝掃除」です」

  「よし分かった。ダドリー。お前は今回の罰としてその3つの依頼を受けるんだ。なに、安心しな。報酬は依頼書通り支払われるんだ。タダ働きにはならないよ」

  そう告げられ、一瞬「うげっ」と嫌そうに顔をしかめた若者だったが、文句をぐっと飲みこんで「はい」と殊勝に頷いた。

  「よぅし、罰則については以上だよ。後は今日の試験の事だが・・ニーオ。筆記の新しい問題は直ぐに用意出来るのかい?」

  「はい、問題ありません。支部長は戻って仕事を進めてください」

  「分かった。なら後は任せるよ」

  そう言って、試験監督が「はい」と頷いたのを見た支部長は真っすぐ出口へと向かい、通路に入る直前に「皆、頑張りな」と言い残し肩口にひらりと手を振って消える。

  支部長の姿が見えなくなり、無意識の緊張から解放された者たちがほっと息を吐いて空気が弛緩したところで、試験監督はパン!パン!と手を叩いて注目を促した。

  「では、今から筆記試験のやり直しを行います。先ほど配った葉に記入し直す余裕の無い方はこちらに予備がありますので取りに来てください」

  そう試験監督に告げられ、何人かが板と一緒に配られた葉の交換に集まる中、オオカミ獣人のダドリーも職員の元に訪れると声を掛ける。

  「あの、不合格なのは分かってんだけどよ・・俺も一緒に問題やってみてもいいか?」

  「・・構いません。新しい葉は必要ですか?」

  「ありがとう。頼む」

  礼を言った若者に、試験監督は手元の束から1枚葉を取って渡した。

  今の今まで静かに状況を見ていた青年も、若者の行動を見て「なら私も」と声を上げる。

  「合否の結果は出ている身だが、今一度筆記試験を解いて見せた方が周りも納得すると思うのでな。良いだろうか?」

  「・・良いでしょう。どうぞ」

  「ありがとう」

  傍仕えに洗浄魔法を掛けてもらい、実技試験での汚れを落とした青年も新しい葉を受け取ると、他の者らと同様に鉄棒を手にした。

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