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【172】オカシな状況には慣れたと思っていたケドそんな事は無かった件。

  カップに紅茶を注ぎ、続いて温められたミルクをお好みで。

  目の前に置かれたレトロ感溢れる被せガラスのシュガーポットを手元に下ろして、お砂糖を二杯ほど掬って入れたらティースプーンでくるくると回す。

  立ち上る湯気からして凄く良い香り・・

  後から注文したタルトケーキもカップの隣に寄せまして・・いざ、実食!

  まずは紅茶を一口・・

  うん美味しい!!

  味は勿論だけど、飲んだ後で鼻から抜ける茶葉の香りと、舌に残るミルクのコクで余韻が大変幸せです!

  そんな幸せ溢れる所に、タルトケーキの先端をいそいそとフォークで崩してひと口パクリ。

  ん~~~っまいっ!

  真っ先にガツンとキャラメルの甘さが脳天に響いたら、次いでかみ砕く心地よいナッツ類の食感に、ふわりと広がる少し焦げたキャラメルと、炒られたナッツの香ばしさ・・

  そこにアーモンドの香り広がるさくさくとした食感の土台部分も合わさると、もうお口の中が幸せカーニバル!

  さくさくコリコリと咀嚼して飲み込んだら、また紅茶を一口・・

  さくコリもぐもぐごっくん。こくり・・

  さくゴリもぐもぐもぐ・・ごっくん。こくりこくり・・

  無言でケーキと紅茶を交互に口に運んで、両手でカップを包み込むように持ち最後のひと口を飲み干したら、自然とほぅ・・と満足感の詰まった吐息が零れた。

  ふわふわと幸せの余韻に浸り揺蕩っていたところに、くすくすと小さな笑い声が聞こえてきて「はっ」と目を開ける。

  「ふふっ。とっても美味しそうに食べてくれるのね。嬉しいわ♪手間を掛けて作った甲斐があるってものね♪」

  「えっ!店主さんが作ってらっしゃるんですか?!」

  食べる姿を観察されていた恥ずかしさより、台詞の内容に驚いて思わず聞き返してしまう。

  てっきり専門店から取り寄せているものだとばかり・・

  嬉しそうにニコッと微笑んだオネェさまが口を開くより先に、横に座る中年男性が声を上げた。

  「解るっ!その驚きめっちゃ解るよ綾小路さん!こんなにも美味しいお菓子を、こんなおっさんが作ってるとは思わないよねっ!俺も食べる度に何か納得いかないんだよ!でもすんげぇ美味いのっ!」

  「マジ混乱するよね!」とこちらに同意を求める中年男性・・

  いや、いやいや。お願い気付いて。

  微笑んでいるオネェさまの表情がピクリとも動いていないことをっ!

  ひいっ!圧がっ圧が怖いっ!

  カウンター向こうの笑顔にビビっていると、ふっと威圧感が消える。

  軽い溜め息と共に肩の力を抜き「言いたい事はあるけど」と腕を組むオネェさま。

  「美味しいって言葉に免じて、今回は許してあげるわ」

  「え?俺ちゃんまたなんかした?」

  オネェさまの言葉にきょとんとして言い返す中年男性・・

  そんな様子に「・・・そうよね。アンタってそういうヤツよね・・」と何かを諦め、また溜め息を吐く。

  「怒るだけ損だわね・・あ、お嬢さん。お皿下げても大丈夫?お代わりはいるかしら?」

  「あ。ありがとうございます。とても美味しかったです。そうですね・・また同じ紅茶を頂けますか?」

  「気に入ってくれたみたいで嬉しいわ♪おっけ~。セイロンのミルクね♪」

  「あ!俺ちゃんもお代わり!ブレンドコーヒーとイチゴのシフォンに生クリーム!あとチョコスプレーとスライスアーモンドトッピングで!」

  そう注文する中年男性に「アンタまだ食べるの?」と言いつつ、お皿を回収するオネェさまだった。

  と、いう訳で。

  もりもりとケーキを食べる中年男性とオネェさまに興味津々で見守られながら、用意されたノートと鉛筆で目の前の鉱物をスケッチした。

  「まぁ。こんな感じ、ですかね?」

  そう言って、描き上がったスケッチを見やすい様に反転させて持つ。

  それをまじまじと見る2人・・

  ・・・・・・・・あの。何故に無言?

  何かマズったか?と首を傾げたところで、オネェさまが手を伸ばしてきたのでそのままノートを手渡した。

  ジッと、静かにノートに視線を落とすオネェさまと、それを覗き込むようにして身を乗り出す中年男性。

  瞬間。勢いよく顔を上げたオネェさまが顔を輝かせて言った。

  「凄いわ・・お嬢さん凄いわっ!なんて素晴らしいのかしらっ!」

  「いや~。鉛筆と消しゴムだけでこのクオリティとか驚きだわ。凄いねぇ綾小路さん。普通こんなに早く描けるもんなの?2、3分くらいしか経ってなくない?」

  「いやいやいや。流石にそれは盛り過ぎです」

  普通に5分以上かかっている。10分は経ってないけどね。

  「この絵。頂いてもいいかしら?お店に飾りたいわ♪」

  「え?それは構いませんが・・飾るならもう少しちゃんとしたの描きますよ?」

  「いいの?! 」

  「ええ。アクリル画とかで良ければ・・」

  「嬉しいっ!アタシ遠慮なんかしないわよ?!あ、でもちゃんと代金は払うわ!」

  「お幾らかしら?」とウキウキで訊かれたけど、「絵のサイズによる」としか返事出来ませんて。

  そしたら「じゃあ相談して決めちゃいましょ♪」という事で、改めて自己紹介をする流れになった。

  オネェな店主さんのお名前は「[[rb:黒峰 > くろみね]] [[rb:裕二郎 > ゆうじろう]]」さん。

  喫茶「[[rb:lapis > ラピス]]」を営む46歳、妻子あり・・

  ・・ぷりーず。りぴーとあふたーみー。

  妻・子・ア・リっ!

  マジかっ!話し方が完全にオネェさまだったからてっきり性的指向も男性だとばかり・・

  いやいや。思い込みって良くないねっ!(けど今回は不可抗力だったと主張しますっ!)

  ちな、店名の「lapis」はラテン語で「石」の意味だそうな。

  ラピスラズリの「ラピス」もこれからきているらしい・・初めて知った。

  んで。中年男性とは20代の頃からの腐れ縁だそうで、持ちつ持たれつ。なんやかんやで縁が続いているんだそう。

  そんな自己紹介の流れで「「頼子ちゃん」って呼んでいいかしら?」との確認にOK出したら隣のおっさんに「俺の「ちゃん」呼びは拒否ったのに?!まじショック!」とか騒がれたでござ~。

  「何となく嫌だったんで」でスルーしたらオネェさまに絡みに行く始末。

  「ほほほ!人徳皆無者が何か言ってるわ~」と軽くあしらわれてたけど。

  うん。お2人の関係が何となく解って来たZE☆

  煤けた背中を丸めてケーキをつつく中年男性を放置しつつ、どんな感じの絵が良いのか訊いたり、店内の鉱物やガラス瓶の写真を撮らせてもらったりした。

  よーし。これで資料は十分!

  後は画材屋に寄ってカンバス買って・・帰って絵具の在庫確認もしなきゃね!

  なんて。この後の予定を立てているとオネェさまから声を掛けられる。

  「あ、頼子ちゃん。絵の前金だけど、これで良いかしら?」

  そう言って、光る物をカウンターの上部にパチリと置いた。

  照明の下でキラリと輝く[[rb:そ > ・]][[rb:れ > ・]]を見て、心臓がドっと跳ね、思考が停止する。

  「え・・こ、れ・・」

  文字にも見える、カクカクと鋭角が目立つ模様。

  きっとその裏には、翼を持つ馬の姿が彫られている。

  混乱したまま、小さく「金貨・・」と言葉が零れ出ると、オネェさまはにこやかに言った。

  「最近[[rb:こ > ・]][[rb:っ > ・]][[rb:ち > ・]]の界隈で出回ってるの。石やガラスより[[rb:持 > ・]][[rb:つ > ・]]から重宝すると思うわ。どうかしら?」

  視界に納めた店主の顔が、動揺で揺れ歪む。

  理不尽に、容赦なく別次元に放り込まれたかのような感覚。

  状況が、理解出来ない。

  店主が話す言葉の意味が理解出来ない。

  それよりなにより。何故ここに[[rb:異 > ・]][[rb:世 > ・]][[rb:界 > ・]][[rb:の > ・]][[rb:金 > ・]][[rb:貨 > ・]]があるのか、理解、出来ない。

  意味不明過ぎて完全に言葉を詰まらせていると、隣から更なる爆弾が投げ込まれた。

  「あれ?綾小路さん進んで[[rb:こ > ・]][[rb:っ > ・]][[rb:ち > ・]]側に来たんじゃないの?前より霊力が高くなってるし何より[[rb:店 > ・]][[rb:に > ・]][[rb:入 > ・]][[rb:っ > ・]][[rb:て > ・]][[rb:来 > ・]][[rb:た > ・]]し?」

  「・・はぃ?」

  これ以上、傍点が付くような単語を増やさないで貰えるだろうか・・

  ゴメンナサイ。色々と限界です。

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