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【182】気に掛かる2人の関係。

  丸い皮兜の縁をぐっと押し上げ、額を顕わにしてニッコリと笑った若兵は「どちらから参りましょうか?!」と元気が過ぎる声で問うた。

  その勢いに少々圧倒されながらも「まずはここに居る[[rb:人魚 > マーメイド]]から話を聞きたいのだが」と答える。

  「了解しました!」と敬礼した若兵は笑顔のままで続けた。

  「「ロアーナ」とお話されたいのですね!どうぞ!こちらです!」

  そう言って歩き出した若兵の後ろを、傍仕えと2人で付いて行く。

  「あの人魚の名は「ロアーナ」というのか?」

  「はい!あ、俺、彼女の住んでる海の近くの出身なので!元々顔見知りなんですよ!」

  「成程」

  「まさか派遣先で再会出来るとは思いませんでしたけど!」

  会話している間に目的地に着いたようだ。

  やはり最初に見た簡易宿泊所に居たらしく、若兵は天幕の向こう側へと声を掛ける。

  「ロアーナ!お客様だよ!ロアーナ!」

  「待て。先程彼女は怪我をしていた。動くと良くないかもしれん」

  「えぇ!そうなんですか?!」

  若兵が驚きの声を上げ、急ぎ天幕の布を捲ろうと手を伸ばした丁度その時、先に布の方がひょいと動いて人魚が顔を出した。

  「なに~リーク~。お客さま~?」

  「あっ!ロアーナ!怪我!怪我見せろ!」

  若兵は高い位置にあった人魚の顔を両手で挟み込むとぐいと引き寄せ、何処に傷があるのかと視線を巡らせる。

  「なに?こらぁ~!はなして~!」

  「怪我は?!どこが痛む?!」

  「はなしてって~・・言ってるで~しょ?!」

  ばちんっ!と乾いた破裂音と共に、若兵が「あだっ!!」と小さく悲鳴を上げて仰け反った。

  人魚が指で若兵の額を弾いたのだ。

  「汚れるからさわるなっていってるのに~こりないねリークは~」

  「いてて・・ロアーナは汚れてなんかないよ!今日も二色の鱗がツルツルしてて綺麗だし!」

  「はいはいどうも~それで~?お客さまってこの人たち~?」

  見上げていた人魚の顔が横を向いた事でこちらの存在を思い出したらしい若兵。

  『しまった』という顔をして、遅まきながら務めを果たすべく「そうなんだ!」と焦り言葉を綴る。

  「王国の人たちがロアーナに話を聞きたいって!」

  「あちしの話~?なにをききたいの~?」

  こてりと首を傾げた人魚に、軽く自己紹介をして答えた。

  「オレグラント王国から来た。アドという。連れはカルセ。地底湖の様子や水竜について詳しい話を聴きたいのだが、その前にどこかで座らないか?先程脚を蹴られていただろう?立っているのは辛いのではないか?」

  「ごていねいにどうも~。ロアーナだよ~って、もう知ってるよね~。心配ありがと~実はちょっときつかったんだ~」

  「脚っ?!脚を怪我したのか?!」と急にしゃがみ込んだ若兵が鱗に覆われた下半身を撫でようとするのを片手で抑えつつ、人魚は笑って「入ってい~よ~」とこちらを天幕内へと誘う。

  「失礼する」

  「は~いどうぞ~」

  天幕の中には端に木箱が積まれている他は何も置かれておらず、ガランとしていた。

  ただ、頑丈そうな網が支柱と支柱を繋ぐように吊るされており、どうやらそれが椅子や寝床の代わりとなるものらしい。

  「座るとこないから~とりあえずこれどうぞ~」

  人魚は「よいせ~」と積み上げていた木箱を持ち上げ、吊るされた網から少し離れた位置に置いた。

  「ロアーナ!それくらい俺がやるから座ってろよ!」

  「え~でもこれ~」

  「いいから!怪我した時くらい大人しくしてろって!」

  そう言って、人魚を制した若兵は積まれた木箱に手を伸ばし・・ぐっ!と力を込めて持ち上げようとした・・・・したのだが、どうやら予想以上に重かったらしく、少しも持ち上がる気配が無い。

  「だから言ったのに~。中身がたっぷり詰まってるからリークには重いって~」

  「ぐ、ぬっ!・・・・ぶはぁ!何だこれ何が入ってんだ?!」

  「知らな~い。はいはいどいて~」

  そう言って、人魚は若兵が動かせなかった木箱をひょいひょいと運び、網の前で半円を描くように配置した。

  そうして網に腰掛けると、腰のベルトに下げていた袋から巻煙草らしき物を取り出して咥える。

  しかし火を点ける事無くそのまま吸った。

  と、ほぼ同時に肋骨の下の位置に入っていた左右3つずつの切れ込みが開き、呼吸するように開閉する。

  つい視線を向けてしまったが、それに気付いた人魚は気にしていない様子で言った。

  「めずらしい~?水の中ではここで息してるんだ~。それでこれは水の外でも息ができるようになる魔法薬ね~。声を出してると苦しくなっちゃうからさ~。話してる間は吸わせてね~?」

  「分かった。すまないな。話を聞かせてもらう対価とは別に薬代も払おう」

  「わ~?太っぱら~!いいの~?けっこう高いよ~?」

  「構わない。言い値を払おう」

  「わわ~!どうしようリーク~!もしかしたらセレーネに借りてる分、返せちゃうかも~?」

  明るく話し掛ける人魚に、若兵は『少しばかり面白くない』といったような表情で「良かったな」と答えた。

  数秒前まで元気が有り余っている様子だったが、急にどうしたのかと思う。

  そう感じたのは人魚も同じだったらしく「リーク~?どうした~?」と首を傾げた。

  「何か怒ってる~?」

  「いや別に・・ロアーナは俺が助けたかったってだけで、怒ってなんか・・」

  むすっとして顔を逸らした若兵に、きょとんとした人魚は一転。にっこりと笑みを浮かべて身を乗り出すと、若兵の頭に手を伸ばして皮兜の上からやや乱暴に撫でた。

  「ありがとねリーク~。いつも気にかけてくれて~。十分助けてもらってるよ~」

  「・・・もうちょっと稼いだら薬代くらいは俺が出そうと思ってたのに・・」

  「またそんな事言って~。そんなにあちしとお話ししたいの~?」

  にやにやと口元を緩めた揶揄い混じりの言葉に、若兵は真剣な声で「そうだよ」と答えると、離れようとしていた人魚の手を取り、続けて言った。

  「俺はいつだってロアーナと話をしていたいよ。ロアーナのおっとりした声も。青と緑の2色の鱗も。俺よりずっと高い背丈だって、全部全部大好きなんだから」

  ぽろり、と。人魚の口元から魔法薬の紙巻が落ちて、広がっていた耳のヒレが震えて閉じ、伏せ下がる。

  「り、りーく。まって・・ちょっとまって・・」

  「なぁ。ロアーナは俺の事嫌いか?」

  「き、らいではないけど・・でも・・あの・・あちしはっ・・」

  うろうろと視線と声を彷徨わせる人魚とは対照的に、じっとその顔を見つめ真剣に愛を囁く若兵・・

  突然始まった甘いやり取りに中てられたのか、私自身もそわそわと落ち着かない気持ちに・・・

  激励と、共感と、羨望と。

  他にもぐるぐるとした何とも言い表し難い心持ちが、胸中で渦巻く。

  『私も、アヤと再会した暁には・・』

  契約紋の刻まれた胸元の服をぎゅうと握り込み、彼女へ思いを告げる決意を新たにしたところで、状況を見かねた傍仕えが「お2人とも、そろそろよろしいでしょうか?」と静かに声を掛けた。

  揃って「「あっ」」と小さく声を上げた2人は慌てて手を離すと、互いに素早く距離を取りそれぞれ元の位置に戻る。

  『・・・確かに。今は任された事を熟すのが先か・・』

  目の前の2人の関係も気に掛かるため、そこは別に改めて話を聞こうと心に決め一先ずは話を進める事にした。

  「・・良い雰囲気の所悪いが、先ずは水竜について聴かせて貰っても良いだろうか?」

  「ふぁい!もちろんよろこんで~っ!」

  「邪魔してすみませんでしたっ!」

  2人同時に叫ぶように言ってあわあわと慌てていたが、少しして落ち着いたらしい人魚は新しく魔法薬の紙巻を取り出して咥え、水竜について語り出した。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  「つまり、水竜は時々姿を消すと?」

  「そういう事~。多分まだはあく出来てない通り道があって~。そこから出入りしてるんじゃないかな~?」

  「成程・・確かに、どこかに出入口が無ければ存在する筈がない、か?」

  地底湖がどこにも通じていなければ、生き物自体が居ない筈だからな。

  因みに、今現在水竜はいないそうだ。

  一度姿を消すと5日は現れないというのがお決まりの行動らしい。

  『と、なれば今が動く機会か・・』

  水竜以外の魔物は数も質も大したことはなく、人魚たちだけでも対処できる程度だと言う。

  それならば、水竜の居ない隙に罠を仕掛けたり遺跡の調査を少しでも進めるなど、出来ることは多そうだ。

  戻り次第、眼鏡貴族と話し合いだな。

  一通りの話は聞けたと判断して、ちら。と傍仕えに視線を投げると、軽く顎を引いて頷かれる。

  どうやらまだ時間に余裕はあるらしい。

  となれば・・気になっている2人の関係について訊いてみるのは有りだろうか?

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